イソオクタン

イソオクタンとは

イソオクタンとは、炭素数8個の飽和炭化水素のうち、分岐した化合物の1つです。

燃料分野では、2,2,4-トリメチルペンタン (英: 2,2,4-Trimethylpentane) と呼ばれています。燃焼が安定しているため、オクタン価 (英: octane ratingまたはoctane number) の基準になっています。消防法では「第4類危険物第1石油類」に該当します。

化学式 C8H18
英語名 Isooctane
分子量 114.23

イソオクタンの使用用途

イソオクタンは、オクタン価を測定するため、正標準燃料 (オクタン価100) として使用されています。また、高オクタン価ガソリン製造のための混合材としても利用可能です。オクタン価の高い燃料は、アンチノック性が低いため、自動車エンジンの稼働に適しています。

他にも、「溶剤」「抽出溶媒」「有機合成用溶剤」「エアゾール溶剤」「修正液用剤」「金属洗浄剤」「インキ」「塗料」「接着剤」などとしての用途もあります。さらに、高速液体クロマトグラフィなどの「分析用の溶媒」として用いることも可能です。 

イソオクタンの性質

イソオクタンの融点は−107°Cで、沸点は99°Cです。常温・常圧下で無色の液体で、石油中に微量含まれています。

水には溶けませんが、炭化水素系の溶媒には任意の割合で混ざります。

イソオクタンの構造

イソオクタンの分子式はC8H18、分子量は114.23、密度は0.69 g/cm3です。分枝状に3つのメチル基がペンタンに結合した構造をしています。示性式はCH3C(CH3)2CH2CH(CH3)2です。

18種類の構造異性体が存在します。ただし、立体異性体も考えると24種類です。

イソオクタンのその他情報

1. イソオクタンの合成法

イソオクタンは、イソブタンをイソブチレンによってアルキル化することで生成可能です。イソブチレンを硫酸リン酸などを用いて二量化し、生成されたジイソブチレンを水素化することでも得られます。

2. オクタン価におけるイソオクタン

オクタン価とは、ガソリンにおけるエンジン内での自己着火のしにくさやノッキングの起こりにくさを表す数値のことです。オクタン価が高いほど、耐ノック性やアンチノック性が高いことを示します。

そして、ガソリン成分の中で比較的耐ノック性の高いイソオクタンのオクタン価を100、耐ノック性が低いn-ヘプタンのオクタン価を0としています。つまり、試料のオクタン価とは、イソオクタンとn-ヘプタンの混合物に含まれるイソオクタンの容量比のことです。一般的には、枝分かれが多い飽和炭化水素の方が、耐ノック性が高いです。

3. イソオクタンの構造異性体 

主鎖: C8, C7

イソオクタンの構造異性体 (主鎖:C8, C7)

図1. イソオクタンの構造異性体 (主鎖: C8, C7)

主鎖の炭素数が8のオクタンは、イソオクタンの構造異性体です。主鎖の炭素数が7の構造異性体には、側鎖の数が1つの2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタンが存在します。

主鎖: C6

イソオクタンの構造異性体 (主鎖:C6)

図2. イソオクタンの構造異性体 (主鎖: C6)

イソオクタンの主鎖の炭素数が6の構造異性体には、側鎖の数が1つの3-エチルヘキサンが存在します。また、側鎖の数が2つの2,2-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン、2,4-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、3,4-ジメチルヘキサンもあります。

主鎖: C5, C4

イソオクタンの構造異性体 (主鎖:C5, C4)

図3. イソオクタンの構造異性体 (主鎖: C5, C4)

イソオクタンの主鎖の炭素数が5の構造異性体には、側鎖の数が2つの3-エチル-2-メチルペンタンや3-エチル-3-メチルペンタンが存在し、側鎖の数が3つの2,2,3-トリメチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,3,4-トリメチルペンタンもあります。

さらに、主鎖の炭素数が4の構造異性体には、側鎖の数が4つの2,2,3,3-テトラメチルブタンが存在します。

アンチモン

アンチモンとは

アンチモン (英: Antimony) とは、レアメタルの1種であり銀白色の光沢ある金属です。

アンチモンの元素記号はSbで、原子番号は51、CAS登録番号は7440-36-0です。天然に存在する鉱石から得ることができ、世界の中で中国が主な産出国となっています。

アンチモンの性質

1. 物理的特性

アンチモンの融点は630℃、沸点は1,635℃、相対密度は6.7です。一般的な金属と同じく、水や有機溶媒にはほとんど溶けませんが、王水には溶かすことができます。

2. その他の特徴

アンチモンは、下記の特徴を備えます。

  • もろいため叩いて粉末にすることができる。
  • 凝固する際に体積が増加する。
  • ・錫・鉛等と合金にすると硬さが増す。
  • 毒性があり、殺菌力がある。

