デキストラン硫酸ナトリウム

デキストラン硫酸ナトリウムとは

デキストラン硫酸ナトリウムとは、グルコースの重合体であるデキストランを硫酸化した硫酸エステルのナトリウム塩です。

グリコサミノグリカンとも呼ばれます。デキストラン硫酸ナトリウムはムコ多糖の一種で、糖鎖が繰り返す構造を有します。また、重合度が約40以上で、比較的長く伸びるとともに親水性が極めて高いのが特徴です。

代表的なムコ多糖は、軟骨の主成分であるコンドロイチン硫酸、皮膚の結合組織中や臍帯、および目の硝子体などに含まれるヒアルロン酸です。なお、GHS分類において、該当するものはありません。

また、特出した危険有害性情報はありません。消防法、毒物及び劇物取締法においても非該当で比較的安全な物質です。

デキストラン硫酸ナトリウムの使用用途

デキストラン硫酸ナトリウムは、保湿効果を有するとともに末梢血流を改善する効果が期待されるとして皮膚コンディショニング剤や化粧品の材料に使用されています。また、非活性剤系分散剤、結合剤、脂質異常症 (高トリグリセリド血症) の治療薬、リポタンパクリパーゼ (LPL) 活性化薬としても使用可能です。

この他、デキストラン硫酸ナトリウムは、動物に潰瘍性大腸炎を誘発する最も一般的で効果的な化合物の1つであり、ラットによる結腸の炎症から発生する大腸癌の研究実験などに使用されています。

デキストラン硫酸ナトリウムの性質

デキストラン硫酸ナトリウムは、CAS番号9011-18-1で表わされる無臭の白色〜わずかに薄い黄色の結晶性粉末です。分子量の範囲は広く、MP Biomedicals社の場合は36,000-50,000です。

pHは4.5〜8.0と幅広く、水に溶けやすいですが、エタノールおよびアセトンにはほとんど溶けません。通常の取り扱い下において安定ですが、高温、直射日光、湿気を避け、強酸化剤との接触を避ける必要があります。

デキストラン硫酸ナトリウムのその他情報

1. 取扱い方法

作業場所は混触危険物質である強酸化との接触を避け、発生源の密閉化もしくは、局所排気装置を使用します。取り扱い場所の近くには、安全シャワー、手洗い・洗眼設備の設置が必要です。

作業者は、保護マスク、保護手袋、側板付き保護眼鏡 (必要により ゴーグル型または全面保護眼鏡) 、長袖作業衣を着用し作業を行います。また、産業衛生および安全の基準に基づいて取り扱いが必要です。

作業時は飲食および喫煙をせず、取り扱い後は手、顔等をよく洗い、うがいを行います。また、作業場所以外に、汚染した保護具などを持ち出さないよう注意します。

2. 応急措置

吸入した場合は新鮮な空気のある場所に移動し、症状が続く場合は、医師への連絡が必要です。皮膚に付着した場合は、直ちに石鹸と大量の水で洗浄します。

眼に入った場合は数分間気を付けて洗浄し、コンタクトを装着していて容易に取り外せるなら取り外し、洗浄を続けます。いずれも症状が続く場合は、直ちに医師の診断、手当てが必要です。

飲み込んだ場合は口をすすぎ、意識がない場合は口には何も与えません。医師もしくは毒物管理センタ ーに連絡し、SDSなどの取り扱い説明書と共に診察を受けます。

3. 火災時の措置

水スプレー (水噴霧) 、二酸化炭素 (CO2) 、泡、粉末消火剤、砂を利用した消化が可能です。また、使用できない消火剤は無いため、周辺環境に合わせて適切な消火剤を使用します。

熱分解時に刺激性のある有害なガス、蒸気を放出する可能性があるため、消化を行う際は個人用保護具を着用します。消防士は、消防士は自給式呼吸器および消火装備の着用が必要です。

4. 保管方法

直射日光を避け、 換気のよいなるべく 涼し い場所に密閉し て保管します。容器はガラス製を使用し、強酸化剤と離れた場所で保管が必要です。

廃棄時は地域、 国、 現地の適切な法律、 規制に則る必要があります。免許を有する廃棄物処理業者に、余剰物で再使用不可の溶液として処理を依頼します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-1340JGHEJP.pdf

デカブロモジフェニルエーテル

デカブロモジフェニルエーテルとは

デカブロモジフェニルエーテルの基本情報

図1. デカブロモジフェニルエーテルの基本情報

デカブロモジフェニルエーテル (英: Decabromodiphenyl ether) とは、化学式C12Br10Oで表される有機化合物であり、ジフェニルエーテルの全ての置換基が臭素化された化合物です。

デカブロモジフェニルエーテルは、分子量959.17、融点300℃、沸点425℃であり、常温において白色または淡黄色の固体です。別名には、「デカブロモジフェニルオキシド」「ペルブロモジフェニルエーテル」「 1,2,3,4,5-ペンタブロモ-6-(2,3,4,5,6-ペンタブロモフェノキシ)ベンゼン」などの名称があり、略称にはdecaBDE, DBDE, BDE-209などの名称があります。

