酸化ニオブ

酸化ニオブとは

酸化ニオブ (英: Niobium oxide) とは、原子番号41、元素記号Nbの元素であるニオブの酸化物の総称です。

酸化数に応じて、複数の酸化物の形態が存在しますが、酸化数+2の酸化ニオブ(II) (NbO)や酸化数+5の酸化ニオブ(V) (Nb2O5) が一般的です。酸化ニオブ(II)は一酸化ニオブ、酸化ニオブ(V)は五酸化二ニオブと呼ばれる場合もあります。

酸化ニオブは、国内において、消防法や毒物および劇物取締法などの指定には該当しない物質です。

酸化ニオブの使用用途

酸化ニオブは産業分野において、ファインセラミックス、圧電材料などをはじめとして、さまざまな製品の材料に使用されます。酸化ニオブの特徴の1つは、「可視光域で高屈折率が得られる」という性質です。この特徴を活かし、主にコンパクトカメラや一眼カメラ用の高級レンズに添加され、製品の小型・軽量化に寄与しています。

また、酸化ニオブの薄膜は耐食性、耐酸性がある物質です。このため、自動車、建材用ガラス、ディスプレー用の低反射膜、半導体材料、光触媒材料、積層セラミックコンデンサ、バルブメタルの製造など、非常に幅広い用途で使用されます。

酸化ニオブの性質

1. 酸化ニオブ(II)の基本情報

酸化ニオブ(II)の基本情報

図1. 酸化ニオブ(II)の基本情報

酸化ニオブ(II)は、式量108.9、融点1,937℃であり、常温での外観は黒色固体です。CAS登録番号は12034-57-0、密度は7.30g/mLです。水には不溶ですが、塩化水素にわずかに溶解します (ただし硝酸には不溶) 。不燃性であり、通常の保管環境においては安定な化合物です。金属の伝導性を有します。

2. 酸化ニオブ(V)の基本情報

酸化ニオブ(V)の基本情報

図2. 酸化ニオブ(V)の基本情報

酸化ニオブ(V)は、式量265.81、融点1,512℃であり、常温での外観は白色粉末です。密度は4.60g/mLであり、水には溶けません。ふっ化水素酸を除いて鉱酸にも溶解しませんが、アルカリには溶けます。CAS登録番号は1313-96-8です。

酸化ニオブの種類

酸化ニオブは、主に研究開発用試薬製品や工業用ニオブ化合物として販売されています。酸化ニオブ(II)と酸化ニオブ(V)の両方が製品化されていますが、一般には主に酸化ニオブ(V)が用いられることが多いです。

1. 研究開発用試薬製品

現在酸化ニオブとして販売されている研究開発用試薬製品はほとんどが酸化ニオブ(V)であり、五酸化二ニオブと称されることも多いです。容量の種類は、5g、25g、50g、100g、500gなどとなっており、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。通常、室温で保管可能な試薬製品として扱われる物質です。少ないながらも、酸化ニオブ(II)も製品として流通はしています。

2. 工業用ニオブ化合物

工業用ニオブ化合物として販売されている酸化ニオブも、基本的には酸化ニオブ(V)です。圧電体や光学単結晶などのセラミック原料としての用途が想定されており、20kg (金属製ペール缶) などの比較的大きな容量単位で販売されています。

酸化ニオブのその他情報

1. 酸化ニオブの合成

酸化ニオブの合成

図3. 酸化ニオブの合成

酸化ニオブ(V)は、塩化ニオブ(V)の加水分解反応によって合成可能です。また、酸化ニオブ(II)は、水素分子による酸化ニオブ(V)の還元や、均化などの方法で合成されます。

2. 酸化二オブの化学反応

酸化二オブ(V)の還元反応は、産業分野において単体のニオブを得るために汎用されます。具体的には、アルミニウムを用いる反応や、炭素を用いて炭化ニオブを中間体として経由する反応などがあります。

また、酸化ニオブ(V)を塩化チオニルと反応させることにより塩化ニオブ(V)を得ることが可能です。また、四塩化炭素CCl4との反応により、オキシ塩化ニオブNbOCl3が得られます。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0114-0533JGHEJP.pdf

硫酸カリウム

硫酸カリウムとは

硫酸カリウム (英: potassium sulfate) とは、化学式がK2SO4で示される無機化合物です。

硫酸カリウムは、硫酸カリや硫加とも呼ばれています。天然にはアルカナイト (英: arcanite) として存在しますが、存在度が低い鉱物です。

硫黄とカリウムを提供でき、化学肥料に広く使用可能です。古くは医薬品として調合・処方されていました。

硫酸カリウムの使用用途

硫酸カリウムの主な使用用途として、化学肥料が挙げられます。硫酸カリウムは水に溶けやすく、速効性が強い化学肥料で、元肥と追肥の両方に使用可能です。果樹栽培でカリウムは、他元素に比べて果実に蓄積しやすいと研究で報告されています。そのため硫酸カリウムの化学肥料は、果実の肥大に効果的で、果実品質に良い影響を与えます。

