ロードクロサイト

ロードクロサイトとは

ロードクロサイトとは、鉱石の一種で、菱マンガン鉱とも呼ばれるマンガンの炭酸塩鉱物です。
化学式はMnCO3(炭酸マンガン(II))で表され、結晶系は三方晶系です。
比重は3.6、モース硬度は3.5 – 4です。
自然界に存在するロードクロサイトには、不純物がまざっています。

その不純物の混入具合によって、その自然石の色合いが変わってきます。
それらの鉱石の中で赤みのあるもののみが、宝飾品の対象となり、古来より宝石として収集されてきました。
南米で生産されている菱マンガン鉱は、良質なモノが多いことで知られています。

特にバラ色の色味を有するのものは「ロードクロサイト(バラ色の石)」と呼ばれ、高値で取引されてきました。

ロードクロサイトの使用用途

ロードクロサイトの使用用途としては、宝飾品です。
特に色味が良い鉱石は宝石の原石として高値で取引されてきました。

ロードクロサイトは、ルーマニア近辺で宝飾物としての加工が始まったとされています。
ルーマニアは、当時、国としてはハンガリーに属していました。

そのおかげか、ハンガリー以外にも、ドイツやマケドニアなどもロードクロサイトの産地として有名です。
日本でも産出されており、青森の尾太鉱山や、北海道の稲倉石鉱山などが知られています。

モノクロラミン

モノクロラミンとは

モノクロラミン (英: Monochloramine) とは、クロラミンとも呼ばれ、アンモニアNH3の水素原子Hを塩素原子Cl塩素で置換した一連の化合物のことです。

アンモニアNH3の水素原子を塩素原子で置き換えた化合物にはモノクロラミン (クロロアザン、NH2Cl) 、ジクロラミン (ジクロロアザン、NHCl2) 、トリクロラミン (塩化窒素、NCl3) の3種があります。しかし、単にクロラミンという場合には、通常モノクロラミンのことを指します。

モノクロラミンはアルカリ条件下で次亜塩素酸ナトリウムとアンモニアの反応によって得らル、化学式NH2Cl、分子量は51.47、融点は−66℃、無色透明の液体です。

モノクロラミンの使用用途

モノクロラミンの主な使用用途として、以下のようなものがあります。殺菌防腐剤や消毒剤、食品衛生法指定添加物などとして使用されるのが一般的です。

1. 飲料水の処理

モノクロラミンは、飲料水処理において細菌、ウイルス、および微生物の殺菌に使用されます。水道水や下水処理施設での消毒プロセスに適しており、飲料水の安全性を確保するために利用されることが多いです。

アンモニアと塩素を1対3の割合で同時に水中へ注入すると、モノクロラミンNH2ClやジクロラミンNHCl2を生じ、徐々に次亜塩素酸HClOを遊離して殺菌作用を現します。殺菌力は弱いですが、水中への残留効果が認められ、クロラミン法ともよばれています。

2. プールの水や浴槽水の処理

プールやスパの水処理において、モノクロラミンは消毒効果を提供し、水質を保ちます。モノクロアミンは塩素と反応して安定した消毒剤となり、水中の微生物の繁殖を抑制します。

3. 冷却水の処理

工業プロセスや空調システムで使用される冷却水の処理において、モノクロラミンは微生物の成長を防ぎ、冷却装置を清潔に保ちます。

4. 消防設備の消毒

ホース、水槽、噴水などの消防設備の消毒に利用されています。これにより、非常時に備える設備が清潔な状態を保つことができます。

モノクロラミンの性質

モノクロラミン (英: Monochloramine) NH2Clは化学的に安定したアンモニアの塩素化合物で、主に次のような性質があります。

1. 物理的性質

無色透明の液体ですが淡黄色を呈するときがあります。融点は−66℃、分子量51.47です。水によく溶け、溶解度は常温で、約20〜25g/水100mLです。

中性または弱酸性条件下の水溶液中で最も安定に存在することができます。塩基性条件下だと分解しやすくなります。また、光や熱に対して比較的安定です。

2. 消毒効果

モノクロラミンは、塩素と反応して塩化物イオンと窒素に分解します。この性質を活かし、細菌やウィルスを除去する消毒剤として利用されています。

3. 有害性

高濃度では、皮膚や目に対して刺激を引き起こすおそれがあります。そのため、過剰に用いることは有害とされています。モノクロラミンは塩素よりも安定です。そのため、消費者のもとに届くまで消散することがない等の性質があります。