密度は3.364g/mL、水への溶解度は1.0×10-4mg/L (25℃) です。CAS登録番号は1163-19-5です。「高濃縮性でないが難分解性及び長期毒性を有する疑いのある化学物質」であり、化審法で指定を受けています。

デカブロモジフェニルエーテルの使用用途

デカブロモジフェニルエーテルは、臭素含有率が高く、かつ難燃化効果が高いことから、難燃剤として幅広く利用されてきました。ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエステル、ABSなどの合成樹脂に添加されている物質です。具体的な利用製品は、電気や電子機器用プラスチック、自動車の部品、ゴム用難燃処理剤、防炎性の繊維製品、接着剤シール材、コーティング剤およびインクなどです。

ただし、デカブロモジフェニルエーテルは、さまざまな工業製品に添加されているものの、自然環境で分解されにくく、環境汚染や健康被害をおよぼす化学物質です。平成28年には、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約 (POPs条約) に基づき、廃絶・制限の対象物質への追加が決定されました。

デカブロモジフェニルエーテルの性質

ポリブロモジフェニルエーテルの一般式

図2. ポリブロモジフェニルエーテルの一般式

デカブロモジフェニルエーテルは、ポリブロモジフェニルエーテル (英: Polybrominated diphenyl ether) 、PBDEの1種です。合成的には、酸化ジフェニル、すなわちジフェニルエーテルの臭素化によって得られます。

ポリブロモジフェニルエーテルは、ジフェニルエーテルの臭素化物の総称で、置換臭素の数や位置によって、計算上209種の異性体が存在し、分子式は C12H(10−n)BrnO (1≦n≦10) と表される物質です。これはちょうどPCB (ポリ塩化ビフェニル) が計算上209種類の異性体を有することと同様です。

デカブロモジフェニルエーテルの種類

デカブロモジフェニルエーテルは、主に研究開発用試薬製品や工業用難燃剤原料として一般に販売されています。研究開発用試薬製品としては、主に50μg/mLなどの標準液として販売されており、ノナン溶液、イソオクタン溶液、イソオクタン:トルエン=50:50溶液などの製品があります。

容量は1mL前後と少量です。ただし、「化審法」に基づく「第一種特定化学物質」であるため、入手する際は使用するための確認書が必要となります。

デカブロモジフェニルエーテルのその他情報

1. デカブロモジフェニルエーテルの反応性

臭素化ダイオキシンの構造

図3. 臭素化ダイオキシンの構造

ポリブロモジフェニルエーテルの難燃メカニズムは、臭素がラジカルを捕捉することにより、燃焼前段階のラジカル連鎖反応を止めることによると言われています。ただし、デカブロモジフェニルエーテル自体はOHラジカルとの反応性は報告されていません。

一方で、臭素化合物であるため光には敏感であり、日光を用いた試験では直接的光分解が速やかに進行します。この反応では、主に 4あるいは 6 臭素化同属体に変換される物質です。ただし、光分解過程で脱臭素化がおき、さらに毒性の高い臭素化ダイオキシン類が形成されるという報告もあります。

2. デカブロモジフェニルエーテルの有害性

デカブロモジフェニルエーテルは、脂溶性が高く生物蓄積性を有し、生物濃縮される物質です。そのため、化審法において、第一種特定化学物質に指定されています。水棲生物における生物濃縮性は中程度もしくは低いと推定されていますが、河川等環境中に放出してはならないとされます。

人体への有害性としては、 軽度の皮膚刺激、眼刺激、遺伝性疾患の可能性、また、長期又は反復ばく露によって肝臓、甲状腺、腎臓に障害を生じるおそれが指摘されている物質です。

参考文献

https://www.nite.go.jp/chem/risk/products_risk-decabde.pdf

デオキシコール酸

デオキシコール酸とは

デオキシコール酸 (Deoxycholic acid) とは、胆汁酸の1種であり、腸内の細菌の代謝により、一次胆汁酸から生成される二次胆汁酸の1つです。

融点171〜174℃で、常温において白色の固体です。デオキシコール酸は、主に肝臓で生成され、胆嚢に貯蔵され、腸での脂肪の消化と吸収に関与します。

肝臓において、コレステロールから一次胆汁酸のコール酸およびケノデオキシコール酸が合成されます。一次胆汁酸は、アミノ酸のグリシンタウリンと抱合体を形成し、胆汁成分として十二指腸に分泌された後、腸内細菌の作用によりデオキシコール酸やリトコール酸などの二次胆汁酸に変化します。

デオキシコール酸は、コレステロールを分解し、脂肪の吸収を助けることで、消化システムにおいて重要な役割を果たしています。また、実験的な洗浄剤や乳化剤としても利用されており、膜関連タンパク質の単離のために用いられることも多いです。

デオキシコール酸の使用用途

デオキシコール酸単体では、デスオキシコーレート培地やXLD寒天培地などの調製、胆汁酸の研究、および光学分割剤として利用されています。また、葉酸と共修飾したキトサンミセルの癌化環境下において、pH応答性メカニズムを評価する研究用途もあります。

デオキシコール酸と脂肪酸との複合体は、食品の乳化剤、コルチゾン合成の前駆体、利胆剤として使用可能です。医薬品分野では、ウルソデオキシコール酸は胃腸薬として、ケノデオキシコール酸はコレステロール系胆石溶解の薬物療法や胃腸薬に用いられています。

