硫化アルミニウム

硫化アルミニウムとは

硫化アルミニウム (英:Alminum Sulfide) とは、化学式Al2S3で表されるアルミニウムと硫黄の化合物であり、無機化合物の1種です。

モル質量は150.2g/molです。その結晶構造は複数種類の結晶構造を持つことで知られていますが、主に六方最密充填構造を持ち、硫黄原子が中心に位置しています。

一般的には灰色の粉末状の固体です。密度は2.32g/cm2であり、水に沈みますが、水とは反応性があるので分解が進み、放置しても硫化アルミニウムとしては沈殿しません。

化学物質固有の番号であるCAS番号は、1302-81-4です。

硫化アルミニウムの使用用途

1. スーパーキャパシタ

硫化アルミニウムは、スーパーキャパシタの高い静電容量とエネルギー密度を実現するためのナノネットワーク構造の製造に使用されます。スーパーキャパシタとは、リチウムイオン電池やアルカリ電池などの二次電池の1種で、大容量の蓄電をすることが可能なデバイスです。

電池の電極に硫化アルミニウムを用いてナノネットワーク構造をつくることで、比表面積や導電率が改善され、高い静電容量とエネルギー密度を実現することができます。

2. 電池活物質

硫化アルミニウムは、高エネルギー密度のリチウム二次電池の活物質として利用されています。硫化アルミニウムの初期放電容量は約1,170mAh/gであり、これは硫黄の理論容量の62%相当です。

硫化アルミニウムを二次電池の正極材料として使用することで、高い電気容量を維持しつつ、サイクル寿命の向上や安全性の向上などが期待されています。

3. 熱放電型火薬

硫化アルミニウムは、熱放電型火薬の主要成分としても利用されます。燃焼することでアルミニウム酸化物と硫化水素を生成するため、煙幕や発光弾の製造へも利用可能です。

4. アルミニウムの製錬・精製

硫黄をアルミニウムに加えて加熱することで、硫化アルミニウムを生成します。これを水酸化アルミニウムと反応させることで、アルミニウムを精製可能です。

 

その他、硫化アルミニウムは、医療用途やセラミックス、化学製品の原料、水処理剤としても使用されます。しかし、水に対して非常に敏感な性質を持つため、取り扱いには注意が必要です。

硫化アルミニウムの性質

硫化アルミニウムは、硫化物の中でも融点が高く、1,050℃以上で融解します。このため、高温での反応に利用されることが多く、アルミニウムの製錬やセラミックスやガラスの原料として使用可能です。

さらに1,500℃まで昇温すると昇華します。硫化アルミニウムは、水にほとんど溶けません。しかし、酸性条件下では加水分解を受けて、水酸化アルミニウム硫化水素に分解するため、強酸と反応するという性質があります。

硬度は比較的高く、研磨剤や摩擦材料などの用途に利用されます。一方、温度が上昇すると分解しやすいため、この化合物は炭素やシリコンとともに用いられ、製鉄や他の産業分野で還元剤として使用されます。

硫化アルミニウムのその他情報

1. 硫化アルミニウムの安全性

硫化アルミニウムは、毒劇物取締法に定められた毒劇物や消防法で定められた危険物ではありません。しかし、水分と反応しやすく、反応した場合に硫化水素を発生させます。

硫化水素は強い腐卵臭を持ち、生物には毒性があり、さらに可燃性があり燃焼するので注意が必要です。また、皮膚刺激性と強い眼刺激性、呼吸器への刺激性があります。

取扱い時には適切な保護具を身に着けるべきです。万が一、皮膚や眼に付着、粉末を吸引したような場合は、多量の水で洗い流したうえで、速やかに医師の診察を受けることが奨められます。

2. 硫化アルミニウムの市場

硫化アルミニウムの世界市場規模は、水処理用途などでの需要拡大により成長を続けています。世界の硫化アルミニウムの市場規模は、2022年~2026年の間に16億7,000万米ドルの増加、予測期間中にCAGRで3.8%の成長が予測されています。

参考文献
https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB6685843.htm

硝酸銅

硝酸銅とは

硝酸銅とは、の硝酸塩です。

通常硝酸銅は、硝酸銅(II)のことを指します。無水物は青色の結晶で、水和物も青色です。学校などで水和物は、ダニエル電池 (英: Daniell cell) の演示実験に使用されます。

火災等の場合には一酸化炭素などが発生する可能性があり、毒性が強いため注意が必要です。毒劇法では劇物で、銅およびその化合物は安衛法で危険物および有害物に指定され、銅水溶性塩はPRTR法で第1種指定化学物質になっています。 