さらに硫酸カリウムは、医薬品、臭化カリウム、カリウムミョウバン、ガラスの原料などにも利用可能です。

硫酸カリウムの性質

硫酸カリウムは無色の結晶で、水に溶けます。20°Cで111g/L、25°Cで120g/L、100°Cで240g/L溶解します。アセトンやアルコールには溶けにくいです。

硫酸カリウムの融点は1,069°Cで、沸点は1,689°Cです。透明で非常に硬く、苦味や塩味があります。硫酸ナトリウムとは異なり、硫酸カリウムは水和物を形成しません。

硫酸カリウムの構造

硫酸カリウムの分子量は174.259g/molで、密度は2.66g/cm3です。

硫酸カリウムには2種類の結晶形が知られており、一般的な形態は斜方晶のβ-K2SO4です。583°C以上ではα-K2SO4に変換されます。硫酸塩は四面体型の構造を形成しています。

硫酸カリウムのその他情報

1. 硫酸カリウムの歴史

14世紀初頭から硫酸カリウムは知られており、ヨハン・ルドルフ・グラウバー (英: Johann Rudolf Glauber) 、サー・ロバート・ボイル (英: Sir Robert Boyle) 、オットー・タケニウス (英: Otto Tachenius) によって研究されていました。その後、クリストファ・グラゼル (英: Christopher Glaser) が医薬品として調合・処方しています。

2. 天然の硫酸カリウム

硫酸カリウムの天然資源は、スタッスフルト塩 (英: Stassfurt salt) に豊富に含まれるミネラルです。主な形状は、マグネシウム、カルシウム、ナトリウムの硫酸塩と硫酸カリウムの共結晶です。

例えば、カイナイト (英: Kainite) にはKMg(SO4)・Cl・3H2Oが、ピクロメライト (英: Picromerite) にはK2SO4・MgSO4・6H2Oが、レオナイト (英: Leonite) にはK2SO4・MgSO4・4H2Oが含まれています。ラングバイン石 (英: Langbeinite) にはK2Mg2(SO4)3が、アフチタル石 (英: Aphthitalite) にはK3Na(SO4)2が、ポリハル石 (英: Polyhalite) にはK2SO4・MgSO4・2CaSO4・2H2Oが存在します。他の塩は水に溶けにくいため、鉱物から分離可能です。

3. 硫酸カリウムの合成法

工業的には、硫酸と塩化カリウムを加熱すると、硫酸カリウムを生成可能です。硫酸マグネシウム鉱石であるキーゼライト (英: Kieserite) と塩化カリウムの複分解でも得られます。

4. 硫酸カリウムの反応

硫酸カリウムと硫酸の反応によって、硫酸水素カリウム (KHSO4) を容易に生成可能です。硫酸水素カリウムは菱形のピラミッドを形成しており、197°Cで融解し、0°Cの水に可溶です。水溶液中で硫酸水素カリウムは、硫酸カリウムと硫酸が結合していない状態で並んでいるように振る舞っています。過剰のエタノールにより硫酸塩が沈殿し、酸が残ります。

参考文献
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010900865

硝酸ニッケル

硝酸ニッケルとは

硝酸ニッケル (英: Nickel Nitrate) とは、組成式Ni(NO3)2で表されるニッケルの硝酸塩です。

無水物のCAS登録番号は13138-45-9ですが、通常は水和物を指します。最も多い六水和物Ni(NO3)2・6H2OのCAS登録番号は、13478-00-7です。

火災を助長する可能性のある物質であるほか、眼や皮膚に対する刺激性があり、皮膚への接触や吸入によりアレルギー反応を示し、発癌のおそれがあります。

硝酸ニッケルの使用用途

硝酸ニッケルの主な用途は、アルカリ蓄電池やニッケル・水素充電池、触媒、金属表面処理剤、セラミック用顔料原料などです。

1. 二次電池

ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池など、携帯電話やデジタルカメラに使用されている充電式電池です。硝酸ニッケルは、添加剤として多く使用されています。

2. 触媒

合成樹脂や合成繊維の重合触媒として使われている物質です。

3. 表面処理

家電、自動車用の鋼板、プリント基板用銅箔など、メッキ薬品や表面処理薬品原料として利用されています。

4. 着色

樹脂やアルミ、ガラスの着色剤、発色剤として使われている物質です。

それ以外では、他のニッケル誘導体の水配位子交換の前駆物質として水和物が用いられることがあります。

硝酸ニッケルの性質

1. 硝酸ニッケル (無水物) の基本情報

硝酸ニッケル(無水物)の基本情報

図1. 硝酸ニッケル(無水物)の基本情報

硝酸ニッケルの無水物は、分子量182.7、融点56.7℃、沸点137℃であり、常温での外観は淡緑黄色結晶です。水への溶解度は 94.2g/100ml (20℃) です。潮解性があります。水溶液は緑色です。

2. 硝酸ニッケル (六水和物) の基本情報

硝酸ニッケル(六水和物)の基本情報

図2. 硝酸ニッケル(六水和物)の基本情報

硝酸ニッケル六水和物は、分子量290.79、融点56.7℃、沸点136.7℃であり、常温での外観は淡緑色結晶です。湿気の多い場合は潮解性、少ない場合は風解性を示します。密度は2.05g/mLであり、水に溶解しやすく、水への溶解度は992g/kg (25℃) です。また、エタノールに溶けやすく、エーテルに不溶です。

