トリクロロベンゼン

トリクロロベンゼンとは

トリクロロベンゼン (英: trichlorobenzene, TCB) は、分子式C6H3Cl3で表される有機化合物で、分子量は 181.45です。

ベンゼン環 (英: benzene) の炭素と結合している水素6つのうち、3つ (英: tri) を塩素 (英: chloro) に置き換えた誘導体です。塩素の置換位置が異なる3種類の異性体、1,2,3-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼンが存在します。

トリクロロベンゼンの使用用途

トリクロロベンゼンは主に、染料や顔料、医薬・農薬の中間体原料、そして溶剤、潤滑油、プラスチックなど化学製品の製造業で使用されています。

トリクロロベンゼンのような芳香族ハロゲン化合物は、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)を中心に塩素系農薬の原料として、かつては大量に生産されていました。その後、これら農薬の使用が制限されたため、需要も減少しました。しかし現在、除草剤やその他の農薬に使用されています。

また、有機化合物は芳香族ハロゲンに対して溶解性が高く、トリクロロベンゼンは不燃性溶媒として広く使用されます。

トリクロロベンゼンの性質

異性体によって次のように物性が異なります。

1,2,3-トリクロロベンゼンは白色~わずかに褐色の固体 (融点: 51-55℃、沸点: 約220℃) 、1,2,4-トリクロロベンゼンは無色の液体(融点: 17℃、沸点: 213℃)、1,3,5-トリクロロベンゼンは白色の固体(融点: 63℃、沸点: 208°C)となっています。

トリクロロベンゼンの溶解性については、水に不溶、アルコールに微溶、ベンゼンやエーテル、アセトンには易溶です。

また、トリクロロベンゼンを高温で加熱するとダイオキシン類が発生するとされており、取り扱いには注意が必要です。

トリクロロベンゼンのその他情報

1. トリクロロベンゼンの製造法

一般的に、ベンゼンの塩素化における副生物として得られます。ベンゼンの塩素化を行うと、塩素が1つ置換したクロロベンゼンや2つ置換したジクロロベンゼン、3つ置換したトリクロロベンゼンなどが生成します。更に、テトラ、及び、高次の塩素化物も生成し、これらを分離することによってトリクロロベンゼンが得られます。

高収率で1,2,4-トリクロロベンゼンを製造する方法として、o-ジクロロベンゼン (オルト-ジクロロベンゼン) 、及び、p-ジクロロベンゼン (パラ-ジクロロベンゼン) の異性化を行ってm-クロロベンゼン (メタ-ジクロロベンゼン) 50%以上の混合物を得た後、塩素化を行う方法などが知られています。

2. トリクロロベンゼンの取り扱い・保管

1,2,3-トリクロロベンゼンは、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) の新規指定化学物質 (第1種) に該当します。眼刺激、消化器系の障害のおそれ、呼吸器への刺激のおそれがあります。また、燃焼すると分解して、塩化水素などの有毒で腐食性のヒュームが生じます。容器は密閉して換気の良い冷乾所にて保存し、適切な保護衣、保護メガネ、呼吸器保護具などを着用の上、取り扱いには十分注意しましょう。

1,2,4-トリクロロベンゼンは、消防法に定める第4類・第三石油類非水溶性液体に該当します。軽度の皮膚刺激、呼吸器への刺激のおそれ、眠気またはめまいのおそれがあります。

また、加熱により分解、燃焼により一酸化炭素二酸化炭素・塩化水素・塩素などを発生するため、炎、及び、熱表面から離し、容器を密閉して換気の良い冷所にて施錠して保管します。更に、酸化剤や酸と激しく反応するため、これらからは遠ざることが大切です。取り扱いの際は適切な呼吸器保護具、保護手袋、保護衣、顔面用保護具などを着用し、十分に注意します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-2010JGHEJP.pdf

テトラクロルエチレン

テトラクロルエチレンとは

テトラクロルエチレン (英: tetrachloroethylene) とは、常温で無色の液体です。

分子式C2Cl4で表される平面構造の化学物質で、分子量は165.83です。エチレンの水素基が塩素基に置換された構造をとっています。

IUPAC命名法による名称はテトラクロロエテン (四塩化エチレン) ですが、その他の略称としてパークロロエチレン (過塩化エチレン) 、パーク (perc) 、PCEなどがあります。CAS登録番号は、127-18-4です。1982年にマイケル・ファラデーが、ヘキサクロロエタンを加熱することで、初めて合成に成功しました。

テトラクロルエチレンの性質

1. 特性

テトラクロルエチレンの融点は-22℃、沸点は121℃、比重は1.62g/mLです。エタノールアセトンなど多くの有機溶媒に混和しますが、水にはほとんど不溶です。テトラクロルエチレンの粘性は、水の0.89cP (25℃) に対して0.84cP (25℃) と少なく、この水より重く、水より浸透しやすい性質が、深く広く土壌地下水汚染を引き起こす原因となっています。

不燃性ですが、高温面や炎に触れると分解し、有毒で腐食性のガス (塩化水素、ホスゲン塩素) を生成します。水分と接触すると徐々に分解し、トリクロロ酢酸や塩酸を生じます。

