ソルビン酸

ソルビン酸とは

ソルビン酸とは、有機酸の一種であり、広範囲の微生物に対し抗菌性を持つ物質です。

ナナカマドという植物の未熟な果実から発見されました。ソルビン酸自体は結晶性の粉末であり、水に溶解しにくい性質を有します。そのため、水溶性の高いカリウム塩の状態、すなわち主にソルビン酸カリウムとして使用されます。

ソルビン酸の用途は、主に食品に添加される防腐剤です。しかし、ソルビン酸はpHによって抗菌性が大きく変化します。pHが低い方、すなわち酸性のときにより抗菌力が強くなります。

ソルビン酸は炭素数の少ない脂肪酸の1種であり、他の脂肪酸と同様に体内で代謝されて分解されます。そのため、体への影響が比較的小さく、危険性があまり高くないと考えられています。ソルビン酸は、「発がん性が認められず少量では特段の毒性影響が認められないと考えられる」と厚生労働省から報告されています。

ソルビン酸の使用用途

ソルビン酸の使用用途は、主に防腐のための食品添加物です。また、ソルビン酸は、化粧品にも防腐剤として配合される場合があります。好気性細菌類だけでなく、カビや酵母に対しても静菌作用を発揮します。

ソルビン酸を添加してもよい食品および添加量は、食品添加物公定書において定められています。それら食品としては、例えばチーズ、魚介類乾製品、しょう油漬、こうじ漬けなどが挙げられます。また、食品ごとに使用基準値、すなわち配合上限値がそれぞれ決められています。

そのため、ソルビン酸を添加して食品を製造する際には、配合量の上限値を超えないように注意が必要です。一日の許容摂取量について基準値も設定されているため、ソルビン酸を含む食品の大量摂取には注意を要します。

なお、ソルビン酸の添加が許可されている食品の一例は以下の通りです。

  • 甘酒
  • あん類
  • うに
  • 果実酒
  • みそ
  • 魚介乾製品
  • ジャム
  • 食肉製品
  • マーガリン

ソルビン酸の特徴

ソルビン酸の特徴は、塩であるか否かによって水溶性がかなり違うという性質にあります。ソルビン酸自体は水に溶けにくいため、確実に溶解させてから食品などに配合する必要があり、多くの場合ソルビン酸カリウムの状態で使用されます。

しかし、ソルビン酸カリウムが食品などに添加されても、酸性では抗菌力を十分に発揮できますが、アルカリ性では抗菌力が少し低下します。ソルビン酸の-COOHが-COOK (カリウム塩) になると、水溶性は向上しますが抗菌性が低下します。

ソルビン酸が添加された食品等がアルカリ性になると、-COOKのような塩の状態になりやすくなるため、抗菌性が低下する傾向にあります。一方、食品等が酸性になると-COOHの状態となり抗菌性は高まりますが水に溶解しにくくなるため、食品中でソルビン酸が析出してしまうおそれがあります。

したがって、ソルビン酸を配合した食品などのpH管理には注意が必要です。ソルビン酸の防腐効果を十分に発揮させるためには、pH調整剤の利用等によって酸性状態を維持させる必要があります。

ソルビン酸の構造

ソルビン酸の構造 (分子構造) は、炭化水素部分に不飽和結合を2つ有する炭素数6の不飽和脂肪酸の構造です。ソルビン酸を分子式で表すとCH3CH=CHCH=CHCOOHとなります。別名では2,4-ヘキサジエン酸です。

ソルビン酸は分子内にカルボン酸部分 (-COOH) を有するため酸の1種です。炭素数が2の酢酸 (CH3COOH) と類似する分子構造を有します。酢酸よりも炭素数が多い分、水に溶解しにくいためカリウム塩にして水溶性を高めて使用される場合が多いです。

ソルビン酸のその他情報

1. ソルビン酸カルシウム

前述した通り、ソルビン酸自体は水に溶けにくいため、食品などへ配合することが困難な場合もあります。一方、ソルビン酸カリウムは水に溶解しやすいため、食品などへ配合しやすいもののpH管理を必要とします。このような問題があったため、ソルビン酸よりも水に溶解しやすいソルビン酸カルシウムが、後になって食品添加物として認可されました。

2. ソルビン酸を利用するメリット

ソルビン酸が微量に添加された食品は腐りにくくなりなります。ソルビン酸による防腐効果というメリットの方が、腐敗した食品を食べて健康を害するデメリットよりも大きいです。この点を考慮した上で、ソルビン酸をうまく利用する必要があります。

参考文献
https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB1748891.htm
https://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?dr_ja:D05892