これらの特徴を活用し、様々な分野で使用されています。

アンチモンの使用用途

アンチモンは、主に工業製品において半導体や電極、合金の材料、自動車やOA機器、家電製品など、様々な製品で使用されます。

1. 難燃剤

アンチモンは、主に難燃性化合物の三酸化アンチモン (SbO3) が難燃剤として使用され、ハロゲン含有ポリマー以外はハロゲン系の難燃剤と組み合わせて使用されます。三酸化アンチモンの難燃効果は、水素や酸素原子やOHラジカルと反応して、火災を抑制するハロゲン化アンチモン化合物の形成によるとされています。アンチモンの化合物は、子供服、おもちゃ、航空機、自動車のシートカバーや、軽飛行機のエンジンカバーなどのグラスファイバー複合材料のポリエステル樹脂にも添加されるなど、防燃材料をつくる用途に活用されています。

2. 合金材料

アンチモンは鉛と非常に有用な合金を形成し、その硬度と機械的強度を高めることができるので、鉛を含むほとんどの用途では、さまざまな量のアンチモンが合金金属として使用されます。例えば、鉛蓄電池の電極へ添加することでプレート強度および帯電特性を向上させる効果が得られ、電池の性能を向上させるためバッテリーにも使用されます。アンチモンは、減摩合金 (バビットメタルなど)、弾丸、電気ケーブルの被覆、活字合金、はんだ、ピューター、および低硬度の硬化合金に使用されています。

3. その他

自動車製品での使用用途を例として挙げると、エンジンブロック鋳造時の添加剤、ブレーキの減摩材、配線コードやゴム部品などにアンチモンが使用されています。その他、ポリマー製造時の安定剤や触媒、半導体材料、催吐薬などの用途もあります。

アンチモンのその他情報

1. アンチモンの製法

鉱石からのアンチモンの抽出は、鉱石の品質と組成によって異なりますが、ほとんどのアンチモンは硫化物 (スティブナイト) として採掘されます。アンチモンは、鉄で還元することにより、粗硫化アンチモンから単離することができます(Sb2S3+3Fe→2Sb+3Fe)。炭素熱還元法によって酸化物から単離することもできます (2Sb2O3+3C→4Sb+3CO2)。

2. 法規情報

アンチモンは、毒物及び劇物取締法には指定がありませんが粉末のものは消防法において「危険物第二類 金属粉」に該当します。化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) では「第1種指定化学物質 (法第2条第2項)」に、労働安全衛生法では、「名称等を表示・通知すべき危険物及び有害物」に指定されています。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 発火の恐れがあるため、高温の表面、火花、裸火との接触は避ける。
  • 火災や爆発の危険があるため、ハロゲン、過マンガン酸アルカリなどの酸化剤や金属粉末との混合は避ける。
  • 有毒ガス発生のおそれがあるため、酸との接触は避ける。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、速やかに水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0087.html

アクリル酸ブチル

アクリル酸ブチルとは

アクリル酸ブチルとは、化学式C4H9O2CCH=CH2で表されるアクリル酸とノルマルブタノールをエステル化した化合物です。

CAS登録番号は141-32-2で、別名、アクリル酸n-ブチル、ブチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、BAなどとも呼ばれます。強いエステル臭をもつ、無色~わずかに薄い黄色の引火性液体です。

アクリル酸ブチルの使用用途

アクリル酸ブチルの主な使用用途は、合成ポリマーの原料です。アクリル酸ブチル単独重合体のポリアクリル酸ブチルや、他のアクリル酸エステルなどとの共重合体は様々な工業製品に利用されています。モノマーにアクリル酸ブチルを導入することで、重合体のガラス転移温度 (Tg) を調整したり、可撓性 (弾性) を付与できます。

ポリアクリル酸ブチルやアクリル酸ブチルの共重合体は、繊維処理剤、粘接着剤、塗料、アクリル樹脂やアクリル繊維等の合成樹脂、アクリルゴムなどとして利用されています。

1. アクリルゴム

アクリルゴムは、耐熱性と耐油性に優れた合成ゴムです。、自動車や産業機械関係のパッキング、シール、ガスケットおよびホース等に利用されています。

2. アクリル樹脂

アクリル樹脂は、透明性や加工性に優れた樹脂です。無機ガラスの代用品として、建築や乗物の窓材、照明器具のカバー、道路標識、日用品、事務用品、工芸品など、暮らしの中で幅広く利用されています。

3. アクリル塗料

アクリル塗料は、安価で発色がよいことが特長です。耐候性が低いため、紫外線の影響を受けない室内などで利用されることが多い塗料です。

4. アクリル系粘接着剤

アクリル系粘接着剤はアクリル系のポリマーを原料とした透明性や耐候性、耐熱性に優れた粘着剤です。主剤と硬化剤を混合する2液型と、熱で硬化する1液型があります。プラスチックや金属の接着に適しています。

5. その他の利用

アクリル酸ブチルの重合体は、他にも、紙加工・皮革加工などにも使用されています。アクリル酸エステルの重合体を紙の表面に被膜加工することで、紙に耐熱性や耐候性、耐油性を付与することができます。

また、結合剤として、化粧品に利用されることもあります。例えば、 (アクリル酸ブチル/イソプロピルアクリルアミド/ジメタクリル酸PEG-18) クロスポリマーは保水性被膜剤として添加されることがあります。

アクリル酸ブチルの性質

アクリル酸ブチルは融点 -64 ℃、沸点 145 ℃で常温では液体です。また、水にはほとんど溶けませんが、各種有機溶媒 (エーテル、アセトン、アルコール) には溶けます。密度は0.90g/mL (20°C) です。

