過塩素酸アンモニウム

過塩素酸アンモニウムとは

過塩素酸アンモニウムとは、化学式NH4ClO4で表される無機化合物で、過塩素酸のアンモニウム塩です。

過塩素酸アンモニアを反応させることで生産されます。また、過塩素酸ナトリウムの水溶液に塩化アンモニウムを加える方法でも生産できます。

酸化剤でありながら分子内にも酸化されうる窒素と水素を含むため、爆薬やロケットの推進剤として無駄が少なく効率的です。なお、CAS登録番号は7790-98-9です。

過塩素酸アンモニウムの使用用途

過塩素酸アンモニウムは、酸化力を持つ性質から、酸化剤として「爆薬」「花火」「ロケットの推進剤」などに使用されています。

1. 爆薬

産業用爆薬であるカーリットは、過塩素酸アンモニウムを酸化剤、ケイ素鉄と木粉を燃焼剤とするものです。

2. 花火

花火の材料としても使われており、過塩素酸アンモニウムをアルミニウムやマグネシウムの粉末と混ぜることで白色に発光します。これらは、花火の他に、船舶救難信号や照明弾などにも使用されています。

3. ロケットの推進剤

固体燃料ロケットの推進剤は、合成ゴムなどの固型燃料、酸化剤と金属粉などを混ぜ合わせ、固めたもの (コンポジット) を使用しています。ここで通常用いられる酸化剤が、過塩素酸アンモニウムです。

固体ロケットの酸化剤には過塩素酸カリウムが用いられていた時期がありましたが、現在では高効率な過塩素酸アンモニウムが主流になっています。ただし、過塩素酸アンモニウムは塩化水素ガスなどの有毒ガスを大量に発生することが問題視されています。

過塩素酸アンモニウムの性質

1. 外観・溶解性・結晶の性質

無色または、白色の結晶性固体であり、無臭の無機化合物です。水、アルコールに溶けやすく、アセトンには部分的に溶け、エーテルには不溶です。

過塩素酸塩は中性の希薄水溶液では安定であるため、過塩素酸イオンによる環境汚染が問題となっています。

2. 酸化力

過塩素酸塩の酸化力の源は、含まれる塩素が塩素原子の最高酸化状態 (7価) であることです。この塩素原子は自身が還元され、周囲の物質を酸化する性質を持ちます。

過塩素酸塩の中でも過塩素酸アンモニウムは、酸化されうる性質を持つアンモニアを分子内に持つため自己反応する可能性があり、特に危険性が高いです。

3. 爆発危険

安定化されていない (乾燥した) 過塩素酸アンモニウムは単独で爆発し、強力な爆発物です。安定化された状態 (例えば10%の水を含む場合) では爆発しにくいですが、燃焼を促進します。

有機物と混合すると、安定化状態でも爆発性を持つほか、有機物に限らず可燃性金属の粉末と混合しても爆発性を持ちます。

4. 加熱したときの性質と火災危険

加熱すると約150℃で分解を始めます。熱分解すると「塩素」「窒素」「酸素」などの大量の気体が発生し、急速に反応が進むと単独で爆発を起こす危険性があります。発火点は400℃です。

有機物、還元剤、静電気、熱、火花、衝撃により発火する可能性があるため、火災予防の観点でこれらを避ける必要があります。特に、強い衝撃を与えると単独でも爆発します。

火災時に生成する可能性があるガスは上記の「塩素」「窒素」「酸素」のほか、水蒸気、アンモニア、窒素酸化物、塩化水素などです。刺激性・腐食性・有毒なものが含まれ、火災時には人体に有害です。

過塩素酸アンモニウムのその他情報

1. 危険性・有害性

過塩素酸アンモニウムは、GHS分類で火薬類、酸化性固体、皮膚腐食性/刺激性物質、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性物質、気道刺激性物質に分類されています。

2. 関係法令

過塩素酸アンモニウムは、消防法の危険物第1類酸化性固体・過塩素酸塩類です。労働安全衛生法でも危険物・酸化性の物に指定されています。危険物船舶運送及び貯蔵規則では酸化性物質類・酸化性物質であり、航空法でも同様に酸化性物質類・酸化性物質です。

毒物及び劇物取締法、PRTR法には該当していません。化学物質排出管理促進法では第1種指定化学物質であり、水質汚濁防止法では有害物質です。輸出貿易管理令では、輸出許可品目に指定されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1393.html

水酸化銀

水酸化銀とは

水酸化銀とは、銀の水酸化物です。
化学式AgOHで表されます。
Agの単体はイオン化傾向が小さいため、水素イオンH+を還元することができず、塩酸や希硫酸には溶解しません。
希硝酸や濃硝酸、熱濃硫酸などの酸化力の強い酸にのみ溶解します。

硫酸銀Ag2SO4や硝酸銀AgNO3のような銀(1)インAg+を含む水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水のようなアルカリ水溶液を加え、おおよそpH=8.5以上になるまで中和することで、白色沈殿物として得られます。