2. 人体への影響 

テトラクロルエチレンは空気中に蒸発しやすく、1ppm以下の低濃度でも感じられるほど鋭く甘い悪臭を持ちます。他のハロゲン系の炭化水素と同様に、中枢神経を麻痺させる作用があるため、取り扱いには注意が必要です。蒸気を吸い込んだ場合、めまい、頭痛、眠気などを起こし、症状が重い時には、言語障害、歩行困難、意識不明などに陥り死亡する場合もあります。

テトラクロルエチレンの使用用途

テトラクロルエチレンの主な用途は、溶媒としての使用です。ほとんどの有機化合物を溶かすことができ、油を落とすような作用があるため、ドライクリーニングや自動車の部品など金属製工業製品の洗浄に使用されることが多いです。映画フィルムの洗浄などにも使われます。他に、HCFC-134aなどの冷媒を製造する際の中間体としても使用されています。

テトラクロルエチレンは、さまざまな場所で使用されていますが、土壌汚染の危険性があります。地下水を汚染する場合もあるため、工場などでは、廃液などの取り扱いにも注意が必要です。

テトラクロルエチレンのその他情報

1. テトラクロルエチレンの製造法

テトラクロルエチレンは、エチレンから 1,2-ジクロロエタンを経て生産されています。1,2-ジクロロエタンを塩素の存在下で 400℃に加熱すると、塩化水素とテトラクロルエチレンが生成します。副生成物のトリクロルエチレンは、有用な化合物のため、蒸留により分離精製、回収されることが多いです。

テトラクロルエチレンは、他の化学合成過程からの廃棄物質である、部分的にクロロ化された軽炭化水素からも製造することが可能です。これらのクロロ炭化水素を過剰量の塩素と加熱すると、テトラクロルエチレン、四塩化炭素、塩化水素の混合物が得られます。

2. 法規情報

テトラクロルエチレンは、毒物および劇物取締法や消防法において非該当です。労働安全衛生法で「第二類物質特別有機溶剤等」、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 (化審法) で「第二種特定化学物質」に指定されています。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密閉し、涼しく乾燥し換気の良い場所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • ミストや蒸気、スプレーを吸入しない。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 使用後は適切に手袋を脱ぎ、本製品の皮膚への付着を避ける。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と多量の水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。刺激が続く場合は医師に相談する。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/127-18-4.html

シアヌル酸

シアヌル酸とは

シアヌル酸の基本情報

図1. シアヌル酸の基本情報

シアヌル酸 (Cyanuric acid) とは、分子式 C3H3N3O3で表され、トリアジン構造と水酸基を持つ有機化合物の一種です。

尿素を原料として製造されます。CAS登録番号は、108-80-5です。

分子量129.07、融点320-360℃ (分解) であり、常温では無色または白色の固体です。結晶性粉末ですが、実際は粉末のほか、塊やフレーク状であることもあります。密度は2.5g/cm3です。

水への溶解度は 0.25g/100mL (17℃) と低く、水に非常に溶けにくい物質です。アルコールやエーテルにわずかに溶けますがアセトンには溶けにくく、熱水や酸塩基、特に熱アルコールやピリジンに可溶な性質を持っています。

シアヌル酸の使用用途

殺菌・漂白剤に使用される塩素化イソシアヌル酸

図2. 殺菌・漂白剤に使用される塩素化イソシアヌル酸

シアヌル酸は、主に塩素化イソシアヌル酸の原料として使用されています。塩素化イソシアヌル酸は、殺菌漂白効果に優れているため消毒・殺菌剤として幅広く使用されています。特に、生活用水および排水や、プールなどの消毒に用いられている物質です。

その他、シアン酸・シアンガスの発生源および選択的除草剤としての用途もあります。また、メラミンシアヌレートの原料として使用されたり、各種中間体の原料として使用されたりすることもあります。

シアヌル酸の性質

シアヌル酸の互変異性

図3. シアヌル酸の互変異性

シアヌル酸の構造は、アセトンなどと同様に、ケト型とエノール型が平衡状態にあります。エノール型のものをシアヌル酸、ケト型のものをイソシアル酸と呼びます。

100℃で脱水することにより無水物となり、360℃以上では分解してシアン酸に変化する物質です。

シアヌル酸の種類

シアヌル酸は、主に研究開発用試薬製品として販売されています。容量の種類には、10mg , 25g , 100g , 500gなどがあります。メーカーによって、室温保管として扱われることも、冷蔵保管として取り扱われることもある試薬製品です。

その他、工業用に漂白剤や殺菌剤、除草剤などの原料として販売されています。こちらは工場などで取り扱いやすい大容量での提供となっており、25kg , 500 kg , 1000kgなどの包装です。荷姿にはプラスチックドラムやプラスチック製の袋などがあります。

シアヌル酸のその他情報

1. シアヌル酸の合成

シアヌル酸の合成原料は尿素です。尿素を無触媒で約200℃に加熱すると、アンメリン、アンメリドなどを含む粗製シアヌル酸が合成されます。

この際、副生成物としてアンモニアが発生します。この粗生成物を塩酸硫酸硝酸などの無機強酸で処理することにより、アンメリン、アンメリドがシアヌル酸に変換され、高純度のシアヌル酸を製造することが可能です。