水道等のバイオフィルム対策として使用されるモノクロラミンは、遊離塩素よりも化学的に安定しています。さらに、濃度管理が容易で有機物存在下でも有害な生成物を生じません。塩素の独特な塩素臭さのような臭いも発生させないという特徴もあります。

モノクロラミンは高いpH領域においてもレジオネラや宿主アメーバーなどに高い殺菌効果をもたらします。加えて、ヒトへの安全性も高いことが研究で示されました。これらの性質は、一般的に用いられている塩素による消毒との大きな違いです。

モノクロラミンのその他情報

モノクラミンの濃度

モノクロラミンの濃度は3mg/mL程度と決められています。この基準は2022年に厚生労働省より発表された「公衆浴場における衛生等管理要綱」に記載されています。

メチルプロピルエーテル

メチルプロピルエーテルとは

メチルプロピルエーテルとは、常温で液体のエーテル化合物です。

メトキシプロパン、メチルn-プロピルエーテル等の別名や、「Metopryl」「Neothyl」等の商品名でも呼ばれています。常温 (20℃付近) では無色透明の液体で、エーテル臭があり、水に可溶です。

沸点は38.8℃と低く、加熱によって容易に気化するため、冷暗所で保管する必要があります。引火性の高い液体で、消防法ではジエチルエーテル二硫化炭素と同じ「危険物第4類 特殊引火物 危険等級Ⅰ」に該当します。また、労働安全衛生法でも「危険物 4. 引火性のもの」に指定されています。

メチルプロピルエーテルの使用用途

1. 抽出溶媒として

メチルプロピルエーテルの主な使用用途は、有機溶媒や合成原料です。抽出や精製に用いる溶媒や、水素化アルミニウムを製造する際の原料として、工場や実験室で用いられます。

エーテル系の溶媒としてはジエチルエーテルが代表的ですが、メチルプロピルエーテルはジエチルエーテルよりも水への溶解性が低い等の違いがあります。そのため、抽出や分液操作で用いると物質がジエチルエーテルとは異なる挙動を示し、使い分けられる可能性があります。

2. 麻酔薬

蒸気を吸引すると麻酔作用があるため、かつては麻酔薬として使われていました。しかし、引火性が高く保管や使用に危険が伴うため、現在はより可燃性の低いハロゲン化エーテルが麻酔薬に使用されています。

なお、メチルプロピルエーテル以前は、さらに引火性の高いジエチルエーテルが麻酔薬に使われていました。より引火性が低く安全に扱える物質へと変遷してきた歴史があります。

メチルプロピルエーテルの特徴

メチルプロピルエーテルは、メチル基とプロピル基を持つ非対称エーテルであり、化学式はC4H100で表されます。メチルプロピルエーテルの基本的な特性 (分子量、比重、溶解性) は以下の通りです。

  • 分子量:74.12
  • 密度:0.73g/cm3
  • 溶解性:水に可溶 (5mL/100mL、25℃) 、エーテル・アルコールと混和

代表的なエーテルであるジエチルエーテル (分子量74.12、密度0.71 g/cm3、水への溶解度9.7mL/100mL) と比べると、密度がわずかに大きく、水への溶解度がやや低いという特徴があります。

メチルプロピルエーテルのその他情報

1. 引火性

メチルプロピルエーテルは引火生の液体です。引火点 (大気圧において燃焼範囲下限の可燃性蒸気を発生させる温度) が-20℃より低く、室温でも容易に引火する恐れがあります。そのため、危険物の中でも特に危険性の高い「特殊引火物」に分類されています。

メチルプロピルエーテルの蒸気が残っているだけでも引火の恐れがあるため、ドラフトや局所排気による換気が必要です。蒸気密度が空気よりも高く、漏洩した場合は床に滞留する可能性があります。

可燃範囲の蒸気は静電気等の火花でも引火するため、保管や使用に用いる施設では照明や電気機器も防爆構造にします。さらに沸点が38.8℃であるため、夏場の高温で蒸発が進まないよう、冷暗所に保管する等の対策が必要です。

2. 麻酔作用

メチルプロピルエーテルには麻酔作用があるため、使用時は吸引しないよう対策が必要です。工場等で多量に用いる場合は、作業員に送気マスク等の保護具を着用させ、室内を換気します。さらに、吸引しないようにように風上で作業を行います。

誤ってメチルプロピルエーテルを吸引した場合は、直ちに空気の新鮮な場所に移動させ、呼吸しやすい体勢で休息させます。意識が無い場合や気分が悪い場合は、医療機関での処置が必要です。

