葉面散布剤

葉面散布剤とは

葉面散布剤とは、農業で用いられる肥料の1種です。

一般的に植物は、土壌中の根から成長に必要な養分を吸収しますが、葉面からも養分を吸収することができます。この性質を利用したのが葉面散布剤です。

葉面散布剤を植物の葉に散布すると、植物が直接的に養分を吸収できるようになります。また、植物が弱っていたり、根にダメージがあったりする場合、根が十分に機能せずに必要な養分を根から吸収できないことがあります。その際、吸収が早く即効性の高い液肥である葉面散布剤が有効です。

葉面散布剤の使用用途

葉面散布剤は、植物の葉面に肥料を施すために使用されます。葉面散布剤の使用方法は、希釈した葉面散布剤を噴霧器等の機械を用いて散布するのが一般的です。

また、特定の植物の葉面に局所的に散布したい場合には、葉面散布剤を霧吹きに入れて、散布します。葉面散布剤を散布するタイミングは、早朝がよいと言われています。朝は植物の活動が活発になり、植物が効率よく養分を吸収できるためです。

もう1つの理由として、日射しが強い時に葉面散布剤を散布してしまうと、葉面散布剤の水分が乾燥して葉面で養分濃度が高くなりすぎてしまい、植物に障害が出てしまう可能性があることが挙げられます。それを避けるために、日射しがまだ強くない早朝に散布するのがよいとされています。

気温が30℃を超えているときは、葉面散布剤の使用を控えた方が無難です。また、雨の日は散布した葉面散布剤が流れ落ちてしまい効果が無くなってしまうので、雨の日の散布も控えることをおすすめします。

葉面散布剤の特徴

長所

葉面散布剤の長所は、水で希釈して使用するため、農薬も同時に希釈し混用すると、防除と追肥を同時に行えることです。しかし、使用する薬剤によって混用ができないものもあります。

また、即効性が高い点も長所の1つです。台風や豪雨などで作物が弱っているときは、葉面散布剤を使用すると、立ち直りが早くなります。このとき、防除も同時に行うと病気の予防にもつながります。

短所

葉面散布剤の短所は、希釈倍率を間違えて濃度が高くなってしまうと、作物に薬害を及ぼし、場合によっては枯れてしまう場合があることです。そのため、使用する際は希釈濃度に十分注意しなくてはなりません。

また、土壌に追肥するよりも効果が切れるのが早いという短所もあります。ただし、土壌への追肥とバランスよく使用することでより効果が期待できます。

葉面散布剤の選び方

作物が養分を吸収出来る量は、もっとも不足している栄養素によって影響を受けます。つまり1つの栄養素が不足しており、他の栄養素が十分にある状態でも、作物が吸収できる養分は不足している栄養素の量で決まってしまうということです。

栄養素のバランスを整えることが重要であるため、不足している養分を補える葉面散布剤を選ぶ必要があります。酸性土壌ではマグネシウムやカルシウムなどが作物に吸収されにくく、アルカリ性土壌では鉄、亜鉛マンガンなどが吸収されにくいとされています。

吸収されにくい栄養素を葉面散布剤で補給するのが効果的であるため、薬剤選びのために土壌のpHを測定することも有効です。

1. 日照不足で作物に元気が無い場合

梅雨時期など日照不足になると光合成量が減り、作物の成長が鈍くなります。このようなときは、アミノ酸を含む葉面残布剤が適しています。

2. 着果時期や花芽分化時期に該当する場合

果菜類の着果時期や花卉類の花芽分化時期はリン酸カリウムが多く要求されます。この時期に葉面散布剤でリン酸やカリウムを補給すると効果的です。

また、収穫時期も肥料を多く要求される時期なので、葉面散布剤を使用すると肥料切れ対策にもなります。

3. 葉の色が薄い・葉先が枯れている場合

葉の色が黄色くなっていたり、葉先が枯れたりしている状態では、肥料分が不足している可能性があります。窒素やリン酸、カリウム等の多量要素に加え、鉄やマグネシウム等の微量要素を含む葉面散布剤が効果的です。

葉面散布剤は即効性はありますが、効果が長続きするわけではないので、このような状態のときは土壌への追肥も同時に行うと、より効果的です。

忌避剤

忌避剤とは

忌避剤とは、人の生活にとって害のある生物を接近・侵入させないようにする時に使用する薬です。

別名でリペレント (英: repellent) とも呼ばれています。使用する対象生物としては主に、獣類、昆虫類、鳥類です。具体的には、昆虫類ではシラミ、カ、ダニなどで、獣類では、ウサギ、ネズミ、イノシシが挙げられます。また、鳥類としては、スズメ、カラス、ムクドリなどがあります。

