ケルセン

ケルセンとは

ケルセン (英: Kelthane) とは、農薬の主成分として使用されている有機塩素系化合物 (C14H9Cl5O) でしたが、現在は非登録の農薬です。

化学物質名は2.2.2-トリクロロ-1.1-ビス (4-クロロフェニル) エタノール、別名としてジコホール (英: Dicofol) とも呼ばれる物質です。水和剤、乳剤およびその混合剤として加工され、非浸透性の殺ダニ剤として市販されており、ダニの防除に使用されていました。

適用される農作物は、トマトやキュウリなどの野菜類やカンキツやリンゴなどの果樹類、花き類など幅広いです。安全性については、特に指定はありません。

毒性区分は毒物及び劇物に該当しない普通物でしたが、難分解性と高濃縮性があるとされ、環境ホルモン様作用や水生環境への影響についての指摘があります。日本、アメリカ、ヨーロッパ等にて、主要な農作物に対して残留基準が設定されています。

ケルセンの使用用途

ケルセンの主な使用用途は、殺虫剤として害虫の防除です。水で指定倍率に希釈したり、土壌に指定量散布したりして使用します。ただし、使用時期、総使用回数にも制限があるため、確認が必要です。

ケルセンは、ハダニに対して高い防除効果があることが特徴です。ハダニは植物の葉や果実を吸汁する大きさ0.5mmほどの小さな害虫です。小さく目で見つけることが難しいため、発生初期には気づきにくく、被害が大きくなってから発見されることが多くあります。

また、産卵数が多く、非常に繁殖力が強いため防除の対策をしないと爆発的に増殖してしまいます。ハダニの卵期、幼虫期、成虫期に効果があるため、多くの場面で使用可能です。本剤の作用はIRACの作用機構分類ではUN (不明) となっていますが、摂食後に害虫体内でオキソン体に変換されて、中枢神経系におけるコリン作動性シナプスに存在するアセチルコリンエステラーゼの阻害剤として作用します。

すると、興奮性神経伝達物質の1種であるアセチルコリンが分解できなくなり、神経細胞間にアセチルコリンが蓄積して、異常な興奮伝導が生じます。その結果、殺虫効果になると考えられています。

ケルセンの種類

ケルセンは形状によって、次のように分類することができます。

1. ケルセン粉剤

ケルセン粉剤は形状が粉状になっています。粉剤なので水には希釈せず、そのまま土壌に散布して使用します。風の強い日の散布は粉剤がまいあがってしまう可能性があるため、注意が必要です。

2. ケルセン水和剤

ケルセン水和剤はケルセン粉剤と同様、形状が粉状になっています。水和剤なので、水に希釈して農作物に散布して使用します。水に希釈すると、不透明な液体になり、放置すると沈殿ができることが特徴です。

3. ケルセン乳剤

ケルセン乳剤は形状が液体です。水に希釈して農作物に散布して使用します。水に希釈する際に泡立ちが少なく、作業を効率的に行えます。

ケルセンその他情報

使用上の注意点

  • ケルセンは平成16年に農薬としての登録失効となり、平成22年以降農薬としての販売中止と使用が禁止されています。現在はメーカーが回収を行なっています。
  • 厚生労働省の安全データシートによると、経口による急性毒性や眼に対する重篤な損傷性の可能性があるとしています。そのため、使用時には手袋やマスク、防護メガネを着用し、目や鼻、肌に直接かからないように注意が必要です。
  • 可燃性で、引火すると刺激性あるいは有毒なガスを放出します。火が近くにある環境での使用は、厳重な注意が必要です。
  • 保管はケルセンの入った容器を、しっかりと密閉し換気の良い場所で保管します。
  • ケルセンの製品や容器を廃棄する場合、都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼して廃棄をしてもらう必要があります。
  • 水生環境や周辺環境に影響がでるため、環境中へ流出しないよう注意が必要です。

クロルデン

クロルデンとは

クロルデン (英: Chlordane) とは、有機塩素系化合物です。

単一の化合物ではなく、十数種類の多くの異性体の総称です。クロルデンは農薬、シロアリ駆除用の殺虫剤、木材の防虫剤などに広くもちいられてきましたが、生物に蓄積されやすい難分解性の毒性化合物であることが明らかになったため、現在は農薬としての使用が禁止されています。

クロルデンは、食品に残留する基準値が設定されており、農産物の場合はシス-クロルデンおよびトランス-クロルデン、蓄水産物の場合はシス-クロルデンおよびトランス-クロルデン並びに代謝物であるオキシクロルデンをあわせたクロルデン含量に対して制限があります。

クロルデンの使用用途

クロルデンは、日本では1950年から1986年までイネや野菜の農薬およびシロアリ駆除用の殺虫剤、木材の防虫剤として広く用いられていました。しかし、クロルデンは難分解性の化合物であり、生物内で濃縮され毒性を保ち続けます。そのため、現在はクロルデンの製造・販売・使用は禁止されています。

IRACの作用機構分類において、グループ2Aに分類される農薬成分です。害虫の体内に取り込まれると、抑制性の神経伝達物質であるGABAの受容体に作用して、神経が興奮した状態を作り出すことで痙攣等を生じさせることが、殺虫効果につながると考えられています。

現在、試薬メーカーから販売されているクロルデンは、残留農薬検査のための標準試薬であり、試験研究用途以外での使用は認められていません。化審法に基づき、クロルデンの購入時には試験研究用に使用する確約書の提出が必要です。

