コハク酸とは
図1. コハク酸の構造
コハク酸は、カルボキシル基を二個分子内に有する事から、ジカルボン酸に分類されます。コハク酸という名前は、琥珀の乾留によって発見されたことに由来しています。
本化合物は、さまざまな化合物の合成に幅広く利用されており、重要な化学工業原料として需要が増加しています。工業的には、石油由来の無水マレイン酸を水素化することによって生産されます。コハク酸は、クエン酸サイクルの代謝産物として、生物体内でも生成されます。このことを利用して、細菌やラン藻を用いて石油に由来しないバイオコハク酸を生産する試みが広がっています。
コハク酸の物理化学的諸性質
①名称
和名:コハク酸
英名:succinic acid
IUPAC名:butanedioic acid
②分子式
C4H6O4
③分子量
118.09
④融点
185–187℃
⑤溶媒溶解性
水、エタノールに可溶、ジエチルエーテルに難溶、熱水に易溶。
⑥味
酸味、苦味、うま味
コハク酸の使用用途
コハク酸は幅広い用途に用いられています。
食品業界では、うまみの添加剤や、香料、酸度調整剤などに使用されています。また、工業や医薬品製造においては、ポリエステルやポリウレタンといったポリマーや、樹脂、染料の製造、さまざまな医薬品を合成する際の中間体として使用されています。
1. 独特のうまみ味と食品添加物としての利用
コハク酸は、アサリなどの貝類に含まれるうま味成分として知られています。遊離のカルボン酸よりも、そのナトリウム塩であるコハク酸ナトリウムの方が強いうま味を示します。アルコール発酵によっても生成されるため、ワインやビールの味を構成する成分でもあります。
2. 工業製品、医薬品としての利用
工業的には、さまざまな化合物の合成原料として利用されます。コハク酸から合成される化合物の代表的な例として、生分解性プラスチックであるポリブチレンサクシネートがあります。そのほか、医薬品のpH調整剤、メッキ薬、入浴剤などに用いられることもあります。
3. 緩衝作用とpH調整剤としての利用
コハク酸は有機酸の一種であり、その共役塩基との混合物は緩衝作用を持つ事から、化粧品などのpH調整剤として用いられています。
コハク酸の構造
コハク酸は、構造中にカルボン酸を2つ有するジカルボン酸化合物です。分子式C4H6O4、分子量118.09で表され、IUPAC命名法では、ブタン二酸という名称が与えられています。
コハク酸は、2つのカルボキシル基(-COOH)を持つ4炭素の直鎖状の分子です。
2つのカルボキシル基によって、酸性度が高く、水に溶けやすい性質を持ちます。また、カルボキシル基がプロトンを放出することにより、コハク酸は強い酸として振る舞います。
コハク酸のその他情報
1. コハク酸のTCA回路における役割
図2. コハク酸のTCA回路における反応
コハク酸はTCA回路の重要な中間体であり、酸素呼吸をする多くの生物のエネルギー代謝に深く関わっています。TCA回路においてコハク酸は、コハク酸デヒドロゲナーゼの触媒作用によりフマル酸を与え、この時に補酵素であるFADは還元されてFADH2が生成します(図2)。
2. コハク酸の製造方法
工業生産の分野においては、マレイン酸もしくはその脱水環化物である無水マレイン酸を接触的に水素添加する事で調製します。
また、既述のようにコハク酸はTCA回路の中間体であることから、微生物を用いた発酵生産も可能です。ただし、その生産性は低くこれまで実用化には至っていません。しかし、(財)地球環境産 業技術研究機構(RITE)のグループは、グルタミン 酸生産菌である Corynebacterium glutamicumをメタノリックエンジニアリングの技術を用いて機能改変する事で、コハク酸の発酵生産効率を大幅に上げる事に既に成功しています。他にも、神戸大学のグループは、光合成微生物の一種であるラン藻の遺伝子組み換え体を用いてコハク酸の生産性を大きく向上される事に成功しています。このように、コハク酸の微生物発酵に関してはその開発が進みつつあるといえます。
- コハク酸が多く含まれる生物、食品
しじみ、あさり、かき、はまぐり