ヒューム集塵機

ヒューム集塵機とはヒューム集塵機

ヒューム集塵機とは、溶接作業に伴って発生するヒュームを吸引するための機器です。

ヒュームとは、固体物質の蒸気が凝固したり、気体の化学反応によって生じた固体粒子が空気中に浮遊するものを指します。このようなヒュームは、特にアーク溶接の際に発生します。また、グラインディング作業によって飛散する微細粉塵にも有害性があり、この場合も集塵機の使用が必要です。

溶接ヒュームには酸化鉄、ケイ素酸化物、ベリリウム、カドミウム亜鉛、鉛、アスベストなど、多様な有害物質が含まれています。このため、溶接作業を行う際にはヒューム集塵機を適切に使用し、作業環境の安全を確保することが極めて重要です。

ヒューム集塵機の使用用途

ヒュームを吸い込むことで、じん肺という病気になるリスクがあります。じん肺は、小さな土ぼこりや金属の粒などの無機物や鉱物性の粉じんが発生する環境で働く人々が、長年にわたりこれらの粉じんを大量に吸い込むことにより発症します。

この病気は、肺の組織が線維化し硬くなり、弾力性を失うことが特徴です。じん肺を避けるために、特に溶接作業などでヒュームが発生する際にヒューム集塵機が使用されます。

ヒューム集塵機の使用例としては、自動車整備工場や金属加工場が挙げられます。これには板金加工レーザー加工、溶接などが含まれます。これらの場所では、ヒュームやその他の粉じんが常に発生するため、集塵機を用いることで作業環境の安全を保ち、労働者の健康を守ることが可能です。

ヒューム集塵機の原理

ヒューム集塵機の原理は他の集塵機と大きく異なるわけではありません。主に羽根車を用いて吸引を行います。その際、ヒュームが羽根車に付着しないよう、いくつかのフィルター構造が用いられ容器内にはバッフル構造が設けられており、重たいヒューム粒子はこのバッフルに遮られて捕集されます。

その後、金網フィルターを通して大部分のヒュームが捕集されます。さらに、それでも取り除けない微細なヒュームはフィルターで捕集します。

また、溶接時にはスパッタや火花が発生します。これらの火花には溶けた金属の粒が含まれており、近くの金属に触れると冷えて固着します。これらの粒はスパッタと呼ばれ、集塵機内に入ると火災や故障の原因となるため、それらを阻止する仕組みが設けられています。

捕集したヒュームの除塵には、パルスジェット方式が広く用いられています。これは間欠的にジェット噴射を行うことで、効率的に捕集したヒュームを除去します。このプロセスにより、集塵機は効果的にヒュームを管理し、作業環境の改善が可能です。

ヒューム集塵機の選び方

使用する場所の規模とヒュームの量を考慮する必要があります。大規模な工場や頻繁に溶接作業が行われる場所では、高い吸引力と大容量のフィルターを備えたモデルが最適です。

異なる溶接プロセスは異なる種類のヒュームを生成します。たとえば、TIG溶接は比較的クリーンなヒュームを生成しますが、MIG溶接やスティック溶接はより多くの有害な粒子を放出する可能性があります。このため、生成されるヒュームの種類に応じて、特定のフィルターシステムを備えた集塵機を選ぶことが必要です。

集塵機のフィルター効率も重要な選定基準です。HEPAフィルターやULPAフィルターを備えた機種は、微細な粒子まで効果的に捕集できるため、特に健康を守るために推奨されます。また、フィルターのメンテナンスや交換の容易さも選択時に考慮すべき点です。簡単に交換や清掃ができる設計のものは、長期的な運用コストを低減します。

さらに、操作性とメンテナンスのしやすさも大切な要素です。ユーザーフレンドリーなインターフェースを持つ機種や、容易にアクセス可能な部品を持つ機種は、日常的な使用において大きな利点となります。また、機械の耐久性や製造元のサポート体制も評価すべきです。信頼できるメーカーから購入し、適切な保証が付いている製品を選ぶことが望ましいです。

参考文献
http://www.yodogawadenki.gr.jp/products/SET.html
http://terukobayashi.com/archives/9727

バイメタル式サーモスタット

バイメタル式サーモスタットとは

バイメタル式サーモスタットとは、温度変化に応じて形状が変わるバイメタルと呼ばれる金属片を使用して、温度制御を行うデバイスです。

バイメタルと呼ばれる2種類の異なった金属を張り合わせた接点を使用したサーモスタットを、総じてバイメタル式サーモスタットと呼びます。古くから使用される方式で、対候性・信頼性が高い装置です。

バイメタル式サーモスタットの使用用途

バイメタル式サーモスタットは、その信頼性とシンプルな構造からさまざまな用途で使用されています。代表的な用途は、温度制御が必要な装置やシステムです。家庭用冷蔵庫やエアコン、温水器などで温度を制御するために使用されます。

また、電子機器や電気機器では過熱による損傷を防ぐために使用されます。バイメタルが一定の温度を検知すると、電気回路を遮断して装置を保護することが可能です。その一例として、コンピュータの電源装置や電気ストーブなどがあげられます。

温度がある範囲を超えた場合に、警報を発するために使用されることもあります。温室や実験室などで温度が制御範囲を外れた場合に警告を出すために使用されることが多いです。