クロルデンの性質

化学式 C10H6Cl8
日本語名 クロルデン
英語名 Chlordane
CAS番号 57-74-9
分子量 409.78 g/mol

 

クロルデンは水に不溶で、有機溶剤に混和する性質を有します。クロルデンの別名は工業用クロルデンです。クロルデンは、様々な構造異性体の総称として用いられます。

「クロルデン」と呼ばれる場合は、トランス-クロルデン,シス-クロルデンを含み、さらに「工業用クロルデン」と呼ばれる場合はオキシクロルデン、トランス-ノナクロル、シス-ノナクロルなどの関連物質も含んだ総称として用いられます。

厚生労働省による職場の安全データシートや日本国内の大手試薬メーカーのウェブサイトでは、クロルデンまたは工業用クロルデンの名称が使用されています。製品によって含有する化合物の割合が異なる場合があるので、よく確認してから使用してください。

クロルデンのその他情報

1. クロルデンの有害性および法規制情報

クロルデンは、毒物及び劇物取締法において劇物に指定されています。人体に対する有害性は、経口・経皮摂取での急性毒性、発がん性および生殖毒性のおそれ、中枢神経系への障害です。また、特定標的臓器毒性として、中枢神経系 (単回ばく露) 、肝臓と腎臓  (反復ばく露) が確認されています。

日本だけでなくアメリカやヨーロッパなど世界各国において、クロルデンの食品に残留する基準値が設定されています。農産物の場合はシス-クロルデンおよびトランス-クロルデン、蓄水産物の場合はシス-クロルデンおよびトランス-クロルデン並びに代謝物であるオキシクロルデンをあわせたクロルデン含量に対して制限が設けられました。

2. クロルデンの使用上の注意

クロルデンは、毒物及び劇物取締法において劇物に指定されている化合物です。クロルデンの使用は研究分析用途のみが例外的に認められています。クロルデンを誤って経口または経皮摂取しないように、保護手袋、保護メガネ、保護衣、呼吸用保護具を着用したうえで、よく換気された環境下で取り扱うことが推奨されています。

安全な容器に入れて密閉し、施錠して保管する必要があります。また、クロルデンを購入する際は、試験研究用途に使用する確約書の提出が必要です。

有機溶剤との混和状態での引火や強酸化剤・強塩基剤との接触により分解し、塩素やホスゲン等を含む有毒なフュームを発生させる危険があります。そのため、クロルデンは火元や他の試薬から遠ざけた安全な場所で使用および保管してください。

3. 廃棄処分方法

クロルデンは、生物に対して高い蓄積性を有する難分解性の化合物です。日本ではこれまでに、クロルデンによる魚等の水生生物の汚染が問題になっています。そのため、厚生労働省の公開している安全データシートでは、クロルデンの環境中への流出を避けるよう推奨されています。

クロルデンを廃棄処分する場合は、処理業者等に危険性、有害性を十分告知したうえで、都道府県知事などの許可を受けた産業廃棄物処理業者などに委託して適切に処理してください。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/12789-03-6.html
https://www.env.go.jp/chemi/anzen/lcms_method/2-5-2.pdf

エンドリン

エンドリンとは

エンドリンの構造

図1. エンドリンの構造

エンドリン (英: Endrin) とは、化学式C12C8Cl6Oで表される有機化合物です。

別名として、1,2,3,4,10,10-ヘキサクロロ-6,7-エポキシ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロ-エンド-1,4-エンド-5,8-ジメタノナフタレンが挙げられます。エンドリンは、主に農薬として野菜や果樹における害虫 (アブラムシやカメムシ等) の駆除をはじめ、殺鼠剤としても使用されていました。日本だけでなく、世界中の農業分野で活躍した有機化合物の1つです。

しかし、エンドリンは環境中に長期間残存し、毒性を発現しつづける残留性有機汚染物資であることが明らかになったため、現在は農薬としての使用が禁止されています。エンドリンは、毒物及び劇物取締法において毒物に指定されているほか、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律によって、使用・輸入および製造における規制がある第1種特定化学物質です。

また、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約によって製造や使用が原則として禁止されています。アメリカやヨーロッパ同様に日本国内においても、食品に残留する基準値が設定されています。

エンドリンの使用用途

エンドリンは、1970年代まで日本国内および各国で農薬や殺鼠剤として多量に使用されていました。しかし、エンドリンは水に溶けにくく脂溶性である性質を持ち、環境中に残留して長期間に渡って毒性を発現し、さらに水生生物の体内で生物濃縮を起こします。

環境に対する毒性が大きいため、現在は日本国内では原則としてエンドリンの使用は禁止されています。海外においても多くの国でエンドリンを規制対象としていますが、現在は残留試験用試薬に使用されています。

エンドリンの性質

化学式 C12H8Cl6O
日本語名 エンドリン
英語名 Endrin
CAS番号 72-20-8
分子量 380.91g/mol
融点/凝固点 226~230℃
沸点または初留点および沸騰範囲 沸点以下245℃で分解する

1. エンドリンの溶解性

エンドリンは、水に溶けにくい性質を持ちます。しかし、アセトン、ベンゼン、キシレンなどの有機溶剤には可溶です。ヘキサンおよび四塩化炭素にもわずかに溶けます。

2. エンドリンの立体異性体

エンドリンの立体異性体構造

図2. エンドリンの立体異性体構造

エンドリンの立体異性体構造 (同じ構造式を持つが原子の立体配置が異なる化合物) はディルドリンです。ディルドリンもまた、残留性有機汚染の1つとして規制対象となっています。

