アダマンタン

アダマンタンとは

アダマンタンとは、3つの椅子型のシクロヘキサンから形成されたかご型の有機化合物です。

天然では石油中に微量に存在する安定した化合物です。名称は、ギリシャ語でダイヤモンドを意味する「adamas」から名づけられました。

アダマンタンは、椅子型のシクロヘキサンを構成単位としているため歪がなく、非常に安定しています。

化学式 C10H16
英語名 Adamantane
分子量 136.23

アダマンタンの使用用途

アダマンタンは非常に安定した化学物質であるため、不安定な化学種と結合して、安定化を目的に用いられています。耐熱性や脂溶性、昇華性、耐湿性、高屈折率、耐薬品性などに優れているのが特徴です。

アダマンタン誘導体は、エレクトロニクス分野では半導体製造用のフォトレジストとして、医薬品分野では原料として利用可能です。例えば、1-アミノアダマンタンは抗ウイルス剤の1つとして市販されています。また、メタクリル酸1-アダマンチル誘導体は、半導体製造の光レジスト用モノマーとして実用化されています。

アダマンタンの性質

アダマンタンは無色透明の結晶で昇華性があり、樟脳に似た臭気を持っています。融点は270°Cで、炭化水素の中でも非常に高いです。水にはほとんど溶けず、非極性の有機溶媒に溶解します。

アダマンタンとその誘導体は、カルボカチオンを中間体とするイオン反応を起こします。例えば、五フッ化アンチモンと1-フルオロアダマンタンが反応するとアダマンチルイオンが生じますが、通常の3級イオンなどのカルボカチオンと比べて安定です。

アダマンタンの構造

アダマンタンの構造

図1. アダマンタンの構造

アダマンタンの化学式はC10H16、分子量は136.23、20°Cでの密度は1.08g/cm3です。分子構造の数値は、X線結晶構造解析や電子線回折によって決定されています。例えば、炭素-炭素結合長 (C–C) は154pmで、ダイヤモンドとほぼ等しいです。炭素-水素結合長 (C–H) は111.2pmです。

それぞれの炭素の結合角はsp3炭素の本来の角度である109.5°に近く、ひずみがない構造を取っています。通常アダマンタンの結晶構造は、面心立方格子です。単位格子中に分子を4つ含んでおり、結晶中で分子はさまざまな方向を向いています。

208Kに冷却するか、0.5ギガパスカルまで圧力をかけると体心正方格子構造になり、単位格子中には分子が2つ存在します。

アダマンタンのその他情報

1. ウラジミール・プレローグによるアダマンタンの合成

ウラジミール・プレローグによるアダマンタンの合成

図2. ウラジミール・プレローグによるアダマンタンの合成

1941年にウラジミール・プレローグ (英: Vladimir Prelog) によって、初めてアダマンタンが合成されました。出発物質のメールワインエステル (英: Meerwein’s ester) から複雑な5段階の合成法であり、全過程の収率は約0.16%です。その後、合成法が改善されて、総収率は6.5%となりました。

2. パウル・フォン・ラーゲ・シュライアーによるアダマンタンの合成

パウル・フォン・ラーゲ・シュライアーによるアダマンタンの合成

図3. パウル・フォン・ラーゲ・シュライアーによるアダマンタンの合成

1957年にパウル・フォン・ラーゲ・シュライアー (英: Paul von Ragué Schleyer) によって、偶然アダマンタンの簡便な合成法が発見されました。まず、酸化白金などの触媒存在下で、ジシクロペンタジエンを水素化して、テトラヒドロジシクロペンタジエンを得ます。

そして、塩化アルミニウムのようなルイス酸と熱すると、ヒドリドが引き抜かれて生じたカルボカチオンが次々と転位します。最終的に安定なアダマンタン骨格を生成可能です。

当初の収率は30〜40%でしたが、その後60%まで伸びました。効率的なアダマンタンの供給法でもあり、現在でも実験室で製法が利用されています。

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