オゾン

オゾンとは

酸素分子とオゾン

図1. 酸素分子とオゾン

オゾン (O3) とは、3個の酸素原子からなる酸素 (O2) の同素体です。

ギリシャ語の「ozein (臭う) 」に由来する名前の通り、オゾンは青臭い特有の刺激臭をもった気体です。紫外線や雷の放電などの強い刺激が酸素分子に与えられることにより作られるので、自然環境中にも存在して、大気の自浄作用 (殺菌・脱臭など) を担っている言われています。

オゾンの生成と消滅図2. 成層圏大気中でのオゾンの生成と消滅

地表付近の清浄な空気中でのオゾンは 0.1ppm 以下の低濃度です。一方、成層圏 (約 10~50km 上空) にはオゾン濃度が 2~8ppm と高いオゾン層があり、太陽光中に含まれる有害な紫外線のほとんどを吸収して、地上の生態系を保護しています。もし、このオゾン層がなくなれば、太陽からの強力な紫外線が直接降り注ぐ陸上では生命が存在できません。

オゾンの使用用途

オゾンは、上・下水の処理やし尿処理、医療現場、食品製造や貯蔵現場、畜産や水産現場、飲食店やホテル、スーパーマーケット、保育園、一般家庭など、多種多様な場面での殺菌や消臭に利用されています。

空気中に多量に存在する酸素を原料とするため、装置と空気さえあればどのような場所でもオゾンを製造可能です。また、巨大な工業用オゾン発生装置から電池で作動するポータブルな装置まで、さまざまなオゾン発生装置が市販されています。

そのため、オゾンは誰でも手軽に自家製造できると言っても過言ではありません。

オゾンの性質

常温常圧下では、オゾンは気体として存在します。オゾンの沸点は -112℃で、比重は空気の 1.66倍 (0℃・1気圧) と重く、水への溶解度は 0.57g/L (20℃ ・1気圧) で、酸素の約 10倍です。

1. 酸化力

オゾンは非常に不安定な気体であるため、反応相手に対して酸素原子 (O) を与える強い力 (酸化力) を発揮し、反応対象がない場合でも、常温で徐々に分解して酸素に変化します。天然に存在する酸化剤の中では、オゾンの酸化力 (酸化還元電位) は、フッ素に次いで高く、過酸化水素・次亜塩素酸・塩素などを上回っています。

従って、ほとんどの有機物や金属をオゾンによって酸化することが可能です。

2. 消臭・殺菌効果

有害物質の酸化

図3. オゾンによる有害分子の無害化

オゾンはその強力な酸化作用により、相手が有機物か無機物かを問わず、酸化されうる化学物質と反応して相手を分解することで、消臭や無毒化を行います。臭気成分の多くは酸化されやすい化学組成をもっているため、オゾンによる脱臭が大変効果的です。

また、オゾンは細菌の細胞膜を破壊して死滅させたり、ウイルスを不活化させることができます。水に溶けた状態での殺菌力に関する研究報告によると、オゾンは塩素の約 1/10 程度の低濃度で同等の効果を発揮します。

オゾンのその他情報

1. オゾンの利点

  • 耐菌性を作らない。
  • 気体のため空気中に拡散して、臭気や VOC などの有害な気体を分解することができる。
  • 繊維中に浸透して色素を分解することができるので、漂白効果がある。
  • オゾンが大量に大気中に放出されたとしても、酸素に変化するか反応相手の一部と結びついた酸化物となり、毒性のある副次物を残さない。
  • 空気中の酸素を原料にできるので、製造装置さえあれば、どのような場所でも任意の量を造ることができる。
  • 濃度の制御が容易で、他の酸化漂白剤に比べて安全。
  • 相手が固体の場合は、反応が表面に限定され内部を変質させることがない。
  • ホルマリンのように臭気を残すことがない。

2. オゾンの毒性

人が高濃度のオゾンに暴露された場合、オゾンは水に吸収されにくいため、気管支や肺の深部にまで到達することがあります。強い酸化力を持つオゾンが鼻や喉の粘膜に刺激を与えて、ぜん息の発作や気管支炎等の呼吸器系疾患を引き起こしたり、眼の粘膜などに障害を与えたりする可能性も高いです。

オゾンは、光化学オキシダント (Ox) の主な成分です。葉の気孔から空気を取り込む植物に対しては、その細胞組織を破壊して成長阻害や老化などの影響を与えます。また、ゴムやプラスチックなどの非生物に対しても、劣化促進作用のあることが知られています。

参考文献
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/24823

エリスリトール

エリスリトールとは

エリスリトールの基本情報

図1. エリスリトールの基本情報

エリスリトールとは、化学式がC4H10O4で表される、天然の糖アルコールの1種です。

エリスリトール以外の天然の糖アルコールの具体例として、キシリトールやソルビトールなどが挙げられます。エリスリトールは果実やキノコの他、ワイン、醤油、清酒、味噌などの発酵食品に含まれています。

工業的には、トウモロコシや小麦のデンプンを原料として、酵母を用いた発酵により生産可能です。甘味度は砂糖の75~80%ほどです。厚生省のエネルギー評価法では、カロリーがゼロと認められています。

