キノリンとは
図1. キノリンの基本情報
キノリン (英: Quinoline) とは、化学式C9H7Nで表される複素環式芳香族化合物に属する有機化合物です。
ベンゼン環とピリジン環の縮合環構造をしています。別名には、1-アザナフタレン、1-ベンズアジン、ベンゾ[b]ピリジンなどがあります。CAS登録番号は、91-22-5です。
分子量129.16、融点-15℃、沸点238℃であり、常温においては、無色で吸湿性の液状物質です。強い臭気があります。密度は1.09g/mLであり、共役酸のpKaは4.85です。水にはわずかしか溶けないものの、エタノール及びジエチルエーテルに極めて溶けやすい性質を示します。天然物では、コールタールに含まれています。
キノリンの使用用途
図2. ニコチン酸 (ナイアシン)の合成
キノリンの主な使用用途は、色素・農薬・医薬品・高分子などの合成原料、金属イオンの定量試薬、溶媒などです。溶液中のFe3+、Zn2+など、特定の金属イオンと塩をつくる性質を持ちます。この性質を利用することにより、金属イオンの定量試薬としての使用が可能です。
また、キノリンは医薬品の合成原料としては、ナイアシン系、8-ヒドロキシキノリン、キニン系、などの調製に使用されています。この他にも、キノリン系染料の製造、保存剤、消毒剤など様々な分野で使用されます。
キノリンの性質
1. キノリンの合成
図3. キノリンの合成
キノリンは、複数の合成経路が報告されています。Combes合成は、まずアニリンと 1,3-ジケトンからイミンを調製し、生成中間体を酸で環化させることによって合成する方法です。また、Conrad-Limpach 合成は、アニリンとβケトエステルを縮合する方法です。
Skraup合成もまたよく知られた合成方法の一つであり、この合成法においては硫酸存在下においてアニリンとグリセリンとニトロベンゼンから合成します。反応機構は下記のようになっていると考えられています。
- グリセリンが酸により脱水しアクロレインが生成する
- 生成したアクロレインに対し、アニリンがマイケル付加してβ-アミノアルデヒドが生成する
- カルボニル基への分子内フリーデル・クラフツ反応が進行する
- 中間体の脱水が起こり1,2-ジヒドロキノリンが生成し、ニトロベンゼンが酸化剤として働いて脱水素反応が起こる
2. キノリンの化学的性質
キノリンは光により変質するおそれがある物質です。光が当たる場所で長期保存した場合、黄色に変色し、更に放置を続けると褐色へと変色します。
保管に際しては、高温と直射日光、熱、 炎、静電気火花などを避けることが必要です。強酸化剤との混触も避ける必要があります。危険有害な分解生成物には、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物が想定されています。
キノリンの種類
キノリンは、主に研究開発用試薬製品として販売されています。容量の種類は、1mL、25mL、500mL、3L、25gなどです。実験室で使用しやすい容量で提供されています。室温で保存可能な試薬製品です。
有機合成原料や、先述の金属イオンの定量用途での他、溶媒としても使用されている化学物質です。
キノリンのその他情報
キノリンの有害性と法規制情報
キノリンは、有毒な物質であり、毒物及び劇物取締法において「劇物」に指定されています。具体的な有害性としては、皮膚刺激・強い眼刺激・遺伝性疾患のおそれの疑い・発がんのおそれ・呼吸器への刺激のおそれなどが挙げられています。労働安全衛生法においても、「変異原性が認めら れた化学物質等」に指定されている物質です。
また、引火点は114 ℃であり、引火性の高い物質です。そのため、消防法においては「第4類引火性液体」、「第三石油類非水溶性液体」に指定されています。法令を遵守して、正しく利用することが必要です。