スーパーエンプラ

スーパーエンプラとは

スーパーエンプラとは、スーパーエンジニアリングプラスチックの略称で、エンジニアリングプラスチック (エンプラ) の中でも特に優れた耐熱性を持つプラスチックです。

一般的なプラスチックは熱に弱いため、高温環境下での使用や、摩擦熱が発生するような部分の部品には向いていません。また、紫外線で劣化しやすく、屋外での使用にも制限があります。

エンプラ・スーパーエンプラは、こうしたプラスチックの欠点を克服した新しい素材です。

スーパーエンプラの使用用途

スーパーエンプラは、耐熱性、機械物性、耐久性が高く、大量生産が可能であるため、金属部品の代替として期待されています。ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィドやポリアミドイミドなどの機械的強度と耐熱性の高いスーパーエンプラは、自動車のエンジンまわりの部品や電装部分、バルブやポンプなど、これまでは金属でしか実現できなかったような部品の置き換えが可能となっています。

他にも産業機器のギアや軸受部分、高い信頼性が要求される航空機の部品や医療用機器の部品、高い電気絶縁性や耐熱性が要求される電気電子分野においても、スーパーエンプラが採用されることが増えてきています。

スーパーエンプラの特徴

スーパーエンプラの明確な定義は定められていませんが、一般的に150℃以上の高温でも長時間使用可能、機械的強度が極めて強いことが特徴として挙げられます。また、フッ素樹脂などのような機械物性はそこまで高くなくても、耐熱性、耐寒性、耐薬品性が非常に高いものもスーパーエンプラに分類されています。

耐熱性、機械強度が高いという点においては、成形時の加熱により三次元架橋することで硬化する熱硬化性樹脂も該当しますが、熱可塑性樹脂であることがエンプラ、スーパーエンプラであることの条件です。熱可塑性プラスチックは、可逆的に融解・凝固することができるため、成形加工やリサイクルに対する柔軟性が高いことも特徴です。

プラスチックは、高分子鎖の集合によって形成されていますが、エンプラ及びスーパーエンプラは、一本の分子鎖が長く、構成する分子が強い分子間力を持っています。そのため、結晶性が高く、高い強度、耐熱性を持っています。また、エンプラやスーパーエンプラは、ガラス繊維や炭素繊維を添加することで、さらに機械的強度や化学的安定性を高めることが可能です。

スーパーエンプラの種類

スーパーエンプラ にはいくつか種類があり、それぞれ特徴が異なります。

1. ポリエーテルエーテルケトン (PEEK)

連続使用温度250℃で、高温でも高い機械強度を維持します。耐薬品性、耐熱水性、耐摩耗性も優れます。

2. ポリフェニレンスルフィド (PPS)

連続使用温度200~240℃で、高温でも高い機械強度を維持します。耐薬品性、寸法安定性に優れ、分子内に芳香環を持つため、難燃性 (自己消火性) があります。ガラス繊維や炭素繊維を充填した強化グレードもあります。

3. ポリテトラフルオロエチレン (PTFE)

デュポン社のテフロンという登録商標が良く知られるフッ素系樹脂です。最高クラスの耐薬品性、潤滑性、電気絶縁性を持ちますが、機械的強度は他のスーパーエンプラと比べて劣ります。

4. ポリイミド (PI)

イミド結合をもつ樹脂の略称ですが、スーパーエンプラの場合は、分子内に芳香族をもつ芳香族ポリイミドのことを指します。連続使用温度260~300℃という最高クラスの耐熱性を持ちます。絶縁性も高いため電子部品関係で広く用いられています。

5. ポリアミドイミド (PAI)

連続使用温度260℃でポリイミドに次ぐ耐熱性があり、機械強度、耐薬品性、電気絶縁性に優れます。

6. ポリエーテルサルフォン (PES)

連続使用温度170℃で琥珀色の透明な樹脂で耐衝撃性に優れます。耐薬品、耐加水分解性も高く、分子の大部分が芳香環なので難燃性 (自己消火性) にも優れます。

参考文献
http://enpla.jp/enpla/index.html
https://www.teika-precision.co.jp/knowledge/detail.html?id=91