エリスリトールの使用用途

エリスリトールにはカロリーがほとんどなく、砂糖と置き換えると、肥満や血糖値の低減に効果的です。そのため、主に砂糖の代替甘味料として使用されています。

エリスリトールを含む一般的な食品の例に、キャンディ、ガム、清涼飲料水などが挙げられます。特定健康食品として虫歯の発生低減を目的に使用されたり、糖尿病患者等、病者用食品の甘味料として利用可能です。

さらに、放熱効果があるため、化粧品成分として化粧水など、保湿調整にも用いられています。

エリスリトールの性質

エリスリトールの融点は121°C、沸点は329〜331°Cであり、無色の固体です。エリスリトールは溶解によって熱を吸収するため、強力な冷却作用を有します。

エリスリトールはエリトリトールとも呼ばれ、示性式はHO(CH2)(CHOH)2(CH2)OHと表されます。モル質量は122.12g/mol、密度は1.45g/cm3です。

エリスリトールのその他情報

1. エリスリトールの製造

工業的にエリスリトールは、まずトウモロコシからデンプンの加水分解によって、グルコースを得ます。そして、ブドウ糖をカンジダ・マグノリアエ (英: Candida magnoliae) 、オーレオバシディウム (英: Aureobasidium) 、モニリエラ・トメントサ・バール・ポリニス (英: Moniliella tomentosa var. pollinis) などの菌株によって発酵させると、エリスリトールを製造可能です。

ヤロウイア・リポリティカ (英: Yarrowia lipolytica) の遺伝子操作された突然変異体は、発酵によってエリスリトールを生産可能です。グリセロールを炭素源として、高浸透圧によって収量を最大62%に増加できます。

2. エリスリトールの異性体

エリスリトールの異性体

図2. エリスリトールの異性体

トレイトール (英: Threitol) は、エリスリトールのジアステレオマーです。化学式がC4H10O4の4炭素の糖アルコールです。主に、各種化合物の合成中間体として使用されています。融点は88〜90°C、沸点は331°Cであり、密度は1.0151g/cm3です。

生体内でトレイトールは、食用キノコのナラタケ (英: Armillaria mellea) に含まれています。アラスカカブトムシ (英: Upis ceramboides) にも存在し、凍結保護剤 (凍結防止剤) として利用可能です。

3. エリスリトールの関連化合物

エリスリトールの関連化合物

図3. エリスリトールの関連化合物

ペンタエリトリトール (英: pentaerythritol) も、エリスリトールと同じく4価アルコール類の1種であり、糖アルコールに分類されています。工業的に、ロジンエステル、合成潤滑油、アルキド樹脂、爆薬などの原料に利用可能です。

四硝酸エリスリトール (英: Erythritol tetranitrate) は、濃硫酸と硝酸塩を混合するか、硫酸と硝酸の混合物を使用して、エリスリトールのニトロ化によって作られます。高性能爆薬のペンスリット (英: penthrite) に似ており、摩擦や衝撃に敏感な爆発性化合物です。他の爆薬と混ぜて使用され、容易に爆発するため、取り扱いに注意する必要があります。

参考文献
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/222285

イソプレン

イソプレンとは

イソプレンとは、2個の二重結合を有する炭化水素です。

自然界では糖から生成した中間物質であるメバロン酸から生成します。イソプレンの重合体であるポリイソプレンは、天然では熱帯に産するゴムノキの樹液から得られ、天然ゴムとも呼ばれます。

工業的にイソプレンは、石油由来のナフサを熱分解した副生成物として生産されており、自動車のタイヤに用いられる合成ゴムの1種であるポリイソプレンゴムの原料として使用可能です。

化学式 C5H8
英語名 Isoprene
分子量 68.12
融点 -145.9 °C

イソプレンの使用用途

主にイソプレンは、合成ゴムであるポリイソプレンゴムやブチルゴムの原料として用いられています。ポリイソプレンゴムは、その約70%が自動車や航空機のタイヤに使用されます。

加えて、生体適合性が高いため、医療分野でも使用可能です。具体的には、超音波診断機用のゴム袋や血液回路の部品などに使われます。

イソプレンの合成ゴムの原料以外の用途として、ゲラニオール、リナロール等の原料、香料原料、菊酸等の農薬中間体原料などが挙げられます。

イソプレンの性質

イソプレンの融点は−145.95℃で、沸点は34.067℃であり、室温では揮発性が高い無色の液体です。ゴムや都市ガスのような臭気を有します。可燃性や引火性に富んでおり、大気中に霧状で存在する場合には爆発の危険性があります。

イソプレンの構造

イソプレンは二重結合を2個有するジエンの1種です。化学式はC5H8で表され、分子量は68.12です。2-メチル-1,3-ブタジエン (英: 2-methyl-1,3-butadiene) とも呼ばれます。

イソプレンのその他情報

1. ポリイソプレンの合成

ポリイソプレンの構造

図1. ポリイソプレンの構造

天然ゴムを熱分解することで、初めてイソプレンが単離されました。工業的にイソプレンは、毎年800,000トンほど製造されます。生産されたイソプレンの95%は、人工天然ゴムであるシス-1,4-ポリイソプレンの合成のためのモノマーとして使用されます。

