チロシン

チロシンとは

チロシン (英: tyrosine) とは、主に乳製品や豆類に多く含まれている芳香属アミノ酸です。

チロシンは非必須アミノ酸に属し、体内では肝臓の細胞が持つ酵素の働きによって必須アミノ酸のフェニルアラニンから合成されます。神経伝達物質 (ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリンなど) やメラニンの原料となる物質です。甲状腺ではチロシンとヨウ素を材料として、甲状腺ホルモンのひとつであるチロキシンが合成されます。

チロシンの使用用途

チロシンは、食品用途 (食品添加物やサプリメントなど) や医療用途で使用される物質です。

体内で合成でき、食品からも摂取できるため不足することは滅多にありませんが、不規則な食事やストレスなどに伴いチロシンが体内で不足する場合もあります。このような状況ではチロシンから作られる神経伝達物質が不足するため,チロシンを外から補うことが必要です。

チロシンのサプリメントやチロシンを多く含む食品を積極的に摂取することで、神経伝達物質を補充できます。その結果、脳の働きを正常な状態に保つことができます。医療用では、手術を受ける患者に投与する輸液の成分として使用されているアミノ酸です。

チロシンの性質

チロシンの分子式はC9H11NO3で、分子量は181.19です。光沢を有する針状の結晶で、水に難溶です。また、ベンゼン環を含んでいるため、「キサントプロテイン反応」というタンパク質の呈色反応で検出できます。チロシンには光学異性体 (L-チロシン、D-チロシン) があり、CAS登録番号は60-18-4 (L-チロシン) 、556-02-5 (D-チロシン) です。

チロシンの種類

チロシンの光学異性体のうち、多くの生物に含まれているのはL体 (L-チロシン) です。食品添加物や医薬品にもL-チロシンが使用されています。

L-チロシンは様々なメーカーで製造されており、ミリグラム~キログラムの容量で販売されています。アミノ酸のD体は、ごく少数の生物に分布しており、D-チロシンは枯草菌という細菌で産生されるアミノ酸です。国内では1kg、5kg、10kg、25kgの容量で販売されています。

チロシンのその他情報

1. キサントプロテイン反応

ベンゼン環を含むアミノ酸 (チロシンやフェニルアラニン、トリプトファンなど) を検出する反応です。ベンゼン環を含むアミノ酸の水溶液に濃硝酸を加え、煮沸すると溶液の色が黄色になります。その後溶液を冷却し、アンモニア水を加えると溶液の色が橙黄色に変化します。

2. 病気との関連

フェニルケトン尿症
チロシンは、フェニルアラニンヒドロキシラーゼという酵素によってフェニルアラニンがヒドロキシ化されることで作られる物質です。フェニルアラニンヒドロキシラーゼに先天的な異常があると、「フェニルケトン尿症」という病気を発症します。フェニルケトン尿症ではフェニルアラニンが代謝されにくくなることで、チロシンが欠乏します。

白皮症
チロシンはメラニンの原料となる物質です。メラニンが作られる際、まずチロシナーゼという酵素によってチロシンのベンゼン環がヒドロキシ化され、L-ドーパという物質が作られます。チロシナーゼの遺伝子が変異することで白皮症を発生します。白皮症になるとメラニンが産生されにくくなるため、皮膚や毛髪の色が白っぽくなります。


タンパク質に含まれるチロシンは、チロシンキナーゼという酵素によってヒドロキシ基がリン酸エステル化されます。チロシンキナーゼは細胞の増殖を促す働きを持つ物質です。何らかの原因でチロシンキナーゼが常に活性化した状態になると、細胞が異常に増え、癌を発症します。

3. 白髪予防効果

チロシンはメラニンの生成に関わるため、白髪予防にも効果があるとされている物質です。ただし、過剰に摂取するとメラニンの生成により肌のシミが増えるおそれがあるため、注意が必要です。

参考文献
https://jglobal.jst.go.jp/detail
https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc10_hishiryo7_tyrosine_240223.pdf

サッカリン

サッカリンとは

サッカリンの基本情報

図1. サッカリンの基本情報

サッカリン (Saccharin) とは、人工甘味料として用いられる有機化合物です。

化学式 C7H5NO3Sで表記され、ベンゼン環にスルタム環が縮環した骨格を持ちます。o-スルホベンズイミド、o-安息香酸スルフィミド、2-スルホ安息香酸イミドなどの別名があります。CAS登録番号は、81-07-2です。分子量183.18、融点228.8° Cであり、常温では無色透明の結晶か白色の粉末形状です。