ですが、水酸化銀は非常に熱的に不安定であるため、すぐに分解して脱水反応が進行してしまい酸化銀(Ⅰ)となります。
金属が酸に溶解するときには一般的に水素が発生しますが、銀の場合は水素は発生しません。
酸が希硝酸や濃硝酸の場合は一酸化窒素NOや二酸化窒素NO2を発生します。

また、酸が熱濃硫酸である場合は、二酸化硫黄SO2が発生します。

水酸化銀の使用用途

水酸化銀はすぐに分解して酸化銀Ag2Oとなります。
その沈殿物を含む溶液を過剰のアンモニアを使用して塩基性にしていくと、銀のアンミン錯体、[Ag(NH3)2]+を生成して溶解した状態になります。

その溶液にアルデヒドなどのホルミル基を持つ化合物を加えて加熱することで、銀イオンが還元されて析出します。
この時、析出した銀は鏡のように均一になることから、この反応は銀鏡反応と呼ばれています。

19世紀前半から、主要な銀メッキの方法としてデュワー瓶の表面メッキや、鏡の作成方法として、工業的に様々な分野で活用されてきました。

塩素酸

塩素酸とは

塩素酸 (英: Chloric acid) とは、化学式HClO3で表される塩素のオキソ酸の1種です。

酸化数+5価の塩素原子を中心として、1つのヒドロキシ基と2つの酸素原子で構成されます。CAS登録番号は7790-93-4です。塩素酸の遊離酸は単離することができず、水溶液としてのみ得られます。

塩素酸の使用用途

塩素酸の関連物質である塩素酸ナトリウムは、EUにおいて環境への影響のため除草剤としての使用が2009年に禁止されています。

1. 酸化剤・漂白剤

塩素酸の水溶液は強酸であり、強い酸化力を持つ物質です。強力な漂白効果を有しており、パルプを始め様々な物質の漂白剤として工業的に利用されています。

また、多くの金属とその酸化物、水酸化物、炭酸塩を溶解させることで、塩素酸塩 (塩素酸ナトリウム塩素酸カリウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸亜鉛など) の原材料としても利用されています。

2. 火薬・爆薬

塩素酸の塩は、火薬や爆薬の原料としても使用されてきた歴史があります。純度98%の塩素酸ナトリウムが農薬として使用されていたこともありましたが、爆発の危険性が高く、また非合法の爆発物として利用される例が頻発して社会問題となりました。

これにより、1970年代以降は炭酸ナトリウムなどが配合された薬剤が主流となっています。

塩素酸の性質

塩素酸の基本情報

図1. 塩素酸の基本情報

塩素酸の分子量は84.46であり、10%以下の濃度の水溶液の融点は-20℃、沸点は40℃です。水溶液の色は無色、10%水溶液の密度は1.0594g/mLです。水への溶解度は、40g/100mL (20 °C) とされます。

塩素酸の冷たい水溶液はおよそ30%まで安定であり、そこから慎重に減圧することで40%まで濃縮できます。

塩素酸の種類

塩素酸は、主に関連物質である安定な塩素酸塩の状態で販売されています。塩素酸ナトリウムや塩素酸カリウムなどが一般的です。

遊離酸の製品は存在しません。また、名前が類似している物質に次亜塩素酸水や亜塩素酸水などがありますが、これらも塩素酸の水溶液とは別物であるため注意が必要です。

塩素酸のその他情報

1. 塩素酸の合成

塩素酸の合成

図2. 塩素酸の合成

塩素酸は希硫酸と塩素酸バリウム水溶液を混合することで合成が可能です。この反応では、不溶性の硫酸バリウムが析出して塩素酸水溶液を生じます。析出した硫酸バリウムの沈殿を取り除くことで塩素酸水溶液を得ることが可能です。

2. 塩素酸の化学反応

塩素酸の分解反応 (1)

図3. 塩素酸の分解反応

塩素酸は、減圧下で濃縮することにより約40%の溶液を得ることができますが、40%以上に濃縮すると分解して各種塩素化合物と酸素を発生します。このとき生じる塩素化合物には、過塩素酸や、二酸化塩素、塩素など様々なものがあります。

また、塩素酸水溶液は接触により有機材料が発火するとされています。有機物、金属粉末、アンモニアと爆発性混合物を作るため、これらの物質との混合は避けるべきです。

特にセルロース、硫化銅、酸化性物質は混触危険物質に指定されています。危険有害な分解生成物は、腐食性を有する塩素、酸化作用を有する酸素とされています。

3. 塩素酸の関連物質

塩素酸の関連物質には、下記の各種の塩素酸塩が挙げられます。いずれも不安定で取り扱いに注意を要する物質です。

  • 塩素酸ナトリウム
  • 塩素酸カリウム
  • 塩素酸アンモニウム
  • 塩素酸カルシウム
  • 塩素酸バリウム
  • 塩素酸亜鉛
  • 塩素酸銀(I)