消防法で危険物第4類に分類されており、保管量や保管方法などについて規制を受ける場合があります。火災時の消火では水を使用してはならず、乾燥砂や炭酸ガス、泡消火剤などでの消火が有効です。

アクリル酸ブチルは反応性が高く、過酸化物などの重合開始剤や光、熱などによって重合し、ポリマーを生成します。したがって、市販品にはヒドロキノンフェノチアジン、ヒドロキノンエチルエーテルなどが重合禁止剤として添加されていることがあります。また、重合反応時には熱が発生し、反応が暴走した場合には火災などの事故につながる可能性があるため、重合の際は注意が必要です。

アクリル酸ブチルのその他情報

アクリル酸ブチルの毒性

アクリル酸ブチルの毒性は下記の通りです。

  • 急性毒性 (経皮) : 区分4 飲み込むと有害

  • 急性毒性 (吸入) : 区分3 皮膚に接触すると有害

  • 皮膚腐食性/刺激性: 区分2 皮膚刺激

  • 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性: 区分2A 強い眼刺激

  • 皮膚感作性: 区分1 アレルギー性皮膚反応を起こすおそれ

  • 特定標的臓器毒性 (単回ばく露) : 区分1 呼吸器系、臓器の障害

  • 特定標的臓器毒性 (反復ばく露) : 区分1 呼吸器系および長期にわたる、または反復ばく露による臓器の障害

  • 水生環境有害性 短期 (急性) : 区分2 水生生物に毒性

アクリル酸ブチルには刺激性があり、目や皮膚に付着すると、発赤や痛みを生じる可能性があります。したがって、使用時には保護手袋や保護メガネなどの着用が必要です。経口摂取すると、腹痛、吐き気、嘔吐、下痢などを生じる可能性があります。

蒸気の吸入を防ぐために、適切な排気設備があるところで使用することが推奨されています。

また、水生生物への毒性もあるため、環境への流出や廃棄には注意が必要です。廃棄の際は、許可を受けた産業廃棄物処理業者に委託するなど、条例や国内規制に沿った廃棄が必要となります。

参考文献
https://www.env.go.jp/chemi/report/h24-02/pdf/chpt1/1-2-2-02.pdf
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/A0142
https://www.ink-jpima.org/pdf/201304.pdf

しゅう酸

しゅう酸とは

しゅう酸の基本情報

図1. しゅう酸の基本情報

しゅう酸とは、カルボキシ基を持つ炭素原子2つが直接結合した構造のジカルボン酸です。

IUPAC命名法でエタン二酸 (英: ethanedioic acid) と呼ばれ、塩類の形をしており、植物類の中に非常に広く含まれています。しゅう酸は水酸化ナトリウム一酸化炭素を原料として、ギ酸ナトリウムを経由し、カルシウム塩に変換後、硫酸を反応させることによって生成可能です。

二クロム酸カリウムなどを用いて、エチレングリコールグリオキサールを酸化しても生じます。

しゅう酸の使用用途

しゅう酸は、染料の原料、麦藁・木綿などの漂白剤、各種化学薬品の原料として、多方面に用いられています。

1. 食品分野

食品分野では、水飴ぶどう糖の製造や植物油の精製などに利用可能です。

2. 医療分野

医薬品分野では、持続性サルファ剤やしゅう酸セリウム、アミノ酸製剤、α-ケト酸等の製造に用いられています。

3. 金属処理分野

それに加えて金属処理の分野でも、幅広く利用可能です。具体例として、化学研磨やピックリング (酸洗浄) 、車両・船舶洗浄、ラジエーター洗浄 (除錆・脱スケール効果) 、ステンレス鋼の冷間引抜用潤滑剤、アルマイト製造、稀土類の精製などが挙げられます。

しゅう酸から純粋な二水和物の結晶が得られることを利用し、酸アルカリ滴定および酸化還元滴定の標準物質としても使用されています。

しゅう酸の性質

しゅう酸の反応

図2. しゅう酸の反応

しゅう酸は、冷水やエタノールに非常に溶解して、熱水にもよく溶けます。エーテルなどの有機溶媒には溶けにくいです。カルボン酸としては、非常に酸性が強い物質です。

水溶液中でカルボキシ基が電離して、2価の酸として働きます。弱酸として分類される場合が多いですが、リン酸などよりも強い酸です。0.1 mol/dm3の水溶液では、第一段階の電離度が0.6程度と大きいです。

しゅう酸の無水物は加熱すると189.5℃で分解して、一酸化炭素・二酸化炭素ギ酸を生成します。硫酸の混合といった条件の工夫によって、生じたギ酸が分解されて、水と一酸化炭素を放出します。

しゅう酸は吸湿性がある化合物です。湿気を含む空気中に放置すると二水和物が生成し、水溶液でも二水和物が析出します。五酸化二リンを加えたデシケーター中に入れるか、100℃に加熱することで、しゅう酸の二水和物は結晶水を失って、無水物に変わります。