硝酸銅の使用用途

硝酸銅の用途は、銅めっきの原料、酸化剤、触媒を代表として多岐にわたります。花火の製造、医薬品や殺虫剤の原料、織物染色や印刷インクの媒染剤、銅イオンの供給源として分析用試薬にも硝酸銅が使われます。

農業関係では、土壌中の銅の欠乏防止を防ぐために利用可能です。殺菌剤・殺虫剤、除草剤、肥料や微量栄養素などにも使用されます。無水物の硝酸銅は吸湿性が高く、水分を吸収して青色の水和物になるため、水分の検出や脱水剤に利用できます。

硝酸銅溶液は鉄を腐食させるため、黒のアンティーク仕上げや亜鉛の茶色着色などに使用可能です。さらに、助燃効果を利用して、ロケット燃料の触媒として用いられます。また、自動車用のシーラントやコーキングでは、有機ケイ素化合物のニトロ化剤として硝酸銅溶液が使われています。

硝酸銅の性質

硝酸銅の無水物は揮発性の固体であり、真空中で210°Cで昇華します。水和物には化学式がCu(NO3)2・3H2Oの三水和物とCu(NO3)2・6H2Oの六水和物などがあります。三水和物の融点は114.5°Cです。硝酸銅の水和物は潮解性があり、水やエタノールによく溶けます。

水溶液で硝酸銅の水和物は、アクア錯体である[Cu(H2O)6]2+として存在します。ただし銅(II)のd9電子配置のために非常に不安定です。

硝酸銅の構造

硝酸銅は化学式でCu(NO3)2と表される無機化合物です。硝酸銅の無水物には、αとβの2つの多形が知られています。いずれも銅中心が酸素原子4つに囲まれた平面四角形構造を取っており、凝縮するとポリマーになります。α形には[4+1]配位の銅環境が1つしかありません。β形には2つの異なる銅中心があり、[4+1]配位と正方形の平面です。ニトロメタン溶媒中では、約200pmの4つの短いCu-O結合と240pmの1つの長い結合による[4+1]配位になっています。

三水和物のCu(NO3)2・3H2Oと六水和物のCu(NO3)2・6H2Oは、Cu-O距離がすべて等しいです。強い水素結合によって、Cu-O結合の弾性が制限されているためです。

Cu(NO3)2(H2O)2.5は銅中心が硝酸イオンと水に囲まれた正八面体構造を取っています。およそ170°Cで、酸化銅(II)、酸素、二酸化窒素に分解します。

硝酸銅のその他情報

1. 天然の硝酸銅

硝酸銅として鉱物には含まれていません。リカシ石 (英: Likasite) にCu3(NO3)(OH)5・2H2Oが、ブットゲンバッハ石 (英: Buttgenbachite) にCu19(NO3)2(OH)32Cl4・2H2Oが含まれています。

天然の塩基性硝酸銅には、希少鉱物のゲルハルト石 (英: Gerhardtite) やロウア石 (英: Rouaite) があり、どちらも Cu2(NO3)(OH)3の多形体です。

2. 硝酸銅の合成法

金属の銅を四酸化二窒素で処理すると、硝酸銅の無水物になります。硝酸銅の無水物の加水分解によって、硝酸銅の水和物が得られます。金属銅に希硝酸や硝酸銀水溶液を加えても、硝酸銅の水和物を生成可能です。

3. 硝酸銅の反応

硝酸銅の加熱で生じた気体を水に通すと硝酸が得られます。この反応はオストワルト法 (英: Ostwald process) の最終段階に似ています。

参考文献
https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB02130417.htm
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340CO0000000002

硝酸亜鉛

硝酸亜鉛とは

硝酸亜鉛 (英: Zinc nitrate) とは、亜鉛の硝酸塩で、組成式Zn(NO3)2 で表される無機化合物です。

通常、無水物より六水和物Zn(NO3)2 ・6H2Oの状態で流通していることが多い物質です。また、四水和物Zn(NO3)2 ・4H2Oも存在します。

無水物のCAS登録番号は7779-88-6、四水和物のCAS登録番号は9154-63-3、六水和物のCAS登録番号は10196-18-6です。

硝酸亜鉛の使用用途

硝酸亜鉛の主な用途は、医薬品原料、媒染剤、樹脂加工触媒です。また、その他の用途には分析試薬、金属表面処理剤、二次電池などもあります。

硝酸亜鉛はそれ自体は不燃性の物質ですが、可燃物を燃え上がらせたり、人体への危険性が大きいので取り扱いには注意が必要です。

硝酸亜鉛の性質

1. 硝酸亜鉛 (無水物) の基本情報

硝酸亜鉛 (無水物) の基本情報

図1. 硝酸亜鉛 (無水物) の基本情報

硝酸亜鉛の無水物の分子量は189.36、融点は110℃であり、常温での外観は無色の結晶です。多酸化作用が極めて強く、可燃性物質や金属の硫化物および還元性物質と激しく反応します。また、潮解性のある物質です。