スレオニン

スレオニンとは

スレオニンの基本情報

図1. スレオニンの基本情報

スレオニン (トレオニン) とは、側鎖にヒドロキシエチル基を有する必須アミノ酸の1種です。

スレオニンは人の体の中で生成できないため、食物などからの摂取が必要です。スレオニンを多く含む食物の例として、卵、鶏肉、スキムミルク、ゼラチンなどが挙げられます。

スレオニンは人のたんぱく質を構成する20種類のアミノ酸の1つで、略号はThrやTと表されます。糖原性を持っており、体内でのグルコースの生成に利用可能です。 

スレオニンの使用用途

スレオニンには、病気を予防する効果があります。代謝を促し、肝臓への脂肪の蓄積を防ぐため、脂肪肝を予防可能です。さらに、胃酸の分泌バランスを調整する働きがあり、胃炎を改善する効果もあります。

また、スレオニンは体内でコラーゲンを生成する際の材料です。そのため、美容効果もあり、肌の潤いを保ちます。毛髪を構成するタンパク質のケラチンを構成する要素で、髪の毛のハリや潤いを保つ効果もあります。

畜産動物にとって重要な栄養素にもなります。畜産動物の飼料にも添加されますが、餌である穀物だけでは十分な量のスレオニンを摂取できません。そこで、スレオニンなどの必須アミノ酸を添加した飼料を与えて、畜産動物の栄養バランスを保っています。 

スレオニンの性質

スレオニンは側鎖にヒドロキシ基を持つため、水に溶けます。カルボキシ基の酸解離定数 (pKa) は2.63で、アミノ基の酸解離定数は10.43です。

スレオニンの融点は256°C、沸点は345.8°Cです。

スレオニンの構造

スレオニンの異性体

図2. スレオニンの異性体

スレオニンは四炭糖であるトレオース (英: threose) と構造が似ていたため、threonineと命名されました。極性無電荷側鎖アミノ酸に分類されています。化学式はC4H9NO3、モル質量は119.12g/molであり、密度は1.464g/cm3です。

スレオニンは2個の光学活性中心を有し、異性体が4種類存在します。つまりジアステレオマーが2種類存在します。(2S,3R)体はL-スレオニンと呼ばれ、(2S,3S)体のD-スレオニンは天然にほとんど存在しません。(2S,3S)体はL-アロスレオニン (英: L-allo-threonine) と呼ばれ、(2R,3R)体はD-アロスレオニンです。

スレオニンのその他情報

1. スレオニンの生合成

スレオニンの生合成

図3. スレオニンの生合成

ヒトは体内でスレオニンを合成できません。その一方で、植物や多くの微生物では、アスパラギン酸から合成可能です。

生合成ではまず、酵素のアスパルトキナーゼによってアスパラギン酸のβ-カルボキシル基がリン酸化します。続いてβ-アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼが還元して、β-アスパルテートセミアルデヒドが生じます。このβ-アスパルテートセミアルデヒドはスレオニン、リシン、メチオニンの生合成で重要な中間体です。

β-アスパルテートセミアルデヒドはホモセリンデヒドロゲナーゼの作用でホモセリンになり、ホモセリンキナーゼによりヒドロキシ基がリン酸化します。そしてスレオニンシンターゼによって、スレオニンが生成します。

2. スレオニンの代謝

多くの動物でスレオニンは、スレオニンデヒドロゲナーゼによってピルビン酸に変わります。CoAによる加チオール分解 (英: Thiolysis) を中間体が受けて、グリシンとアセチルCoAを生成可能です。

ラットの脳や肝臓でL-カルニチンの内因性産生中に、グリシンを合成するためにスレオニンが使用されます。ヒトでは、スレオニンはセリンデヒドラターゼによってα-ケト酪酸に変わり、スクシニルCoAになります。

多くの生物では、さらに代謝するために、キナーゼによって O-リン酸化可能です。生成物が(R)-1-アミノプロパン-2-オールに変換されて、ビタミンの側鎖に組み込まれます。これはコバラミン (ビタミンB12) の生合成の一部であり、細菌とっては重要です。

スチレン

スチレンとは

スチレンとは、組成式C6H5CH=CH2で表される芳香族炭化水素の1つです。

別名として、スチロール、フェニルエチレン、スチロレン、シンナメンなどが挙げられます。引火性および毒性が強く、取り扱いには注意が必要です。

スチレンの使用用途

スチレンは、主に合成樹脂の原料として利用されます。ポリスチレン (PS) を始めとして、ABS樹脂やAS樹脂、不飽和ポリエステルなどの合成樹脂の製造に使用されます。また、スチレンは熱・触媒の存在で容易に重合してポリスチレンとなるため、重合用のモノマーとしても利用可能です。

特にポリスチレン樹脂は、安価で成形加工性が良いことから電器製品の梱包材、台所用品、容器、プラモデル、自動車、家電類の各種部品、食品用トレー等で非常に幅広い用途があります。用途によって、ポリスチレン単体で使用される場合と、発泡ポリスチレン (発泡スチロール) で使用される場合があります。

そのほか、合成ゴムであるスチレンブタジエンゴムやポリスチレン、合成樹脂塗料、FRP等の製造原料としてだけでなく、粘着剤や接着剤、断熱材等の建材、乾性油、ポリエステル樹脂イオン交換樹脂等の製造にも利用されています。

