硫化アルミニウム

硫化アルミニウムとは

硫化アルミニウム (英:Alminum Sulfide) とは、化学式Al2S3で表されるアルミニウムと硫黄の化合物であり、無機化合物の1種です。

モル質量は150.2g/molです。その結晶構造は複数種類の結晶構造を持つことで知られていますが、主に六方最密充填構造を持ち、硫黄原子が中心に位置しています。

一般的には灰色の粉末状の固体です。密度は2.32g/cm2であり、水に沈みますが、水とは反応性があるので分解が進み、放置しても硫化アルミニウムとしては沈殿しません。

化学物質固有の番号であるCAS番号は、1302-81-4です。

硫化アルミニウムの使用用途

1. スーパーキャパシタ

硫化アルミニウムは、スーパーキャパシタの高い静電容量とエネルギー密度を実現するためのナノネットワーク構造の製造に使用されます。スーパーキャパシタとは、リチウムイオン電池やアルカリ電池などの二次電池の1種で、大容量の蓄電をすることが可能なデバイスです。

電池の電極に硫化アルミニウムを用いてナノネットワーク構造をつくることで、比表面積や導電率が改善され、高い静電容量とエネルギー密度を実現することができます。

2. 電池活物質

硫化アルミニウムは、高エネルギー密度のリチウム二次電池の活物質として利用されています。硫化アルミニウムの初期放電容量は約1,170mAh/gであり、これは硫黄の理論容量の62%相当です。

硫化アルミニウムを二次電池の正極材料として使用することで、高い電気容量を維持しつつ、サイクル寿命の向上や安全性の向上などが期待されています。

3. 熱放電型火薬

硫化アルミニウムは、熱放電型火薬の主要成分としても利用されます。燃焼することでアルミニウム酸化物と硫化水素を生成するため、煙幕や発光弾の製造へも利用可能です。

4. アルミニウムの製錬・精製

硫黄をアルミニウムに加えて加熱することで、硫化アルミニウムを生成します。これを水酸化アルミニウムと反応させることで、アルミニウムを精製可能です。

 

その他、硫化アルミニウムは、医療用途やセラミックス、化学製品の原料、水処理剤としても使用されます。しかし、水に対して非常に敏感な性質を持つため、取り扱いには注意が必要です。

硫化アルミニウムの性質

硫化アルミニウムは、硫化物の中でも融点が高く、1,050℃以上で融解します。このため、高温での反応に利用されることが多く、アルミニウムの製錬やセラミックスやガラスの原料として使用可能です。

さらに1,500℃まで昇温すると昇華します。硫化アルミニウムは、水にほとんど溶けません。しかし、酸性条件下では加水分解を受けて、水酸化アルミニウム硫化水素に分解するため、強酸と反応するという性質があります。

硬度は比較的高く、研磨剤や摩擦材料などの用途に利用されます。一方、温度が上昇すると分解しやすいため、この化合物は炭素やシリコンとともに用いられ、製鉄や他の産業分野で還元剤として使用されます。

硫化アルミニウムのその他情報

1. 硫化アルミニウムの安全性

硫化アルミニウムは、毒劇物取締法に定められた毒劇物や消防法で定められた危険物ではありません。しかし、水分と反応しやすく、反応した場合に硫化水素を発生させます。

硫化水素は強い腐卵臭を持ち、生物には毒性があり、さらに可燃性があり燃焼するので注意が必要です。また、皮膚刺激性と強い眼刺激性、呼吸器への刺激性があります。

取扱い時には適切な保護具を身に着けるべきです。万が一、皮膚や眼に付着、粉末を吸引したような場合は、多量の水で洗い流したうえで、速やかに医師の診察を受けることが奨められます。

2. 硫化アルミニウムの市場

硫化アルミニウムの世界市場規模は、水処理用途などでの需要拡大により成長を続けています。世界の硫化アルミニウムの市場規模は、2022年~2026年の間に16億7,000万米ドルの増加、予測期間中にCAGRで3.8%の成長が予測されています。

参考文献
https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB6685843.htm

硝酸銅

硝酸銅とは

硝酸銅とは、の硝酸塩です。

通常硝酸銅は、硝酸銅(II)のことを指します。無水物は青色の結晶で、水和物も青色です。学校などで水和物は、ダニエル電池 (英: Daniell cell) の演示実験に使用されます。

火災等の場合には一酸化炭素などが発生する可能性があり、毒性が強いため注意が必要です。毒劇法では劇物で、銅およびその化合物は安衛法で危険物および有害物に指定され、銅水溶性塩はPRTR法で第1種指定化学物質になっています。 

硝酸銅の使用用途

硝酸銅の用途は、銅めっきの原料、酸化剤、触媒を代表として多岐にわたります。花火の製造、医薬品や殺虫剤の原料、織物染色や印刷インクの媒染剤、銅イオンの供給源として分析用試薬にも硝酸銅が使われます。

農業関係では、土壌中の銅の欠乏防止を防ぐために利用可能です。殺菌剤・殺虫剤、除草剤、肥料や微量栄養素などにも使用されます。無水物の硝酸銅は吸湿性が高く、水分を吸収して青色の水和物になるため、水分の検出や脱水剤に利用できます。

