硝酸ビスマスとは
硝酸ビスマスとは、ビスマス (Bi) に硝酸イオンが3つついた構造をもつ化合物です。
分子式Bi(NO₃)₃・5H₂Oで表され、分子量は485.07g/molです。化学物質固有の番号であるCAS番号は、10035-06-0が割り当てられています。通常は、次硝酸ビスマスや、硝酸ビスマス五水和物の状態で使用されることが多いです。
通常の状態では、白色の結晶状態で安定していますが、融点が30℃なため、保管の際は温度管理が重要となります。硝酸ビスマスは、水やエタノールにはほとんど溶けませんが、希硝酸には溶けるという性質を持っています。
水溶液自体は酸性を示し、光により変質する恐れがあります。製造する際は、硝酸溶液と酸化物または塩基性硝酸ビスマスの相互作用により、金属ビスマスからビスマス五水和物を生産する方法をとる場合が多いです。
硝酸ビスマスの使用用途
硝酸ビスマスは、1940年代にペニシリンが発見されるまでは梅毒の治療薬として使用されることが多くありました。しかし、ペニシリンの発見以降は、不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸、フェニルエステルなどさまざまな化合物の合成材料として使用されるようになりました。
金属ビスマスは比較的安い粒状及び粉末として入手可能です。粒状のものはガラス細工で使用されるヤスリで削ることにより、有機合成飯能に必要や触媒としての使用が可能になります。ビスマスを含有した原料を触媒として使用することによって、高い活性が得られることが明らかになっています。
また、硝酸ビスマスを使用することで硝酸を原料として使用せずとも化合物の合成が可能です。さらに、ビスマス化合物は消化促進剤,整腸剤,腸炎,胃潰瘍などの内服、外傷。火傷などに外用する局所収飲剤として使用されます。特に硝酸ビスマスは、腸の粘膜の刺激緩和や抗炎症作用、腸運動抑制作用などによる下痢症状を改善する治療薬として有用です。
硝酸ビスマスがもつ強い収れん作用が腸の粘膜のタンパク質と結合して保護膜を作り、それにより炎症や粘膜への刺激が緩和されることで腸の蠕動運動が抑えられます。1日2gを2~3回服用することで効果があるとされています。しかし、嘔気、食欲不振、粘膜の青色または青黒色の着色などの副作用に注意が必要です。
硝酸ビスマスの性質
硝酸ビスマスは、消防法において「第1類酸化性固体 硝酸塩類 危険等級Ⅲ」に指定されています。不燃性の固体なので単独で燃焼することはありませんが、加熱・衝撃・摩擦を与えることで酸素を放出して燃焼を助長するという特徴を持っています。そのため、硝酸ビスマスは酸化剤として可燃物と混合することで発火して激しく燃焼する恐れがあり、取り扱いには注意が必要です。
硝酸ビスマスは、加熱すると分解して酸化ビスマスと窒素酸化物の毒性ガスを発するという性質を持っています。特に窒素酸化物濃度が高くなるにつれて、咳や痰が出やすくなるなど呼吸器疾患になるリスクが高くなります。そのため、使用する際は風通しの良い場所を選ぶのが望ましいです。
硝酸ビスマスのその他情報
1. 硝酸ビスマスの法規情報
- 消防法: 第1類酸化性固体 硝酸塩類 危険等級Ⅲ
- 毒物及び劇物取締法: 非該当
- 化学物質排出管理促進法 (PRTR法): 非該当
- 船舶安全法及び航空法: 酸化性物質類・酸化性物質
- 労働安全衛生法: 危険物・酸化性の物
- 水質汚濁防止法: 有害物質
- 輸出貿易管理令: 非該当
2. 取扱い及び保管上の注意
- 容器を遮光して直射日光を避け、換気のよい涼しい場所に密閉して保管する。
- 有機物、可燃物、還元剤との混触を防ぐ。
- ガラス容器での保管が望ましい。
- 熱、火花、炎などの発火源から離して保管する。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0102-0200JGHEJP.pdf
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202002285602676534
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/47/5/47_5_425/_pdf