吸引事故が起きた場合に処置や医療機関への連絡を直ちに行うために、必ず2人以上で作業するよう作業手順を組むことも重要です。 

3. 爆発性酸化物

他のエーテル類と同様、紫外線等で酸化が進み爆発性のある酸化物を生じることがあります。爆発性酸化物が蓄積した状態では、加熱や衝撃により爆発するおそれがあります。

酸化物が蓄積しないための対策としては、酸化防止剤 (ハイドロキノン等) の添加、酸素や紫外線からの遮蔽等が有効です。また、長期保存していたメチルプロピルエーテルを使用する際には、酸化物が蓄積していないかを試験紙で確認するとより安全です。

参考文献
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/M0510
https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB6355953.htm

メチルエチルエーテル

メチルエチルエーテルとは

メチルエチルエーテルとは、常温で気体のエーテル化合物です。

IUPAC名では「エチルメチルエーテル」と呼ばれます。沸点が10.8℃と低いため、常温ではガスボンベに封入された状態で運搬・貯蔵されます。引火性が高く、労働安全衛生法施行令別表第1では「可燃性のガス」、船舶安全法では「液化ガス」に指定されている物質です。

空気中の含量が可燃限界 (下限2% / 上限10.1%) の間の範囲にあると、電気火花や発熱体によって容易に引火します。蒸気が滞留すると可燃範囲に入る恐れがあるため、ドラフト内などの換気の良い場所で扱うことが重要です。

メチルエチルエーテルの使用用途

1. 現在の主な用途

メチルエチルエーテルは、医薬品原薬や化学素材の合成原料、中間体などに使用されています。常温で気体になる性質を利用して、エアロゾル噴射式のスプレーに用いられることもあります。

メチルエチルエーテルを冷却して液体とすることで、固液抽出の溶媒に使うことも可能です。常温に戻すと揮発するため、素早く固形分が得られる利点があります。ただし、ジエチルエーテルの方が安価であり、常温で液体のため扱いやすいことから、メチルエチルエーテルよりも一般的に用いられます。

2. 将来の用途拡大

将来的に検討が進む可能性のある用途は、液化石油ガス (英: LNG) の代替品です。常温で気体となるエーテルは、可燃性であり冷却すれば液体として運搬・貯蔵できるため、 LNG の代わりに民生ガスとして用いる研究が行われています。

ジメチルエーテルが有力とされていますが、類似した性質を持つメチルエチルエーテルも LNG代替品の候補となる可能性もあります。

メチルエチルエーテルの性質

1. 基本的な構造と特性

メチルエチルエーテルは、エチル基とメチル基がエーテル結合したエーテルです。分子式は C3H8O で表され、プロパノールの構造異性体にあたります。

メチルエチルエーテルの基本的な特性 (分子量、比重、溶解性) は以下の通りです。

2. 工業的な合成方法

対称エーテルは、アルコールの脱水縮合反応で合成できます。ジエチルエーテルの場合、エタノールに濃硫酸を加えて加熱することで得られます。

一方、非対称エーテルであるメチルエチルエーテルは、脱水縮合では選択的に合成できません。エタノールとメタノールの混合物に濃硫酸を加えて加熱しても、ジメチルエーテルやジエチルエーテルも発生するためです。

そこで、メチルエチルエーテルの合成には、ウィリアムソンエーテル合成法という手法が用いられます。ウィリアムソンエーテル合成法とは、金属アルコキシドとハロアルカンのSN2反応を利用して非対称エーテルを得る手法です。

メチルエチルエーテルの工業的生産では、金属エトキシドと臭化メチルを原料として行われます。なお、ウィリアムソンエーテル合成法で合成できるのは、メチルエチルエーテルのようにRとR’が第一級または第二級アルキル基の場合に限られます。

メチルエチルエーテルのその他情報

1. 対称エーテルと非対称エーテル

メチルエチルエーテルは非対称エーテルです。エーテルは一般に「R-O-R’」 (R、R’はアルキル基やアリル基など) の構造で表されますが、RとR’の構造が等しいものを「対称エーテル」、RとR’の構造が異なるものを「非対称エーテル」と呼びます。

対称エーテルの例としては、ジメチルエーテル (RとR’がいずれもCH3) やジエチルエーテル (RとR’がいずれもC2H5) が挙げられます。非対称エーテルの例としては、メチルエチルエーテル (RがC2H、R’がCH) やアニソール (RがC6H、R’がCH3) が挙げられます。

