硫酸マンガン

硫酸マンガンとは

硫酸マンガンとは、マンガンの硫酸塩のことです。

硫酸マンガンにはマンガンの酸化数の違いによって、硫酸マンガン(II)と硫酸マンガン(III)が存在します。多くの金属硫酸塩と同じく、硫酸マンガン(II)には無水物と水和物があり、1、4、5、7水和物が知られています。

硫酸マンガン(II)は不燃性です。ただし加熱によって分解して、硫黄酸化物を含んだ有害ガスが生成します。摂取によって中枢神経系に影響を与え、遺伝性疾患のおそれもあります。

硫酸マンガンの使用用途

硫酸マンガンは、工業分野や農業分野の製品原料として幅広く使用されています。

工業分野では、金属マンガンやマンガン化合物の原料として使われています。塗料または印刷用インクの乾燥剤の原料として用いられるほか、金属の錆を防ぐための錆止め剤、窯業用顔料 (窯業製品の着色剤) にも使用可能です。

農業分野では、マンガンが植物の生育に必要な微量元素の一つです。肥料に硫酸マンガンを添加し、植物の光合成の働きを促進させて発育を補助するために使用されています。

硫酸マンガンの性質

硫酸マンガン(II)の見た目は薄い赤色で、結晶状または結晶性粉末の固体です。水には溶けやすく、エタノールにはほとんど溶けません。潮解性を有し、融点は700°Cで、850°Cで分解します。

温度によって硫酸マンガン(II)は、さまざまな水和物を与えます。280°C以上に熱すると無水物になり、無水物は白色の塊状です。9°C以下では7水和物が、9~26°Cでは5水和物が、26~27°Cで斜方晶系の4水和物が、27°C以上では1水和物が生成します。一般的な市販品は4水和物です。

過マンガン酸カリウムを用いて硫酸マンガン(II)を酸化すると、乾電池の材料で使用される二酸化マンガンが生成します。

硫酸マンガンの構造

硫酸マンガン(II)の化学式は、MnSO4で表されます。モル質量は無水物が151.001g/molで、1水和物が169.02g/molであり、4水和物が223.07g/molです。密度は無水物が3.25g/cm3で、1水和物が2.95g/cm3であり、4水和物が2.107g/cm3です。無水物の結晶構造は斜方晶系であり、1水和物と4水和物の結晶構造は単斜晶系を取っています。

硫酸マンガンのその他情報

1. 天然の硫酸マンガン(II)

硫酸マンガン(II)は、金属マンガンやさまざまなマンガン化合物の前駆体であり、重要な物質です。天然には1水和物がズミク石 (英: Szmikite) から、4水和物がアイレス石 (英: Ilesite) から、5水和物が上国石 (英: Jokokuite) から、7水和物がマラー石 (英: Mallardite) から産出します。

2. 硫酸マンガン(II)の合成法

硫酸と金属マンガンが反応すると、水素が発生して、硫酸マンガン(II)が生成します。通常マンガン鉱石を精製する場合にも、硫酸で処理して硫酸マンガン水溶液にして精製します。

硫酸と水酸化マンガンからも、水とともに硫酸マンガン(II)を合成可能です。実験室では、二酸化硫黄と二酸化マンガンの反応でも得られます。

さらに硫酸マンガン(II)は、酸化剤に二酸化マンガンを用いたヒドロキノンやアニスアルデヒドの製造などの工業プロセスで、副産物としても生じます。

3. 硫酸マンガン(III)の特徴

硫酸マンガン(III)の化学式は、Mn2(SO4)3で表されます。分子量は398.07g/mol、密度は3.24g/cm3で、暗緑色の粉末です。160°C以上で分解します。

濃硫酸に酸化マンガン(IV)の1水和物または過マンガン酸カリウムを溶解させると、硫酸マンガン(III)を生成可能です。Mn2(SO4)3・H2SO4・H2Oを加熱しても得られます。水に溶けると赤色の溶液になり、加水分解によってMn(OH)3が沈殿します。

硫酸マグネシウム

硫酸マグネシウムとは

硫酸マグネシウム (英: Magnesium Sulfate) とは、白色結晶〜結晶性粉末の金属塩です。

別名として、特に7水和物はエプソム塩やエプソムソルト (英: Epsom salt) と呼ばれます。

硫酸マグネシウムの使用用途

硫酸マグネシウムは、安全性の高い化学物質として広く使用されています。

1. 肥料

農薬としての用途には、1水和物が主に使用されます。植物が光合成する際に必要なクロロフィルには硫酸マグネシウムが含まれているため、硫酸マグネシウムを肥料に混合させることで、植物の成長を補助できます。

硫酸マグネシウムの利点は、他のマグネシウム土壌改良剤よりも溶解性が高いことです。また、水溶液のpHはほぼ中性であるため、散布しても土壌pHに大きく影響しません。

2. 入浴剤

欧米では、硫酸マグネシウムは入浴剤として古くから使用されてきました。温熱効果や痛みを和らげる効果が期待されています。

3. 下剤・浣腸剤

硫酸マグネシウムは、速効性のある塩類下剤です。医薬用として古くから用いられており、腸内の水分吸収を抑えます。さらに、水分を腸内に集約し、便を軟化させて排便を促す作用があります。