わずかに芳香臭を呈します。密度0.828 g/cm3、酸解離定数pKa1.6です。エタノール及びアセトンに溶け、水にわずかに溶ける物質です。

サッカリンの使用用途

サッカリンの主な用途は甘味料です。ショ糖の甘味度を1とした場合、サッカリンの甘味度は200-700であり、一万倍の水溶液でも甘味があるとされています。サッカリン自体は水溶性が低いためチューインガムなどの限られた食品にのみ使われており、一般的には水溶性のナトリウム塩であるサッカリンナトリウムがいろいろな加工食品に用いられています。

サッカリンナトリウムは、歯磨き粉やガム、漬物、菓子など、糖分による腐敗防止の必要性がある医薬品、食品にも使用されています。また、分解されてもブドウ糖が含まれていないために体内で吸収されにくく、ショ糖などの糖類よりも摂取エネルギーが小さい物質です。

糖尿病患者など甘味が制限される食事などに砂糖の代替として使用されたり、ダイエット用食品、飲料に使用されたりしています。

サッカリンの性質

サッカリンの水溶液はショ糖の350倍あるいは200–700倍の甘味を持ち、痺れるような刺激の後味を呈します。ただし、高濃度では苦味を感じるとされています。

通常の保管条件においては安定な物質です。ただし、光によって変質する恐れがあり、強酸化剤との接触を避けることが必要とされています。有害な分解生成物として、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物が挙げられます。

サッカリンの種類

サッカリンは、研究開発用試薬製品や甘味料・食品添加物原料などとして販売されています。研究開発用試薬製品としては、サッカリン単体の他、サッカリンナトリウム水和物として販売されており、容量の種類は25g、500gなどです。通常、どちらも常温で保存可能な試薬製品として販売されています。研究においては、生理作用研究、有機合成原料などの用途です。

甘味料・食品添加物原料製品は、ほとんどがサッカリンナトリウムとして販売されています。容量の種類は、1kg×20 /カートンなどの比較的大きい容量が中心です。工場などを対象とした、産業向けの供給となっています。

サッカリンのその他情報

1. サッカリンの合成

トルエンを原料とするサッカリンの合成

図2. トルエンを原料とするサッカリンの合成

サッカリンは1878年にコールタールの研究から偶然発見された物質です。多くの合成法が報告されています。元はトルエン (コールタールの成分の1つ) から合成されましたが、収率は低く、1950年にアントラニル酸メチルに亜硝酸・二酸化硫黄・塩素・アンモニアを順次作用させる改良合成法が報告されました。その他の合成方法では、2-クロロトルエンを原料とする合成反応などがあります。

 

アントラニル酸メチルを原料とするサッカリンの合成

図3. アントラニル酸メチルを原料とするサッカリンの合成

2.サッカリンの安全性

サッカリンは、1960年代に行われた動物実験の結果から発がん性リスクが示唆されたため、使用禁止となっていた時期がありました。その後行われた様々な試験では発がん性が確認できなかったため、使用禁止が撤回されています。ただし、日本では安全性維持のために、現在でも食品衛生法によって各食品への使用量が制限されています。

サッカリンはこうした規制の対象となった経緯から、多くの食品においては、スクラロース・アセスルファムカリウム・アスパルテームなどの他の人工甘味料に代替されるようになりました。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-0866JGHEJP.pdf

コンドロイチン硫酸ナトリウム

コンドロイチン硫酸ナトリウムとは

コンドロイチン硫酸ナトリウムの構造 (コンドロイチン硫酸ナトリウムA)

図1. コンドロイチン硫酸ナトリウムの構造
(コンドロイチン硫酸ナトリウムA)

コンドロイチン硫酸ナトリウム (Chondroitin Sulfate Sodium SaltもしくはSodium chondroitin sulfateなど) とは、クジラやサメなどの軟骨に合まれる酸性ムコ多糖類であるコンドロイチン硫酸のナトリウム塩です。

コンドロイチン硫酸は、通常プロテオグリカン (特殊な構造をもつ糖とタンパク質の複合体) として存在し、軟骨、皮膚などの結合組織や、脳などあらゆる組織に広く分布しています。保水性、粘性から、関節などではクッション材としても働いています。

その塩であるコンドロイチン硫酸ナトリウムは、医療用医薬品や一般用医薬品などとして利用されている物質です。

コンドロイチン硫酸ナトリウムの使用用途

コンドロイチン硫酸ナトリウムは、医薬品や食品、化粧品などに用いられている物質です。

1. 医薬品

医薬品用途では、医療用医薬品、一般用医薬品共に販売されている薬剤です。医療用医薬品としては、注射液の剤形で腰痛症、関節痛、肩関節周囲炎 (五十肩) の治療に適応がある他、点眼薬として角膜表層の保護に適応があります。

