窒化チタンとは
窒化チタンとは、青銅色の結晶性固体です。
窒化チタンは、酸化チタンと炭素を窒素中で加熱することによって生成されます。また、チタン基材を窒素プラズマ中で処理し、表面に窒素イオンを注入する表面改質法も、窒化チタンの生成方法として利用されることがあります。
窒化チタンは、コーティング材としての利用が多く、その薄膜は赤外線を反射するなど、スペクトルが金 (Au) に似ていることが特徴です。そのため、窒化チタンによるコーティングは、黄色味のある外観となります。
窒化チタンの使用用途
窒化チタンは、優れた膜密着性や耐摩耗性、耐腐食性、耐熱性を有しています。そのため、超硬合金工具や刃具、食品用容器・食品加工器具への一般的なコーティング材として、幅広く用いることが可能です。
窒化チタンの被膜が美しい黄金色であることから、装飾用途としても使われています。具体的には、電動工具チャック装飾部品・建築用金具類・装飾品などの表面に使用可能です。
窒化チタンは無毒であるため、医療用のインプラントや外科手術用のメス、骨用ノコギリといったように、医療分野における用途も挙げられます。
窒化チタンの性質
窒化チタンは、ダイヤモンドに近い硬度を持っています。耐熱性が高く、高融点なので、化学的に安定です。ビッカース硬度は2,400、弾性率は251GPa、融点は2,930°C、熱膨張係数は9.35×10−6K−1、超伝導転移温度は5.6Kです。
窒化チタンは赤外線を反射します。反射スペクトルは金と似ているため、黄色味があります。基材や表面仕上げにより、別の潤滑されていない窒化チタン表面に対する、窒化チタンの摩擦係数は0.4〜0.9です。
窒化チタン膜を絶対零度近くへ冷却すると、クーパー対絶縁体 (英: Cooper pair insulator) から超絶縁体 (英: Superinsulator) に変化することが明らかになっています。超絶縁体とは低温のある有限の温度で、電気抵抗力が無限大になり、電気を通さなくなる材料のことです。
窒化チタンの構造
窒化チタンの化学式はTiN、モル質量は61.874g/molです。窒化チタンの結晶構造は化学量論的におよそ1:1で、塩化ナトリウム型構造を取っています。
配位構造は八面体型です。それに加えて、TiNxのxが0.6〜1.2の化合物も、熱力学的に安定しています。
窒化チタンのその他情報
1. 隕石中の窒化チタン
自然界において窒化チタンは、隕石中のみで見つかっています。具体的には、オスボーン鉱 (英: osbornite) で発見されました。
2. 窒化チタンの製作
最も一般的な窒化チタン膜の製造方法は、物理気相成長 (英: physical vapor deposition) と化学気相成長 (英: chemical vapor deposition) です。物理気相成長とは、薄膜を物質の表面に形成する蒸着法の1つです。
物理的手法によって、気相中で表面に物質の薄膜を堆積します。それに対して、化学気相成長とは、物質の薄膜を形成する堆積法の1つです。石英などで作られた反応管内で熱した基板物質上に、薄膜の成分を含んだ原料ガスを供給することで、化学反応によって基板表面や気相で膜を堆積します。
物理気相成長と化学気相成長は、いずれも高純度のチタンを昇華させて、高エネルギーの真空環境下において、窒素と反応させます。窒化チタン膜は、焼なまし (英: annealing) のような、窒素雰囲気での反応成長でも、チタン製加工物上に生成可能です。
3. 窒化チタンの反応
大気中で窒化チタンは、800℃で酸化します。実験室における試験によると、20℃では化学的に安定していますが、高温の濃酸溶液ではゆっくりと腐食される場合があります。
窒化チタンは、王水・硝酸・ふっ化水素酸には微溶ですが、水には不溶です。