酸化モリブデン

酸化モリブデンとは

酸化モリブデン (英: Molybdenum oxide) とは、遷移金属酸化物です。

酸化数によって、酸化モリブデン(VI)と酸化モリブデン(V)、酸化モリブデン(IV)が存在します。このうち酸化モリブデン(VI)は、モリブデン化合物の中で最も生産量の多い薬品です。

酸化モリブデン(VI)は、別名として三酸化モリブデン (英: Molybdic trioxide) やモリブダイト (英: Molybdite) 、モリブデン酸無水物 (英: Molybdic anhydride) とも呼ばれます。酸化モリブデン(V)の別名は、五酸化二モリブデンなどです。

酸化モリブデン(IV)は、別名として二酸化モリブデン (英: Molybdenum dioxide) やツガリノバイト (英: Tugarinovite) とも呼ばれます。

酸化モリブデンの使用用途

1. 酸化モリブデン(VI)

金属モリブデンの原料
酸化モリブデン(VI)は、金属モリブデン生産の原料として用いられます。高温で酸化モリブデンと水素を反応させると、金属モリブデンと水が生成します。

特殊合金の添加剤
合金鋼ステンレスなどの特殊鋼、特殊合金への添加剤としても、酸化モリブデン(VI)は使用されています。添加された合金は、高硬度で耐熱性と耐蝕性に優れているため、自動車や航空機の部品、建設資材など、多くの分野で重宝される添加剤です。

その他
酸化モリブデン(VI)は腐食防止剤や農薬、陶磁器のうわぐすり、分析化学試薬、酸化触媒などにも用いられます。

2. 酸化モリブデン(IV)

潤滑剤や表面処理剤、潤滑油などに用いられており、電気のよい導体であるため、リチウムイオン二次電池の素材としても使用が期待されています。

酸化モリブデンの性質

1. 酸化モリブデン(VI)

酸化モリブデン(VI)は、化学式はMoO3で、分子量は143.95、CAS番号は1313-27-5で登録されています。融点を795℃、沸点を1,155℃に持つ、常温で白色〜黄色または明るい青色、密度4.69 g/cm3の結晶性粉末です。結晶構造は斜方晶を示します。

配位構造は歪んだ八面体で、中心にあるモリブデンに対し、各頂点に酸素原子が配位し、固相では層を構成しています。水への溶解度は、18℃で1.07g/Lです。酸性の水溶液には溶けませんが、アンモニア水などの塩基性水溶液やアルカリ融解物には可溶です。

2. 酸化モリブデン(IV)

酸化モリブデン(IV)の化学式はMoO2で、分子量は127.94、CAS番号は18868-43-4で登録されています。融点を1,100℃に持つ、常温で茶紫色、密度6.47g/cm3の結晶です。

結晶構造は単斜晶系で歪んだルチル型を示します。配位構造は同じく歪んだ八面体で、モリブデン原子は中心から少しずれた位置に存在します。

酸化モリブデンのその他情報

1. 酸化モリブデンの製造法

酸化モリブデン(VI)
工業的には、二硫化モリブデンを焙焼することにより得られます。実験室レベルでは、モリブデン酸ナトリウム水溶液と過塩素酸を反応させることでも合成可能です。昇華によって精製できます。

酸化モリブデン(IV)
金属モリブデン存在下、酸化モリブデン(VI)を800℃で70時間かけて還元することで得られます。

2. 法規情報

酸化モリブデン(VI)と酸化モリブデン(IV)はともに、以下の国内法令に指定されています。

  • 労働安全衛生法
    名称等を表示すべき危険物及び有害物 (法57条、施行令第18条) 、名称等を通知すべき危険物及び有害物 (法第57条の2、施行令第18条の2別表第9) No. 603
  • 化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法)
    第1種指定化学物質 (法第2条第2項、施行令第1条別表第1)

個別のものとして酸化モリブデン(VI)は、以下の国内法令にも指定されています。

  • 改正化学物質排出管理促進法
    第1種指定化学物質 (法第2条第2項、施行令第1条別表第1)
  • 水質汚濁防止法
    指定物質 (法第2条第4項、施行令第3条の3)
  • 大気汚染防止法
    有害大気汚染物質

3. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い時の対策
酸化モリブデン(VI)は発がんのおそれの疑いや生殖機能や胎児への悪影響のおそれの疑い、長期または反復した暴露による呼吸器系や男性生殖器、腎臓などの臓器への障害を引き起こす恐れがあります。

取り扱う際は、皮膚や眼との接触を避けるため、保護手袋と袖の長い作業衣、保護眼鏡を着用します。取り扱い後には、顔や手など暴露した皮膚を洗浄してください。

火災の場合
熱分解で、刺激性で有毒なガスと蒸気を放出することがあります。現場状況と周囲の環境に適した消火方法を取ってください。使用できない消火剤は、特にはありません。

保管する場合
メーカーから供給された容器に密閉し、直射日光の当たらない涼しい場所に保管します。保管場所は施錠してください。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1313-27-5.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-0335JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Molybdenum-trioxide
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/29320

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