また、アメリカにおいては、オキシコール酸は「Kybella」という商品名で顎下脂肪を減らす用途で販売されています。これは、食品医薬品局 (FDA) によって承認されており、顎下脂肪に注入されたデオキシコール酸は脂肪細胞の破壊を助け、数ヶ月かけて代謝されるためです。

デオキシコール酸の性質

デオキシコール酸は二次胆汁酸の1種で、化学式はC24H40O4で表されます。主に肝臓で生成され、消化および脂質吸収のプロセスにおいて重要な役割です。

デオキシコール酸は両親媒性の分子で、水と油の両方に相溶性を持ちます。この性質により、消化管内で脂質の乳化を助けることが可能です。

また、消化酵素の活性化や脂質の吸収を助ける働きをします。そのほか、腸内細菌叢の構成や機能に影響を与えることが知られています。

デオキシコール酸の構造

デオキシコール酸の構造は、ステロイド骨格が基本となっており、コレステロールと共通のその分子構造を有しています。ヒドロキシ基とカルボキシ基の結合部位が特徴的です。これらの官能基がデオキシコール酸の水溶性と両親媒性をもたらし、脂肪の消化と吸収に関与する性質を示しています。

デオキシコール酸の構造は、その生物学的活性や物理化学的性質に関与しており、消化システムでの脂肪の分解や脂肪減少の治療に役立っています。

デオキシコール酸のその他情報

デオキシコール酸の製造方法

デオキシコール酸は、天然に存在する胆汁酸で、主に家畜の胆嚢や牛の胆汁から抽出されます。しかし、天然の胆汁酸を抽出する方法は効率が低く、コストがかかるため、工業的には、現在は、主に化学合成によって製造されています。

ケノデオキシコール酸の合成
デオキシコール酸の合成の第一段階は、ケノデオキシコール酸 (CDCA) の合成です。ケノデオキシコール酸は胆汁酸の1種で、デオキシコール酸の前駆体です。ケノデオキシコール酸はコレステロールを原料とした酸化反応によって合成されます。

デオキシコール酸への変換
ケノデオキシコール酸をデオキシコール酸に変換するためには、ケノデオキシコール酸12位のヒドロキシ基を除去する必要があります。酸化剤や還元剤を用いる方法や塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸などの酸触媒を用いる方法が一般的です。

テレフタル酸ジメチル

テレフタル酸ジメチルとは

テレフタル酸ジメチル (英: Dimethyl terephthalate) とは、白色結晶または結晶性粉末の有機化合物です。

IUPAC名はDimethyl benzene-1,4-dicarboxylate、別名としてテレフタル酸メチルエステルやジメチルテレフタラート、1,4-ベンゼンジカルボン酸ジメチルエステル (英: 1,4-Benzenedicarboxylic acid dimethyl ester) 、DMTなどが挙げられます。

テレフタル酸ジメチルの使用用途

テレフタル酸ジメチルは、PET (ポリエチレンテレフタレート) 樹脂やPTT (ポリトリメチレンテレフタレート) 樹脂、PBT (ポリブチレンテレフタレート) 樹脂の原料として用いられています。

PETは、ポリエステル繊維やポリエステルフィルム、ペットボトルなど幅広く使用されています。PTTは、伸縮性や形状安定性に優れ、やわらかい肌触りなどの特徴を持つ植物由来の繊維です。カーペットやカーシートなどに使用されています。

PBTは、成形性、電気特性、難燃性、着色性などに優れており、エンジニアリングプラスチックとして自動車部品や電気・電子部品に利用可能です。

テレフタル酸ジメチルの性質

化学式はC10H10O4で表され、分子量は194.18です。CAS登録番号は120-61-6です。

融点は140~142 °C、沸点は288 °Cで、昇華性を持ち、常温で固体です。無臭の化合物で、アセトンに溶けやすく、エーテルやエタノールにやや溶け、水にはほとんど溶けません。

テレフタル酸ジメチルのその他情報

1. テレフタル酸ジメチルの製造法

テレフタル酸ジメチルの代表的な製造方法は、ビッテン−ハーキュレス法です。パラキシレンおよびp−トルイル酸メチルを空気酸化して得られる酸化反応混合物を、高温高圧条件下においてメタノールでエステル化します。このエステル化反応混合物の分離精製により、テレフタル酸ジメチルが得られます。

また、テレフタル酸をメタノール存在下メチルエステル化することでも合成可能です。生成したテレフタル酸ジメチルは、蒸留により精製できるため、純度の低いテレフタル酸も使用できます。

2. 法規情報

テレフタル酸ジメチルは、以下の国内法令に指定されています。

  • 化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法): 第1種指定化学物質 (法第2条第2項、施行令第1条別表第1) (令和5年3月31日まで)
  • 改正化学物質排出管理促進法: 第1種指定化学物質 (法第2条第2項、施行令第1条別表第1) (令和5年4月1日から)
  • 大気汚染防止法: 有害大気汚染物質

3. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱う場合の対策
強酸化剤や塩基、強酸、硝酸塩との接触は避けてください。呼吸器への刺激のおそれがあります。