忌避剤の使用用途

忌避剤は、人にとって害のある生物を避けるために使用します。有害な生物の中には、昆虫や獣類、鳥類など、多種多様な生物が含まれます。これからそれぞれの有害な生物に対応した忌避剤の使用用途について紹介します。

1. 昆虫類を対象とした忌避剤

昆虫類を対象とした忌避剤として、ジメチルフタレートやジエチルトルアミドなどの薬が使用されています。これら物質を含有するクリームを腕や顔に塗ることで、虫を近づけさせないようにします。

また、飛んでいる昆虫にはスプレーや据え置きタイプの忌避剤を使用すること、床下や隙間から侵入する虫には耐水性のある粉剤を使用することなど、昆虫の種類によって忌避剤を変えることが効果的です。

2. 獣類を対象とした忌避剤

獣類を対象とした忌避剤として、化学物質であるクレオソートやβナフトールが活用されています。この忌避剤には特有の刺激臭があり、ウサギ、ネズミ、イノシシを近づけさせないようにします。

その他の忌避剤として、多くの獣類の天敵であるオオカミの尿を使用した忌避剤もあります。野生動物の尿のため、畑や水田など、周りの土壌に悪影響を与えないメリットがあります。また、尿であるため特有の刺激臭がありますが、特に嗅覚が敏感な獣類には効果が高いです。

3. 鳥類を対象とした忌避剤

鳥類を対象とした忌避剤として、酸化第二鉄やテトラヒドロチオフェンなどの化学物質がよく用いられています。これらの忌避剤を畑や水田、果樹園へ散布することで、ムクドリ、カラスなどによる食害を防止することができます。その他に、鳥類の嫌がるにおいを天然成分で再現した忌避剤もあります。天然成分の忌避剤は、果樹園や水田の土壌に対する悪影響を与えないメリットがあります。

水田や畑以外に建物などで忌避剤を使用する場合は、屋根や手すりにつかまることが多いため、固形タイプやゲルタイプの忌避剤も販売されています。

忌避剤の特徴

長所

忌避剤を使用する最大のメリットとして、有害生物が侵入できなくなることが挙げられます。

使用する場所や対象の有害生物によって様々な忌避剤が販売されています。取扱説明書をよく読み、正しく使用すれば対象の有害生物を近づかせず、侵入を防止することが可能です。

短所

忌避剤を使用するデメリットとしては、コストがかかることが挙げられます。

対象生物の種類や使用する場所によって忌避剤の価格は変動しますが、一般的にはコストが高いものほど効果が高いです。また、乳幼児やペットが暮らしている家で忌避剤を使用する場合、誤って乳幼児やペットが忌避剤を食べてしまうことが考えられます。忌避剤を使用する場所の決定はよく考えて行う必要があります。

忌避剤の種類

忌避剤には、固形・液体・スプレータイプなどの種類があるため、使用する場所や対象生物に応じて決定する必要があります。例えば、対象生物が細い抜け道を通ることが分かっている場合、固形エサタイプの忌避剤を置くと、対象生物が警戒していない限り、確実に仕留めることができます。

しかし、水田や畑などの広い範囲に現れる生物の場合は固形タイプの忌避剤よりも、液体・スプレータイプの忌避剤が有効的です。固形タイプの忌避剤では、他のルートを通って気づかない場合があるためです。使用する場所や対象の生物によって適切に忌避剤を使い分けることで、効果を上げることができます。

フラワーネット

フラワーネットとは

フラワーネット

フラワーネットとは、作物を栽培する時に使用される農業用ネットです。

花や作物を栽培する際に、畑にネットを張ることで、花や作物が倒れるのを防止します。また、作物を真っすぐ生長させるためにも利用されます。

フラワーネットの使用用途

フラワーネットは作物が倒れず、真っすぐ成長させるために使用します。まっすぐ作物を成長させることは、成長の促進だけでなく、出荷時の見栄えの良さにもつながります。

フラワーネットが使用される主な農作物として、花の場合は菊、ユリ、リンドウなどが挙げられます。野菜の場合は、アスパラガスやネギの栽培などです。

各植物は成長して大きくなるため、それぞれの成長に合わせて、フラワーネットの位置を高くしていく必要があります。

フラワーネットの特徴

長所

フラワーネットの長所は、農作物の転倒を防止し、まっすぐな成長を促進できることです。まっすぐな成長させるのは、植物自体の価値を高めることにつながります。

例えば、まっすぐなアスパラガスと曲がったアスパラガスとでは、まっすぐなアスパラガスの方が価値が高く、販売価格も高く設定されます。曲がったアスパラガスも販売することはできますが、訳あり作物として安く売られてしまいます。そのため、規格にあったアスパラガスを生産することは、栽培者にとって非常に重要です。