4. 塩素酸水溶液の有害性

塩素酸水溶液は、GHS分類で下記のように指定されている物質です。取り扱いの際には、適切な局所排気装置や、個人用保護具 (保護衣・保護メガネなど) を使用することが必要です

  • 酸化性液体: 区分1~2
  • 金属腐食性物質: 区分1

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/cas-7790-93-4.html

塩化メチル

塩化メチルとは

塩化メチルとは、メタン (CH4) の水素原子を1~4個の塩素原子 (Cl) で置換した化合物です。

1置換体はクロロメタン、2置換体はジクロロメタンと呼ばれ、3置換体はクロロホルム、4置換体は四塩化炭素と呼ばれています。塩化メチルは、いずれも強く甘い芳香をもつ有機化合物です。

分子内に塩素や臭素などのハロゲン元素を持つ化合物をハロカーボンと呼びます。 塩化メチルはほとんど唯一の自然起源のハロカーボンであり、塩素系オゾン破壊物質として知られています。

塩化メチルの使用用途

塩化メチルは化学的および熱的に安定性が高いため、工業的に扱いやすいという性質を持っており、エアコンや冷蔵庫の冷媒、工業用の有機溶剤などとして広く利用されてきました。

しかし、塩化メチルは発がん性、毒性があることや、成層圏オゾンの破壊を引き起こす原因物質であることが判明し、現在では工業的にはほとんど使用されていません。それでも、優れた溶解性や安定性から、研究や開発用途として利用され続けています。

塩化メチルの性質

1. クロロメタンの性質

クロロメタンの分子式はCH3Clで、分子量は50.49です。別名メチルクロリドとも呼ばれます。CAS登録番号は74-87-3です。

クロロメタンの沸点は-24.2 ℃で常温常圧では気体で存在しています。可燃性があり、劇物に指定されています。

2. ジクロロメタンの性質

ジクロロメタンの分子式はCH2Cl2で、分子量は84.93です。塩化メチレンとも呼ばれます。CAS登録番号は75-09-2です。ジクロロメタンは沸点40 ℃、密度約1.33 g/cm3 (20 ℃) の無色の液体です。

ジクロロメタンは有機化合物の溶解性が高いため、実験室において有機合成などで頻繁に用いられています。特定化学物質第2類に指定されており、ドラフトなどの換気設備が設けられた場所で使用する必要があります。

3. クロロホルムの性質

クロロホルムの分子式はCHCl3で、分子量は119.4です。また、CAS登録番号は67-66-3です。クロロホルムは沸点61 ℃、密度約1.48 g/cm3 (20 ℃) の無色の液体です。

光にさらすと分解し、ホスゲン 、塩素、塩化水素を発生するおそれがあります。また、市販品は安定剤としてエタノールが添加されています。

クロロホルムの蒸気は中枢神経に作用し、麻酔性を示すため、麻酔剤として利用されてきました。しかし、現在では発がん性のおそれがあるなど、毒性の高い物質として知られており、麻酔剤として使用されることはほとんどありません。「劇物」「特定化学物質の第2類物質」に指定されています。

4. 四塩化炭素の性質

四塩化炭素は、分子式はCCl4、分子量は153.82で、CAS登録番号は56-23-5です。四塩化炭素は沸点76.8 ℃、密度約1.59 g/cm3の液体です。他の塩化メチルとは異なり無極性分子であるため、無極性化合物の溶解に優れています。

また、分子内に水素原子を有しないため、かつては1H NMRの溶媒に用いられていましたが、毒性が高いことから、現在では重水素溶媒 (CDCl3など) に置き換えがすすんでいます。

ジクロロメタンと同様に、劇物と特定化学物質の第2類物質に指定されています。

塩化メチルのその他情報

1. 塩化メチルの健康への影響

塩化メチルのうち、クロロメタンを除く3物質はGHS分類で発がん性が指摘されています。

  • ジクロロメタン
    区分1A: 発がんのおそれ
  • クロロホルム
    区分2: 発がんのおそれの疑い
  • 四塩化炭素
    区分1B: 発がんのおそれ

また、上記3物質は健康障害を発生させるおそれが特に高く、「特定化学物質」に指定されているため、特定化学物質障害予防規則に基づいて使用する必要があります。

実際に、ジクロロメタンや1,2-ジクロロプロパンを使用していた印刷事業場の労働者に胆管癌が発生した事例もあり、使用の際には適切な局所排気設備の設置するなど、十分な注意が必要です。

また、クロロホルムなどのトリハロメタン類に関しては、塩素による消毒の際に副生成物として発生することがあるため、水道水では水質基準が設けられています。

2. 塩化メチルのオゾン層への影響

塩化メチルのうち、四塩化炭素はオゾン層破壊物質としてモントリオール議定書で規制対象物質に指定されています。モントリオール議定書とは、オゾン層破壊物質の製造、消費および貿易を規制することを目的とした議定書です。