局所排気装置であるドラフトチャンバー内で使用することが重要です。なお、使用の際は、個人用保護具を着用します。

テレフタル酸ジメチルは、141℃に引火点を持つ可燃性物質です。熱や発火源を近づけないようにしてください。

火災の場合
熱分解により、刺激性で有毒なガスや蒸気を放出するおそれがあります。消火には水噴霧や泡消火剤、粉末消火剤、炭酸ガス、消化砂などを使用します。棒状注水は使用しないでください。

保管する場合
保管する際は、ポリプロピレン製容器に入れて密閉します。直射日光を避け、換気がよく、なるべく涼しい場所に施錠して保管してください。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/120-61-6.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-0313JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Dimethyl-terephthalate

チタン酸バリウム

チタン酸バリウムとは

チタン酸バリウムとは、ペロブスカイト構造をもつ合成無機化合物です。

融点1,625 ℃、密度6.02 g/㎤で、常温において白色の固体です。毒物及び劇物取締法により「バリウム化合物」として劇物に指定されています。

チタン酸バリウムの使用用途

チタン酸バリウムは「チタン酸バリウムセラミックス」とも呼ばれ、電圧をかけると内部で分極が起こり、電気を蓄積する誘電性のほか、圧電性や焦電性を有しています。この特長を利用して、セラミックコンデンサ圧電素子サーミスタバリスタなどの電子部品の材料として用いられていますセラミックコンデンサは内部電極とチタン酸バリウムを主成分とする誘電体層層を交互に積層した、積層セラミックコンデンサ (MLCC) として利用されます。MLCC技術の進展により、携帯電話などのデバイスの小型化が実現しました。

圧電素子とは、物理的な圧力により内部の電荷が変化する、あるいは電圧をかけると振動する電子部品です。電子ライターやスピーカーなどに使用されています。

サーミスタとは、温度変化により内部の電荷が変化する焦電性を利用した電子部品です。温度センサーヒーターの温度制御などに利用されています。

チタン酸バリウムの性質

チタン酸バリウムは、化学式BaTiO3で表される化合物であり、高い誘電率、高い誘電損失率、高い屈折率をもちます。CAS番号は12047-27-7です。キュリー温度 (Tc) は130 ℃付近であり、Tcにおいて常誘電体から強誘電体へ相転移が起こります。強誘電性は原子の欠陥や不純物の混合などの影響を強く受けます。

チタン酸バリウムの構造

チタン酸バリウムの結晶構造は、低温から高温にかけて、菱面体晶、斜方晶、正方晶、立方晶の順に変化します。これらのうち、常温における正方晶は、強誘電体として、および高温(120℃以上)における立方晶は、常誘電体として工業的に重要な材料となります。

ペロブスカイト構造をとり、単位格子の頂点にはBaイオン、面心にはOイオン、体心にはTiイオンがあります。チタン酸バリウムは電界がなくても、各イオンが正規の位置からわずかにずれて分極します。この現象を自発分極と呼びます。外部の電界により分極の方向が反転するため、強誘電体と呼ばれます。また、イオンの変異によって強誘電性が発現するため、「変位型強誘電体」と呼ばれます。

チタン酸バリウムのその他情報

チタン酸バリウムの製造方法

1. 固相反応法
炭酸バリウムと酸化チタンを湿式混合し、濾過、乾燥、造粒成形し、仮焼、粉砕することで得られます。炭酸バリウムは硫化バリウムや塩化バリウム、水酸化バリウムなどから作製されます。ストロンチウムが不純物として混入すると、キュリー点が低温側に移動するため注意が必要です。

酸化チタンは硫酸法、または塩素法で作製されます。硫酸法では、チタン鉱石であるFeTiO3に硫酸を加えてTiOSO3を作製し、アンモニアを加えて得られたメタチタン酸 (TiO(OH)2) を焼くことで酸化チタンを得ます。塩素法では四塩化チタンの塩素を酸素で置換して、酸化チタンを得ます。

2. シュウ酸塩法
塩化バリウム、四塩化チタン、シュウ酸の反応により、シュウ酸バリウムチタニル (BaTiO(C2O4)2) を得ます。熱分解することで、チタン酸バリウムを得ます。この方法で、工業的に高純度のチタン酸バリウムが合成されています。

3. クエン酸法
クエン酸バリウム水溶液とクエン酸チタン水溶液を反応させて、作製されたBaTi(C6H6O7)3・6H2Oを熱分解してチタン酸バリウムを得ます。

4. 水熱合成法
水酸化バリウムとメタチタン酸 (TiO(OH)2) の含水塩とを常圧下で加熱することでチタン酸バリウムが得られます。高温高圧下で処理すると、結晶星の良いチタン酸バリウムが得られます。

5. ゾルゲル法
バリウムの水酸化物のゲルとチタンのゾルとを混合し、乾燥、仮焼・粉砕することでチタン酸バリウムが得られます。複合材料の作製に適しています。

6. アルコキシド法
チタンアルコキシドと水酸化バリウムをジェット混合機で急速混合したのち、環流下で加熱し、生成した沈殿を結晶化することで、チタン酸バリウムを得ます。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/59/1/59_KJ00007516455/_pdf/-char/ja
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/12047-27-7.html
https://www.nippon-chem.co.jp/dcms_media/other/cre2002-8.pdf