モーションコントローラ

モーションコントローラとは

モーションコントローラとは、サーボモーターなどで駆動する機器の動きをコントロールする装置です。

ユーザーは実現したいモーションをあらかじめプログラミングしておき、これをモーションコントローラに実行させることで機器の動きを制御します。

モーションコントローラの使用用途

モーションコントローラーは、サーボモーターやリニアモーターで駆動する装置の制御用として使用されます。したがって、産業用ロボットや工作用産業機械などへ適用されます。具体的な使用用途は、以下の通りです。

  • 協働ロボット制御用
  • 一般消耗品の包装機制御用
  • 業務用印刷機制御用
  • 高速プレス機制御用
  • 自動組み立てロボットの制御用

モーションコントローラの原理

モーションコントローラは出力方式によって原理が異なります。代表的な出力方式は、以下の通りです。

1. 共通パルス方式

共通パルス方式とは、回転方向信号とパルス運転指令の2つでモータを制御する方式です。回転方向信号によって回転方向の正逆を制御し、パルス運転信号でモータを運転します。

2. 2方向パルス方式

2方向パルス方式とは、正転パルス運転指令と逆転パルス運転指令に2つでモータを制御する方式です。正転パルス運転指令によって正転し、逆転パルス運転指令によって逆転します。

3. 位相差入力方式

位相差入力方式とは、パルス信号2つの位相差から回転方向を決定する方式です。基準となるパルス信号が90°進んだときに正転、90°遅れたときに逆転させます。

モーションコントローラの選び方

モーションコントローラを選定する際は、補間制御が重要です。補間制御とは、複数軸間の同期制御方法のことです。モーションコントローラには、直接補間と円弧補間の2つがあります。

1. 直線補間

直線補間とは、2台のモーターを同時に制御して目的の位置へ直線的に移動させる制御です。横方向に移動させた後に縦方向へ移動させるよりも、斜め方向へ直線移動するようにCPUが演算して制御を行います。直線補間を利用することで斜め方向への直線移動が可能となるため、位置決めするために必要な時間を短縮可能です。

2. 円弧補間

円弧補間とは、2台のモーターを同時制御する際、CPUが円弧を描くように演算して移動する制御です。移動経路が直線的ではないため、直線補間よりも目標位置までの時間かかります。ただし、円弧補間を利用することでルート上の障害物を避けて移動することが可能です。

モーションコントローラのその他情報

1. モーションコントローラとPLCの特徴

モーションコントローラは、ユーザーがカスタムしたプログラムで機器の自動制御を行うという点ではPLCと似ています。モーションコントローラの特徴は、サーボシステムの制御に適している点です。

モーション制御には、PLCではなくモーションコントローラが利用されていることが多いです。モーションコントローラのメリットとして、多軸の制御や同期など、トータルの軸数が多い場合の制御に向いていることが挙げられます。

PLCでは一台で制御できる軸数には限りがありますが、モーションコントローラはそれを遥かに上回る軸数の制御が可能です。このため、モーションコントローラは、精密で多軸制御が必要な産業用工作機械やロボットに利用されています。

2. モーションコントローラとPLCのプログラム処理

PLCとモーションコントローラの原理は、CPUにおける処理の方式に違いがあります。PLCは、実行の度にプログラムを全行読み込み、全行を一度に実行するマルチタスク制御です。そのため、プログラムを全行読み込む時間が律速となり、複雑な制御を行うための演算時間が十分に確保できないのが特徴です。

一方で、モーションコントローラはPLCと異なり、プログラムの読み取りと実行が一行ずつ行われるのが特徴です。そのため、PLCと比較して1タスクにかかる演算処理が短く、高速処理が可能です。

また、モーションコントローラはプログラムの容量が増えても一行の処理時間には影響ません。したがって、サーボモーターなどの複雑なシステムではモーションコントローラの方が高速に処理することが可能です。