塩化メチルのオゾン層破壊のメカニズムとしては、大気中に放出された塩化メチルが紫外線によって分解し、塩素原子 (Cl) が放出され、塩素原子がオゾン層のオゾン (O3) と反応して酸素 (O2) に分解されます。

Cl + O3 → ClO + O2 / ClO + O → Cl + O2

オゾンの分解反応において、塩素原子は触媒的にしか作用しないため、1つの塩素原子が約10万個のオゾン分子を分解するとされており、オゾン層破壊への影響が危険視されています。

塩化ベンジル

塩化ベンジルとは

塩化ベンジルの基本情報

図1. 塩化ベンジルの基本情報

塩化ベンジル (英: Benzyl chloride) とは、化学式がC6H5CH2Clで表される芳香族有機化合物の一種です。

クロロメチルベンゼン (英: Chloromethylbenzene) やα-クロロトルエン (英: α-Chlorotoluene) とも呼ばれます。

塩化ベンジルは強い催涙性と刺激臭を有し、目の粘膜や皮膚を刺激するため、取り扱う際には排気設備のある場所で使用する必要があります。毒性が強く、2016年に毒物及び劇物取締法の改正により、日本では医薬用外毒物に指定されました。

塩化ベンジルの使用用途

塩化ベンジルは催涙性が強いため、かつて戦争で催涙ガスとして使用されていました。

また有機合成で、アルコールやカルボン酸のヒドロキシ基の水素原子を、ベンジル基に置換するベンジル化剤として利用可能です。アルコール類やフェノール類のヒドロキシ基を保護する有力な方法として、さまざまな化合物の合成に活用されています。

さらに工業的に、香料、医薬品、染料などの材料中間体として用いられています。

塩化ベンジルの性質

塩化ベンジルは、融点が−39°Cで、沸点が179°Cの無色液体です。刺激臭の強い液体で、眼、皮膚、粘膜を強く刺激します。

クロロホルムやエーテルなど、多くの有機溶媒に溶解します。ただし水には不溶です。

塩化ベンジルの構造

塩化ベンジルは、トルエンのメチル基にある1つの水素原子が、塩素で置換された構造を有します。化学式はC7H7Clで、分子量は126.59であり、密度は1.100です。

塩化ベンジルのその他情報

1. 塩化ベンジルの合成法

塩化ベンジルの合成

図2. 塩化ベンジルの合成

ベンジルアルコールを塩酸で処理して、初めて塩化ベンジルが合成されました。工業的には、トルエンと塩素の気相光化学反応によって、塩化ベンジルを生成可能です。この方法で年間およそ10万トンの塩化ベンジルが生産されています。遊離した塩素原子のフリーラジカルによって反応が進行し、反応の副生成物は塩化ベンザル (英: Benzal chloride) とベンゾトリクロリド (英: Benzotrichloride) などです。

ブランのクロロメチル化 (英: Blanc chloromethylation) によって、ベンゼンから塩化ベンジルを合成できます。 ブランのクロロメチル化とは、触媒に塩化亜鉛を用いて、芳香族化合物、塩化水素、ホルムアルデヒドから、クロロメチルアレーンを合成する化学反応です。

2. 塩化ベンジルの反応

塩化ベンジルの反応

図3. 塩化ベンジルの反応

塩化ベンジルは加水分解によって、ベンジルアルコールになります。KMnO4の存在下で塩化ベンジルを酸化すると、安息香酸 (C6H5COOH) が得られます。

工業的に塩化ベンジルは、ベンジルエステルの前駆体です。 塩化ベンジルをシアン化ナトリウムで処理すると、シアン化ベンジルが得られます。塩化ベンジルを用いた第3級アミンのアルキル化によって、第4級アンモニウム塩が容易に生成されます。多くの場合にベンジルエーテルも、塩化ベンジルから合成可能です。塩化ベンジルと水酸化ナトリウム水溶液が反応して、ジベンジルエーテルが得られます。

有機合成では塩化ベンジルを使用して、アルコールとの反応でベンジル保護基を導入でき、対応するベンジルエーテル、カルボン酸、ベンジルエステルを生成可能です。

3. 塩化ベンジルの関連化合物

塩化ベンジルは金属マグネシウムと容易に反応して、グリニャール試薬 (英: Grignard reagent) を生成可能です。この反応は臭化ベンジル (英: benzyl bromide) よりも適しています。臭化ベンジルを用いると、ウルツ・フィッティッヒ反応 (英: Wurtz-Fittig reaction) が進行して、1,2-ジフェニルエタン (英: 1,2-diphenylethane) が生成しやすいためです。

塩化チタン

塩化チタンとは

塩化チタン (英: Titanium chloride) とは、組成の違いにより三種類の化合物が知られるチタンの塩化物です。

酸化数IIの塩化チタン (II) は、化学式TiCl2で表され、分子量は118.77、CAS登録番号は10049-06-6の暗赤褐色の粉末です。水で容易に分解し、空気中で加熱すると発火します。