チタン酸ストロンチウム

チタン酸ストロンチウムとは

チタン酸ストロンチウムとは、ストロンチウムチタンの複合酸化物です。

三酸化チタン (IV) ストロンチウムとも呼ばれています。チタン酸ストロンチウムは人造石ですが、同様の化学組成を有する天然鉱物にタウソン石があります。チタン酸ストロンチウムは、かつてはダイヤモンドの代用品として扱われていました。

モース硬度が6と、ダイヤモンド (モース硬度10) より低いものの、ブリリアンシー (輝き) がダイヤモンドの4.3倍であること、およびファイアー (スペクトルカラーに分散する光の外観) の良さが評価されていました。

チタン酸ストロンチウムの使用用途

1. 現在の主な用途

チタン酸ストロンチウムは、代表的なペロブスカイト構造をもつことから、強誘電体や超伝導体薄膜などの基板として広く利用されている素材です。応用研究においては、ジョセフソン素子用、SQUID (超電導量子干渉素子) 用基板として重要な位置を占めています。

また、優れた誘電特性や熱電特性を活かして、セラミックコンデンサの材料や、ニオブなどの添加物によりで容易に半導体化することから、バリスタ、センサ、熱電素子などにも利用されています。

2. 今後の用途

近年において、チタン酸ストロンチウムは、水素生成光触媒として注目されている素材の1つです。光照射下での高い安定性や光還元力の強さから、太陽光のみを利用した水素製造を可能にする光触媒として研究が行われています。

また、高品位なペロブスカイト型酸化物でありながら、金属的性質を持つ新基板として、これまでにない新しい応用の可能性があることから、盛んに開発が進められています。

チタン酸ストロンチウムの性質

1. 物理的性質

チタン酸ストロンチウムは、化学式SrTiO3で表わされる白色固体です。分子量は183.5、CAS番号は12060-59-2で登録されています。融点は約1,900℃、密度は5.1g/cm3で、可燃性、酸化性に関するデータはありません。

結晶系は立方晶、格子定数はa=0.3905nm、ベルヌーイ法で育成されます。誘電率は310  (27℃,1MHz) 、熱膨張係数は11.1×10-6/℃ (室温~1,000℃) です。相転移温度は110K、屈折率は2.407 (at 589 nm) です。

2. 化学的性質

水およびほとんどの溶剤に不溶で、室温密閉の状態では安定です。混触危険物質には強酸化剤、強酸類が指定されているため、使用時は接触を避ける必要があります。

室温では,無色のペロブスカイト型構造の立方晶系結晶ですが、110K以下では正方晶系です。高温に熱すると酸素の一部を失い、黒変し電気導伝性を帯び、低温で圧電性を示します。

不燃性であり、消防法において非危険物です。火災時は、消火方法に制約がないため、他の危険物の消火方法に従って消火を行います。

チタン酸ストロンチウムのその他情報

1. 安全性

非危険物であり、人体への影響は確認されていませんが、作業者に曝露しないよう適切な身体保護具を着用する必要があります。皮膚や眼に付着した場合は、直ちに流水で洗浄し、痛みが続く場合は医師の手当が必要です。

作業時は、局所排気装置が設置されている場所、もしくは換気の良い場所で作業を行い、物質に直接触れたり、蒸気、粉塵を吸引しないよう対策を行います。水性環境有害性や、魚毒性、蓄積性、土壌への影響は現在のところ確認されていません。廃棄時は専門の業者での処理が必要です。

2. バンドギャップ

バンドギャップとは、結晶のバンド構造において電子が存在できない領域 (禁制帯) のことを指します。バンドギャップが無い導体の代表は、鉄、銅、銀、金、アルミニウムなど金属系の物質です。

チタン酸ストロンチウムは、3.2eVのバンドギャップを持つ間接遷移型の絶縁体です。室温の場合、紫外線で励起しても蛍光を示しませんが、低温で励起すると電子、正孔が自己束縛状態を形成し、その結合によって500nmで発光します。

チタン酸カリウム

チタン酸カリウムとは

チタン酸カリウムとは、化学式K2O · nTiO2で示される合成無機化合物です。

nは1から12の整数であり、例えばnが6の場合は、K2O · 6TiO2となり「6チタン酸カリウム」と呼ばれます。

チタン酸カリウムの製造方法は、K2MoO4またはK2WO4フラックスとして用いて合成するフラックス法や、混合原料 (TiO2、K2CO3、K2MoO4) を1,200~1,500℃で溶融、冷却し結晶化させる溶融法などがあります。

チタン酸カリウムの使用用途

チタン酸カリウムは主に、耐熱性、断熱性、耐薬品性に優れている6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウムが、工業用途として利用されています。

主な用途は、石綿の代替原料、ブレーキパッドやクラッチなどの摩擦材、エンジニアプラスティックの補強剤、フィルター、コーティング材、耐候性塗料、耐火断熱材、多層基板です。