一般用医薬品では、経口薬で関節痛、神経痛に適応がある他、医療用医薬品と同様に角膜表層を保護する点眼薬としても用いられています。

2. 食品

食品用途としては、製造過程の乳化安定剤として、マヨネーズ、ドレッシングなどに用いられます。これは、コンドロイチン硫酸ナトリウムが吸水性および保水性に優れているためです。また、魚臭を消すため魚肉ソーセージに用いられることもあります。

3. 化粧品

化粧品用途では、なめらかな感触をもたらす保湿剤として使用されています。

コンドロイチン硫酸ナトリウムの性質

コンドロイチン硫酸ナトリウムの構造の種類

図2.コンドロイチン硫酸ナトリウムの構造の種類

コンドロイチン硫酸は、D-グルクロン酸 (GlcA) と N-アセチル-D-ガラクトサミン (GalNAc) の2糖の繰り返し構造の糖鎖に対して、硫酸が結合した構造をしています。この2糖単位の繰り返し構造において硫酸基の位置やGlcAのエピ化の有無のバリエーションがあるため、コンドロイチン硫酸には複数種類の異性体が存在します 。

コンドロイチン硫酸ナトリウムは、これらそれぞれが硫酸塩となったものです。

コンドロイチン硫酸の構造

コンドロイチン硫酸ナトリウムの構成単位

図3. コンドロイチン硫酸ナトリウムの構成単位

コンドロイチン硫酸ナトリウムを構成する単糖において、硫酸基は、GalNAc の4位と6位に付加した物が主なものです。コンドロイチン硫酸B (デルマタン硫酸) では、コンドロイチン硫酸の GlcA がエピ化し、イズロン酸となっています。

コンドロイチン硫酸Eでは4位、6位の両方が硫酸化されており、コンドロイチン硫酸Dではグルクロン酸のヒドロキシル基が硫酸化されています。

コンドロイチン硫酸ナトリウムの種類

販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウムの種類は、研究開発用試薬製品、化成品 (医薬品原料) 、医薬品などです。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、0.1g、5g、25gなどの容量の種類があります。また、コンドロイチン硫酸ナトリウムとして販売されているもの以外に、前述のA~Eの種類別に単離されたものが販売されていることがあります。

その場合は、それぞれ「コンドロイチン硫酸Aナトリウム」「コンドロイチン硫酸Bナトリウム」「コンドロイチン硫酸Cナトリウム」「コンドロイチン硫酸Eナトリウム」などの製品名で販売されています。主に細胞生物学や生化学などの分野で使用されている試薬製品であり、ニワトリ軟骨、ブタ皮膚、イカ軟骨などを原料として製造されています。なお、研究開発用製品は臨床用に使用することはできません。

2. 医薬品

医薬品では、200mg注射液や、1%/3%点眼薬などの処方箋医薬品が存在しており、その他に各種の一般用医薬品があります。処方箋医薬品の購入には医師の処方箋が必要です。

参考文献
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C000-133-03A&slIdxNm=28183&slScNm=RJ_01_040&slScCtNm=&slScRgNm=&bcPtn=4

コハク酸

コハク酸とは

コハク酸の構造

図1. コハク酸の構造

コハク酸は、カルボキシル基を二個分子内に有する事から、ジカルボン酸に分類されます。コハク酸という名前は、琥珀の乾留によって発見されたことに由来しています。

本化合物は、さまざまな化合物の合成に幅広く利用されており、重要な化学工業原料として需要が増加しています。工業的には、石油由来の無水マレイン酸を水素化することによって生産されます。コハク酸は、クエン酸サイクルの代謝産物として、生物体内でも生成されます。このことを利用して、細菌やラン藻を用いて石油に由来しないバイオコハク酸を生産する試みが広がっています。

コハク酸の物理化学的諸性質

①名称
和名:コハク酸
英名:succinic acid
IUPAC名:butanedioic acid

②分子式
C4H6O4

③分子量
118.09

④融点
185–187℃

⑤溶媒溶解性
水、エタノールに可溶、ジエチルエーテルに難溶、熱水に易溶。

⑥味
酸味、苦味、うま味

コハク酸の使用用途

コハク酸は幅広い用途に用いられています。
食品業界では、うまみの添加剤や、香料、酸度調整剤などに使用されています。また、工業や医薬品製造においては、ポリエステルやポリウレタンといったポリマーや、樹脂、染料の製造、さまざまな医薬品を合成する際の中間体として使用されています。