参考文献
https://www.optoscience.com/maker/zi/principle-lock_in_amplifier/
http://www.g-munu.t.u-tokyo.ac.jp/mio/note/sig_mes/sig_mes.pdf
https://www.topic.ad.jp/sice/htdocs/papers/260/260-10.pdf
https://www.orientalmotor.co.jp/tech/qa/detail/0225/
https://www.contec.com/jp/support/basic-knowledge/daq-control/motion-control/
http://fa-faq.mitsubishielectric.co.jp/faq/show/11959
https://www.tohan-denshi.co.jp/column/1619/

GPSチップ

GPSチップとは

GPSチップとは、GPS衛星からの信号を受信するGPSアンテナを接続又は内蔵して現在位置を算出するための回路が組み込まれたチップです。

GPSは全地球測位システム (英: Global Positioning System) の略で、アメリカ国防省が運用する測位衛星と通信して地球上の位置を特定しています。GPSを用いた位置情報の測定は日常生活でも欠かせない技術になっており、GPSチップは高精度化や小型化などの高性能化に向けた開発が積極的に行われています。

現在はGPS衛星だけでなく、ロシアのGLONASS、EUのGalileo、中国の「北斗」の4つの衛星システムを指すGNSS (英: Global Navigation Satelite SYstem) に加えて、インドのGAGANや日本の「みちびき」等の信号にも対応したものが一般的となっています。

GPSチップの使用用途

GPSは誘導ミサイルなどの軍事用として開発されましたが、民生向けの開放により船舶や航空機の航法支援に用いられるようになりました。

GPSチップが開発され小型化されたことで、現在はカーナビ、スマートフォンやタブレット等の携帯端末に使用されています。これによって地図アプリで現在位置や目的地へのナビゲーションを実現しています。

また、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスにもGPSロガーとして搭載されており、移動距離や歩数、移動履歴などを確認することができます。これらの他、宇宙ビジネスへの応用に向けた開発等も進められています。

GPSチップの原理

GPS衛星には原子や分子のスペクトル線が持つ周波数に基づいた非常に精密な時計 (原子時計) が内蔵されています。GPS衛星から発せられる信号は、この正確な時刻と衛星の位置情報が主に発信されています。

GPSからのGPSチップまでの信号の到達時間に光速を掛けるとGPS衛星からの距離が算出できます。すなわち、その時の距離を半径とした球面上のどこにGPSチップが有るのかがわかります。

これを複数の衛星で行い、全ての衛星からの球面が交差する点が現在地として特定されます。最低3つの衛星から情報を受信できれば位置を同定することができますが、受信した衛星の数が多いほどその精度は向上します。

衛星側は原子時計を搭載しているので非常に正確な時刻を発信することができますが、受信側のGPSチップには原子時計は搭載されていません。受信側では一般的なクオーツ時計が搭載されていますが原子時計ほどの精度が出せないため、最低でも4つ以上の衛星から受信して、x、y、z、tの4つを変数とすることで時刻の補正を行う必要があります。

GPSチップのその他情報

1. GPSチップの高精度化

光は1秒間に約30万km (3億m) を進むため、1,000万分の1秒の誤差でも30mの誤差となります。このような時間情報による誤差以外に、衛星の位置情報による誤差、電離層や大気中の水分の影響による誤差、建物や山の反射による誤差、受信できる衛星の数が少ないことによる誤差等がありますが、様々な方式で修正することで数m以内の誤差となっています。

近年はGNSSを用いることで誤差数10cmを実現し、日本版GPSの「みちびき」では天頂近くにあって受信可能な衛星数が増えるため、これをサポートするチップであれば数cmの誤差が可能となり、トラクタや田植え機などの自動運転に用いることが可能です。