スチレンの性質

芳香性のある無色の液体で、比重は0.9044で水よりも軽く、水に溶解しないため、水に浮きます。引火点32℃、融点-30.63℃、沸点145.2℃、屈折率は1.5439です。アルコールやエーテルに可溶です。

スチレンは、ベンゼンの水素原子の1つがビニル基に置換された構造をしています。ビニル基を持つため、極めて反応性が高く、加熱・光・過酸化物等により容易に重合してポリスチレンを生成し、液体状態から徐々に粘度が高くなり、無色の固体状に変化します。

蒸気密度は3.6で空気より重く、低所に滞留し爆発性混合ガスを作りやすいです。日光などの影響で温度が上がると重合することがあり、火災または爆発の危険性を伴います。そのため、通風の良い冷暗所に保管することが推奨されます。

スチレンのその他情報

1. スチレンの製造方法

脱水素法
原料のエチルベンゼンを高温で脱水素してスチレンを合成する方法です。酸化鉄を主体とした触媒を用いて、550℃以上の減圧下で行います。この反応は可逆反応であるため、エチルベンゼンの酸化により生成する水素を除去することで反応を進行させてスチレンを合成します。

他にも反応で生成する水素を酸化させることで、水素の分圧を下げ、かつ反応熱により系内温度を上昇させることで、反応を進行させてスチレンを合成する方法も行われています。

ハルコン法
アメリカのHalcon International社が開発した合成法であり、エチルベンゼンとプロピレンからスチレンと酸化プロピレンを合成できます。この方法では、エチルベンゼンを空気酸化してエチルベンゼンヒドロペルオキシドとし、2~7 MPa、100~130℃の反応条件下でプロピレンと反応させると、酸化プロピレンとメチルベンジルアルコールを生成します。

さらに、生成したメチルベンジルアルコールを酸化チタン触媒により接触的に脱水することでスチレンが得られます。酸化プロピレンとスチレンの収率が高く、これらの同時合成法として有利な製造方法とされています

2. スチレンの安全性

スチレンは引火性液体であり、自己反応性化学物質であることが報告されています。また、加温や光、酸化剤、酸素および過酸化物の影響下で重合し、火災や爆発の危険を生じることがあるため注意が必要です。

吸入すると有害で、皮膚および眼に刺激を与えることがあります。長期または反復曝露により中枢神経系および肝臓障害を引き起こす可能性があるため、作業環境における許容濃度にも注意が必要です。

環境省の環境リスク初期評価書では、呼吸によってスチレンを取り込んだ場合、健康への影響があることが示唆されています。取扱う際には、保護手袋、不浸透性保護前掛け、保護眼鏡か安全ゴーグル、有機ガス用防毒マスクなどの適切な保護具を用いることを推奨します。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0151.html

ジメチルエーテル

ジメチルエーテルとは

ジメチルエーテルの構造

図1. ジメチルエーテルの構造

ジメチルエーテルは2つのメチル基がエーテル結合した化合物であり、最も単純な構造のエーテル類の一種になります。常温では気体として存在しますが、圧力をかけることで容易に液化します。これはLPガスと似た性質であり、その貯蔵や取り扱いについてもLPガスの技術が応用されています。

ジメチルエーテルの物理化学的諸性質

①名称
和名:ジメチルエーテル
英名:dimethyl ether
英名略称:DME
IUPAC名:methoxymethane

②分子式
C2H6O

③分子量
46.07

④融点
-141.50℃

沸点
-24.82℃

⑥溶媒溶解性
エタノールアセトンに可溶。

ジメチルエーテルの特徴と使用用途

①LPガスの代価燃料としての応用

本化合物には、常温で気体であり、圧縮する事で容易に液化し、さらには可燃性を有するという特徴があります。これは、LPガスの主成分であるブタン、プロパンと類似した性質であるため、その代替燃料としての応用が期待されています。現在はスプレー用の噴射剤としての利用が主ですが、LPガスと同じような貯蔵・取り扱いが可能なため、LPガスの代替燃料として、家庭用燃料、発電用燃料、ディーゼル燃料など、幅広い用途への応用が期待されています。

②環境に優しいクリーンエネルギーとしての利用

石油、石炭など現在主流の化石燃料は、燃焼時に窒素酸化物(NOx)を発生させ、不完全燃焼時に煤を生成するため、環境に対する一定の負荷が懸念されています。また、これらの化石燃料は硫黄成分を含むため、燃焼時に硫黄酸化物(SOx)と呼ばれる有害物質を生成する事が知られています。これらの酸化物は、人体に対する悪影響(ぜんそく、気管支炎、呼吸器に対する障害など)に加えて、酸性雨の原因ともなるため、環境に対する負荷も非常に大きいです。そのため、化石燃料に変わる環境に優しい燃料の登場が期待されています。ここで、ジメチルエーテルは、分子内にC-C結合を持たないため煤は発生しません。さらには硫黄原子を持たないためSOxを発生させる危険性もありません。そのため、ジメチルエーテルは化石燃料に変わる次世代のクリーンエネルギーとしての応用が期待されています。