2. 硝酸亜鉛 (六水和物) の基本情報

硝酸亜鉛 (六水和物) の基本情報 (1)

図2. 硝酸亜鉛 (六水和物) の基本情報

硝酸亜鉛六水和物の分子量は297.49、融点36.4℃、沸点105℃ (分解) であり、常温での外観は無色のフレーク状の結晶です。潮解性が有り、水およびエタノールに溶けやすいものの、エーテルには溶けません。水への溶解度は184.3g/100mL (20℃) であり、密度は2.065g/mLです。

硝酸亜鉛の種類

硝酸亜鉛は、一般的には主に六水和物として販売されています。研究開発用試薬製品や、産業用薬品として販売されている物質です。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、10g、25g 、500gなど、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。冷蔵保管が必要な製品として取り扱われることの多い物質です。

試薬製品独自の用途としては、プラズマ発光分光分析法及び原子吸光分光分析法により共存する不純物金属イオンを定量するのに用いられることがあります。

2. 産業用薬品

産業用薬品としては、20kgPE袋や、25kg紙袋など、比較的大型の容量で提供されています。結晶状態のほか、溶液で提供しているメーカーも存在します。分析試薬、金属表面処理剤、樹脂加工触媒、媒染剤をはじめとする多くの用途があるため、複数のメーカーから販売されている物質です。

硝酸亜鉛のその他情報

1. 硝酸亜鉛の合成

硝酸亜鉛の合成

図3. 硝酸亜鉛の合成

硝酸亜鉛は、亜鉛の単体、若しくは酸化亜鉛に対して硝酸を加えることにより合成が可能です。また、硝酸亜鉛の無水物は、塩化亜鉛と二酸化窒素の反応によって得ることができます。

2. 硝酸亜鉛の危険性と法規制情報

硝酸亜鉛は、それ自体は不燃性の物質ですが、火災を助長するおそれがある酸化性物質です。加熱による危険有害な分解生成物としては、窒素酸化物や亜鉛酸化物が挙げられます。また、人体へも有害な物質であり、経口摂取によって胃痙攣やチアノーゼなどの症状が現れるとされています。

その他の有害性には、皮膚刺激や眼刺激、呼吸器への刺激のおそれなどがあります。上記の有害性から、硝酸亜鉛は、毒物および劇物取締法で劇物に指定されています。

労働安全衛生法では危険物・酸化性のものに指定されており、消防法では 第1類酸化性固体、硝酸塩類に該当する物質です。化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) では、第1種指定化学物質に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7779-88-6.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10196-18-6.html
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340CO0000000002

硝酸リチウム

硝酸リチウムとは

硝酸リチウムとは、白色の結晶~結晶性粉末の無機化合物です。

硝酸リチウムの主な組成および成分情報は「化学式:LiNO3」「分子量:68.95」「CAS登録番号:7790-69-4」となります。

また、硝酸リチウムは、融点/凝固点が264℃で、水に溶けやすくエタノールにやや溶けやすい性質があります。

硝酸リチウムは、消防法で「危険物第一類・硝酸塩類・危険等級Ⅰ」、安衛法では「危険物・酸化性の物」、危規則で「酸化性物質類・酸化性物質」、航空法で「酸化性物質類・酸化性物質」に指定されています。

硝酸リチウムの使用用途

硝酸リチウムは、産業界では花火や窯業(ようぎょう)製品、セラミックの原料のほか、熱媒体としても利用されています。

また、硝酸リチウムは、分析におけるリチウムイオン供給源として使われるほか、蛍光X線分析用試料調製酸化剤や電池研究用といった実験試薬としての利用も行われています。

そのほか、硝酸リチウムは、今後、主流となりそうな勢いの電気自動車には欠かせない、リチウム二次電池の性能向上に寄与する正極活性物質として、その実用化が期待されています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0112-0123JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_7790-69-4.html
公開特許公報 公開番号 特開2022-017425