2. シアヌル酸の化学反応

シアヌル酸はメラミンと反応すると、メラミンシアヌレートを生成します。メラミンシアヌレートとは、メラミンとシアヌル酸からなる有機塩であり、メラミンとシアヌル酸が水素結合した構造と考えられている物質です。非ハロゲン系の難燃助剤として主に用いられますが、白色系の潤滑油添加剤としても用いられます。

また、シアヌル酸は、メラミン生産の副生成物としても生成する物質です。メラミン自体の急性毒性は比較的低いものの、シアヌル酸と一緒に摂取すると不溶性のメラミンシアヌレートを生じて有害であることが知られています。メラミンの食品混入による毒性発現はしばしば問題になりますが、腎毒性の発現にはメラミンに加えてシアヌル酸の関与が疑われています。

3. シアヌル酸の保管上の情報

シアヌル酸の取り扱いについて法令上の規制は特にありません。保管においては、高温と直射日光を避けた保管が必要です。また、強酸化剤との混触も避けるべきとされます。有害な分解生成物としては、一酸化炭素二酸化炭素、窒素酸化物が挙げられます。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0498JGHEJP.pdf

グリオキサール

グリオキサールとは

グリオキサールの基本情報

図1. グリオキサールの基本情報

グリオキサール (Glyoxal) とは、分子式 C2H2O2で表されるジアルデヒド化合物です。

ジアルデヒド化合物の中で、最も簡単な構造に当たります。IUPAC命名法による名称はエタンジアールであり、別名にはシュウ酸アルデヒドという名称もあります。CAS登録番号は、107-22-2です。

分子量58.04、融点は15℃、沸点は51℃です。常温では、無色から淡黄色の液体で存在します。固体状態では、黄色柱状の結晶です。

密度は1.27g/cm3であり、水や有機溶媒に溶けます。40%程度の水溶液で取り扱われることも多い物質です。引火性があることから消防法では、第4類引火性液体に指定されています。また、有害性の観点では、労働安全衛生法において、変異原性が認められた既存化学物質に指定されています。

グリオキサールの使用用途

グリオキサールは、ヒドロキシル基を持つ高分子化合物 (ポリビニルアルコールなど) と架橋反応をする性質があるため、樹脂や繊維の製造分野において架橋剤として用いられます。グリオキサールを架橋剤として用いることにより、水溶性を下げたり、表面加工の上で役立つ効果があります。

また、研究開発分野では、変性剤として、電気泳動・ブロッティング試薬や、ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (PAGE) 用試薬に用いられます。これは、グリオキサールがRNAが持つ2次構造を解消する作用があり、RNAの電気泳動の際に有用であるためです。

その他の用途は、医薬・香料などの有機合成原料、土壌硬化剤、紙仕上げ剤、消臭剤などです。また、グリオキサールは、グルコースの自動酸化あるいは脂質の過酸化においても生成するため、種々の食品や煙草の煙中に含まれていることが知られています。

グリオキサールの特徴

水溶液中のグリオキサールの構造

図2. 水溶液中のグリオキサールの構造

グリオキサールは、空気中ではすぐに吸湿重合して白色の粉末になる性質があります。そのため、水溶液で取り扱われることが殆どです。

水溶液ではグリオキサールは水和物や水和物オリゴマーの形で存在しているため、揮発性や臭気がほとんどありません。そのため、アルデヒドでありながらも皮膚や粘膜の刺激性が小さく、また、単体に比べて引火性も低くなっています。40%水溶液の引火点は100℃以上です。尚、pHは2.1から2.7です。

反応性の上では、DNA中のグアニン残基に特異的に結合するという変異原性がある物質です。生体内では、グリオキサールは、メチルグリオキサールと共に、グアニジン基と反応して終末糖化産物を生成する原因物質とされています。

グリオキサールの種類

現在グリオキサールは、一般的には主に研究開発試薬製品として販売されています。基本的には単体での販売ではなく、40%水溶液での製品化です。

製品容量の種類は、500mLや500gなどです。実験室で取り扱いやすい容量での提供となっています。室温で保管可能な試薬として取り扱われます。

前述の通り、引火性があるとともに変異原性がある有害な物質です。取り扱いの際は、各種法規制を遵守し、安全に取り扱うことが求められています。

グリオキサールのその他情報

1. グリオキサールの合成

グリオキサールの合成

図3. グリオキサールの合成

グリオキサールは、エチレングリコールの触媒的酸化反応や、アセチレンオゾンや酸素・銅触媒存在下の空気で酸化させる反応により合成可能です。別の合成方法には、亜セレン酸を用いたパラアルデヒドの酸化や、硝酸を用いたアセトアルデヒドの酸化反応などがあります。

2. グリオキサールの法規制情報

グリオキサールは単体では引火性のある物質であることから、消防法において「第4類引火性液体」に指定されています。一般的に取り扱われる40%水溶液では引火点不明ですが、熱や高温のものを火気から遠ざけて保管することが必要です。