また、造形性、精度、強度および剛性が求められている3Dプリンター用のフィラメント (成形樹脂) にも配合されています。

チタン酸カリウムの性質

4チタン酸カリウムは、化学式K2O · 4TiO2、もしくはK2Ti4O9と表わされる白色の固体です。分子量は413.7、CAS番号は12056-49-4です。

融点、沸点、可燃性のデータはありません。容器内部を乾燥雰囲気にして密封し、室温で保存すると化学的に安定です。

混触危険物質は現在のところ知見はありませんが、水との接触を避けます。なお、n数の違いにより、性質が変化するため、使用時は購入した製品のSDSを確認することが大切です。

チタン酸カリウムのその他情報

1. 安全性

皮膚腐食性および刺激性があり、眼に対する刺激性が強いです。また、特定標的臓器として全身毒性の恐れ、単回曝露では呼吸器系への刺激の恐れがあることから、使用時は十分な注意が必要です。

現在のところ、水性環境急性、慢性有害性や、魚毒性は確認されていませんが、廃棄時は専門の業者に委託し処分を行います。消防法では非危険物であり、毒物および劇物には指定されていません。

また、不燃物であることから、火災時は消火に関する制約がほとんどありません。消火時は、他の危険物の消火条件に従って消火を行います。

2. 取り扱い方法

作業時は、作業者が物質の蒸気や粉塵を吸引しないよう、局所排気装置が設置されている作業場、もしくは換気の良い場所で作業を行います。

作業者は、適切な呼吸用保護具、防塵マスク、 保護眼鏡、保護面 (防災面) 、保護手袋、また作業内容に応じて、保護服、長靴、前掛け、アームカバーの着用が必要です。

3. チタン酸カリウム繊維

チタン酸カリウム繊維は、高強度、高剛性、高アスペクト比といった特長があり、プラスチックス等の補強材、自動車用ブレーキの摩擦調整剤、精密フィルターなど、幅広い用途で使用されています。

6チタン酸カリウムは、特に断熱性、耐熱性、耐薬品性に優れていることから、断熱材、耐熱材、断熱塗料の他、熱可塑性樹脂、プラスチック発泡体、セメント補強材などに利用可能です。

また、チタン酸カリウム繊維の誘導体である結晶質チタン酸繊維は、イオン吸着材としての特性を持ち、工業用排水処理材、高レベル放射性廃液処理材、触媒、担体、フィルターへの利用が期待されています。

4. チタン酸カリウム繊維の構造

チタン酸カリウムの中で、現在まで実際に合成、構造解析がなされているものは、nが、1、2、4、6、8です。n=2、4は、層状構造を示し、n=6、8はトンネル構造を示します。

層状構造、トンネル構造どちらも繊維状で合成されますが、構造の違いにより化学的および物理的性質は大きく異なります。層状構造を有する繊維は化学的に活性で、カリウムイオンが強い交換性を持つため、種々の誘導体を合成可能です。トンネル構造を有する繊維は、断熱性、耐熱性、体化学性に優れていることが特徴です。

チオクト酸

チオクト酸とは

チオクト酸の基本情報

図1. チオクト酸の基本情報

チオクト酸とは、化学式がC8H14O2S2の有機化合物です。

「リポ酸」「α-リポ酸」とも呼ばれています。光学活性を持ち、数多くの酵素の補助因子として必要な有機化合物です。

チオクト酸は、細胞のミトコンドリア内で働く補酵素の1種です。ミトコンドリア内で熱エネルギーの産生を高め、新陳代謝を促進すると言われており、抗酸化作用が非常に強く、ビタミンCなどの400倍とされています。抗酸化力に加え、糖代謝の促進や重金属排泄作用にも期待されています。

チオクト酸の使用用途

チオクト酸は、医薬品の原料として利用されています。通常成人はチオクト酸アミドとして10~60mgを1日に1~3回分割経口服用すると、肝機能障害の改善や脳代謝への作用が見られます。

以前は医薬品のみに利用されていましたが、2004年3月からはサプリメントにも利用されています。ニンジン、トマト、ホウレンソウ、ブロッコリー、レバーなどにもごく微量含まれ、人体でも生成可能です。

チオクト酸の性質

チオクト酸の融点は59〜62°Cで、沸点は362.5°Cです。常温では淡黄色〜黄色の固体です。エタノールに溶け、ナトリウム塩は水に溶解します。

メタアナリシス (英: meta-analysis) によるとチオクト酸は、空腹時血糖値、インスリン抵抗性、ヘモグロビンA1c、LDLコレステロール、トリアシルグリセロールなどを改善する可能性があります。プラセボ対照試験のメタアナリシスでは、わずかに体重とボディマス指数が減少すると報告されました。

チオクト酸はインスリン自己免疫症候群の誘因になると報告されています。糖尿病患者に使用する際には、低血糖を注意する必要があります。

チオクト酸の構造

チオクト酸の構造

図2. チオクト酸の構造

チオクト酸はオクタン酸に由来する有機硫黄化合物です。環状のジスルフィド結合とカルボキシル基を持っています。モル質量は206.33g/molで、密度は1.218g/cm3です。

チオクト酸は炭素原子にキラル中心を有しており、鏡像異性体として(R)-チオクト酸と(S)-チオクト酸が存在します。(R)-チオクト酸と(S)-チオクト酸の1:1混合物は、(RS)-チオクト酸または(±)-チオクト酸と呼ばれます。生物学上ではR体が重要です。