しゅう酸の構造

しゅう酸イオンの構造

図3. しゅう酸イオンの構造

ジカルボン酸としては、最も簡単な構造の化合物です。構造式はHOOC–COOHで表されます。

しゅう酸の第一段階解離で生じるしゅう酸水素イオン (H(COO)2) は、1価の陰イオンです。第二段階解離によって、2価の陰イオンであるしゅう酸イオン ((COO)22-) が生成します。

しゅう酸イオンは平面型を取っていて、炭素-炭素間は単結合です。炭素-酸素間は共鳴しており、単結合および二重結合の中間的な性質を有します。

しゅう酸のその他情報

1. しゅう酸イオンを含む化合物

しゅう酸イオンを含んだイオン結晶であるしゅう酸塩 (英: oxalate) と、しゅう酸水素イオンを含んだ酸性塩であるしゅう酸水素塩 (英: hydrogenoxalate) が存在します。

アルカリ金属塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩、鉄 (III) 塩などのしゅう酸塩は水に可溶性です。アルカリ土類金属塩を代表とする、多くのしゅう酸塩が難溶性です。また、鉄 (III) 塩の水溶液は徐々に分解してしゅう酸鉄 (II) (FeC2O4) を析出し、銀塩は加熱によって爆発的に分解します。

2. 自然界におけるしゅう酸

しゅう酸は植物に多く含まれています。漢字では「蓚酸」と書き、「蓚酸」とはタデ科のスイバのことです。具体的には、タデ科、カタバミ科、アカザ科などの植物に、しゅう酸水素ナトリウムのような水溶性しゅう酸塩が含まれています。

その一方でサトイモ科の植物には、しゅう酸カルシウムなどの不溶性しゅう酸塩が含まれています。ヤマノイモ科の植物の根菜で作られたとろろが、肌に付いて痒みを感じるのは、しゅう酸カルシウムの針状結晶が肌に刺さり刺激を受けるからです。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/144-62-7.html

けい酸カルシウム

けい酸カルシウムとは

けい酸カルシウムとは、けい酸のカルシウム塩です。

構成元素の組成の違いから、20種類以上の化合物が存在します。その中でも、「オルトけい酸カルシウム」「けい酸三カルシウム」「メタけい酸カルシウム」の3種類が代表的です。略称としてケイカルとも呼ばれています。

けい酸カルシウムは、酸化カルシウムと二酸化けい素 (石灰石、珪藻土) の微粉を混合し、高温で反応させることで合成可能です。けい酸カルシウムは健康への害が見られず、食品添加物として認められています。

けい酸カルシウムの使用用途

けい酸カルシウムは、軽量、保温性、断熱性、不燃性、耐火性などの特徴から、建築材料として広く利用されています。また、農業分野においては、肥料の成分としても幅広く用いることも可能です。

けい酸カルシウムは、窯業の焼成において、収縮・気体発生・ひび割れ等を防止する添加材としても使用されています。さらに、ゴムの張力・剛性・耐熱性を改善するための添加材や塗料の耐久性を向上するための添加剤などとしても利用可能です。

けい酸カルシウムには、そのほか食品添加物の用途があり、ケーキングの防止剤として、ベーキングパウダーや食塩に添加して使用されている場合もあります。

けい酸カルシウムの性質

けい酸カルシウムの水和物は、加熱された際に水和水が脱水します。脱水のときの気化熱のために、材料の温度上昇を遅らせる効果があります。それに加えて、けい酸カルシウムには、不燃性や耐火性といった性質もあります。

けい酸カルシウムの構造

けい酸カルシウムは、けい酸塩類の1種です。二酸化けい素、酸化カルシウム、水などが、多種多様な割合で結合している組成物の総称です。

けい酸カルシウムは、微細構造をしており、結晶内部に多くの空隙を有しています。けい酸カルシウムの構造は軽量で、保温性や断熱性があります。

けい酸カルシウムのその他情報

けい酸カルシウムの化学組成の具体例

オルトけい酸カルシウム (Ca2SiO4) 、けい酸三カルシウム (Ca3SiO5) 、メタけい酸カルシウム (CaSiO3)n 以外にも、多種多様な化学組成のけい酸カルシウムがあります。

例えば、3CaO・SiO2、Ca3SiO5、2CaO・SiO2、Ca2SiO4、3CaO・2SiO2、Ca3Si2O7、CaO・SiO2、CaSiO3などが存在します。

1. オルトけい酸カルシウム
オルトけい酸カルシウムは、セメントクリンカー (英: cement clinker) の1〜4割に当たる主成分の1つです。セメントクリンカーはクリンカーとも呼ばれ、セメント原料が焼成されて、一部が溶融して硬く焼きしまって、粒状や塊状を形成したもののことを指します。

オルトけい酸カルシウムは、セメント業界ではけい酸二石灰 (英: belite) と呼ばれています。化学式はCa2SiO4、分子量は172.24です。四面体型構造の独立したSiO4で構成されています。

2. けい酸三カルシウム
けい酸三カルシウムは、五酸化けい素三カルシウムとも呼ばれます。化学式はCa3SiO5で、分子量は228.32です。固体中に四面体型の独立したSiO4とOを含んでおり、けい酸塩の酸化物と見なされます。