ジメチルエーテルの合成・製造

実験室レベルでは、メタノールを濃硫酸と加熱する事で得られます。工業生産レベルにおいては、リン酸アルミニウム触媒存在下でメタノールを脱水する事で調製します。これらの製造法は間接法と呼ばれており、現在主流の製造方法になります。他にも、天然ガス、石炭、バイオマスなどから一酸化窒素、分子状水素を調製し、そこから直接DMEを合成する方法もあり、これを直接法と呼びます。

ジメチルエーテルの毒性・危険性

人体に対する毒性としては麻酔作用があり、吸引すると軽度の麻痺状態となる事が知られています。物性としての危険性に関しては、可燃性と爆発性を有するため、その保管と使用には充分な注意が必要です。ただし、ジメチルエーテルは、これとよく比較されるLPガスに比べて引火性が低く、爆発限界も2倍程度高いです。そのため、比較的安全な燃料であるといえます。

ジメチルアミン

ジメチルアミンとは

ジメチルアミンとは、アンモニアの2つの水素がメチル基に置換されたメチルアミンの一種です。

魚の臭いがする常温常圧で気体の有機化合物で、別名としてN-メチルメタンアミンなどがあります。

ジメチルアミンの使用用途

ジメチルアミンは、気体の状態ではなく、水に溶かした水溶液の状態で使用されることが多いです。この水溶液は、他の化学品の原料として使用されたり、そのままの状態で使用されたりと用途は様々です。

具体的には、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの原料になります。そのままの状態で使用される場合は、シャンプーやトリートメントで帯電防止の目的で使用される界面活性剤や、触媒、殺虫・殺菌剤、医薬品 (抗ヒスタミン剤) 、ゴムの加硫促進剤、皮革の脱毛剤などに使用されています。

ジメチルアミンの特徴

ジメチルアミンの構造式は (CH3)2NHで、構造式からもわかるように、アンモニア (NH3) の2つの水素がメチル基に置換された構造をしています。分子量は45.08、比重が0.66g/ml (20℃) 、融点が-92.2℃、沸点が6.9℃であり、常温常圧で無色透明の気体、または加圧下で液化された無色透明の液体です。

極めて可燃性、引火性の高いガスで、吸入や付着による有害性も認められている物質です。ジメチルアミンは、アンモニアや他のメチルアミン同様に、強い魚の臭いであることが特徴ですが、アルカリ物質であるため、酸性のものと反応させると無臭化できることも知られています。アミン系の悪臭には、酸性の消臭剤を使用することが一般的です。

燃焼するとガスを発生させたり、皮膚や粘膜に触れると薬傷を起こしたりする危険があることから、安全性の面では注意が必要です。そのため、劇物取締法によって劇物にも指定されています。

ジメチルアミンのその他情報

1. ジメチルアミンの製造方法

ジメチルアミンは、最も基本的な構造をもつ第2級アミンです。工業的に生産する際は、アンモニアメタノールアルミナシリカを触媒として脱水反応することで生成します。

メチルアミンの合成
まずメタノールとアンモニアの混合物を、1.0~2.1MPaの加圧下で、アルミナやシリカなどの脱水触媒に450~500℃で通し、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンの3種類のメチルアミンの混合物を合成します。

  • モノメチルアミンの生成
    CH3OH + NH3 → CH3NH2 + H2O
  • ジメチルアミンの生成
    2CH3OH + NH3 → (CH3)2NH2 + 2H2O
  • トリメチルアミンの生成
    3CH3OH + NH3 → (CH3)3NH2 + 3H2O

脱水・蒸留によるジメチルアミンの分離
生成物を加圧下で蒸留して、原料のメタノールと生成した水を分離した後、アンモニアとトリメチルアミンの共沸混合物を除去し、モノメチルアミンとジメチルアミンを分離させることで得られます。

2. ジメチルアミンの安全性

ジメチルアミンはガスまたは水溶液として販売、利用されており、性状だけでなく、安全性や適用法規が異なります。水溶液でも引火性は高く、消防法で「第4類引火性液体・第一石油類・水溶性液体」に該当します。同様に労働安全衛生法、船舶安全法、航空法においても引火性液体となっています。

また、皮膚、粘膜を激しく刺激し、薬傷を起こすことがあります。繰返しの暴露は中枢神経を麻痺させ、頭痛、血圧上昇、貧血、興奮などの症状が現れます。高濃度のガスを吸入すると、肺水腫を起こすことがあり、ガスは毒劇物取締法で劇物に指定されています。

その他、以下のような危険性があるため、取扱いには注意が必要です。

  • 強酸化剤、酸、塩素と激しく反応する。
  • アルミニウム亜鉛、それらの合金に対して腐食性を示す。
  • 水銀との反応で爆発性物質が生成するおそれがある。
  • 亜硝酸塩や硝酸と反応して、極めて有毒なニトロソアミンを生成する。
  • プラスチック、ゴム、被覆材を侵す。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0589.html