また、フラワーネットの主な原料はポリエチレンであり、耐久性、耐候性、耐薬品性などの特性に優れている点も長所の一つです。非常に丈夫で軽く、扱いやすい資材のであるため、農作物を育てる上で重宝します。

短所

フラワーネットの短所は、設置する際に手間がかかることです。また、フラワーネットはネットのみで販売されている場合が多く、ネットに加えて、支柱や釘等を追加で用意する必要があります。

そのため、コストがかかることも短所として挙げられます。しかし、製品によっては、フラワーネットとセットで支柱が販売されている場合もあるため、初めてフラワーネットを使用したり、少しでも費用を抑えたりしたい方はセットでの購入がおすすめです。

フラワーネットの種類

フラワーネットの種類は、以下で紹介する3つのポイントによって分類できます。

1. 目の大きさによる分類

目の大きさが小さいものから大きいものまで、製品によってさまざまです。フラワーネットの目の大きさは、生育間隔や作物の種類、栽培環境によって、選択する必要があります。

2. 色による分類

フラワーネットの色には、黒色や緑色、黄色などの種類があります。それぞれの色によって、特性が異なります。

例えば、黒色のフラワーネットは、太陽の光による劣化や硬化に強く、耐用年数が長いです。緑色のフラワーネットは、植物と同じ色のため、目が疲れにくく、馴染みやすいのが特徴です。

黄色のフラワーネットは目立つため、どこにネットが張ってあるか見つけやすいです。

3. 糸の太さによる分類

フラワーネットには、複数の糸で作成されたネットと単糸で作成されたネットがあります。複数の糸から形成されたネットは、糸が太いため、植物が大きくなっても植物を支えることができます。

一方で、単糸のネットは扱いやすいですが、大きな植物の場合だと支えられない可能性があります。そのため、小さな植物や花を支える際におすすめです。

フラワーネットのその他情報

フラワーネットの応用

フラワーネットは前述した通り、野菜や果実を支えるネットとしても使用することが可能です。フラワーネットと似ている製品で、ゴーヤやなすなどの野菜によって使い分ける専用のネットも販売されています。

野菜の栽培では、支柱とヒモを結び、植物を支えることがあります。フラワーネットを使用することで、その手間を軽減することが可能です。成長に伴って位置をずらし、枝や葉を整備するだけで、バランスよく成長させることができます。

フラワーネットは、簡単に多くの作物を生育させる際に、必要不可欠な農業資材です。

シングルセル解析

監修:Blacktrace Japan株式会社

シングルセル解析とは

従来細胞集団は均質であると考えられていましたが、近年のゲノム解析技術の進歩により個々の細胞を分離し解析すると、同じ細胞集団でも不均質である事が明らかになっています。

これまでの細胞集団を基にした遺伝子解析では、細胞集団の平均値となり、個々の細胞にある特徴的なデータが考慮されません。個々の細胞を解析する事で、個々の細胞の特長を掴み、がん研究、免疫学や薬剤投与後の細胞応答など創薬研究への応用にもつながっています。

シングルセル解析

細胞をシングルセルに分離する方法

マニュアル操作による細胞のピッキングでシングルセル化も可能ですが、スループットは低くなります。ハイスループット処理のため、マイクロフルイディクスを利用し1個の細胞だけが入るチャンバーで捕捉する方法も利用されてきましたが、捕捉できる個数はトラップを作成するプレート面積が制限となり処理数は数百個程度が上限でした。さらにシングルセルの処理個数を増大させるため、ドロップレットベースの細胞分離システムが近年は主流になってきています。

ドロップレット(液滴)ベースの細胞分離では、連続相にフッ素油、分散相としてハイドロゲルや溶解バッファを用います。1秒当たり数千個のドロップレット(液滴)を作成しその中に1細胞をカプセル化します。

ハイドロゲルでカプセル化する場合は、3D 培養や細胞応答、FACSの前処理。mRNAをキャプチャする専用のバーコードビーズと細胞をペアにしてカプセル化する場合は、遺伝子発現解析の前処理にします。

細胞をシングルセルに分離するドロップレットベースの原理

マイクロ流路に細胞懸濁液と細胞溶解液、連続相としてフッ素油を送液し液滴をジャンクションチップで作製します。細胞が液滴の中で溶解されるように液滴で細胞懸濁液と溶解液はカプセル化する直前に混合します。