マグネシウム中毒は、硫酸マグネシウムの重篤な副作用の1つです。だるさや筋力の低下、息苦しさ、眠気、熱感、血圧降下などが症状として現れます。大量服用時は、上記の症状に注意してください。

4. 有機合成化学

硫酸マグネシウムは水との親和性が高いことから、有機化学合成実験において乾燥剤として使用されます。反応後の後処理時に、有機溶剤相に添加することで、水分の除去が可能です。硫酸ナトリウム硫酸カルシウムなどの無機硫酸塩も同様に使用できます。

5. その他

硫酸マグネシウムは、海水中に含まれる成分の1つです。豆腐を凝固させるにがり中にも少量含まれています。

低マグネシウム血症や不整脈、子癇などに対する医薬品、食品添加物、飼料添加物としても使用されます。

硫酸マグネシウムの性質

無水物の化学式はMgSO4で表され、分子量は120.37です。CAS番号は7487-88-9として登録されています。

融点は1,124°Cで、融解と同時に分解します。吸湿性を持つ無臭の化合物で、水に溶けやすく、エタノールに溶けにくく、アセトンジエチルエーテルにはほとんど溶けません。水と反応し熱を放出します。

酸性・アルカリ性の程度を表すpHは5.0〜8.0 (50g/L、25℃) です。

硫酸マグネシウムの種類

無水の硫酸マグネシウムは不安定なため、自然界では通常、水和物として存在します。水和物としては、硫酸マグネシウム1に対し、1〜11の水分子が結合したものが知られています。

自然界では7水和物が最も一般的です。鉱物としてエプソマイト (英: Epsomite) と呼ばれます。7水和物のCAS登録番号は、10034-99-8です。7水和物を加熱していくと120℃で1水和物に、250℃で無水物が得られます。

硫酸マグネシウムのその他情報

1. 硫酸マグネシウムの製造法

硫酸マグネシウムは、天然資源から直接採取可能です。また、硫酸酸化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムを反応させることでも、硫酸マグネシウムを合成できます。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱う場合の対策
局所排気装置がある場所で使用してください。使用の際は、個人用保護具を着用します。

火災の場合
熱分解により、刺激性で有毒なガスや蒸気を放出することがあります。消火には周囲の環境に適したものを使用してください。

皮膚に付着した場合
皮膚に付着しないように、保護衣や保護手袋を着用します。皮膚に付着してしまった場合は、すぐに大量の水と石鹸で洗い流します。症状が続く場合は、医師に連絡してください。

眼に入った場合
使用時は必ず保護メガネまたはゴーグルを着用してください。万が一眼に入った場合は、コンタクトレンズは外し、水で数分間注意深く洗浄します。直ちに、医師の手当てを受けてください。

保管する場合
ポリエチレンまたはポリプロピレン製の容器に入れて密閉します。直射日光の当たらない、換気のいい涼しい場所に施錠して保管してください。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-0041JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Magnesium-sulfate

硫酸バリウム

硫酸バリウムとは

硫酸バリウム(Barium Sulfate)は分子量:233.39で、化学式はBaSO4です。硫酸と金属バリウムとを反応させて生成される無機化合物です。この反応時には水素が生成されます。また、硫酸と酸化バリウムまたは、硫酸と水酸化バリウムを反応させると、硫酸バリウムと水が生成されます。

見た目は白色または透明で、結晶状もしくは結晶性粉末の固体です。白色の粉末ではわずかな芳香がありますが、味はありません。水、エタノール(95)、ジエチルエーテルにはほとんど溶けません。また 塩酸硝酸、水酸化ナトリウム試液にもほとんど溶けないという特徴があります。

不燃性ですが、1600度以上の加熱により分解され、硫黄酸化物の有毒な蒸気を発します。人体への有害性も低い物質ですが、硫酸バリウムにアレルギーを持つ方もおられます。

硫酸バリウムの使用用途について

硫酸バリウムは、熱や空気、薬品などの化学変化の影響を受けづらく、化学的に安定している物質です。耐光性、耐熱性などにも優れていることから、医療用、工業用などさまざまな用途で使用されています。

工業用には、電子材料(積層セラミックコンデンサ・TFT)に使われます。変色しづらい性質を利用し、塗工材料や白色プラスチックの原料としても用いられます。また光拡散材料として、アクリル樹脂のような合成樹脂、ガラスに添加されることもあります。化粧品に含まれることもあります。

医療用では、エックス線を通過しづらい性質を利用して、消化管X線造影検査を行う際に内服することで、消化管のエックス線透過性を変え、そのコントラストにより消化管の病変を診断します。

エックス線診断(二重造影法)での使用について

硫酸バリウム100gに対し水18―26mLを加えて200W/V%―240W/V%の濃度の懸濁液を調製します。溶解後の安定性については、硫酸バリウムは比重が4.5と大きいため、時間経過と共に沈降していきます。しかし使用前に再度攪拌すれば、再び均一な懸濁液となります。

