クロトン酸とは
図1. クロトン酸の基本情報
クロトン酸 (Crotonic acid) とは、有機化合物の一種で、モノ不飽和脂肪酸に分類される物質です。
分子式はC4H6O2で表記され、分子内に1つ二重結合を持ちます。IUPAC命名法による名称は(E)-but-2-enoic acid、CAS登録番号は、107-93-7です。
自然界にはハズ油の主成分として存在しており、クロトン酸という名称もハズ属に由来するものです。分子量86.09、融点70-73℃、沸点185-189℃であり、常温では白色から黄色の針状結晶固体です。
酪酸に類似の刺激臭を有します。酸解離定数pKaは4.69、密度は1.02 g/cm3です。水やエタノール、アセトンをはじめとする有機溶媒など、さまざまなものに可溶な物質です。
クロトン酸の使用用途
クロトン酸の主な用途は、他の物質と共重合させて形成するコポリマー (copolymer) の原料です。主な共重合モノマーには酢酸ビニルなどのビニル系化合物があります。合成された共重合化合物は、皮膜形成材や接着剤、ヘアスタイリング剤として使用されています。
また、クロトン酸はガンマ線を用いたクロトン酸ハイドロゲルシステムの共重合にも用いられています。架橋共重合体クロトン酸ハイドロゲルは、肥料や薬剤を徐放し、環境汚染の防止に効果があるとされている物質です。
その他にも、医薬、香料、農薬など各種有機合成の原料としての用途が挙げられます。
クロトン酸の特徴
図2. クロトン酸とイソクロトン酸
クロトン酸の二重結合はトランス型の構造です。クロトン酸には、シス型の二重結合をもつ幾何異性体が存在し、イソクロトン酸 (isocrotonic acid) と呼ばれています。
イソクロトン酸は沸点171.9 ℃の単離可能な安定な油状液体ですが、熱や光、酸などの作用によってクロトン酸へと異性化します。クロトン酸は、光や過酸化物の作用によって、重合したり、変質したりするするおそれがある物質です。遮光性のある容器で保存するのが望ましいとされています。
引火点は87.8℃、自然発火温度は 396℃です。消防法では、指定可燃物、可燃性固体類に分類されています。
クロトン酸の種類
クロトン酸は、主に有機合成化学用途の試薬として販売されています。製品には25g , 500g , 3kgなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。室温で保管可能な試薬製品です。
クロトン酸のその他情報
1. クロトン酸の合成
図3. クロトン酸の合成法
クロトン酸は、工業的には、クロトンアルデヒドの酸化によって合成されます。その他の合成方法には、塩基存在下でのアセトアルデヒドとマロン酸の縮合反応などがあります。
2. クロトン酸の化学反応
クロトン酸は、クロタミトンの原料としてN-エチル-o-トルイジンと反応します。また、ビニル系化合物と反応させると共重合反応が進行する物質です。
その他には、下記のような化学反応の例が挙げられます。
- 亜鉛/硫酸を用いた二重結合の還元反応
- 塩素または臭素による二重結合への付加反応
- 臭化水素による3-ブロモ酪酸の生成反応
- 過マンガン酸カリウムによるアルカリ性条件下でのヒドロキシル基の付加反応
- 無水酢酸などとの加熱による酸無水物の生成反応
- アルコールと硫酸を反応させることによって起こるエステル化反応
また、次亜塩素酸と反応させると2-クロロ-3-ヒドロキシ酪酸を生成します。この物質は、Naアマルガムによる酪酸の生成 (還元反応) 、硫酸による脱水反応 (二重結合の生成) 、カリウムエトキサイドによるエポキシ化反応など 種々の反応に用いられる物質です。
なお、クロトン酸は、塩基、酸化剤、還元剤と激しく反応した場合、火災および爆発の危険をもたらします。通常の保管条件では安定ですが、塩基、酸化剤、還元剤との混触は避けるべきです。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0483JGHEJP.pdf