また、アルデヒド基の性質により変異原性があることから、労働安全衛生法では「変異原性が認められた既存化学物質」に指定されています。化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法)では「第1種指定化学物質」です。有害性を正しく理解し、法令を遵守した取り扱いをすることが求められています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0107-0090JGHEJP.pdf

グアイアズレン

グアイアズレンとは

グアイアズレンの基本情報

図1. グアイアズレンの基本情報

グアイアズレン (英: Guaiazulene) は、有機化合物の一種で、アズレンの誘導体である炭化水素です。

分子式C15H18で表され、二環式のセスキテルペンに分類されます。CAS登録番号は、489-84-9です。分子量198.31、密度0.976g/mL、融点31-33℃、沸点153℃であり、常温では濃青色の結晶または液体です。

油脂や、パラフィン、ワックス、精油に可溶であり、無水エタノールに僅かに溶けます。水には不溶ですが濃硫酸およびリン酸に溶解します。融点が31℃程度と低いため、保管する場合は、室内温度に留意した管理が必要です。日本国内において特定化学物質には該当しない化学物質です。

グアイアズレンの使用用途

グアイアズレンの用途は、化粧品などの着色料、抗炎症薬などです。ただし、グアイアズレンそのものは水に溶解しないため、グアイアズレンにスルホン酸基を導入した水溶性グアイアズレン誘導体 (アズレンスルホン酸ナトリウム) として用いられます。

化粧品においては、ニキビや肌荒れ予防、日焼け止め化粧品として、乳液やクリームタイプの化粧品に配合されている物質です。医薬品における効能は、湿疹・熱傷 (軟膏)、咽頭炎・扁桃炎・口内炎・急性歯肉炎・舌炎・口腔創傷 (うがい薬・口腔内錠)、胃潰瘍・胃炎 (内服薬)、急性結膜炎・慢性結膜炎・アレルギー性結膜炎・表層角膜炎・眼瞼縁炎・強膜炎 (点眼薬) などが挙げられます。

グアイアズレンの性質

1. グアイアズレンの抽出と合成

グアイアズレンの原料となるセスキテルペン系化合物

図2. グアイアズレンの原料となるセスキテルペン系化合物

天然物由来では、グアイアズレンはユソウボクなどのハマビシ科植物やカモミールから抽出された精油を精製加工することにより、グアイアズレンを得ることができます。また、様々な軟質サンゴにも主要な色素として含まれている物質です。

合成的には、グアイオールやアロマデンドレン、ケッシルアルコールなどのセスキテルペン系化合物を脱水素酸化させることによって合成することができます。

2. 医薬品としての作用機序

グアイアズレンスルホン酸ナトリウム

図3. グアイアズレンスルホン酸ナトリウムの構造式

グアイアズレンは、前述の通り、医薬品にはグアイアズレンスルホン酸として含まれます。グアイアズレンスルホン酸は、in vitro において白血球遊走阻止作用や、肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用を示し、その作用は下垂体-副腎系を介さず、炎症組織に対する直接的な局所作用であると考えられています。

グアイアズレンの種類

グアイアズレンは、主に研究開発用試薬製品、化成品 (工業用原料) などとして販売されている物質です。また、前述の通り、グアイアズレンを含む医薬品や化粧品には様々な種類のものが存在しています。

研究開発用試薬製品としては、10g、25g、100g、500gなど様々な容量の種類が存在します。通常、室温で提供される試薬製品です。合成化学や、天然物化学、生化学などの分野で用いられます。化成品としては、化粧品や医薬品に用いられる天然有効成分として工場などに提供されています。1kg、25kgなどの単位で販売され、ドラム缶などで提供されている物質です。

グアイアズレンを含む医薬品には、軟膏、うがい薬、点眼薬などの外用薬や、錠剤、顆粒などの内服薬があります。どれも医師の処方箋が必要な薬剤です。

グアイアズレンのその他情報

グアイアズレンの化学的利用

グアイアズレンは合成化学において合成原料として利用されています。例えば、グアイアズレンを原料とする染料分子には次のようなものがあります。

  • 3-(7-イソプロピル-1,4-ジメチルアズレン-3-イル)-2-シアノアクリル酸
  • 5-(7-イソプロピル-1,4-ジメチルアズレン-3-イル)-2-シアノペンタ-2,4-ジエノン酸

また、鎖破断抗酸化剤として使用できる第二世代アズレニルニトロンとして、スチルバズレニルニトロンの合成にも利用されます。ビス-アズレニルをベースとする近赤外蛍光消光剤の合成も可能です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0235-4020JGHEJP.pdf

クロム酸鉛

クロム酸鉛とは

クロム酸鉛の基本情報

図1. クロム酸鉛の基本情報

クロム酸鉛 (Lead (II) chromate) とは、化学式PbCrO4で表される無機化合物です。

六価クロム化合物であり、かつ鉛化合物でもあることから、生物にとっては毒性があります。CAS登録番号は、7758-97-6です。分子量323.2、融点844℃であり、常温では、黄橙色の粉末状態で存在しています。水への溶解度は5.8mμ/100mL (25℃) であり、不溶です。酢酸にも溶けませんが、酢酸アンモニア以外の酸・アルカリには可溶です。