食道・胃・十二指腸の二重造影撮影の際には、硫酸バリウム懸濁液を消化管の粘膜に薄く付着させ、空気あるいは炭酸ガスで消化管を膨らませることでコントラストを強めて粘膜面の微細な凹凸の状態を撮影します。この際に発泡剤を水で服用後、硫酸バリウム懸濁液を服用してエックス線撮影する方法でしたたが、発泡剤を服用する水による硫酸バリウム液の濃度低下を防ぐため、また胃の急激な進展で起こる迷走神経反射を防ぐため、発泡剤を少量のバリウム懸濁液で服用させる方法がNPO日本消化器がん検診精度管理機構から推奨されています。

検査の当日および翌日にはそれぞれ約4割が排泄を認めます。下剤を併用することで、速いもので30分、遅くとも 5 日目には排便を認め、その多くは20~40時間後でした。

検査後にすみやかに硫酸バリウムを排出しなければいけません、そのためには十分な水分摂取が必要です。また排便困難、腹痛等の消化器症状が持続してあらわれた場合、腹部の診察や画像検査(単純エックス線、超音波CT等)を実施し、適切な処置が必要です。

硫酸ニッケル

硫酸ニッケルとは

硫酸ニッケル (英: Nickel(II) sulfate) とは、組成式NiSO4で表される硫酸の硫酸塩です。

一般には価数を明示して硫酸ニッケル(II)と表記されることが多いです。無水物の他、一、二、四、六および七水和物が知られています。

CAS登録番号は、無水物7786-81-4、六水和物10101-97-0、七水和物10101-98-1です。

硫酸ニッケルの使用用途

硫酸ニッケルの主な使用用途は、電気ニッケルめっき、無電解ニッケルめっき、ニッケル触媒一般、触媒剤、亜鉛および真ちゅうの黒色着色剤、ペンキおよびワニスなどの塗料、窯業用顔料、触媒一般、アルミ着色電池などです。

硫酸ニッケルが、金属のめっきやプラスチックなどの表面加工の材料の1つとして用いられるのは、耐食性や耐摩耗性を有することによります。硫酸ニッケルを用いためっきや表面加工は、耐久性や耐摩耗性を向上させるだけでなく、導電性のような技術的または物理的な特性を変化させることも可能です。

電池用途においては、陰極にも利用され、自動車や航空機、エレクトロニクスといった産業分野のさまざまな製品で使用されています。

硫酸ニッケルの性質

1. 硫酸ニッケル (無水物) の基本情報

硫酸ニッケル (無水物) の基本情報

図1. 硫酸ニッケル (無水物) の基本情報

硫酸ニッケルの無水物は、分子量154.75、融点100℃以上、沸点840℃であり、常温での外観は黄色固体です。密度は3.68g/mLであり、水に容易に溶解して水溶液は酸性を示します (溶解度: 650g/L (20°C)) 。エタノール、エーテル、アセトンなどの有機溶媒には不溶です。

2. 硫酸ニッケル (六水和物) の基本情報

硫酸ニッケル (六水和物) の基本情報

図2. 硫酸ニッケル (六水和物) の基本情報

硫酸ニッケルの六水和物 NiSO4・6H2Oは、分子量262.836、融点53℃、沸点100℃ (分解) であり、常温での外観は緑色結晶です。エタノール、アンモニアに容易に溶解し、水には50℃で溶解することが知られています。密度は2.07g/mLです。

硫酸ニッケルの種類

硫酸ニッケルは、工業用金属、あるいは工業用ニッケル化合物や、研究開発用試薬製品として主に販売されています。

1. 工業用製品

工業用としては、結晶が20kg袋などの容量から販売されている他、35%や30%などの濃度の溶液製品も存在します。溶液製品は、主にワット浴のニッケル成分の補充用途で提供されている製品です。

結晶製品は、電気めっきや無電解めっきをはじめとするニッケルめっき用に用いられる他、めっき以外にもアルミ発色用、触媒用、電池材料用などの用途も想定されています。用途が多いことから、様々な企業から販売されている物質です。

2. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、25g、100g、500gなどの容量の種類が有ります。想定されている用途は、分析におけるニッケルイオン供給源、メッキ原料、触媒原料などです。

純粋な物質の他、メーカーによっては容量分析用規定液として0.5mol/Lの溶液が販売されています。通常、室温で保管可能な試薬製品として取り扱われている物質です。

硫酸ニッケルのその他情報

1. 硫酸ニッケルの合成

硫酸ニッケルは、硫酸と金属ニッケルの反応によって合成されます。なお、金属ニッケルの代わりに酸化ニッケル(Ⅱ)、水酸化ニッケル(Ⅱ)あるいは炭酸ニッケルを用いることも可能です。本反応においては水素が副生します。