細胞をシングルセルに分離するドロップレットベースの原理

液滴作成の動画

本記事はシングルセル解析システムを販売するBlacktrace Japan株式会社様に監修を頂きました。

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マイクロフルイディクス

監修:Blacktrace Japan株式会社

マイクロフルイディクスとは

マイクロフルイディクスは、幅が1マイクロメートル~1ミリメートル程度のマイクロ流路幅に流体の流れを作ることをいいます。

マイクロ流路というスケールの違いから、マイクロ空間では一般的な流体力学の法則の重力や慣性力の効果より、表面張力や粘性の方が支配的です。

マイクロ流路は、半導体微細加工技術を利用して作成され、マイクロ空間というメリットを活用し、試薬使用量を削減し、反応を効率化します。マイクロ流路デバイスや周辺機器の小型化、反応温度エネルギー削減、マイクロ空間での電気化学、センサーの統合、自動化など工学技術を組み込み様々な応用分野で活用されています。

マイクロフルイディクスの使用用途

マイクロ流路を用いた2流体混合で化学反応を行うと、比表面積が大きいため分子の拡散による効果が大きくバッチ法と比較して高速で混合できます。

不混和相液体をマイクロ流路に送液する事で単分散液滴を作製し、医薬品や化粧品に応用する事や、細胞を液滴にカプセル化する事で、極めて小さな試験管やシャーレと見立てて培養を行う事、細胞をカプセル化した液滴をFACSやシーケンサと組み合わせハイスループット解析を行う事などにも実用化されています。

マイクロフルイディクスを用いた液滴作成

アプリケーションに合わせて様々な形状のマイクロ流路が開発されています。マイクロ流路に用いられる材質はPDMS、ガラス、プラスチックです。液滴を作成する部分は、一般的にクロス型のマイクロ流路が用いられます。送液流体は、分散相と連続相が不混和な組合せで用います。

下記写真の場合、連続相は、上下のチャンネルから流れジャンクション部分に到達します。液滴として生成する溶液は左側中央部から導入されています。ジャンクション部では、剪断力により液滴相のチャンネルの溶液が上下から挟まれ、切断されるようにマイクロ液滴が生成されます。

2種の流体の流速比率で、液滴の大きさが制御できます。 各々の流体の流量を大きくすることで、1秒当たりの液滴の作製個数を向上させることができますが、流速が早すぎると液滴が形成できずにジェット流となってしまいます。

 

マイクロフルイディクスを用いた液滴作成

マイクロフルイディクス参考動画

細胞のカプセル化

本記事はマイクロフルイディクス応用製品を販売するBlacktrace Japan株式会社に監修を頂きました。

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脂質ナノ粒子

監修: Blacktrace Japan株式会社

脂質ナノ粒子とは

脂質ナノ粒子(LNP)とはナノサイズの脂質を主成分とする粒子です。医薬品において中心部の水溶性部に核酸医薬や水溶性薬剤を、疎水性部には脂溶性薬剤が導入できます。

 脂質ナノ粒子サイズを制御する事や粒子表面に抗体などを修飾する事で対象とする組織へ医薬品を送達するドラッグデリバリーシステム(DDS)に利用されています。脂質ナノ粒子内部に医療ガスを閉じ込めたナノガスバブルの医薬品開発も行われています。

脂質ナノ粒子の使用用途

癌に薬物を送達させる方法の一つとして脂質ナノ粒子製剤を用いる方法が開発されています。近年では、COVID-19用のワクチンの1種として、脂質ナノ粒子にウィルスのタンパク質の基になるmRNAを内包する形で設計された医薬品も開発されました。

マイクロ流体技術を用いた脂質ナノ粒子作製の利点と原理

狭い粒度分布を持つ単分散リポソームや脂質ナノ粒子を製造し、再現性を得ることは、製薬にとって極めて重要です。薬物送達と薬物放出制御で、粒子径などのパラメータが薬物の取り込みと排出速度に影響するため、スケーラブルな製造プロセスの開発の必要性があります。

一般的にバッチ処理では、合成プロセスの制御が難しく、粒子凝集が発生し粒度分布が広くなることがあります。対照的に、マイクロ流体技術法は、従来のバッチ法より良い制御を達成できる可能性が示されています。レイノルズ数が低く、拡散が支配的な典型的なマイクロ流体工学の特性により、脂質ナノ粒子製造に適した方法の一つであるといえます。

下記は、マイクロ流路を利用した脂質ナノ粒子作製法の一例を図示しています。水溶性流体が脂質をエタノールメタノールなどに溶解した流体にマイクロ流路で合流します。水とエタノールが流路で合流する事で脂質粒子が自己形成されます。この水溶性流体と脂質溶解流体の混合比率、合計流速を変化させることで粒子のサイズの制御ができます。

マイクロ流路を利用した脂質ナノ粒子作製法

マイクロ流路を利用した脂質ナノ粒子作製法

脂質ナノ粒子作製の動画

Automated Lipid Nanoparticle Formulation Library Generation for Vaccine Development ワクチン開発のための自動脂質ナノ粒子製剤ライブラリーの生成