硝酸ビスマス

硝酸ビスマスとは

硝酸ビスマスとは、ビスマス (Bi) に硝酸イオンが3つついた構造をもつ化合物です。

分子式Bi(NO₃)₃・5H₂Oで表され、分子量は485.07g/molです。化学物質固有の番号であるCAS番号は、10035-06-0が割り当てられています。通常は、次硝酸ビスマスや、硝酸ビスマス五水和物の状態で使用されることが多いです。

通常の状態では、白色の結晶状態で安定していますが、融点が30℃なため、保管の際は温度管理が重要となります。硝酸ビスマスは、水やエタノールにはほとんど溶けませんが、希硝酸には溶けるという性質を持っています。

水溶液自体は酸性を示し、光により変質する恐れがあります。製造する際は、硝酸溶液と酸化物または塩基性硝酸ビスマスの相互作用により、金属ビスマスからビスマス五水和物を生産する方法をとる場合が多いです。

硝酸ビスマスの使用用途

硝酸ビスマスは、1940年代にペニシリンが発見されるまでは梅毒の治療薬として使用されることが多くありました。しかし、ペニシリンの発見以降は、不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸、フェニルエステルなどさまざまな化合物の合成材料として使用されるようになりました。

金属ビスマスは比較的安い粒状及び粉末として入手可能です。粒状のものはガラス細工で使用されるヤスリで削ることにより、有機合成飯能に必要や触媒としての使用が可能になります。ビスマスを含有した原料を触媒として使用することによって、高い活性が得られることが明らかになっています。

また、硝酸ビスマスを使用することで硝酸を原料として使用せずとも化合物の合成が可能です。さらに、ビスマス化合物は消化促進剤,整腸剤,腸炎,胃潰瘍などの内服、外傷。火傷などに外用する局所収飲剤として使用されます。特に硝酸ビスマスは、腸の粘膜の刺激緩和や抗炎症作用、腸運動抑制作用などによる下痢症状を改善する治療薬として有用です。

硝酸ビスマスがもつ強い収れん作用が腸の粘膜のタンパク質と結合して保護膜を作り、それにより炎症や粘膜への刺激が緩和されることで腸の蠕動運動が抑えられます。1日2gを2~3回服用することで効果があるとされています。しかし、嘔気、食欲不振、粘膜の青色または青黒色の着色などの副作用に注意が必要です。

硝酸ビスマスの性質

硝酸ビスマスは、消防法において「第1類酸化性固体 硝酸塩類 危険等級Ⅲ」に指定されています。不燃性の固体なので単独で燃焼することはありませんが、加熱・衝撃・摩擦を与えることで酸素を放出して燃焼を助長するという特徴を持っています。そのため、硝酸ビスマスは酸化剤として可燃物と混合することで発火して激しく燃焼する恐れがあり、取り扱いには注意が必要です。

硝酸ビスマスは、加熱すると分解して酸化ビスマスと窒素酸化物の毒性ガスを発するという性質を持っています。特に窒素酸化物濃度が高くなるにつれて、咳や痰が出やすくなるなど呼吸器疾患になるリスクが高くなります。そのため、使用する際は風通しの良い場所を選ぶのが望ましいです。

硝酸ビスマスのその他情報

1. 硝酸ビスマスの法規情報

  • 消防法: 第1類酸化性固体 硝酸塩類 危険等級Ⅲ
  • 毒物及び劇物取締法: 非該当
  • 化学物質排出管理促進法 (PRTR法): 非該当
  • 船舶安全法及び航空法: 酸化性物質類・酸化性物質
  • 労働安全衛生法: 危険物・酸化性の物
  • 水質汚濁防止法: 有害物質
  • 輸出貿易管理令: 非該当

2. 取扱い及び保管上の注意

  • 容器を遮光して直射日光を避け、換気のよい涼しい場所に密閉して保管する。
  • 有機物、可燃物、還元剤との混触を防ぐ。
  • ガラス容器での保管が望ましい。
  • 熱、火花、炎などの発火源から離して保管する。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0102-0200JGHEJP.pdf
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202002285602676534
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/47/5/47_5_425/_pdf

硝酸バリウム

硝酸バリウムとは

硝酸バリウムとは、バリウムの硝酸塩で、別名二硝酸バリウムやビス硝酸バリウムとも呼ばれる物質です。

化学式Ba(NO3)2で表され、分子量は261.34g/molです。化学物質固有の番号であるCAS登録番号は10022-31-8が割り当てられています。

常温常圧では、白色の結晶もしくは結晶性粉末として存在しており、無臭です。水に対する溶解度は20℃で90g/Lと溶けやすいものの、エタノールやアセトンにはほとんど溶けないという性質を持っています。