また、硫酸と酸化ニッケル、または、硫酸と水酸化ニッケルの反応でも、硫酸ニッケルを得ることができます (副生成物は水)。

2. 硫酸ニッケルの反応性

硫酸ニッケルの分解反応

図3. 硫酸ニッケルの分解反応

硫酸ニッケルは、不燃性ではありますが、加熱すると分解して有害な三酸化硫黄と酸化ニッケル(II)を生成する物質です。

硫酸ニッケルは空気中で風解して白色の粉末となりますが、水を加えると緑色に戻ります。水和物は、100℃で4分子、103.3℃で6分子、279.4℃ですべての水を失います。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7786-81-4.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10101-97-0.html

硫酸ナトリウム

硫酸ナトリウムとは

硫酸ナトリウムとは、化学式がNa2SO4である硫酸と水酸化ナトリウムとの塩です。

別名で芒硝 (ぼうしょう) とも呼ばれ、特に含水塩 (10水和物:  Na2SO4・10H2O) と区別する場合には、Na2SO4を無水芒硝と呼び、含水塩は結晶芒硝と呼ばれます。

硫酸ナトリウムの使用用途

硫酸ナトリウムは、不燃性であり、人体への有害性もほとんどないことから、食品添加物や医薬用、試薬用、工業用として幅広く使用されています。工業用には、ガラスやパルプを製造するときの原料の1つとして用いられたり、硫化ナトリウムの製造原料として用いられたりします。吸湿性が高い特徴を活かし、乾燥剤などにも使用可能です。

生活用品向けには、中性洗剤の洗浄力を向上させるための補助剤 (ビルダー) として利用されたり、入浴剤の原料の1つして使われたりします。その他の用途としては、鉱山製錬、染色、染料の中間物、医薬品、沈降性硫酸バリウムなどの製造に使用されています。

硫酸ナトリウムの性質

硫酸ナトリウムには、含水塩である10水和物 (Na2SO4・10H2O) と無水物 (Na2SO4) があると前述しましたが、それぞれで性質は異なります。

1. 結晶性芒硝 (Na2SO4・10H2O)

分子量は322.21で比重は1.46です。水によく溶け、32.4℃で10水和物から無水物に転移します。32.4℃までの水への溶解度は温度上昇に伴い上昇しますが、32.4℃以上では温度上昇に伴い溶解度が減少します。

グリセリンに可溶でアルコールには不溶、風解性があります。100℃で結晶水を失います。

2. 無水芒硝 (Na2SO4)

分子量は142.04で比重は2.698です。融点は884℃でグリセリンに可溶でアルコールには不溶です。見た目は、無色または白色で、結晶状もしくは結晶性粉末の固体となっています。

吸湿性が高いのが特徴で、アルミニウム、マグネシウムとの混合や接触を避ける必要があります。

硫酸ナトリウムのその他情報

硫酸ナトリウムの製造方法

硫酸ナトリウムは、天然から直接産出されています。アメリカ、中国で、結晶芒硝や復塩 (硫酸ナトリウムと硫酸カルシウムの混合物) として産出されています。

工業的には、レーヨンやその他の工業製品の製造の際に副生する、純度の低い硫酸ナトリウムを精製して、純度の高い硫酸ナトリウムを製造する方法が一般的です。原料として、レーヨン製造時の副生物である人絹芒硝やそれ以外の工業製品の副生物である副生芒硝が用いられており、国内では主に人絹芒硝を原料に硫酸ナトリウムが作られています。

人絹芒硝を原料として使用する場合、人絹芒硝にソーダー灰を加えて、過剰の硫酸を中和し、加熱濃縮して、硫酸ナトリウムを析出させます。これをさらに脱水、乾燥、粉砕し、硫酸ナトリウムを精製します。

1. 人絹 (レーヨン)
Cellulose  + NaOH → ビスコース
ビスコース + H2SO4 → ビスコースレーヨン + Na2SO4

セルロースを水酸化ナトリウムで溶解させてビスコースを作ります。ビスコース液を希硫酸中で繊維状に析出させてビスコースレーヨンができます。この中和反応の際に硫酸ナトリウムが生成します。繊維を回収した後の残渣が人絹芒硝です。

2. 重クロム酸ソーダの製造
2Na2CrO4 + H2SO4 → Na2Cr2O7 + Na2SO4 + H2O

3. 過塩素酸アンモニウムの製造
(NH4)2SO4 + 2NaClO4 → 2NH4ClO4 + Na2SO4

4. ホウ酸の製造
Na2B4O7 + H2SO4 + 5H2O → 4H3BO3 +Na2SO4

5. ギ酸の製造
2HCOONa + H2SO4 → 2HCOOH + Na2SO4

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7757-82-6.html

無水フタル酸

無水フタル酸とは

無水フタル酸とは、酸無水物の1種であり、フタル酸の2つのカルボキシ基 (カルボキシル基) から1分子の水が脱水縮合した構造をもつ物質です。

別名として、1,3-イソベンゾフランジオン、Phthalic anhydrideなどがあります。無水フタル酸は、構造的に安定なフタル酸を分子間脱水して無水物にした構造であるため、水分が存在する通常環境に放置しているだけで、フタル酸に変化していきます。