1.  独特のうまみ味と食品添加物としての利用

コハク酸は、アサリなどの貝類に含まれるうま味成分として知られています。遊離のカルボン酸よりも、そのナトリウム塩であるコハク酸ナトリウムの方が強いうま味を示します。アルコール発酵によっても生成されるため、ワインやビールの味を構成する成分でもあります。

2. 工業製品、医薬品としての利用

工業的には、さまざまな化合物の合成原料として利用されます。コハク酸から合成される化合物の代表的な例として、生分解性プラスチックであるポリブチレンサクシネートがあります。そのほか、医薬品のpH調整剤、メッキ薬、入浴剤などに用いられることもあります。

3. 緩衝作用とpH調整剤としての利用

コハク酸は有機酸の一種であり、その共役塩基との混合物は緩衝作用を持つ事から、化粧品などのpH調整剤として用いられています。

コハク酸の構造

コハク酸は、構造中にカルボン酸を2つ有するジカルボン酸化合物です。分子式C4H6O4、分子量118.09で表され、IUPAC命名法では、ブタン二酸という名称が与えられています。

コハク酸は、2つのカルボキシル基(-COOH)を持つ4炭素の直鎖状の分子です。
2つのカルボキシル基によって、酸性度が高く、水に溶けやすい性質を持ちます。また、カルボキシル基がプロトンを放出することにより、コハク酸は強い酸として振る舞います。

コハク酸のその他情報

1. コハク酸のTCA回路における役割

コハク酸のTCA回路における反応

図2. コハク酸のTCA回路における反応

コハク酸はTCA回路の重要な中間体であり、酸素呼吸をする多くの生物のエネルギー代謝に深く関わっています。TCA回路においてコハク酸は、コハク酸デヒドロゲナーゼの触媒作用によりフマル酸を与え、この時に補酵素であるFADは還元されてFADH2が生成します(図2)。

2. コハク酸の製造方法

工業生産の分野においては、マレイン酸もしくはその脱水環化物である無水マレイン酸を接触的に水素添加する事で調製します。

また、既述のようにコハク酸はTCA回路の中間体であることから、微生物を用いた発酵生産も可能です。ただし、その生産性は低くこれまで実用化には至っていません。しかし、(財)地球環境産 業技術研究機構(RITE)のグループは、グルタミン 酸生産菌である Corynebacterium glutamicumをメタノリックエンジニアリングの技術を用いて機能改変する事で、コハク酸の発酵生産効率を大幅に上げる事に既に成功しています。他にも、神戸大学のグループは、光合成微生物の一種であるラン藻の遺伝子組み換え体を用いてコハク酸の生産性を大きく向上される事に成功しています。このように、コハク酸の微生物発酵に関してはその開発が進みつつあるといえます。

  • コハク酸が多く含まれる生物、食品
    しじみ、あさり、かき、はまぐり

グルタミン酸

グルタミン酸とは

グルタミン酸とは、体内で合成可能な非必須アミノ酸の1種です。

シナプス間の神経伝達物質としての役割を担います。脳内でグルタミン酸が、その受容体に結合することで受容体を活性化させ、学習の情報を伝達します。また、グルタミン酸は、旨味成分としても有用です。

グルタミン酸の製造方法には、加水分解法や抽出法、化学合成法などいくつか存在します。現在は、サトウキビの糖蜜を発酵菌により発酵させてグルタミン酸を得るアミノ酸発酵法が主流です。

グルタミン酸の使用用途

グルタミン酸の主な使用用途として、調味料とサプリメントが挙げられます。

1. 調味料

グルタミン酸は、旨味成分の1種であるため、グルタミン酸塩であるグルタミン酸ナトリウムがうまみ調味料として製品化され販売されています。

化学調味料の場合は、ナトリウムと結合したグルタミン酸なトリムという水に溶解しやすい状態で、販売されています。グルタミン酸は、昆布などの海藻や白菜、緑茶、トマトなどの植物性食品に豊富に含まれています。

2. サプリメント

グルタミン酸は、脳の神経伝達物質の1つとしての機能に加えて、アンモニアの解毒作用や、筋肉や免疫力を強化するタンパク質の構成成分になるなど、生体にとって重要な機能を担います。

そのため、グルタミン酸不足は、脳の機能低下や排尿阻害につながる可能性があります。グルタミン酸不足を補うことを目的に、サプリメントとして製品化されています。

また、グルタミン酸には、脳の興奮を鎮めるGABAを生成する働きもあります。GABAはアミノ酸の1種で、ストレスを軽減させ、リラックス効果があるため、近年サプリメントや食品に配合されている成分です。