硝酸バリウムの使用用途

硝酸バリウムは、比較的安定度の高い酸化剤であり、カーリットをはじめ、火工品 (花火,発煙筒など) ・光学ガラス・釉薬・医薬・ゴム薬品といった多岐にわたる分野での製造に使われています。

カーリットとは、過塩素酸アンモニウムを主成分とした爆薬のことです。海外で発明され、1918年特許取得後、日本で発達していった土木作業はじめ広い分野で使われていました。光学ガラスは珪素を主とした珪石や珪砂を主原料としたガラスであり、透明性を損なう不純物が非常に少ないという特徴を持っています。

そのため、レンズやプリズム、光学フィルタ、検出器の窓板など、光を透過させる光学素子やライトガイドなどの光伝搬の際に使用されることが多いです。また、ある試料中にどのような物質が含まれているかを調べる「定性分析」試料としても活用されています。

火薬や爆薬が加工されたものとして知られている火工品は、打ち上げ花火をはじめ、自動車に搭載されているエアバックや、ロケットなどの宇宙開発の分野で幅広く使用されています。日本では「火薬類取締法」に従って、製造を含めた取扱いが規制されています。

硝酸バリウムの性質

硝酸バリウムは、消防法において「第1類酸化性固体、硝酸塩類」に指定されています。そのため、自身は不燃性ですが、可燃物と混合することで発火して激しく燃焼する恐れがあるため、取り扱いには注意が必要です。

硝酸バリウムは強力な酸化剤であり、可燃物質や還元物質と反応します。また、加熱すると分解して窒素酸化物を生じ、金属粉末と反応することで火災や爆発の危険性もあります。

硝酸バリウムのその他情報

1. 硝酸バリウムの法規情報

  • 消防法: 危険物第1類・硝酸塩類・危険等級Ⅲ
  • 毒物及び劇物取締法: 劇物・包装等級3
  • 化学物質排出管理促進法(PRTR法): 非該当
  • 船舶安全法及び航空法: 酸化性物質類・酸化性物質

2. 取扱い及び保管上の注意

硝酸バリウムを取り扱ったり、保管したりする際には、以下の点に注意が必要です。

  • 屋外または換気の良い場所で保管する。
  • 酸化剤、還元剤、可燃物との混合を避ける。
  • 直射日光を避け、冷暗所に保管する。
  • 粉塵が発生する場所での保存の場合、必ず密閉された装置、機器または局所換気装置を使用する。

3. 硝酸バリウムの製法

硝酸バリウムの製法としては、以下の方法が挙げられます。

  • 酸と塩基の反応 例) 2HNO₃+Ba(OH)₂→Ba(NO₃)₂+2H₂O
  • 塩基と酸性酸化物の反応 例) Ba(OH)₂+N₂O₅→Ba(NO₃)₂+H₂O
  • 塩基性酸化物と酸性酸化物の反応 例) BaO+2HNO₃→Ba(NO₃)₂+H₂O
  • 塩基性酸化物と酸性酸化物の反応 例) BaO+N₂O₅→Ba(NO₃)₂
  • 弱酸の塩と強酸の反応 例) BaF₂+2HNO₃→Ba(NO₃)₂+2HF
  • 弱塩基の塩と強塩基の反応 例) Sn(NO₃)₂+Ba(OH)₂→Ba(NO₃)₂+Sn(OH)₂
  • 活性金属と酸の反応 例) Ba+2HNO₃→Ba(NO₃)₂+H₂

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0102-0029JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_10022-31-8.html
http://www.hosoya-pyro.co.jp/
https://www.you-iggy.com/ja/chemical-substances/barium-nitrate/

炭酸銀

炭酸銀とは

炭酸銀とは、化学式Ag2CO3で表される銀の炭酸塩です (この化合物の銀は1価であるため炭酸銀 (Ⅰ) とも表記します) 。

常温では、うすい黄色~黄緑色をした粉末で存在しています。硝酸銀と水溶性の炭酸塩 (例えば炭酸アンモニウム) を混合することで合成されます。

通常、水系で混合され、生成した炭酸銀は水不溶の沈殿として回収されます。分子量は275.75、CAS登録番号は534-16-7です。

炭酸銀の使用用途

1. 触媒・試薬として

炭酸銀の主な使用用途は、触媒原料や試薬としての用途です。また、有機酸に溶解するため有機酸銀塩の原料にも使用されています。炭酸銀以外の有機酸銀塩も、合成直後は黄色を呈していますが、光に敏感に反応して暗色となります。

