塩化ベンジルとは
図1. 塩化ベンジルの基本情報
塩化ベンジル (英: Benzyl chloride) とは、化学式がC6H5CH2Clで表される芳香族有機化合物の一種です。
クロロメチルベンゼン (英: Chloromethylbenzene) やα-クロロトルエン (英: α-Chlorotoluene) とも呼ばれます。
塩化ベンジルは強い催涙性と刺激臭を有し、目の粘膜や皮膚を刺激するため、取り扱う際には排気設備のある場所で使用する必要があります。毒性が強く、2016年に毒物及び劇物取締法の改正により、日本では医薬用外毒物に指定されました。
塩化ベンジルの使用用途
塩化ベンジルは催涙性が強いため、かつて戦争で催涙ガスとして使用されていました。
また有機合成で、アルコールやカルボン酸のヒドロキシ基の水素原子を、ベンジル基に置換するベンジル化剤として利用可能です。アルコール類やフェノール類のヒドロキシ基を保護する有力な方法として、さまざまな化合物の合成に活用されています。
さらに工業的に、香料、医薬品、染料などの材料中間体として用いられています。
塩化ベンジルの性質
塩化ベンジルは、融点が−39°Cで、沸点が179°Cの無色液体です。刺激臭の強い液体で、眼、皮膚、粘膜を強く刺激します。
クロロホルムやエーテルなど、多くの有機溶媒に溶解します。ただし水には不溶です。
塩化ベンジルの構造
塩化ベンジルは、トルエンのメチル基にある1つの水素原子が、塩素で置換された構造を有します。化学式はC7H7Clで、分子量は126.59であり、密度は1.100です。
塩化ベンジルのその他情報
1. 塩化ベンジルの合成法
図2. 塩化ベンジルの合成
ベンジルアルコールを塩酸で処理して、初めて塩化ベンジルが合成されました。工業的には、トルエンと塩素の気相光化学反応によって、塩化ベンジルを生成可能です。この方法で年間およそ10万トンの塩化ベンジルが生産されています。遊離した塩素原子のフリーラジカルによって反応が進行し、反応の副生成物は塩化ベンザル (英: Benzal chloride) とベンゾトリクロリド (英: Benzotrichloride) などです。
ブランのクロロメチル化 (英: Blanc chloromethylation) によって、ベンゼンから塩化ベンジルを合成できます。 ブランのクロロメチル化とは、触媒に塩化亜鉛を用いて、芳香族化合物、塩化水素、ホルムアルデヒドから、クロロメチルアレーンを合成する化学反応です。
2. 塩化ベンジルの反応
図3. 塩化ベンジルの反応
塩化ベンジルは加水分解によって、ベンジルアルコールになります。KMnO4の存在下で塩化ベンジルを酸化すると、安息香酸 (C6H5COOH) が得られます。
工業的に塩化ベンジルは、ベンジルエステルの前駆体です。 塩化ベンジルをシアン化ナトリウムで処理すると、シアン化ベンジルが得られます。塩化ベンジルを用いた第3級アミンのアルキル化によって、第4級アンモニウム塩が容易に生成されます。多くの場合にベンジルエーテルも、塩化ベンジルから合成可能です。塩化ベンジルと水酸化ナトリウム水溶液が反応して、ジベンジルエーテルが得られます。
有機合成では塩化ベンジルを使用して、アルコールとの反応でベンジル保護基を導入でき、対応するベンジルエーテル、カルボン酸、ベンジルエステルを生成可能です。
3. 塩化ベンジルの関連化合物
塩化ベンジルは金属マグネシウムと容易に反応して、グリニャール試薬 (英: Grignard reagent) を生成可能です。この反応は臭化ベンジル (英: benzyl bromide) よりも適しています。臭化ベンジルを用いると、ウルツ・フィッティッヒ反応 (英: Wurtz-Fittig reaction) が進行して、1,2-ジフェニルエタン (英: 1,2-diphenylethane) が生成しやすいためです。