グルタミン酸の性質

グルタミン酸は、非必須アミノ酸の1つで、アラニン、アスパラギン酸、セリンをつくる際ために必要なアミノ酸です。Glu、Eの略号で表わされ、自然界ではL-グルタミン酸として存在しています。CAS登録番号は56-86-0です。

1. 物理的性質

グルタミン酸は、分子式C5H9NO4、分子量147.13の白色無臭の結晶性粉末です。沸点は249℃で、融点、引火点、分解温度はありません。可燃性もないことから、比較的安全に取り扱うことが可能です。

2. 化学的性質

水に溶けにくく、エタノールおよびジエチルエーテルにはほどんど溶けません。混触危険物質は強酸化剤であるため、保管、使用の際は、強酸化剤との接触を避ける必要があります。

熱分解時に、刺激性のある有毒なガスと蒸気を放出する可能性が高いです。局所排気装置の設置された場所で作業を行い、高温での使用は避けます。

グルタミン酸のその他情報

1. グルタミン酸の歴史

グルタミン酸は1866年、ドイツの化学者リットハウゼン氏によって、小麦のタンパク質であるグルテンの加水分解物として発見されました。その後、1908年、東京帝国大学 (現東京大学) 教授であった池田菊苗氏は、グルタミン酸が旨味を持つことを発見しました。そして、グルタミン酸は「甘味、塩味、酸味、苦味」の4つの基本味に加え、5番目の基本味として「旨味」が存在することを発表しました。

また、ナトリウムと結びついた形にすることで、水に溶けやすく、旨味がより増すことも明らかになりました。味の素の創設者である鈴木三郎助氏が、グルタミン酸ナトリウムの商品化に取り組み、1909年に世界初の化学調味料が発売されました。

2. グルタミン酸の安全性

天然のグルタミン酸は、過剰に摂取すると、睡眠障害神経症、幻覚などが生じる危険性があります。また、化学調味料であるグルタミン酸ナトリウムを過剰に摂取すると、頭痛や火照り、手足のしびれが起きるといわれています。

一方で、適切な摂取は人体にとって、脳の働きの活性化、アンモニアの解毒、利尿効果に加え、脂肪の蓄積を抑える効果や、美肌効果、血圧を下げる効果などの研究結果が報告されています。

水や塩などと同様に、過剰摂取すると人体に必要な物質であっても毒となるため、使用時は、用法容量を守る必要があります。

イソフタル酸

イソフタル酸とは

イソフタル酸の構造

イソフタル酸とは、ベンゼン環のメタ位に2つのカルボキシル基が置換した芳香族ジカルボン酸です。

ベンゼン-1,3-ジカルボン酸とも言います。構造異性体として、ベンゼン環のオルト位にカルボキシル基が置換したフタル酸と、パラ位にカルボキシル基が置換したテレフタル酸の2種類が存在します。

イソフタル酸の構造異性体

化学工業用の原料として有用であるため需要が多く、主に異性体が混在する混合キシレンを酸化することにより合成されます。

イソフタル酸の使用用途

イソフタル酸は官能基が2つ存在し、および官能基であるカルボキシル基がアルコールやアミンと脱水縮合することで、容易にエステルやアミドを形成するため、高分子のモノマー原料として用いられます。イソフタル酸を原料とした樹脂は、耐熱性、電気特性、離性性など、優れた特性を持ちます。

数多くの樹脂が開発されており、機能性塗料、可塑剤、自動車、船舶、航空機産業用の素材など、多様な分野で使用されています。イソフタル酸の代表的な使用用途は下記の通りです。

1. 不飽和ポリエステル樹脂

イソフタル酸を用いた不飽和ポリエステル樹脂は、構造異性体であるフタル酸を用いた場合に比べて、耐熱性、耐薬品性、耐水性、機械的強度が優れています。これらの特長を活かして、ゲルコートとして使われるほか、浴槽、防水パン、洗面化粧台、水タンク、浄化槽、パイプ、化学プラント、ヘルメット、ボート、電気部品、自動車部品などのFRP成形品に広く使われています。

また、イソフタル酸の構造異性体であるテレフタル酸を用いたポリエチレンテレフタレート (PET) 樹脂は、イソフタル酸で変性することで透明性が向上します。

2. アルキド樹脂

イソフタル酸をアルキド樹脂、オイルフリーアルキド樹脂に用いると、光沢、密着性、耐候性、耐衝撃性、耐水性の良好な塗膜が得られるので、塗料ベース、印刷インキビヒクルに用いられます。特に、イソフタル酸を使ったオイルフリーアルキド樹脂塗料は、カラートタン、家庭用品、自動車用中塗りに使われています。

