二塩化メチレンとは
二塩化メチレンとは、ジクロロメタンや塩化メチレンとも呼ばれる有機化合物の1種です。
工業的には、メタンあるいは塩化メチル (クロロメタン) を、塩素の存在下で加熱し、ラジカル反応させることで得られます。二塩化メチレンは、メタンの塩素化物の中で最も安定な化合物です。
しかし、高純度品を長期保存した場合には、光や酸素により分解され、わずかに塩化水素やホスゲンを発生させることが知られています。ゆえに、密閉して遮光保存が必要です。
二塩化メチレンの使用用途
二塩化メチレンは、難燃性であり、かつ非常に多くの有機化合物を溶解できることから、有機溶媒として利用されています。酸性条件でも安定性が高いため、有機溶媒として使用可能です。
具体的には、フリーデル・クラフツ反応などのルイス酸を用いた反応、酸塩化物を用いたアシル化反応、スワン酸化などの酸化反応などで使われます。工業的には、フロン類の一部がオゾン層破壊問題の影響で製造禁止になったため、金属機器洗浄に使用する洗浄剤の代替物質として、金属加工業を中心に大量に利用されています。
二塩化メチレンの性質
二塩化メチレンの融点は−96.7℃、沸点は40℃であり、常温では無色の液体です。さまざまな有機化合物に溶けますが、水とは混ざりません。これらの性質から、有機化学ではクロロホルムと並び、溶媒として広く利用されます。
二塩化メチレンは、強く甘い芳香を持っています。引火点がなく、発火点は556℃です。なお、二塩化メチレンは、化学式がCH4のメタンの持つ2つの水素が、塩素原子に置換された化合物です。化学式はCH2Cl2で表され、分子量は84.93です。
二塩化メチレンのその他情報
1. 二塩化メチレンの合成法
工業的に二塩化メチレンは、気相において400〜500℃で、メタンやクロロメタンを、塩素とラジカル反応させると合成できます。ただし、メタンの水素原子が塩素原子に置換された複数の混合物が生成します。
具体的には、当量のメタンと塩素の反応では、塩化メチル (CH3Cl) 、二塩化メチレン (CH2Cl2) 、クロロホルム (CHCl3) 、四塩化炭素 (CCl4) が生成し、比率はそれぞれ、37%、41%、19%、3%です。これらの混合物から塩化水素を除去し、蒸留で精製します。
2. 二塩化メチレンの精製
有機合成の溶媒に二塩化メチレンを使用する際には、通常の反応ではモレキュラーシーブで脱水するだけでも、十分な結果を得ることが可能です。精密な実験を行う場合には、乾燥剤に水素化カルシウムを用いて、蒸留によって精製します。ナトリウムは反応して爆発する危険性があり、乾燥剤には使用できません。
3. 二塩化メチレンの危険性
ヒトの目や皮膚に二塩化メチレンが接触した際には、炎症を起こす可能性があります。大量の蒸気を吸うと麻酔作用があり、中枢神経系を抑制し、肝機能障害も報告されています。
過去に日本で、大量に1,2-ジクロロプロパンや二塩化メチレンを使っていた印刷企業従業員に、胆管癌が多発していることが判明しました。調査を踏まえて厚生労働省は、長期間の1,2-ジクロロプロパンや二塩化メチレンの高濃度ばく露によって、医学的に胆管癌が発症し得ると発表しました。このときの報告で重視されたのは1,2-ジクロロプロパンでしたが、後に二塩化メチレンが原因と思われる胆管癌にも労災が認められています。
4. 二塩化メチレンの使用制限
PRTR法規制物質である二塩化メチレンの大量使用者は、購入量、廃棄量、環境放出量などを報告する義務があり、大気中への放出量の削減を求められています。超臨界二酸化炭素やベンゾトリフルオリドのような、二塩化メチレンの代わりになる溶媒も、同時に研究されてきました。
環境対策や塩素フリーのために、自主的に企業、大学、研究機関は、二塩化メチレンの使用を制限しており、可能であれば他の溶媒を用いる努力をしています。使用済みの二塩化メチレンの、業者による回収、リサイクル、再利用なども実施しています。