天然ゴムは、10万~100万個のイソプレン分子から構成された付加重合体です。基本構造はほとんどシス-1,4-ポリイソプレンです。ただし、天然ゴム中には、シス-1,4-ポリイソプレンの立体異性体であるトランス-1,4-ポリイソプレンが、わずかに含まれている場合もあります。それ以外にも天然ゴムには、脂肪酸、たんぱく質、無機物などが微量に含まれています。

2. イソプレンを構造単位に持つ天然化合物

テルペンの構造

図2. テルペンの構造

イソプレノイド (英: isoprenoid) やテルペノイド (英: terpenoid) と呼ばれる天然有機化合物は、イソプレンを構成単位としています。生体物質として、昆虫、植物、細菌、菌類が作っており、精油の中から発見された10個の炭素の有する化合物に与えられた名称です。これらの炭化水素の分子式は(C5H8)nであり、イソプレンの倍数で表されます。

イソプレノイドやテルペノイドの具体例として、2個のイソプレン単位を持つリモネンや、3個のイソプレン単位を持つファルネソールなどが挙げられます。リモネンやファルネソールは、香料として使用可能です。4つのイソプレン単位から構成されるビタミンAもテルペノイドです。

3. 天然化合物中の機能性イソプレンユニット

天然化合物中のイソプレンユニット

図3. 天然化合物中のイソプレンユニット

テルペンやテルペノイドの生合成に必要となる前駆物質にも、イソプレン単位が含まれています。生物システムにおいて、機能を有するイソプレン単位は、ジメチルアリル二リン酸 (英: dimethylallyl pyrophosphate) とイソペンテニル二リン酸 (英: isopentenyl diphosphate) です。イソペンテニル二リン酸は、ジメチルアリル二リン酸の異性体です。

参考文献
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Isoprene#section=Melting-Point

イソ酪酸

イソ酪酸とは

イソ酪酸 (英: Isobutyric acid) とは、化学式C4H8O2、示性式(CH3)2CHCOOHで表される有機化合物です。

酪酸の構造異性体の1つであり、揮発性の脂肪族カルボン酸の1種です。別名にはジメチル酢酸という慣用名もあります。IUPAC命名法による名称は2-メチルプロパン酸であり、CAS登録番号は79-31-2です。

イソ酪酸の使用用途

化学分野では、イソ酪酸メチルやプロピルエステル、イソアミルエステル、ベンジルエステルなどのイソ酪酸エステルの合成、イソブチロニトリル中間体の製造に使用される物質です。

また、食品分野では食用フレーバーとして用いられます。具体的には主にバター、リンゴ、キャラメル、チーズ、パン、酵母などの製造です。他にも、香水や香水エステルの原料や、医薬品、塗料用溶剤、消毒剤、ワニス、可塑剤、皮革、なめし剤の製造に用いられています。

イソ酪酸の性質

イソ酪酸の基本情報

図1. イソ酪酸の基本情報

イソ酪酸は、分子量88.11、融点-47℃、沸点154℃であり、常温では無色の液体です。n-酪酸に似た、不快な腐敗バターのような臭気を持ちます。

密度0.950g/mL、酸解離定数pKaは4.84です。エタノール、エーテル等の有機溶剤に極めて溶けやすく、6倍の水に溶解します。。

イソ酪酸の種類

イソ酪酸は、一般的には研究開発用試薬製品や香料 (食品添加物) として販売されています。研究開発用試薬製品では、25mL、100mL、500mLなどの容量の種類があり、通常は実験室で取り扱いやすい容量で提供されている物質です。

室温で保管可能な試薬製品として取り扱われます。食品添加物・香料として販売されているものについては、メーカーへの個別の問い合わせが必要です。

イソ酪酸のその他情報

1. イソ酪酸の合成

イソ酪酸の合成

図2. イソ酪酸の合成の例

イソ酪酸は、イソブチルアルコールを適切な酸化剤 (二クロム酸カリウム/硫酸条件など) を用いて酸化することによって合成が可能です。この際、中間体としてイソブチルアルデヒドを経由します。

その他の方法では、プロピレンのヒドロカルボキシル化 (Koch反応) が挙げられます。工業的には、イソ酪酸はn -ブタノール製造時の副生成物として得られる物質です。

実験室的製法では、塩基性条件でイソブチルニトリルを加水分解してイソブチルアルコールを得た後に酸化する方法や、メタクリル酸をナトリウムアマルガム (Na(Hg)) で処理して直接イソ酪酸を得る方法などがあります。

2. イソ酪酸の化学反応

イソ酪酸の誘導体

図3. イソ酪酸の誘導体の例

イソ酪酸は、カルボン酸一般に見られる典型的な反応性を示し、アミド(-CONH2)、酸無水物 (-CO-O-CO-)、酸塩化物 (-COCl) などの誘導体を生じます。また、クロム酸との反応ではアセトンが生成します。なお、イソ酪酸を塩基性条件下にて過マンガン酸カリウムで酸化して得られる物質は、α-ヒドロキシイソブチル酸です。