本記事は脂質ナノ粒子作成システムを販売するBlacktrace Japan株式会社様に監修を頂きました。

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荷崩れ防止

荷崩れ防止とは

荷崩れ防止

荷崩れの防止とは、パレット上の貨物や荷台の貨物、倉庫の在庫品などの荷を崩れないようにするための方法を指します。荷崩れによる労働災害は、人的被害はもちろんのこと、崩れた荷にも損害が発生してしまい、甚大な被害の原因となります。

国内においては、荷崩れによる災害から労働者を守るために一定の行動に伴った規則が定められています。そのなかでも荷崩れ防止に関する規則は、労働安全衛生規則(以下、安衛則)によって取り決められています。

例えば安衛則の第151条第10項の第1号から第2号では、車両系荷役運搬機械などに荷を積載するときには、偏荷重が生じないように積載することや不整地運搬車もしくは構内運搬車、貨物自動車にあたっては、荷崩れまたは荷の落下に伴う労働者の危険を防ぐために、荷に対してロープもしくはシートをかけるなどの必要な措置を講ずる必要があると定められています。

荷崩れ防止の使用用途

荷崩れを防ぐためには、一般的に荷に対してロープやシートにより荷を固定することで荷の落下などを防止します。そして、荷を固定したことによって、荷の重心が一定に保たれることからバランスを崩すリスクも低減されます。

昨今では、荷崩れを防止する製品も進化しており、伸縮自在なバンドやベルトが販売されていたり、荷崩れ防止用の接着剤を塗布する方法、もしくは荷の置き場を防護柵で囲う方法などがあります。

伸縮自在なバンドなどは、これまでのフィルム材などによる何重にも重ねて荷物を固定する方法とは異なっており、荷に対してバンドを一周させるだけでワンタッチロックが可能になっています。バンド部は、伸縮が可能な特殊な繊維で構成されていて、多くの荷において活用することができます。

荷崩れ防止用の接着剤を活用した固定方法では、荷の上部に水溶性の接着剤などを塗布することにより、横揺れに対して抵抗力を発揮させます。これは接着剤を塗布したことで荷同士の摩擦力が高まり、荷が滑り落ちることを防ぎます。

荷の置き場を防護柵で囲う方法は、荷の置き場が常に固定されており、荷が集約する場合において効果を発揮します。また、この方法は、荷が重い場合においても活用することが可能で荷崩れが生じてしまった際に安全性が高い点もメリットとして挙げられます。

荷崩れ防止の原理

2013年の厚生労働省の公表では、陸上貨物運送事業における荷役作業時の死亡災害のうち、荷崩れが原因となった災害は、全体のうち19.3%を占めていました。このほかの項目では、転落や脱落が約21%、フォークリフト使用時が約17%、無人暴走が約16%、後退時が約5%、そのほかが約21%となっています。

このように荷崩れによる災害は、人の命を脅かし、実際の事故も発生していることが分かります。そのため、厚生労働省からも陸上貨物運送事業において、荷崩れを防止する方法や注意点について、ホームページから公表しています。

同公表では、荷崩れによる労働災害を防ぐためのポイントとして、脱落時保護用の保護帽を必ず着用することや荷の積付け時には、積荷の状態を確認することが重要であると記載されています。

積付け時にバランスの悪い荷の配置を行ってしまうと、積みおろし時に非常に危険になります。したがって、積付けを行う際には、積みおろし時の配慮を行いながら作業に取り組むことが大切です。

また、そのほかにもフォークリフトで荷を持ち上げた際に荷物が崩れることにより、労働災害が発生する事例も前述した通りに約17%も発生しています。このことから荷の状態を確認することはもちろんのこと、作業手順書を作成したり、複数の作業者で荷役作業を行う場合においては、作業指揮者を配置することも大切なポイントです。

安全通路

安全通路とは

安全通路

安全通路とは作業場、もしくは作業場に通じる場所に設けられる労働者が使用するための安全な通路のことです。

安全通路を設けることは労働安全衛生規則で定められており、本規則で事業者は労働者の安全を確保するために通路の幅や床面などを安全な状態にすることを求められています。

通路は作業を行う場所では無いですが、労働災害が起こらない場所というわけではありません。例えば静岡労働局・労働基準監督署が発行しているパンフレットでは労働災害のうち約22%が通路などにおける転倒災害であると記載されています。そのため、通路での労働災害も防ぐことは安全な職場環境を構築する上で非常に重要な要素の一つです。