エンドリンのその他情報

1. エンドリンの有害性

エンドリンは、毒物及び劇物取締法によって毒物に指定されている化合物です。安全データシートによると、健康に対する有害性として、急性毒性 (経口と経皮) と特定標的臓器毒性 (単回ばく露: 神経系、肝臓、腎臓、反復ばく露: 神経系、肝臓) が報告されています。

エンドリンを経口または経皮で摂取すると生命の危険があるため、細心の注意が必要です。また、水生生物に対して非常に強い毒性を有しています。脂溶性であるため、水生生物の体内で濃縮される生物濃縮が起こることも確認されており、環境中に放出することがないよう、十分注意したうえで取り扱います。

2. エンドリンの使用上の注意

エンドリンは経皮および経口による急性毒性を有します。そのため、エンドリンを扱う際には、呼吸用保護具、保護手袋、保護メガネ、保護衣の使用が推奨されています。

通常、室温では安定な白色固体です。しかし、加熱によって分解し、塩化水素やホスゲンなどを含む有害で腐食性のガス (フューム) を発生させます。エンドリンが入った瓶が加熱された場合は、瓶内でガスが発生し爆発する危険があります。

火元を近付けたりしないよう、適切な保管場所で保管してください。また、エンドリンは船舶安全法の毒物類・毒物および航空法の毒物類・毒物に指定されており、安全な輸送のために法令を遵守し適切な輸送措置をとる必要があります。

3. 廃棄処分方法

エンドリンは周辺環境に影響を及ぼす毒物であるため、環境中に放出してはいけない化合物として規制されています。エンドリンやエンドリンの付着した容器を廃棄処分する場合は、都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼し、適切に廃棄してください。

イソキサチオン

イソキサチオンとは

イソキサチオン (C13H16NO4PS) とは、殺虫剤に分類されネキリムシやケムシ類、カイガラムシなど害虫から農作物を守る用途で使用される農薬の成分です。

有機リン系の農薬で、農薬の作用機構による分類ではアセチルコリンエステラーゼ阻害のグループ (1B) に分類されます。イソキサチオンを含む農薬が害虫の体内に取り込まれると、中枢神経系に存在するコリンエステラーゼと結合することによって、その活性が低下します。興奮性神経伝達物質の1種であるアセチルコリンが分解できなくなり、神経細胞間にアセチルコリンが蓄積して、正常な神経伝達機能が阻害されることが殺虫効果となると考えられています。

また、農薬が散布された葉や果実を経口し効果のでる食毒作用と、直接農薬がかかり効果のでる接触毒作用の2つの作用効果が確認されているため、より多くの害虫に効くことが特徴です。安全性については、毒物及び劇物取締法で、劇物に指定されています。

哺乳動物の体内に蓄積しにくいことが確認されています。飲み込んだり吸入すると有害、眼刺激、長期または反復ばく露による神経系障害、ならびに水生生物への強毒性が指摘されています。

アメリカやヨーロッパ同様に日本国内においても、食品に残留する基準値が設定されています。

イソキサチオンの使用用途

イソキサチオンの使用用途は、害虫の防除です。ネキリムシやケムシ類、カイガラムシ、ハエ類、ヨトウムシなど幅広い害虫に登録があり使用ができます。

イソキサチオンを含む農薬の使用方法は大きく分けて2つあります。

1. 農作物に散布する

1つ目は、イソキサチオンを成分とする殺虫剤を、水に希釈して散布する方法です。この方法は害虫の発生初期に使用する場合が多いです。

また、野菜類やミカン、花き類、樹木のカイガラムシやケムシ類、アワノメイガ、ハエ類など多くの農作物と害虫に登録があり、使用できることが特徴になります。

2. 土壌に散布する

2つ目は、イソキサチオンを成分とする殺虫剤を、土壌に散布する方法です。この方法は種の播種時や苗などの定植前に土壌散布または散布した農薬を土壌に混和して使用します。

野菜類のネキリムシやコガネムシ類、タネバエなど地下部を加害する害虫に対して高い効果があります。

イソキサチオンの種類

イソキサチオンは使用する成分量で次のような殺虫剤に分けられ、使用されています。

1. カルホス乳剤

カルホス乳剤は有効成分にイソキサチオンを50.0%含む、液体状の殺虫剤です。水に希釈して使用し、水に希釈すると白色の乳濁色になるのが特徴です。

カルホス乳剤はミカンや花き類、樹木類、シバ、茶などの幅広い農作物のカイガラムシ、コガネムシ類、ケムシ類、ダニ類などに登録があり使用できます。地上部を加害する害虫と地下部を加害する害虫の両方を防除できることと、幅広い農作物と害虫に使用できることが大きな特徴です。

2. カルホス微粒剤

カルホス微粒剤は有効成分にイソキサチオンを3.0%含む、微粒状および粉状の殺虫剤です。粒の大きさは、63~212マイクロメートルとなっています。

カルホス微粒剤は種の播種時または、苗の定植時に土壌に散布して使用します。エダマメやハクサイ、花き類のネキリムシやタネバエに登録があり使用できます。粉剤より粒が大きく、散布時に風による飛散が少ないことが特徴です。

3. カルホス粉剤

カルホス粉剤は有効成分にイソキサチオンを2.0%含む、粉状の殺虫剤です。粒の大きさは45マイクロメートル以下となっています。

カルホス粉剤は微粒剤と同じく、種の播種時または、苗の定植時に土壌に散布して使用します。ダイコンやナバナ類、キュウリ、トマトなどの野菜類や豆類のネキリムシやタネバエに登録があり使用できます。

