核磁気共鳴装置とは
核磁気共鳴装置 (英: Nuclear Magnetic Resonance) とは、原子の化学的環境 (周囲にどのような元素が存在するか、結合状態はどうなっているか)を明らかにすることで、測定対象となる化合物の構造を特定する装置です。
核磁気共鳴装置で得られた結果は、化学シフト (基準物質と測定物質のNMRシグナルの周波数差)を横軸に取り、強度を縦軸に取ります。
図1. NMRの測定結果例
測定時に評価したい元素種を指定することで、複雑な構造の化合物でも、元素毎に情報を収集可能です。また、試料は液体、固体、ゲル状物質など幅広く分析できます。
構造解析に用いられる装置は他にもラマン分光光度計や、電子顕微鏡がありますが、核磁気共鳴装置は簡易かつ非破壊で分析が可能です。さらに、部分的な情報ではなく、隣接原子種を含めた化合物全体に関する構造情報が得られるため多用されています。
核磁気共鳴装置の使用用途
核磁気共鳴装置は、材料分析のみならず、臨床分野でも活用されています。代表的な使用用途は、以下のとおりです。
1. 材料分析
NMRは、樹脂材料やバイオ物質や電池の電解液など、有機物の分析を非常に得意としています。有機材料の構造解析や、劣化した材料の劣化原因の分析などに有用です。
例えば、化学合成や抽出・精製により得られた物質の構造を明らかにしたり、対象の物質が高分子成分か低分子成分かを判別したりする際にも利用されます。また、データベース上の標準シグナルと比較することで、物質の純度測定や不純物の同定および定量分析も可能です。
2. 臨床
臨床におけるMRI (Magnetic Resonance Imaging: 磁気共鳴画像) は、NMRと同様の原理に基づいた装置です。MRIは体内の水の空間分布を分析・画像化することで、体内の組織の状態を精密に把握できます。
MRIはCTスキャンと見た目が似ていますが、CTスキャンの様にX線を使わないため、被爆の危険性がありません。また、解像度が高く、CTスキャンでは分からない変化も捉えることができます。
核磁気共鳴装置の原理
1. 原子の核磁気モーメント
図2. 核磁気モーメント
原子核は正の電荷をもっており、自転しています。この自転により磁場が発生するため、各原子は小さな磁石とみなすことができます。この磁場の大きさを核磁気モーメントというベクトル量で表現します。
2. ゼーマン分裂と共鳴現象
図3. ゼーマン分裂
測定対象となる化合物に強い磁場を与えることで、原子内に存在する原子核が励起状態になります。励起状態では、2つのエネルギー凖位に分かれます。この現象をゼーマン分裂と呼びます。
そこに2つの準位のエネルギー差に等しい電磁波を与えると、特定の環境下の原子と共鳴が起こります。ここでいう共鳴とは、低準位の核磁気モーメントが高準位に励起されることです。どの周波数の電磁気を照射したときに共鳴が起こるか観察することで、対象となる原子の環境を特定できます。
ゼーマン分裂において、それぞれのエネルギー準位を構成する原子核の数に差がある原子は観測が可能です。一方12Cや16Oなどの、質量数と原子番号がともに偶数 (スピン量子数が0) の原子は、核磁気モーメントを持たないため分析ができません。
3. 化学シフト
共鳴周波数は、同一の原子核でも周囲の環境により微妙に変化します。この変化量を化学シフトと呼び、基準物質の共鳴周波数からどれくらい変化しているかをppm単位で表現します。
核磁気共鳴装置のその他情報
核磁気共鳴装置の注意点
核磁気共鳴装置は、強力な磁場を常時発生させているため、周囲の金属類が引き付けられます。また、心臓のペースメーカー、クレジットカードやスマートフォンの破損の危険があります。
磁場を発生させている磁石は熱を帯びるため、極低温の液化ガス (液体ヘリウム) で冷却しています。地震などをきっかけに、磁場の熱が逃げ液化ガスが一度に気化すると窒息性の空間になるため、適切な管理が必要です。