イソ吉草酸とは
図1. イソ吉草酸の基本情報
イソ吉草酸 (英: Isovaleric acid) とは、吉草酸の異性体で、化学式がC5H10O2で表される有機酸の一種です。
3-メチルブタン酸 (英: 3-methylbutanoic acid) とも呼ばれます。不快感を伴った刺激臭を有し、悪臭防止法で特定悪臭物質の規制対象です。ただしイソ吉草酸のエステルは、快い芳香を有します。
天然にはヒノキ、ゼラニウム、ローズマリー、レモングラス等植物のエッセンシャルオイルのほか、リンゴやブドウ等の果物にも含まれています。
イソ吉草酸の使用用途
イソ吉草酸は体臭等の悪臭成分ですが、イソ吉草酸エステルは快い芳香を持つため、非アルコール飲料やアイスクリーム、焼き菓子、チーズなどの食品の香料成分として使用されています。香水の香料成分としても利用可能です。
また、鎮静剤やその他の医薬品の製造でイソ吉草酸は、化学中間体として広く用いられます。
さらに、石油炭化水素からのメルカプタンの抽出剤、ビニル安定剤、可塑剤や合成潤滑油の製造の中間体としても使用されます。
イソ吉草酸の性質
イソ吉草酸の融点は−29°Cで、沸点は175〜177°Cです。水には少し溶け、多くの有機溶媒にもよく溶解します。
イソ吉草酸には揮発性があります。酸味のある不快な腐敗したチーズのような臭気がある液体で、汗臭・足臭・加齢臭などの悪臭の原因物質です。
イソ吉草酸の構造
イソ吉草酸のモル質量は102.13g/molで、密度は0.925g/cm3です。示性式は(CH3)2CHCH2CO2Hと表されます。生物系の生理的pHで存在するのは、イソ吉草酸イオンである(CH3)2CHCH2COO–の形です。
イソ吉草酸は吉草酸の分岐構造を有する異性体です。構造異性体にはピバル酸やヒドロアンゲリカ酸も存在します。ピバル酸はピバリン酸トリメチル酢酸、ネオペンタン酸とも呼ばれます。
イソ吉草酸のその他情報
1. イソ吉草酸の合成法
図2. イソ吉草酸の合成
イソ吉草酸はセイヨウカノコソウ (英: Valerian) の微量成分であり、イソ吉草酸と名付けられました。セイヨウカノコソウの乾燥した根は、古代から薬用に使用されています。19世紀に初めて、アミルアルコールを含むフーゼル油 (英: Fusel alcohol) の成分の酸化によって、イソ吉草酸の研究が開始しました。
工業的には、イソブチレンのヒドロホルミル化によってイソバレルアルデヒドが形成され、酸化してイソ吉草酸が得られます。
2. イソ吉草酸の反応
図3. イソ吉草酸の反応
一般的にイソ吉草酸はカルボン酸として反応し、アミド、エステル、無水物、塩化物誘導体などを生成可能です。酸塩化物は合成中間体として広く使用されます。
真菌のガラクトミセス・レッシイ (英: Galactomyces reessii) によるイソ吉草酸の発酵で、3-ヒドロキシイソ吉草酸が合成されます。β‐ヒドロキシ‐β‐メチル酪酸は3-ヒドロキシイソ吉草酸の別名です。
3. イソ吉草酸の構造異性体
吉草酸は直鎖状のカルボン酸で、示性式がCH3(CH2)3COOHで表される無色の液体です。密度は0.94g/cm3であり、融点は−34.5°Cで、沸点は186〜187°Cです。極性溶媒より無極性溶媒に溶ける最も低分子量のカルボン酸であり、pKaは4.82の弱酸で、人体に腐食性を示します。
ピバル酸はtert-ブチル基を有するカルボン酸です。密度は0.905g/cm3であり、融点は35.5°Cで、沸点は163.8°Cです。無色の液体または白色の結晶で、刺激臭を持っています。pKaは5.01で、水溶液は弱酸性を示します。
ヒドロアンゲリカ酸の示性式はC2H5(CH3)CHCOOHです。ヒドロアンゲリカ酸には鏡像異性体が存在します。密度は0.94g/cm3であり、融点は−90°Cで、沸点は176°Cです。