けい酸三カルシウムは、セメントクリンカーの4〜7割を占めている主成分です。セメント業界では、けい酸三石灰 (英: alite) と呼ばれています。

3. メタけい酸カルシウム
メタけい酸カルシウムの分子式は(CaSiO3)nで、分子量は116.16×nです。室温で安定なβ相の密度は2.9g/cm3です。

β相は天然にけい灰石 (英: wollastonite) として、α相は擬けい灰石 (英: pseudowollastonite) として産出します。β相は1,190℃に熱すると、α相へ変化します。

酸化マンガン

酸化マンガンとは

マンガンは様々な酸化数をとることができる酸素とマンガンの化合物です。

酸化マンガンにもさまざまな種類が存在し、主にMnO、Mn3O4、Mn2O3、MnO2、Mn2O7などが知られています。酸化数の低いMnOは塩基性酸化物、酸化数の高いMn2O7は酸性酸化物、中間のMnO2などは両性酸化物です。

中でも特に重要な二酸化マンガン (MnO2) は、黒褐色の粉末です。加熱すると、酸素を発生して四酸化三マンガンを生じます。塩酸と反応させると、塩素を発生して塩化マンガンを生じます。

酸化マンガンの使用用途

酸化マンガンは、アルカリ乾電池の正極材に使用されます。リチウムイオン二次電池の正極材である、マンガン酸リチウムの原料としても用いられます。

また、強い酸化作用を持っているため、有機溶剤を製造する際の酸化剤として使われることも多いです。

そのほか、磁性材料であるフェライトの原料や、花火・マッチの原料や、ガラスの着色などにも利用されています。フェライトは、酸化鉄を主成分とした磁性体で、テレビやパソコンなどの家電製品に使われています。

酸化マンガンの性質

酸化マンガンの性質は種類ごとに異なります。

1. 酸化マンガン (II) (MnO)

酸化マンガン (II) は緑色の固体です。分子量は70.93、CAS番号は1344-43-0、比重は5.43〜5.48です。水に溶けません。神経機能障害を引き起こす可能性があり、特化則の特定化学物質 (管理第2類物質) に位置付けられています。

2. 酸化マンガン (Ⅱ,Ⅲ) (Mn3O4)

酸化マンガン (Ⅱ,Ⅲ) は褐色の固体です。分子量は228.79、CAS番号は1317-35-7、比重は4.856、融点は1705 ℃です。です。水にはほとんど溶けません。

3. 酸化マンガン (Ⅲ) (Mn2O3)

酸化マンガン (Ⅲ) は黒色の固体です。分子量は157.86、CAS番号は1317-34-6、比重は4.5、融点は1080 ℃です。水には溶けません。神経機能障害、呼吸器系障害を引き起こす可能性があり、MnOと同様に特化則の特定化学物質 (管理第2類物質) に位置付けられています。

4. 二酸化マンガン (酸化マンガン (Ⅳ)) (MnO2)

二酸化マンガンは黒褐色の固体です。分子量は86.94、CAS番号は1313-13-9、比重は5.03、融点は535 ℃、沸点は1962 ℃です。水にはほとんど溶けませんが、無機酸には溶けます。二酸化マンガンを触媒として、過酸化水素が酸素と水に分解する反応はよく知られています。

5. その他の酸化マンガン

上記以外に酸化マンガン (VI) (無水マンガン酸)、酸化マンガン (VII) があり、マンガンは様々な価数の酸化物が存在します。一般的な過マンガン酸塩としては、過マンガン酸カリウム (KMnO4) がよく知られています。過マンガン酸カリウムは強力な酸化剤であり、金属の表面処理、無機酸・有機酸の精製、浄水・下水の処理、などに用いられます。

酸化マンガンの種類

酸化マンガンは様々な鉱物に含まれます。

  • ハウスマン鉱 (英: Hausmannite)
    黒マンガン鉱とも呼ばれ、正方晶系で組成はMn3O4です。
  • 軟マンガン鉱 (英: Pyrolusite)
    正方晶系で、組成はβ-MnO2です。二酸化マンガンの中でも最も安定です。
  • ラムスデル鉱 (英: Ramsdelite)
    斜方晶系で、組成はγ-MnO2です。
  • 緑マンガン鉱 (英: Manganosite)
    等軸晶系で、組成はMnOです。
  • ビクスビ鉱 (英: Bixbyite)
    等軸晶系で、組成はMn2O3です。

酸化マンガンの構造

二酸化マンガン (MnO2) の結晶構造は以下が知られています。

  • α型 (ホランダイト型)
  • β型 (ルチル型)
  • γ型
  • δ型
  • λ型 (スピネル型)
  • R型 (ラムスデライド型)
    オルソロンビック型の結晶構造を有します。

酸化マンガンのその他情報

1. 二酸化マンガンの製造方法

二酸化マンガンの鉱石を粉砕し、一酸化マンガンへ還元、硫酸へ溶解、精製で得られた高純度マンガン液を電気分解し、析出させます。電解以外の方法として、化学合成法によって得る方法があります。

2. ガラス中の酸化マンガン

ガラス組成に酸化マンガンが加わることで、紫色となります。原料は二酸化マンガンを主に用いますが、ガラス中ではMnO2またはMn2O3の形で入ります。

参考文献
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/tokushu_boeki/pdf/021_02_01.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11305000/000654447.pdf