無水フタル酸の使用用途

無水フタル酸は、プラスチックを柔らかくするための可塑剤であるフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチルなどのフタル酸ジエステルの製造用原料として利用されています。この他、ポリエステル樹脂、合成樹脂塗料原料である顔料やアルキド樹脂、フェノールフタレインフルオレセイン、エオシンなどの染料、医薬の合成原料も用途の1つです。

これらは、主に、住宅の壁紙や床材電線の被覆、家具等の塩ビレザーなどの原料として幅広く使用されています。2017年では、国内で16万トン以上生産され、5万トンほどが海外に輸出されています。

無水フタル酸の性質

分子式はC8H4O3で分子量が148.12の純白針状結晶です。外観は結晶性の粉末またはフレーク状で、わずかに刺激臭があります。密度は1.527g/cm3、融点が130.8℃、沸点が284.5℃、引火点が151.7℃、発火点は570℃です。アルコールに可溶で、エーテル、熱湯にややわずかに溶解します。

無水フタル酸のその他情報

1. 無水フタル酸の製造方法

無水フタル酸は、硫酸などの脱水剤存在下でフタル酸を加熱し分子内脱水して得られます。工業的な量産には、触媒に五酸化バナジウムを用いてナフタレンまたはオルトキシレンを気相で酸化する手法が使われています。製造設備は、いずれの原料でも製造できるようになっていることがほとんどです。

製造方法は触媒の使用方法により、流動床法と固定床法に分けられますが、いずれの方法でも、反応、凝縮、蒸留の3つの主要工程から成り立っています。原料であるナフタレンまたはオルトキシレンを蒸発器で気化します。気化した原料を混合器で大過剰の空気と混合し、これを100~200℃に余熱します。

これを触媒が詰められた多管式の反応器に通すことで、空気中の酸素により原料のナフタレンまたはオルトキシレンが酸化されて無水フタル酸が生成します。

  • ナフタレンを原料とした反応
    C10H8 + 4.5O2 → C8H4O3 + 2H2O + 2CO2
  • オルトキシレンを原料とした反応
    C6H4(CH3)2 + 3O2 → C8H4O3 + 3H2

触媒は使用する原料によって違いはありますが、一般的にはシリカ、アルミナ、シリコンカーバイド、軽石などの担体にバナジウム系の触媒を付着させたものが用いられています。反応時の接触時間は0.1~0.5秒と言われています。

反応器の温度は、400~500℃で行われるのが基本です。得られた粗無水フタル酸を蒸留し、収率85%程度で無水フタル酸が得られます。

2. 無水フタル酸の反応

酸塩基反応の指示薬として広く用いられているフェノールフタレインはフタル酸と2分子のフェノールを分子間で脱水反応して得られます。

また1級アミン基の保護基 (有機合成で反応性の高い官能基を一時的に保護するための官能基) としても用いられます。

3. フタル酸系可塑剤の有害性

1990年代から2000年代前半にかけて、塩化ビニルなどに使用されているフタル酸系可塑剤の人体や環境への影響が問題視されたことがありました。現在では、フタル酸系可塑剤は、医療用途を含め、半世紀以上にわたり世界中で使用されており、人間や環境に対するリスクは問題ないレベルであり、現在の状況に加えてさらなる規制や管理の必要性はないとされています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7757-82-6.html

炭酸水

炭酸水とは

炭酸水とは、二酸化炭素 (炭酸ガス) が溶けた水溶液です。

スパークリングウォーターと呼ばれることもあり、天然のものと人工のものがあります。天然の炭酸水は、採水時から炭酸ガスを含んでいる地下水のことで、温泉や湧水の形で発生します。人工の炭酸水は、圧力をかけて水に炭酸ガスを溶かしたものです。天然水に炭酸ガスを添加したものや、純水に炭酸ガスを添加したものなどが市販されています。

炭酸水は清涼感があるため、リフレッシュなどの目的で炭酸水を楽しむ人が増えており市場規模が拡大中です。

炭酸水の使用用途

炭酸水は主に飲料や温浴で使用されます。日本の温泉法では1Lの湯に炭酸ガスが250mg以上溶けているものを炭酸泉と定義しています。その他具体的な使用用途は下記の通りです。

1. 炊飯

炭酸水で米を炊くと、ふっくらした美味しいご飯が出来上がります。米に浸透した炭酸が炊飯時に気泡となることで、米に気泡が入るためです。

2. 煮物調理

炭酸水で煮込むと、柔らかくて味がよく染みた美味しい煮物ができます。炭酸水自体に味がないため素材の味を邪魔することがありません。

3. 拭き掃除

普通に水拭きをするよりも、炭酸水で拭いた方が綺麗になります。炭酸水には、汚れを取り込んで気泡となることで汚れを除去する働きがあるためです。窓ガラスやフローリングなどの軽いベタベタ汚れを取る際に適しているといます。洗剤を含まないため、子供やペットがいる家庭でも安心です。

4. 洗髪

炭酸泉を用いた「炭酸ヘッドスパ」をメニューに取り入れている美容院が増えています。炭酸の気泡が頭皮の汚れをすっきり落とすことで、べたつきやニオイなどの頭皮トラブルが軽減します。また、頭皮の血管が拡張することで血流が良くなる効果もあります。