2. メチルエチルエーテルの課題

いずれの用途で課題となるのは、メチルエチルエーテルが高価であることです。メチルエチルエーテルはウィリアムソンエーテル合成法で生産されるため、アルコールの脱水縮合で得られるジエチルエーテルやジメチルエーテルよりも、原価が高く製造工程が複雑です。

参考文献
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/M0110#docomentsSectionPDP
https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB1739082.htm
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001897.000071640.html

メタニウム

メタニウムとは

メタニウムは化学式CH+5で表される陽イオンです。
1つの炭素原子に5つの水素原子が結合した構造で存在しており、+1の電荷として振る舞います。

またメタニウムは、水素化物のプロトン化により生ずる物質であるオニウムイオンの一種であり、最も単純なカルボニウムイオンとしても知られています。

メタニウムは超酸であり、希薄な気体として、あるいは超酸中の希薄種として、実験室で合成することができます。
メタニウムは、1950年に初めて合成され、1952年にヴィクトル・タリローゼによって論文で報告されました。

メタニウムの使用用途

メタニウムの使用用途は開発中であり、まだ研究室段階を出ていません。
メタンに水素原子を一つ追加した形のメタニウムは、カルボニウムイオンの一種です。

メタンのままでは反応基を持ちませんが、フッ化水素に五フッ化アンチモンを加えた超強酸中ではプロトン化され、このとき五配位の CH5+として、擬似的な反応性イオンが生成されます。

このカルボニウムイオン(メタニウム)CH5+ は水素を脱離してカルボカチオン CH3+ を生じ、順次別のメタン分子を攻撃して重合が起こります。
このように、新種の重合開始剤としての研究が進んでいます。

マロンジアルデヒド

マロンジアルデヒドとは

マロンジアルデヒドの基本情報

図1. マロンジアルデヒドの基本情報

マロンジアルデヒド (英: malondialdehyde) とは、化学式がC3H4O2で表されるジアルデヒドです。

MDAと略される場合もあります。マロンジアルデヒドは反応性の高い化合物です。そのため通常、純粋な形で観察されません。

マロンジアルデヒドは1,1,3,3-テトラメトキシプロパン (英: 1,1,3,3-Tetramethoxypropane) の加水分解によって得られ、市販されています。

マロンジアルデヒドの使用用途

マロンジアルデヒドは脂質過酸化分解生成物の一つです。人の体内で生成している脂質過酸化物を測定する際に、医療検査用のマーカーとして利用可能です。

マロンジアルデヒドは生体内で自然に発生するため、酸化ストレスの指標になっています。酸化ストレスによって、膜の流動性や透過性を変化させ、精子の機能的能力を損ないます。したがって、マロンジアルデヒドの量を測定して、精子の膜損傷を評価可能です。

マロンジアルデヒドの性質

マロンジアルデヒドの融点は72°Cで、沸点は108°Cです。

2-チオバルビツール酸反応性物質 (英: 2-thiobarbituric acid reactive substances) のような特殊な領域に吸収波長を持つ酸は、マロンジアルデヒドと反応するとMDA-TBA2付加体を形成可能です。MDA-TBA2付加体は532nmの波長付近に強い吸収を持ち、分光学的にマロンジアルデヒドを検出可能です。

研究によると、円錐角膜や水疱性角膜症などの患者の角膜では、マロンジアルデヒドの量が上昇しています。変形性関節症の患者でも、関節の組織切片でマロンジアルデヒドが確認されています。

マロンジアルデヒドの構造

マロンジアルデヒドの構造

図2. マロンジアルデヒドの構造

マロンジアルデヒドは、メタン分子の2つの水素原子がアルデヒド基に置き換わった有機化合物です。示性式はCH2(CHO)2で表され、分子量は72.06g/molで、密度は0.991g/mLです。

マロンジアルデヒドはCH2(CHO)2とHOCH=CH-CHOのように異性化し、主にエノール体として存在しています。エノール体との異性化を繰り返すと、アルデヒド体もシス型とトランス型が入れ替わります。溶媒の性質によっても存在比は変化し、有機溶剤中ではシス型が優位に存在し、水溶液中ではトランス型が優位です。

マロンジアルデヒドのその他情報

1. マロンジアルデヒドの生合成

多価不飽和脂肪酸はフリーラジカルによって酸化されます。例えばヒドロキシラジカルと反応して、脂質ペルオキシラジカルを生成可能です。生成した脂質ペルオキシラジカルは、別の多価不飽和脂肪酸と反応して、脂質ヒドロペルオキシドと脂質ペルオキシラジカルに変化します。脂質ペルオキシラジカルは分子内2重結合に反応して、環状エンドペルオキシドを形成可能です。この物質がさらに分解されると、マロンジアルデヒドが生成されます。