3. ポリエステル繊維

イソフタル酸を用いたポリエステル繊維では、原料であるテレフタル酸の一部をイソフタル酸で置換えると、染色性が向上するとともに、耐ピリング性および風合いの良好な繊維が得られます。また、イソフタル酸から合成される5-スルホイソフタル酸ジメチル (またはジエチル) をポリエステル繊維に用いると、カチオン染料で容易に染めることができるので、深みのある色に仕上ります。

4. ポリアラミド繊維

イソフタル酸と芳香族ジアミンから合成されるメタ系アラミド繊維は、耐熱性、防炎性、防食性が優れており、電気絶縁テープ、断熱材、集塵フィルターなどの産業資材や、消防士などの防護服に使われています。

イソフタル酸の特性

化学式はC8H6O4であり、分子量は166.14です。比重は1.53で、無色、無臭の針状結晶です。封管中で測定した融点は347±2℃です。

室温では、水、アセトンエタノールなどの極性溶媒にわずかに溶けます。高温では、水や酢酸によく溶けます。一方で、ベンゼン、トルエン、石油エーテルなどの非極性溶剤には溶けません。

イソフタル酸は、アルコールとの脱水反応によりエステルを生成します。したがって、ポリオールとの脱水反応により、ポリエステル樹脂を生成します。また、イソフタル酸はアミンとも脱水縮合しアミドを生成するため、ヘキサメチレンジアミンのようなアミン類とはポリアミドを生成することが可能です。

イソフタル酸の製法

イソフタル酸の製造方法

主に異性体が混在する混合キシレンを酸化することにより合成されます。高純度なイソフタル酸は、メタキシレンの酸化により得られます。

酸化方法としては、アモコ法、硫黄-アンモニア酸化法、硝酸酸化法などがあります。アモコ法は、旧アモコ・ケミカルズ社が実施した方法です。触媒として可変原子価をもつ重金属の有機酸塩と臭素を用い、酢酸溶媒中でメタキシレンを空気酸化します。

硫黄-アンモニア酸化法は、アンモニア水溶液中で、硫黄または硫化物を酸化剤として用 い、メタキシレンを酸化する方法です。また、硝酸酸化法は、メタキシレンを硝酸酸化してイソフタル酸を得る方法で、歴史的にはもっとも古い方法です。

核磁気共鳴装置

核磁気共鳴装置とは

核磁気共鳴装置 (英: Nuclear Magnetic Resonance) とは、原子の化学的環境 (周囲にどのような元素が存在するか、結合状態はどうなっているか)を明らかにすることで、測定対象となる化合物の構造を特定する装置です。

核磁気共鳴装置で得られた結果は、化学シフト (基準物質と測定物質のNMRシグナルの周波数差)を横軸に取り、強度を縦軸に取ります。

NMRの測定結果例

図1. NMRの測定結果例

測定時に評価したい元素種を指定することで、複雑な構造の化合物でも、元素毎に情報を収集可能です。また、試料は液体、固体、ゲル状物質など幅広く分析できます。

構造解析に用いられる装置は他にもラマン分光光度計や、電子顕微鏡がありますが、核磁気共鳴装置は簡易かつ非破壊で分析が可能です。さらに、部分的な情報ではなく、隣接原子種を含めた化合物全体に関する構造情報が得られるため多用されています。

核磁気共鳴装置の使用用途

核磁気共鳴装置は、材料分析のみならず、臨床分野でも活用されています。代表的な使用用途は、以下のとおりです。

1. 材料分析

NMRは、樹脂材料やバイオ物質や電池の電解液など、有機物の分析を非常に得意としています。有機材料の構造解析や、劣化した材料の劣化原因の分析などに有用です。

例えば、化学合成や抽出・精製により得られた物質の構造を明らかにしたり、対象の物質が高分子成分か低分子成分かを判別したりする際にも利用されます。また、データベース上の標準シグナルと比較することで、物質の純度測定や不純物の同定および定量分析も可能です。

2. 臨床

臨床におけるMRI (Magnetic Resonance Imaging: 磁気共鳴画像) は、NMRと同様の原理に基づいた装置です。MRIは体内の水の空間分布を分析・画像化することで、体内の組織の状態を精密に把握できます。

MRIはCTスキャンと見た目が似ていますが、CTスキャンの様にX線を使わないため、被爆の危険性がありません。また、解像度が高く、CTスキャンでは分からない変化も捉えることができます。