3. イソ酪酸の有害性と取扱い上の注意

イソ酪酸は種々の有害性があり、GHS分類では下記のように分類されています。

  • 引火性液体: 区分3
  • 急性毒性(経口) : 区分3
  • 急性毒性(経皮) : 区分3
  • 皮膚腐食性/刺激性: 区分1
  • 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性: 区分1
  • 特定標的臓器毒性 (単回ばく露) : 区分3
  • 気道刺激性: 区分3
  • 水生環境有害性(急性) : 区分3
  • 水生環境有害性(慢性) : 区分3

また、イソ酪酸は、光によって変質する恐れがあるとされており、高温、直射日光、 熱、炎、火花、静電気、スパークを避けることが必要です。強酸化剤は混触危険物質に指定されています。危険有害な分解生成物は一酸化炭素、二酸化炭素です。

4. イソ酪酸の法規制情報

イソ酪酸は前述の有害性のため、法令によって規制を受ける物質です。消防法では、危険物第四類・第二石油類・危険等級Ⅲに指定されており、労働安全衛生法では危険物・引火性の物に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0102-0398JGHEJP.pdf

イソ吉草酸

イソ吉草酸とは

イソ吉草酸の基本情報

図1. イソ吉草酸の基本情報

イソ吉草酸 (英: Isovaleric acid) とは、吉草酸の異性体で、化学式がC5H10O2で表される有機酸の一種です。

3-メチルブタン酸 (英: 3-methylbutanoic acid) とも呼ばれます。不快感を伴った刺激臭を有し、悪臭防止法で特定悪臭物質の規制対象です。ただしイソ吉草酸のエステルは、快い芳香を有します。

天然にはヒノキ、ゼラニウム、ローズマリー、レモングラス等植物のエッセンシャルオイルのほか、リンゴやブドウ等の果物にも含まれています。

イソ吉草酸の使用用途

イソ吉草酸は体臭等の悪臭成分ですが、イソ吉草酸エステルは快い芳香を持つため、非アルコール飲料やアイスクリーム、焼き菓子、チーズなどの食品の香料成分として使用されています。香水の香料成分としても利用可能です。

また、鎮静剤やその他の医薬品の製造でイソ吉草酸は、化学中間体として広く用いられます。

さらに、石油炭化水素からのメルカプタンの抽出剤、ビニル安定剤、可塑剤や合成潤滑油の製造の中間体としても使用されます。

イソ吉草酸の性質

イソ吉草酸の融点は−29°Cで、沸点は175〜177°Cです。水には少し溶け、多くの有機溶媒にもよく溶解します。

イソ吉草酸には揮発性があります。酸味のある不快な腐敗したチーズのような臭気がある液体で、汗臭・足臭・加齢臭などの悪臭の原因物質です。

イソ吉草酸の構造

イソ吉草酸のモル質量は102.13g/molで、密度は0.925g/cm3です。示性式は(CH3)2CHCH2CO2Hと表されます。生物系の生理的pHで存在するのは、イソ吉草酸イオンである(CH3)2CHCH2COOの形です。

イソ吉草酸は吉草酸の分岐構造を有する異性体です。構造異性体にはピバル酸やヒドロアンゲリカ酸も存在します。ピバル酸はピバリン酸トリメチル酢酸、ネオペンタン酸とも呼ばれます。

イソ吉草酸のその他情報

1. イソ吉草酸の合成法

イソ吉草酸の合成

図2. イソ吉草酸の合成

イソ吉草酸はセイヨウカノコソウ (英: Valerian) の微量成分であり、イソ吉草酸と名付けられました。セイヨウカノコソウの乾燥した根は、古代から薬用に使用されています。19世紀に初めて、アミルアルコールを含むフーゼル油 (英: Fusel alcohol) の成分の酸化によって、イソ吉草酸の研究が開始しました。

工業的には、イソブチレンのヒドロホルミル化によってイソバレルアルデヒドが形成され、酸化してイソ吉草酸が得られます。

2. イソ吉草酸の反応

イソ吉草酸の反応

図3. イソ吉草酸の反応

一般的にイソ吉草酸はカルボン酸として反応し、アミド、エステル、無水物、塩化物誘導体などを生成可能です。酸塩化物は合成中間体として広く使用されます。

真菌のガラクトミセス・レッシイ (英: Galactomyces reessii) によるイソ吉草酸の発酵で、3-ヒドロキシイソ吉草酸が合成されます。β‐ヒドロキシ‐β‐メチル酪酸は3-ヒドロキシイソ吉草酸の別名です。

3. イソ吉草酸の構造異性体

吉草酸は直鎖状のカルボン酸で、示性式がCH3(CH2)3COOHで表される無色の液体です。密度は0.94g/cm3であり、融点は−34.5°Cで、沸点は186〜187°Cです。極性溶媒より無極性溶媒に溶ける最も低分子量のカルボン酸であり、pKaは4.82の弱酸で、人体に腐食性を示します。