チオクト酸のその他情報

1. チオクト酸の製造

1950年代〜1960年代にかけて、チオクト酸のラセミ体は、日本やヨーロッパで広く臨床的に使用されていました。初めて(R)-チオクト酸と(S)-チオクト酸が得られたのは、1950年代半ばです。光学分割と不斉合成によって片方の鏡像異性体を製造でき、(R)-チオクト酸の需要も増加しました。

21世紀に入ると光学的純度の高い(R)-チオクト酸や(S)-チオクト酸を、工業的に入手可能になりました。現在ではほとんどのチオクト酸が中国で製造されており、イタリア、ドイツ、日本でも少量製造されています。

2. チオクト酸の役割

チオクト酸は好気性生物の代謝で、補因子としての役割を持っています。とくにクエン酸回路で、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の補因子として働きます。チオクト酸はアシル基やメチルアミンを、2-オキソ酸デヒドロゲナーゼとグリシンデカルボキシラーゼ複合体に、それぞれ運搬可能です。

3. チオクト酸の関連化合物

チオクト酸の関連化合物

図3. チオクト酸の関連化合物

チオクト酸の酸化体はβ-チオクト酸です。β-チオクト酸はβ-リポ酸 (英: β-lipoic acid) とも呼ばれます。β-リポ酸と区別するために、チオクト酸はα-リポ酸と呼ばれます。

チオクト酸の還元体はジヒドロリポ酸 (英: dihydrolipoic acid) です。ジヒドロリポ酸はカプリル酸の6位と8位にチオールが置換した構造を持っており、光学活性を有し、R体のみが生化学的活性があります。チオクト酸とジヒドロリポ酸のペアは、あらゆる生化学的変換に関わっています。

チオ尿素

チオ尿素とは

チオ尿素の基本情報

図1. チオ尿素の基本情報

チオ尿素とは、尿素の酸素原子を硫黄原子に置き換えた構造を有する有機化合物です。

チオウレアやイソチオ尿素とも呼ばれています。アンモニアの存在下で、シアナミド (英: Cyanamide) と硫化水素から合成する製造方法が広く知られています。石灰窒素と硫化水素または水硫化カルシウムからも製造可能です。

加水分解が起こりにくく、環境中に排出された場合には、藻類に高い毒性を示します。ヒトが摂取した際には、代謝によって生成するシアナミドの影響で、甲状腺機能が低下します。

チオ尿素の使用用途

チオ尿素の多くは、ウレタン樹脂の製造に用いられています。ウレタン樹脂とは、ウレタン結合を持つ重合体のことで、ポリウレタンやウレタンゴムとも呼ばれます。

また、チオ尿素は、医薬品 (サルファチアゾール、メチオニン、チオウラシル) 、殺鼠剤 (サルファナフチルチオ尿素) 、染料 (硫化染料、インジゴ) 、有機ゴム添加剤 (ジフェニルチオ尿素など) に使用可能です。さらに、写真薬品の原料、および各種有機合成原料 (チオグリコール酸アンモンなど) としても、幅広く利用されています。そのほか、界面活性剤、金属防錆剤、ボイラーの清浄剤の原料に用いられています。

ビスマス、パラジウム、アンチモン (III) などの分析用試薬も用途の1つです。

チオ尿素の性質

チオ尿素は水やエタノールに可溶です。融点は182°Cで、常温では白色の固体です。加熱すると分解し、窒素酸化物 (NOx) や硫黄酸化物 (SOx) などの有毒なガスが生じます。

チオ尿素とハロゲン化アルキル (英: alkyl halide) の反応によって、イソチオウロニウム (英: isothiouronium) が生成します。イソチオウロニウムの加水分解によって、対応するチオールを合成可能です。硫黄源に硫化水素やその塩を使用する場合とは異なり、スルフィドが生成しません。

チオ尿素の構造

チオ尿素の構造

図2. チオ尿素の構造

チオ尿素の化学式はCH4N2Sです。モル質量は76.12g/molで、密度は1.405g/mlです。

R2N−C(=S)−NR2のような構造を有する化合物の一般名として、チオ尿素と呼ぶ場合もあります。R2N−C(=S)−NR2のRは、メチル基やエチル基などです。近年では、有機分子触媒のための基本骨格として、チオ尿素が注目されています。

チオ尿素は平面分子です。C=Sの結合距離は1.71Å、C-Nの平均結合距離は1.33Åです。チオ尿素には互変異性体が存在します。水溶液中ではチオール型よりチオン型が多く、平衡定数Keqは1.04×10−3と計算されています。

チオ尿素のその他情報

1. チオ尿素を用いた還元反応

チオ尿素を用いた反応

図3. チオ尿素を用いた反応

チオ尿素によって、過酸化物を対応するジオールに還元できます。この反応の中間体は、不安定なエンドペルオキシドです。

オゾン分解ではチオ尿素を還元剤として使用すると、カルボニル化合物を生成します。オゾン分解にはジメチルスルフィドも有効ですが、沸点が37°Cで揮発性が高く、不快な臭いがあります。その一方で、チオ尿素は無臭で揮発しにくいです。