結晶は単斜晶系に属します。加熱によってまず結晶水を部分的に失って二水和物となり、更に硝酸を失い、塩基性塩を経て酸化ニッケルになります。

硝酸ニッケルの種類

硝酸ニッケルは、主に研究開発用試薬製品や工業用無機金属化合物として販売されています。基本的には六水和物の状態で販売されることが一般的です。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、20g、100g、500gなどの単位で販売されています。通常、室温で保管可能な試薬製品として販売されている物質です。ただし、潮解性があるため、取り扱いに注意が必要です。

2. 工業用無機金属化合物

工業用無機金属化合物としては、20kgポリ袋などの単位で販売されていることが一般的です。金属表面処理剤、めっき、触媒、二次電池正極材、など様々な用途が想定されており、複数のメーカーから販売されています。

硝酸ニッケルのその他情報

1. 硝酸ニッケルの合成

硝酸ニッケルの合成

図3. 硝酸ニッケルの合成

硝酸ニッケルは、酸化ニッケル、または水酸化ニッケルと希硝酸を反応させることで、合成が可能です。本反応では、濃縮することで、六水和物が得られます。多くは、この六水和物を硝酸ニッケルとして販売、使用されています。

無水物は六水和物に純硝酸と五酸化二窒素の混合物を作用させることによって、合成が可能です。

2. 硝酸ニッケルの反応性

硝酸ニッケルは通常の保管環境においては安定な物質ですが、酸化性を持ち、可燃物やマグネシウム、硫黄などと激しく反応します。不燃性の物質ですが、火災等の場合は、毒性の強い分解生成物が発生する可能性があります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/13138-45-9.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/13478-00-7.html

硝酸ストロンチウム

硝酸ストロンチウムとは

硝酸ストロンチウム (英: Strontium nitrate) とは、ストロンチウムの硝酸塩であり、組成式Sr(NO3)2で表される無機化合物です。

CAS登録番号は、10042-76-9です。二硝酸ストロンチウムという別名で呼ばれることもあります。加熱により、酸素を発生させ、還元物質を酸化、発火させる危険性があるため、保存際して注意が必要な物質です。

硝酸ストロンチウムの使用用途

硝酸ストロンチウムの主な用途は、 花火、蛍光体、光学ガラス、発炎筒、試薬、火薬、爆薬、ガラス (特に、LCD・OLED用ガラス原料、光学ガラス) 、セラミックスの原料などです。

特に、炎色反応では深紅色であることから、花火の赤色高光、発煙筒、夜間信号用の照明弾、マッチ、などの着火剤関連製品に使用されています。そのほか、無機化学製品や医薬品の原料、自動車のエアバッグのガス発生剤としても使用される物質です。

硝酸ストロンチウムの性質

硝酸ストロンチウムの基本情報

図1. 硝酸ストロンチウムの基本情報

硝酸ストロンチウムは、式量211.43、融点570℃、沸点645℃であり、白色の結晶性粉末です。水によく溶け、水への溶解度は40g/100g (0℃)です。

また、アンモニアにも溶解します。一方、エタノールアセトンには難溶であり、エーテルには溶解しません。密度は2.986g/mLです。結晶は無水物は立方晶系、4水和物は単斜晶系に属しています。

硝酸ストロンチウムの種類

硝酸ストロンチウムは、主に研究開発用試薬製品や工業用無機化合物薬品などとして販売されています。研究開発用試薬製品としては、25g、100g、500gなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されている物質です。

通常室温で保管可能な試薬製品として取り扱われます。工業用薬品としては、メーカーに対する個別の問い合わせが必要ですが、通常では硝子、蛍光体、その他工業用途などの用途を想定して提供されている物質です。

硝酸ストロンチウムのその他情報

1. 硝酸ストロンチウムの合成

硝酸ストロンチウムの合成

図2. 硝酸ストロンチウムの合成

硝酸ストロンチウムは、水酸化ストロンチウム水溶液と硝酸の中和反応させることにより、合成が可能です。水酸化ストロンチウム水溶液のかわりに、炭酸ストロンチウム、ストロンチウム、酸化ストロンチウムを用いることもできます。水溶液を濃縮すると、29.3℃以下では4水和物が析出します。

2. 硝酸ストロンチウムの反応性

硝酸ストロンチウムの分解反応

図3. 硝酸ストロンチウムの分解反応

硝酸ストロンチウムは、融点以上で分解し、酸素および二酸化窒素を放出して酸化ストロンチウムとなります。通常の保管環境においては安定ですが、 可燃性物質との混触は危険とされています。また、炎色反応によって深紅色を呈する物質です。

3.  硝酸ストロンチウムの危険性と法規制情報

硝酸ストロンチウムは、火災を助長する恐れのある酸化性物質とされています (GHS分類: 酸化性固体 区分3) 。人体への有害性では、皮膚刺激や眼刺激が指摘されており、GHS分類では、皮膚腐食性・刺激性: 区分2、眼に対する重篤な損傷・眼刺激性: 区分2Bに位置づけられている物質です。