安全通路と労働安全衛生法

前述の通り、労働者の安全を守るため労働安全衛生法に基づいた労働安全衛生規則(以下、安衛則)にのっとり、通路や足場に関する規則が取り決められています。

例えば第540条では、事業者は、作業場に通ずる場所及び作業場には、労働者が使用するための安全な通路を設け、かつ、これを常時有効に保持しなければならないと定めています。

また同条の第2号では、前項の通路で主要なものには、これを保持するため、通路であることを示す表示をしなければならないとしています。

その他、照明や採光の確保、機械間に設ける通路の幅、床面がつまずきやすべりといった危険が無いこと等が本規則で求められており、事業者はこれらの安全通路に関する基準を遵守しなければなりません。

安全通路の規定

通路の安全に関する規則は主に安衛則の第540条から第575条に記載されています。

例えば安衛則の第542条では屋内に設ける通路に関して定めており、第1項で事業者へ用途に応じた幅を有する通路を設定することを求め、第2項では通路面をつまずきやすべり、踏み抜きなどの危険がない状態に保持することが取り決められています。

また第3項では通路面から1.8メートル以内の高さに障害物を置かないことが求められています。

また、安衛則の他の条項にも通路に関する規則が定められており、事業者はこれらも遵守しなければなりません。

例えば安衛則第338条の第1項では仮設の配線もしくは移動電線を通路面において使用してはならないと定められています。

ただし車両やその他のものが当該配線または移動電線の上を通過しないなど、配線の絶縁被覆の損傷のおそれがない場合は例外的に通路面に設置することが認められます。

  • 安全通路の色

    安衛則において、安全通路に用いる色については規定されておりません。ただし、日本工業規格(JIS)では安全色彩(安全色)が規定されており、通路は白で表すことになっています。例えば通路の区画線、方向線、誘導線は白で示されています。

    床面に通路の区画線などを引いて表示する際は経時的に剥がれる場合に備えて定期的に線を引き直すことが重要です。また、区画線の上に物を置くなど、線が見えない状態にならないように定期的に作業場の整理整頓を行う必要もあります。

  • 安全通路の幅

    前述の通り、安衛則では通路面から1.8メートル以内の高さに障害物を置かないことが求められています。さらに安衛則543条では機械間、または機械と他の設備との間の通路は幅80センチメートル以上にしなければなりません。

    実際に通路の幅を80cm以下にしていた場所で労働災害が発生し、事業者が書類送検されたという事例も発生しています。

  • 安全通路の表示

    安全通路や避難用の通路、出入り口はわかりやすく表示する必要があります。

    例えば標識やマーキングなどによる見える化が一般的に行われており、「安全」を表す安全色彩である緑を基調とした看板が販売されています。代表的なものとしては非常口を示す看板などが挙げられます。

    実際に設置する際は作業上のレイアウトや広さに応じて遠くからも認識できるサイズ、デザインであることが必要です。

    その他、安全通路を示す表示には初めて作業場に訪れた人や経験が浅い人でもすぐに認識できること、人間の目線の高さなど作業者が読み取りやすい位置に設置できることなどが求められます。

カテゴリー
絶対に触らないでください(日本会社ニュース)

Metoreeの経営アドバイザーとして株式会社リコー CDIO付DXエグゼクティブ・早稲田大学客員教授の飯野将人と早稲田大学客員教授・名古屋大学客員准教授の堤孝志が就任しました

引き続き、製造業含め企業間取引全体のDX化に貢献できるよう邁進して参ります。

SKD11

SKD11とは

SKD11とは、JIS (日本産業規格) によって定められた合金工具鋼の一種です。

ダイスや金型などの精密な部品を製造するために使用され、非常に高い硬度と強度を備えています。SKD11はクロム、モリブデン、バナジウム、炭素などの合金化元素を含んでいて、非常に高い硬度、耐摩耗性、耐食性、強度、加工性、熱処理性能を持っています。

また、鋼材の品質が高く構造が均一なため、優れた切削性と加工性を持ちます。熱処理によって硬度を調整でき、高い硬度と強度を備えた部品を製造できます。

SKD11の使用用途

1. プレス金型

プレス金型は、金属板を加工するための金型です。下記のような種類があります。

  • 自動車部品用金型
    ドアパネル、フロアパネル、ルーフパネルなどのプレス金型
  • 家電製品用金型
    冷蔵庫、洗濯機、エアコン、テレビなどの製造に使用されるプレス金型
  • 精密部品用金型
    スマートフォンやタブレット端末などの精密部品を製造するためのプレス金型

2. 切削加工用の工具

切削加工用の工具にはドリルビット、タップ、ミーリングカッター、バイトなどの種類があります。

ドリルビットとは金属や木材などの素材に穴を開けるための工具の一種で、先端に尖った刃がついた円柱形の棒状の工具です。回転させながら素材に穴を開けられます。

タップは金属などの素材に内部へのねじ穴を作る工具の一種で、先端に刃がついた棒状の工具です。ねじ山の形状に合わせて刃がついており、回転しながら素材内部にねじ山を切り込んでいきます。

