無水フタル酸

無水フタル酸とは

無水フタル酸とは、酸無水物の1種であり、フタル酸の2つのカルボキシ基 (カルボキシル基) から1分子の水が脱水縮合した構造をもつ物質です。

別名として、1,3-イソベンゾフランジオン、Phthalic anhydrideなどがあります。無水フタル酸は、構造的に安定なフタル酸を分子間脱水して無水物にした構造であるため、水分が存在する通常環境に放置しているだけで、フタル酸に変化していきます。

無水フタル酸の使用用途

無水フタル酸は、プラスチックを柔らかくするための可塑剤であるフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチルなどのフタル酸ジエステルの製造用原料として利用されています。この他、ポリエステル樹脂、合成樹脂塗料原料である顔料やアルキド樹脂、フェノールフタレインフルオレセイン、エオシンなどの染料、医薬の合成原料も用途の1つです。

これらは、主に、住宅の壁紙や床材電線の被覆、家具等の塩ビレザーなどの原料として幅広く使用されています。2017年では、国内で16万トン以上生産され、5万トンほどが海外に輸出されています。

無水フタル酸の性質

分子式はC8H4O3で分子量が148.12の純白針状結晶です。外観は結晶性の粉末またはフレーク状で、わずかに刺激臭があります。密度は1.527g/cm3、融点が130.8℃、沸点が284.5℃、引火点が151.7℃、発火点は570℃です。アルコールに可溶で、エーテル、熱湯にややわずかに溶解します。

無水フタル酸のその他情報

1. 無水フタル酸の製造方法

無水フタル酸は、硫酸などの脱水剤存在下でフタル酸を加熱し分子内脱水して得られます。工業的な量産には、触媒に五酸化バナジウムを用いてナフタレンまたはオルトキシレンを気相で酸化する手法が使われています。製造設備は、いずれの原料でも製造できるようになっていることがほとんどです。

製造方法は触媒の使用方法により、流動床法と固定床法に分けられますが、いずれの方法でも、反応、凝縮、蒸留の3つの主要工程から成り立っています。原料であるナフタレンまたはオルトキシレンを蒸発器で気化します。気化した原料を混合器で大過剰の空気と混合し、これを100~200℃に余熱します。

これを触媒が詰められた多管式の反応器に通すことで、空気中の酸素により原料のナフタレンまたはオルトキシレンが酸化されて無水フタル酸が生成します。

  • ナフタレンを原料とした反応
    C10H8 + 4.5O2 → C8H4O3 + 2H2O + 2CO2
  • オルトキシレンを原料とした反応
    C6H4(CH3)2 + 3O2 → C8H4O3 + 3H2

触媒は使用する原料によって違いはありますが、一般的にはシリカ、アルミナ、シリコンカーバイド、軽石などの担体にバナジウム系の触媒を付着させたものが用いられています。反応時の接触時間は0.1~0.5秒と言われています。

反応器の温度は、400~500℃で行われるのが基本です。得られた粗無水フタル酸を蒸留し、収率85%程度で無水フタル酸が得られます。

2. 無水フタル酸の反応

酸塩基反応の指示薬として広く用いられているフェノールフタレインはフタル酸と2分子のフェノールを分子間で脱水反応して得られます。

また1級アミン基の保護基 (有機合成で反応性の高い官能基を一時的に保護するための官能基) としても用いられます。

3. フタル酸系可塑剤の有害性

1990年代から2000年代前半にかけて、塩化ビニルなどに使用されているフタル酸系可塑剤の人体や環境への影響が問題視されたことがありました。現在では、フタル酸系可塑剤は、医療用途を含め、半世紀以上にわたり世界中で使用されており、人間や環境に対するリスクは問題ないレベルであり、現在の状況に加えてさらなる規制や管理の必要性はないとされています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7757-82-6.html

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