バイメタル式サーモスタットはその信頼性と堅牢な性質から、温度制御や制御回路の動作など、さまざまな分野で広く使用されています。

バイメタル式サーモスタットの原理

バイメタル式サーモスタットは、バイメタルと呼ばれる二層構造の金属片を利用して動作します。バイメタルは異なる熱膨張係数を持つ二種類の金属を積層した構造です。それぞれの金属層が異なる熱膨張係数を持つため、温度が変化すると一方の金属層がもう一方よりも大きく膨張または収縮します。

この膨張や収縮によって、バイメタル全体の形状が変化します。使用される金属としては、高膨張率側が鉄やニッケルの合金にクロムマンガンなどを添加します。低膨張率側は膨張係数を低くした鉄とニッケルの合金が使われることが多いです。

鉄やニッケルが使用される理由は、安くて加工がしやすく、耐久性にも優れているためです。バイメタル式サーモスタットは、バイメタルの形状変化を利用して温度制御を行う機器です。一般的な構造としては、バイメタルが一端で固定され、もう一端に連結された接点やスイッチを配置します。

温度が上昇すると金属片の膨張率差によって片方の金属層大きく膨張し、機器全体が曲がって接点やスイッチが開放されます。

バイメタル式サーモスタットの選び方

バイメタル式サーモスタットを選ぶ際は、以下の点に留意することが必要です。

1. 定格電圧

使用する電気機器や回路の仕様に基づいて、バイメタル式サーモスタットの定格電圧を確認します。製品が許容する最大電圧を超えないように選ぶ必要があります。AC100V~250V程度を許容する製品が一般的です。

2. 定格電流

使用する電気機器や電流要件に応じて定格電流を考慮します。定格電流を超過した場合、接点溶着などの故障が発生するため注意が必要です。適切な定格電流のサーモスタットを選ぶことで、正常な動作と信頼性を確保することが可能です。

制御回路に使用されることが多いため、定格電流は20A以下の製品が一般的です。小型製品の場合は3A程度の場合もあります。

3. 設定温度範囲

使用する場面で要求される温度範囲を確認して、適用可能な製品を選定します。温度範囲外では動作しない製品が多いです。設定温度範囲は数十℃から数百℃まで、幅広いラインナップが存在します。

4. 復帰タイプ

接点の復帰タイプも重要な要素です。自動復帰タイプと手動復帰タイプの2種類が存在します。自動復帰タイプのサーモスタットは、温度が設定範囲内に戻ったときに自動的に元の状態に戻ります。

手動復帰タイプは、一度動作した後は手動でリセットする必要があります。用途に応じて選定する必要があります。

参考文献
http://www.ngt.co.jp/technical/about_thermostat.html
https://www.nippon-heater.co.jp/products/tc/tmqttm/

ナノバブル発生装置

ナノバブル発生装置とは

ナノバブル発生装置とは、超微細気泡と呼ばれる非常に小さな気泡を発生させる装置です。

ナノバブル発生装置により生成されるナノバブルと呼ばれる超微細気泡には、殺菌能力や洗浄能力、環境浄化、成長促進、免疫力向上、細胞保護能力などの性質があります。

ナノバブル発生装置の使用用途

ナノバブルの性質を生かした主な使用用途は、以下の通りです。

  • 殺菌力・洗浄力
    病院や介護施設など
  • 環境浄化
    一般排水や工場排水などの排水処理、河川や池や海水の水質浄化など
  • 生態活性化・細胞保護・成長促進
    魚の鮮度維持、牡蠣やエビなどの貝・甲殻類や魚類の養殖など

その他、ナノバブルには水の蒸発を促す効果もあるため、水冷式冷却塔の効率化などが期待できます。熱伝達能力を利用して、効率よく液体の温度を低下させることなどにも利用されています。

ナノバブル発生装置の原理

ナノバブル発生装置では、ナノサイズの超微細気泡を発生させています。一般的に直径50マイクロメートル以下の気泡をナノバブルと呼んでいます。

ナノバブルはイオンの力が働くことで気液界面が縮小し、イオン濃度が濃縮されて気泡内部の温度と圧力が高くなり、様々な現象が発現することが特徴です。なお、ナノバブル発生装置としては、ナノバブルよりも大きく、直径50マイクロメートルよりも大きく0.1mm以下程度の微細気泡であるマイクロバブルと共にナノバブルを生成する装置と、ナノバブルを直接生成する装置があります。

ナノバブル発生装置の種類

ナノバブル発生装置においては、マイクロバブルとナノバブルを同時に生成する「高速旋回液流式」と「加圧溶解式」があります。「界面活性剤添加微細孔式」と「超音波キャビテーション式」は、ナノバブルだけを生成する方式です。

1. 高速旋回液流式

高速旋回液流式は、ナノバブルが液体中に長い時間残存可能で、マイクロバブルは液面に浮上することを利用した方式です。まずは、液体と気体を混合し、気泡を発生させます。

これを高速旋回液流として回転させると気泡が細かく粉砕され、液体中にマイクロバブルとウルトラファインバブルが生じます。マイクロバブルは液面に浮上する性質があるので、マイクロバブルが浮上分離された後、液体内に残存しているナノバブルだけを回収可能です。

2. 加圧溶解式

加圧溶解式では、気体を加圧して液体中に過飽和で溶解させたのち、急減圧をおこなって、液体中にマイクロバブルとナノバブルを発生させます。その後、高速旋回液流式と同様に、マイクロバブルを浮上分離してナノバブルのみを回収します。