マロンジアルデヒドはヒマワリ油やパーム油など、加熱した食用油にも含まれています。

2. マロンジアルデヒドの反応

マロンジアルデヒドの反応

図3. マロンジアルデヒドの反応

マロンジアルデヒドは脂質過酸化物の分解によって生成します。酸化ストレスや鉄依存性細胞死  (英: ferroptosis) などの分野で、細胞や組織中の脂質過酸化の指標として測定可能です。

マロンジアルデヒドは反応性アルデヒド (英: reactive aldehyde) とも呼ばれ、チオール基やアミノ基と反応して、DNAの損傷やタンパク質の変性を引き起こします。そのため糖尿病やがんを代表とする疾患研究でも測定対象です。マロンジアルデヒドの量によって、2-チオバルビツール酸反応性物質はMDA-TBA2付加体を形成するため、蛍光度や吸光度を測定して、細胞内や組織中のマロンジアルデヒドを検出可能です。

マグミット

マグミットとは

マグミットとは、制酸・緩下剤として処方される医薬品です。

マグミットという名称は商品名であり、一般名は酸化マグネシウムです。さまざまな製薬メーカーより販売されています。

主な効能効果は、胃・十二指腸潰瘍、胃炎、上部消化管機能異常などの疾患に対する制酸作用及び改善、便秘症の改善、尿路蓚酸カルシウム結石の発生予防などです。処方薬であるため、購入には医師の処方箋が必要です。

歴史的には、1823年にドイツ人の医師フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトが来日した際に日本へ持ち込んだと言われています。

マグミットの使用用途

マグミットの薬効

図1. マグミットの薬効

マグミットは、制酸作用による胃・十二指腸潰瘍や胃炎、上部消化管機能異常の改善、及び、緩下作用による便秘の治療、尿路結石の予防などを目的として投与される医薬品です。

緩下剤としては、腸管の動きを直接刺激するのではなく、腸管内で水分の吸収を高めることにより大腸の蠕動運動を助け、排便を促す働きをします。

マグミットの性質

酸化マグネシウムの基本情報

図2. 酸化マグネシウムの基本情報

マグミットの薬効成分は、酸化マグネシウム (Magnesium oxide)です。CAS登録番号は1309-48-4で、酸化マグネシウム自体は分子量40.30、融点2852°C、沸点3600℃であり、常温では無色の結晶または粉末です。密度は3.65g/mLであり、水及びエタノールにほとんど溶けません。

酸化マグネシウムは、金属マグネシウムの燃焼、水酸化マグネシウムあるいは炭酸マグネシウムの加熱分解などの方法で製造されています。

マグミットの種類

マグミットは、医師の処方箋が必要な処方薬ですが、マグミット製薬、丸石製薬、シオエ製薬、日本新薬など、さまざまな製薬メーカーから製造販売されている薬剤です。なお、酸化マグネシウム製剤自体は、マグミットの他にも更に多くのメーカーから発売されており、処方箋の要らない一般薬も存在しています。

マグミットの剤形は白色の錠剤で、200mg , 250mg , 330mg , 50 mgなどの種類があります。

マグミットのその他情報

1. マグミットの薬理作用

制酸剤としては、酸化マグネシウム1 gによって、0.1mol/L塩酸約500mLの中和が可能です。胃内で制酸作用を及ぼし、二酸化炭素を発生しないため刺激が少ないとされます。水に不溶性なので、炭酸水素ナトリウムに比較すると制酸性は遅効性で作用時間も長いことが特徴です。

緩下剤としては、腸内で重炭酸塩となり腸内の浸透圧を高めて腸内腔へ水分を引き寄せます。これによって腸内容を軟化させるとともに、腸管内容物が膨張し、腸管に拡張刺激を与え、排便を促す作用があります。

2. マグミットの副作用

高マグネシウム血症の症状

図3. 高マグネシウム血症の症状

マグミットの重篤な副作用には高マグネシウム血症があります。特に腎機能障害のある患者でリスクが高いため、腎機能障害のある患者には慎重投与となっています。

高マグネシウム血症の症状は、悪心・嘔吐、口渇、血圧低下、徐脈、皮膚潮紅、筋力低下、傾眠などがあり、重篤な場合には呼吸抑制、意識障害、不整脈、心停止へ至る場合がある疾患です。必要に応じて血清マグネシウム濃度の測定を行うなど十分な観察を行うことが必要とされています。異