イソキサチオンその他情報

使用上の注意点

  • イソキサチオンを含む農薬には医薬用外劇物の農薬もあるため、取り扱いには十分な注意が必要です。
  • 蚕に対して影響があるため、周辺の桑にかからないように注意が必要です。
  • 使用時は防護メガネ、手袋、マスクを着用し、目や鼻、肌に直接かからないように注意が必要です。

 

 

酸化塩素

酸化塩素とは

酸化塩素とは、塩素の酸化物の総称です。

酸化塩素の具体的な化合物には、一酸化二塩素 (英: dichlorine monoxide) 、二酸化一塩素 (英: chlorine dioxide) 、四酸化二塩素 (英: dichlorine tetraoxide) などが挙げられます。

そのほか、六酸化二塩素 (英: dichlorine hexaoxide) や七酸化二塩素 (英: dichlorine heptaoxide) が存在します。

酸化塩素の使用用途

1. 一酸化二塩素

一酸化二塩素は、パルプ・小麦粉・皮革・油脂・繊維などの漂白や水の殺菌・脱臭処理、酸化剤、塩素化剤などとして利用されています。

2. 二酸化一塩素

二酸化一塩素についても似た用途が多く、紙・樹脂・繊維・小麦粉・ハチミツなどの漂白剤として使用される他、酸化剤や消臭剤としても利用可能です。また、亜塩素酸塩の製造原料などにも用いられています。

二酸化一塩素には、強い酸化力があり、タンパク質の変性や細胞膜の破壊を引き起こすことが特徴です。そのため、防腐・防かび剤や殺虫剤、殺菌剤としても使用されています。

3. 七酸化二塩素

七酸化二塩素は、酸化剤として利用できます。

酸化塩素の性質

1. 一酸化二塩素

一酸化二塩素は、室温環境下では黄褐色の気体で、爆発性があります。融点は-120.6℃、沸点は2.0℃です。100~140℃で熱分解します。水に溶けやすく、水と反応して次亜塩素酸 (HClO) になります。

2. 二酸化一塩素

二酸化一塩素は、室温環境下では、黄~赤黄色の気体です。融点は-59℃、沸点は11℃です。二酸化一塩素は光で分解します。

衝撃を受けたり、有機物等と接触すると爆発します。水に可溶で、水溶液からは黄色の結晶を得ることが可能です。

酸化塩素の構造

1. 一酸化二塩素

一酸化二塩素の化学式はCl2Oで、分子量は86.91です。Cl-Oは1.7 Å、∠Cl-O-Clは110.89°であり、折れ線形の構造を取っています。

2. 二酸化一塩素

二酸化一塩素の化学式はClO2で、分子量は67.45です。Cl-Oは1.47 Å、∠O-Cl-Oは117.40°であり、折れ線形の構造を取っています。

3. 四酸化二塩素

四酸化二塩素の化学式はCl2O4で、分子量は134.90です。-150℃でClO2は、二量体であるOCl(μ-O)2ClOという弱い結合を作っています。

酸化塩素のその他情報

1. 酸化塩素の合成法

一酸化二塩素
酸化水銀 (II) と塩素の反応によって得ることができます。

二酸化一塩素
アルカリ金属の塩素酸塩と二酸化硫黄を含む濃硫酸を反応させることで生成されます。

四酸化二塩素
過塩素酸セシウム (CsClO4) と塩化フッ化スルフリル (ClSO2F) の反応によって、CsSO2Fとともに非常に不安定なCl(ClO4)として生成可能です。Cl(ClO4)は、塩素の過塩素酸塩と考えられています。

2. 六酸化二塩素の特徴

室温で六酸化二塩素は、赤褐色の油状の液体であり、融点は3.5℃、沸点は203℃です。六酸化二塩素の化学式はCl2O6で、分子量は166.90です。六酸化二塩素の構造は、[ClO2]+[ClO4]だと考えられています。

気体の六酸化二塩素は、ClO3分子との平衡状態として存在します。-10℃で二酸化塩素 (ClO2) とオゾン (O3) の反応によって、六酸化二塩素を得ることが可能です。塩素 (Cl2) とオゾン (O3) の光化学反応でも生成します。六酸化二塩素は水と反応し、塩素酸 (HClO3) と過塩素酸 (HClO4) になります。

3. 七酸化二塩素の特徴

七酸化二塩素は無色油状の液体です。密度は1.86g/cm3、融点は-91.5℃、沸点は81℃で、衝撃によって爆発します。

七酸化二塩素の化学式はCl2O7で、分子量は182.90です。気体と固体のいずれも七酸化二塩素の分子構造は、2つの四面体型のClO4がそれぞれ1つの酸素原子を共有した二量体型を形成しています。

五酸化リン (P2O5) と過塩素酸 (HClO4) の低温での反応で、七酸化二塩素は生成可能です。七酸化二塩素は衝撃で爆発し、熱すると酸素 (O2) と塩素 (Cl2) に分解します。

酸化モリブデン

酸化モリブデンとは

酸化モリブデン (英: Molybdenum oxide) とは、遷移金属酸化物です。

酸化数によって、酸化モリブデン(VI)と酸化モリブデン(V)、酸化モリブデン(IV)が存在します。このうち酸化モリブデン(VI)は、モリブデン化合物の中で最も生産量の多い薬品です。