2. GPSチップの小型化で搭載が実現したもの

GPSチップ小型化により、以下のものに搭載されるようになりました。

  1. GPSトラッカー
    コイン程の大きさで様々なものに取り付けて位置情報を発信できる汎用タイプのGPSチップ搭載デバイスで、子供やお年寄り、障害者の方の衣服に取り付けて見守りに用いたり、犬の首輪や荷物等に取り付け対象の位置を確認するために使用します。2.7cmx2.7cmで16gという小型・軽量で3,000円程度で購入することが可能です。
  2. ドローン
    GPSモジュールが小型で安価になったことから、GPS搭載のドローンも普及してきました。特に市販価格が大幅に下がってユーザーが購入しやすくなっています。4K高角HDカメラを装備するようなモデルでも大手通販サイトで1万円台前半で購入できるようになりました。

参考文献
http://www.ne.jp/asahi/nature/kuro/HGPS/principle_gps.htm
https://wirelesswire.jp/2011/02/35184/
https://www.amazon.co.jp/
https://c-smart.jp/item/detail/1_1_APWs6-C-ST-SB_1/SV001

トルクモーター

トルクモーターとは

トルクモーター

トルクモーター (英: torque motor) とは、大きな起動トルクを有し、回転速度の増加に伴ってトルクが減少するモーターです。

広い速度域で安定した運転ができる特性を有しています。トルクモーターは、特に低速で高いトルクを実現できるため、ローラーなどの巻取り装置への使用に適したモーターです。

巻取りを行う際、はじめは低トルク・高速回転が必要ですが、巻取りが進むにつれて径が大きくなるので、最終的に高トルク・低速回転が必要になります。負荷側の回転数-トルクの特性曲線と、トルクモーターの特性曲線が似ているため、トルクモーターは巻取りに適したモーターであると言えます。

トルクモーターの使用用途

トルクモーターのは、一定の速度で何かを巻き取るための装置に組み込まれる場合が多いです。例として、布や紙・ゴムなどのシート状のものや、金属線やケーブル・糸などの線状のものを巻き取るときなどが挙げられます。

また、ロール用としての用途は、送りロール、各種ロールのロス補償用 、小形クレーン、ベルトコンベアー駆動用などです。さらに、バルブやねじの締め・緩めやドアの開閉などにも起動トルクが必要なため、トルクモーターの使用が適しています。

トルクモーターの原理

他のモーターの回転数-トルク特性曲線は、特定の回転数でピークを迎えるような山なりになっているのに対し、トルクモーターは、右肩下がりのなだらかな曲線になっています。この特性が垂下特性です。

トルクモーターは、モーターと負荷のバランスを保つように、回転数が増加するとともに、トルクは減少するという性質を持っています。トルクモーターへの印加電圧を増加させると、電圧の二乗に比例して垂下特性の曲線は、より右肩下がりの傾きを持った曲線にシフトします。したがって、電圧調整器と組み合わせて使えば、アプリケーションに応じて垂下特性のチューニングが可能です。

また、負荷トルクが一定の場合は、印加電圧を調整すれば回転速度を変化させることもできます。角速度が一定の回転運動にかかるトルクを静トルクと言い、トルクモーターは、静トルクが必要な巻取り動作などに適しています。また、始動トルクが大きいため始動電流も小さくて済むため、頻繁に始動・停止を行う動作にも適したモーターです。

トルクモーターのその他情報

トルクモーターのブレーキとしての使い方

巻き取り機構のテンションを一定に保つために、巻き取り側だけでなく、巻き出し側にもトルクモーターを使用することにより、細かい調整が可能です。この場合、トルクモーターの特徴であるブレーキ特性が利用できます。ブレーキ特性は、以下の2つがあります。

1. 逆相ブレーキ
交流電圧印加による回転磁界の方向とは、反対方向に回転させた時のトルク特性をブレーキに利用します。逆相ブレーキ特性を利用した使い方は、トルクモーター起動時のトルクよりも大きいトルクで、反対方向に回転させたときのトルクを利用する方法です。

トルクモーターは、一定のブレーキ力を発生しながら回転磁力とは反対方向に回転します。回転数が0からブレーキ力が発生するため、張力を停止時も必要な場合などに適したモーターです。

2. うず電流ブレーキ
直流電圧印加による磁界によって、停止状態のモーターを回転させた時のトルク特性をブレーキに利用します。うず電流ブレーキの使い方は、正方向・逆方向どちらの方向に回転しても、同様のブレーキ力が得られる現象を利用する方法です。