これらの危険性により、硝酸ストロンチウムは法令によって取り扱いが制限されている物質です。消防法では危険物第1類酸化性固体 (硝酸塩類) に指定されており、労働安全衛生法では、危険物・酸化性の物に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要とされています。具体的な安全対策としては、下記のような事項が必要です。

  • 熱から遠ざける
  • 禁忌物質から遠ざける
  • 可燃物との混合を回避するために予防策を取る
  • 適切な保護手袋、保護眼鏡、保護面を着用する
  • 取扱い後はよく手を洗う

また、その他の法令では、船舶安全法や航空法で酸化性物質類・酸化性物質に指定されている他、水質汚濁防止法では有害物質に位置づけられています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10042-76-9.html

炭酸ランタン

炭酸ランタンとは

炭酸ランタン (英: Lanthanum carbonate) とは、ランタンの炭酸塩です。

通常、水和物 (主に八水和物) として市販・使用されています。炭酸ランタンは、無水物の他に一水和物、二水和物、四水和物、八水和物などを与える物質です。

炭酸ランタンの使用用途

1. 医薬品

炭酸ランタン八水和物は、慢性腎臓病患者の高リン血症を改善する薬として使用されてきました。炭酸ランタンは、消化管内でリン酸イオンと結合します。炭酸ランタンと結合したリン酸イオンは不溶性であるため、腸管からのリン吸収が抑制され、血中のリン濃度を低下させることが可能です。

炭酸ランタンに、血中からリンを除去する働きはありません。リン摂取量を配慮した食事療法などと合わせて使用することが重要です。お持ちの疾患または既往歴によっては、使用禁忌である場合、また併用注意とされる医薬品がいくつかあります。使用の際は、医師および薬剤師に相談してください。

報告されている重大な副作用は、腸管穿孔や消化管出血などです。その他、嘔吐や悪心、下痢、便秘、貧血、発疹など、主に消化管の副作用が見られることがあります。異常を感じた場合は、医師に相談してください。

2. 動物用医薬品

腎不全を発症したネコにも、炭酸ランタンが処方されることがあります。作用機序はヒトの場合と同様で、腸管からのリンの吸収を抑制します。

炭酸ランタンの他には、水酸化アルミニウムや炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが主に処方される薬です。

3. その他

炭酸ランタンは、ガラスの着色や水処理、炭化水素の分解触媒としても使用されます。また、燃料電池に使用されるマンガン酸ストロンチウムランタンの製造にも使われます。

炭酸ランタンの性質

1. 炭酸ランタン無水物

炭酸ランタン無水物の化学式はC3La2O9で表され、分子量は457.84です。CAS番号は587-26-8で登録されています。20℃で密度3.48g/cm3、白色の粉末です。酸に溶けますが、水へは20℃で1.24mg/Lとほとんど溶けません。

2. 炭酸ランタン八水和物

炭酸ランタン八水和物の化学式はC3H16La2O17で表され、分子量は601.96です。CAS番号は6487-39-4で登録されています。密度2.6g/cm3、白色の結晶性粉末です。希塩酸などの酸には溶けますが、水やメタノールにはほとんど溶けません。

炭酸ランタンのその他情報

1. 炭酸ランタンの製造法

酸化ランタン硝酸または塩酸と反応させて得たランタン塩に、炭酸ナトリウムを加えることで、炭酸ランタンの水和物が得られます。

2. 取り扱い及び保管上の注意

ここでは、炭酸ランタン八水和物について説明します。

取り扱い時の対策
強酸化剤は混触危険物質です。取り扱い時や保管時の接触を避けます。取り扱う際は、化学防護手袋と長袖作業衣、側板付き保護メガネ (必要に応じてゴーグル型または全面保護眼鏡) を着用してください。取り扱いは、局所排気装置内で行います。

火災の場合
熱分解で、一酸化炭素や二酸化炭素、金属酸化物を放出するおそれがあります。消火には、現場状況と周囲の環境に適した消火方法を使用してください。

皮膚に付着した場合
炭酸ランタンは、皮膚刺激性があります。皮膚または髪に付いた際は、汚染された衣類を全て脱ぎ、流水またはシャワーで洗い流します。皮膚刺激または発疹が生じた場合は、医師の診断や手当てを受けてください。

保管する場合
ガラス容器に密閉し、直射日光を避けた冷暗所で保管してください。保管場所は必ず施錠する必要があります。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0235-0005JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Lanthanum-Carbonate
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/25021823

水酸化クロム

水酸化クロムとは

水酸化クロム (英: Chromium hydroxide) とは、クロムの水酸化物ですが、二価の水酸化クロム(II) Cr(OH)2と三価の水酸化クロム(III) Cr(OH)3があります。

一般的に販売・使用されているのは、主に三価の水酸化クロムであり、水酸化クロム(III)のCAS登録番号は、1308-14-1です。水酸化クロム(III)は、形式上Cr(OH)3と表記されますが、正確な構造は定まっておらず、実際の組成は酸化クロム (III) 水和物 Cr2O3・nH2Oであるとされます。