2. 硫黄源としてのチオ尿素

ハロゲン化アルキルのチオールへの変換など、硫黄原子の供給源としてチオ尿素を使用可能です。例えば、1,2-ジブロモエタンからエタン-1,2-ジチオールを合成可能です。

チオ尿素と金属イオンが反応すると、硫化物の供給源として機能します。具体的には、水溶液中の水銀イオンをチオ尿素で処理すると、硫化水銀を生成します。このような硫化反応は、多くの金属硫化物の合成に適用でき、通常は水と加熱が必要です。

チオ尿素とβ-ジカルボニル化合物の縮合によって、ピリミジン誘導体を合成可能です。まずチオ尿素のアミノ基が、カルボニル基と縮合します。その後、環化と互変異性化が進行し、脱硫によってピリミジンが得られます。チオ尿素とα-ハロケトンの反応では、アミノチアゾールを合成可能です。

チオグリコール酸

チオグリコール酸とは

チオグリコール酸 (Thioglycolic acid、TGA) とは、有機硫黄化合物であり、分子式C2H4O2Sを持つ物質です。

この無色の液体は強い刺激臭を持ち、水や極性有機溶媒に溶解しやすい性質があります。チオグリコール酸は「メルカプト酢酸」「2-メルカプト酢酸」あるいは「チオバン酸」とも呼ばれている、チオール基とカルボン酸基を含む化合物であり、多くの化学反応や工業的応用に利用されています。

融点-16.5℃、沸点96℃で、常温において強い臭気と刺激臭のある淡黄色から無色の液体です。加熱により有毒なSOxガスを発生します。また、腐食性が強いことから冷暗所にて密栓して保管します。

チオグリコール酸の製造は、主にモノクロル酢酸、あるいはその塩と硫化水素カリウム、または硫化水素塩との反応により行われています。

チオグリコール酸の使用用途

チオグリコール酸は、ポリマー改質、ゴム薬品 (安定剤) 、写真薬品、医薬中間体、農薬中間体など幅広く利用されています。主な使用用途としては、次のようなものがあります。

1. パーマ液や脱毛剤

チオグリコール酸は、毛髪のケラチンタンパク質のジスルフィド結合を切断しする作用を有しています。これにより、髪の形状を変えることができるため、パーマ液として広く用いられています。 

また、同様の還元作用によって、、皮革製品の脱毛、あるいは脱毛剤の原料にも用いられています。

2. 合成樹脂の製造

エステル化や重合反応を通じて、合成樹脂の製造に利用されます。チオグリコール酸を利用した合成樹脂は、自動車、航空、電子機器、繊維、建築材料など、幅広い分野で応用されています。

3. 錯体化剤や還元剤

チオグリコール酸は、金属イオンと安定な錯体を形成する特性を有しており、分析化学 (キレート滴定や鉄の比色分析など) や金属の精錬・回収に使用されます。また、還元剤としても利用されることがあります。

チオグリコール酸の性質

チオグリコール酸は、水や極性有機溶媒 (アセトン、エタノール、ジメチルフォルアミドなど) に溶解しやすい性質があります。この高い溶解性は、カルボン酸基が水素結合を形成することによるものです。

チオグリコール酸のチオール基は、酸化還元反応に対して高い反応性を示します。チオール基は、還元剤との反応のジスルフィド結合を切断し、酸化剤との反応でジスルフィド結合を形成します。これにより、チオール基を再生することも可能です。

この酸化還元反応性は、チオグリコール酸が化学反応や工業的応用で活用される一因です。チオグリコール酸は、金属イオンと錯体を形成する能力があります。分子中のチオール基が金属イオンが結合し、安定な錯体を生成するため、金属の精錬や回収、分析化学などの分野で利用されています。

チオグリコール酸の構造

チオグリコール酸の化学構造は、チオール基とカルボン酸基という2つの官能基を持つことが特徴です。この構造により、チオグリコール酸は多くの化学反応に関与することが可能です。

チオグリコール酸のチオール基は金属イオンと結合し、錯体を形成する能力があります。これらの特性により、チオグリコール酸は錯体化剤や還元剤として使用されることがあります。

カルボン酸基は水素結合を形成することができるため、チオグリコール酸の溶解性に影響を与えています。

チオグリコール酸のその他情報

チオグリコール酸の製造方法

チオグリコール酸の製造方法には、いくつかの代表的な方法があります。以下に、主な製造方法を詳しく説明します。

1. クロロ酢酸と硫化水素の反応
クロロ酢酸と硫化水素を反応させることで、チオグリコール酸を合成できます。この反応は、クロロ酢酸のクロロ基が硫化水素の硫黄原子と置換される過程で進行します。反応条件は、加熱下、水溶液中で行われることが一般的です。 

2. グリコール酸と硫黄の反応
グリコール酸と硫黄の反応によってチオグリコール酸を合成する方法もあります。一般的に加熱下、酸性条件で用いられ、グリコール酸の水酸基が硫黄原子によって置換される過程でチオグリコール酸が生成します。

3. グリコール酸エステルと硫化水素の反応
この方法では、グリコール酸エステルと硫化水素を反応させます。グリコール酸エステルの水酸基基が硫化水素の硫黄原子によって置換されことで、チオグリコール酸エステルが得生成し、これを加水分解することでチオグリコール酸が得られます。