五酸化リンとは
五酸化リン (英: Phosphorus pentoxide) とは、無色固体のリンの酸化物です。
別名として、五酸化二リン (英: Diphosphorus pentoxide) 、十酸化四リン、Phosphorus (V) oxideとも呼ばれます。
五酸化リンの使用用途
1. 乾燥剤
五酸化リンは強い脱水性を持つため、乾燥剤として用いられています。金属性の乾燥剤と異なり、五酸化リンは水との反応が比較的穏やかです。穏やかな反応性から、安全性が求められるデシケータなどの乾燥剤として使用されます。
五酸化リン以外の乾燥剤として、塩化カルシウムやソーダ石灰などが挙げられます。塩化カルシウムは中性乾燥剤、ソーダ石灰は塩基性乾燥剤、五酸化リンは酸性乾燥剤です。酸性乾燥剤である五酸化リンは、塩基性気体以外のほとんど全ての気体に用いられます。
2. 縮合反応試薬
有機合成では、五酸化リンの強い脱水性を活かし、縮合剤として用いられます。カルボン酸に五酸化リンを作用させると、酸無水物を合成することが可能です。また、一級アミドに作用させると、ニトリルを生成します。
3. 酸化反応試薬
スワーン酸化 (英: Swern Oxidation) とは、アルコールからカルボン酸を得る酸化反応です。通常、塩化オキサリルとジメチルスルホキシドを試薬として用いますが、塩化オキサリルの代わりに五酸化リンを使用することもできます。
五酸化リンの性質
化学式はP2O5で表され、分子量は141.94です。CAS番号は1314-56-3で登録されています。融点は340°C、昇華点は360°Cで、常温常圧で固体です。
密度は2.39g/mlで、強い潮解 (脱水) 性と腐食性、刺激性、昇華性を持ちます。水とは反応するため可溶で、アセトンには溶けません。水との反応性が高く、空気中でも容易に水分を吸収します。五酸化リンは水と反応すると、メタリン酸やオルトリン酸などのポリリン酸を形成します。
五酸化リンの種類
P2O5という組成式で表されますが、実際にはP4O10という分子で存在しています。そのため、十酸化四リンの名称が一般的です。
結晶構造は多形であり、3種類の結晶構造やガラス状、無定形状など様々な形を取ります。もっとも観察されるのは、P4O10分子からなる六方晶系です。密閉容器内で六方晶系を400 ℃以上に加熱すると、2種類の斜方晶系 (直方晶系) に変化します。
五酸化リンのその他情報
1. 五酸化リンの製造法
工業的には、黄リンを乾燥した燃焼室で酸化させることで合成できます。また、リン鉱石 (3Ca3 (PO4)2・CaF2) をコークスと珪砂 (SiO2) 、鉄くずと混合させ、650 ℃の熱風で燃焼させることでも合成可能です。昇華によって精製できます。
2. 法規情報
五酸化リンは、以下の国内法令に指定されています。
- 危険物船舶運送及び貯蔵規則
腐食性物質 (危規則第3条危険物告示別表第1) - 船舶安全法
腐食性物質 (危規則第3条危険物告示別表第1) - 航空法
腐食性物質 (施行規則第194条危険物告示別表第1) - 港則法
危険物・腐食性物質 (法第21条2、則第12条、昭和54告示547別表二ロ)
3. 取り扱い及び保管上の注意
取り扱い時の対策
混触危険物質は、水や金属類、可燃物、塩基、過塩素酸、還元性物質、強酸化剤です。取り扱い時や保管時に、近くに置かないでください。特に水とは激しく反応するため、注意して取り扱います。
取り扱い時は、保護衣と保護手袋、保護メガネを着用し、ドラフトチャンバー内で使用してください。
火災の場合
燃焼すると、りん酸化物など腐食性及び毒性のガスを生成することがあります。消火砂または二酸化炭素 (CO2)を用いて消火してください。棒状注水は行わないでください。さい。
保管する場合
遮光性のポリプロピレンまたはポリエチレン製の容器に入れて密閉します。直射日光を避け、涼しく換気のよい場所に施錠して保管してください。
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1314-56-3.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-2386JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Phosphorus-pentoxide