ピバル酸はtert-ブチル基を有するカルボン酸です。密度は0.905g/cm3であり、融点は35.5°Cで、沸点は163.8°Cです。無色の液体または白色の結晶で、刺激臭を持っています。pKaは5.01で、水溶液は弱酸性を示します。

ヒドロアンゲリカ酸の示性式はC2H5(CH3)CHCOOHです。ヒドロアンゲリカ酸には鏡像異性体が存在します。密度は0.94g/cm3であり、融点は−90°Cで、沸点は176°Cです。

イソブタノール

イソブタノールとは

イソブタノール (IBA) とは、構造式 (CH3)2CHCH2OHで表される分岐鎖アルコールで、分子量が74.12の化学物質です。

常温で無色の透明液体です。イソブチルアルコールとも呼ばれ、マジックインキやマーカーに似た特有の臭気があります。水にほとんど溶解しませんが、ほとんどの有機溶媒には溶解します。

IUPAC命名法では「イソブタノール」は慣用名としても許容されていませんが、特許公報など産業分野では広く受け入れられています。イソブタノールの異性体には1-ブタノール、2-ブタノール、そしてtert-ブチルアルコールが存在します。

イソブタノールは、天然には、紅茶・緑茶等の茶葉の主成分であり、また、果物などの香気成分として食品に含まれています。

化学式 C4H10O
英語名 2-Methyl-1-propanol
分子量 74.12

イソブタノールの使用用途

イソブタノールの主な使用用途は、有機合成原料です。

イソブタノールの誘導体には、塗料樹脂、合成ゴム、石油添加剤、可塑剤等があり、重要なものが多いです。主にラッカーや塗料、食品工業の香料として使用される、酢酸イソブチルの出発原料となります。酢酸イソブチルは、高濃度では発酵したような刺激臭があるため、特定悪臭物質に指定されています。

他にも、アクリル酸イソブチル、フタル酸イソブチル (DIBP) 、メタクリル酸イソブチルなど、種々の化成品のエステル化合物の原料にもなります。これらのイソブチルエステルは、プラスチックやゴムの可塑剤やポリマーの相分離を予防する分散化剤などに使われます。

また、様々な有機物を溶解することから、化学反応の溶媒・塗料やインクの溶剤としても用いられます。イソブタノールの塗料の粘性を低下させる性質を利用して、白化と呼ばれる塗装面での油分の分離を防ぐ目的にも使用されます。カーボン付着を防止するプラグ洗浄剤としてガソリンに添加されたり、ワックスやクリーナーにも利用されています。

調整をせずに、そのまま燃料用ブレンドストックへ応用することもできます。高価なハイオクタン価ガソリンやエタノール、その他の燃料用酸素化合物への混合や代替も可能です。

さらには、香料原料、医薬品原料、分析用試薬としても利用されているほか、近年では、バイオ燃料の原料としても注目されています。持続可能な航空燃料 (SAF: Sustainable Aviation Fuel) と呼ばれるバイオ燃料は、従来のジェット燃料と比べて二酸化炭素排出量を最大98%削減できます。

イソブタノールの性質

第一級アルコールの一種であり、異性体の1-ブタノールに近い性質を示します。融点は-108℃、沸点は108℃、引火点は30℃、比重は0.8 g/mL (at 25℃) 、屈折率n20/D 1.40、常温で液体です。エーテルやアルコールなど多くの有機溶剤と混和します。水への溶解性は87 g/L (at 20℃) です。

イソブタノールのその他情報

1. イソブタノールの製造法

プロピレン (CH2CHCH3) のヒドロホルミル化で生成した、イソブチルアルデヒド ((CH3)2CHCHO) を還元することで得られます。炭水化物の発酵産物や工業的な化成品の分解物としても生産されています。

2. 法規情報

消防法に定める第4類: 引火性液体、第二石油類、非水溶性液体に該当します。

3. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密閉し、涼しく換気の良い場所に保管する。
  • 防爆型の機器、装置を使用する。
  • 熱や火花などの発火源から遠ざける。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 静電気放電による引火対策を行う。
  • ミストや蒸気を吸入しない。
  • 皮膚刺激、強い眼刺激があるため、使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 被液した場合は、汚染された衣類を直ちに脱ぎ、皮膚を流水で洗う。
  • 眼に入った場合は、多量の水で数分間注意深く洗浄する。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0914.html

アリルアルコール

アリルアルコールとは

アリルアルコールとは、構造式CH2=CHCH2OHで表される、最も単純な構造の不飽和アルコールです。

別名として、2-プロペン-1-オール、プロペニルアルコール、3-ヒドロキシプロペンなどがあります。構造式上、最も分子量が小さい不飽和アルコールは、ビニルアルコール (CH2=CHOH) ですが、ビニルアルコールはより安定構造であるアセトアルデヒド (CH3COH) に異性化するため、実質状アリルアルコールが最も低分子の不飽和アルコールとなっています。

アリルアルコールの使用用途

アリルアルコールは、各種合成原料としてさまざまな分野で使用されています。化学分野では、エピクロロヒドリン、アリルグリシジルエーテル、プロパンスルトンを合成をするための中間体として有用です。