3. 界面活性剤添加微細孔式

界面活性剤添加微細孔式では、まず液体中に界面活性剤を十分に添加し、気液界面張力を低下させます。この後、ガスで圧力を掛けながら、ナノバブルのみ通過可能なサイズの超微細孔を有する膜を透過させ、この超微細孔からナノバブルを通過させて回収します。

4. 超音波キャビテーション式

超音波キャビテーション式では、液体中の溶存ガスに超音波によるキャビテーションを起こし、ナノバブルを生成しています。

ナノバブル発生装置のその他情報

ナノバブル発生装置の長所

ナノバブル発生装置は、排水や河川などの水質浄化や、魚介類の養殖での成長促進に利用されていますが、農業でも様々な長所があり利用が広がっています。

1. 栄養素の集積
農業で生育を促進するために活用されている肥料には、ナトリウムや鉄、またカルシウムなどの栄養素が含まれており、これらには、プラスの電荷を帯びる性質があります。ナノバブル発生装置により生成されるナノバブルは、マイナス電荷を帯びる特性があるため、栄養素を集めて効率良く農作物に与えることが可能です。

2. 植物細胞への浸透
ナノバブル発生装置により生成されるナノバブルのサイズは植物細胞よりも小さいため、植物細胞へ容易に浸透でき、このことからも肥料中の栄養素を効率よく農作物に与えることが可能です。

3. 気体の運搬
ナノバブル発生装置では、空気だけでなく酸素やオゾンなど様々な種類の気体をナノバブルにすることが可能です。農業で利用される農業用水の中にはポンプで地下からくみ上げるものがあり、その場合水中の酸素濃度が低いことが問題となっています。

ナノバブル発生装置を使用すれば、農業用水中に酸素よりなるナノバブルを生成することも可能です。酸素濃度を上げた農業用水を農作物に与え、かつ酸素がナノバブルとなっているため、植物細胞に酸素が直に届きます。病原菌対策として、殺菌や抗ウイルス性の高いオゾンを閉じ込めたナノバブルを活用している事例もあります。

参考文献
http://anzaimcs.com/main/aboutnanobubble.html
https://kyowa-ctc.co.jp/
https://www.micro-bubble-evc.com/micro-bubble/
http://www.tec-kak.co.jp/seihin/q-and-a.html
https://ecologia.100nen-kankyo.jp/column/single075.html
http://www.landbell.jp/images/pdf/nano-gijyutu.pdf

ナノインプリント装置

ナノインプリント装置とは

ナノインプリント装置とは、超微小回路パターンなどを形成するナノインプリントを行う装置です。

主に半導体の超微細回路パターンの形成などに使用されています。

ナノインプリント装置の使用用途

ナノインプリント装置は、半導体などの超微小回路パターンの形成に使用されています。ナノインプリント装置を使用すれば、微細なパターンを容易に量産できるため、これまで難しくコストがかかっていた微小回路を作成することが可能です。

半導体分野以外に、バイオテクノロジー分野やディスプレイなどの分野などでも利用されています。また、大学や研究所などの研究機関における研究や開発の目的での使用、生産の現場における条件や仕様に合わせた試作品を作るための使用も進んでいます。

ナノインプリント装置の原理

ナノインプリント装置は、ナノインプリント技術を実現する装置です。ナノインプリント装置は、ガラスや樹脂が塗布された基板および載置台、載置台に相対向して設置される超微細パターンが形成されている金型を有します。

そして、金型を基板に押し付けるプレス手段、ガラスや樹脂を硬化させる硬化手段が必須構成です。すなわち、基板上の溶融しているガラスや樹脂にプレス手段により金型を押し付け、金型の形状を転写します。

この金型の形状が転写されたガラスや樹脂を硬化手段により硬化し、基板上に超微細パターンを持つガラスまたは樹脂層を形成します。さらに、ナノインプリント装置は大型でスペースを必要とするものが一般的ですが、持ち運びができるほどコンパクトなサイズのナノインプリント装置も登場しています。

ナノインプリント装置のその他情報

1. ナノインプリント技術

ナノインプリント技術とは、極微細加工により超微小サイズのパターンを刻み込んだ金型をガラスや樹脂などに押し付けて同じ形状を転写する技術です。この技術により、超微小サイズのパターンが形成されている同一の部品を短時間で量産できます。

2. 樹脂の種類による硬化方法の違い

ナノインプリント装置の基板上の樹脂層に使用される樹脂としては、「熱可塑性樹脂」と「光硬化型樹脂」があります。「熱可塑性樹脂」とは、高温加熱することにより溶融し、冷却することで再度硬化する樹脂のことです。

一方の「光硬化型樹脂」とは光を照射することにより硬化が起こる樹脂で、UV硬化型樹脂などが代表的です。このため、ナノインプリント装置の硬化手段としては、冷却する手段と紫外線などの光を照射する手段があります。

なお、ナノインプリント装置としては、どちら一方の手段を持つものと両方の手段を持つものがあります。

3. 樹脂の供給方法

ナノインプリント装置において、ナノインプリントされる基板上の樹脂層の多くは基板上に一律に樹脂を塗布して形成したものです。この方法では、パターンを形成する場合にパターンの形状や樹脂の硬化速度によっては、パターンのエッジが甘くなるなどの問題が懸念されています。