触媒として有名なものに、酸化反応をマイルドに進行させる触媒であるフェティゾン試薬 (Fétizon’s reagent) があります。これは、炭酸銀をセライトに保持させたものです。ただし、フェティゾン試薬の実験室における調製方法としては、硝酸銀水溶液にセライトを加え、のちに炭酸ナトリウムを加えることで炭酸銀とする方法が一般的です。

一方、Fétizon’s reagentの状態で販売されている試薬もあります。また、炭水化物誘導体の位置選択的ベンジル化の触媒に用いられるほか、オレフィンのパラジウム触媒によるオキシアリール化のための塩基としても用いられます。

その他、生体成分の染色 (病理検査時の検体の染色など) も用途の1つです。ただし、一般的な銀染色では、硝酸銀が銀試薬として用いられます。

2. 銀化合物として

メタリック塗装における銀鏡膜層形成組成液の銀化合物や、従来の「はんだ」に変わる導電性接着剤 (銀ペースト) の材料として使われています。

3. 可視光応答性化合物・光触媒として

可視光に反応する性質を利用し、可視光応答性の半導体や光触媒の原材料として使われています。

炭酸銀の性質

外観は、うすい黄色~黄緑色の粉末です。製品としては小塊になっていることもあります。合成直後はうすい黄色をしていますが、環境の空気や光にさらさされることで暗色化します。暗色化は部分的な酸化銀の生成や銀の遊離によるとされ、保管には遮光が重要です。

そのため、多くの市販品に褐色瓶が用いられています。炭酸銀は水にはほとんど溶けません。溶かし切るのに体積の30,000倍の冷水または体積の2,000倍の熱湯が必要です。

一方、稀硝酸、硫酸、アンモニア水、シアン化アルカリ溶液にはよく溶けるとされています。加熱していくと約210~220℃で分解し、酸化銀と二酸化炭素を生成します。さらに高温になると、単体の銀が生成します。また、光によって変質する恐れがあるため、保管には遮光が必要です。

炭酸銀のその他情報

毒性・危険性と適用法令

国内法規上の主な適用法令としては、毒劇法で「劇物・包装等級3」、大気汚染防止法では「有害大気汚染物質」に指定されています。経口投与時のLD50 (急性毒性) は3731mg/kg (Rat) であり、国連GHS分類では区分5とされています。

皮膚腐食性及び皮膚刺激性は区分2、目に対する重篤な損傷性又は眼刺激性は区分2Bであり、有害性を有します。そのため、取り扱いには手袋や保護眼鏡などの保護具が必要です。

強酸化剤と反応する可能性があるため、混在を避ける必要があります (法令上は強酸化剤の方が第1類または第6類危険物として規制されています) 。火災になった場合、完全燃焼により二酸化炭素、不完全燃焼により一酸化炭素が発生します。同時に銀の酸化物も生成し、いずれも人体に有害です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-1316JGHEJP.pdf

炭酸亜鉛

炭酸亜鉛とは

炭酸亜鉛は、亜鉛の炭酸塩で、三方晶の構造をを有する白い粉末状の物質です。通常は、塩基性炭酸亜鉛のことをいい、ZnCO3の分子式で表します。しかし、組成は安定しておらず、工業の分野では代表的な化学式である2ZnCO3・3Zn(OH)2・H2Oを使用しています。

炭酸亜鉛は、天然に産出するのは菱亜鉛鉱であり、加熱すると140℃で分解して酸化亜鉛と二酸化炭素を生成します。鉛塩水溶液に炭酸アルカリを加えて反応させると、塩基性炭酸亜鉛ができます。炭酸亜鉛は、水にほとんど溶けない特性を有します。

炭酸亜鉛の使用用途

炭酸亜鉛は、陶磁器の絵付け用の顔料や軟膏などの医薬品、食品添加物として使われます。また、木材の防火用に難燃化剤としても使われています。さらに、ゴムの配合原料や亜鉛メッキ用の原料、触媒など多くの用途があります。家畜用飼料の添加剤にも使われますが、家畜の亜鉛不足による食欲減退や成長不良を予防する効果があります。