クロム酸鉛は、発がん性や生殖への影響が報告されており、危険度の高い物質といえます。毒物及び劇物取締法では劇物に指定されている物質です。その他にも労働安全衛生法やPRTR法など、各種法令によって取り扱いが規制されており、法令を遵守した取り扱いが必要とされています。

クロム酸鉛の使用用途

主には、顔料や塗料の原料として使用されています。顔料として用いられる場合には、クロム酸鉛の名前から「黄鉛」「クロムイエロー」と呼ばれています。黄鉛は一般の黄色塗料のほか防錆塗料にも使われる塗料です。

六価クロム及び鉛を含んでいるため、有毒で日光及び硫化水素によって黒変するのが顔料としての欠点です。耐アルカリ性や耐熱性も中程度であるため黄色有機顔料に代替されることが多いです。

ただし、黄色顔料のなかではジンククロメート (亜鉛黄、ジンクイエロー) と並んで生産量が多い顔料でもあります。日本産業規格 (JIS) では黄鉛はジンククロメートとともに統一規格の対象として規定されます (12品目の顔料の1つ) 。また、クロム酸鉛をクロム酸カリウムとともに長時間煮沸することで、「クロムレッド」と呼ばれる赤色顔料を合成することも可能です。

クロム酸鉛の性質

1. クロム酸鉛の合成

クロム酸鉛の合成

図2. クロム酸鉛の合成 

クロム酸鉛は、産業的には、クロム酸カリウム、または重クロム酸カリウムの水溶液に酢酸鉛 (II) を加えることで合成されています。

2. クロム酸鉛の特性

クロム酸鉛の結晶は、黄色の単斜晶系または淡黄色の斜方晶系の結晶です。天然では、紅鉛鉱 (クロコアイト) として産出されています。顔料に用いられるのは単斜晶系のものとされています。

不燃性の安定な物質ですが、 温度が上昇すると可燃性物質や有機化合物と反応し、火災の危険性があります。また、加熱によって分解し、鉛及びクロム酸化物などの有毒なヒュームを生じます。温度上昇のない場所での保管が必要です。

3. クロム酸鉛の化学反応

クロム酸鉛の化学反応

図3. クロム酸鉛の化学反応

クロム酸鉛は塩基性溶液には時間がかかるものの溶解し、クロム酸イオンおよびテトラヒドロキソ鉛 (II) イオンを生じます。また、クロム酸鉛をクロム酸カリウムとともに長時間煮沸すると、塩基性クロム酸鉛 (PbCrO4・PbO) が得られることが知られています。これは、赤色顔料のクロムレッドとして利用されている物質です。

過酸化水素などの強酸化剤や、アルミニウム、ジニトロナフタレン、 ヘキサシアノ鉄酸鉄とも反応するとされます。保管の際はこれらの物質との混触を避けることが重要です。

4. クロム酸鉛の法規制情報

クロム酸鉛は、人体や環境にとって有害であることから、各種法令によって取り扱いが厳しく制限されています。前述の通り、毒物及び劇物取締法では劇物に指定されている物質です。

その他の法規による指定には主に下記のようなものがあります。法規を遵守して使用することが大切です。

  • 労働安全衛生法: 名称等を通知すべき危険物及び有害物、特定化学物質第2類物質、管理第2類物質、特定化学物質特別管理物質、鉛化合物など
  • 労働基準法:  疾病化学物質、がん原性化学物質
  • 化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法): 第1種指定化学物質特定第1種指定化学物質、第1種指定化学物質
  • 水質汚濁防止法: 有害物質
  • 大気汚染防止法: 有害物質
  • 土壌汚染防止法: 特定有害物質
  • 船舶安全法: 毒物類・毒物
  • 航空法: 毒物類・毒物

クロム酸鉛の種類

クロム酸鉛は、非常に有害であるため市場での流通は限られています。現在は主に研究開発用の薬品としての製品を見つけることができます。人体にも環境にも有害な物質であり、各種法令による規制を受けていることから、注意して取り扱うことが必要な物質です。

試薬製品としては、25g , 100gなど、実験室で取り扱いやすい小容量の製品が販売されています。常温で輸送・保管が可能な薬品です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0021.html

クロム酸バリウム

クロム酸バリウムとは

クロム酸バリウムの基本情報 (1)

図1. クロム酸バリウムの基本情報

クロム酸バリウム (Barium chromate) とは、化学式BaCrO4で表される無機化合物です。

バリウムのクロム酸塩にあたり、六価クロム化合物の一種でもあります。CAS登録番号は、10294-40-3です。分子量253.37、融点は1380℃であり、常温では、黄色から黄褐色の粉末状の固体で存在しています。水にはほとんど溶けませんが、塩酸などの酸には溶解します。

水への溶解度は、0.0002775g/100mL (20°C) であり、密度は4.498g/cm3です。他の六価クロム化合物と同様に人体における発がん性が確認されています。毒物及び劇物取締法では劇物に指定されており、労働安全衛生法では、第2類特定化学物質に「クロム酸およびその塩」として指定されています。また、PRTR法においても、特定第1種指定化学物質に該当するため、取り扱いには注意が必要な物質です。