酸化数IIIの塩化チタン (III) は、化学式TiCl3で表され、分子量は154.23、CAS登録番号は7705-07-9の潮解性のある紫色の結晶です。塩化チタンでは最も一般的なもので、ポリオレフィン製造で重要な触媒にもなります。

酸化数IVの塩化チタン (IV) は、化学式TiCl4で表され、分子量は189.71、CAS登録番号は7550-45-0の無色から淡黄色の液体です。空気中の水分と反応して白煙を生じます。

塩化チタンの性質

塩化チタン (II) の融点は1,035℃、沸点は1,500℃、密度は3.13g/cm3です。強力な還元剤で、酸素との親和性が高く、水と不可逆的に反応してH2を生成します。反応性が高すぎるため、あまり研究されていません。

塩化チタン (III) の融点は440℃ (分解)、密度は2.64g/cm3です。各チタン原子は1つのd電子を持ち、その誘導体を常磁性にするので、磁場に引き付けられる性質を持ちます。

塩化チタン (IV) の融点は-24℃、沸点は136℃、密度は1.73g/cm3です。トルエンやクロロカーボンに溶解します。常温で液体であるレアメタルのハロゲン化物の1つです。この特性は、TiCl4の分子が弱く自己会合するという事実を反映しています。

塩化チタンの使用用途

塩化チタン (II) は、アルデヒドまたはケトンに亜鉛の存在下で反応させると、ピナコールカップリングが起こり、メソ体の1,2-ジオールが選択的に得られるという、有機合成におけるの炭素-炭素結合生成の手法として使用されています。

塩化チタン (III) は、ルイス酸として、オレフィンの重合に用いる触媒であるチーグラー・ナッタ触媒の原料として利用されています。

塩化チタン (IV) は、顔料や化粧品の原料として利用される酸化チタン (IV) の主原料として利用可能です。また、有機化学ではルイス酸として、塩化チタン (III) と同様にオレフィンの重合に用いる触媒であるチーグラー・ナッタ触媒の原料として利用されています。空気中の水分と反応することで、白煙を生じるという特性があるため、曲技飛行でのスモークや特撮で煙の演出に使用されることもあります。

塩化チタンのその他情報

1. 塩化チタンの製造法

塩化チタン (II) は、TiCl4を水素と混合した状態で、低無電極放電で還元することで得られます。

塩化チタン (III) は、過剰の存在下、TiCl4を650℃まで高温に加熱し、還元することによって得ることができます。塩化チタン (IV) は、チタン鉄鉱もしくはルチル鉱石をコークスと塩素の存在下で、900℃に加熱して得られた粗塩化チタン (IV)  を、さらに蒸留精製して得られます。

2. 法規情報

塩化チタン (II) は、主要な法規制の中で消防法において「第2類:可燃性固体, 金属粉末, 危険等級II, 第一種可燃性固体」に該当します。

塩化チタン (III) は、毒物及び劇物取締法において「劇物」、労働安全衛生法では「特定化学物質第3類物質」「名称等を表示・通知すべき危険物及び有害物」に指定されています。

塩化チタン (IV) は、毒物及び劇物取締法、消防法、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) など、主要な法規制のいずれにも該当していません。

3. 取り扱い及び保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 水や湿気と接すると反応するため、湿気を避ける。
  • 塩化チタン (II) は自然発火性があるため、取り扱いには十分注意する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣、保護面を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、速やかに水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/451738
https://cica-web.kanto.co.jp/CicaWeb/msds/J_40172.pdf
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-1259JGHEJP.pdf

塩化クロム

塩化クロムとは

塩化クロムとは、クロムの塩化物です。

塩化クロムには酸化数の異なる化合物が存在し、塩化クロム (II) 、塩化クロム (III) 、塩化クロム (IV) です。

塩化クロム (II) は、白熱した金属クロムに塩化水素を加えて得られます。塩化クロム (III) は塩素の気流下で、金属クロムを強く熱すると生成します。塩化クロム (IV) は、塩化クロム (III) と塩素を600~700°Cに熱すると得られますが、不安定で単離は容易ではありません。

塩化クロムの使用用途

塩化クロムは、有機反応の触媒、めっき、顔料、医薬品、媒染剤などに使われます。塩化クロム (II) は、主にクロムめっき技術で使用可能です。

電気めっきによって、装飾用の金属上にクロムの薄層を堆積させることで、耐腐食性および表面硬度が増大します。織物媒染剤に使用する場合には、染色する布と染色剤との間でリンクとして作用します。また、塩化クロム (II) は、オレフィンや防水剤の生産のための触媒として使用可能です。

クロム (III) は耐糖能因子の一部であり、インスリンが促進する反応の活性化因子です。その効果を利用して、グルコース、タンパク質、脂質の代謝を活性化し、人間や動物のインスリン作用を促進する医薬品に使用されています。