過酢酸

過酢酸とは

過酢酸の基本情報

図1. 過酢酸の基本情報

過酢酸とは、刺激臭のある無色の液体の過カルボン酸です。

無水酢酸過酸化水素および硫酸を加えて、蒸留することで生成されます。酢酸コバルトの存在下、または、紫外線照射下において、アセトアルデヒドと酸素を混合することによって、生成する方法もあります。

110℃に加熱すると爆発しますが、希薄溶液の状態では非常に安定です。また、皮膚などを腐食するため、取り扱いには注意が必要です。通常、酢酸・過酸化水素・過酢酸の平衡混合物として存在しています。

過酢酸の使用用途

過酢酸には、酢酸へ分解する際に発生する酸素ラジカルにより、芽胞菌を含む多種多様な微生物を障害する働きがあります。このため、菌・真菌・ウイルスといった幅広い病原微生物に対して、殺菌剤として利用されています。

医療分野においては、内視鏡や透析機器の医療用消毒剤としても使用可能です。飲食分野では、「飲料工場におけるペットボトルやプラスチックキャップ等の殺菌」「野菜・果物の微生物制御」「鶏・牛・豚肉の表面殺菌剤」としても、広く用いられています。

他にも、二重結合のエポキシ化 (酸化剤) 、漂白剤などにも用いることが可能です。

過酢酸の性質

過酢酸はエタノールやエーテル等によく溶けます。水と反応して、酢酸と過酸化水素に分解されます。融点は0.1°C、沸点は105°Cです。

過酢酸はエタンペルオキソ酸とも呼ばれます。過酸 (英: peroxy acid) の1種で、オキソ酸におけるヒドロキシ基 (−OH) がヒドロペルオキシド基 (−O−OH) に変化した構造を有しています。

分子式はC2H4O3、示性式はCH3COO2H、分子量は76.05です。

過酢酸のその他情報

1. 過酢酸の関連化合物

過カルボン酸の比較

図2. 過カルボン酸の比較

過酢酸は、過カルボン酸 (英: peroxycarboxylic acid または percarboxylic acid) と呼ばれる有機化合物の1種です。基本的に過カルボン酸は、母体のカルボン酸の名称にペルオキシ (英: peroxy) を付けて命名します。

ただし、過酢酸 (英: peracetic acid) のように一部の過カルボン酸には、頭に「過」 (per) を付けた慣用名の化合物も存在します。慣用名を持つ他の化合物の例は、過安息香酸 (英: perbenzoic acid) などです。

過安息香酸とは安息香酸を過カルボン酸にした有機酸で、ベンゼン環を有する過酸の中で最も単純な構造を持っており、示性式はC6H5COOOHです。

2. 過酢酸の反応性

有機合成の分野において過酢酸は、酸化剤として用いられています。一般的には無水酢酸と過酸化水素の反応で生じますが、純度が高い過酢酸は潜在的に爆発性があるため、危険だと言われています。通常は危険性が低いメタクロロ過安息香酸 (mCPBA) を使用すべきです。

3. 過カルボン酸の反応

過カルボン酸を用いた反応

図3. 過カルボン酸を用いた反応

一般的に過酢酸などの過カルボン酸は、1つの酸素原子を放出できるため、酸化力が強いです。例えば、オレフィンの炭素-炭素二重結合へ酸素を付加させることで、エポキシドが生成します。オレフィンのπ電子に対して、過カルボン酸は求電子剤としてふるまうので、電子豊富な二重結合への反応性が高いです。

また、過カルボン酸はケトンの炭素-炭素 (C-C) 結合に酸素を挿入して、エステルを生成可能です。この反応はバイヤー・ビリガー酸化 (英: Baeyer-Villiger oxidation) と呼ばれています。

さらに、過カルボン酸はアミンの酸化にも利用可能です。アミンの窒素原子に酸素原子を付加すると、アミンオキシドが生じます。複素環式化合物を用いても同じ反応が起き、ピリジンはピリジンN-オキシドに酸化します。

臭化カリウム

臭化カリウムとは

臭化カリウムとは、カリウムと臭素から構成される化合物で、白色の結晶体です。

臭化カリウムの融点は734°C、沸点は1,435°Cです。工業的に臭化カリウムは、水酸化カリウムと臭素の反応で生成した臭素酸カリウムを還元することで製造されています。臭化水素と水酸化カリウムの反応から生成することも可能です。

臭化カリウムの飽和水溶液に、エタノール等を加えて急速に結晶化させると、結晶ルミネセンスによる発光が見られます。

臭化カリウムの使用用途

臭化カリウムの単結晶は、赤外線に対して透明であるため、赤外線分光測定用のプリズムとして利用可能です。

臭化カリウムは生体内において、大脳皮質の中枢の興奮を抑制する効果があります。そのため臭化カリウムは医療分野で、神経鎮静剤や抗てんかん剤の原料として使用される他、錠剤の媒質としても多用されています。