硝酸銅溶液は鉄を腐食させるため、黒のアンティーク仕上げや亜鉛の茶色着色などに使用可能です。さらに、助燃効果を利用して、ロケット燃料の触媒として用いられます。また、自動車用のシーラントやコーキングでは、有機ケイ素化合物のニトロ化剤として硝酸銅溶液が使われています。

硝酸銅の性質

硝酸銅の無水物は揮発性の固体であり、真空中で210°Cで昇華します。水和物には化学式がCu(NO3)2・3H2Oの三水和物とCu(NO3)2・6H2Oの六水和物などがあります。三水和物の融点は114.5°Cです。硝酸銅の水和物は潮解性があり、水やエタノールによく溶けます。

水溶液で硝酸銅の水和物は、アクア錯体である[Cu(H2O)6]2+として存在します。ただし銅(II)のd9電子配置のために非常に不安定です。

硝酸銅の構造

硝酸銅は化学式でCu(NO3)2と表される無機化合物です。硝酸銅の無水物には、αとβの2つの多形が知られています。いずれも銅中心が酸素原子4つに囲まれた平面四角形構造を取っており、凝縮するとポリマーになります。α形には[4+1]配位の銅環境が1つしかありません。β形には2つの異なる銅中心があり、[4+1]配位と正方形の平面です。ニトロメタン溶媒中では、約200pmの4つの短いCu-O結合と240pmの1つの長い結合による[4+1]配位になっています。

三水和物のCu(NO3)2・3H2Oと六水和物のCu(NO3)2・6H2Oは、Cu-O距離がすべて等しいです。強い水素結合によって、Cu-O結合の弾性が制限されているためです。

Cu(NO3)2(H2O)2.5は銅中心が硝酸イオンと水に囲まれた正八面体構造を取っています。およそ170°Cで、酸化銅(II)、酸素、二酸化窒素に分解します。

硝酸銅のその他情報

1. 天然の硝酸銅

硝酸銅として鉱物には含まれていません。リカシ石 (英: Likasite) にCu3(NO3)(OH)5・2H2Oが、ブットゲンバッハ石 (英: Buttgenbachite) にCu19(NO3)2(OH)32Cl4・2H2Oが含まれています。

天然の塩基性硝酸銅には、希少鉱物のゲルハルト石 (英: Gerhardtite) やロウア石 (英: Rouaite) があり、どちらも Cu2(NO3)(OH)3の多形体です。

2. 硝酸銅の合成法

金属の銅を四酸化二窒素で処理すると、硝酸銅の無水物になります。硝酸銅の無水物の加水分解によって、硝酸銅の水和物が得られます。金属銅に希硝酸や硝酸銀水溶液を加えても、硝酸銅の水和物を生成可能です。

3. 硝酸銅の反応

硝酸銅の加熱で生じた気体を水に通すと硝酸が得られます。この反応はオストワルト法 (英: Ostwald process) の最終段階に似ています。

参考文献
https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB02130417.htm
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340CO0000000002

硝酸亜鉛

硝酸亜鉛とは

硝酸亜鉛 (英: Zinc nitrate) とは、亜鉛の硝酸塩で、組成式Zn(NO3)2 で表される無機化合物です。

通常、無水物より六水和物Zn(NO3)2 ・6H2Oの状態で流通していることが多い物質です。また、四水和物Zn(NO3)2 ・4H2Oも存在します。

無水物のCAS登録番号は7779-88-6、四水和物のCAS登録番号は9154-63-3、六水和物のCAS登録番号は10196-18-6です。

硝酸亜鉛の使用用途

硝酸亜鉛の主な用途は、医薬品原料、媒染剤、樹脂加工触媒です。また、その他の用途には分析試薬、金属表面処理剤、二次電池などもあります。

硝酸亜鉛はそれ自体は不燃性の物質ですが、可燃物を燃え上がらせたり、人体への危険性が大きいので取り扱いには注意が必要です。

硝酸亜鉛の性質

1. 硝酸亜鉛 (無水物) の基本情報

硝酸亜鉛 (無水物) の基本情報

図1. 硝酸亜鉛 (無水物) の基本情報

硝酸亜鉛の無水物の分子量は189.36、融点は110℃であり、常温での外観は無色の結晶です。多酸化作用が極めて強く、可燃性物質や金属の硫化物および還元性物質と激しく反応します。また、潮解性のある物質です。

2. 硝酸亜鉛 (六水和物) の基本情報

硝酸亜鉛 (六水和物) の基本情報 (1)

図2. 硝酸亜鉛 (六水和物) の基本情報

硝酸亜鉛六水和物の分子量は297.49、融点36.4℃、沸点105℃ (分解) であり、常温での外観は無色のフレーク状の結晶です。潮解性が有り、水およびエタノールに溶けやすいものの、エーテルには溶けません。水への溶解度は184.3g/100mL (20℃) であり、密度は2.065g/mLです。