炭酸水の性質

炭酸水には、下記のような性質があります。

1. 弱酸性

炭酸水は弱酸性 (pH5.5以下) です。二酸化炭素が水に溶解することで炭酸が生じ (1) 、炭酸がさらに解離して水素イオンが生じる (2) ため、酸性側に傾きます。

 (1) CO2 + H2O ⇄ H2CO3
 (2) H2CO3 ⇄ H+ + HCO3

2. 発泡性

炭酸水には気泡が立つ性質があります。ペットボトルの炭酸水を開栓すると発泡する原理は、ペットボトル内の圧力が下がることで二酸化炭素が溶けきれなくなり泡となって出る仕組みです。また、炭酸水の温度を上げることによっても発生します。

3. 酸味

炭酸水は一般に酸味があると言われます。これは口に含んだ際に炭酸が口腔内を刺激し、それによって酸味を感じ取る細胞が活性化するためです。

4. 清涼感

炭酸水を口に含むとピリピリとした刺激 (清涼感) を感じます。炭酸脱水酵素の働きで炭酸から水素イオンと炭酸水素イオンが生じ、これらのイオンが三叉神経を刺激するためです。

5. 血管拡張作用

炭酸水には、血管を広げる作用があります。炭酸水に浸ることで、末梢血管拡張物質のプロスタグランジンE2が体内で多く産生されることが関連していると考えられています。

炭酸水の種類

飲用の炭酸水は、炭酸飲料として市販されています。炭酸飲料の分類は下記の通りです。

1. 天然水をベースとした炭酸水

採水時に炭酸ガスを含んでいる天然の炭酸水や、天然水に炭酸ガスを添加したものがあります。いずれも天然水をベースとしているため、自然由来のミネラル (カルシウムやマグネシウム) を含んでいます。硬水 (ミネラルが多い) や軟水 (ミネラルが少ない) といった水の味わいも楽しめます。

2. 純水をベースとした炭酸水

不純物を除去した高純度の水 (純水) に、炭酸ガスを添加したものです。一般的には、ミネラルを含んでいませんが、あとから添加する場合もあります。

3. 甘味料やフレーバーを添加したもの

炭酸水の原材料として、水と炭酸ガスに加えて甘味料や酸味料、フレーバーなどが使用されることがあります。多彩な味や風味を楽しむことができますが、糖分を多く含むものは飲み過ぎないよう注意が必要です。

4. 強炭酸・微炭酸

炭酸ガスの含有量 (ガス圧) によって、強炭酸 (炭酸ガスが多い) ・微炭酸 (炭酸ガスが少ない) の2種類があります。ガス圧はGV (ガスボリューム) という単位で表されます。1GVは1Lの液体に1Lの炭酸ガスが含まれている状態です。

強炭酸・微炭酸という言葉に明確な定義はありませんが、市販されている強炭酸の商品には5GVのものが多いとされています。刺激的なのどごしを楽しめる強炭酸は人気が高く、多く流通しています。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/brte/21/1/21_38/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/scdh/1/0/1_5/_pdf/-char/ja

水酸化鉄

水酸化鉄とは

鉄の水酸化物で、鉄の酸化数に応じて水酸化鉄(II)と水酸化鉄(III)があります。

水酸化鉄(II)

化学式Fe(OH)2で表される無機化合物で、水酸化第一鉄とも呼ばれます。六方晶系で、水酸化カドミウム型構造の結晶で、強磁性を有します。結晶構造を図1に示します。

白色固体ですが、酸化されやすく、微量の酸素を含むと淡緑色を呈します。水道の蛇口などでしばしば見られるように、空気中で酸化された固体は通称で緑錆・グリーンラストと呼ばれます。空気中で加熱すると、酸化鉄(Ⅲ)になります。

水酸化鉄(III)

化学式Fe(OH)3で表される無機化合物で、水酸化第二鉄とも呼ばれます。 実際には、鉄イオンと水酸化物イオンを1:3の割合で含有する化合物は見られず、酸化水酸化鉄(III)の水和物(FeO(OH)·H2O)の組成を有することが知られています。結晶は直方晶系に属します。結晶構造を図2に示します。

赤褐色固体で、天然には針鉄鉱(α-オキシ水酸化鉄、ゲーサイト)、赤金鉱(β-オキシ水酸化鉄、アカガネイト)、鱗鉄鉱(γ-オキシ水酸化鉄、レピドクロサイト)、褐鉄鉱(リモナイト、針鉄鉱と鱗鉄鉱の集合体)などの鉱石、あるいは赤錆として見られます。アルカリ性水溶液中で、コロイド粒子を形成できます。

水酸化鉄の製法

水酸化鉄(II)は水に溶けにくい性質を持ちます。ゆえに、硫酸鉄などの水溶性物質を用いて鉄(II)イオンを含有する水溶液を用意して、これに水酸化ナトリウムなどを用いて水酸化物イオンを供給すると、次式に示すように沈殿が生じます。
FeSO4 + 2 NaOH → Fe(OH)2 + Na2SO4