回転数が0の時は、ブレーキ力は0ですが、回転数の増加ともにブレーキ力は増加し、高速領域で安定します。この特性を利用するのは、高速回転時に安定した張力を必要とする場合や正転逆転で張力が必要な場合などです。

参考文献
https://www.khanacademy.org/
https://www.etel.ch/torque-motors/principle/
https://www.orientalmotor.co.jp/tech/reference/sizing_motor09/
https://www.orientalmotor.co.jp/tech/qa/detail/0071/

ロックインアンプ

ロックインアンプとは

ロックインアンプとは、入力された信号から特定の周波数を持った成分の信号を取り出すことが可能な回路を有する装置です。

ロックインアンプは、基準となる参照信号と入力信号を装置内でミキサーにより掛け合わせることでノイズを除去し、ローパスフィルターにより、所望の特定周波数の信号を取り出します。時定数と呼ばれる装置固有の値が設定されており、時定数が大きいほど出力信号の揺らぎを小さくすることが可能です。

ロックインアンプの使用用途

ロックインアンプは、特に分光測定などの光学分野でよく使用されています。顕微鏡と組み合わせて使用することもあります。ロックンアンプの具体的な使用用途は、天体観測のような宇宙物理学の測定、ナノメーターオーダーの薄膜の分光測定など、微弱な信号を検出する実験です。

厚みが数百ナノメーター以下の薄膜など、試料由来の信号が弱い測定ではロックインアンプのような信号の増幅、ノイズ除去を行う装置が必須となります。その他、蛍光顕微鏡やラマン分光顕微鏡や、原子間力顕微鏡などのプローブ顕微鏡で用いられることも多いです。

ロックインアンプの原理

ロックインアンプの動作原理は、入力信号をプリアンプで増幅した後に、基準となる参照信号とミキサーで掛け合わせ、ローパスフィルターで余分なノイズ成分を取り除くことで、入力信号から所望の特定周波数の信号を検出する回路的な信号処理です。

ロックインアンプ内では、入力信号と参照信号を掛け合わされ、入力信号と参照信号の周波数の和、差で表された出力が生成されます。入力信号をVi=Acos(ωit+Φ)、参照信号をVr=Bcosωrtとすると、出力の周波数は{cos[(ωi-ωr)t+Φ]+cos[(ωi+ωr)t+Φ]}に比例します。

ただし、ロックインアンプではローパスフィルターを作用させるため、残る成分はωi-ωrが0に近い信号のみです。つまり、ロックインアンプを通すことによって、参照信号と周波数が近い入力信号のみを抽出し、ノイズのようなランダムな成分を除去することができます。

ロックインアンプの基準となる参照信号は、正弦波を用いることが多いです。回路の単純化、低コスト化のために参照信号として矩形波を用いることもありますが、その場合は、ノイズの除去性能は正弦波よりも劣ります。

ロックインアンプのその他情報

1. ロックインアンプの時定数とノイズ

ロックインアンプには、固有の時定数と呼ばれるものがあります。ここでの時定数とは、回路に取り付けられた抵抗の抵抗値とコンデンサの容量の積で表される値のことです。ロックインアンプの出力に含まれるノイズの大きさは時定数の逆数に比例するため、時定数が大きいほど出力信号のノイズは小さくなります。一般的な時定数の大きさは10ミリ秒から10秒程度ですが、デジタル処理を行う装置の時定数は1000秒程度です。

ロックインアンプは、入力信号のノイズレベルの指標であるSN比 (信号と雑音の比率:単位dB) の影響を受けます。前段にノイズレベルが悪いアンプを用いるとロックインアンプの測定精度が劣化するため、入力信号のノイズレベルに注意が必要です。

2. チョッパーとは

チョッパーとは、ブレードを一定周期で回転させる装置のことです。ロックインアンプとチョッパーを組み合わせた高感度測定は、分光測定において一般的な手法の一つと言えます。

