クロム酸鉛とは
図1. クロム酸鉛の基本情報
クロム酸鉛 (Lead (II) chromate) とは、化学式PbCrO4で表される無機化合物です。
六価クロム化合物であり、かつ鉛化合物でもあることから、生物にとっては毒性があります。CAS登録番号は、7758-97-6です。分子量323.2、融点844℃であり、常温では、黄橙色の粉末状態で存在しています。水への溶解度は5.8mμ/100mL (25℃) であり、不溶です。酢酸にも溶けませんが、酢酸やアンモニア以外の酸・アルカリには可溶です。
クロム酸鉛は、発がん性や生殖への影響が報告されており、危険度の高い物質といえます。毒物及び劇物取締法では劇物に指定されている物質です。その他にも労働安全衛生法やPRTR法など、各種法令によって取り扱いが規制されており、法令を遵守した取り扱いが必要とされています。
クロム酸鉛の使用用途
主には、顔料や塗料の原料として使用されています。顔料として用いられる場合には、クロム酸鉛の名前から「黄鉛」「クロムイエロー」と呼ばれています。黄鉛は一般の黄色塗料のほか防錆塗料にも使われる塗料です。
六価クロム及び鉛を含んでいるため、有毒で日光及び硫化水素によって黒変するのが顔料としての欠点です。耐アルカリ性や耐熱性も中程度であるため黄色有機顔料に代替されることが多いです。
ただし、黄色顔料のなかではジンククロメート (亜鉛黄、ジンクイエロー) と並んで生産量が多い顔料でもあります。日本産業規格 (JIS) では黄鉛はジンククロメートとともに統一規格の対象として規定されます (12品目の顔料の1つ) 。また、クロム酸鉛をクロム酸カリウムとともに長時間煮沸することで、「クロムレッド」と呼ばれる赤色顔料を合成することも可能です。
クロム酸鉛の性質
1. クロム酸鉛の合成
図2. クロム酸鉛の合成
クロム酸鉛は、産業的には、クロム酸カリウム、または重クロム酸カリウムの水溶液に酢酸鉛 (II) を加えることで合成されています。
2. クロム酸鉛の特性
クロム酸鉛の結晶は、黄色の単斜晶系または淡黄色の斜方晶系の結晶です。天然では、紅鉛鉱 (クロコアイト) として産出されています。顔料に用いられるのは単斜晶系のものとされています。
不燃性の安定な物質ですが、 温度が上昇すると可燃性物質や有機化合物と反応し、火災の危険性があります。また、加熱によって分解し、鉛及びクロム酸化物などの有毒なヒュームを生じます。温度上昇のない場所での保管が必要です。
3. クロム酸鉛の化学反応
図3. クロム酸鉛の化学反応
クロム酸鉛は塩基性溶液には時間がかかるものの溶解し、クロム酸イオンおよびテトラヒドロキソ鉛 (II) イオンを生じます。また、クロム酸鉛をクロム酸カリウムとともに長時間煮沸すると、塩基性クロム酸鉛 (PbCrO4・PbO) が得られることが知られています。これは、赤色顔料のクロムレッドとして利用されている物質です。
過酸化水素などの強酸化剤や、アルミニウム、ジニトロナフタレン、 ヘキサシアノ鉄酸鉄とも反応するとされます。保管の際はこれらの物質との混触を避けることが重要です。
4. クロム酸鉛の法規制情報
クロム酸鉛は、人体や環境にとって有害であることから、各種法令によって取り扱いが厳しく制限されています。前述の通り、毒物及び劇物取締法では劇物に指定されている物質です。
その他の法規による指定には主に下記のようなものがあります。法規を遵守して使用することが大切です。
- 労働安全衛生法: 名称等を通知すべき危険物及び有害物、特定化学物質第2類物質、管理第2類物質、特定化学物質特別管理物質、鉛化合物など
- 労働基準法: 疾病化学物質、がん原性化学物質
- 化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法): 第1種指定化学物質特定第1種指定化学物質、第1種指定化学物質
- 水質汚濁防止法: 有害物質
- 大気汚染防止法: 有害物質
- 土壌汚染防止法: 特定有害物質
- 船舶安全法: 毒物類・毒物
- 航空法: 毒物類・毒物
クロム酸鉛の種類
クロム酸鉛は、非常に有害であるため市場での流通は限られています。現在は主に研究開発用の薬品としての製品を見つけることができます。人体にも環境にも有害な物質であり、各種法令による規制を受けていることから、注意して取り扱うことが必要な物質です。
試薬製品としては、25g , 100gなど、実験室で取り扱いやすい小容量の製品が販売されています。常温で輸送・保管が可能な薬品です。