水酸化鉄IIの結晶構造

水酸化鉄(III)は、鉄(III)塩水溶液のpHを6.5~8に調整すると沈殿します。例えば、実験室での製法としては、次式に示すように、塩化第二鉄や硝酸第二鉄などの鉄(III)塩と水酸化ナトリウムを反応させて得られます。
FeCl3 + 3 NaOH → Fe(OH)3 + 3 NaCl
Fe(NO3)3 + 3 NaOH → Fe(OH)3 + 3 NaNO3

酸化水酸化鉄IIIの結晶構造.あるいは、酸存在下において、水酸化鉄(II)を過酸化水素で酸化されることで作製できます。
2 Fe(OH)2 + H2O2 → 2 Fe(OH)3

また、学習的には、塩化鉄(Ⅲ)水溶液を沸騰水に滴下すると、水酸化鉄(Ⅲ)コロイド粒子が得られます。このような粒子は、一定の大きさで安定的に水溶液中に懸濁しているもので、チンダル現象や凝析などの現象を観察することができます。

水酸化鉄の使用用途

主要用途は下記の通りです。

水酸化鉄(II)

エナメルの製造、触媒、熱線吸収ガラスなどに使用されます。また、水質改善のための薬剤や、ニッケル鉄電池負極の電気化学的活性物質としても用いられます。

水酸化鉄(III)

顔料として、塗料・インキ、紙、ゴム、プラスチックなどに配合されます。また、ガラス、貴金属、ダイヤモンドの研磨材として用いられています。高純度のものは半導体、磁気テープ、またマグネットの原料にもなっています。

FDA(米国食品医薬品局)により化粧品への使用が承認されており、一部のタトゥーインクにも使用されています。また、鉛除去用の吸着剤やリン酸塩バインダーとして、水質改善のための薬剤として用いられます。

塩化マグネシウム

塩化マグネシウムとは

塩化マグネシウムとは、化学式がMgCl2・6H2Oである無機化合物で、水酸化マグネシウムと塩酸を中和して得られる塩です。

名前を省略して、塩マグなどとも呼ばれます。海水から食塩の主成分である塩化ナトリウム (NaCl) を物理的に除いた後の液体を苦汁、にがりと呼びますが、この主成分が塩化マグネシウムです。

製塩の際に副生する苦汁を原料に作られるものと、四塩化チタンから金属チタン (Ti) を製造する際に副生するものがありますが、前者は6水和物 (MgCl2・6H2O) で、後者は無水和物 (MgCl2) です。

塩化マグネシウムの使用用途

塩化マグネシウムを主成分とする苦汁は、豆腐の凝固剤として利用されています。塩化マグネシウムは土木、建築分野では、道路の凍結防止剤、木材の防腐剤、耐火材、マグネシアセメントの原料などに使用され、医薬、医療分野では緩下剤、人口透析液、輸液などに有用です。

塩化マグネシウムの無水和物は、主に金属マグネシウムの製造に使われます。また、吸湿性が非常に高く乾燥剤として使用されるほか、吸湿時に発熱する性質を利用して発熱剤としても使われています。そのほか、触媒の原料も用途の1つです。

塩化マグネシウムの性質

数種の塩化マグネシウム水和物が存在しますが、工業的に製造されている主なものは、常温で最も安定な6水和物 (MgCl2・6H2O) と無水和物 (MgCl2) です。

1. MgCl2・6H2O

分子量が203.33、比重が1.569の潮解性をもつ白色結晶です。水への溶解度は160g/100mlで、アルコールにも溶解します。

加熱すると無水和物にならずに加水分解し、約200℃で塩化水素 (HCl) を発生して、塩化水酸化物 (Mg(OH)Cl )になります。また、約600℃でマグネシア (MgO) に変化します。

2. MgCl2

分子量が95.21、比重が2.325の潮解性をもつ白色結晶です。融点は714℃、沸点は1410℃です。水への溶解度は54g/100mlで、アルコールにも溶解します。水に溶解する際にはかなり発熱し、発熱で塩化水素を発生する可能性があります。

塩化マグネシウムのその他情報

塩化マグネシウムの製造方法

工業的には海水から食塩 (塩化ナトリウム) や塩化カリウムを分離した後の苦汁 (にがり) を原料に製造されています。

1. 苦汁からの塩化マグネシウム (MgCl2・6H2O) 製造
苦汁に含まれている成分の溶解度の差を利用して、最終的に塩化マグネシウムを得る方法です。苦汁には臭化物 (Br) が0.2~0.8%ほど含まれているため、まずこれを除去します。

臭素除去した後の苦汁に塩化カルシウムを入れ、硫酸塩成分を硫酸カルシウムとして析出させ、これを除去します。脱硫した液を加熱濃縮すると塩化カリウムが析出してくるので、これを分離します。

塩化カリウムを分離した後の液体を冷却すると、KCl・MgCl2・6H2Oの結晶が析出されるため、これを分離します。結晶を分離した後の液体をさらに濃縮した後、放冷すると塩化マグネシウムの結晶が析出し、これを分離することで塩化マグネシウム (MgCl2・6H2O) が得られます。

