ホスカルネット

ホスカルネットとは

ホスカルネット (左) とホスカルネットナトリウム (右) の構造

図1. ホスカルネット (左) とホスカルネットナトリウム (右) の構造

ホスカルネット (英: Foscarnet) とは、化学式CH3O5Pで表される有機化合物で、抗ウイルス薬の1つです。

ホスカルネットの分子構造はギ酸にリン酸が置換した構造、すなわちホスホン酸における水素原子の位置に、カルボキシル基が配置されたような構造を持っています。IUPAC命名法による名称はホスホノギ酸 (英: Phosphonoformic acid) であり、その他の別名には、ホスホメタン酸 (英: phosphonomethanoic acid) などがあります。

ナトリウム塩のCAS登録番号は4428-95-9、ナトリウム水和物のCAS登録番号は34156-56-4です。

ホスカルネットの使用用途

ホスカルネットの主な使用用途は、抗ウイルス薬 ( 抗ウイルス化学療法剤) です。実際の成分としては、ホスカルネットナトリウム水和物として薬剤に含有されており、サイトメガロウイルス (CMV) 感染症の治療に用いられています。また、ホスカルネットナトリウムは試薬製品としても販売されており、試験研究用にも用いられる物質です。

医薬品としては、クリニジェン株式会社から販売されており、商品名はホスカビルです。下記のサイトメガロウイルス (CMV) 感染症や、ヒトヘルペスウイルス6脳炎などの治療に効果があるとされています。

  • 後天性免疫不全症候群 (エイズ) 患者におけるサイトメガロウイルス網膜炎
  • 造血幹細胞移植患者におけるサイトメガロウイルス血症及びサイトメガロウイルス感染症
  • 造血幹細胞移植後のヒトヘルペスウイルス6脳炎

なお、先天性もしくは、新生児サイトメガロウイルス感染症に対しては、効能・効果はないと考えられています。また、感染予防に用いることはできません。

ホスカルネットの性質

ホスカルネットナトリウムの基本情報

図2. ホスカルネットナトリウムの基本情報

ホスカルネットは分子量126.0の物質ですが、通常はホスカルネットナトリウム水和物として単離され、販売されています。ホスカルネットナトリウム水和物は、分子式CNa3O5P・6H2Oで表される、分子量300.04の物質です。

ホスホノギ酸三ナトリウム塩六水和物と呼ばれる場合もあります。常温での外観は白色の結晶性の粉末です。水にやや溶けやすく、エタノールに極めて溶けにくい性質を示し、ジエチルエーテルにほとんど溶けません。

ホスカルネットの種類

ホスカルネットは、主に医療用医薬品や研究開発用試薬製品として販売されています。どちらの場合も、ホスカルネットナトリウムとして販売されています。

1. 医療用医薬品

医療用医薬品としては、点滴静注用ホスカビル注24mg/mLとして販売されています。包装は1バイアル250mLです。毒薬、及び、処方箋医薬品に指定されており、医師等の処方箋により使用することとされています。

2. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、ホスカルネットナトリウムあるいはホスカルネットナトリウム水和物として販売されている物質です。25mg、250mg、5g、25g、100gなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。不活性ガス下、室温にて保管可能な試薬製品として取り扱われます。

ホスカルネットのその他情報

1. ホスカルネットの作用機序

ホスカルネット (右) とピロリン酸(左) の構造の比較

図3. ホスカルネット (右) とピロリン酸(左) の構造の比較

ホスカルネットの構造はピロリン酸に類似していることが特徴です。この特徴により、ホスカルネットはヒトのDNA合成酵素を阻害しない程度の薄い濃度において、選択的にウイルスのDNAポリメラーゼのピロリン酸結合部位に結合してDNAポリメラーゼ活性を抑制し、サイトメガロウイルスやヒトヘルペスウイルス6の増殖を抑制する作用があります。

2. 医薬品としての注意

ホスカルネットは医師の指示・処方箋のもとで使用される薬剤ですが、処方に際して下記のような注意点があります。

  • ホスカルネットは体内の2価陽イオンとキレートを形成し、血清中のカルシウム、マグネシウム濃度の低下や、血清中カリウム濃度の低下を来すことが報告されています。投与中は、定期的に血清電解質を測定するなど観察を十分に行い、四肢のしびれ、知覚異常などの発現又は電解質異常が認められた場合には、適切な処置を行うことが必要です。
  • ショックなどの重篤な過敏反応の発現を予測するため、十分な問診を行うことが必要です。また、このような症状があらわれた場合には、投与を中止し、適切な処置を行うことが必要とされます。
  • 泌尿・生殖器に局所刺激性による刺激感、潰瘍があらわれることがあるため、排尿後は洗浄・清拭等により衛生状態に注意することを必要とします。

参考文献
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/6250403A1033_3_03/

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