常が認められた場合には投与を中止する必要があります。また、高齢者では特に高マグネシウム血症を起こして重篤な転帰をたどる例が報告されています。

このため、高齢者では投与量を減量するとともに定期的に血清マグネシウム濃度を測定するなどの観察を十分に行い、慎重に投与することが必要です。心機能障害のある患者では、徐脈を起こし、症状が悪化する恐れがあるとされています。

3. 他の薬剤との相互作用

マグミットは、吸着作用、制酸作用等を有しているので、他の薬剤の吸収・排泄に影響を与えることがあります。例えば、抗菌薬である、ニューキノロン系薬・テトラサイクリン系薬と併用すると抗菌効果が薄れてしまうため、服用時間を2時間以上空ける必要があります。

また、大量の牛乳やカルシウム製剤と併用すると、血中のカルシウム濃度が高まり、血液がアルカリ性に傾くことがあるので、服薬中はそれらの摂取に注意し、定期的な血液検査が必要です。

ホロン

ホロンとは

ホロンの構造

図1. ホロンの構造

ホロン (英: Phorone) とは、ジイソプロピリデンアセトンの通称です。

ジイソプロピリデンアセトン (英: Diisopropylidene acetone) とは、ケトン化合物の一種で、化学式C9H14Oで表される有機化合物です。分子内に二重結合を2つ有します。

IUPAC命名法による名称は2,6-ジメチル-2,5-ヘプタジエン-4-オンであり、CAS登録番号は504-20-1です。

ホロンの使用用途

ホロンは、生理学実験などにおける強力なグルタチオン枯渇剤 (英: Glutathione depletor) としての用途が知られています。特定のテルペノイド化合物からも得ることが可能な物質でもあります。

グルタチオンの構造

図2. グルタチオンの構造

グルタチオンとは、グルタミン酸システイングリシンがペプチド結合した構造を持つトリペプチドであり、チオール基 (-SH基) を持つ物質です。チオール基の還元性によって、グルタチオンは過酸化物や活性酸素種を還元して還元的環境を維持する働きがあります。あるいは、毒物・薬物等の異物を自らのチオール基に結合させて (抱合) 、自分が細胞外に排出されることにより、細胞から毒物や薬物を排出させます。

生理学実験などにおいて、ホロンをラットなどの実験動物に投与すると、体内にあるグルタチオンのチオール基と強力に反応します。このため、ホロンを投与された個体体内のグルタチオンは不活性化され、グルタチオン欠乏の症状を人為的に作り出すことが可能です。グルタチオンの生理作用や疾患との関係などを調べることに用いられます。

ホロンの性質

ホロンの分子量は138.20、融点は28℃、沸点は198~199℃であり、常温での外観は芳香をもつ黄色の結晶、もしくは暗黄色の液体です。

引火性のある物質であり、引火点は79℃です。通常の保管環境下では安定に存在する物質ですが、強酸化剤とは激しく反応します。密度は0.885g/mLです。熱・火花・炎などを避けるべきとされており、危険有害な分解生成物は二酸化炭素や一酸化炭素を始めとする炭素酸化物です。

ホロンの種類

ホロンは、主に研究開発用試薬製品として販売されている物質です。容量の種類には1g、5gなどがあり、実験室で取り扱いやすい容量での提供が中心です。

生化学・生理学実験などの他、有機合成化学実験などででの使用が想定されています。

ホロンのその他情報

1. ホロンの合成

ホロンの合成

図3. ホロンの合成

ホロンは、塩酸などの酸性条件下にて、アセトン3分子の自己縮合 (アルドール縮合) によって合成することが可能です。まず、2分子のアセトンがアルドール縮合後に脱水して、中間体であるメシチルオキシドが生成する反応が1段回目の反応です。

次に、メシチルオキシドのカルボニル基がエノラート化し、もう1分子のアセトンに求核付加攻撃して脱水する (2段階目のアルドール縮合) ことでホロンが生成します。なお、メシチルオキシドに対してもう1分子のアセトンがエノラート化した後にマイケル付加すると、環化、脱水してイソホロンが生成します。

2. ホロンの化学反応

ホロンは、アンモニアとの縮合反応により、トリアセトンアミンを生じます。トリアセトンアミンは、主に立体障害をもつアミンである2,2,6,6-テトラメチルピペリジンの合成に使われる物質です。

3. ホロンの取り扱い上の注意

ホロンは、GHS分類には該当せず、労働安全衛生法や消防法など各種法令による規制の対象にもなっていない物質です。ただし、取り扱いの際には、適切な局所排気装置や全体換気を設置し、保護メガネや保護衣などの適切な個人用保護具を用いる必要があります。

