塩化メチルとは
塩化メチルとは、メタン (CH4) の水素原子を1~4個の塩素原子 (Cl) で置換した化合物です。
1置換体はクロロメタン、2置換体はジクロロメタンと呼ばれ、3置換体はクロロホルム、4置換体は四塩化炭素と呼ばれています。塩化メチルは、いずれも強く甘い芳香をもつ有機化合物です。
分子内に塩素や臭素などのハロゲン元素を持つ化合物をハロカーボンと呼びます。 塩化メチルはほとんど唯一の自然起源のハロカーボンであり、塩素系オゾン破壊物質として知られています。
塩化メチルの使用用途
塩化メチルは化学的および熱的に安定性が高いため、工業的に扱いやすいという性質を持っており、エアコンや冷蔵庫の冷媒、工業用の有機溶剤などとして広く利用されてきました。
しかし、塩化メチルは発がん性、毒性があることや、成層圏オゾンの破壊を引き起こす原因物質であることが判明し、現在では工業的にはほとんど使用されていません。それでも、優れた溶解性や安定性から、研究や開発用途として利用され続けています。
塩化メチルの性質
1. クロロメタンの性質
クロロメタンの分子式はCH3Clで、分子量は50.49です。別名メチルクロリドとも呼ばれます。CAS登録番号は74-87-3です。
クロロメタンの沸点は-24.2 ℃で常温常圧では気体で存在しています。可燃性があり、劇物に指定されています。
2. ジクロロメタンの性質
ジクロロメタンの分子式はCH2Cl2で、分子量は84.93です。塩化メチレンとも呼ばれます。CAS登録番号は75-09-2です。ジクロロメタンは沸点40 ℃、密度約1.33 g/cm3 (20 ℃) の無色の液体です。
ジクロロメタンは有機化合物の溶解性が高いため、実験室において有機合成などで頻繁に用いられています。特定化学物質第2類に指定されており、ドラフトなどの換気設備が設けられた場所で使用する必要があります。
3. クロロホルムの性質
クロロホルムの分子式はCHCl3で、分子量は119.4です。また、CAS登録番号は67-66-3です。クロロホルムは沸点61 ℃、密度約1.48 g/cm3 (20 ℃) の無色の液体です。
光にさらすと分解し、ホスゲン 、塩素、塩化水素を発生するおそれがあります。また、市販品は安定剤としてエタノールが添加されています。
クロロホルムの蒸気は中枢神経に作用し、麻酔性を示すため、麻酔剤として利用されてきました。しかし、現在では発がん性のおそれがあるなど、毒性の高い物質として知られており、麻酔剤として使用されることはほとんどありません。「劇物」「特定化学物質の第2類物質」に指定されています。
4. 四塩化炭素の性質
四塩化炭素は、分子式はCCl4、分子量は153.82で、CAS登録番号は56-23-5です。四塩化炭素は沸点76.8 ℃、密度約1.59 g/cm3の液体です。他の塩化メチルとは異なり無極性分子であるため、無極性化合物の溶解に優れています。
また、分子内に水素原子を有しないため、かつては1H NMRの溶媒に用いられていましたが、毒性が高いことから、現在では重水素溶媒 (CDCl3など) に置き換えがすすんでいます。
ジクロロメタンと同様に、劇物と特定化学物質の第2類物質に指定されています。
塩化メチルのその他情報
1. 塩化メチルの健康への影響
塩化メチルのうち、クロロメタンを除く3物質はGHS分類で発がん性が指摘されています。
- ジクロロメタン
区分1A: 発がんのおそれ - クロロホルム
区分2: 発がんのおそれの疑い - 四塩化炭素
区分1B: 発がんのおそれ
また、上記3物質は健康障害を発生させるおそれが特に高く、「特定化学物質」に指定されているため、特定化学物質障害予防規則に基づいて使用する必要があります。
実際に、ジクロロメタンや1,2-ジクロロプロパンを使用していた印刷事業場の労働者に胆管癌が発生した事例もあり、使用の際には適切な局所排気設備の設置するなど、十分な注意が必要です。
また、クロロホルムなどのトリハロメタン類に関しては、塩素による消毒の際に副生成物として発生することがあるため、水道水では水質基準が設けられています。
2. 塩化メチルのオゾン層への影響
塩化メチルのうち、四塩化炭素はオゾン層破壊物質としてモントリオール議定書で規制対象物質に指定されています。モントリオール議定書とは、オゾン層破壊物質の製造、消費および貿易を規制することを目的とした議定書です。
塩化メチルのオゾン層破壊のメカニズムとしては、大気中に放出された塩化メチルが紫外線によって分解し、塩素原子 (Cl) が放出され、塩素原子がオゾン層のオゾン (O3) と反応して酸素 (O2) に分解されます。
Cl + O3 → ClO + O2 / ClO + O → Cl + O2
オゾンの分解反応において、塩素原子は触媒的にしか作用しないため、1つの塩素原子が約10万個のオゾン分子を分解するとされており、オゾン層破壊への影響が危険視されています。