また、ジアリルフタレート樹脂の原料、樹脂添加剤やグリセロール等のアリル化合物の原料として使用されています。その他、医薬品、香料、農薬、殺菌剤、難燃化剤などの原料としても使用されます。

アリルアルコールの性質

アリルアルコールは、分子量が58.08の無色透明な液体で、強い刺激臭があります。密度は0.854g/cm3、融点は-129℃、沸点は97℃、引火点は21℃、発火温度が443℃、屈折率は1.4134です。

水に極めて溶けやすく、エタノールクロロホルム、エーテル等に可溶、引火しやすい性質があります。アリルアルコールの蒸気を吸入すると、主に眼や鼻への影響が強く、化管法の第一種指定化学物質、毒劇物取締法の毒物として指定されています。

また、引火性も高いため、消防法の危険物第4類第2石油類水溶に分類されており、取扱いと保管数量が制限されています。この他、労働安全衛生法の引火性危険物、名称等を表示・通知すべき危険物及び有害物に指定されています。

アリルアルコールのその他情報

1. アリルアルコールの製造方法

工業的には、プロピレンオキサイドの異性化、プロピレンを直接酸化する方法が行われています。合成方法としては他にもアリルクロライド法、アクロレイン法、プロピレンオキサイド法、酢酸アリル法など複数あります。

プロピレンオキサイドの異性化
CH2CH(CH3)O → CH2=CHCH2OH

酸化プロピレンを、硫酸カリウムアルミニウムの存在下で加熱することで、異性化してアリルアルコールが生成します

プロピレンの直接酸化
CH3CH=CH2 + CH3COOH + 1/2O2 → CH2= CHCH2OCOCH3 + H2O
CH2= CHCH2OCOCH3 + H2O → CH2=CHCH2OH + CH3COOH

プロピレン、酢酸、酸素が反応して、アリルアルコールが生成する反応です。この反応は、プロピレンからアリルアルコールを直接的に合成する方法の1つであり、反応条件の最適化によって、高収率でアリルアルコールを得ることができます。

酸触媒による酸化
プロピレンをリン酸や硫酸などの強酸の存在下で酸化させる方法で、アリルアルコールのほか、アリルアルデヒドやアリル酸が生成されます。後処理によってアリルアルコールを分離・精製する必要があります。

アリルクロライドの加水分解
CH2=CHCH2Cl + H2O → CH2=CHCH2OH + HCl

クロロアリルを加水分解させることで、アリルアルコールが得られます。

2. アリルアルコールの取扱時の注意事項

アリルアルコールは、強い刺激臭を持つため、取扱いには注意が必要です。また、強酸化剤と反応し、爆発的な反応を起こすことがあり、取り扱いには十分な安全対策が必須となります。

皮膚や粘膜に刺激を与えるため、取り扱う際は、ゴム手袋や保護メガネ、マスクなどの適切な防護具を着用します。さらに、アリルアルコールは水に良く溶けるため、取り扱う際は十分な換気が必要です。皮膚や粘膜に触れた場合は、すぐに流水で洗い流し、医師へ相談します。

また、揮発性が高く、可燃性があります。引火点が22℃と低いためため、火気や熱源から遠ざけての保管が重要です。腐食性や酸化性の物質からも離して保管することを推奨します。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/107-18-6.html

アダマンタン

アダマンタンとは

アダマンタンとは、3つの椅子型のシクロヘキサンから形成されたかご型の有機化合物です。

天然では石油中に微量に存在する安定した化合物です。名称は、ギリシャ語でダイヤモンドを意味する「adamas」から名づけられました。

アダマンタンは、椅子型のシクロヘキサンを構成単位としているため歪がなく、非常に安定しています。

化学式 C10H16
英語名 Adamantane
分子量 136.23

アダマンタンの使用用途

アダマンタンは非常に安定した化学物質であるため、不安定な化学種と結合して、安定化を目的に用いられています。耐熱性や脂溶性、昇華性、耐湿性、高屈折率、耐薬品性などに優れているのが特徴です。

アダマンタン誘導体は、エレクトロニクス分野では半導体製造用のフォトレジストとして、医薬品分野では原料として利用可能です。例えば、1-アミノアダマンタンは抗ウイルス剤の1つとして市販されています。また、メタクリル酸1-アダマンチル誘導体は、半導体製造の光レジスト用モノマーとして実用化されています。

アダマンタンの性質

アダマンタンは無色透明の結晶で昇華性があり、樟脳に似た臭気を持っています。融点は270°Cで、炭化水素の中でも非常に高いです。水にはほとんど溶けず、非極性の有機溶媒に溶解します。

アダマンタンとその誘導体は、カルボカチオンを中間体とするイオン反応を起こします。例えば、五フッ化アンチモンと1-フルオロアダマンタンが反応するとアダマンチルイオンが生じますが、通常の3級イオンなどのカルボカチオンと比べて安定です。