ジフェンヒドラミン

ジフェンヒドラミンとは

ジフェンヒドラミンの基本情報

図1. ジフェンヒドラミンの基本情報

ジフェンヒドラミン (Diphenhydramine) とは、有機化合物の一種で、分子内に2つのフェニル基と1つのエーテル基を持つ、第3級アミンです。

化学式 C17H21NOで表されます。CAS登録番号は、58-73-1です。分子量は255.355、沸点は150 ~160℃ (266 Pa)であり、常温では特異な臭いを持つ黄色の液体です。

ジフェンヒドラミン塩素塩の基本情報

図2. ジフェンヒドラミン塩酸塩の基本情報

実際には、塩酸塩 (ジフェンヒドラミン塩酸塩) が市場で広く流通しています。塩酸塩は塩酸ジフェンヒドラミンとも呼ばれ、CAS登録番号は147-24-0、分子量291.82、融点167〜171℃です。常温では、白色結晶または結晶性粉末の構造をしています。溶解度は、水に対して1g/ml、エタノールに対して1g/2ml、アセトンに対して1g/50mlです。

酢酸に極めて溶けやすく、水及びエタノールに溶けやすい性質です。一方、アセトンにはやや溶けにくく、ジエチルエーテルにはほとんど溶けません。ジフェンヒドラミンは、炎症を引き起こすヒスタミンと拮抗する作用があることが知られており、炎症や気道分泌の抑制、鎮静作用の目的で薬剤として使用されます。

ジフェンヒドラミンの使用用途

ジフェンヒドラミンは、炎症を引き起こすヒスタミンと拮抗するため、抗ヒスタミン剤 (H1受容体拮抗薬) としての用途があります。末梢および中枢のヒスタミンと競合的に拮抗し、炎症、気道分泌の抑制、鎮静作用を得ることができます。蕁麻疹や掻痒感を抑える効果や、花粉症をはじめとしたアレルギー性鼻炎を抑えることも可能です。主には、塩酸塩が使用されています。

注意すべき点は、眠気を誘発するという副作用があることです。一方、この眠気を誘発するという作用に着目し、最近では睡眠改善薬として使用されるようになっています。臨床以外の用途では、実験的研究における抗ヒスタミン薬として用いられることがあります。

ジフェンヒドラミンの性質

1. ジフェンヒドラミンの合成方法

ジフェンヒドラミンの合成方法

図3. ジフェンヒドラミンの合成方法

単体のジフェンヒドラミンは、ジフェニルメチルブロミドと N,N– ジメチルエタノールアミンとの反応によって得られる物質です。この反応は、塩基性条件下における求核置換反応であり、N,N– ジメチルエタノールアミンがアルコールとしてジフェニルブロミドの炭素に求核攻撃します。尚、N,N– ジメチルエタノールアミンは第三級アミンであるため、アミノ基では求核攻撃しません。

2. ジフェンヒドラミンの薬理作用

ジフェンヒドラミンは、ヒスタミンH1受容体に拮抗する抗ヒスタミン薬です。ヒスタミンは肥満細胞などで産生される物質であり、組織が抗原にさらされた時や炎症が生じた場合に細胞外に放出されて機能します。従って、抗ヒスタミン薬は、花粉症や風邪などによるアレルギー症状や、蕁麻疹などによる皮膚の痒みを緩和するために用いられます。

副作用として、顕著な眠気が指摘されていますが、副作用を逆手に取ることにより、今日では睡眠改善薬としても使用されている薬品です。ただし、不眠症への使用や長期連用は推奨されません。尚、内服薬は、緑内障の患者や前立腺肥大等下部尿路に閉塞性疾患のある患者には禁忌とされています。

ジフェンヒドラミンの種類

ジフェンヒドラミンは、医薬品としては主に塩酸塩が用いられています。風邪薬の内服薬などの成分に用いられる他、外用薬として塗り薬に用いられているものや、注射薬として販売されているものもあります。効能は、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う掻痒 (湿疹・皮膚炎) 、急性鼻炎、血管運動性鼻炎などです。ただし、内服薬は緑内障の患者や前立腺肥大等下部尿路に閉塞性疾患のある患者には禁忌です。

その他の製品には、研究開発用試薬などがあります。多くは塩酸塩として販売されています。常温にて保存・輸送が可能とされる場合と、冷蔵保管が必要な場合と製品によって様々です。容量は様々なものがあり、100mg , 250mgなどから、5g , 10g , 50g , 100gなどがあります。

また、水素が重水素で置換された、ジフェンヒドラミン-d6塩酸塩も販売されています。こちらは、冷蔵保管が必要な試薬であり、容量は1mg , 5mg , 50mgです。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/147-24-0.html