また、写真用臭化銀の製造原料、現像液の原料、化学用試薬、石鹸など、その他幅広い分野でも使用可能です。

臭化カリウムの性質

臭化カリウムはアルコールには溶けますが、エーテルには難溶です。吸湿性が高く、潮解性を持つため、乾燥した容器中に保存する必要があります。

臭化カリウムは水に溶けやすく、水溶液中ではカリウムイオンと臭化物イオンに電離します。水溶液は中性を示し、pHは7です。

また臭化カリウムと硫酸が反応すると、臭素が遊離します。臭化銅(II)のような金属ハロゲン化物との反応によって、錯塩を形成します。

臭化カリウムの構造

臭化カリウムはカリウムの臭化物であり、化学式はKBrです。モル質量は119.002、密度は2.75g/cm3です。結晶構造は塩化ナトリウム型で、配位構造は八面体形を取っています。

臭化カリウムのその他情報

1. 臭化カリウムの合成法

臭化鉄 (Fe3Br8) と炭酸カリウムの反応による臭化カリウムの合成は、伝統的な方法です。水中で過剰の臭素 (Br2) と鉄くずを反応させることで、臭化鉄が生成します。

2. 臭化カリウムの光学的な応用

臭化カリウムは近紫外や遠赤外領域 (0.25〜25μm) に透過性を有し、プリズムや光学窓として用いられます。屈折率は1.0μmでおよそ1.55です。臭化カリウムは赤外吸収スペクトル (英: infrared spectroscopy) において、測定領域内に妨げになるピークがありません。臭化カリウムの粉末と試料を混合して、ペレット状に押し固めて、赤外吸収スペクトルを測定します。

固体核磁気共鳴 (英: Solid-state NMR) では、13C測定時のマジック角 (英: magic angle) の調整に利用されています。マジック角のずれに79Brの信号が鋭敏に影響するほか、共鳴周波数も13Cに近いです。

3. 臭化カリウムの医学や獣医学における応用

臭化物塩はてんかん (英: Epilepsy) に効果がある治療薬として、最初の報告例とされています。現在はドラベ症候群 (英: Dravet syndrome) において、クロバザム (英: Clobazam) 、スチリペントール (英: Stiripentol) 、トピラマート (英: Topiramate) 、バルプロン酸 (英: Sodium valproate) などと組み合わせて、臭化カリウムが使われています。

さらに臭化カリウムは、イヌへの抗てんかん薬としても使用可能です。フェノバルビタール (英: Phenobarbital) のみで効果がない場合の補助薬として用いられていますが、第一選択薬として利用される例も増えています。

4. 臭化カリウムの銀塩写真への応用

臭化カリウムはブロムカリとも呼ばれ、以前は銀塩写真の現像処理に多用されていました。現像液助剤における現像抑制剤として弱感光部への過度な現像作用を抑制できますが、最近は処方されない場合が多いです。ただし天体写真などには使用されることがあります。また定着液主剤に臭化カリウムが利用されていましたが、現在ではチオ硫酸ナトリウムが使用されることが多いです。

窒化チタン

窒化チタンとは

窒化チタンとは、青銅色の結晶性固体です。

窒化チタンは、酸化チタンと炭素を窒素中で加熱することによって生成されます。また、チタン基材を窒素プラズマ中で処理し、表面に窒素イオンを注入する表面改質法も、窒化チタンの生成方法として利用されることがあります。

窒化チタンは、コーティング材としての利用が多く、その薄膜は赤外線を反射するなど、スペクトルが金 (Au) に似ていることが特徴です。そのため、窒化チタンによるコーティングは、黄色味のある外観となります。

窒化チタンの使用用途

窒化チタンは、優れた膜密着性や耐摩耗性、耐腐食性、耐熱性を有しています。そのため、超硬合金工具や刃具、食品用容器・食品加工器具への一般的なコーティング材として、幅広く用いることが可能です。

窒化チタンの被膜が美しい黄金色であることから、装飾用途としても使われています。具体的には、電動工具チャック装飾部品・建築用金具類・装飾品などの表面に使用可能です。

窒化チタンは無毒であるため、医療用のインプラントや外科手術用のメス、骨用ノコギリといったように、医療分野における用途も挙げられます。

窒化チタンの性質

窒化チタンは、ダイヤモンドに近い硬度を持っています。耐熱性が高く、高融点なので、化学的に安定です。ビッカース硬度は2,400、弾性率は251GPa、融点は2,930°C、熱膨張係数は9.35×10−6K−1、超伝導転移温度は5.6Kです。

窒化チタンは赤外線を反射します。反射スペクトルは金と似ているため、黄色味があります。基材や表面仕上げにより、別の潤滑されていない窒化チタン表面に対する、窒化チタンの摩擦係数は0.4〜0.9です。

窒化チタン膜を絶対零度近くへ冷却すると、クーパー対絶縁体 (英: Cooper pair insulator) から超絶縁体 (英: Superinsulator) に変化することが明らかになっています。超絶縁体とは低温のある有限の温度で、電気抵抗力が無限大になり、電気を通さなくなる材料のことです。

窒化チタンの構造

窒化チタンの化学式はTiN、モル質量は61.874g/molです。窒化チタンの結晶構造は化学量論的におよそ1:1で、塩化ナトリウム型構造を取っています。

配位構造は八面体型です。それに加えて、TiNxのxが0.6〜1.2の化合物も、熱力学的に安定しています。

窒化チタンのその他情報

1. 隕石中の窒化チタン

自然界において窒化チタンは、隕石中のみで見つかっています。具体的には、オスボーン鉱 (英: osbornite) で発見されました。

2. 窒化チタンの製作

最も一般的な窒化チタン膜の製造方法は、物理気相成長 (英: physical vapor deposition) と化学気相成長 (英: chemical vapor deposition) です。物理気相成長とは、薄膜を物質の表面に形成する蒸着法の1つです。