酸化モリブデン(VI)は、別名として三酸化モリブデン (英: Molybdic trioxide) やモリブダイト (英: Molybdite) 、モリブデン酸無水物 (英: Molybdic anhydride) とも呼ばれます。酸化モリブデン(V)の別名は、五酸化二モリブデンなどです。

酸化モリブデン(IV)は、別名として二酸化モリブデン (英: Molybdenum dioxide) やツガリノバイト (英: Tugarinovite) とも呼ばれます。

酸化モリブデンの使用用途

1. 酸化モリブデン(VI)

金属モリブデンの原料
酸化モリブデン(VI)は、金属モリブデン生産の原料として用いられます。高温で酸化モリブデンと水素を反応させると、金属モリブデンと水が生成します。

特殊合金の添加剤
合金鋼ステンレスなどの特殊鋼、特殊合金への添加剤としても、酸化モリブデン(VI)は使用されています。添加された合金は、高硬度で耐熱性と耐蝕性に優れているため、自動車や航空機の部品、建設資材など、多くの分野で重宝される添加剤です。

その他
酸化モリブデン(VI)は腐食防止剤や農薬、陶磁器のうわぐすり、分析化学試薬、酸化触媒などにも用いられます。

2. 酸化モリブデン(IV)

潤滑剤や表面処理剤、潤滑油などに用いられており、電気のよい導体であるため、リチウムイオン二次電池の素材としても使用が期待されています。

酸化モリブデンの性質

1. 酸化モリブデン(VI)

酸化モリブデン(VI)は、化学式はMoO3で、分子量は143.95、CAS番号は1313-27-5で登録されています。融点を795℃、沸点を1,155℃に持つ、常温で白色〜黄色または明るい青色、密度4.69 g/cm3の結晶性粉末です。結晶構造は斜方晶を示します。

配位構造は歪んだ八面体で、中心にあるモリブデンに対し、各頂点に酸素原子が配位し、固相では層を構成しています。水への溶解度は、18℃で1.07g/Lです。酸性の水溶液には溶けませんが、アンモニア水などの塩基性水溶液やアルカリ融解物には可溶です。

2. 酸化モリブデン(IV)

酸化モリブデン(IV)の化学式はMoO2で、分子量は127.94、CAS番号は18868-43-4で登録されています。融点を1,100℃に持つ、常温で茶紫色、密度6.47g/cm3の結晶です。

結晶構造は単斜晶系で歪んだルチル型を示します。配位構造は同じく歪んだ八面体で、モリブデン原子は中心から少しずれた位置に存在します。

酸化モリブデンのその他情報

1. 酸化モリブデンの製造法

酸化モリブデン(VI)
工業的には、二硫化モリブデンを焙焼することにより得られます。実験室レベルでは、モリブデン酸ナトリウム水溶液と過塩素酸を反応させることでも合成可能です。昇華によって精製できます。

酸化モリブデン(IV)
金属モリブデン存在下、酸化モリブデン(VI)を800℃で70時間かけて還元することで得られます。

2. 法規情報

酸化モリブデン(VI)と酸化モリブデン(IV)はともに、以下の国内法令に指定されています。

  • 労働安全衛生法
    名称等を表示すべき危険物及び有害物 (法57条、施行令第18条) 、名称等を通知すべき危険物及び有害物 (法第57条の2、施行令第18条の2別表第9) No. 603
  • 化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法)
    第1種指定化学物質 (法第2条第2項、施行令第1条別表第1)

個別のものとして酸化モリブデン(VI)は、以下の国内法令にも指定されています。

  • 改正化学物質排出管理促進法
    第1種指定化学物質 (法第2条第2項、施行令第1条別表第1)
  • 水質汚濁防止法
    指定物質 (法第2条第4項、施行令第3条の3)
  • 大気汚染防止法
    有害大気汚染物質

3. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い時の対策
酸化モリブデン(VI)は発がんのおそれの疑いや生殖機能や胎児への悪影響のおそれの疑い、長期または反復した暴露による呼吸器系や男性生殖器、腎臓などの臓器への障害を引き起こす恐れがあります。

取り扱う際は、皮膚や眼との接触を避けるため、保護手袋と袖の長い作業衣、保護眼鏡を着用します。取り扱い後には、顔や手など暴露した皮膚を洗浄してください。

火災の場合
熱分解で、刺激性で有毒なガスと蒸気を放出することがあります。現場状況と周囲の環境に適した消火方法を取ってください。使用できない消火剤は、特にはありません。

保管する場合
メーカーから供給された容器に密閉し、直射日光の当たらない涼しい場所に保管します。保管場所は施錠してください。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1313-27-5.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-0335JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Molybdenum-trioxide
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/29320

酢酸イソプロピル

酢酸イソプロピルとは

酢酸イソプロピル (英: Isopropyl acetate) とは、無色透明液体の有機化合物です。

IUPAC名はエタン酸イソプロピル (英: propan-2-yl acetate) 、別名として、酢酸1-メチルエチルエステル (英: 1-Methylethyl acetate) 、2-アセトキシプロパン (英: 2-Acetoxypropane) 、酢酸2-プロピル (英: 2-Propyl acetate) とも呼ばれます。

酢酸イソプロピルの使用用途

1. 溶媒

酢酸イソプロピルは、さまざまな有機溶剤に溶けるため、溶媒として広く利用されています。

  • 接着剤溶剤
    樹脂の溶解や粘度調整に有用。
  • 塗料用・印刷インキ用溶剤
    沸点が低く、樹脂への溶解性が高いため、塗布後の乾燥性に優れる。
  • 有機合成化学実験
    ほとんどの有機溶剤と混和するため、反応溶剤や抽出溶剤、精製溶剤として有用。