そこで実施されているのが、基板上の樹脂の供給をインクジェットプリンターの技術を応用した方法です。すなわち、インクジェットプリンターの技術を利用して基板上のパターン形状に対応する部分にのみ、最適な量の溶融樹脂を噴出して塗布して樹脂層を形成しています。

このとき、パターンに応じた適量な樹脂量や樹脂のパターンへの流入速度、硬化速度などを考慮して溶融樹脂の最適供給量を求め装置に組み込んでいます。

4. ナノインプリント装置とリソグラフィ

半導体製造装置の中でもリソグラフィを利用した装置は、超微細パターンの形成に向いています。この装置では、基板上に一律に塗布された樹脂層上にパターンに応じて光を照射しています。つまり、光が当たった部分だけを硬化してパターンを形成し、現像して不要部分を取り除いてパターンが完成する仕組みです。

この方法の場合、光の照射は回路パターンに応じて縮小投影露光で行っています。この縮小投影露光はレンズ系により制御していますが、レンズ系の制御が困難で装置が大掛かりになるのが問題です。

しかし、ナノインプリント装置であれば、超微小回路パターンを形成した金型を樹脂層に押し当てて一気に光を照射するため、レンズ系の制御が必要ありません。非常にシンプルな操作で超微細回路パターンを有する半導体の製造が可能であり、ナノインプリント装置に対する期待が高まっています。

参考文献
https://www.mitsuiec.co.jp/nanoimprint
https://www.shinetsu.co.jp/jp/
https://xtech.nikkei.com/dm/article/WORD/20060314/114815/

ダイヤモンドペースト

ダイヤモンドペーストとは

ダイヤモンドペーストとは、宝石にならなかったダイヤモンドや、人工的に作り出した合成ダイヤモンドなどのダイヤモンド粒子を油脂に均一に分散させて混ぜ込んで作った研磨剤です。

非常に安定した研磨力を有している点が特徴として挙げられます。

ダイヤモンドペーストの使用用途

ダイヤモンドペーストは研磨剤として、様々なものに使用されています。例えば、金属及び非金属素材よりなる製品の研磨などです。金属としては、焼入れ鋼及び生材や超硬合金、ステンレスおよびジュラルミン、アルミや真鍮、硬質・軟質金属全般に対応できます。

また、非金属としては、セラミックスやフェライト、シリコンおよびゲルマニウム半導体、硝子類やプラスチック、ルビーやサファイヤ、メノー、水晶などの貴石や半貴石に対応可能です。プラスチック金型や金属などの研磨や、鏡面磨きといった最終仕上げにも使用されています。ペースト状であることから、入り組んだり曲がったりしていて作業が難しい複雑な形状の研磨などにも好適です。

ダイヤモンドペーストの原理

1. ダイヤモンドペーストの構造

ダイヤモンドペーストは、粘性のあるゲルや液体および固体に、微細なダイヤモンドの粒子を均一に練りこんだ状態となっています。このため、使用毎にダイヤモンド粒子の含有率が偏らず、一定の研磨力を保持した状態で研磨剤として使用することができます。また、ダイヤモンド粒子の粒度にも様々なものがあり、研磨対象物の材質や用途に合わせた選択が可能です。

2. ダイヤモンドペーストの特徴

ダイヤモンドペーストは、ペースト状であるため、液体状の研磨剤のように塗布後に研磨剤が流れ落ちることがありません。さらに、ペーストの状態を維持したまま使用できることから、他の研磨剤では難しい複雑な形状や曲面などの様々な箇所や形状の研磨にも対応可能です。

なお、ダイヤモンドペーストには、油性と水性の種類があります。水性のダイヤモンドペーストは、水で洗い流せるので、研磨加工後の片づけも容易で、非常に便利です。一方、油性のダイヤモンドペーストは、錆やすい部分などに使用するのに適しています。

ダイヤモンドペーストのその他情報

1. ダイヤモンドペーストの粒度

ダイヤモンドペーストの製品には、#6000などと記載されています。「#xx」は粒度を示し、粒度とは砥粒の大きさを表す指標です。数字が大きくなれば、砥粒が小さく、より精密な研磨が可能です。

仕上げによって使う粒度が異なり、例えば粒度の小さい#16などは粗仕上げ、粒度の大きい#10000などは鏡面仕上げに用いられます。特に粒度が小さいもの~#400までについては、JIS規格でふるいによって分級されています。

一方で、#400以上のものに関してはJIS規格で規定されておらず、各メーカーに任せた表記です。#400を超える領域では、粒径によってはxxμmと記載されているケースが多くみられます。この領域での粒度-粒径対比は仕様提示が明確にされていない場合があり、注意が必要です。

換算目安としては、15000/粒度=粒径となり、おおよその目安を知ることができます。ただし先述の通り、メーカー毎に表記が異なる場合があるため、あくまで参考値です。詳細が知りたい場合は、発売元に問い合わせましょう。

2. ダイヤモンドペーストの使い方

工業加工で使用する場合
工業加工において、ダイヤモンドペーストを使用する際には、希釈剤を用い、用途に合わせた濃度と硬さに薄めます。これをフェルトパッドなどの研磨布や鉄板、ガラス板などの研磨板に塗布し、研磨布や研磨板で対象物を擦ることでペーストを塗りこんで使用するのが一般的です。

この研磨作業時には、ダイヤモンドペーストのダイヤモンドにより研磨布や研磨板も摩耗が生じます。そこで、研磨布や研磨板の耐用回数を超えたら裏返して反対の面を使うか、新しい研磨板に交換する必要があります。