ジクロロベンゼン

ジクロロベンゼンとは

ジクロロベンゼンとは、ベンゼンの塩素置換体の1つです。

塩素の位置により「o (オルト) -ジクロロベンゼン」「m (メタ) -ジクロロベンゼン」「p (パラ) -ジクロロベンゼン」の3種の構造異性体が存在します。ベンゼンを出発原料として、鉄触媒の存在下で塩素化すると、p-ジクロロベンゼンおよびo-ジクロロベンゼンが、約2:1の比で生成します。

p-ジクロロベンゼンとo-ジクロロベンゼンの混合物を冷却し、p-ジクロロベンゼンを結晶として析出させることで回収し、残りのo-ジクロロベンゼンは蒸留と結晶化により精製することで得られます。

ジクロロベンゼンの使用用途

1. o-ジクロロベンゼン

o-ジクロロベンゼンは、樹脂や染料、顔料、医薬、農薬等の中間原体の原料として用いられています。また、防疫用殺虫剤や消毒剤、伝導用熱媒体、種々の用途をもつ溶剤も用途の1つです。

2. m-ジクロロベンゼン

m-ジクロロベンゼンは、農薬や染料、顔料、医薬の合成中間体として用いられています。

3. p-ジクロロベンゼン

p-ジクロロベンゼンの主な用途は、防臭剤や衣服の防虫剤、消毒剤、伝導用熱媒体、PPS樹脂等の有機合成の原料、有機溶媒などです。p-ジクロロベンゼンは、衣類の防虫剤として最も多く用いられています。

ジクロロベンゼンの性質

ジクロロベンゼンの分子式はC6H4Cl2、分子量は147.004です。水にはほとんど溶けませんが、エタノールやエーテル、アセトンに可溶です。

1. o-体

o-体はCAS番号95-50-1、無色〜黄色の液体であり独特の芳香があります。引火性は低いですが、引火点近傍では蒸気と空気の混合物は爆発を生じる可能性があります。

融点・凝固点は-17℃、沸点、初留点および沸騰範囲は180−183℃、引火点は66℃ (密閉式) です。人体には、o-体、m-体、p-体全てにおいて、皮膚刺激性、呼吸器への刺激性、強い眼刺激性があります。またo-体は特に、肝臓、腎臓障害の危険性があります。

2. m-体

m-体はCAS番号541-73-1、無色透明の液体で、匂いのデータはありません。引火性は低いですが、エアロゾルと硝酸および硫酸との接触により爆発の危険性があります。

融点・凝固点は-24.8℃、沸点、初留点および沸騰範囲は173℃、引火点は63℃ (密閉式) です。m-体は吸引すると有害で、呼吸器への刺激の危険性があるため、グローブボックスや局所排気など換気の良い環境で取り扱います。

3. p-体

p-体はCAS番号106-46-7、無色個体で樟脳のような匂いがあります。アルカリ及びアルカリ土類金属、酸化剤及び硝酸と危険な有害生成物を生じます。また、加熱および酸、または酸のヒュームとの接触によって、非常に有害な塩化水素のヒュームを発生します。

融点・凝固点53℃、沸点、初留点および沸騰範囲は174℃、引火点は66℃ (密閉式) です。p-体はアレルギー性皮膚反応を引き起こすおそれがある他、発がん性、生殖能または胎児への悪影響の恐れ、中枢神経系、血液系、肝臓障害の危険性があるため、取り扱いには特に注意が必要です。

ジクロロベンゼンのその他情報

1. ジクロロベンゼンの取扱方法

取り扱う際は、適切な呼吸器保護具、保護手袋、保護眼鏡 (普通眼鏡型、側板付き普通眼鏡型、ゴーグル型) を着用して作業します。また、o-体は皮膚および身体への接触を避けるため、適切な保護衣のほか、顔面用保護具、長靴の着用が推奨されています。

作業場所は洗眼器と安全シャワーを設置し、全体換気または局所排気のある環境で作業を行います。

2.ジクロロベンゼンの保管方法

炎および熱などから離して保管し、酸化剤との接触を避けます。容器は密閉し、換気の良い冷所で保管します。

3.ジクロロベンゼンの応急措置

吸入した場合、気分が悪くなった際は、医師の診断、手当てを受けます。皮膚に付着した場合は、大量の水で洗浄し、症状が継続する場合は医師に連絡します。眼に入った場合は、水で15−20分間注意深く洗います。

万が一飲み込んだ場合は、水で口をすすぎ、直ちに医師の診断を受けます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/106-46-7.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/95-50-1.html

シアン化カリウム

シアン化カリウムとは

シアン化カリウムとは、化学式KCNで表される無機化合物で、青酸カリウム、青酸カリとも呼ばれます。常温では無色の結晶性塩として見られ、水に良く溶けます。

強い毒性を持つことから毒物の代名詞になっていますが、有機合成、金の製錬、電気めっきなど広い分野で実用に供されている工業的に重要な物質でもあります。

シアン化カリウムの性質

シアン化カリウムはカリウムイオンとシアン化物イオンからなるイオン結晶で、代表的なシアン化アルカリ化合物の一つです。シアン化物イオン中の炭素と窒素は三重結合で結びついています。

シアン化カリウム.白色の粉末状結晶で潮解性があり、水に良く溶け、水溶液は強アルカリ性を示します。有機溶剤(メタノールエタノールグリセリン)には溶けにくい特徴があります。