塩化クロムの性質

塩化クロム (II) は無色の針状結晶で、塩化クロム (III) は赤紫色の結晶です。高温で塩化クロム (IV) は、安定な気体として存在します。

HSAB則で塩化クロム (III) はルイス酸です。3価のクロムは配位子の置換反応の活性が低いですが、少量の亜鉛や塩酸などの還元剤を加えると、活性が向上します。

塩化クロム (II) に還元されて、すぐに配位子の交換反応が起き、CrCl3と塩素架橋を介した電子転移が起こり、3価のクロム錯体が得られます。活性化したCr (II) は再生可能です。Cr (III) がすべて置換されるまで反応は進みます。

塩化クロムの構造

塩化クロムとピリジンの錯体

図1. 塩化クロムとピリジンの錯体

塩化クロム(II) は二塩化クロム、塩化クロム(III)は三塩化クロム、塩化クロム (IV) は四塩化クロムとも呼ばれます。塩化クロム (II) の化学式はCrCl2、塩化クロム (III) の化学式はCrCl3、塩化クロム(IV)の化学式はCrCl4です。

塩化クロム (II) の分子量は122.90、塩化クロム (III) の分子量は158.36、塩化クロム(IV)の分子量は193.81です。塩化クロム (III) の無水物は紫色の結晶であり、水にはほとんど溶けません。

六水和物のCrCl3・6H2Oは錯体であり、水和異性体である[Cr(H2O)6]Cl3、[Cr(H2O)5Cl]Cl2・H2O、[Cr(H2O)4Cl2]Cl・2H2Oが存在します。配位子にピリジンを用いると[CrCl3(C5H5N)3]が生成し、ほとんどのCr(III)錯体は配位数6の八面体構造を取っています。

塩化クロムのその他情報

1. 塩化クロムの合成法

高温で単体を化合すると塩化クロム (III) の無水物が合成できますが、炭素の存在下で三酸化二クロムと塩素を800°Cで反応させても生成します。塩化クロム (III) の水和物は、塩酸とクロムの反応で合成可能です。650°Cで塩化クロム (III) 六水和物は四塩化炭素と反応して、無水物が得られます。塩化チオニルを用いても脱水可能です。

500°Cで水素を用いて塩化クロム (III) を還元すると、塩化クロム (II) が生成します。塩化クロム (II) は、塩化水素と酢酸クロムの反応でも合成可能です。

2. 原料としての塩化クロム

有機クロム化合物の合成

図2. 有機クロム化合物の合成

塩化クロム (III) の無水物は、有機金属化学で重要な原料です。フェロセンに構造が似ているジフェニルクロムなど、さまざまな有機クロム化合物を合成できます。

3. 塩化クロムを用いた反応

塩化クロムを用いた反応

図3. 塩化クロムを用いた反応

一般的に塩化クロム (III) を還元した塩化クロム(II) は、有機還元剤として有機合成に使用可能です。 C-Cl結合をC-H結合に変えるほか、アルデヒドをハロゲン化アルケンに還元します。アルデヒドの還元反応では、塩化クロム (III) と水素化アルミニウムリチウムを通常2:1のモル比で使用します。

二硫化炭素

二硫化炭素とは

二硫化炭素 (英: Carbon disulfide) とは、無色またはかすかに黄色の揮発性の液体です。

二硫化炭素の化学式はCS2で表され、分子量は76.14、CAS番号は75-15-0で、天然中では石炭や原油にも微量含まれています。1796年に、ドイツの化学者ヴィルヘルム・アウグスト・ランパディウスが、黄鉄鉱を湿った木炭で加熱することによって初めて調製しました。

二硫化炭素は、有機合成のビルディングブロックや溶剤として非常に有用ですが、急性および慢性の両方の形態の中毒に関連しており、さまざまな症状を引き起こすため注意が必要です。

二硫化炭素の使用用途

二硫化炭素は、主な工業用用途としては、セロハンやレーヨンの製造工程において、溶剤として利用されています。ゴムの加硫促進剤、有機化学原料や浮遊選鉱剤などとしても用いられています。また、殺虫剤としても用いられており、穀物や果実に対する殺虫剤として、もしくは、土壌の病害性昆虫や線虫の殲滅を目的として使われることがあります。

二硫化炭素は溶媒としても活用されており、リン、硫黄、セレン、臭素、ヨウ素、脂肪、樹脂、ゴム、アスファルトを溶かし、単層カーボンナノチューブの精製にも用いられます。種々の有機化合物を良く溶解することと、水素が存在せずプロトンNMRに検出されないことから、重クロロホルムに溶けにくいサンプルのNMR測定を行う際の溶媒として重宝されています。

二硫化炭素の性質

二硫化炭素は、融点が-112.1℃、沸点が46℃、引火点が-30℃できわめて引火しやすく、青い炎をあげて燃えます。比重が1.26、屈折率が大きいことで知られています。純度の高いものは、エーテルのような芳香を持っていますが、市販品の純度のものは一般的に悪臭を持っています。水には難溶で、エタノールベンゼン、エーテル、クロロホルム、四塩化炭素などとはよく溶け合います。