DIYなどで使用する場合
一方、DIYなどでダイヤモンドペーストを使う場合は、ペーストに加えて人工毛織シートを用意するのがおすすめです。人口毛織シートは、他のシートと比較して、繊維が均一なので鏡面仕上げに適しているためです。適量を毛織シートに塗布し、ヘアライン仕上げかサークル仕上げを行います。このとき、ダイヤモンドペーストの量が多くても少なくても研磨できません。

ヘアライン仕上げは直線的な磨きスジが出ることが多いので、サークル仕上げをおすすめします。サークル仕上げは一定の範囲内で、毛織シートをくるくると回転させながら試料を磨く方法です。ムラなく均一に磨くことが可能です。

ダイヤモンドペーストを拭き取るようにひたすら磨き続けると光沢感が増してきます。研磨中に洗浄剤などで拭き取らないようにすることがポイントです。ダイヤモンドペーストを利用することで、古くさびついた金属でも新品同様に鏡面仕上げ可能な場合があります。

参考文献
http://www.resiton.co.jp/publics/index/357/
https://www.monotaro.com/s/pages/cocomite/493/
https://jp.misumi-ec.com/vona2/detail/223000427448/

ダイヤモンドブレード

ダイヤモンドブレードとは

ダイヤモンドブレード

ダイヤモンドブレードとは、刃の部分にダイヤモンドの粒子を使用した硬度の高い切削工具のことです。

硬度が高く加工が難しい切削対象物を効率よく切断できます。エンジンカッターや電源工具に取り付けて使用されるダイヤモンドブレードは、優れた摩耗に対する耐性や強度を持っています。ダイヤモンドブレードの特性から、幅広い用途で活用されており、乾式や湿式の種類や溝加工の有無などを選択することが可能です。

湿式と乾式のどちらも使用できる場合は、湿式の方が優れています。湿式のダイヤモンドブレードは、冷却液を使用して切削中にブレードを冷却しながら作業を行うことが可能であるためです。高温にならず、ダイヤモンドブレードの性能をより高めることができます。

ダイヤモンドブレードの使用用途

ダイヤモンドブレードの主な使用用途は、硬度の高い削材を切断することです。具体的には、アスファルトやコンクリートで舗装された道路、橋の支柱部分、建造物などの建築物の加工に使用されています。

また、ダイヤモンドブレードはグルービング工事にも有用です。グルービング工事とは、道路に溝を加工することで、スリップ防止や安全性を向上させる工事です。グルービング工事は、自動車用の一般道路や高速道路、トンネルだけでなく、空港の滑走路にも適用されています。そのため、車や飛行機の安全性を高める効果が期待されています。

ダイヤモンドブレードの原理

ダイヤモンドブレードは、その構造と独自の技術によって高い強度と耐久性を実現しています。ダイヤモンドブレードは、基盤と呼ばれる鉄などの素材でできた本体部分と、チップと呼ばれる刃で切断を行う部分から構成されています。チップには、ダイヤモンドの粒子が均等に付加されているため、切削が可能です。

ダイヤモンドブレードの製造工程では、まずチップを基盤に取り付け、その後チップの表面を磨いて内部にあるダイヤモンド粒子を露出させる仕上げ作業が行われます。製品によっては、さまざまな技術が駆使されています。

例えば、表面の溝にダイヤモンド砥粒を圧入させたり、特殊な充填剤で結合させたり、メッキ技術を応用して表面に付着させたりするなど、砥粒の保持力を高める工夫が施されています。

ダイヤモンドブレードの種類

ダイヤモンドブレードは、その優れた切削性能と耐久性から多くの業界で利用されていますが、用途や対象材料によってさまざまな種類が存在します。作業内容や対象材料に応じて適切な種類を選択することが重要です。

1. 乾式ダイヤモンドブレード

乾式ダイヤモンドブレードは、水なしで使用されるタイプのブレードです。主に屋内での作業や、水を使うことが難しい環境での切断作業に適しています。ただし、切削時に発生する熱がブレードの寿命を縮めることがあるため、定期的な休憩が必要です。

2. 湿式ダイヤモンドブレード

湿式ダイヤモンドブレードは、水を使って切削を行うタイプのブレードで、切断時にブレードを冷却するため、熱による摩耗が抑えられ、長寿命化が図られます。また、切削粉塵の発生も抑制されるので、環境負荷が低減されます。主に屋外での作業や、大規模な切断作業に使用されます。

3. セグメントタイプ

セグメントタイプのダイヤモンドブレードは、刃部分が独立したセグメントに分かれていることが特徴です。熱の発散が良く、乾式での使用に適しています。また、セグメント間の隙間が切削粉を排出しやすくするため、切削性能が向上します。

4. 連続リムタイプ

連続リムタイプのダイヤモンドブレードは、刃部分が連続していることが特徴で、切断面が滑らかに仕上がります。一般的に湿式で使用され、タイルや石材などのデリケートな材料の切断に適しています。

参考文献
https://www.noritake.co.jp/products/abrasive/middles/detail/56/
http://blog.momocan.shop/?eid=19