硝酸亜鉛の種類

硝酸亜鉛は、一般的には主に六水和物として販売されています。研究開発用試薬製品や、産業用薬品として販売されている物質です。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、10g、25g 、500gなど、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。冷蔵保管が必要な製品として取り扱われることの多い物質です。

試薬製品独自の用途としては、プラズマ発光分光分析法及び原子吸光分光分析法により共存する不純物金属イオンを定量するのに用いられることがあります。

2. 産業用薬品

産業用薬品としては、20kgPE袋や、25kg紙袋など、比較的大型の容量で提供されています。結晶状態のほか、溶液で提供しているメーカーも存在します。分析試薬、金属表面処理剤、樹脂加工触媒、媒染剤をはじめとする多くの用途があるため、複数のメーカーから販売されている物質です。

硝酸亜鉛のその他情報

1. 硝酸亜鉛の合成

硝酸亜鉛の合成

図3. 硝酸亜鉛の合成

硝酸亜鉛は、亜鉛の単体、若しくは酸化亜鉛に対して硝酸を加えることにより合成が可能です。また、硝酸亜鉛の無水物は、塩化亜鉛と二酸化窒素の反応によって得ることができます。

2. 硝酸亜鉛の危険性と法規制情報

硝酸亜鉛は、それ自体は不燃性の物質ですが、火災を助長するおそれがある酸化性物質です。加熱による危険有害な分解生成物としては、窒素酸化物や亜鉛酸化物が挙げられます。また、人体へも有害な物質であり、経口摂取によって胃痙攣やチアノーゼなどの症状が現れるとされています。

その他の有害性には、皮膚刺激や眼刺激、呼吸器への刺激のおそれなどがあります。上記の有害性から、硝酸亜鉛は、毒物および劇物取締法で劇物に指定されています。

労働安全衛生法では危険物・酸化性のものに指定されており、消防法では 第1類酸化性固体、硝酸塩類に該当する物質です。化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) では、第1種指定化学物質に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7779-88-6.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10196-18-6.html
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340CO0000000002

硝酸リチウム

硝酸リチウムとは

硝酸リチウムとは、白色の結晶~結晶性粉末の無機化合物です。

硝酸リチウムの主な組成および成分情報は「化学式:LiNO3」「分子量:68.95」「CAS登録番号:7790-69-4」となります。

また、硝酸リチウムは、融点/凝固点が264℃で、水に溶けやすくエタノールにやや溶けやすい性質があります。

硝酸リチウムは、消防法で「危険物第一類・硝酸塩類・危険等級Ⅰ」、安衛法では「危険物・酸化性の物」、危規則で「酸化性物質類・酸化性物質」、航空法で「酸化性物質類・酸化性物質」に指定されています。

硝酸リチウムの使用用途

硝酸リチウムは、産業界では花火や窯業(ようぎょう)製品、セラミックの原料のほか、熱媒体としても利用されています。

また、硝酸リチウムは、分析におけるリチウムイオン供給源として使われるほか、蛍光X線分析用試料調製酸化剤や電池研究用といった実験試薬としての利用も行われています。

そのほか、硝酸リチウムは、今後、主流となりそうな勢いの電気自動車には欠かせない、リチウム二次電池の性能向上に寄与する正極活性物質として、その実用化が期待されています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0112-0123JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_7790-69-4.html
公開特許公報 公開番号 特開2022-017425

硝酸ビスマス

硝酸ビスマスとは

硝酸ビスマスとは、ビスマス (Bi) に硝酸イオンが3つついた構造をもつ化合物です。

分子式Bi(NO₃)₃・5H₂Oで表され、分子量は485.07g/molです。化学物質固有の番号であるCAS番号は、10035-06-0が割り当てられています。通常は、次硝酸ビスマスや、硝酸ビスマス五水和物の状態で使用されることが多いです。

通常の状態では、白色の結晶状態で安定していますが、融点が30℃なため、保管の際は温度管理が重要となります。硝酸ビスマスは、水やエタノールにはほとんど溶けませんが、希硝酸には溶けるという性質を持っています。

水溶液自体は酸性を示し、光により変質する恐れがあります。製造する際は、硝酸溶液と酸化物または塩基性硝酸ビスマスの相互作用により、金属ビスマスからビスマス五水和物を生産する方法をとる場合が多いです。

硝酸ビスマスの使用用途

硝酸ビスマスは、1940年代にペニシリンが発見されるまでは梅毒の治療薬として使用されることが多くありました。しかし、ペニシリンの発見以降は、不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸、フェニルエステルなどさまざまな化合物の合成材料として使用されるようになりました。

金属ビスマスは比較的安い粒状及び粉末として入手可能です。粒状のものはガラス細工で使用されるヤスリで削ることにより、有機合成飯能に必要や触媒としての使用が可能になります。ビスマスを含有した原料を触媒として使用することによって、高い活性が得られることが明らかになっています。

また、硝酸ビスマスを使用することで硝酸を原料として使用せずとも化合物の合成が可能です。さらに、ビスマス化合物は消化促進剤,整腸剤,腸炎,胃潰瘍などの内服、外傷。火傷などに外用する局所収飲剤として使用されます。特に硝酸ビスマスは、腸の粘膜の刺激緩和や抗炎症作用、腸運動抑制作用などによる下痢症状を改善する治療薬として有用です。