クロム酸バリウムの使用用途

クロム酸バリウムの主な用途の一つに、黄色顔料が挙げられます。一般的に、陶磁器やペンキに使用される場合が多いです。クロム酸バリウム由来の顔料は、バリウムイエロー (Barium Yellow) 、バライタイエロー (Baryta Yellow) 、バライトイエロー (Baryte Yellow) 、レモンイエロー、パーマネントイエロー、ピグメントイエロー31、レモンクロムなどの名称で呼ばれています。ルノワールやモネなど、印象派の絵画にも使用されました。

その他には、花火で反応速度を調整するための物質として使用されたり、異なる種類の金属の接合部における腐食防止剤として使用されたりします。金属の下塗りや、マッチ、点火装置及び、爆薬の反応開始剤などの用途もあります。

化学用途では、吸光光度による硫酸イオンの定量に用いられたり、フマル酸 (固体) の不純物や水分を取り除くのに用いられることもあります。酸化力がある物質のため、酸化剤として利用することも可能です。

クロム酸バリウムの性質

1. クロム酸バリウムの合成方法

クロム酸バリウムの合成と酸性溶液

図2. クロム酸バリウムの合成と酸性溶液

クロム酸バリウムは、バリウム水溶液とクロム酸を反応させることで沈殿として得られます。緑色の炎色反応を示す性質があります。水に不溶ながら酸類に対しては溶解し、二クロム酸イオンを生じる物質です。

クロム酸バリウムの反応 (クロム酸バリウム(IV)の生成)

図3. クロム酸バリウムの反応 (クロム酸バリウム(IV)の生成)

また、アジ化ナトリウム存在下で水酸化バリウムと反応して5価のクロム酸バリウムが生じます。炭酸バリウム存在条件において約800℃に加熱することでも同様に5価のクロム酸バリウムを得ることが可能です。酸化力があることから、還元剤と反応して酸化剤として働く物質です。室温における密封保存では安定な物質と考えられています。

2. クロム酸バリウムの安全性

クロム酸バリウムは、極めて有害な六価クロム化合物の一種です。

具体的な人体への危険として、以下のような症状が挙げられます。

  • 吸入によるアレルギー、喘息又は呼吸困難の発症の危険性
  • アレルギー性皮膚反応を発症する危険性
  • 発がん性
  • 鼻中隔穿孔および腎臓障害を引き起こす危険性

換気の良い場所で取り扱い、換気が十分でない場合には、適切な呼吸用保護具の着用が必要とされています。

3. クロム酸バリウムの法規制

クロム酸バリウムは前述の通り、有害な化合物であることから各種法令によって取り扱いが厳しく制限されています。

労働安全衛生法では、特定化学物質第2類物質、管理第2類物質、特定化学物質特別管理物質などに指定されており、毒物及び劇物取締法では劇物に指定される化合物です。労働基準法でも、 疾病化学物質、及び、がん原性化学物質に指定されています。

管理・廃棄においても規制対象となっており、PRTR法では、 第1種指定化学物質、特定第1種指定化学物質に指定される他、大気汚染防止法や水質汚濁防止法でも指定を受ける化合物です。法令を遵守した正しい管理が求められます。

クロム酸バリウムの種類

クロム酸バリウムは有害な物質であるため、今日では試薬製品など一部の用途に限定して販売されています。劇物に指定されており、各種法令によって規制されている薬品であることから適切な管理が必要な物質です。

試薬製品としては、25g , 500g , 1kgなどの容量の種類があります。冷所、換気の良い場所で、容器を密閉して保管することが必要です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0102-0020JGHEJP.pdf

クロトン酸

クロトン酸とは

クロトン酸の基本情報

図1. クロトン酸の基本情報

クロトン酸 (Crotonic acid) とは、有機化合物の一種で、モノ不飽和脂肪酸に分類される物質です。

分子式はC4H6O2で表記され、分子内に1つ二重結合を持ちます。IUPAC命名法による名称は(E)-but-2-enoic acid、CAS登録番号は、107-93-7です。

自然界にはハズ油の主成分として存在しており、クロトン酸という名称もハズ属に由来するものです。分子量86.09、融点70-73℃、沸点185-189℃であり、常温では白色から黄色の針状結晶固体です。

酪酸に類似の刺激臭を有します。酸解離定数pKaは4.69、密度は1.02 g/cm3です。水やエタノールアセトンをはじめとする有機溶媒など、さまざまなものに可溶な物質です。

クロトン酸の使用用途

クロトン酸の主な用途は、他の物質と共重合させて形成するコポリマー (copolymer) の原料です。主な共重合モノマーには酢酸ビニルなどのビニル系化合物があります。合成された共重合化合物は、皮膜形成材や接着剤、ヘアスタイリング剤として使用されています。

また、クロトン酸はガンマ線を用いたクロトン酸ハイドロゲルシステムの共重合にも用いられています。架橋共重合体クロトン酸ハイドロゲルは、肥料や薬剤を徐放し、環境汚染の防止に効果があるとされている物質です。