ミーリングカッターとは、金属加工などにおいて平面や複雑な形状を削り出すために用いられる工具の一種です。回転する軸に取り付けられた刃を使用して、加工対象物の表面を削り取れます。

3. 金属成形加工における各種工具

金属成形加工における各種工具にはエキストルージョンダイ、ノズル、ウォームギヤカッターなどがあります。エキストルージョンダイ (英: Extrusion Die) とは、アルミニウムや銅などの金属材料を加熱・圧力をかけて長尺形状に成形する際に用いられる金型のことです。具体的には金属材料を加熱した後、専用のプレス機によってエキストルージョンダイに圧力をかけ、ダイの形状に沿って材料を押し出し、所定の形状に加工できます。

ウォームギヤカッター (英: Worm Gear Cutter) は、ウォームギアを製造するために使用される工具です。ウォームギアは軸が90度傾いているギアで、回転運動を直進運動に変換する際に使用されます。

4. 冷間鍛造用金型

冷間鍛造用金型の種類は主に自動車部品用金型で、ドアヒンジ、ステアリング部品などがあります。

5. 金型締結部品

ボルト、ナット、ワッシャーなどの種類があります。金型締結部品のワッシャー (英: Washer) は、金型締結用の部品で、ボルトやナットと共に使用され、金型の締結に必要な力を均等に分散させます。

6. 削り出し工具

フライス刃、リーマ、ブローチ、ボールエンドミルなどの種類があります。

フライス刃とは、フライス加工に使用される工具の切れ刃部分のことです。複数の刃を持った刃物で、切削加工に使用されます。フライス加工とは、フライス盤と呼ばれる工作機械を用いて、金属やプラスチックなどの材料を削り出す加工方法の1つです。フライス盤は、高速回転する主軸に取り付けられたフライス刃を用いて材料を切削加工します。

リーマ (英: Reamer) は、穴の内径を精度良く仕上げるための工具で、刃物工具の一種です。リーマは主に金属加工で使用されます。ブローチ (英: Broach) は、穴や溝などの内部形状を加工するための工具で、刃物工具の一種です。ボールエンドミル (英: Ball End Mill) は、フライス加工に使用される工具の一種で、球状の刃先を持つミルです。

7. 線材押出し用ダイ

線材押出し用ダイ (英: Wire Extrusion Die) とは、金属線材を押出して形成する際に使用される金型のことです。線材押出しは、金属線材を加熱して押し出すことで、所定の断面形状や直径に加工する技術です。

8. タップ

タップ (英: Tap) は、内部ねじを作るための工具の1つで、金属板やパイプなどに対して、ねじ山を切り込んでねじを形成するために使用されます。タップは、ねじ山を切削するための刃を持ち、専用のハンドルなどを用いて使用します。

9. ダイス

ダイス(英: Die) は、金属加工において、金属材料を所定の形状に成形するために用いられる工具の一種で、一般的には鋼材や超硬合金などで作られます。ダイスには、押出しダイス、鍛造ダイス、プレスダイスなどの種類があります。

10. バリ取り刃

バリ取り刃 (英: Deburring Blade) は、金属部品やプラスチック部品の加工において、切削面や穴あけ面などにできるバリ (切削刃や凸部) を取り除くための工具の一種です。

SKD11の性質

1. 化学組成

  • 炭素 (C) : 1.40%~1.60%
  • シリコン (Si) : 0.40%以下
  • マンガン (Mn) : 0.60%以下
  • リン (P) : 0.030%以下
  • 硫黄 (S) : 0.030%以下
  • クロム (Cr) : 11.00%~13.00%
  • モリブデン (Mo) : 0.80%~1.20%
  • バナジウム (V) : 0.20%~0.50%

2. 硬度、耐摩耗性、切削性、加工性

SKD11の高い硬度、耐摩耗性、切削性、加工性については下記の通りです。

炭素含有量の高さ
SKD11は炭素含有量が高く、これにより炭素と鉄が化合して非常に硬いセメンタイトを形成します。炭素含有量が多いほど、セメンタイトの量が多くなり、硬度が高くなります。セメンタイト (英: cementite) は、鉄と炭素から構成される鉄鋼材料中に存在する固体溶液の一種です。セメンタイトは非常に硬く、鋼材料中での硬さを担う主要な成分の1つです。また、鋼材料中の炭素が過剰に存在すると、セメンタイトの量が増え、鋼材料の硬度が上がります。