二硫化炭素のその他情報

1. 二硫化炭素の製法

二硫化炭素は、工業的には木炭と硫黄の蒸気を加熱することで得られます (C+2S→CS2)。この時、低温で反応させると一硫化炭素が生成してしまいます。また、触媒の存在下で天然ガス (メタン) と硫黄蒸気を反応させることによっても得ることができます (2CH4+S8→2CS2+4H2S)。

2. 二硫化炭素の反応

二硫化炭素は燃焼させると、二酸化硫黄と二酸化炭素を生成します (CS2+O2→SO2+CO2)。また、塩素とも反応して四塩化炭素を与えます (CS2+3Cl2→CCl4+S2Cl2)。第一級および第二級アミンが二硫化炭素に付加すると、ジチオカルバミン酸アンモニウムを生じ (2R2NH+CS2→R2NH2+R2NCS2)、アルコキシドからはキサントゲン酸塩を生じます (RONa+CS2→ROCS2Na)。

3. 法規情報

二硫化炭素は、化審法で「優先評価物質」、労働安全衛生法で「第1種有機溶剤等」、「危険物・引火性の物」、「名称などを表示・通知すべき危険物及び有害物」などに指定されています。また、毒物及び劇物取締法で「劇物」、消防法では「危険物第4類引火性液体、特殊引火物」、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) では「第1種指定化学物質」に該当し、多くの法規制で指定があるため、取り扱いには注意が必要です。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 発火や爆発のおそれがあるため、熱、火花、裸火、高温のもののような着火源から遠ざける。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 爆発的に分解する可能性があるため、衝撃や摩擦、振動を与えることは避ける。
  • 強酸化剤や食品、飼料との接触は避ける。
  • 使用時は保護手袋、保護衣、保護眼鏡、保護面を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、速やかに水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/75-15-0.html

二塩化メチレン

二塩化メチレンとは

二塩化メチレンとは、ジクロロメタンや塩化メチレンとも呼ばれる有機化合物の1種です。

工業的には、メタンあるいは塩化メチル (クロロメタン) を、塩素の存在下で加熱し、ラジカル反応させることで得られます。二塩化メチレンは、メタンの塩素化物の中で最も安定な化合物です。

しかし、高純度品を長期保存した場合には、光や酸素により分解され、わずかに塩化水素やホスゲンを発生させることが知られています。ゆえに、密閉して遮光保存が必要です。

二塩化メチレンの使用用途

二塩化メチレンは、難燃性であり、かつ非常に多くの有機化合物を溶解できることから、有機溶媒として利用されています。酸性条件でも安定性が高いため、有機溶媒として使用可能です。

具体的には、フリーデル・クラフツ反応などのルイス酸を用いた反応、酸塩化物を用いたアシル化反応、スワン酸化などの酸化反応などで使われます。工業的には、フロン類の一部がオゾン層破壊問題の影響で製造禁止になったため、金属機器洗浄に使用する洗浄剤の代替物質として、金属加工業を中心に大量に利用されています。

二塩化メチレンの性質

二塩化メチレンの融点は−96.7℃、沸点は40℃であり、常温では無色の液体です。さまざまな有機化合物に溶けますが、水とは混ざりません。これらの性質から、有機化学ではクロロホルムと並び、溶媒として広く利用されます。

二塩化メチレンは、強く甘い芳香を持っています。引火点がなく、発火点は556℃です。なお、二塩化メチレンは、化学式がCH4のメタンの持つ2つの水素が、塩素原子に置換された化合物です。化学式はCH2Cl2で表され、分子量は84.93です。

二塩化メチレンのその他情報

1. 二塩化メチレンの合成法

工業的に二塩化メチレンは、気相において400〜500℃で、メタンやクロロメタンを、塩素とラジカル反応させると合成できます。ただし、メタンの水素原子が塩素原子に置換された複数の混合物が生成します。

具体的には、当量のメタンと塩素の反応では、塩化メチル (CH3Cl) 、二塩化メチレン (CH2Cl2) 、クロロホルム (CHCl3) 、四塩化炭素 (CCl4) が生成し、比率はそれぞれ、37%、41%、19%、3%です。これらの混合物から塩化水素を除去し、蒸留で精製します。

2. 二塩化メチレンの精製

有機合成の溶媒に二塩化メチレンを使用する際には、通常の反応ではモレキュラーシーブで脱水するだけでも、十分な結果を得ることが可能です。精密な実験を行う場合には、乾燥剤に水素化カルシウムを用いて、蒸留によって精製します。ナトリウムは反応して爆発する危険性があり、乾燥剤には使用できません。