潮解に伴って次式に従って、空気中の二酸化炭素と反応し、炭酸カリウムに変化しながらシアン化水素(HCN)を放出します。
2 KCN + H2O + CO2 → K2CO3 + 2 HCN

そのため、乾燥状態では無臭ですが、空気中ではシアン化水素による特徴的なアーモンド臭を発します。特に太陽光に当たる状態では反応が進み易いため、空気に触れないように、太陽光に当たらないように保管する必要があります。

シアン化カリウムの製法

シアン化カリウムは、シアン化水素(HCN)を水酸化カリウム(KOH)水溶液で処理し、次いで、真空中で溶液を蒸発させることによって析出させ、製造されます。
HCN + KOH → KCN + H2O

シアン化カリウムの使用用途

シアン化カリウムは、有機合成において広く用いられます。特に、ハロゲン化アルキルと反応させることで、次式に従ってニトリル(R−C≡N)を調製する反応は重要です。
R−X + KCN → R−CN + KX

工業的には、シアン化カリウムの代わりにシアン化ナトリウム(NaCN、青酸ソーダ)が使用されることも多くなってきました。

また、写真定着剤として使用されます。シアン化カリウムは、現像液中で不溶化していない銀を溶かします。これによって、画像が鮮明化・安定化して、光に敏感でなくなります。現代においては、より毒性の低い定着剤としてチオ硫酸ナトリウムが用いられることが増えています。

金や銀、を製錬するための薬剤としても使用されます。次式に従って、低品位の金鉱石から金を水溶性塩として浸出させます。
4 Au (s) + 8 KCN (aq) + O2 (g) + 2 H2O (l) → 4 K[Au(CN)2] (aq) + 4 KOH (aq)

同様の工程で、NaCNを使用してシアン化金ナトリウムNaAu(CN)2として浸出することもできます。

シアン化カリウムの毒性

シアン化カリウムが経口、経気道あるいは経皮により体内に入ると、細胞呼吸が強力に阻害されて、壊死します。急性シアン中毒の初期には、組織が血液中の酸素を利用できなくなるため、服毒者の顔色は赤みがかります。最も影響を受けるのは脳で、死亡の原因は低酸素脳症となります。中毒症状は、急激に進行しますので、一刻も早い処置が必要です。シアン化カリウムを摂取してから通常数分以内に症状が出ます。呼吸困難、血圧低下が生じ、意識を喪失し、やがて脳死となります。

シアン化カリウムの経口致死量は成人で200-300mgとされています。シアン化ナトリウムでの作用もシアン化カリウムと同等です。

吸い込んだ場合には、直ちに人工呼吸により新鮮な空気を肺に送り込む必要があります。経口摂取した場合には、直ちに嘔吐させ、人工呼吸を行います。

サリチル酸ナトリウム

サリチル酸ナトリウムとは

サリチル酸ナトリウム(Sodium Salicylate)は分子式:C7H5NaO3、分子量:160.10で、サリチル酸にナトリウム塩がついた化合物で、常温では白色の結晶又は結晶性の粉末です。水に極めて溶けやすく、酢酸(100)に溶けやすく、エタノール(95)にやや溶けやすいという特徴があります。

光によって徐々に着色していくため、日光や大気により、また特にアンモニアガスに触れると着色するという特徴があります。

工業的には、ナトリウムフェノキシドと二酸化炭素を高温高圧化で合成させることによって得られます。サリチル酸ソーダとも呼ばれ、加熱によって二酸化酸素を発生させながら分解していきます。

サリチル酸ナトリウムの使用用途

サリチル酸ナトリウムは、古くから抗炎症作用や鎮痛作用を目的とした医薬品として使用されることが多いです。特に手足や関節に起こりやすい症候性神経痛(外傷、圧迫、炎症、感染など原因が明らかな神経痛)に対して適用があります。

その他にも化粧品における変性剤や防腐剤として使用されることもあります。化粧品の場合、サリチル酸ナトリウムを含有できる量が少ないため、大きな問題にはなりません。

ただし、サリチル酸系化合物(アスピリン等)に対し過敏症の既往歴のある方は、喘息などアレルギー症状が再燃する可能性があります。また潰瘍性大腸炎の患者、クローン病の方では症状を悪化させるおそれがあります。

そして、動物実験で催奇形作用、弱い胎仔の動脈管収縮が報告されているため、妊娠している方には胎児に影響が出る可能性があり、投与量を控えた方がよいとされています。

他の薬剤との混和について

サリチル酸ナトリウムは、酸性の溶液中ではサリチル酸を遊離し、中性溶液中では鉄塩と難溶性のサリチル酸鉄を形成して沈殿します。またアルカロイド塩とは難溶性のサリチル酸アルカロイド塩として沈殿することがあります。

アルカリ類、鉄塩、亜硝酸塩と混和すると変色します。炭酸水素アルカリ塩により赤褐色になり、鉄塩により紫色になります。なお、鉄塩による変色では治療効果に変化はないとされています。