2. 香料・フレーバー

ベリーや果実、洋酒系の食品香料や香水の成分として使用されています。希釈すると、リンゴのような甘いフレーバーを持つため、フルーツ系の食品フレーバーとしても使われます。

酢酸イソプロピルの性質

化学式はC5H10O2で表され、分子量は102.13です。CAS番号は108-21-4で登録されています。融点は-73 °C、沸点は89 °Cで、常温で液体です。密度は、0.870〜0.876 g/ml (20℃) です。

揮発性と独特な果実のような芳香を持つ液体で、エタノールアセトン、エーテルなど多くの有機溶媒に溶けやすく、水にはあまり溶けません。水へは、27°Cで4.3g/100 mlの溶解性を示します。

酢酸イソプロピルは4°Cに引火点を持つ、引火性の高い液体です。空気中で鉄と接触すると、徐々に分解して酢酸とイソプロパノールを生成します。また、硝酸などの強酸、強アルカリ、強酸化剤と反応して、火災や爆発を引き起こす可能性があります。

酢酸イソプロピルのその他情報

1. 酢酸イソプロピルの製造法

酢酸イソプロピルは、触媒存在下、酢酸とイソプロパノールを縮合することで生成されます。また、酸性イオン交換樹脂触媒の存在下、プロピレンと酢酸から合成する方法も知られています。

2. 法規情報

酢酸イソプロピルは、以下の国内法令に指定されています。

  • 消防法
    危険物第四類 第一石油類 危険等級Ⅱ
  • 労働安全衛生法
    名称等を表示すべき危険物及び有害物 (法57条、施行令第18条)
    名称等を通知すべき危険物及び有害物 (法第57条の2、施行令第18条の2別表第9) No. 182
    第2種有機溶剤等 (施行令別表第6の2・有機溶剤中毒予防規則第1条第1項第4号)
    作業環境評価基準 (法第65条の2第1項)
    危険物・引火性の物 (施行令別表第1第4号)
  • 危険物船舶運送及び貯蔵規則
    引火性液体類 (危規則第3条危険物告示別表第1)
  • 航空法
    引火性液体 (施行規則第194条危険物告示別表第1)
  • 海洋汚染防止法
    施行令別表第1有害液体物質Z類物質
  • 大気汚染防止法
    揮発性有機化合物に該当する主な物質

3. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い時の対策
強酸化剤は、混触禁止物質です。取り扱い時や保管時に、近くに置かないようにしてください。引火性が高いため、熱や高温のもの、火花、裸火、その他の着火源には近づけないようにしてください。

火災の場合
燃焼すると、一酸化炭素 (CO) や二酸化炭素 (CO2) などの有毒なガスと蒸気を生成することがあります。二酸化炭素 (CO2) 、泡、粉末消火剤、砂などを用いて消火してください。

吸入した場合
吸入すると有害で、呼吸器への刺激のおそれ、眠気やめまいが発生するおそれがあります。必ず、局所排気装置内で使用してください。

吸引してしまった場合は、空気の新鮮な場所に移し、呼吸しやすい姿勢で休息させます。気分が悪い時は、医師の診察を受けてください。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/108-21-4.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-0480JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Isopropyl-acetate

過酸化カルシウム

過酸化カルシウムとは

過酸化カルシウムの構造

図1. 過酸化カルシウムの構造

過酸化カルシウム (英: Calcium peroxide) とは、無機化合物の1種で、化学式CaO2で表されるカルシウムの過酸化物です。

過酸化カルシウムは様々な分野で使用されている物質ですが、消防法において危険物第1類の酸化性固体・無機過酸化物に指定されています。また、過酸化カルシウム自体は不燃性の物質ですが、細かく分解された有機物と混合すると爆発する危険があります。

別名には、カルシウムペルオキシド、ペルオキシカルシウム、二酸化カルシウムなどの名称があり、CAS登録番号は1305-79-9です。

過酸化カルシウムの使用用途

過酸化カルシウムの主な使用用途は、殺虫・殺菌剤、土壌改良、ゴム安定剤、酸化剤、ガラス・セメント、石油精製などです。農業分野でよく利用されています。

1. 農業用途

過酸化カルシウムは、土壌や地下水において炭化水素を分解したり、嫌気性生物を抑えて環境を浄化する働きを持つ物質です。集中的な農業の後や洪水などで栄養分や酸素が枯渇した土壌に対して、過酸化カルシウムを用いることで活性化させられます。これは、過酸化マグネシウムと同様の働きです。

また、土壌だけでなく、汚染などにより生存不能となった湖沼や池などにおいて、過酸化カルシウムによって発生させた酸素が、水中の酸素含有量を回復させる可能性があります。

2. それ以外の分野

過酸化カルシウムは、酸と反応して、過酸化水素を発生させるという性質があるため、漂白剤としても使用されている物質です。多くの製紙業界で使われています。

歯科用薬品としての用途もある他、食品用途では、食品添加物として小麦粉の漂白やパンの水分調整剤として使用される場合がある物質です。養殖業では農業用途と同様に水質浄化に使用されます。

過酸化カルシウムの性質

過酸化カルシウムの化学反応

図2. 過酸化カルシウムの化学反応

過酸化カルシウムは、分子量72.076、融点257℃、沸点285℃であり、常温での外観は白色、又は黄色味を帯びた粉末です。臭いはありません。酸化性のある固体です。