水酸化クロムの使用用途

1. 顔料

水酸化クロムは、顔料や媒染剤として広く利用されており、耐光性、耐酸性、耐アルカリ性に優れているとされます。水酸化クロムの青緑色は、酸化クロムよりも明るい緑色がでるため、化粧品、特にメイクアップ製品に使用されます。化粧品分野での他の用途は、ヘアカラー剤、ネイル塗料、スキンケア用品などです。

2. 防腐剤

水酸化クロムは、木材の水溶性防腐剤の一部としても使われている物質です。定着性、防腐・防蟻効果など優れた性能があり、かつては一番多く使用されていました。しかし、クロム化合物の毒性を懸念する環境への配慮から、現在はあまり使用されていません。

3. 化学

水酸化クロム(III)は、酸化クロム(Ⅲ)や他の可溶性クロム(Ⅲ)塩の製造中間体としても用いられます。化学反応への用途としては、アルコール、パラフィンの脱水素反応の触媒などの用途が挙げられます。

水酸化クロムの性質

1. 水酸化クロム(II)の基本情報

水酸化クロム(II)の基本情報

図1. 水酸化クロム(II)の基本情報

水酸化クロム(II)は、分子量86.01の物質であり、空気遮断下でクロム(Ⅱ)塩水溶液にアルカリを加えることで黄色沈殿として得られる物質です。乾燥すると褐色粉末になります。

水および希酸に不溶ですが濃酸には若干溶解し、強い還元作用を持ちます。また、加熱により酸化クロム(III)Cr2O3を生じます。

2. 水酸化クロム(III)の基本情報

水酸化クロム(III)の基本情報

 図2. 水酸化クロム(III)の基本情報

水酸化クロム(III)は、分子量103.02、密度は3.11g/mLであり、常温での外観は青色、または緑色の粉末固体です。

水酸化クロム(III)の両性水酸化物としての溶解

図3. 水酸化クロム(III)の両性水酸化物としての溶解

水や希酸には、不溶ですが、強酸性溶液、強塩基性溶液のどちらにも溶解する両性水酸化物です。ただし、生成してから時間のたったものは酸に溶けにくくなります。水酸化クロム自体は、不燃性ですが、加熱すると分解して、酸化クロムを生じます。

水酸化クロムの種類

水酸化クロム(II)は、ほぼ一般に販売されていませんが、水酸化クロム(III)は研究開発用試薬製品や工業用無機化合物などとして販売されています。通常、形式上の構造式Cr(OH)3で表記されるか、酸化クロム(III)n水和物Cr2O3・nH2Oとして表記されています。

水酸化クロム(III)は、1g、5g、25g、100g、500gなど、比較的小容量単位で販売されている物質です。室温で保管可能な物質として取り扱われます。

水酸化クロムのその他情報

1. 水酸化クロムの合成

水酸化クロム(III)は、クロム塩の水溶液中に水酸化アンモニウムなどのアルカリを加えることにより、青色の沈殿として得られます。

2. 水酸化クロムの有害性と法規制情報

水酸化クロム(III)は、アレルギー性皮膚反応や、
吸入によるアレルギー、喘息又は呼吸困難などの危険性が指摘されています。GHS分類では、健康に対する有害性において、「呼吸器感作性: 区分1」「皮膚感作性: 区分1」に分類される物質です。

上記の有害性から、水酸化クロム(III)は、各種法令による規制を受けています。労働安全衛生法では、 名称等を表示すべき危険有害物、名称等を通知すべき危険有害物、リスクアセスメントを実施すべき危険有害物に指定されている物質です。

また、労働基準法では疾病化学物質であり、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) では、第1種指定化学物質です。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要とされています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1308-14-1.html

次亜リン酸ナトリウム

次亜リン酸ナトリウムとは

次亜リン酸ナトリウムの構造

図1. 次亜リン酸ナトリウムの構造

次亜リン酸ナトリウム (英: Sodium hypophosphite) とは、化学式NaPO2H2で表される無機化合物です。

別名には、「ホスフィン酸ナトリウム」「次亜リン酸ソーダ」などの名称があります。CAS登録番号は、7681-53-0です。

製品としては主に一水和物などで販売されています。一水和物のCAS登録番号は10039-56-2です。

次亜リン酸ナトリウムの使用用途

次亜リン酸ナトリウムの主な使用用途は、「無電解メッキ用」「還元剤」「合成樹脂触媒」「医薬原料」などです。

1. 無電解メッキ

無電解メッキとは、酸化還元反応を利用しためっき方法です。外部からの電気を使用せずに、めっき液に含まれる還元剤の酸化によって放出される電子を用い、金属塩溶液から金属を対象物の表面に析出させます。

無電解ニッケルめっきには「次亜リン酸ナトリウム」「ホウ素化合物」「ヒドラジン化合物」を用いる3種類の方法がありますが、工業用では次亜リン酸ナトリウムを使う方法が一般的です。このようにめっき処理された製品は、耐食性・耐摩耗性が向上し硬度が増すため、半導体製造分野をはじめ、さまざまな場面で利用されています。

2. 合成分野

次亜リン酸ナトリウムは還元作用を持つため、化学合成などの分野において還元剤として用いられます。具体的な例としては、酢酸ニッケル四水和物からのニッケルナノ粒子 (NiNP) 合成における還元剤や触媒存在下でのケトン化合物の対応するアルコールへの還元 (エナンチオ選択的移動水素化) における水素供与体などが挙げられます。