連続光の光路上に置くことで、ブレードが光路上にあるときは光が遮られ、ブレードが光路上にないときに光が抜けるようになり、測定光を一定の周期を持つ信号に変換することが可能です。吸収係数が大きい結晶や、伝搬損失の大きい光導波路の測定では、測定光が試料に強く吸収されるため、検出できる光の強度が小さくなり相対的にノイズの影響が大きくなります。

このような測定では、ロックインアンプとチョッパーを併用する方が有効です。チョッパーや変調器でノイズが少なく周波数が高い信号に変調し、ロックインアンプを使用して効率よく復調することで、ノイズの少ない信号を元の周波数で得られます。

3. デジタルロックインアンプ

昨今のロックインアンプは、その周波数拡張に伴い急速にデジタル化が進んでいます。ロックインアンプの性能向上には、SN比に優れる参照信号と急峻なローパスフィルターが不可欠ですが、この要件を満足する構成がデジタルロックインアンプです。

PLL (Phase Locked Loop) を活用し、外部からの参照信号と周波数および位相が一致するデジタル正弦波を内部で新たに生成することで、歪や外来ノイズの抑制を行い、SN比に優れる参照信号が利用できます。また、多段構成のデジタルローパスフィルターを用いることで、急峻なフィルタ特性も実現可能です。このデジタルロックインアンプの登場により、現在600MHzまでの高周波数測定が実現できています。

参考文献
https://www.optoscience.com/maker/zi/principle-lock_in_amplifier/
http://www.g-munu.t.u-tokyo.ac.jp/mio/note/sig_mes/sig_mes.pdf
https://www.topic.ad.jp/sice/htdocs/papers/260/260-10.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl1962/9/7/9_7_511/_pdf
http://www.nfcorp.co.jp/techinfo/keisoku/noise/pdf/se_c2_LIT.pdf

シールドケーブル

シールドケーブルとは

シールドケーブル

シールドケーブルとは、信号や電力を伝達する金属導線部分を接地された金属層で覆ったケーブルです。

接地用金属層は薄膜などを編み込む構造が用いられます。導線部分を金属層で覆うことで外部からの電磁波を遮断すると同時に、外部への電磁波漏洩を防止します。

通信・計装分野では高速通信に寄与し、強電分野で安全性確保に重要な構造です。また、多芯線では線間ノイズも打ち消す役割もあります。

シールドケーブルの使用用途

シールドケーブルは、OA機器用LANケーブルやオーディオ機器用スピーカなど、広く用いられます。

これらの使用目的は、外部から発せられる電磁波から機器を保護するためです。対照的に、高圧配電用途にもシールドケーブルは使用されます。これらは、電磁波の発生を防ぐのが目的です。

シールドケーブルの原理

シールドケーブルの主な構成要素は導体、遮蔽層 (シールド) 、絶縁層、シースです。

通常のメタルケーブルは、導体の外側が絶縁層で覆われています。それに対してシールドケーブルは、この導線部分を覆う絶縁層の上からさらに金属薄膜などの遮蔽層で覆われます。

遮蔽層の外側にシースと呼ばれる絶縁被膜で覆い、電線を外環境から保護します。遮蔽層を接地することで、信号ケーブルをノイズから保護することが可能です。また、動力ケーブルにシールドケーブルを使用すれば、発生する電磁波を打ち消すこともできます。

動力ケーブルからの電磁波を打ち消すことは、誘導による感電事故の防止に繋がるため、安全面の観点から使用される場合も多いです。

シールドケーブルの種類

シールドケーブルには、外部からのノイズを防ぐ「静電シールドケーブル」と、電流による磁束が外部機器へ影響を与えるのを防ぐ「電磁シールドケーブル」があります。種類によって遮蔽層の接地方法が異なるので、種類に合った方法でアース接地することが大切です。

1. 静電シールドケーブル

静電シールドケーブルは、やアルミなどの金属テープや、メッシュ状の編み線で芯線を覆ったケーブルです。

これにより、外部からのノイズを吸収してアースに流し、芯線にノイズが入るのを防止します。主に信号用・通信用ケーブルに使用されます。静電シードケーブルの接地方法としては、片端接地が基本です。これは、シールドにリターン電流が流れるのを防ぐためです。