水には溶けにくいですが、酸にはよく溶けます。水に触れると酸素を発生しながら加水分解する一方、酸との反応では、過酸化水素を発生させます。275℃で爆発的に分解して、酸素が発生するという報告もあります。密度は2.92g/mL、酸解離定数pKaは12.5です。

過酸化カルシウムの種類

過酸化カルシウムは、主に研究開発用試薬製品として販売されることの多い物質です。容量の種類には、100g、250g、500g、1kgなどがあり、実験室で取り扱いやすい小容量を中心としつつも試薬製品としては比較的大きめの容量まで提供されています。

通常、純度は50-75%程度であり、不純物として水酸化カルシウムを含みます。常温で取り扱い可能な試薬製品です。

過酸化カルシウムのその他情報

1. 過酸化カルシウムの合成

過酸化カルシウムの生成

図3. 過酸化カルシウムの生成

過酸化カルシウムは、水酸化カルシウム過酸化水素との反応によって得ることが可能です。

2. 過酸化カルシウムの有害性

過酸化カルシウムは物理化学的危険性や健康に対する有害性が指摘されている物質です。GHS分類では下記のように分類されています。

  • 酸化性固体: 区分2
  • 眼に対する重篤な損傷・眼刺激性: 区分1

取り扱いの際は適切な局所排気装置や全体換気を設置し、保護メガネや保護衣などの適切な個人用保護具を着用することが必要です。また、熱から遠ざけ、有機物との混合を避けるための対策を行うことも重要です。

3. 過酸化カルシウムの法規制情報

過酸化カルシウムは前述の有害性のため、法令によって規制を受ける物質です。労働安全衛生法では、危険物・酸化性の物に指定されており、消防法では 第1類酸化性固体、無機過酸化物に指定されています。

船舶安全法や航空法でも指定を受ける物質です。法令を遵守して適切に取り扱うことが必要といえます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1305-79-9.html

過炭酸ナトリウム

過炭酸ナトリウムとは

過炭酸ナトリウムとは、炭酸ナトリウム過酸化水素が混合された付加化合物です。

ペルオキソ炭酸ナトリウムとも呼ばれ、白色の結晶性粉末で水に可溶です。

消防法の危険物第1類の酸化性固体・無機過酸化物また、毒劇法の劇物に指定されています。過炭酸ナトリウム自体は、不燃性の物質ですが、水と接触すると、分解し、火災や爆発の危険が生じます。50℃を超えると、自己加速分解により、発熱しながら、酸素と水蒸気が放出されます。

強力な酸化力を有するため、酸素系漂白剤粉末タイプの主成分として、広く利用されています。

過炭酸ナトリウムの使用用途

過炭酸ナトリウムには、他の物質を強く酸化させるという性質を有しており「漂白」「除菌」「消臭」という特徴があります。漂白剤には、酸素系と塩素系があります。過炭酸ナトリウムは、塩素を発生させないため、需要が大きく伸びています。

1. 漂白剤

家庭用、クリーニング店の衣料品の漂白剤として使用されています。塩素系の漂白剤と比較して、繊維の痛みや不快な臭いがありません。

2. 洗浄剤

住宅用、パイプ配管、医療器具などの洗浄剤として利用されています。

3. 除菌漂白洗浄剤

オムツ用、義歯用などに使われています。

4. 工業用処理剤

繊維漂白剤、公害・排水処理剤、半導体製造工程における洗浄剤として、工業分野で広く利用されています。

その他、緊急用酸素ガスなどの「ガス発生剤」「酸化剤」として、毛髪染色発色剤としても使われています。

過炭酸ナトリウムの性質

常温で安定な白色の結晶性粉末で水によく溶けます。目立ったにおいはありません。過炭酸ナトリウムの化学式は2Na2CO3・3H2O2です。水に溶けると、炭酸ナトリウムと過酸化水素に解離します。過炭酸ナトリウムの3%水溶液のpHは、約10.0〜11.0です。過酸化水素はアルカリ性の溶液中で活性酸素と水に分解され、漂白作用を示します。

強力な酸化剤であり、可燃性物質や還元性物質と激しく反応することがあります。過炭酸ナトリウムはステンレス以外の金属と反応し、銅や亜鉛、アルミニウムなどの金属を腐食します。注意して取り扱い、熱や火源から離れた乾燥した冷暗所に保管してください。

過炭酸ナトリウムの構造

分子構造は、炭酸塩分子 (CO3) に結合した2つのナトリウム原子 (Na) で構成され、次に過酸化水素分子 (H2O2) に結合します。

この構造では、ナトリウム原子は正に帯電したイオン (Na+) であり、炭酸塩と過酸化水素分子は負に帯電しています。

過炭酸ナトリウムのその他情報

過炭酸ナトリウムの製造方法

過炭酸ナトリウムの製造方法は、湿式法と乾式法に大別されます。湿式法は炭酸ナトリウムを水性ビヒクル中で過酸化水素と反応させた後、生成した過炭酸ナトリウムの結晶を乾燥させる方法です。乾式法は炭酸ナトリウム水溶液を過酸化水素溶液とスプレーで接触させた後、過炭酸ナトリウムを熱風で乾燥させる方法です。

製造するにあたり過炭酸ナトリウムを安定化させる方法としては、炭酸ナトリウム水溶液に塩類を添加し、過炭酸ナトリウムに含まれる不純物を反応前に析出させて除去またはキレート剤とし、金属と錯化合物を形成する方法が一般的です。

