塩化セリウムとは
塩化セリウム (英: Cerium(III) chloride) とは、セリウムの塩化物であり、化学式CeCl3で表される無機化合物です。
価数を明示するため、塩化セリウム(III)と表記される場合もあります。無水物の他、特に七水和物が知られており、CAS登録番号はそれぞれ7790-86-5 (無水物) 、18618-55-8 (七水和物) です。無水物は、吸湿性が高いことから容易に水和物を形成します。
塩化セリウムは、無水物、七水和物ともにGHS分類において、皮膚腐食性/刺激性、眼刺激性に分類されています。塩化セリウムの法分類は、無水物、七水和物ともに、労働安全衛生法、労働基準法、PRTR法、毒物・劇物取締法において、いずれも非該当です。
塩化セリウムの使用用途
塩化セリウムの使用用途としては、他のセリウム化合物の合成原料や有機合成におけるルイス酸としての利用があげられます。特にフリーデルクラフツアシル化反応にルイス酸として用いられるトリフルオロメタンスルホン酸セリウム (Ce(OTf)3)は、塩化セリウムを出発原料とする有用な化合物の1つです。
また、オレフィンの重合触媒、α,β-不飽和カルボニル化合物のルーシェ還元、ケトンのアルキル化反応、グリニャール反応での添加剤などにも塩化セリウムが用いられています。
塩化セリウムの性質
1. 塩化セリウム (無水物)
図1. 塩化セリウム (無水物) の基本情報
塩化セリウムの無水物は、分子量246.48、融点817℃、沸点1,727℃であり、常温での外観は、白色から淡黄色の結晶、または粉末です。密度は3.97g/mL、水への溶解度は100g/100mLです。水のほか、アルコールに溶解します。
2. 塩化セリウム (七水和物) の基本情報
図2. 塩化セリウム (七水和物) の基本情報
塩化セリウムの七水和物は、分子量372.58、融点848℃であり、常温での外観は白色から薄い黄色の結晶性粉末もしくは粉末です。密度は3.97g/mLで、水やエタノールに極めて溶けやすい性質を持ちます。
塩化セリウムの種類
塩化セリウムは、研究開発用試薬製品や、産業用の希土類化合物などとして販売されています。
1. 研究開発用試薬製品
研究開発用試薬製品として販売されている製品の殆どは塩化セリウム七水和物です。ただし、ごく僅かながら無水物を取り扱っているメーカーも存在します。容量の種類は10g、25g、100g、500gなどで、実験室で取り扱いやすい容量での提供が一般的です。七水和物は、室温で保管可能な安定な試薬製品として扱われています。
2. 産業用希土類化合物
産業用製品に関しては、基本的に安定な七水和物が販売されています。こちらについても、想定用途はセリウム化合物原料・触媒です。純粋な物質の他、水溶液の状態でも販売されています。容量等については、メーカーごとに異なるため個別の問い合わせが必要です。
塩化セリウムのその他情報
1. 塩化セリウムの合成
塩化セリウムは、金属セリウムと塩化水素から合成することができます。また、3価セリウムの酸化物、水酸化物、または炭酸塩を塩化アンモニウムと混合して加熱して得る方法も知られています。水和物を加熱すると無水物を得ることができますが、水和物のみを急速に加熱すると少量の加水分解を起こす可能性があります。
純粋な無水物を得るためには、水和物を高真空下で4等量から6等量の塩化アンモニウムと共に400 °Cまでゆっくりと加熱する、もしくは過剰の塩化チオニルと共に3時間程度加熱する方法が有効です。また、もっと簡単には七水和物を真空中で何時間もかけて140℃まで徐々に加熱する方法で無水物を得ることができますが、若干の加水分解物を含む場合があります。ただし、この程度の純度でも有機リチウムやグリニャール試薬と共に使用することは可能です。
2. 塩化セリウムの化学反応
図3. 塩化セリウムを用いた合成反応
塩化セリウムは、他のセリウム化合物の原料として用いられるだけではなく、それ自体を有機合成におけるルイス酸として用いることが可能です。例えば、α,β-不飽和カルボニル化合物のルーシェ還元では、水素化ホウ素ナトリウムNaBH4と共に七水和物が用いられます。その他、ケトンのアルキル化反応においてエノラートの生成を防ぐ作用があります。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0183JGHEJP.pdf