次亜リン酸ナトリウムの性質

次亜リン酸ナトリウムは、無水物の分子量が87.98、一水和物の分子量が105.99です。一水和物の分解温度が240℃であり、常温での外観は白色の結晶性粉末 (一水和物) です。一水和物は、200℃で結晶水を失い、約240℃で分解します。

水溶液はほぼ中性で、水に溶けやすいです。その他、エタノールグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールや、酢酸に溶解しやすい性質があります。吸湿性・潮解性があるので、保存には注意が必要です。密度は0.8g/mLです。

次亜リン酸ナトリウムの種類

次亜リン酸ナトリウムは、主に研究開発用試薬製品や、工業用薬品として販売されています。どちらの製品も、主に一水和物として製品化されています。

1. 研究開発用試薬製品

次亜リン酸ナトリウムは、研究開発用試薬製品としては、25g、100g、500gなどの容量の種類があります。実験室で取り扱いやすい容量での提供が一般的です。通常室温で保管可能な試薬製品として取り扱われます。

2. 工業用薬品

次亜リン酸ナトリウムは、工業用薬品としては25kgフレコンや500kgコンテナバッグなどの容量の種類があります。工場などで扱いやすい、大型容量からの提供が中心です。電解メッキ、還元剤、医薬原料などの用途を想定して商品化されています。

次亜リン酸ナトリウムのその他情報

1. 次亜リン酸ナトリウムの化学反応

亜リン酸 (左) とリン酸 (右) の構造

図2. 亜リン酸 (左) とリン酸 (右) の構造 (1)

次亜リン酸ナトリウムは、強い還元剤です。特にアルカリ性溶液では、還元性が強く、自身は、酸化されて亜リン酸、またはリン酸になります。

次亜リン酸ナトリウムと硝酸の化学反応 (上) と、次亜リン酸ナトリウムの熱分解 (下)

図3. 次亜リン酸ナトリウムと硝酸の化学反応 (上) / 次亜リン酸ナトリウムの熱分解 (下)

また、加熱すると分解してホスフィンと水素を発生し、硝酸と加熱すると、メタリン酸塩が生成します。

2. 次亜リン酸ナトリウムの取り扱い上の注意

次亜リン酸ナトリウムはGHS分類には該当せず、労働安全衛生法や消防法など各種法令による規制の対象にもなっていない物質です。ただし、取り扱いの際には、適切な局所排気装置や全体換気を設置し、保護メガネや保護衣などの適切な個人用保護具を用いることが大切です。

また、皮膚に付着した場合や眼に入った場合などは直ちに洗浄する必要があります。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-0223JGHEJP.pdf

次亜リン酸

次亜リン酸とは

次亜リン酸の互変異性体

図1. 次亜リン酸の互変異性体

次亜リン酸 (英: Hypophosphorous acid) とは、リンのオキソ酸の1種で、分子式H3PO2で表される無機酸です。

次亜リン酸とホスフィン酸 (英: Phosphinic acid) は互変異性体の関係にあるため、ホスフィン酸の名称で呼ばれる場合もあります。CAS登録番号は6303-21-5です。次亜リン酸は強力な腐食性を持つ化合物であり、目や皮膚と接触すると、失明や炎症を引き起こす可能性があります。

次亜リン酸の使用用途

次亜リン酸は還元力を持つ物質です。主な用途は「還元剤」「有機合成用触媒」「表面処理剤」「酸化防止剤」「熱変化防止剤」などです。無電解メッキの還元剤や、合成繊維やプラスチックの漂白剤及び脱色剤として、多く利用されています。

その他、ホスフィン酸塩の原料としての用途があります。例えば、次亜塩素酸ナトリウムなど、その他の次亜リン酸の調製に使用されており、これらは「分散剤」「乳化剤「湿潤帯電防止剤」として使われている物質です。また、触媒としては「エステル化触媒」「重合および重縮合触媒」など、の用途があります。

次亜リン酸の性質

次亜リン酸の基本情報

図2. 次亜リン酸の基本情報

次亜リン酸は、分子量66.00、融点26.5℃、沸点130℃であり、常温では無色透明の油性液体、または潮解性の結晶です。

密度は1.493g/mL、酸解離定数pKaは1.2です。水、アルコール、エーテルに溶解します。また、加熱すると、リン酸ホスフィンに分解されます。

次亜リン酸の種類

次亜リン酸は、工業用薬品や研究開発用試薬製品として一般に販売されています。

1. 工業用薬品

工業用薬品としては30%または50%溶液として販売されています。25kgのポリエチレン缶や200Lのドラムなどの容量での提供が一般的です。有機合成用触媒、還元剤、表面処理剤、酸化防止剤、熱変化防止剤をはじめとする、様々な用途を想定して提供されているため、複数メーカーからの販売があります。

2. 研究開発用試薬製品

次亜リン酸は、研究開発用試薬製品としても、30%もしくは50%溶液として販売されることが一般的です。容量の種類は25g、100g、500gなどがあります。通常、室温で保管可能な試薬製品として取り扱われています。