タングステン電極

タングステン電極とは

タングステン電極とは、溶接の際に用いる電極です。

タングステンが材料であり、円筒型に加工されています。径は1.0~4.0mm程度、長さは150mm程度で販売されています。

タングステン電極の使用用途

タングステン電極は溶接の際に使用します。そのため、工事現場や加工工場などが主な使用場所です。具体的な使用用途は以下の通りです。

  • ボイラーの補修用
  • バイクや自動車のメンテナンス・改造
  • 造船所における船舶製造
  • 化学プラントにおける配管修理用

基本的には、金属母材の溶接に使用します。製造業の中でも重工業において多く用いられる部材です。

タングステン電極の原理

タングステン電極は、タングステンが材料の棒材です。タングステンとは原子番号が74の金属で、元素記号はWと表記します。金属の中では比較的抵抗が高く、融点が高いことが特徴です。

タングステン電極は、融点が高い特徴を利用してTIG溶接用の電極として使用されます。TIG溶接は「Tungsten Inert Gas 溶接」の略で、タングステン電極と不活性ガスを利用した溶接です。溶接する母材とタングステン電極の間に高電圧を印可し、アーク放電を発生させます。

発生させたアーク放電の熱によって母材を溶かして溶接します。その際にアルゴンヘリウムなどの不活性ガスを吹き付けることで金属の酸化や劣化を防止します。タングステン電極の融点が高いために母材に混ざることなく、溶接が可能です。タングステン電極の先端は使用時に円錐型に加工されます。この削り角度によってアーク放電の形状を変えること可能です。

タングステン電極の先端を鋭角にすると、アークが全体に広がって範囲が広くなります。母材の広い面積を浅く溶かすことが可能です。鈍角にすると、アークが先端部分の一点に集まります。母材の一点を深く溶かすことが可能です。

タングステン電極の種類

JIS規格で定められているタングステン電極は4つの規格が存在します。酸化トリウム入り、酸化セリウム入り、酸化ランタナ入り、純タングステン電極の4種類です。それぞれ特徴が異なるため、用途に応じて適したものを使い分けることが重要です。

1. 酸化トリウム入りタングステン電極

酸化トリウムを1~2%含有するタングステン電極です。摩耗に対する強度とスタート性が純タングステン電極よりも優れているのが特徴です。ただし、交流電流で使用する際に電極の先端が変形しやすく、溶接時に溶け出して飛び散る場合があります。そのため、直流電流で溶接する用途に適しています。

2. 酸化セリウム入りタングステン電極

酸化セリウムを1~2%含有するタングステン電極です。交流電流でも先端部分が溶けて飛び散ることがないため、酸化トリウム入りよりもさらに摩耗に対する耐性やスタート性が高い電極です。アルミやアルミ合金の交流溶接に適しています。

3. 酸化ランタナ入りタングステン電極

酸化ランタナを1~2%含有するタングステン電極です。4種の中で最も摩耗に対する耐性とスタート性が高い電極で、アーク安定性を保持しながら長時間連続的に使用可能です。自動溶接に適しており、ロボット溶接などの用途で用いられます。

4. 純タングステン電極

純粋なタングステンのみで構成されたタングステン電極です。4種の中で最も摩耗に対する耐性やスタート性が弱い電極です。先端が摩耗するのが早い反面、一度丸くなった後はそれ以上変形しないので溶接時の飛び散りが起きにくい特徴があります。そのため、電極の消耗が大きい交流溶接の用途に使用されます。

タングステン電極のその他情報

タングステン電極の識別色

タングステン電極は先述した種類ごとに識別色が定められています。識別色とは、販売時に分かりやすいように棒端部を塗装する色です。JISなどの規格で定められています。以下はJISで定められた各電極の識別色です。

黄色 1%トリウム入タングステン電極
赤色 2%トリウム入タングステン電極
桃色 1%セリウム入タングステン電極
灰色 2%セリウム入タングステン電極
黒色 1%ランタナ入タングステン電極
黄緑色 2%ランタナ入タングステン電極
緑色 純タングステン電極

参考文献
https://www.lamerco.com/product/r_parts/tungsten_spec.php
http://www.tohokinzoku.co.jp/business/electrode.html
https://www.weldtool.jp/article/yousetsu-sozai/3200
https://www.rakuten.ne.jp/gold/kougunomikawaya/tungsten.html

スプレー塗布装置

スプレー塗布装置とは

スプレー塗布装置

スプレー塗布装置 (英: spray coating equipment) とは、対象物に液体を噴霧し塗布する装置です。

対象物を装置にセットすると、スプレーノズルが一定の速度で動き、均一に液体を噴射します。大きさや用いる液体によって様々な用途があり、使用分野は幅広いです。

スプレー塗布の方式には、静電気・空気・超音波などの種類があります。先端のノズル形状を変えることで、噴霧する粒子の大きさを変えられるため、用途に合わせてノズル形状を選択します。

スプレー塗布装置の使用用途

スプレー塗布装置は、半導体などの工業製品、服飾製品、食料品など様々な用途に使用されます。具体的には、半導体のフォトレジスト塗布、タッチパネルの透明伝導膜、太陽電池などのコーティング、電子部品の絶縁膜・導電膜、反射防止・撥水・撥油のコーティング、潤滑油・防錆剤・離型剤・接着剤の塗布などです。