その他にも、医薬、香料、農薬など各種有機合成の原料としての用途が挙げられます。

クロトン酸の特徴

クロトン酸とイソクロトン酸

図2. クロトン酸とイソクロトン酸

クロトン酸の二重結合はトランス型の構造です。クロトン酸には、シス型の二重結合をもつ幾何異性体が存在し、イソクロトン酸 (isocrotonic acid) と呼ばれています。

イソクロトン酸は沸点171.9 ℃の単離可能な安定な油状液体ですが、熱や光、酸などの作用によってクロトン酸へと異性化します。クロトン酸は、光や過酸化物の作用によって、重合したり、変質したりするするおそれがある物質です。遮光性のある容器で保存するのが望ましいとされています。

引火点は87.8℃、自然発火温度は 396℃です。消防法では、指定可燃物、可燃性固体類に分類されています。

クロトン酸の種類

クロトン酸は、主に有機合成化学用途の試薬として販売されています。製品には25g , 500g , 3kgなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。室温で保管可能な試薬製品です。

クロトン酸のその他情報

1. クロトン酸の合成

クロトン酸の合成法

図3. クロトン酸の合成法

クロトン酸は、工業的には、クロトンアルデヒドの酸化によって合成されます。その他の合成方法には、塩基存在下でのアセトアルデヒドマロン酸の縮合反応などがあります。

2. クロトン酸の化学反応

クロトン酸は、クロタミトンの原料としてN-エチル-o-トルイジンと反応します。また、ビニル系化合物と反応させると共重合反応が進行する物質です。

その他には、下記のような化学反応の例が挙げられます。

  • 亜鉛/硫酸を用いた二重結合の還元反応
  • 塩素または臭素による二重結合への付加反応
  • 臭化水素による3-ブロモ酪酸の生成反応
  • 過マンガン酸カリウムによるアルカリ性条件下でのヒドロキシル基の付加反応
  • 無水酢酸などとの加熱による酸無水物の生成反応
  • アルコールと硫酸を反応させることによって起こるエステル化反応

また、次亜塩素酸と反応させると2-クロロ-3-ヒドロキシ酪酸を生成します。この物質は、Naアマルガムによる酪酸の生成 (還元反応) 、硫酸による脱水反応 (二重結合の生成) 、カリウムエトキサイドによるエポキシ化反応など 種々の反応に用いられる物質です。

なお、クロトン酸は、塩基、酸化剤、還元剤と激しく反応した場合、火災および爆発の危険をもたらします。通常の保管条件では安定ですが、塩基、酸化剤、還元剤との混触は避けるべきです。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0483JGHEJP.pdf

クロトンアルデヒド

クロトンアルデヒドとは

クロトンアルデヒドの基本構造

図1. クロトンアルデヒドの基本構造

クロトンアルデヒド (Crotonaldehyde) とは、有機化合物の1種であり、不飽和アルデヒドに分類される物質です。

分子式はC4H6Oで表され、分子内に二重結合を1つ持ちます。分子量は70.09です。cis型 (シス型) 、trans型 (トランス型) の2種類の幾何異性体がありますが、特記なくtrans型のことを指している場合も多くあります。

CAS登録番号は、123-73-9 (トランス型) 、15798-64-8 (シス型) 、4170-30-3 (混合物) です。IUPAC命名法による名称は、トランス型、シス型の順にそれぞれ、「(E)-2-ブテナール」「(Z)-2-ブテナール」です。

他にも「プロピレンアルデヒド」「メチルプロペナール」「β-メチルアクロレイン」等の名称が用いられることがあります。

クロトンアルデヒドの使用用途

クロトンアルデヒドの主な使用用途は、ブタノール、ブチルアルコールや、クロトン酸ソルビン酸などの有機化合物の合成原料です。これらの化合物は種々の工業品に利用されています。

例えば、クロトンアルデヒドを利用して合成されるブタノールは、カラー塗料やブレーキ液、燃料などに広く用いられています。また、クロトンアルデヒドは合成的に利用価値が高いことから、その他にも医薬品原料や農薬原料として活用されています。

研究開発においても有機合成の原料として利用されている物質です。

クロトンアルデヒドの特徴

クロトンアルデヒド(トランス型)の物性値

図2. クロトンアルデヒド(トランス型)の物性値

クロトンアルデヒドは前述の通り、シス型とトランス型の2種類の幾何異性体が存在します。主に利用されているトランス型は、融点-76.5℃、沸点104.0℃、密度は0.853 g/cm3 (20℃) です。

シス型は融点-69℃ですが、利用が少ないこともあり、その他の物性的情報はあまり明らかになっていません。常温では液体で存在しており、無色透明です。

光や空気に触れると淡黄色に変化したり、刺激臭があったりすることが特徴です。

クロトンアルデヒドの種類

クロトンアルデヒドには前述の通り、2種類の幾何異性体が存在しますが、主にはトランス体が利用されています。そのため、製品として販売されているものもトランス体がほとんどです。

トランス体は、主には有機合成用の研究開発用試薬製品として販売されており、25mL , 500mLなど実験室で取り扱いやすい容量の種類があります。また、アセトニトリル、水、メタノール溶液も製品として存在しています。

一方、シス/トランス混合物は、工業用の医薬品・農薬原料として購入することが可能です。こちらは、工場用途に向けて、タンクローリー・ドラム・石油缶、と大型の荷姿での提供となっています。