硝酸ビスマスがもつ強い収れん作用が腸の粘膜のタンパク質と結合して保護膜を作り、それにより炎症や粘膜への刺激が緩和されることで腸の蠕動運動が抑えられます。1日2gを2~3回服用することで効果があるとされています。しかし、嘔気、食欲不振、粘膜の青色または青黒色の着色などの副作用に注意が必要です。

硝酸ビスマスの性質

硝酸ビスマスは、消防法において「第1類酸化性固体 硝酸塩類 危険等級Ⅲ」に指定されています。不燃性の固体なので単独で燃焼することはありませんが、加熱・衝撃・摩擦を与えることで酸素を放出して燃焼を助長するという特徴を持っています。そのため、硝酸ビスマスは酸化剤として可燃物と混合することで発火して激しく燃焼する恐れがあり、取り扱いには注意が必要です。

硝酸ビスマスは、加熱すると分解して酸化ビスマスと窒素酸化物の毒性ガスを発するという性質を持っています。特に窒素酸化物濃度が高くなるにつれて、咳や痰が出やすくなるなど呼吸器疾患になるリスクが高くなります。そのため、使用する際は風通しの良い場所を選ぶのが望ましいです。

硝酸ビスマスのその他情報

1. 硝酸ビスマスの法規情報

  • 消防法: 第1類酸化性固体 硝酸塩類 危険等級Ⅲ
  • 毒物及び劇物取締法: 非該当
  • 化学物質排出管理促進法 (PRTR法): 非該当
  • 船舶安全法及び航空法: 酸化性物質類・酸化性物質
  • 労働安全衛生法: 危険物・酸化性の物
  • 水質汚濁防止法: 有害物質
  • 輸出貿易管理令: 非該当

2. 取扱い及び保管上の注意

  • 容器を遮光して直射日光を避け、換気のよい涼しい場所に密閉して保管する。
  • 有機物、可燃物、還元剤との混触を防ぐ。
  • ガラス容器での保管が望ましい。
  • 熱、火花、炎などの発火源から離して保管する。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0102-0200JGHEJP.pdf
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202002285602676534
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/47/5/47_5_425/_pdf

硝酸バリウム

硝酸バリウムとは

硝酸バリウムBa(NO3)2は、バリウムの硝酸塩であり、水に溶けやすい白色の結晶性粉末です。

分子量は261.34g/molであり、化学物質固有の番号であるCAS登録番号は10022-31-8が割り当てられています。

硝酸バリウムは、二硝酸バリウムやビス硝酸バリウムとも呼ばれる物質で、強い酸化剤であり燃焼を助ける性質を持ちます。花火や発煙筒などの発色剤や、ガラスや光学レンズの製造、電子部品の原料が主な用途です。水やアルコールに可溶で、希硝酸などの酸とも反応しますが、強アルカリ性の環境では沈殿を生じます。

硝酸バリウムの使用用途

硝酸バリウムの主な用途は以下の3つです。

1. 発色剤としての利用

硝酸バリウムは、燃焼時に鮮やかな緑色を発する特性があり、花火、発煙筒、信号弾の発色剤として広く使用されます。発色は、燃焼時にバリウムイオン (Ba2+) が励起され、特定の波長の光を放出することで生じます。

硝酸バリウムは酸化剤としての役割も果たし、燃焼を促進しながら安定した発色が可能です。塩素を含む化合物 (塩化バリウムなど) と併用すると、より鮮明な緑色が得られます。また、発煙筒や信号弾では、視認性の高い発色を活かし、海上や山岳地帯での遭難信号として利用されます。

2. ガラス・光学レンズの材料

硝酸バリウムは、高屈折率ガラスや光学ガラスの製造にも使用されます。一般的なガラスにバリウム成分を添加すると、屈折率や透明度が向上し、光の透過性や耐久性が高まります。カメラや望遠鏡の高性能レンズ、およびX線防護ガラスのが主な用途です。

バリウムを含むガラスは、重金属特有の高密度を持つため、放射線の遮蔽性も向上し、医療用や工業用の防護ガラスとしても利用されます。バリウムガラスは化学的安定性が高いため、光ファイバーや精密機器の光学部品としての応用も進められています。

3. 電子部品・セラミックスの原料

電子産業において、硝酸バリウムはバリウムフェライト (BaFe12O19) などの磁性材料の原料として使用されます。バリウムフェライトは、磁気記録媒体 (ハードディスク) やスピーカーの永久磁石に用いられ、耐久性・磁力の強さ・耐熱性に優れています。

また、硝酸バリウムは、バリウムチタン酸塩 (BaTiO3) の原料としても重要です。バリウムチタン酸塩は、高誘電率を持つセラミックコンデンサの製造に欠かせない材料であり、スマートフォンやパソコンなどの電子機器に広く使われています。