核磁気共鳴装置の原理

1. 原子の核磁気モーメント

核磁気モーメント

図2. 核磁気モーメント

原子核は正の電荷をもっており、自転しています。この自転により磁場が発生するため、各原子は小さな磁石とみなすことができます。この磁場の大きさを核磁気モーメントというベクトル量で表現します。

2. ゼーマン分裂と共鳴現象

ゼーマン分裂

図3. ゼーマン分裂

測定対象となる化合物に強い磁場を与えることで、原子内に存在する原子核が励起状態になります。励起状態では、2つのエネルギー凖位に分かれます。この現象をゼーマン分裂と呼びます。

そこに2つの準位のエネルギー差に等しい電磁波を与えると、特定の環境下の原子と共鳴が起こります。ここでいう共鳴とは、低準位の核磁気モーメントが高準位に励起されることです。どの周波数の電磁気を照射したときに共鳴が起こるか観察することで、対象となる原子の環境を特定できます。

ゼーマン分裂において、それぞれのエネルギー準位を構成する原子核の数に差がある原子は観測が可能です。一方12Cや16Oなどの、質量数と原子番号がともに偶数 (スピン量子数が0) の原子は、核磁気モーメントを持たないため分析ができません。

3. 化学シフト

共鳴周波数は、同一の原子核でも周囲の環境により微妙に変化します。この変化量を化学シフトと呼び、基準物質の共鳴周波数からどれくらい変化しているかをppm単位で表現します。

核磁気共鳴装置のその他情報

核磁気共鳴装置の注意点

核磁気共鳴装置は、強力な磁場を常時発生させているため、周囲の金属類が引き付けられます。また、心臓のペースメーカー、クレジットカードやスマートフォンの破損の危険があります。

磁場を発生させている磁石は熱を帯びるため、極低温の液化ガス (液体ヘリウム) で冷却しています。地震などをきっかけに、磁場の熱が逃げ液化ガスが一度に気化すると窒息性の空間になるため、適切な管理が必要です。

土間鏝

土間鏝とは

土間鏝とは、土間作業(建物などの地面にコンクリートを流し、ならして固める作業)のときにコンクリートを平らにならしたり、表面の仕上げをしたりするときに使うコテの一種で、左官道具の一つです。

よく使われる土間鏝は、厚みと重量があり頑丈なつくりのものが多いです。コンクリートをならしたり、押さえたりするときに土間鏝を使うことで、コンクリートに含まれる粗骨材(砂利)を沈めて表面をなめらかにすることができ、見栄え良く仕上げることができます。

土間鏝の使い方

土間鏝を握るときは、コテの首部分を人差し指と中指で挟んで固定し、親指は柄部分の上部先端の左側に軽く添えます。卵を握るような感覚で、鏝の柄部分と手のひらの間に少し空間ができるように持ちます。鏝を握りこまないようにすることがポイントです。

力を入れて押さえるような作業をするときは、コテの首部分に向かって体重をかけるようにしながら、体全体でコテを使うようにします。

仕上げ作業をするときには、はじめは土間鏝に少し角度をもたせた状態でコンクリートを押さえつけながらならします。徐々にコテ部分を寝かせて動かすことで、表面をなめらかに仕上げることができます。

土間鏝の選び方

土間鏝には、大きさやコテ部分の厚み、素材などに様々なものがあるため、作業する環境や目的に合わせて適切なものを選びます。以下に土間鏝を選ぶときのポイントをまとめます。

  • 大きさ、厚み
    土間鏝の大きさは、コテ部分の縦の長さと先巾、元巾で表されます。作業する面積や場所に合わせて適切な大きさのものを選ぶ必要があります。コテ部分の厚みは一般的に薄い方が、しなりがありきれいに仕上げることができますが、コテ波(ムラ)が発生することがあります。厚みがある方が押さえなどの作業がしやすくなります。
  • コテ部分の素材
    コテ部分が本焼きの場合は、不純物が少なく安定した硬さがあります。使う材料を伸ばしやすいですが、硬さがあるため反りが出づらく材料がくっつきやすい特徴があります。

    コテ部分がステンレスの場合は、強度もあり錆びにくく、手入れも簡単です。ただし滑りが良いため、モルタルを使用した作業にはあまり適していません。

    コテ部分がプラスチックの場合は、押さえの作業時に粗骨材(砂利)を沈ませてコンクリートをならすのに適しています。コテの裏側に溝が入っているものもあります。

柳刃鏝

柳刃鏝とは

柳刃鏝とは、狭い場所や手の入りづらい場所などの塗り仕上げに使うコテの一種で、左官道具の一つです。

名前のとおり、柳の葉のようなかたちをしています。四半鏝と呼ばれることもあります。コテの中でも小型なタイプのため、中塗り鏝を使うような平坦な部分塗りでなく、細かく複雑な部分に土やモルタル、漆喰などを塗るときに便利です。造園施工の現場で、細かい部分の塗面や、敷石、延段などの側面の塗り仕上げをするときにも使われます。