水溶液中ではアルカリにより光酸化を受け、着色もしくは沈殿を生じることがありますが、この反応は、鉄、マンガンで触媒され、亜硫酸水素塩やチオ硫酸塩を混和することで防ぐことができます。

医療分野における使用用途について

サリチル酸ナトリウムはシクロオキシゲナーゼを阻害して、アラキドン酸からのプロスタグランジン類やトロンボキサン前駆物質などの合成を低下させることで、鎮痛作用や抗炎症作用を発揮すると考えられていますが、まだ不明な部分があります。しかし、アスピリンと異なり、血小板凝集抑制作用はありません。

抗炎症作用、鎮痛作用の正確な作用機序は不明です。炎症組織においてプロスタグランディンもしくは他の因子の合成を阻害することで、神経インパルス発生が遮断され、効果を示すと考えられています。

グルタチオン

グルタチオンとは

グルタチオンの基本情報

図1. グルタチオンの基本情報

グルタチオン (Glutathione, GSH) とは、グルタミン酸システイングリシンから成るトリペプチドです。

システインのアミノ基と、グルタミン酸の側鎖側のカルボキシ基とがアミド結合を形成していることが特徴として挙げられます。2分子がジスルフィド結合を形成して、酸化型グルタチオン (GSSG) を形成しますが、特に記載のない場合は還元型GSHを指します。また、グルタチオン (還元型) と明記されている場合もあります。

還元型グルタチオンは化学式ではC10H17N3O6Sと表記され、CAS登録番号は、70-18-8です。分子量は307.33、融点は195°Cであり、常温では白色の粉末状固体です。水に溶けやすく、エタノールおよびジエチルエーテルにほとんど溶けません。

グルタチオンの使用用途

グルタチオンは酸化されやすいため、有機合成化学や生化学の分野では還元剤として使用されます。例えば、グルタチオン-アガロースビーズを用いてGST (グルタチオンS-トランスフェラーゼ) 融合タンパク質を溶出するための溶出バッファーに使用されています。

生物においては細胞内における抗酸化物質の一つです。フリーラジカルや過酸化物といった活性酸素種から細胞を保護する補助的な働きをしています。そのため、体内のグルタチオンを補う目的で医薬品として使用されています。内服薬と注射薬の2種類で、薬物中毒、アセトン血性嘔吐症 、金属中毒、妊娠悪阻、妊娠高血圧症候群などの諸症状に対して適応があります。

グルタチオンの原理

グルタチオンの原理を構造と酸化還元反応の観点から解説します。

1. グルタチオンの構造

グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンのペプチド結合に寄って形成されているトリペプチドです。配列はL-γ-glutamyl-L-cysteinyl-glycineと表記されます。すなわち、グルタミン酸とシステインのアミド結合は通常のペプチド結合とは異なり、グルタミン酸側鎖のγ-カルボキシ基とシステイン主鎖のα-アミノ基で結合しています (γ-グルタミル結合) 。

2. グルタチオンの酸化還元反応

グルタチオンの酸化反応

図2. グルタチオンの酸化反応

システイン残基側鎖にチオール基を有し、酸化されると2分子の還元型グルタチオンがジスルフィド結合を形成して酸化型へと変換される分子です。動物細胞では、細胞質性タンパク質中に形成されているあらゆるジスルフィド結合をシステインに還元する働きがあります。

過酸化物や活性酸素種を還元して酸化ストレスを取り除く作用も、同様の還元作用によるものです。これらの反応の際、グルタチオン自身は酸化型へと変換され、ジスルフィド結合の形成が起こります。

3. グルタチオンの生体内における解毒作用

グルタチオンによる毒物の抱合

図3. グルタチオンによる毒物の抱合

グルタチオンはシステイン残基のチオール基の硫黄部位が求核性を有する物質です。生体内ではグルタチオン-S-トランスフェラーゼ (GSTs) の触媒作用を受け、様々な物質に結合します。毒物や抗生物質などの薬物、ロイコトリエンやプロスタグランジン等と結合して抱合体を形成すると、この抱合体は細胞外に取り除かれるため、その結果解毒作用をもたらします。

グルタチオンの種類

グルタチオンは、研究開発用の化学試薬として販売されている他、医薬品としても承認されています。医薬品としては、錠剤や注射用の製剤があります。主な使用用途は、人体における体内のグルタチオンを補ったり、体内の毒物に結合して解毒したりする目的です。

薬物中毒や、アセトン血性嘔吐症、及び、慢性肝疾患における肝機能の低下をはじめとする様々な症状に対して効能が認められています。試薬製品では、10mg , 300mg , 1g , 5g , 10g , 25g , 50g , 100g , 250g , 500gなど、容量には非常に多くの種類の製品があります。

空気中で容易に酸化されて酸化型へ変換されてしまうため、冷蔵保管が必要な試薬です。また、酸化型のグルタチオンも製品として販売されており、混同しないように注意する必要があります。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/53/6/53_354/_pdf