硝酸バリウムの性質

硝酸バリウムは、バリウムの硝酸塩に分類される無機化合物であり、化学的・物理的にさまざまな特徴を持っています。

1. 物理的性質

硝酸バリウムは、白色または無色の結晶性粉末で、密度は3.24 g/cm3 (25℃) です。結晶構造は単斜晶系であり、吸湿性は低いものの、高湿度環境下では水分を吸収する可能性があります。

融点は592℃であり、加熱すると分解を開始し、酸素と窒素酸化物を放出します。一般的に無臭ですが、微粉末状では静電気を帯びやすく、取り扱いに注意が必要です。水に溶けると中性を示し、透明な溶液を形成しますが、有機溶媒にはほとんど溶けません。

2. 化学的性質

硝酸バリウムは、強い酸化剤としての性質を持ち、可燃物と混合すると激しい燃焼や爆発を引き起こす可能性があります。特に、硫黄や炭素と混ざると急速に反応し、爆発的に燃焼しやすいです。酸とは容易に反応し、硝酸 (HNO3) や塩酸 (HCl) にはよく溶けてバリウムイオン (Ba2+) を放出します。

一方で、硫酸 (H2SO4) と反応すると難溶性の硫酸バリウム (BaSO4) が沈殿するため、硫酸イオン (SO42-) の定性分析に利用されます。また、炭酸ナトリウム (Na2CO3) と混ぜると炭酸バリウム (BaCO3) の白色沈殿を形成します。

3. 溶解性

硝酸バリウムは水に可溶で、20℃の水100mLあたり約5.9gが溶解します。温度が上昇すると溶解度も増加し、100℃では34.3g/100mLに達します。一方、アルコール (エタノールやメタノール) にはほとんど溶けず、有機溶媒には不溶です。

また、硝酸や塩酸には容易に溶けますが、硫酸には溶解せず、硫酸バリウムの沈殿が生じます。アルカリ性の環境では沈殿を形成することがあり、アンモニア水 (NH3) にはほぼ不溶です。溶解性の性質より、バリウムの定量分析や水質分析にも応用されます。

4. 熱分解性

硝酸バリウムは約592℃で分解を開始し、酸素 (O2) と二酸化窒素 (NO2) を放出します。酸素が供給されるため、可燃物との混合物は発火が容易です。

硝酸バリウムの熱分解によって生成される酸化バリウム (BaO) は、吸湿性が高く、空気中の二酸化炭素と反応して炭酸バリウム (BaCO3) を形成します。一部の化学プロセスではBaOを脱酸剤として用いることがあります。

5. 毒性と安全性

硝酸バリウムは人体に対して高い毒性を持ちます。経口摂取すると、消化管から速やかに吸収され、神経障害・筋肉けいれん・心拍異常・低カリウム血症などを引き起こします。

少量でも中毒の危険があり、体重あたり0.2~0.5 g/kgほどで致死量です。子どもやペットが誤飲すると重篤な症状を引き起こす可能性があるため、厳重な管理が必要です。

硝酸バリウムの構造

硝酸バリウムは、バリウムと硝酸イオンからなるイオン結晶であり、その構造は結晶状態と溶液中で異なります。

1. 結晶構造

硝酸バリウムは単斜晶系 (英: monoclinic system) の結晶構造を持つイオン結晶です。結晶内では、バリウムイオンが中心に配置され、硝酸イオンが周囲に配位しています。バリウムイオンは大きな陽イオンであり、通常6~8個の硝酸イオンと静電的に相互作用し規則正しい三次元格子構造が形成されます。

結晶の安定性は、Ba2+とNO3のクーロン力に依存しており、結晶格子のエネルギーが低いため、常温では安定した固体です。硝酸イオンは対称性の高い三角形構造を維持し、結晶全体の対称性を高める役割を果たします。

2. イオン配置と配位環境

結晶内では、Ba2+イオンが静電的な相互作用によって複数の硝酸イオンと結びつくため、各Ba2+イオンの周囲には複数のNO3イオンが配置されます。Ba2+は通常八面体型または十二面体型の配位環境をとり、硝酸イオンは非対称的です。

硝酸イオン自体は共鳴構造を持つため、各N-O結合の長さは均等になり、酸素原子がBa2+イオンと結びつく際にも一様な静電相互作用を示します。Ba2+は、イオン半径が大きいため、配位数が増加しやすいのが特徴です。

3. 溶液中の構造と水和イオン

水に溶解すると、硝酸バリウムは完全にイオン解離し、Ba2+とNO3の独立した水和イオンとして存在します。バリウムイオンは、6~8個の水分子と結びついて[Ba(H2O)6]2+のような水和イオンを形成します。

水和イオンは溶液中で安定に存在し、他の陰イオンとの結合を防ぐ役割を果たします。一方、硝酸イオンも水分子と相互作用しますが、Ba2+ほど強く水和するわけではありません。水和状態の違いにより、硝酸バリウムは溶媒の極性に依存して異なる挙動を示します。

硝酸バリウムのその他情報

1. 硝酸バリウムの法規情報

硝酸バリウムは、消防法において危険物第1類、硝酸塩類、危険等級Ⅲに分類され、火災や爆発のリスクがあるため取り扱いには注意が必要です。毒物及び劇物取締法では、硝酸バリウムは劇物に指定され、包装等級3に該当します。

