ジクロロベンゼンとは
ジクロロベンゼンとは、ベンゼンの塩素置換体の1つです。
塩素の位置により「o (オルト) -ジクロロベンゼン」「m (メタ) -ジクロロベンゼン」「p (パラ) -ジクロロベンゼン」の3種の構造異性体が存在します。ベンゼンを出発原料として、鉄触媒の存在下で塩素化すると、p-ジクロロベンゼンおよびo-ジクロロベンゼンが、約2:1の比で生成します。
p-ジクロロベンゼンとo-ジクロロベンゼンの混合物を冷却し、p-ジクロロベンゼンを結晶として析出させることで回収し、残りのo-ジクロロベンゼンは蒸留と結晶化により精製することで得られます。
ジクロロベンゼンの使用用途
1. o-ジクロロベンゼン
o-ジクロロベンゼンは、樹脂や染料、顔料、医薬、農薬等の中間原体の原料として用いられています。また、防疫用殺虫剤や消毒剤、伝導用熱媒体、種々の用途をもつ溶剤も用途の1つです。
2. m-ジクロロベンゼン
m-ジクロロベンゼンは、農薬や染料、顔料、医薬の合成中間体として用いられています。
3. p-ジクロロベンゼン
p-ジクロロベンゼンの主な用途は、防臭剤や衣服の防虫剤、消毒剤、伝導用熱媒体、PPS樹脂等の有機合成の原料、有機溶媒などです。p-ジクロロベンゼンは、衣類の防虫剤として最も多く用いられています。
ジクロロベンゼンの性質
ジクロロベンゼンの分子式はC6H4Cl2、分子量は147.004です。水にはほとんど溶けませんが、エタノールやエーテル、アセトンに可溶です。
1. o-体
o-体はCAS番号95-50-1、無色〜黄色の液体であり独特の芳香があります。引火性は低いですが、引火点近傍では蒸気と空気の混合物は爆発を生じる可能性があります。
融点・凝固点は-17℃、沸点、初留点および沸騰範囲は180−183℃、引火点は66℃ (密閉式) です。人体には、o-体、m-体、p-体全てにおいて、皮膚刺激性、呼吸器への刺激性、強い眼刺激性があります。またo-体は特に、肝臓、腎臓障害の危険性があります。
2. m-体
m-体はCAS番号541-73-1、無色透明の液体で、匂いのデータはありません。引火性は低いですが、エアロゾルと硝酸および硫酸との接触により爆発の危険性があります。
融点・凝固点は-24.8℃、沸点、初留点および沸騰範囲は173℃、引火点は63℃ (密閉式) です。m-体は吸引すると有害で、呼吸器への刺激の危険性があるため、グローブボックスや局所排気など換気の良い環境で取り扱います。
3. p-体
p-体はCAS番号106-46-7、無色個体で樟脳のような匂いがあります。アルカリ及びアルカリ土類金属、酸化剤及び硝酸と危険な有害生成物を生じます。また、加熱および酸、または酸のヒュームとの接触によって、非常に有害な塩化水素のヒュームを発生します。
融点・凝固点53℃、沸点、初留点および沸騰範囲は174℃、引火点は66℃ (密閉式) です。p-体はアレルギー性皮膚反応を引き起こすおそれがある他、発がん性、生殖能または胎児への悪影響の恐れ、中枢神経系、血液系、肝臓障害の危険性があるため、取り扱いには特に注意が必要です。
ジクロロベンゼンのその他情報
1. ジクロロベンゼンの取扱方法
取り扱う際は、適切な呼吸器保護具、保護手袋、保護眼鏡 (普通眼鏡型、側板付き普通眼鏡型、ゴーグル型) を着用して作業します。また、o-体は皮膚および身体への接触を避けるため、適切な保護衣のほか、顔面用保護具、長靴の着用が推奨されています。
作業場所は洗眼器と安全シャワーを設置し、全体換気または局所排気のある環境で作業を行います。
2.ジクロロベンゼンの保管方法
炎および熱などから離して保管し、酸化剤との接触を避けます。容器は密閉し、換気の良い冷所で保管します。
3.ジクロロベンゼンの応急措置
吸入した場合、気分が悪くなった際は、医師の診断、手当てを受けます。皮膚に付着した場合は、大量の水で洗浄し、症状が継続する場合は医師に連絡します。眼に入った場合は、水で15−20分間注意深く洗います。
万が一飲み込んだ場合は、水で口をすすぎ、直ちに医師の診断を受けます。
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/106-46-7.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/95-50-1.html