アダマンタンの構造

アダマンタンの構造

図1. アダマンタンの構造

アダマンタンの化学式はC10H16、分子量は136.23、20°Cでの密度は1.08g/cm3です。分子構造の数値は、X線結晶構造解析や電子線回折によって決定されています。例えば、炭素-炭素結合長 (C–C) は154pmで、ダイヤモンドとほぼ等しいです。炭素-水素結合長 (C–H) は111.2pmです。

それぞれの炭素の結合角はsp3炭素の本来の角度である109.5°に近く、ひずみがない構造を取っています。通常アダマンタンの結晶構造は、面心立方格子です。単位格子中に分子を4つ含んでおり、結晶中で分子はさまざまな方向を向いています。

208Kに冷却するか、0.5ギガパスカルまで圧力をかけると体心正方格子構造になり、単位格子中には分子が2つ存在します。

アダマンタンのその他情報

1. ウラジミール・プレローグによるアダマンタンの合成

ウラジミール・プレローグによるアダマンタンの合成

図2. ウラジミール・プレローグによるアダマンタンの合成

1941年にウラジミール・プレローグ (英: Vladimir Prelog) によって、初めてアダマンタンが合成されました。出発物質のメールワインエステル (英: Meerwein’s ester) から複雑な5段階の合成法であり、全過程の収率は約0.16%です。その後、合成法が改善されて、総収率は6.5%となりました。

2. パウル・フォン・ラーゲ・シュライアーによるアダマンタンの合成

パウル・フォン・ラーゲ・シュライアーによるアダマンタンの合成

図3. パウル・フォン・ラーゲ・シュライアーによるアダマンタンの合成

1957年にパウル・フォン・ラーゲ・シュライアー (英: Paul von Ragué Schleyer) によって、偶然アダマンタンの簡便な合成法が発見されました。まず、酸化白金などの触媒存在下で、ジシクロペンタジエンを水素化して、テトラヒドロジシクロペンタジエンを得ます。

そして、塩化アルミニウムのようなルイス酸と熱すると、ヒドリドが引き抜かれて生じたカルボカチオンが次々と転位します。最終的に安定なアダマンタン骨格を生成可能です。

当初の収率は30〜40%でしたが、その後60%まで伸びました。効率的なアダマンタンの供給法でもあり、現在でも実験室で製法が利用されています。

アセト酢酸エチル

アセト酢酸エチルとは

アセト酢酸エチルの基本情報

図1. アセト酢酸エチルの基本情報

アセト酢酸エチル (英: Ethyl acetoacetate) とは、化学式がC6H10O3で表される、アセト酢酸のエチルエステルです。

3-オキソブタン酸エチル (英: Ethyl 3-oxobutanoate) とも呼ばれています。果実のような特徴的な臭気があり、無色の可燃性液体です。消防法の危険物第4類、第3石油類非水溶性液体に分類されます。

アセト酢酸エチルに塩基を作用させて生じる比較的安定なカルバニオンは、炭素-炭素結合の生成反応によく利用されます。

アセト酢酸エチルの使用用途

アセト酢酸エチルは他のエステルよりも反応性が高いため、種々の有機合成原料に使用されます。具体例を挙げると、解熱鎮痛剤、抗マラリア剤、抗生物質、アミノ酸、ビタミンBなどの化合物の製造で、中間体として利用可能です。

また、フルーティーな臭気を持つため、食品のフレーバー(着香剤)や香水等としても用いられます。その他、ラッカー塗料、染料製造、プラスチック製造、分析試薬としても使用可能です。

アセト酢酸エチルの性質

アセト酢酸エチルの融点は−45°Cで、沸点は180.8°Cであり、引火点は70°Cで、20°Cで屈折率は1.41937です。20°Cで100mLの水に2.86g溶けます。エタノールアセトンに極めて溶解しやすいです。

アセト酢酸エチルの2位のメチレン部位上の水素原子は、比較的高い酸性を示します。25°CでのpKaは10.7です。

アセト酢酸エチルを希酸や希アルカリによって加水分解すると、二酸化炭素が生じて、アセトンが生成します。ただし強アルカリと反応すると酢酸になります。

アセト酢酸エチルの構造

アセト酢酸エチルの構造

図2. アセト酢酸エチルの構造

アセト酢酸エチルの示性式は、CH3COCH2COOC2H5で表されます。分子量は130.14g/molで、25°Cでの密度は1.021g/cm3です。

アセト酢酸エチルはケトエノール互変異性 (英: keto-enol tautomerism) の影響を受けます。33°Cでエノールは、全体の15%です。

アセト酢酸エチルの共役塩基であるカルバニオンも、2種類のエノラート構造と共鳴の関係にあります。したがって負電荷が非局在化しており、安定化されています。

アセト酢酸エチルのその他情報

1. アセト酢酸エチルの合成法

アセト酢酸エチルの合成

図3. アセト酢酸エチルの合成

酢酸エチルに金属ナトリウムなどを反応させると、アセト酢酸エチルが得られます。酢酸エチルにナトリウムエトキシドを加えて、縮合させても合成できます。ナトリウムエトキシドの化学式はC2H5ONaです。これらの反応はクライゼン縮合 (英: Claisen condensation) と呼ばれます。

