炭酸セシウム

炭酸セシウムとは

炭酸セシウムとは、組成式Cs2CO3 (分子量325.82) で表されるセシウムの炭酸塩です。

白色の粉末または塊上の結晶性固体化合物で、水、アルコール、DMFなどの極性溶媒に高い溶解性を示します。潮解性があり、空気中では湿気を吸って溶解してしまうため、取り扱いには注意が必要です。

有機合成における強力な無機塩基や触媒として使用され、位置・立体選択的なカップリング反応に用いられます。分解温度は600℃で、高温での加熱によって不揮発性の分解生成物を生じます。

この生成物は導電性の蒸着材料として用いられ、太陽電池などの電力変換効率を高める用途で使用されます。また、炭酸セシウムは、消防法はじめ毒劇法、労働安全衛生法、危険物の規制に関する規則 (危規則) 、航空法、PRTR法といった、おもな国内法規による指定はされていません。

炭酸セシウムの使用用途

炭酸セシウムは、主に有機合成における無機塩基や触媒として使われます。特に、Heck反応、Sonogashira反応などのカルボニル化、カルバモイル化を伴うカップリング反応を行う場合、他の塩基よりも効率的に反応を進行させることが知られています。炭酸セシウムは繊細な合成に適したバランスのいい強塩基です。

また、近年注目されている用途として、有機電子材料の陰極としての利用があります。分解温度に達した炭酸セシウムは、Cs2OとCs2O2に分解されます。これら2種類の分子が結合するとn型ドープが生成され、N型半導体に負の電荷を持つ自由電子が供給されます。/p>

これによって、炭酸セシウムはデバイスの電力変換効率を増加させることができるため、有機電子材料の陰極としての利用が期待されている状況です。

炭酸セシウムの性質

炭酸セシウムは、炭酸カリウムや炭酸ナトリウムなど、他のアルカリ金属の炭酸塩に比べて有機溶媒への溶解度が高いことが特徴です。これは、原子としてのセシウムの性質に由来します。セシウムは原子半径が大きく、他のアルカリ金属と比べて非常に陽イオン化しやすいという特性を持っています。

炭酸塩となっても電荷密度が低いため、容易に陰イオンと解離して有機溶媒へ溶けることが可能です。この性質を利用して、他のアルカリ金属の炭酸塩では反応が進行しにくい有機溶媒中での合成反応にしばしば用いられます。一方、トルエンやp-キシレン、クロロベンゼンなどの低極性溶媒には、他のアルカリ金属同様に極めて不溶です。

炭酸ナトリウムのような他の炭酸塩化合物と同様の反応に利用できますが、試薬としては価格が高めであるため、他の塩基で代替可能な加水分解反応などに利用されることは稀です。

炭酸セシウムの構造

炭酸セシウムの構造は、第一属のアルカリ金属であるセシウムと、炭酸イオンからなる塩です。無水物のほか、水分子が3つ配位した3水和物が存在します。

セシウム元素は周期表の第6周期にあり、原子半径が非常に大きいため、第一イオン化エネルギーは全元素の中で最も低くなっています。電荷密度も低いため、溶液中では容易にイオンとして解離します。

金属セシウムは非常に反応性が高く、空気中で自然発火するほか、水と爆発的に反応するため、消防法で危険物に指定されています。一方、炭酸セシウムは消防法による規制はありません。

炭酸セシウムのその他情報

炭酸セシウムの製造方法

炭酸セシウムは、シュウ酸セシウムの加熱反応により得られます。シュウ酸セシウムを空気中で加熱すると、一酸化炭素を発生しながら炭酸セシウムが生成します。

Cs2C2O4 → Cs2CO3 + CO

また、水酸化セシウムと二酸化炭素を反応させることでも合成が可能です。水酸化セシウムは二酸化炭素との反応性が高いため、水溶液に二酸化炭素ガスを通すだけで容易に炭酸セシウムを得ることができます。反応後は、水溶液を蒸発乾固して固体を得ます。

2CsOH + CO2 → Cs2CO3 + H2O

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0654JGHEJP.pdf

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