次亜リン酸のその他情報

1. 次亜リン酸の合成

次亜リン酸の合成

図3. 次亜リン酸の合成

次亜リン酸は、2段階反応によって合成されます。まず、リンをアルカリ性、またはアルカリ性の土質苛性溶液中で煮沸することで、次亜リン酸水溶液が生成します。この際、生成する亜リン酸塩はカルシウム塩として沈殿させ、除去することが可能です。

精製した水溶液を、酸化力のない強酸 (強硫酸など)  で処理すると、遊離の次亜リン酸を得ることができます。

2. 次亜リン酸の化学反応

前述の通り、次亜リン酸は互変異性化しますが、P=O結合を持つHP(O)(OH)2 構造の方が通常熱力学的に安定です。次亜リン酸は、還元力があるため、酸化クロム(III)を酸化クロム(II)に還元します。また、次亜リン酸を加熱すると約110℃で亜リン酸とホスフィンに分解します。

次亜リン酸は、推奨保管条件下で安定ですが、アルカリ性物質、金属類とは激しく反応します。危険有害な分解生成物は、リン酸化物です。保管の際は高温と直射日光、湿気を避けることが必要とされています。

3. 次亜リン酸の有害性と法規制情報

次亜リン酸は有害性として、以下の症状が指摘されています。

  • 金属腐食のおそれ
  • 重篤な皮膚の薬傷及び眼の損傷
  • 重篤な眼の損傷

消防法や労働安全衛生法、毒物及び劇物取締法では指定を受けていませんが、危険物船舶運送及び貯蔵規則や航空法では腐食性物質に指定されている物質です。取り扱いの際は、皮膚、 眼、 衣服との接触を避け、個人用保護具を着用するこ とが必要です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0108-0176JGHEJP.pdf

尿酸

尿酸とは

尿酸 (英: uric acid) とは、化学式C5H4N4O3 (分子量は168.11) で表される有機化合物です。

2,6,8-トリヒドロキシプリンとも呼ばれます。白色~わずかに薄い褐色の粉末で、水に溶けにくい物質です。鳥類や爬虫類、昆虫類では窒素代謝の最終産物として体外に排出され、ヒトでは核酸代謝の産物として少量が尿中に排出されます。尿酸は最初に、膀胱結石の中から見つかりました。尿酸のCAS番号は69-93-2です。危険有害性については、GHS分類基準に該当しない物質とされています。

尿酸の使用用途

尿酸は研究目的や医薬品用途で使用される物質です。

尿酸はもともと体内で産生される物質であり、血液中の尿酸の濃度 (尿酸値) は「高尿酸血症」の指標として用いられています。高尿酸血症は、体内で尿酸が腎臓から排泄されにくくなったり、尿酸が多く産生されたりすることでおきる病気です。プリン体 (動物性の食品に多く含まれる、プリン骨格を有する物質) を多く含む食品をたくさん摂取することも、病気の一因となります。

男性・女性ともに「尿酸値7.0ミリグラム/デシリットル超」が、高尿酸血症の基準です。一方、尿酸値が「2ミリグラム/デシリットル以下」の場合は一般に「低尿酸血症」と診断されます。低尿酸血症は、体内で尿酸が腎臓から排泄されやすくなったり、尿酸があまり産生されなくなったりすることで生じる病気です。

尿酸の性質

融点は300℃以上です。水酸化ナトリウム水溶液によく溶ける性質があります。一方、エタノールやエーテルには溶けません。尿酸の水溶液に硝酸を加えて蒸発乾固し、そこにアンモニア水を加えると赤紫色を呈する反応 (ムレキシド反応) は、尿酸の検出反応です。

尿酸が体内に蓄積すると、ナトリウムと結合して尿酸塩の結晶が作られます。尿酸塩の結晶を免疫細胞 (白血球) が攻撃することで、痛風発作がおきます。尿酸は活性酸素を取り除く「抗酸化作用」を有するとともに、状況によって「酸化促進作用」も有することが知られている物質です。

尿酸の種類

尿酸は様々な容量で市販されている物質です。

10グラム、25グラム、100グラム、500グラム、1キログラムなどの容量で販売されています。

尿酸のその他情報

1. 体内での産生経路

尿酸はリボース-5-リン酸を起点とし、キサンチンを経て、キサンチン脱水素酵素の働きによって生合成される物質です。

体内での産生経路は、外因性のものと内因性のものに分けられます。外因性の経路は、食事で摂取したプリン体を元に、尿酸を産生する経路です。およそ23割の尿酸が外因性の経路によって産生されます。内因性の経路は、細胞の代謝によって核酸 (DNARNAなど) ATPを分解することで、尿酸を産生する経路です。残り78割の尿酸が内因性の経路によって産生されます。人の体内で産生される尿酸の量は、一日あたり、およそ0.6グラムといわれています。

2. 痛風との関連

痛風は関節やその周囲に尿酸塩の結晶が析出する疾患です。多くの場合、繰り返し起きる関節炎 (急性または慢性) を伴います。関節炎によって、足の指の付け根や足の甲、膝、肘などの関節が侵されます。