過炭酸ナトリウムの一般的な使用

過炭酸ナトリウムは、酸化系漂白剤として販売されています。また、家庭用のアルカリ性の洗浄剤として、「重曹」と「セスキ炭酸ナトリウム」とよく比較されます。過炭酸ナトリウムは重曹、セスキ炭酸ナトリウムと比較して使用時のpHが高く、洗浄力が高いです。茶しぶや洗濯槽、排水溝パイプの汚れ、衣類の黄ばみに効果を発揮します。

過炭酸ナトリウムと過酸化ナトリウムの比較

またよく似た名前の物質として、過酸化ナトリウム (Na2O2) があります。過酸化ナトリウムは白または黄色の固体で、非常に反応性が高く、水と激しく反応して水酸化ナトリウムと過酸化水素に分解します。毒物及び劇物取締法での扱いにおいて、過炭酸ナトリウムは対象外なのに対し、炭酸化ナトリウムは劇物に指定されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1148.html

過塩素酸リチウム

過塩素酸リチウムとは

過塩素酸リチウムとは、化学式LiClO4で表される無機化合物で、過塩素酸のリチウム塩です。

過塩素酸リチウムは、リチウムクロリドと過塩素酸ナトリウムとの反応により、生成されます。水や有機溶剤に良く溶けることが特徴の1つです。

また、過塩素酸塩に共通する酸化剤としての性質と、水溶液にしたときにイオン半径が大きい陰イオンとなり、水分子のネットワークを乱すカオトロピックイオンとしてふるまう性質を有しています。

なお、CAS登録番号は無水物が7791-03-9、三水和物が13453-78-6です。

過塩素酸リチウムの使用用途

1. リチウムイオン電池

過塩素酸リチウムの最も重要な用途は、リチウムイオン電池の製造に使用される電解質です。この用途は、高い溶解度を有することと、電池に応用できるリチウムイオンを含む塩であることに基づいています。また、リチウム硫黄電池の電解質としても同様に使用されます。

2. 導電性付与剤

その他の用途で有力なものは、ポリマーに導電性を付与する添加剤 (導電性付与剤) です。この用途に寄与する特徴は強酸と強塩基から成る塩であることと、溶解度が高いことです。

3. 触媒

主にリチウムイオンがルイス酸として働く触媒として有機化学反応に用いられます。ここでも有機溶媒への溶解度が高い点は使いやすさにつながっています。アルデヒドとα、β不飽和カルボニルの結合反応、エポキシドの無溶媒チオール開裂、アルコールおよびフェノール類のアシル化などにおける触媒が使用例です。

4. 酸素供給源

分解して酸素を発生する性質を利用して、化学的酸素発生器の酸素の供給源としても使用されています。過塩素酸リチウムは無水物の質量の約60%が酸素であり、効率的に酸素が得られるため、酸素供給源としては魅力的です。

5. カオトロピック剤

高濃度の過塩素酸リチウムの溶液は、タンパク質を変性させるカオトロピック剤としても使われています。

過塩素酸リチウムの性質

1. 外観・溶解性・結晶

過塩素酸リチウムには無水物と三水和物があります。いずれも白色であり、無水物は結晶または結晶性粉末、三水和物は結晶です。過塩素酸リチウム三水和物は潮解性があります。水溶液からは三水和物の結晶として析出します。過塩素酸リチウムは無臭です。

無水物の融点は236℃、三水和物の融点は75℃です。水に可溶で、エタノール、アセトン、エーテル、酢酸エチルなどの溶媒にも可溶です。水に対しては25℃で37.5重量%になるほどの高い溶解度を有しています。高い溶解度が利用され、さまざまな分野で用いられています。

2. 酸化力

過塩素酸リチウムは溶液として用いられることが多く、過塩素酸イオンは希薄溶液では安定ですが、過塩素酸塩は一般に酸化剤です。

過塩素酸塩の酸化力の源は、含まれる塩素が塩素原子の最高酸化状態 (7価) であることです。この塩素原子は自身が還元され、周囲の物質を酸化する性質を持ちます。

過塩素酸リチウムのその他情報

1. 加熱したときの性質

加熱していくと、約400℃で塩化リチウムと酸素に分解されます。結晶は強い酸化剤であり、有機物や還元剤と反応をすることで火災の原因となるため、これらを避けて保管することが必要です。

また、火災時には熱分解して酸素を放出するため、火災を拡大する性質があります。

2. 危険性・有害性

GHS分類で酸化性固体、皮膚腐食性/刺激性物質、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性物質、気道刺激性物質に分類されています。また、生殖毒性 (区分1A) が知られています。

2. 関係法令

消防法の危険物第一類の酸化性固体・過塩素酸塩類に指定されています。加熱・衝撃などにより、酸素を放出して分解し、可燃物の燃焼を助長します。分解が激しい場合には、爆発することもあり取り扱いに注意が必要です。

労働安全衛生法で危険物・酸化性の物に、危険物船舶運送及び貯蔵規則で酸化性物質類・酸化性物質に、航空法で酸化性物質類・酸化性物質にそれぞれ該当しています。化学物質排出管理促進法では、第1種指定化学物質です。毒劇物には該当せず、PRTR法や輸出貿易管理令にも該当していません。

参考文献
http://www.kishida.co.jp/product/catalog/msds/id/7338/code/LBG-45163j.pdf