また、皮膚に付着した場合や眼に入った場合などは直ちに洗浄しなければなりません。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/149233

ホスホン酸

ホスホン酸とは

ホスホン酸の基本情報

図1. ホスホン酸の基本情報

ホスホン酸とは、化学式がH3PO3で表される、酸化数が+3のリンのオキソ酸です。

分子量は82.00g/molで、密度は1.65g/cm3です。三塩化リンの加水分解により得られます。溶液中では亜リン酸 (英: phosphorous acid) との互変異性を示します。

有機リン化学でホスホン酸は、一般式がR-P(=O)(OH)2 (Rは有機基) と示される一連の有機リン化合物の総称です。

ホスホン酸の使用用途

ホスホン酸は還元性が強いため、無電解めっきの還元剤としての使用可能です。硝酸銀硫酸銅の水溶液から、それぞれ銀やを析出させて、メッキを施せます。

P-アルキルホスホン酸ジアルキルエステル (R-P(=O)(OR’)2)は、工業的に重要な中間体です。P-アルキルホスホン酸ジアルキルエステルはホーナー・ワズワース・エモンズ反応 (英: Horner–Wadsworth–Emmons reaction) の基質であり、ホーナー・エモンズ試薬と呼ばれ、アルケンの原料になります。ホーナー・エモンズ試薬は、香料や医薬品の原料として、多方面で使用されています。

ホスホン酸の性質

ホスホン酸の融点は70.1°Cで、無色の潮解性結晶です。200°Cまで熱すると、分解してホスフィンリン酸が生じます。

アルカリ塩やカルシウム塩以外は、水に難溶です。酸解離定数はpKa = 1.5と6.79です。

ホスホン酸の構造

ホスホン酸の構造

図2. ホスホン酸の構造

ホスホン酸の示性式は、HP(=O)(OH)2と示されます。P-H結合の存在は、一置換塩と二置換塩だけが生成して三置換塩が得られない事実や物理測定から明らかになっています。分子の形は四面体です。

亜リン酸と互変異性体の平衡関係にあります。亜リン酸の化学式はP(OH)3で、ホスホン酸は平衡の中で優位です。

有機リン化学でホスホン酸は、リンと水素の結合とホスホリル基を持つ有機リン化合物の総称です。ホスホン酸の有機誘導体には、リン原子上の水素原子がアルキル基に置換されたアルキルホスホン酸とヒドロキシ基の水素原子がアルキル基に置換されたホスホン酸アルキルが存在します。ホスホン酸アルキルには、1つのみアルキル基が置換したモノエステルと2つともアルキル基が置換したジエステルがあります。

ホスホン酸のその他情報

1. 有機ホスホン酸の合成法

有機ホスホン酸の合成

図3. 有機ホスホン酸の合成

有機ホスホン酸とは、リン原子上の水素原子がアルキル基に置換された誘導体のことです。一般式はR-P(=O)(OH)2と表されます。抗ウイルス薬のホスカルネット (英: foscarnet) は、有機ホスホン酸の一例です。有機ホスホン酸の具体例として、CH3P(O)(OH)2 (メチルホスホン酸) やC6H5P(O)(OH)2 (フェニルホスホン酸) が挙げられます。

亜リン酸トリアルキルエステルは、異性化反応によって自発的に酸素原子からリン原子にアルキル基が移動し、アルキルホスホン酸ジアルキルエステルが生じます。亜リン酸トリエステルとハロゲン化アルキルから、P-アルキルホスホン酸のジエステルを合成可能です。この反応をミカエリス‐アルブーゾフ反応 (英: Michaelis-Arbuzov Reaction) と呼びます。

2. ホスホン酸の反応

ホスホン酸はP-H結合の反応性を利用して、原料に用いられています。

カバチニク・フィールズ反応 (英: Kabachnik–Fields reaction) またはプドビック反応 (英: Pudovik reaction) によってアルキル化され、キレート剤として有用なアミノホスホネートが得られます。例えば工業的には、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)を合成可能です。