3. 二塩化メチレンの危険性

ヒトの目や皮膚に二塩化メチレンが接触した際には、炎症を起こす可能性があります。大量の蒸気を吸うと麻酔作用があり、中枢神経系を抑制し、肝機能障害も報告されています。

過去に日本で、大量に1,2-ジクロロプロパンや二塩化メチレンを使っていた印刷企業従業員に、胆管癌が多発していることが判明しました。調査を踏まえて厚生労働省は、長期間の1,2-ジクロロプロパンや二塩化メチレンの高濃度ばく露によって、医学的に胆管癌が発症し得ると発表しました。このときの報告で重視されたのは1,2-ジクロロプロパンでしたが、後に二塩化メチレンが原因と思われる胆管癌にも労災が認められています。

4. 二塩化メチレンの使用制限

PRTR法規制物質である二塩化メチレンの大量使用者は、購入量、廃棄量、環境放出量などを報告する義務があり、大気中への放出量の削減を求められています。超臨界二酸化炭素やベンゾトリフルオリドのような、二塩化メチレンの代わりになる溶媒も、同時に研究されてきました。

環境対策や塩素フリーのために、自主的に企業、大学、研究機関は、二塩化メチレンの使用を制限しており、可能であれば他の溶媒を用いる努力をしています。使用済みの二塩化メチレンの、業者による回収、リサイクル、再利用なども実施しています。

三酸化クロム

三酸化クロムとは

三酸化クロム (英: Chromium trioxide) とは、無臭の暗い赤紫色から暗赤色の結晶性固体です。

三酸化クロムの化学式はCrO3、分子量は99.99、CAS登録番号は1333-82-0で表される無機化合物で、酸化クロム (VI) とも呼ばれています。

強い毒性、腐食性、発がん性を持ち、三酸化クロムの構成原子であるクロムは、六価クロムであり環境破壊を引き起こす物質であることで知られています。

三酸化クロムの使用用途

主にクロムめっき用の工業原料として使用され、カドミウム亜鉛、その他の金属と反応させ、耐腐食性のクロム保護膜を形成する方法がよく用いられます。

また、赤外域に透過波長域を持つという特徴があり、光学系材料として、吸収膜、エレクトロクロミック用途などに使われます。光学特性 (屈折率、透過率) は基板の温度によって、強い影響を受けます。三酸化クロムの膜質は丈夫で、耐腐蝕、酸化防止、耐磨耗性、密着力を付与するためにも使用可能です。

三酸化クロムの性質

三酸化クロムの融点は197℃、沸点 (分解) は250℃、密度は2.70g/cm3です。三酸化クロムは高温で分解して酸素を遊離し、最終的にCr2O3を生成可能です (4CrO3 → 2Cr2O3+3O2)。

水には極めて溶けやすく、水溶液は酸性を示します。強力な酸化剤である三酸化クロムは、アルコールなどの有機材料に接触すると点火します。

三酸化クロムの構造

三酸化クロムは固体状態では、頂点を共有する四面体配位のクロム原子が鎖状に並んだ構造をしています。

クロム中心は1つの酸素原子を隣のクロムと共有していますが、3つの酸素原子は共有されておらず、全体的な化学量論は1:3です。三酸化クロム単量体の構造は、密度汎関数理論を用いて計算されており、平面 (点群D3h) ではなくピラミッド型 (点群C3v) であると予測されています。

三酸化クロムのその他情報

1. 三酸化クロムの製法

三酸化クロムは、クロム酸ナトリウムか二クロム酸ナトリウムを硫酸と反応させることによって得られます。

   H2SO4 + Na2Cr2O7 → 2CrO3 + Na2SO4 + H2O

この製法で工業的には毎年数百万kg生産されています。

2. 三酸化クロムの反応

有機合成では酸化剤として用いられますが、多くの場合酢酸の溶液として、ジョーンズ酸化の場合はアセトンに溶かして使用されます。これらの酸化において、Cr(VI)は第一級アルコールを対応するカルボン酸に、第二級アルコールをケトンに変換します。

   4CrO3 + 3RCH2OH + 12H+ → 3RCOOH + 4Cr3+ + 9H2O
   2CrO3 + 3R2CHOH + 6H+ → 3R2C = O + 2Cr3+ + 6H2O

3. 法規情報

国内法規上において、毒物及び劇物取締法では「劇物、包装等級2」、消防法では「危険物第一類 クロムの酸化物、危険等級Ⅰ」に該当します。

労働安全衛生法では「名称等を表示・通知すべき危険有害物」および「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」に該当し、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) では「第1種指定化学物質」に、労働基準法では「疾病化学物質」に指定されているので、取り扱いには注意が必要です。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 直射日光を避け、換気の良いなるべく涼しい場所に容器を密栓して保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 危険を伴うため、高温と直射日光、熱、炎、火花、静電気、スパークとの接触を避ける。
  • 発火のおそれがあるため、有機物との直接の接触は避ける。
  • 使用時は保護手袋、保護衣、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、大量の水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で15~20分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1333-82-0.html