工業的には、ジケテンをエタノールで処理して、アセト酢酸エチルが製造されます。

2. アセト酢酸エチルの反応

アセト酢酸エチルは活性メチレンを有し、塩基によって比較的安定なカルバニオンが生成します。活性メチレン (英: activated methylene) とは、カルボニル基のような電子求引基2つに挟まれたメチレン基のことです。

活性メチレンの影響で酸性が強い化合物には、マロン酸エステル、シアノ酢酸エステル、アセチルアセトンなどがあります。カルバニオンの安定性は、炭素-炭素結合形成のために利用可能です。具体例として、アセト酢酸エステル合成 (英: acetoacetic ester synthesis) やマロン酸エステル合成 (英: malonic ester synthesis) が挙げられます。

アセト酢酸エチルなどの活性メチレン化合物は、クロスカップリング反応 (英: Coupling reaction) やマイケル付加反応 (英: Michael addition) でも使用されます。

アセチレンブラック

アセチレンブラックとは

アセチレンブラックとは、アセチレンガスの熱分解によって生成される高純度のカーボンブラックです。

ファーネスブラックやケッチェンブラックと並んで、有名な導電性カーボンブラックの1種です。粒子径が非常に小さいため、取扱う際は、保護眼鏡、粉じん用マスクなど、適切な保護具を着用の上、作業する必要があります。

アセチレンブラックの使用用途

アセチレンブラックは、その高い伝導性と吸液性を生かし、電子部品からゴムまで幅広い用途に利用されています。アセチレンブラックの粒子表面には、酸性の官能基やその他の官能基が存在しています。

官能基の種類も、一般的な炭素の微粒子とは異なるため、樹脂やゴム、液体などと混合し、加工されて利用されています。

このような用途では、アセチレンブラックの90%以上がゴム用の補強剤として用いられています。そのうちタイヤ用ゴムの割合が約80%です。また、プラスチック用の補強性充てん剤として使用されたり、印刷インキ、塗料、カーボン紙、墨、絵具、鉛筆、クレヨンなどに加工されて使用されたりするなど、幅広い分野で用いられています。

また、触媒担体、花火、融雪剤など、アセチレンブラック単体でも様々な用途に用いられています。アセチレンブラックは、それ自身が導電性を持ち、アセチレンブラックを練り込んだ混合物も導電性を持つため、乾電池の電解液保持剤、および発生した電気を電極に伝導するために使用されています。近年、電気自動車やスマートフォンなどで需要が伸びているリチウムイオン電池用の導電材としても有用です。

アセチレンブラックの性質

アセチレンブラックは、カーボンブラックの1種で化学式はCです。実際は炭素だけで形成された6員環構造が平面上にいくつも繋がった構造を取っており、その末端部分に水素、酸素を含む官能基を含んだ構造をとっています。

アセチレンブラックの高い伝導性は、高純度の6員環構造のカーボン単体が豊富に含まれているためです。また、ストラクチャーと呼ばれる1次粒子が鎖状につながった構造が、アセチレンブラックの場合は、他のカーボンブラックに比べて発達しており、これが高い電子伝導性や吸液性を生み出しています。

アセチレンブラックの真比重は2.2程度ですが、ストラクチャー構造をとっているため、かさ比重が0.1以下と非常に軽いことも特徴です。

アセチレンブラックの種類

アセチレンブラックには、粉状品の他に、粒状品、プレス品といった、形状に違いを出すことで、使用時の成形性やハンドリング性を高めたものなどがあります。一般的に粒状品は導電性に優れるため、導電性を要求される用途向けです。

粉状品、プレス品は吸液性が高いため、乾電池などの電解液保持剤や導電ゴムなどに適しています。粒状品、プレス品は粉塵の発生が少なく、ICパッキングやICトレーなどの用途に適しています。

アセチレンブラックのその他情報

1. アセチレンブラックの製造方法

アセチレンブラックは、アセチレンガスを加熱して生成されます。アセチレンガスは、C2H2の化学式を持ち、2つの炭素原子が三重結合で結合した構造を持っています。この三重結合を持つ炭化水素が発熱反応を起こすと、炭素原子同士が化学結合し、カーボンブラックが生成されます。

アセチレンブラックは、この反応に酸素を必要としないため、未分解や官能基として存在する水素分が著しく少ないです。また、酸素を含む官能基もほとんど含まれません。このため、アセチレンブラックは高い電子伝導性を持ちます。

アセチレンブラックはアセチレンガスを温度 1,800℃の分解炉に送り、「C2H2 → 2C + H2 + 55 kcal」の反応を連続的に行うことにより製造しています。

2. アセチレンブラック以外のカーボンブラック

アセチレンブラック以外にも、同様の用途で使用されているものとして、カーボンブラックが挙げられます。

ケッチェンブラック
アセチレンブラックよりも比表面積が大きく、吸液量も多いカーボンブラックです。粒子径はアセチレンブラックと同程度。炭素と水から製造され、副生物として水素が得られます。

ファーネスブラック
炭化水素を原料にして作られるカーボンブラックです。製造条件により、さまざまな物性のものが得られます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1333-86-4.html