尿酸が沈着することで生じる結節 (痛風結節) は、痛風の患者にみられる病変です。痛風結節が生じる主な部位は、手指、手足、肘頭などです。その他、腎臓や耳の皮下などにも生じることがあります。痛風の患者は合併症として、尿酸結石による尿路結石症を患うことがあります。

3. 動脈硬化との関連

尿酸との関連が示唆されているもう1つの疾患は、「動脈硬化」です。国内外の疫学研究により、高尿酸血症の患者では動脈硬化性疾患のリスクが高いことがわかっています。高尿酸血症の患者では動脈の血管壁に尿酸塩が沈着していることも、2020年以降、報告されるようになりました。

培養細胞を用いた研究からは、血管壁に尿酸塩が沈着すると、血管の細胞がダメージを受け、動脈硬化につながる可能性があることが示されています。

参考文献
https://www.tufu.or.jp/gout/gout2/59
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gnam/41/2/41_233/_pdf/-char/ja
https://jsn.or.jp/journal/document/57_4/766-773.pdf

安息香酸ベンジル

安息香酸ベンジルとは

安息香酸ベンジルの基本情報

図1. 安息香酸ベンジルの基本情報

安息香酸ベンジル (英: Benzyl benzoate) とは、分子式がC14H12O2で表される有機化合物の一種です。

ベンゼンカルボン酸ベンジルや安息香酸フェニルメチルとも呼ばれます。天然に安息香酸ベンジルは、ペルーバルサム (英: Balsam of Peru) やトルーバルサム (英: Tolu balsam) を代表として、多くの花にも存在します。

消防法の危険物第4類第3石油類に該当する、非水溶性の液体です。1日の許容摂取量は0〜5mg/kgですが、香料として使用する場合には安全上の問題は認められていません。

安息香酸ベンジルの使用用途

安息香酸ベンジルの用途は、「医薬原料」「香料」「有機合成原料」「可塑剤」など、多岐に渡ります。安息香酸ベンジルの医学的な研究が開始したのは1918年です。安息香酸ベンジルには血管拡張作用と痙攣作用があり、喘息を代表として、さまざまな治療に広く利用されています。

また、ダニ、シラミ、蚊を駆除するための「殺虫剤」「忌避剤」などにも使用可能です。ダニによって引き起こされる、強い痒みを伴う疥癬と呼ばれる発疹の治療にも使われています。

そのほか、キャンディやガムなどの「香料」「抗菌防腐剤」にも利用可能です。香水の成分を保持する揮発防止剤に使われるだけでなく、人工香料として食品添加物に使用されます。さらに、セルロースのようなポリマーの可塑剤や高沸点の有機溶媒としても利用されています。

安息香酸ベンジルの性質

安息香酸ベンジルの融点は17〜20°Cで、沸点は323〜324°Cです。無色またはわずかに薄い黄色の固体または液体です。弱い芳香臭がします。

安息香酸ベンジルは水には溶けません。エタノールジエチルエーテルアセトンによく溶解します。

安息香酸ベンジルの構造

安息香酸ベンジルは、ベンジルアルコール (英: benzyl alcohol) と安息香酸 (英: benzoic acid) が脱水縮合した構造を有する有機化合物です。カルボン酸エステルであり、示性式はC6H5CO2CH2C6H5と表されます。分子量は212.24で、密度は1.118g/cm3です。

安息香酸ベンジルのその他情報

1. 安息香酸ベンジルの合成法

安息香酸ベンジルの合成

図2. 安息香酸ベンジルの合成

安息香酸ベンジルは、安息香酸メチルのエステル交換によって生成します。ベンジルアルコールと安息香酸ナトリウムの反応でも合成可能です。

酸触媒下でベンジルアルコールと安息香酸を縮合しても、安息香酸ベンジルが得られます。酸を用いてアルコールとカルボン酸からカルボン酸エステルを得る反応は、フィッシャーエステル合成反応 (英: Fischer esterification) と呼ばれます。

ティシチェンコ反応 (英: Tishchenko reaction) を用いても、2分子のベンズアルデヒドから安息香酸ベンジルを合成可能です。ティシチェンコ反応は1906年に初めて、ヴャチェスラフ・ティシチェンコ (英: Vyacheslav Tishchenko) によって報告されました。この反応ではアルコキシドの触媒作用によって、アルデヒド2分子が不均化し、エステル1分子が生じます。

2. 安息香酸ベンジルの危険性

安息香酸ベンジルの加水分解

図3. 安息香酸ベンジルの加水分解

安息香酸ベンジルの急性毒性は低いです。すぐに安息香酸とベンジルアルコールに加水分解され、ベンジルアルコールは安息香酸に代謝されます。安息香酸の抱合体は、尿中に急速に排泄されます。ただし安息香酸ベンジルを大量に投与すると、過興奮、協調運動失調、痙攣、呼吸麻痺などの症状を引き起こす場合もあり、注意が必要です。

局所疥癬治療剤として安息香酸ベンジルを使用すると、皮膚炎になる可能性があります。過剰摂取では、アレルギー反応として水ぶくれ、蕁麻疹、発疹を引き起こす場合もあります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/120-51-4.html