実体顕微鏡とは
実体顕微鏡は、光学顕微鏡の1種であり、双眼実体顕微鏡とも言われます。 光学顕微鏡は、微小な物体を対物レンズで拡大した実像を、接眼レンズによってさらに拡大して観察する光学機器です。実体顕微鏡は2つの光路を持ち、左右の目による視差を利用して、物体を立体的に観察できます。一般的にその倍率は数倍~40倍と比較的低いですが、対物レンズとステージまでの距離が長いため、比較的大きな試料をそのまま観察することが可能です。 また、拡大した像を見ながら、解剖や組立てなどの作業を行うことができます。
実体顕微鏡の使用用途
生物学分野では、昆虫や草花など動植物の観察や解剖に用いられ、教育現場では理科の教材としても使われています。 医療分野では、解剖や細胞操作などに利用されています。また、脳外科や眼科で手術時に用いられる顕微鏡も、本体部分は実体顕微鏡です。 機械工学分野、精密機械・電子産業分野では、組立て作業や検査に用いられます。 その他、歯科技工、手工芸、はんだ付けなどの精密作業や、古銭や宝飾品の観察・研究など、実体顕微鏡の使用用途は非常に幅広いです。
実体顕微鏡の原理
レンズには、「正レンズ」(凸レンズ)と「負レンズ」(凹レンズ)があります。顕微鏡に使用されているのは、正レンズです。
正レンズは縁より中心が厚く、レンズ曲面の中心をレンズに垂直に通る線(光軸)に平行な光を屈折させて光軸上の1点に集めます。この点を、「焦点」と言います。
図1. 正レンズ (凸レンズ) の仕組み
正レンズの焦点は、レンズの前後に1つずつあり(前側焦点、後側焦点)、焦点とレンズの中心の距離を「焦点距離」と言います。前後の焦点距離は等しく、 物体が正レンズの前側焦点より遠くにある時にレンズによって形成される像を「実像」、前側焦点より近くにある時に形成される像を「虚像」と言います。実像は上下左右が反対になった倒立の像、虚像は正立です。
一般的な生物顕微鏡は、2枚の正レンズを組み合わせて、物体を拡大して見る装置です。本装置は対物レンズ(物体に近いレンズ)によって形成された実像を、接眼レンズ(目に近いレンズ)でさらに拡大した虚像を観察しているため、観察される像は倒立となります。
一方で実体顕微鏡は、本体内に正立プリズムが組み込まれているため、観察される像は正立です。これにより、試料の姿をそのまま観察することができ、顕微鏡下での精密な作業が可能になっています。
光学顕微鏡の種類
光学顕微鏡には、その原理や使用目的により様々な種類が存在しますが、生物顕微鏡と実体顕微鏡の二種類に分類されるのが一般的です。生物顕微鏡は透過型顕微鏡の一種であり、最も一般的な顕微鏡と考えて下さい。このタイプの顕微鏡は、試料を薄くスライドしてこれに光を透過させる事で観察します。
一方で実体顕微鏡は、照明方法としては、透過照明、落斜照明の両方が用いられます。実体顕微鏡は、接眼レンズが2個あり、両目で同時に観察できることから、立体的に試料を観察することができる特徴があります。また、接眼レンズと試料を乗せるステージとの距離が長い事から、生物試料を観察しながら解剖するなどの作業にも適しています。
実体顕微鏡のその他情報
1. 実体顕微鏡の使い方
一般的な実体顕微鏡の使い方は以下の通りです。
- 必要に応じて光源をセットする。
- ステージに試料を乗せる。
- 接眼レンズを眼の幅に合うように調節し、視野が一つに重なるようにする。
- 右目で右の接眼レンズを覗きながら合焦装置を操作し、試料にピントを合わせる
- 左目で左の接眼レンズを覗きながら視度調節環を調節し、ピントを正確に合わせる。
実体顕微鏡は仕様の異なる様々な機種が販売されており、使用用途に合わせて選定する必要があります。これには例えば以下のような違いがあり、選定する際のポイントとなります。
2. 光学系の違い
実体顕微鏡には大きく分けてガリレオ式平行光学系とグリノー式光学系の2種類があります。 ガリレオ式平行光学系の顕微鏡は、接眼レンズから対物レンズまでの光軸が平行で、一つの対物レンズから構成されています。光軸が平行になるように設計されているため、中間部分に別のユニットを挿入して様々な機能を付加することが可能です。
また光は一つの対物レンズに収束するため、高倍率での観察が可能となります。ズームを大きくしても精度が維持しやすく、対物レンズの組み合わせの自由度も高いという特徴があります。 一方、グリノー式光学系の顕微鏡は、接眼レンズから対物レンズまでの光路や光軸は、一定の角度をもってすべて左右独立となるように設計されています。立体的な像が得やすく、顕微鏡本体をコンパクトに設計しやすいという特徴があります。ただし、光路の平行部分がないため、ガリレオ式のように中間部分に別の機能を加えたり、ズームを大きく設定したりするには不向きです。
3. 照明の違い
実体顕微鏡において、試料を最適な状態で観察するためには、照明の選択も重要です。使用する顕微鏡と観察の目的に合った照明を選択する必要があります。照明の種類としては、明るく均一に光を当てることのできるリングライト、影の生じにくいニアバーチカル照明、フラットで光反射率の高い試料の観察に適した同軸照明などが挙げられます。なお、光源としてはハロゲンランプ、LEDが一般的に用いられます。
4. 実体顕微鏡の倍率
顕微鏡の倍率には対物倍率、総合倍率及びモニタ倍率の3種類があります。 対物倍率とは、対物レンズのみの倍率のことを指し、総合倍率とは、対物レンズの倍率と接眼レンズの倍率の積で表します。顕微鏡は、対物レンズで得られた像を、接眼レンズで拡大して観察することから、同じ総合倍率の像であっても、対物レンズの倍率の高い方が分解能は高く、より細かい点まで判別できるという特徴があります。モニタ倍率とは、モニタディスプレイに表示された際の倍率のことで、モニタに映し出されたときに何倍の大きさで見えるかを表します。 同じ倍率の数字でも、その倍率が何を表しているかによって見方は大きく変わります。
参考文献
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https://www.olympus-lifescience.com/ja/support/learn/02/029/
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https://xlab.leica-microsystems.com/blog/industrial/stereo_05jun
https://www.wraymer.net/magnificationofmicroscope/