二硫化モリブデン

二硫化モリブデンとは

二硫化モリブデン (英: Molybdenum disulfide) とは、組成式MoS2で表されるモリブデンの硫化物です。

硫化モリブデン(Ⅳ)と呼ばれることもあり、CAS登録番号は1317-33-5です。六方晶系でモリブデンと硫黄の層状構造を持ち、各層が弱い力で結合しているため潤滑性を持ちます。二硫化モリブデンは、天然鉱石から不純物を取り除くことで得られます。

なお、二硫化モリブデンは労働安全衛生法で名称等を表示すべき有害物質に指定されている他、PRTR法で第一種指定化学物質に指定されています。

二硫化モリブデンの使用用途

二硫化モリブデンの主な使用用途は潤滑剤、鉄鋼添加剤、モリブデン酸塩原料です。

1. 潤滑剤

二硫化モリブデンは、固体潤滑剤として、主に液状潤滑剤であるグリースへ添加することで利用されている物質です。モリブデンを含んだグリースが使用される場面として、グリースへの粉塵混入の可能性がある建設現場などが挙げられます。

2. 添加剤

摩擦が発生する部分の材料 (焼結合金、ブレーキ、摩擦材、プラスチック、ゴム、など) に、添加剤として直接二硫化モリブデンを添加する場合もあります。例えば、ブレーキの材料に二硫化モリブデンを微量添加することで、摩擦係数を保ちながらも焼き付きを防ぐことが可能です。

3. ドライフィルム

二硫化モリブデンはドライフィルムの原料にも用いられています。ドライフィルムとは、樹脂に二硫化モリブデンなどの固形潤滑剤を混ぜ込んだ塗料です。オイル潤滑剤に比べて蒸発しない、摩擦面のせんだん力を下げることができるなどの特徴があります。

二硫化モリブデンの性質

二硫化モリブデンの基本情報

図1. 二硫化モリブデンの基本情報

二硫化モリブデンは、分子量160.07、融点2,375℃、沸点1,450℃であり、常温常圧では黒色の固体です。密度は5.06g/mLで、水には溶解せず、ほとんどの酸、アルカリ、有機溶剤に不溶ですが、濃硝酸や王水に溶解します。

二硫化モリブデンの種類

二硫化モリブデンは、研究開発用試薬製品や、工業用素材として一般に販売されている物質です。

1. 研究開発用試薬製品

二硫化モリブデンは、研究開発用試薬製品としては、25g、100g、500gなどの種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。通常、室温で保管可能な試薬製品です。

2. 工業用素材

工業用素材としては、二硫化モリブデンは、粉末や結晶などの形状の種類があります。固体潤滑剤や、各種添加剤などの用途を想定して販売されていることが多い物質です。

また、単結晶は、 AFM、STMや薄膜コーティング研究用基板などの用途でも用いられます。メーカーによって提供単位は様々ですが、25kgなど、工場等で扱いやすい比較的大容量からの提供になります。また、粉末も粒径などの種類があるため、自分の用途にあったものを選択することが必要です。

二硫化モリブデンのその他情報

1. 二硫化モリブデンの化学反応

二硫化モリブデンの化学反応

図2. 二硫化モリブデンの化学反応

二硫化モリブデンは、酸素存在下で加熱されることによって酸化モリブデンを生じます。また、塩素ガスとの反応では、塩化モリブデン(V)が生成します。

通常の保管環境においては安定ですが、 加熱により分解して、その際に酸化硫黄を生じる物質です。窒化カリウムや、 (加熱、または摩擦時において) マグネシウムと爆発の危険があります。また、三酸化モリブデンは、工業的には二硫化モリブデンの焙焼によって生成する化合物です。

2. 二硫化モリブデンの結晶構造

二硫化モリブデンの結晶構造のイメージ

図3. 二硫化モリブデンの結晶構造のイメージ

硫化モリブデン (IV) の結晶構造は、六方晶型の層状結晶構造です。各層はモリブデンの層の両面が硫黄で挟まれています。モリブデンと硫黄の結合、すなわちMo=S結合は強固ですが、一方で層と層を繋ぐ硫黄同士のS-S結合は弱い結合です。

このため、せん断力が加わると容易に層間が滑ります。二硫化モリブデンの摩擦係数が低く、潤滑性を示すのは、この層間が滑る現象のためです。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1317-33-5.html

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