化学物質排出管理促進法 (PRTR法) には該当しないため、排出規制の対象外です。また、船舶安全法及び航空法では、酸化性物質類に該当し、輸送時に酸化反応を起こす可能性があるため、適切な管理が求められます。

2. 取り扱いおよび保管時の注意点

硝酸バリウムを取り扱う際には、安全性を確保するためいくつかのポイントを守ることが重要です。屋外や換気の良い場所で保管し、酸化剤、還元剤、可燃物とは絶対に混ぜてはなりません。また、直射日光を避け、冷暗所で保管することで安定性を保てます。粉塵の発生が懸念される場所では、局所換気装置を使用し、空気を入れ替える必要があります。

炭酸銀

炭酸銀とは

炭酸銀とは、化学式Ag2CO3で表される銀の炭酸塩です (この化合物の銀は1価であるため炭酸銀 (Ⅰ) とも表記します) 。

常温では、うすい黄色~黄緑色をした粉末で存在しています。硝酸銀と水溶性の炭酸塩 (例えば炭酸アンモニウム) を混合することで合成されます。

通常、水系で混合され、生成した炭酸銀は水不溶の沈殿として回収されます。分子量は275.75、CAS登録番号は534-16-7です。

炭酸銀の使用用途

1. 触媒・試薬として

炭酸銀の主な使用用途は、触媒原料や試薬としての用途です。また、有機酸に溶解するため有機酸銀塩の原料にも使用されています。炭酸銀以外の有機酸銀塩も、合成直後は黄色を呈していますが、光に敏感に反応して暗色となります。

触媒として有名なものに、酸化反応をマイルドに進行させる触媒であるフェティゾン試薬 (Fétizon’s reagent) があります。これは、炭酸銀をセライトに保持させたものです。ただし、フェティゾン試薬の実験室における調製方法としては、硝酸銀水溶液にセライトを加え、のちに炭酸ナトリウムを加えることで炭酸銀とする方法が一般的です。

一方、Fétizon’s reagentの状態で販売されている試薬もあります。また、炭水化物誘導体の位置選択的ベンジル化の触媒に用いられるほか、オレフィンのパラジウム触媒によるオキシアリール化のための塩基としても用いられます。

その他、生体成分の染色 (病理検査時の検体の染色など) も用途の1つです。ただし、一般的な銀染色では、硝酸銀が銀試薬として用いられます。

2. 銀化合物として

メタリック塗装における銀鏡膜層形成組成液の銀化合物や、従来の「はんだ」に変わる導電性接着剤 (銀ペースト) の材料として使われています。

3. 可視光応答性化合物・光触媒として

可視光に反応する性質を利用し、可視光応答性の半導体や光触媒の原材料として使われています。

炭酸銀の性質

外観は、うすい黄色~黄緑色の粉末です。製品としては小塊になっていることもあります。合成直後はうすい黄色をしていますが、環境の空気や光にさらさされることで暗色化します。暗色化は部分的な酸化銀の生成や銀の遊離によるとされ、保管には遮光が重要です。

そのため、多くの市販品に褐色瓶が用いられています。炭酸銀は水にはほとんど溶けません。溶かし切るのに体積の30,000倍の冷水または体積の2,000倍の熱湯が必要です。

一方、稀硝酸、硫酸、アンモニア水、シアン化アルカリ溶液にはよく溶けるとされています。加熱していくと約210~220℃で分解し、酸化銀と二酸化炭素を生成します。さらに高温になると、単体の銀が生成します。また、光によって変質する恐れがあるため、保管には遮光が必要です。

炭酸銀のその他情報

毒性・危険性と適用法令

国内法規上の主な適用法令としては、毒劇法で「劇物・包装等級3」、大気汚染防止法では「有害大気汚染物質」に指定されています。経口投与時のLD50 (急性毒性) は3731mg/kg (Rat) であり、国連GHS分類では区分5とされています。

皮膚腐食性及び皮膚刺激性は区分2、目に対する重篤な損傷性又は眼刺激性は区分2Bであり、有害性を有します。そのため、取り扱いには手袋や保護眼鏡などの保護具が必要です。

強酸化剤と反応する可能性があるため、混在を避ける必要があります (法令上は強酸化剤の方が第1類または第6類危険物として規制されています) 。火災になった場合、完全燃焼により二酸化炭素、不完全燃焼により一酸化炭素が発生します。同時に銀の酸化物も生成し、いずれも人体に有害です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-1316JGHEJP.pdf

炭酸亜鉛

炭酸亜鉛とは

炭酸亜鉛は、亜鉛の炭酸塩で、三方晶の構造をを有する白い粉末状の物質です。通常は、塩基性炭酸亜鉛のことをいい、ZnCO3の分子式で表します。しかし、組成は安定しておらず、工業の分野では代表的な化学式である2ZnCO3・3Zn(OH)2・H2Oを使用しています。

