イソフタル酸

イソフタル酸とは

イソフタル酸の構造

イソフタル酸とは、ベンゼン環のメタ位に2つのカルボキシル基が置換した芳香族ジカルボン酸です。

ベンゼン-1,3-ジカルボン酸とも言います。構造異性体として、ベンゼン環のオルト位にカルボキシル基が置換したフタル酸と、パラ位にカルボキシル基が置換したテレフタル酸の2種類が存在します。

イソフタル酸の構造異性体

化学工業用の原料として有用であるため需要が多く、主に異性体が混在する混合キシレンを酸化することにより合成されます。

イソフタル酸の使用用途

イソフタル酸は官能基が2つ存在し、および官能基であるカルボキシル基がアルコールやアミンと脱水縮合することで、容易にエステルやアミドを形成するため、高分子のモノマー原料として用いられます。イソフタル酸を原料とした樹脂は、耐熱性、電気特性、離性性など、優れた特性を持ちます。

数多くの樹脂が開発されており、機能性塗料、可塑剤、自動車、船舶、航空機産業用の素材など、多様な分野で使用されています。イソフタル酸の代表的な使用用途は下記の通りです。

1. 不飽和ポリエステル樹脂

イソフタル酸を用いた不飽和ポリエステル樹脂は、構造異性体であるフタル酸を用いた場合に比べて、耐熱性、耐薬品性、耐水性、機械的強度が優れています。これらの特長を活かして、ゲルコートとして使われるほか、浴槽、防水パン、洗面化粧台、水タンク、浄化槽、パイプ、化学プラント、ヘルメット、ボート、電気部品、自動車部品などのFRP成形品に広く使われています。

また、イソフタル酸の構造異性体であるテレフタル酸を用いたポリエチレンテレフタレート (PET) 樹脂は、イソフタル酸で変性することで透明性が向上します。

2. アルキド樹脂

イソフタル酸をアルキド樹脂、オイルフリーアルキド樹脂に用いると、光沢、密着性、耐候性、耐衝撃性、耐水性の良好な塗膜が得られるので、塗料ベース、印刷インキビヒクルに用いられます。特に、イソフタル酸を使ったオイルフリーアルキド樹脂塗料は、カラートタン、家庭用品、自動車用中塗りに使われています。

3. ポリエステル繊維

イソフタル酸を用いたポリエステル繊維では、原料であるテレフタル酸の一部をイソフタル酸で置換えると、染色性が向上するとともに、耐ピリング性および風合いの良好な繊維が得られます。また、イソフタル酸から合成される5-スルホイソフタル酸ジメチル (またはジエチル) をポリエステル繊維に用いると、カチオン染料で容易に染めることができるので、深みのある色に仕上ります。

4. ポリアラミド繊維

イソフタル酸と芳香族ジアミンから合成されるメタ系アラミド繊維は、耐熱性、防炎性、防食性が優れており、電気絶縁テープ、断熱材、集塵フィルターなどの産業資材や、消防士などの防護服に使われています。

イソフタル酸の特性

化学式はC8H6O4であり、分子量は166.14です。比重は1.53で、無色、無臭の針状結晶です。封管中で測定した融点は347±2℃です。

室温では、水、アセトンエタノールなどの極性溶媒にわずかに溶けます。高温では、水や酢酸によく溶けます。一方で、ベンゼン、トルエン、石油エーテルなどの非極性溶剤には溶けません。

イソフタル酸は、アルコールとの脱水反応によりエステルを生成します。したがって、ポリオールとの脱水反応により、ポリエステル樹脂を生成します。また、イソフタル酸はアミンとも脱水縮合しアミドを生成するため、ヘキサメチレンジアミンのようなアミン類とはポリアミドを生成することが可能です。

イソフタル酸の製法

イソフタル酸の製造方法

主に異性体が混在する混合キシレンを酸化することにより合成されます。高純度なイソフタル酸は、メタキシレンの酸化により得られます。

酸化方法としては、アモコ法、硫黄-アンモニア酸化法、硝酸酸化法などがあります。アモコ法は、旧アモコ・ケミカルズ社が実施した方法です。触媒として可変原子価をもつ重金属の有機酸塩と臭素を用い、酢酸溶媒中でメタキシレンを空気酸化します。

硫黄-アンモニア酸化法は、アンモニア水溶液中で、硫黄または硫化物を酸化剤として用 い、メタキシレンを酸化する方法です。また、硝酸酸化法は、メタキシレンを硝酸酸化してイソフタル酸を得る方法で、歴史的にはもっとも古い方法です。

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