物理的手法によって、気相中で表面に物質の薄膜を堆積します。それに対して、化学気相成長とは、物質の薄膜を形成する堆積法の1つです。石英などで作られた反応管内で熱した基板物質上に、薄膜の成分を含んだ原料ガスを供給することで、化学反応によって基板表面や気相で膜を堆積します。

物理気相成長と化学気相成長は、いずれも高純度のチタンを昇華させて、高エネルギーの真空環境下において、窒素と反応させます。窒化チタン膜は、焼なまし (英: annealing) のような、窒素雰囲気での反応成長でも、チタン製加工物上に生成可能です。

3. 窒化チタンの反応

大気中で窒化チタンは、800℃で酸化します。実験室における試験によると、20℃では化学的に安定していますが、高温の濃酸溶液ではゆっくりと腐食される場合があります。

窒化チタンは、王水・硝酸・ふっ化水素酸には微溶ですが、水には不溶です。

窒化ケイ素

窒化ケイ素とは

窒化ケイ素 (英: Silicon nitride) とは、無臭の白~灰色の粉末です。

窒化ケイ素の主要な化学組成は、四窒化三ケイ素 (Si3N4) となっており、別名、シリコンナイトライドなどとも呼ばれます。分子量は140.28で、CAS番号は12033-89-5です。1857年にアンリ・エティエンヌ・サント・クレール・ドヴィルとフリードリッヒ・ヴェーラーによって最初に報告されました。

窒化ケイ素の使用用途

窒化ケイ素は、高温構造材料として、特に熱のかかる過酷な環境で使用される部品に活用されています。具体的には、「エンジン」「ガスタービン」「溶接機のトーチノズル」「燃焼器部品」などの材料として使用されています。

窒化ケイ素は他にも、高い耐摩耗性と機械強度を利用して、「成形型部品」「鋳造部品」「ダイカスト機部品」「溶接機部品」「分級機・気流式粉砕機・ビーズミル等の粉砕機部品」「モーターシャフト等の耐摩耗部品」「ステージ部品」「リニアモータ等の半導体製造装置部品」などと幅広く利用されています。

窒化ケイ素の性質

1. 物理的特性

窒化ケイ素は、高温下での強度が強いことが特徴です。不活性雰囲気下で約1,900℃まで安定で、光や衝撃に対して化学的に安定かつ、自己重合性もありません。また、高靱性で、熱膨張率が低く、耐熱衝撃性が極めて高い物質でもあります。

2. その他の特徴

窒化ケイ素は、フッ酸・塩酸硝酸などには侵されますが、溶融金属には侵されにくい性質をもちます。また、窒化ケイ素は、約1,400℃まで安定していますが、約1,400℃~1,500℃においては、α型と呼ばれる低温安定相からβ型と呼ばれる高温安定相へと相転移が起こります。

窒化ケイ素の構造

窒化ケイ素は、α相、β相、γ相の3種類の結晶多形を持ち、α相とβ相が常圧相、γ相は高圧相です。α相とβ相が、主に材料開発の対象となっています。γ相は高圧および高温下でのみ合成でき、硬度は35GPaです。

1. α相とβ相

α相とβ相の窒化ケイ素は、それぞれ三方晶 (ピアソン記号hP28、空間群P31c、No.159) と六方晶 (ピアソン記号hP14、空間群P63、No.173) 構造を持ち、SiN4四面体の頂点を共有する形で構築されています。それらは、配列ABAB…あるいはABCDABCD…のケイ素原子と窒素原子の層からなると見なすことができます。α相の窒化ケイ素は、β相よりも積層間隔が大きく硬度も高くなりますが、化学的にはβ相より不安定になります。

2. γ相

γ相の窒化ケイ素は立方晶構造で、文献では立方晶の窒化ホウ素 (c-BN) と同様に扱われることがよくあります。2つのケイ素原子がそれぞれ6個の窒素原子を八面体に配位させ、1個のケイ素原子が4個の窒素原子を四面体に配位するスピネル型構造を有しています。

窒化ケイ素のその他情報

1. 窒化ケイ素の製法

窒化ケイ素は、工業的には、圧縮ケイ素粉末を直接、窒素またはアンモニア気流中で高温で反応させるといった「直接窒化法」によって製造されています。この他にも、二酸化ケイ素と炭素の混合粉末を、窒素またはアンモニア気流中で、高温で反応させる「シリカ還元法」や、ハロゲン化ケイ素またはモノシランを、高温でアンモニアと反応させる「気相合成法」によっても生成されます。

2. 法規情報

窒化ケイ素は、毒物及び劇物取締法や消防法、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) のいずれにも指定はありません。労働安全衛生法では、「名称等を通知すべき有害物」に該当します。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • アルカリ性物質を発生するため、水との接触は避ける。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/product/aldrich/334103
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0102-0228.html