炭酸亜鉛は、天然に産出するのは菱亜鉛鉱であり、加熱すると140℃で分解して酸化亜鉛と二酸化炭素を生成します。鉛塩水溶液に炭酸アルカリを加えて反応させると、塩基性炭酸亜鉛ができます。炭酸亜鉛は、水にほとんど溶けない特性を有します。

炭酸亜鉛の使用用途

炭酸亜鉛は、陶磁器の絵付け用の顔料や軟膏などの医薬品、食品添加物として使われます。また、木材の防火用に難燃化剤としても使われています。さらに、ゴムの配合原料や亜鉛メッキ用の原料、触媒など多くの用途があります。家畜用飼料の添加剤にも使われますが、家畜の亜鉛不足による食欲減退や成長不良を予防する効果があります。

炭酸亜鉛を加熱することで得られる酸化亜鉛は、液晶蛍光管用や紫外線遮蔽用など、応用用途があります。

鉄板や鉄骨には錆の防止用に亜鉛メッキが良く使われますが、亜鉛の表面が水分や大気に触れると、水酸化亜鉛の膜ができます。水酸化亜鉛が酸化すると炭酸亜鉛になり、錆の防止効果が出てきます。

参考文献
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_3486-35-9.html

炭酸セシウム

炭酸セシウムとは

炭酸セシウムとは、白色の粉末または塊状の結晶性固体で、セシウムの炭酸塩です。

組成式は Cs2CO3 (分子量 325.82、密度4.072) で、約 600℃で分解し、高温で加熱することにより不揮発性の分解生成物が生じます。

炭酸セシウムは強力な無機塩基や触媒として、有機合成において利用されます。カップリング反応の中でも、生成物の位置や立体配置を制御することが重要な場合に、反応の効率を向上させることができます。

炭酸セシウムの使用用途

炭酸セシウムは、その優れた反応性と触媒作用により、有機合成化学において不可欠な存在となっています。特に、複雑なカップリング反応であるHeck反応やSonogashira反応などで、他の塩基を凌駕する触媒効果を発揮することが知られています。炭酸セシウムは、単に塩基として機能するだけでなく、触媒としても利用できる点が大きな特徴です。高い塩基強度と反応性を兼ね備えているため、多様な化学反応を促進する役割を担っています。

近年、炭酸セシウムは有機電子材料の陰極としての応用が注目されています。この背景には、分解温度に達した炭酸セシウムが酸化セシウムと過酸化セシウムに分解され、これらが結合することでn型ドープが形成されるという特性があります。n型ドープとは、半導体中に不純物を添加して自由電子を増加させる技術です。炭酸セシウムの場合、分解によって生成される酸化セシウムと過酸化セシウムが結合することで、N型半導体に自由電子が供給され、電気伝導性が向上します。

この特性は、有機EL (OLED) や太陽電池などの電子部品において、電力変換効率の向上に大きく貢献します。炭酸セシウムは、エネルギー効率向上に貢献する化合物として、今後のさらなる応用が期待されており、活発な研究開発が進められているところです。

炭酸セシウムの性質

炭酸セシウムは、他のアルカリ金属の炭酸塩と比較して、有機溶媒への溶解度が高い点が特徴です。セシウムの原子半径が大きくて陽イオンとしての性質が強いため、炭酸塩の形をとっても電荷密度が低くなります。陰イオンと解離しやすいので、有機溶媒に溶解しやすくなります。ただし、炭酸セシウムの有機溶媒への溶解度は、溶媒の種類によって大きく異なります。極性の高い溶媒には溶けやすいですが、クロロベンゼンや p-キシレン、トルエンなどの低極性溶媒にはわずかしか溶けません。

極性の高い溶媒に溶けやすいという特性を活かし、炭酸セシウムは、他のアルカリ金属の炭酸塩では進行しにくい有機溶媒中での合成反応に利用されることが多くあります。

炭酸セシウムは、炭酸ナトリウムのような一般的な炭酸塩よりも塩基性が高く、反応性も高いですが、その一方、試薬としての価格が高いため、代替可能な加水分解反応などでは他の塩基が用いられることが多いです。

炭酸セシウムの構造

炭酸セシウムは、アルカリ金属のセシウムと炭酸イオンが結合した化合物であり、無水物と3つの水分子が配位した3水和物の2つの形態が存在します。 

セシウムは周期表の第6周期に属し、原子半径が非常に大きいことから、全ての元素の中で最も第一イオン化エネルギーが低くなっています。また、電荷密度も低いという特性を持つため、溶液中では容易にイオンとして解離します。 

金属セシウムは反応性が極めて高く、空気中で自然発火するほどです。さらに、水とは爆発的に反応するため、消防法上の危険物に指定されています。 しかしながら、炭酸セシウムは金属セシウムとは異なり、消防法上の危険物には指定されていません。

炭酸セシウムのその他情報

炭酸セシウムの製造方法

炭酸セシウムは、シュウ酸セシウムの加熱反応によって合成できます。空気中の過熱により、一酸化炭素を放出しながら炭酸セシウムが生成されます。

   Cs2C2O4 → Cs2CO3 + CO

また、水酸化セシウムと二酸化炭素の反応でも炭酸セシウムを得ることが可能です。水酸化セシウムは二酸化炭素との反応性が高く、水溶液に二酸化炭素ガスを通すことで容易に炭酸セシウムが生成されます。反応後に水溶液を蒸発乾固させることで、固体の炭酸セシウムを得ることができます。

