ジフェンヒドラミンとは
図1. ジフェンヒドラミンの基本情報
ジフェンヒドラミン (Diphenhydramine) とは、有機化合物の一種で、分子内に2つのフェニル基と1つのエーテル基を持つ、第3級アミンです。
化学式 C17H21NOで表されます。CAS登録番号は、58-73-1です。分子量は255.355、沸点は150 ~160℃ (266 Pa)であり、常温では特異な臭いを持つ黄色の液体です。
図2. ジフェンヒドラミン塩酸塩の基本情報
実際には、塩酸塩 (ジフェンヒドラミン塩酸塩) が市場で広く流通しています。塩酸塩は塩酸ジフェンヒドラミンとも呼ばれ、CAS登録番号は147-24-0、分子量291.82、融点167〜171℃です。常温では、白色結晶または結晶性粉末の構造をしています。溶解度は、水に対して1g/ml、エタノールに対して1g/2ml、アセトンに対して1g/50mlです。
酢酸に極めて溶けやすく、水及びエタノールに溶けやすい性質です。一方、アセトンにはやや溶けにくく、ジエチルエーテルにはほとんど溶けません。ジフェンヒドラミンは、炎症を引き起こすヒスタミンと拮抗する作用があることが知られており、炎症や気道分泌の抑制、鎮静作用の目的で薬剤として使用されます。
ジフェンヒドラミンの使用用途
ジフェンヒドラミンは、炎症を引き起こすヒスタミンと拮抗するため、抗ヒスタミン剤 (H1受容体拮抗薬) としての用途があります。末梢および中枢のヒスタミンと競合的に拮抗し、炎症、気道分泌の抑制、鎮静作用を得ることができます。蕁麻疹や掻痒感を抑える効果や、花粉症をはじめとしたアレルギー性鼻炎を抑えることも可能です。主には、塩酸塩が使用されています。
注意すべき点は、眠気を誘発するという副作用があることです。一方、この眠気を誘発するという作用に着目し、最近では睡眠改善薬として使用されるようになっています。臨床以外の用途では、実験的研究における抗ヒスタミン薬として用いられることがあります。
ジフェンヒドラミンの性質
1. ジフェンヒドラミンの合成方法
図3. ジフェンヒドラミンの合成方法
単体のジフェンヒドラミンは、ジフェニルメチルブロミドと N,N– ジメチルエタノールアミンとの反応によって得られる物質です。この反応は、塩基性条件下における求核置換反応であり、N,N– ジメチルエタノールアミンがアルコールとしてジフェニルブロミドの炭素に求核攻撃します。尚、N,N– ジメチルエタノールアミンは第三級アミンであるため、アミノ基では求核攻撃しません。
2. ジフェンヒドラミンの薬理作用
ジフェンヒドラミンは、ヒスタミンH1受容体に拮抗する抗ヒスタミン薬です。ヒスタミンは肥満細胞などで産生される物質であり、組織が抗原にさらされた時や炎症が生じた場合に細胞外に放出されて機能します。従って、抗ヒスタミン薬は、花粉症や風邪などによるアレルギー症状や、蕁麻疹などによる皮膚の痒みを緩和するために用いられます。
副作用として、顕著な眠気が指摘されていますが、副作用を逆手に取ることにより、今日では睡眠改善薬としても使用されている薬品です。ただし、不眠症への使用や長期連用は推奨されません。尚、内服薬は、緑内障の患者や前立腺肥大等下部尿路に閉塞性疾患のある患者には禁忌とされています。
ジフェンヒドラミンの種類
ジフェンヒドラミンは、医薬品としては主に塩酸塩が用いられています。風邪薬の内服薬などの成分に用いられる他、外用薬として塗り薬に用いられているものや、注射薬として販売されているものもあります。効能は、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う掻痒 (湿疹・皮膚炎) 、急性鼻炎、血管運動性鼻炎などです。ただし、内服薬は緑内障の患者や前立腺肥大等下部尿路に閉塞性疾患のある患者には禁忌です。
その他の製品には、研究開発用試薬などがあります。多くは塩酸塩として販売されています。常温にて保存・輸送が可能とされる場合と、冷蔵保管が必要な場合と製品によって様々です。容量は様々なものがあり、100mg , 250mgなどから、5g , 10g , 50g , 100gなどがあります。
また、水素が重水素で置換された、ジフェンヒドラミン-d6塩酸塩も販売されています。こちらは、冷蔵保管が必要な試薬であり、容量は1mg , 5mg , 50mgです。