窒化ケイ素とは
窒化ケイ素 (英: Silicon nitride) とは、無臭の白~灰色の粉末です。
窒化ケイ素の主要な化学組成は、四窒化三ケイ素 (Si3N4) となっており、別名、シリコンナイトライドなどとも呼ばれます。分子量は140.28で、CAS番号は12033-89-5です。1857年にアンリ・エティエンヌ・サント・クレール・ドヴィルとフリードリッヒ・ヴェーラーによって最初に報告されました。
窒化ケイ素の使用用途
窒化ケイ素は、高温構造材料として、特に熱のかかる過酷な環境で使用される部品に活用されています。具体的には、「エンジン」「ガスタービン」「溶接機のトーチノズル」「燃焼器部品」などの材料として使用されています。
窒化ケイ素は他にも、高い耐摩耗性と機械強度を利用して、「成形型部品」「鋳造部品」「ダイカスト機部品」「溶接機部品」「分級機・気流式粉砕機・ビーズミル等の粉砕機部品」「モーターシャフト等の耐摩耗部品」「ステージ部品」「リニアモータ等の半導体製造装置部品」などと幅広く利用されています。
窒化ケイ素の性質
1. 物理的特性
窒化ケイ素は、高温下での強度が強いことが特徴です。不活性雰囲気下で約1,900℃まで安定で、光や衝撃に対して化学的に安定かつ、自己重合性もありません。また、高靱性で、熱膨張率が低く、耐熱衝撃性が極めて高い物質でもあります。
2. その他の特徴
窒化ケイ素は、フッ酸・塩酸・硝酸などには侵されますが、溶融金属には侵されにくい性質をもちます。また、窒化ケイ素は、約1,400℃まで安定していますが、約1,400℃~1,500℃においては、α型と呼ばれる低温安定相からβ型と呼ばれる高温安定相へと相転移が起こります。
窒化ケイ素の構造
窒化ケイ素は、α相、β相、γ相の3種類の結晶多形を持ち、α相とβ相が常圧相、γ相は高圧相です。α相とβ相が、主に材料開発の対象となっています。γ相は高圧および高温下でのみ合成でき、硬度は35GPaです。
1. α相とβ相
α相とβ相の窒化ケイ素は、それぞれ三方晶 (ピアソン記号hP28、空間群P31c、No.159) と六方晶 (ピアソン記号hP14、空間群P63、No.173) 構造を持ち、SiN4四面体の頂点を共有する形で構築されています。それらは、配列ABAB…あるいはABCDABCD…のケイ素原子と窒素原子の層からなると見なすことができます。α相の窒化ケイ素は、β相よりも積層間隔が大きく硬度も高くなりますが、化学的にはβ相より不安定になります。
2. γ相
γ相の窒化ケイ素は立方晶構造で、文献では立方晶の窒化ホウ素 (c-BN) と同様に扱われることがよくあります。2つのケイ素原子がそれぞれ6個の窒素原子を八面体に配位させ、1個のケイ素原子が4個の窒素原子を四面体に配位するスピネル型構造を有しています。
窒化ケイ素のその他情報
1. 窒化ケイ素の製法
窒化ケイ素は、工業的には、圧縮ケイ素粉末を直接、窒素またはアンモニア気流中で高温で反応させるといった「直接窒化法」によって製造されています。この他にも、二酸化ケイ素と炭素の混合粉末を、窒素またはアンモニア気流中で、高温で反応させる「シリカ還元法」や、ハロゲン化ケイ素またはモノシランを、高温でアンモニアと反応させる「気相合成法」によっても生成されます。
2. 法規情報
窒化ケイ素は、毒物及び劇物取締法や消防法、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) のいずれにも指定はありません。労働安全衛生法では、「名称等を通知すべき有害物」に該当します。
3. 取扱いおよび保管上の注意
取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。
- 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
- 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
- アルカリ性物質を発生するため、水との接触は避ける。
- 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
- 取扱い後はよく手を洗浄する。
- 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
- 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。
参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/product/aldrich/334103
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0102-0228.html