イソ酪酸とは
イソ酪酸 (英: Isobutyric acid) とは、化学式C4H8O2、示性式(CH3)2CHCOOHで表される有機化合物です。
酪酸の構造異性体の1つであり、揮発性の脂肪族カルボン酸の1種です。別名にはジメチル酢酸という慣用名もあります。IUPAC命名法による名称は2-メチルプロパン酸であり、CAS登録番号は79-31-2です。
イソ酪酸の使用用途
化学分野では、イソ酪酸メチルやプロピルエステル、イソアミルエステル、ベンジルエステルなどのイソ酪酸エステルの合成、イソブチロニトリル中間体の製造に使用される物質です。
また、食品分野では食用フレーバーとして用いられます。具体的には主にバター、リンゴ、キャラメル、チーズ、パン、酵母などの製造です。他にも、香水や香水エステルの原料や、医薬品、塗料用溶剤、消毒剤、ワニス、可塑剤、皮革、なめし剤の製造に用いられています。
イソ酪酸の性質
図1. イソ酪酸の基本情報
イソ酪酸は、分子量88.11、融点-47℃、沸点154℃であり、常温では無色の液体です。n-酪酸に似た、不快な腐敗バターのような臭気を持ちます。
密度0.950g/mL、酸解離定数pKaは4.84です。エタノール、エーテル等の有機溶剤に極めて溶けやすく、6倍の水に溶解します。。
イソ酪酸の種類
イソ酪酸は、一般的には研究開発用試薬製品や香料 (食品添加物) として販売されています。研究開発用試薬製品では、25mL、100mL、500mLなどの容量の種類があり、通常は実験室で取り扱いやすい容量で提供されている物質です。
室温で保管可能な試薬製品として取り扱われます。食品添加物・香料として販売されているものについては、メーカーへの個別の問い合わせが必要です。
イソ酪酸のその他情報
1. イソ酪酸の合成
図2. イソ酪酸の合成の例
イソ酪酸は、イソブチルアルコールを適切な酸化剤 (二クロム酸カリウム/硫酸条件など) を用いて酸化することによって合成が可能です。この際、中間体としてイソブチルアルデヒドを経由します。
その他の方法では、プロピレンのヒドロカルボキシル化 (Koch反応) が挙げられます。工業的には、イソ酪酸はn -ブタノール製造時の副生成物として得られる物質です。
実験室的製法では、塩基性条件でイソブチルニトリルを加水分解してイソブチルアルコールを得た後に酸化する方法や、メタクリル酸をナトリウムアマルガム (Na(Hg)) で処理して直接イソ酪酸を得る方法などがあります。
2. イソ酪酸の化学反応
図3. イソ酪酸の誘導体の例
イソ酪酸は、カルボン酸一般に見られる典型的な反応性を示し、アミド(-CONH2)、酸無水物 (-CO-O-CO-)、酸塩化物 (-COCl) などの誘導体を生じます。また、クロム酸との反応ではアセトンが生成します。なお、イソ酪酸を塩基性条件下にて過マンガン酸カリウムで酸化して得られる物質は、α-ヒドロキシイソブチル酸です。
3. イソ酪酸の有害性と取扱い上の注意
イソ酪酸は種々の有害性があり、GHS分類では下記のように分類されています。
- 引火性液体: 区分3
- 急性毒性(経口) : 区分3
- 急性毒性(経皮) : 区分3
- 皮膚腐食性/刺激性: 区分1
- 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性: 区分1
- 特定標的臓器毒性 (単回ばく露) : 区分3
- 気道刺激性: 区分3
- 水生環境有害性(急性) : 区分3
- 水生環境有害性(慢性) : 区分3
また、イソ酪酸は、光によって変質する恐れがあるとされており、高温、直射日光、 熱、炎、火花、静電気、スパークを避けることが必要です。強酸化剤は混触危険物質に指定されています。危険有害な分解生成物は一酸化炭素、二酸化炭素です。
4. イソ酪酸の法規制情報
イソ酪酸は前述の有害性のため、法令によって規制を受ける物質です。消防法では、危険物第四類・第二石油類・危険等級Ⅲに指定されており、労働安全衛生法では危険物・引火性の物に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0102-0398JGHEJP.pdf