トリクロロベンゼンとは
トリクロロベンゼン (英: trichlorobenzene, TCB) は、分子式C6H3Cl3で表される有機化合物で、分子量は 181.45です。
ベンゼン環 (英: benzene) の炭素と結合している水素6つのうち、3つ (英: tri) を塩素 (英: chloro) に置き換えた誘導体です。塩素の置換位置が異なる3種類の異性体、1,2,3-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼンが存在します。
トリクロロベンゼンの使用用途
トリクロロベンゼンは主に、染料や顔料、医薬・農薬の中間体原料、そして溶剤、潤滑油、プラスチックなど化学製品の製造業で使用されています。
トリクロロベンゼンのような芳香族ハロゲン化合物は、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)を中心に塩素系農薬の原料として、かつては大量に生産されていました。その後、これら農薬の使用が制限されたため、需要も減少しました。しかし現在、除草剤やその他の農薬に使用されています。
また、有機化合物は芳香族ハロゲンに対して溶解性が高く、トリクロロベンゼンは不燃性溶媒として広く使用されます。
トリクロロベンゼンの性質
異性体によって次のように物性が異なります。
1,2,3-トリクロロベンゼンは白色~わずかに褐色の固体 (融点: 51-55℃、沸点: 約220℃) 、1,2,4-トリクロロベンゼンは無色の液体(融点: 17℃、沸点: 213℃)、1,3,5-トリクロロベンゼンは白色の固体(融点: 63℃、沸点: 208°C)となっています。
トリクロロベンゼンの溶解性については、水に不溶、アルコールに微溶、ベンゼンやエーテル、アセトンには易溶です。
また、トリクロロベンゼンを高温で加熱するとダイオキシン類が発生するとされており、取り扱いには注意が必要です。
トリクロロベンゼンのその他情報
1. トリクロロベンゼンの製造法
一般的に、ベンゼンの塩素化における副生物として得られます。ベンゼンの塩素化を行うと、塩素が1つ置換したクロロベンゼンや2つ置換したジクロロベンゼン、3つ置換したトリクロロベンゼンなどが生成します。更に、テトラ、及び、高次の塩素化物も生成し、これらを分離することによってトリクロロベンゼンが得られます。
高収率で1,2,4-トリクロロベンゼンを製造する方法として、o-ジクロロベンゼン (オルト-ジクロロベンゼン) 、及び、p-ジクロロベンゼン (パラ-ジクロロベンゼン) の異性化を行ってm-クロロベンゼン (メタ-ジクロロベンゼン) 50%以上の混合物を得た後、塩素化を行う方法などが知られています。
2. トリクロロベンゼンの取り扱い・保管
1,2,3-トリクロロベンゼンは、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) の新規指定化学物質 (第1種) に該当します。眼刺激、消化器系の障害のおそれ、呼吸器への刺激のおそれがあります。また、燃焼すると分解して、塩化水素などの有毒で腐食性のヒュームが生じます。容器は密閉して換気の良い冷乾所にて保存し、適切な保護衣、保護メガネ、呼吸器保護具などを着用の上、取り扱いには十分注意しましょう。
1,2,4-トリクロロベンゼンは、消防法に定める第4類・第三石油類非水溶性液体に該当します。軽度の皮膚刺激、呼吸器への刺激のおそれ、眠気またはめまいのおそれがあります。
また、加熱により分解、燃焼により一酸化炭素・二酸化炭素・塩化水素・塩素などを発生するため、炎、及び、熱表面から離し、容器を密閉して換気の良い冷所にて施錠して保管します。更に、酸化剤や酸と激しく反応するため、これらからは遠ざることが大切です。取り扱いの際は適切な呼吸器保護具、保護手袋、保護衣、顔面用保護具などを着用し、十分に注意します。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-2010JGHEJP.pdf