ホスホン酸をアクリル酸誘導体のマイケル付加でアルキル化すると、カルボキシ基を持つホスホン酸が生成します。

ホスカルネット

ホスカルネットとは

ホスカルネット (左) とホスカルネットナトリウム (右) の構造

図1. ホスカルネット (左) とホスカルネットナトリウム (右) の構造

ホスカルネット (英: Foscarnet) とは、化学式CH3O5Pで表される有機化合物で、抗ウイルス薬の1つです。

ホスカルネットの分子構造はギ酸にリン酸が置換した構造、すなわちホスホン酸における水素原子の位置に、カルボキシル基が配置されたような構造を持っています。IUPAC命名法による名称はホスホノギ酸 (英: Phosphonoformic acid) であり、その他の別名には、ホスホメタン酸 (英: phosphonomethanoic acid) などがあります。

ナトリウム塩のCAS登録番号は4428-95-9、ナトリウム水和物のCAS登録番号は34156-56-4です。

ホスカルネットの使用用途

ホスカルネットの主な使用用途は、抗ウイルス薬 ( 抗ウイルス化学療法剤) です。実際の成分としては、ホスカルネットナトリウム水和物として薬剤に含有されており、サイトメガロウイルス (CMV) 感染症の治療に用いられています。また、ホスカルネットナトリウムは試薬製品としても販売されており、試験研究用にも用いられる物質です。

医薬品としては、クリニジェン株式会社から販売されており、商品名はホスカビルです。下記のサイトメガロウイルス (CMV) 感染症や、ヒトヘルペスウイルス6脳炎などの治療に効果があるとされています。

  • 後天性免疫不全症候群 (エイズ) 患者におけるサイトメガロウイルス網膜炎
  • 造血幹細胞移植患者におけるサイトメガロウイルス血症及びサイトメガロウイルス感染症
  • 造血幹細胞移植後のヒトヘルペスウイルス6脳炎

なお、先天性もしくは、新生児サイトメガロウイルス感染症に対しては、効能・効果はないと考えられています。また、感染予防に用いることはできません。

ホスカルネットの性質

ホスカルネットナトリウムの基本情報

図2. ホスカルネットナトリウムの基本情報

ホスカルネットは分子量126.0の物質ですが、通常はホスカルネットナトリウム水和物として単離され、販売されています。ホスカルネットナトリウム水和物は、分子式CNa3O5P・6H2Oで表される、分子量300.04の物質です。

ホスホノギ酸三ナトリウム塩六水和物と呼ばれる場合もあります。常温での外観は白色の結晶性の粉末です。水にやや溶けやすく、エタノールに極めて溶けにくい性質を示し、ジエチルエーテルにほとんど溶けません。

ホスカルネットの種類

ホスカルネットは、主に医療用医薬品や研究開発用試薬製品として販売されています。どちらの場合も、ホスカルネットナトリウムとして販売されています。

1. 医療用医薬品

医療用医薬品としては、点滴静注用ホスカビル注24mg/mLとして販売されています。包装は1バイアル250mLです。毒薬、及び、処方箋医薬品に指定されており、医師等の処方箋により使用することとされています。

2. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、ホスカルネットナトリウムあるいはホスカルネットナトリウム水和物として販売されている物質です。25mg、250mg、5g、25g、100gなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。不活性ガス下、室温にて保管可能な試薬製品として取り扱われます。

ホスカルネットのその他情報

1. ホスカルネットの作用機序

ホスカルネット (右) とピロリン酸(左) の構造の比較

図3. ホスカルネット (右) とピロリン酸(左) の構造の比較

ホスカルネットの構造はピロリン酸に類似していることが特徴です。この特徴により、ホスカルネットはヒトのDNA合成酵素を阻害しない程度の薄い濃度において、選択的にウイルスのDNAポリメラーゼのピロリン酸結合部位に結合してDNAポリメラーゼ活性を抑制し、サイトメガロウイルスやヒトヘルペスウイルス6の増殖を抑制する作用があります。

2. 医薬品としての注意

ホスカルネットは医師の指示・処方箋のもとで使用される薬剤ですが、処方に際して下記のような注意点があります。

  • ホスカルネットは体内の2価陽イオンとキレートを形成し、血清中のカルシウム、マグネシウム濃度の低下や、血清中カリウム濃度の低下を来すことが報告されています。投与中は、定期的に血清電解質を測定するなど観察を十分に行い、四肢のしびれ、知覚異常などの発現又は電解質異常が認められた場合には、適切な処置を行うことが必要です。
  • ショックなどの重篤な過敏反応の発現を予測するため、十分な問診を行うことが必要です。また、このような症状があらわれた場合には、投与を中止し、適切な処置を行うことが必要とされます。
  • 泌尿・生殖器に局所刺激性による刺激感、潰瘍があらわれることがあるため、排尿後は洗浄・清拭等により衛生状態に注意することを必要とします。

参考文献
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/6250403A1033_3_03/