炭酸亜鉛を加熱することで得られる酸化亜鉛は、液晶蛍光管用や紫外線遮蔽用など、応用用途があります。

鉄板や鉄骨には錆の防止用に亜鉛メッキが良く使われますが、亜鉛の表面が水分や大気に触れると、水酸化亜鉛の膜ができます。水酸化亜鉛が酸化すると炭酸亜鉛になり、錆の防止効果が出てきます。

参考文献
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_3486-35-9.html

炭酸セシウム

炭酸セシウムとは

炭酸セシウムとは、組成式Cs2CO3 (分子量325.82) で表されるセシウムの炭酸塩です。

白色の粉末または塊上の結晶性固体化合物で、水、アルコール、DMFなどの極性溶媒に高い溶解性を示します。潮解性があり、空気中では湿気を吸って溶解してしまうため、取り扱いには注意が必要です。

有機合成における強力な無機塩基や触媒として使用され、位置・立体選択的なカップリング反応に用いられます。分解温度は600℃で、高温での加熱によって不揮発性の分解生成物を生じます。

この生成物は導電性の蒸着材料として用いられ、太陽電池などの電力変換効率を高める用途で使用されます。また、炭酸セシウムは、消防法はじめ毒劇法、労働安全衛生法、危険物の規制に関する規則 (危規則) 、航空法、PRTR法といった、おもな国内法規による指定はされていません。

炭酸セシウムの使用用途

炭酸セシウムは、主に有機合成における無機塩基や触媒として使われます。特に、Heck反応、Sonogashira反応などのカルボニル化、カルバモイル化を伴うカップリング反応を行う場合、他の塩基よりも効率的に反応を進行させることが知られています。炭酸セシウムは繊細な合成に適したバランスのいい強塩基です。

また、近年注目されている用途として、有機電子材料の陰極としての利用があります。分解温度に達した炭酸セシウムは、Cs2OとCs2O2に分解されます。これら2種類の分子が結合するとn型ドープが生成され、N型半導体に負の電荷を持つ自由電子が供給されます。/p>

これによって、炭酸セシウムはデバイスの電力変換効率を増加させることができるため、有機電子材料の陰極としての利用が期待されている状況です。

炭酸セシウムの性質

炭酸セシウムは、炭酸カリウムや炭酸ナトリウムなど、他のアルカリ金属の炭酸塩に比べて有機溶媒への溶解度が高いことが特徴です。これは、原子としてのセシウムの性質に由来します。セシウムは原子半径が大きく、他のアルカリ金属と比べて非常に陽イオン化しやすいという特性を持っています。

炭酸塩となっても電荷密度が低いため、容易に陰イオンと解離して有機溶媒へ溶けることが可能です。この性質を利用して、他のアルカリ金属の炭酸塩では反応が進行しにくい有機溶媒中での合成反応にしばしば用いられます。一方、トルエンやp-キシレン、クロロベンゼンなどの低極性溶媒には、他のアルカリ金属同様に極めて不溶です。

炭酸ナトリウムのような他の炭酸塩化合物と同様の反応に利用できますが、試薬としては価格が高めであるため、他の塩基で代替可能な加水分解反応などに利用されることは稀です。

炭酸セシウムの構造

炭酸セシウムの構造は、第一属のアルカリ金属であるセシウムと、炭酸イオンからなる塩です。無水物のほか、水分子が3つ配位した3水和物が存在します。

セシウム元素は周期表の第6周期にあり、原子半径が非常に大きいため、第一イオン化エネルギーは全元素の中で最も低くなっています。電荷密度も低いため、溶液中では容易にイオンとして解離します。

金属セシウムは非常に反応性が高く、空気中で自然発火するほか、水と爆発的に反応するため、消防法で危険物に指定されています。一方、炭酸セシウムは消防法による規制はありません。

炭酸セシウムのその他情報

炭酸セシウムの製造方法

炭酸セシウムは、シュウ酸セシウムの加熱反応により得られます。シュウ酸セシウムを空気中で加熱すると、一酸化炭素を発生しながら炭酸セシウムが生成します。

Cs2C2O4 → Cs2CO3 + CO

また、水酸化セシウムと二酸化炭素を反応させることでも合成が可能です。水酸化セシウムは二酸化炭素との反応性が高いため、水溶液に二酸化炭素ガスを通すだけで容易に炭酸セシウムを得ることができます。反応後は、水溶液を蒸発乾固して固体を得ます。