柳刃鏝の使い方

柳刃鏝を握るときは、利き手の親指、人差し指、中指、で柄部分を軽く握り、薬指、小指は柄部分に添える程度にして軽く持ちます。

卵を握るような感覚で、コテの柄部分と手のひらの間に少し空間ができるように持ちます。力を入れて押さえるような作業をするときは、コテの首部分に向かって体重をかけるようにしながら、親指に力を入れて押さえます。

作業が終わった後は、コテについた材料をよく洗い流し、乾いたタオルで水気をよく拭き取ります。

柳刃鏝の選び方

柳刃鏝には、大きさ、コテ部分の素材などにさまざまなものがあるため、作業する環境や目的に合わせて適切なものを選びます。以下に柳刃鏝を選ぶときのポイントをまとめます。

  • 大きさ
    柳刃鏝の大きさは、コテ部分の縦の長さとコテ尻幅、コテ肩幅で表されます。作業する面積や場所に合わせて適切な大きさのものを選ぶ必要があります。
  • コテ部分の素材
    コテ部分が本焼きの場合は、不純物が少なく安定した硬さがあります。硬さがあるため反りが出にくく、モルタルなどの材料がくっつきやすい反面、材料を伸ばしやすい特徴があります。

    コテ部分がステンレスの場合は、強度もあり錆びにくく、手入れも簡単です。ただし滑りが良いため、モルタルを使用した作業にはあまり適していません。

    コテ部分が地金の場合は、鏝あたりが良いため、押さえのときに発生しがちなコテ圧による光ムラなどが起きにくく、ムラのないきれいな仕上げをすることができます。ただしとても柔らかい素材のため、取り扱いには十分注意する必要があり、モルタルを使用した作業には適していません。

ブロック鏝

ブロック鏝とは

ブロック鏝とは、レンガなどの資材を積むときに使うコテの一種で、左官道具の一つです。

コテ部分は二等辺三角形のようなかたちをしているものが多いです。モルタルをブロックにのせる際、効率よく、均等にのせていくことができます。

ブロックの穴へモルタルを流し入れるときは、コテの細長い先端部分を使用することができます。コテの側面は、鏝板の上でモルタルを練る、すくうときや、積んだブロックからはみ出たモルタルを取り除くときなどに使うと便利です。

ブロック鏝の使い方

ブロック鏝を握るときは、レンガ鏝などと同様に、利き手の人差し指、中指、薬指、小指で柄部分を軽く握り、親指は柄部分の上部先端の左側に軽く添えます。卵を握るような感覚で、コテの柄部分と手のひらの間に少し空間ができるように持ちます。

ブロックを積むときにはまず、モルタルを鏝板の上で切るようにして練ります。次に、ブロックの幅にのる量のモルタルをコテの側面を使ってすくい、コテの背部分にのせます。そのあと、コテの背部分が自分側に向くように倒しながらモルタルをブロックに置いていきます。ブロックの二段目以降を積んでいくときは、コテの側面を使って目地払いをします。作業後は、コテ部分についたモルタルをよく洗い流し、乾いたタオルで水気をよく拭き取ります。

ブロック鏝の選び方

ブロック鏝には、大きさ、コテ部分の形状や素材などに様々なものがあるため、作業する環境や目的に合わせて適切なものを選びます。以下にブロック鏝を選ぶときのポイントをまとめます。

  • 大きさ
    ブロック鏝の大きさは、コテ部分の縦の長さと最大幅(すそ巾)で表されます。積みたいブロックのサイズにあわせてブロック鏝も使い分ける必要があります。
  • コテ部分の形状
    コテ部分の形状は、二等辺三角形のような形状をしたものが最も多いですが、その他にも、コテ部分の片側の面積だけを小さくした半型のように特殊な形状をしたものもあります。形状の違いで使い勝手が異なります。
  • コテ部分の素材
    コテ部分が本焼きの場合は、不純物が少なく安定した硬さがあります。使う材料を伸ばしやすいですが、硬さがあるため反りが出づらく材料がくっつきやすい特徴があります。

    コテ部分がステンレスの場合は、強度もあり錆びにくく、手入れも簡単です。ただし滑りが良いため、モルタルを使用した作業にはあまり向いていません。