クロトンアルデヒドのその他情報

1. クロトンアルデヒドの合成と化学反応

クロトンアルデヒドの合成法と反応の例

図3. クロトンアルデヒドの合成法と反応の例

クロトンアルデヒドは主にアセトアルデヒドの縮合によって合成されます。また、アルドールを鉱酸と共に加熱し、反応物を蒸留することで得ることも可能です。

クロトンアルデヒドの反応性としては、アルデヒド基を有するため、重合しやすい性質があります。また、空気中に放置しておくと、徐々に空気中に含まれる酸素によって酸化されてクロトン酸となります。

2. クロトンアルデヒドの法規制情報

クロトンアルデヒドは引火点が13℃と低く、引火性の物質です。そのため、消防法では「危険物第四類・第一石油類・危険等級Ⅱ」に指定されています。

また、蒸気には激しい刺激臭と催涙性があり、有毒であることが知られています。そのため、労働安全衛生法においては、「変異原性が認められた既存化学物質」、「健康障害防止指針公表物質」「名称を表示すべき危険物および有害物」などに措定されています。

取り扱いの際には、ゴーグルを使用するなど、注意が必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/123-73-9.html
https://www.env.go.jp/chemi/report/h18-12/pdf/chpt1/1-2-2-09.pdf

キノリン

キノリンとは

キノリンの基本情報

図1. キノリンの基本情報

キノリン (英: Quinoline) とは、化学式C9H7Nで表される複素環式芳香族化合物に属する有機化合物です。

ベンゼン環とピリジン環の縮合環構造をしています。別名には、1-アザナフタレン、1-ベンズアジン、ベンゾ[b]ピリジンなどがあります。CAS登録番号は、91-22-5です。

分子量129.16、融点-15℃、沸点238℃であり、常温においては、無色で吸湿性の液状物質です。強い臭気があります。密度は1.09g/mLであり、共役酸のpKaは4.85です。水にはわずかしか溶けないものの、エタノール及びジエチルエーテルに極めて溶けやすい性質を示します。天然物では、コールタールに含まれています。

キノリンの使用用途

ニコチン酸(ナイアシン)の合成

図2. ニコチン酸 (ナイアシン)の合成

キノリンの主な使用用途は、色素・農薬・医薬品・高分子などの合成原料、金属イオンの定量試薬、溶媒などです。溶液中のFe3+、Zn2+など、特定の金属イオンと塩をつくる性質を持ちます。この性質を利用することにより、金属イオンの定量試薬としての使用が可能です。

また、キノリンは医薬品の合成原料としては、ナイアシン系、8-ヒドロキシキノリン、キニン系、などの調製に使用されています。この他にも、キノリン系染料の製造、保存剤、消毒剤など様々な分野で使用されます。

キノリンの性質

1. キノリンの合成

キノリンの合成

図3. キノリンの合成

キノリンは、複数の合成経路が報告されています。Combes合成は、まずアニリンと 1,3-ジケトンからイミンを調製し、生成中間体を酸で環化させることによって合成する方法です。また、Conrad-Limpach 合成は、アニリンとβケトエステルを縮合する方法です。

Skraup合成もまたよく知られた合成方法の一つであり、この合成法においては硫酸存在下においてアニリンとグリセリンとニトロベンゼンから合成します。反応機構は下記のようになっていると考えられています。

  1. グリセリンが酸により脱水しアクロレインが生成する
  2. 生成したアクロレインに対し、アニリンがマイケル付加してβ-アミノアルデヒドが生成する
  3. カルボニル基への分子内フリーデル・クラフツ反応が進行する
  4. 中間体の脱水が起こり1,2-ジヒドロキノリンが生成し、ニトロベンゼンが酸化剤として働いて脱水素反応が起こる

2. キノリンの化学的性質

キノリンは光により変質するおそれがある物質です。光が当たる場所で長期保存した場合、黄色に変色し、更に放置を続けると褐色へと変色します。

保管に際しては、高温と直射日光、熱、 炎、静電気火花などを避けることが必要です。強酸化剤との混触も避ける必要があります。危険有害な分解生成物には、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物が想定されています。

キノリンの種類

キノリンは、主に研究開発用試薬製品として販売されています。容量の種類は、1mL、25mL、500mL、3L、25gなどです。実験室で使用しやすい容量で提供されています。室温で保存可能な試薬製品です。

有機合成原料や、先述の金属イオンの定量用途での他、溶媒としても使用されている化学物質です。

キノリンのその他情報

キノリンの有害性と法規制情報

キノリンは、有毒な物質であり、毒物及び劇物取締法において「劇物」に指定されています。具体的な有害性としては、皮膚刺激・強い眼刺激・遺伝性疾患のおそれの疑い・発がんのおそれ・呼吸器への刺激のおそれなどが挙げられています。労働安全衛生法においても、「変異原性が認めら れた化学物質等」に指定されている物質です。

また、引火点は114 ℃であり、引火性の高い物質です。そのため、消防法においては「第4類引火性液体」、「第三石油類非水溶性液体」に指定されています。法令を遵守して、正しく利用することが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/91-22-5.html