2. 6水和物の脱水による無水和物の製造
塩化マグネシウムの無水和物 (MgCl2) は6水和物 (MgCl2・6H2O) の脱水で得られますが、そのまま加熱すると塩酸が発生してマグネシアが生成する反応が起こります。この反応を起こさないように、塩酸ガス中で加熱したり、塩化アンモニウムを添加して脱水したりするなどの方法をとり、塩化マグネシウムの無水和物 (MgCl2) が得られます。

3.チタン製錬の際の塩化マグネシウム副生
金属チタンの製錬にはクロール法と呼ばれる方法で行われます。クロール法とは、酸化チタンを原料に四塩化チタンにした後、金属マグネシウムで還元してスポンジ状の金属チタンを得る方法です。

四塩化チタンは酸化チタンとコークスを炉に入れて塩素ガスを流し1,000℃に加熱して得られます。次に四塩化チタンの液体を800℃で溶解したマグネシウムに滴下すると、四塩化チタンは金属チタンに還元されます。この反応の副生物として塩化マグネシウム (MgCl2) が得られます。

参考文献
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/s1125-8e.pdf

塩化カリウム

塩化カリウムとは

塩化カリウムとは、カリウム塩素の化合物のことです。

無色の結晶または白色の結晶粉末です。塩加、塩化カリ、塩化加里とも記載されます。

工業的に塩化カリウムは、カリ岩塩 (英: Sylvite) 、カーナライト、シルビナイトなどの天然鉱石から精製可能です。製造法として、連続溶解法 (英: continuous melting method) や浮遊選鉱法 (英: flotation method) などがあり、高純度に精製されたものは潮解性を示しません。

塩化カリウムの使用用途

塩化カリウムは安全性が高く、食品添加物としての使用が認められています。具体的には、食塩 (塩化ナトリウム) の代替物として調味料や減塩食品、清涼飲料水など多くの食品に使用可能です。また、必須ミネラルのカリウム摂取を目的としてサプリメントも製造されています。

医療分野でも、低カリウム血症時のカリウム補給剤 (経口薬、点滴液) として用いられています。農業の分野では肥料として使うことが可能です。さらに、農作物の殺菌に使用される電解次亜塩素酸水は、塩化カリウム水溶液を電気分解して作られています。

塩化カリウムを電気分解すると、水素や塩素とともに、水酸化カリウムを生成します。水酸化カリウムは石鹸などの原料になるため、化学原料として塩化カリウムを用いることが可能です。

塩化カリウムは、天然ガスや石油を掘る際に、掘削泥水 (英: Drilling fluid) としても利用されます。粘土の膨潤や分散をカリウムイオンが抑制でき、泥岩層の切削に有用です。KClポリマー泥水と呼ばれ、1980年ごろに開発された方法です。

塩化カリウムの性質

塩化カリウムの化学的な性質は、塩化ナトリウムに似ています。水に溶けやすく、極性溶媒には吸熱的に溶解します。エタノールジエチルエーテルにはほとんど溶けません。

融点は776°C、沸点は1,505℃です。味は塩辛く、独特の苦みがあります。不燃性で有害性が低いです。消防法や毒物および劇物取締法の適用は受けていません。ただし、高温になる場所での保管は注意が必要です。

塩化カリウムの構造

塩化カリウムはカリウムの塩化物であり、化学式はKClです。水溶液中では、塩化物イオン (Cl) とカリウムイオン (K+) に電離しています。pHはおよそ7です。

結晶格子は、塩化ナトリウム型構造を取っています。配位数は6で、カリウムと塩素の距離 (K-Cl) は0.314nm、格子定数はa = 6.278Åです。モル質量は74.551g/molで、密度は1.987g/cm3です。

塩化カリウムのその他情報

1. 塩化カリウムの製法

塩化カリウムは、塩酸と水酸化カリウムの中和反応で生成します。工業的には鉱産物を精製しています。精製方法の1つは、溶解度の差を用いるものです。水に混合物を溶かして、水を蒸発させながら、連続的に結晶化させます。しかし、加熱のエネルギーが大きく、コストが高いことが欠点です。

よりコストを抑えたい場合は、浮遊選鉱法がおすすめです。まず、混合物に飽和食塩水を加えます。そして、懸濁液へ空気を吹き込んで、選択的に塩化カリウムの結晶を気泡へ付着させて、泡をすくい取ります。底に沈殿している塩化ナトリウムの結晶も回収可能です。

2. 天然に存在する塩化カリウム

植物はカリウムを栄養素にしています。そのため、海藻を燃やして生じる藻塩や内陸部の植物を燃やして生じる灰塩などに、塩化カリウムが含まれています。それに加えて、海塩を作るときに出るにがりを構成する成分の1つです。

自然では、カリ鉱石として産出されます。内陸に閉じ込められた塩湖や海水から析出して鉱床を形成している以外にも、火山の噴気から結晶が得られます。日本での主要な産地は千葉です。海水中に塩化カリウムは、0.08%ほど含まれています。海草からも抽出できますが、日本は塩化カリウムの大半を輸入しています。