また、服飾では生地に前処理剤を塗布する際などに使われます。生地表面に均一に前処理剤を吹きかけることでインクがにじまず、密着度の高いプリントが可能です。

さらに、食料品のコーティング・添加・着色・洗浄・除菌などの用途もあります。

スプレー塗布装置の原理

液体を霧状にして、ノズルから噴霧することで塗布します。噴霧する原理は方式によって異なります。

1. 静電気方式

ノズルの内部の液体に、数千ボルトの電圧をかけることで帯電させ、静電気の帯電による反発力を利用することにより、液体を霧状にします。

表面に凹凸があっても均一な塗布が可能であり、液体の使用効率が他の塗布方式に比べ非常に高いのが特徴です。

2. 空気方式

圧縮した空気によって、ノズルの内部の液体に高圧圧力を加えます。そして、液体を速い速度で静止空気にぶつけ、この時に生ずる空気抵抗を利用して液体を霧状に分裂させます。

3. 超音波方式

ノズルの先端部に霧化面があるチップが付いています。チップの超音波による振動で、液体が均一にノズル表面に広がります。液体は超音波出力が表面張力を超えると霧状になって噴霧されます。無駄な飛び散りがないため、液剤のロスが少ないのが利点です。

スプレー塗布装置の特徴

1. 膜厚が均一

スプレー塗布は、微細な液粒子を吹き付けるので、膜厚が均一になります。膜厚は数百nm~数百µmの間で、制御が可能です。塗布装置の設定で容易に変更できます。

また、膜にせずに、ミストの液滴を基板などに点在させることも可能です。

2. 微粒子コーティングが可能

スプレー塗布装置は、金属・カーボン・硝子・蛍光体などの様々な微粒子の液体に対応できます。液体の粘度は、数cP~数千cPの間で幅広い対応が可能です。

3. 凹凸基材へのコーティングが可能

スプレー塗布装置は、対象面が凹凸になっていても、膜厚が一定に保たれます。凹凸がある基材の側面や角部なども3次元塗布により、均一に成膜が可能です。

4. 液剤コストが抑えられる

スプレー塗布は、ミストの飛散を最小限に抑えるので、液剤コストが低減できます。また、基材にソフトに液滴が付着する特性があり、薬剤の跳ね返りがないのも影響します。

5. 作業環境がクリーンである

液滴は対象物に向かって飛び、跳ね返りもないメリットがあります。したがって、空気中に飛散する量はほとんどなく、作業者や環境に優しいことが利点です。

スプレー塗布装置の選び方

1. ノズルヘッドの移動速度

スプレー塗布装置は、ノズルヘッドの移動速度が速い方が、薄い膜の塗布が可能です。ノズルヘッドの移動を高速にするには、ノズルヘッドのガイドの強度を上げ、装置の剛性を上げる必要があります。

また、塗布装置の重心を下げて、振動を小さくします。さらに、ノズルヘッドの移動を速くするほど、塗布量を少なくできるので、膜厚の均一性が向上し、生産効率が良くなります。

一方、スプレーする液体の圧力を上げて、膜厚のばらつきを小さくすることも必要です。望ましい条件として、液圧ポンプがノズルの近くにあることが挙げられます。

2. 塗布液の圧力

塗布液の圧力を高くした方が、塗布粒径を制御しやすくなります。幅広く粒径を設定できるようになります。

3. ノズルヘッドの形状・寸法

塗布ノズルの形状や寸法の選定も重要です。例えば、ノズル出口を楕円形にすると、スプレー放射角が調整できます。また、塗布液の粘度により、ノズル出口の形状・サイズを選定します。

参考文献
https://www.daitron.co.jp/products/coater_bake.html
https://www.keyence.co.jp/ss/products/measure/sealing/coater-type/spray.jsp
https://www.spray.co.jp/automated_systems/jp_spray_machines.aspx
https://www.nagase-nte.co.jp/product/mm/mm-strength.html
https://sanryucom.wordpress.com/
https://www.incom.co.jp/products/detail.php?company_id=5581&product_id=12909

スプラインマイクロメーター

スプラインマイクロメーターとは

スプラインマイクロメーターとは、外径の精密測定に使うマイクロメーターの種類の一つで、主に溝の幅や軸の外側に動力伝達用の歯車がついた「スプラインシャフト」の溝径測定に使用する特殊マイクロメーターです。

通常のマイクロメーターよりも測定面が細くなっており、この細い測定面に溝がくるように設計されていて、太くなっている溝の外側に干渉しないようになっています。似たような形状で「ポイントマイクロメーター」もあり、測定面が鋭角な三角形になっているのが特徴です。

スプラインマイクロメーターの使用用途

スプラインシャフトの溝測定の他、色々な溝を測るときに使用します。測定するときは、通常のマイクロメーターと同じ要領で、ラチェットストップを使い、定圧で測定するようにします。

前述したポイントマイクロメーターと用途も似ていますが、こちらは測定面が尖っていて、ピンポイントで測定することができますので、主にドリル先端部の「ウェブ厚さ」を測定するときに使用します。いずれも測定するときは、先が細い故、取り扱いに注意します。

スプラインマイクロメーターの原理

前述した特殊マイクロメーターの他にも、特殊マイクロメーターの種類は豊富です。測定子が薄い刃物のような形をした「ブレードマイクロメーター」やねじの有効径を測る「ねじマイクロメーター」、測定子の片方はアルファベットの「V」のような形状をしていて、もう一方が尖った形状をしている「V溝マイクロメーター」などがあり、いずれも特殊な用途に対応できます。