   2CsOH + CO2 → Cs2CO3 + H2O

このように、炭酸セシウムは特定の化学反応を利用して効率的に合成されます。製造過程で発生する副生成物を管理することで、純度の高い炭酸セシウムを得ることが可能です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0654JGHEJP.pdf

水酸化鉛

水酸化鉛とは

水酸化鉛 (英: Lead(II) hydroxide) とは、化学式Pb(OH)2で表される鉛の水酸化物です。

価数を明示して水酸化鉛(II)と表記される場合も多く、CAS登録番号は、19783-14-3です。理論上はPb(OH)2と表記されるものの、実際の含水量は一定でないため、PbO・nH2Oと表記することがより適切であるとも言われています。

なお、理論上は水酸化鉛(IV)Pb(OH)4も存在しますが、こちらは不安定な物質で厳密にPb(OH)4の組成に対応する物質を得ることはできません。

水酸化鉛の使用用途

水酸化鉛は、二酸化鉛の生成に利用されています。製法は下記のとおりです。

  • 水酸化鉛に過硫酸カリウムを加えてpHを12~13にする
  • 30~60℃で撹拌
  • 80℃まで加熱して、ろ過
  • 90℃に加熱することにより二酸化鉛が生成します

水酸化鉛は水にほとんど溶けず、常温で安定しています。したがって、下水処理場で鉛の残留物を分離する場合に水酸化鉛として除去することは、極めて有用な手段です。

水酸化鉛の性質

水酸化鉛の基本情報

図1. 水酸化鉛の基本情報

水酸化鉛(II) Pb(OH)2は、分子量241.21、融点145℃ (分解、一酸化鉛が生成)であり、常温での外観は白色粉末です。臭いはありません。前述の通り、実際の含水量は一定でないため、PbO・nH2Oと表記することがより適切であると言われることもあります。

密度は7.41g/mLであり、水への溶解性は小さいものの、水溶液はアルカリ性を呈します。硝酸やアルカリには可溶です。

水酸化鉛の種類

水酸化鉛(II) は、主に研究開発用試薬製品やファインケミカルとして販売されています。容量の種類は500gなどですが、取り扱いのあるメーカーはさほど多くはありません。

通常、室温で保管可能な試薬製品として扱われる物質です。水酸化鉛は毒物及び劇物取締法をはじめとして、各種法令による規制の対象となっているため、入手・保管・使用の際は法令を遵守することが必要とされています。

水酸化鉛のその他情報

1. 水酸化鉛の合成

水酸化鉛の合成

図2. 水酸化鉛の合成

水酸化鉛の製法の1つは、硝酸鉛の水溶液に水酸化ナトリウムを加えることです。水酸化鉛は、水に溶けにくいので、本反応によって沈殿として生じます。

2. 水酸化鉛の反応性

水酸化鉛を用いた二酸化鉛の合成

図3. 水酸化鉛を用いた二酸化鉛の合成

水酸化鉛(II)は、溶液中において弱い塩基として働き、弱酸性条件ではPb2+イオンを生じる物質です。溶液が塩基性へ傾くとPb(OH)+、Pb(OH)2、 Pb(OH)3 や 、Pb4(OH)44+, Pb3(OH)42+, Pb6O(OH)64+などのイオンを生じます。

また、水酸化鉛は、過硫酸カリウムを加えて加熱することにより、二酸化鉛を生じます。

3. 水酸化鉛の有害性と法規制情報

水酸化鉛は、有害性が指摘されている物質です。発がんの恐れがあるほか、生殖能力や胎児への悪影響の恐れ、血液、腎臓、中枢神経系の障害の恐れなどが指摘されています。GHS分類では、下記の区分に位置づけられています。

  • 発がん性: 区分1B
  • 生殖毒性: 区分1A
  • 特定標的臓器・全身毒性 (単回ばく露) : 区分1 (中枢神経系 腎臓 血液 )
  • 特定標的臓器・全身毒性 (反復ばく露) : 区分1 (腎臓、中枢神経系、血液)

また、水酸化鉛は強く加熱すると酸化鉛の煙が発生し、吸い込むと有害です。鉛と同様に鉛中毒の危険性があり、取り扱いには注意を要します。使用する場合には十分な配慮を必要とし、適切な保護具を着用することが必要です。

上記の有害性により、水酸化鉛は各種法令によって規制を受ける物質です。毒物及び劇物取締法では、劇物に指定されており、労働安全衛生法では、作業環境評価基準、 名称等を表示すべき危険有害物、名称等を通知すべき危険有害物、リスクアセスメントを実施すべき危険有害物、 鉛化合物に指定されています。

また、PRTR法では、特定第一種指定化学物質であり、労働基準法では疾病化学物質です。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要とされています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/19783-14-3.html
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340CO0000000002