鋼材料の中で一定量以上存在すると脆くなり、鋼材料の機械的性質を悪化させるため、極端な炭素の過剰添加は避けなければなりません。しかし、適切な量のセメンタイトを含む鋼材料は、硬度や耐摩耗性が高く、切削加工や研削加工などの加工性能に優れます。また、適切な熱処理によってセメンタイトの分布や量を制御し、鋼材料の性質を調整できます。

合金元素の添加
SKD11に含まれるクロム、モリブデン、バナジウムなどの合金元素が形成する微小なカーバイドは、非常に硬く、耐摩耗性や耐熱性に優れているのが特徴です。SKD11に含まれるクロムは、特にカーバイドの形成に重要な役割を果たします。

カーバイドとは、炭素と金属元素からなる化合物で、非常に硬く、耐摩耗性や耐熱性に優れた物質です。一般に、金属の中に微小なカーバイドの粒子を分散させることで、硬度や耐摩耗性、耐熱性を向上させられます。

冷間加工性
SKD11は、冷間加工性に優れています。SKD11の加工工程 (鍛造や圧延) や熱処理により、SKD11の微細組織が均一化されるためです。

熱処理による硬化
SKD11は熱処理によって硬化されます。鋼材中の組織を変化させることで、硬度を調整できます。

3. 耐熱性

SKD11は耐熱性に優れています。SKD11に含まれるクロム、モリブデン、バナジウムなどの合金化元素は、高温下で安定したカーバイドを形成でき、熱膨張率が低いため、高温下でも熱変形が少なくなります。また、炭素の含有量が高いため高温下でも硬度を維持できます。炭素鋼は、高温になると軟らかくなるため、高温下での使用には不適切です。しかしSKD11の炭素の含有量は、通常の炭素鋼よりも高いため、高温下でも硬度を維持できます。

さらにSKD11は熱処理によって組織を調整できるため、高温下でも変形や破損が起こりにく材料です。熱処理によって鋼材中の組織を均一にし、微細なカーバイドを分散できます。また、熱処理によって鋼材中の残留応力を除去できるため、高温下での変形や破損を抑制できます。

4. 耐食性

SKD11は、耐食性には優れていません。SKD11は炭素鋼に分類され、鉄には錆が生じるため、長期間湿気にさらされた場合や腐食性のある環境で使用された場合には、錆びが発生しやすくなります。特に塩水や化学薬品などに長期間さらされる場合に発生します。

そのため、SKD11を使用する場合は耐食性の向上を図るために表面処理が必要です。一般的な表面処理方法には、クロムメッキやニッケルメッキ、電気泳動塗装、高分子塗装などがあります。これらの表面処理はSKD11表面に皮膜を形成させて、耐食性を向上できます。

5. 加工や研磨が困難

SKD1は、高い硬度や耐摩耗性を持つため、加工や研磨が難しい材料です。SKD11を加工する方法の例は以下の通りです。

切削加工
SKD11を切削加工する場合は、超硬チップを使用したハイスピード切削工具を選択することが重要です。切削条件を適切に設定することで、切削精度を向上できます。切削加工は、旋盤やフライス盤を使用することが一般的です。

研削
SKD11を研削する場合は、ダイヤモンドホイールを使用することが一般的です。ダイヤモンドホイールは、耐摩耗性が高いため、精度の高い研削加工を実現できます。

放電加工
電気放電加工は、加工対象となるSKD11部品と電極を電気的に接触させ、高周波電気放電によって部品表面を加工する方法です。SKD11のような硬い材料を加工する場合には、電気放電加工が有効な方法となります。

レーザー加工
レーザー加工はSKD11のような硬い材料を加工する場合に有効な方法です。レーザー光を照射することで、SKD11の表面を蒸発させ、高精度かつ高速で加工できます。

SKD11のその他情報

SKD11の高温での性能

SKD11は一般的な合金工具鋼の中でも比較的高い耐熱性を持ちますが、特殊な工具鋼に比べると高温での性能が劣ることがあります。耐熱性に優れた特殊な工具鋼は高温下での変形や軟化が抑えられ、耐久性が向上するため高温の環境での使用に適しています。一方で、SKD11のような一般的な合金工具鋼は、高温下での変形や軟化が起こりやすく、高温での使用にはあまり適していません。

例えば切削加工などの加工過程では、切削速度や切削圧力などが高くなると加工面が高温になり、工具と材料の接触面でも高温が発生します。高温下での耐久性が求められる場合には、SKD11よりも耐熱性に優れた特殊な工具鋼を使用しなければなりません。

ただし、一般的な合金工具鋼であるSKD11でも、熱処理などによって硬度や耐熱性を改善できます。また、使用環境に合わせて適切な工具鋼を選定し、適切な使用条件を設定することで高温下でも十分な性能を発揮できます。

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