ブレードマイクロは、他の種類では測れないような極細の溝幅を測定することができますが、測定子は薄く、折れやすいので注意が必要です。

ねじマイクロは、ねじの仕様を決める有効径の測定に使い、ねじの山に合わせた形状をしています。測定子を交換することができるものもあり、並目から細目のねじまで対応します。

V溝マイクロは、3枚や5枚といった奇数溝になっていて通常の外径測定器では挟めなくて測定が困難なリーマやタップを測るときに使います。

しかし、共通しているデメリットとして、使う場面が限られてしまうため、全て揃えるのはかなりのコストがかかってしまうことです。

ステンレス鋼線

ステンレス鋼線とはステンレス鋼線

ステンレス鋼線とは、ステンレス鋼を使用した針金状の線材のことです。

他の金属や合金よりも錆に強いという特徴を持っています。ステンレス鋼線の主材料であるステンレス鋼は、耐食性の他に、さらに高い強度や耐熱性などの性質を持ち、加工性にも優れています。このため、使用されている分野は非常に多岐にわたっており、用途は様々です。

ステンレス鋼の種類によっては、熱処理や焼きなましといった処理を加えることで、用途に合わせた仕様に変化させることができます。

ステンレス鋼線の使用用途

ステンレス鋼線が使用される分野は非常に広く、耐食性・耐熱性・強度・衛生面などの様々な特徴を活かした用途に用いられています。業界分野では、自動車産業・食品産業・建築産業・エネルギー産業・電子部品・医療業界などで使用されています。

具体的には、耐食性や耐熱性を活かして自動車やスマートフォンなどの部品です。また、衛生的で高強度である特徴から医療機器や手術道具の部品などに、さらに衛生的で耐熱性が強いという特徴を活かして、焼肉用の金網などに使われます。

ステンレス鋼線の原理

ステンレス鋼線は、ステンレス鋼の性質を損なわず、特性を活かして線材に加工するため、高い耐食性や強度などの特徴を有した鋼線です。ステンレス鋼は、主成分である鉄に10.5%以上のクロムニッケルモリブデンチタン等を添加した合金です。

クロムが酸素と結合して、鋼の表面に薄い保護皮膜を生成します。この皮膜に覆われているために、ステンレス鋼は耐食性があります。不動態皮膜と呼ばれるこの皮膜は、100万分の3mm程度のごく薄いが、大変強靭で一度こわれても、周囲に酸素があれば自動的に再生する機能があります。そして、腐食から内部を保護します。

錆除去や皮膜付加などの表面処理を施した後で、コンピューターで制御しながらステンレスを線状に引き伸ばして規定仕様の鋼線を製造します。

ステンレス鋼線のその他情報

1. ステンレス鋼線の規格

ステンレス鋼線に関する規格の一例は、日本産業規格の「JIS G4309 (2013):ステンレス鋼線」があります。この規格は、ステンレス鋼線の材料や10%程度のクロムを含有する耐熱鋼線の材料で製造したものについて規定されたものです。

鋼線の種類を組成・製造方法・特性などから35種類に分類しており、SUS201のようにアルファベット部分と数字部分を組み合わせた記号を採用して表記します。35種類に分類された鋼線は、鋼線の組成によってオーステナイト系・フェライト系・マルテンサイト系の3種類に大別されます。

オーステナイト系は約18wt%のクロームと約8wt%のニッケルを含有した鋼線です。フェライト系とマルテンサイト系はそれぞれ約17wt%、約13wt%のクロームを含有した鋼線です。これらの組成比は、鋼線の種類によって多少変化します。

また、鋼線の調質の有無により軟質1号・軟質2号などの区別もあります。調質とは、鋼線に熱処理や伸線加工処理を行うことを指します。軟質1号は、鋼線を伸線加工した後、固溶化のための熱処理を行ったものが対象です。軟質2号については、オーステナイト系は固溶化のための熱処理をした後に、フェライト系とマルテンサイト系は焼なましをした後に、伸線加工を行ったものが対象です。

2. ステンレス鋼線と硬鋼線とピアノ線の違い

ステンレス鋼線とよく似た線素材として、硬鋼線ピアノ線があります。硬鋼線とピアノ線の大きな違いは品質の差です。2つの線はどちらも鋼から作られますが、ピアノ線は、リン・硫黄・などの不純物の含有量が硬鋼線よりも少なく規定されています。

また、ピアノ線には腐食試験でのきず深さや、脱炭検出試験での全炭層深さに関する規定が定められています。ピアノ線は引張強さや線径などの物理的性質についても非常に厳密です。ピアノ線の方が硬鋼線よりも求められる品質レベルが高いので、価格もそれに応じて高くなります。

一方で、ステンレス鋼線は、ピアノ線・鋼線と異なり、クロムやニッケルの組成比に関する規定があります。ピアノ線・鋼線は錆びますが、ステンレス鋼線は耐食性や耐熱性などが優れています。

参考文献
http://www.shinsei-kogyo.co.jp/lineup/stainless.html
https://ns-sw.co.jp/publics/index/38/
https://www.ss-stainless.co.jp/stainless/index.html
https://kikakurui.com/g4/G4309-2013-01.html
https://kikakurui.com/g3/G3502-2013-01.html
https://www.nipponsteel.com/company/publications/monthly-nsc/pdf/2005_12_154_13_16.pdf
http://www.jsse-web.jp/kandokoro/kan2.pdf
https://www.fusehatsu.co.jp/technology/piano-kokosen/seibunhikaku.html