2CsOH + CO2 → Cs2CO3 + H2O

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0654JGHEJP.pdf

水酸化鉛

水酸化鉛とは

水酸化鉛 (英: Lead(II) hydroxide) とは、化学式Pb(OH)2で表される鉛の水酸化物です。

価数を明示して水酸化鉛(II)と表記される場合も多く、CAS登録番号は、19783-14-3です。理論上はPb(OH)2と表記されるものの、実際の含水量は一定でないため、PbO・nH2Oと表記することがより適切であるとも言われています。

なお、理論上は水酸化鉛(IV)Pb(OH)4も存在しますが、こちらは不安定な物質で厳密にPb(OH)4の組成に対応する物質を得ることはできません。

水酸化鉛の使用用途

水酸化鉛は、二酸化鉛の生成に利用されています。製法は下記のとおりです。

  • 水酸化鉛に過硫酸カリウムを加えてpHを12~13にする
  • 30~60℃で撹拌
  • 80℃まで加熱して、ろ過
  • 90℃に加熱することにより二酸化鉛が生成します

水酸化鉛は水にほとんど溶けず、常温で安定しています。したがって、下水処理場で鉛の残留物を分離する場合に水酸化鉛として除去することは、極めて有用な手段です。

水酸化鉛の性質

水酸化鉛の基本情報

図1. 水酸化鉛の基本情報

水酸化鉛(II) Pb(OH)2は、分子量241.21、融点145℃ (分解、一酸化鉛が生成)であり、常温での外観は白色粉末です。臭いはありません。前述の通り、実際の含水量は一定でないため、PbO・nH2Oと表記することがより適切であると言われることもあります。

密度は7.41g/mLであり、水への溶解性は小さいものの、水溶液はアルカリ性を呈します。硝酸やアルカリには可溶です。

水酸化鉛の種類

水酸化鉛(II) は、主に研究開発用試薬製品やファインケミカルとして販売されています。容量の種類は500gなどですが、取り扱いのあるメーカーはさほど多くはありません。

通常、室温で保管可能な試薬製品として扱われる物質です。水酸化鉛は毒物及び劇物取締法をはじめとして、各種法令による規制の対象となっているため、入手・保管・使用の際は法令を遵守することが必要とされています。

水酸化鉛のその他情報

1. 水酸化鉛の合成

水酸化鉛の合成

図2. 水酸化鉛の合成

水酸化鉛の製法の1つは、硝酸鉛の水溶液に水酸化ナトリウムを加えることです。水酸化鉛は、水に溶けにくいので、本反応によって沈殿として生じます。

2. 水酸化鉛の反応性

水酸化鉛を用いた二酸化鉛の合成

図3. 水酸化鉛を用いた二酸化鉛の合成

水酸化鉛(II)は、溶液中において弱い塩基として働き、弱酸性条件ではPb2+イオンを生じる物質です。溶液が塩基性へ傾くとPb(OH)+、Pb(OH)2、 Pb(OH)3 や 、Pb4(OH)44+, Pb3(OH)42+, Pb6O(OH)64+などのイオンを生じます。

また、水酸化鉛は、過硫酸カリウムを加えて加熱することにより、二酸化鉛を生じます。

3. 水酸化鉛の有害性と法規制情報

水酸化鉛は、有害性が指摘されている物質です。発がんの恐れがあるほか、生殖能力や胎児への悪影響の恐れ、血液、腎臓、中枢神経系の障害の恐れなどが指摘されています。GHS分類では、下記の区分に位置づけられています。

  • 発がん性: 区分1B
  • 生殖毒性: 区分1A
  • 特定標的臓器・全身毒性 (単回ばく露) : 区分1 (中枢神経系 腎臓 血液 )
  • 特定標的臓器・全身毒性 (反復ばく露) : 区分1 (腎臓、中枢神経系、血液)

また、水酸化鉛は強く加熱すると酸化鉛の煙が発生し、吸い込むと有害です。鉛と同様に鉛中毒の危険性があり、取り扱いには注意を要します。使用する場合には十分な配慮を必要とし、適切な保護具を着用することが必要です。

上記の有害性により、水酸化鉛は各種法令によって規制を受ける物質です。毒物及び劇物取締法では、劇物に指定されており、労働安全衛生法では、作業環境評価基準、 名称等を表示すべき危険有害物、名称等を通知すべき危険有害物、リスクアセスメントを実施すべき危険有害物、 鉛化合物に指定されています。

また、PRTR法では、特定第一種指定化学物質であり、労働基準法では疾病化学物質です。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要とされています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/19783-14-3.html
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340CO0000000002