両側をアースに接続した場合は、シールドに電流が流れる可能性が高くなり、電流が流れることでシールドからノイズが発生する危険性があります。また、シールドをアースに接続しない場合は、シールドの効果が得られないだけでなく、シールドに溜まった電荷が何かの拍子で放出されると信号にノイズが生じため注意が必要です。シールドケーブルを使用する場合は、必ず接地するようにします。

2. 電磁シールドケーブル

電磁シールドケーブルは、電流による磁束が外に出ないように鉄と銅で芯線を覆ったケーブルです。

鉄の被覆があるため、曲げや折り曲げに弱いのが欠点です。主に電源ケーブルやモーターなどの大電流が流れるケーブルに使用されます。電磁シールドケーブルを接地する際は、距離により両端接地か片端接地かを選択します。長距離送電の場合は両端接地とし、短距離であれば片端接地とします。両者とも接地配線はできるだけ電気抵抗を小さくすることで、シールド効果を大きくすることが可能です。

一般的には、銅板や銅の杭を地下数mの地点に埋め込み、接地抵抗を低減します。この地下埋設された導体が接地極です。接地極から地表に立ち上げた配線は、アースバーやブスバーと呼ばれる銅のバーに接続します。

参考文献
http://t-sato.in.coocan.jp/terms/shield.html
http://www.gxk.jp/elec/musen/1ama/H14/html/H1408B01_.html
http://energy-kanrishi.com/shield/

開閉器/接触器

開閉器/接触器とは開閉器

開閉器・接触器とは、接点を開閉することで電源の供給・遮断を制御する電気機器です。

英語ではスイッチと呼ばれます。低圧回路での代表的な開閉器/接触器は、電磁コイルで駆動する電磁開閉器/電磁接触器です。サーマルリレーが付属する場合は電磁開閉器と呼ばれ、付属しない場合は電磁接触器と呼ばれます。

開閉器/接触器の使用用途

開閉器/接触器は、産業用途として幅広く使用されます。以下は開閉器/接触器の使用用途一例です。

  • ポンプやファンのモーター駆動用
  • 電気ヒーターの通電・停止制御用
  • 産業装置全体のメイン電源制御用
  • 商業施設への高圧電源供給用

低圧モーターを駆動させる際、コイル短絡時に上位回路を保護するための短絡保護と、過負荷時にモーターを保護するための過電流保護を考える必要があります。電磁開閉器のサーマルリレーは過電流保護に適した特性を持つため、モーター駆動制御に多く使用されます。なお、低圧モーターではブレーカなどで短絡保護要件を満たすことが多いです。

低圧電気ヒーターの通電制御には、電磁接触器を使用することが多いです。電気ヒーターが負荷装置を持たず、負荷に応じた電流変化がなくサーマルリレーが不要なことが理由として挙げられます。メイン電源の制御にも、電磁接触器が適しています。

開閉器/接触器の原理

開閉器/接触器の代表例である電磁接触器は、端子、接点、鉄心・電磁コイル、ケーシングなどで構成されます。電磁開閉器の場合は、さらにサーマルリレーが付属します。

1. 端子

端子は配線と接続する部品です。製品によりますが、国内では丸端子で端末処理した配線をビスで堅牢に固定することがほとんどです。海外ではスプリングクランプ端子も多く使用されます。

2. 接点

接点は電気の通り道となる駆動部品です。大電流用途となるほど接点が大きく、または数が多くなります。

電気抵抗を低減目的で、接点には銀合金や金が使用されます。銀合金は電気抵抗も低いため、広く使用されます。金は銀合金よりも酸化しにくい特徴を有しますが、融点が低く高価なので微少負荷向けです。

電磁接触器内の接点には可動接点と固定接点があります。固定接点はケーシングなどに堅牢に固定されます。可動接点は可動鉄心と共に駆動し、固定接点と接触することで電気を通電させます。

低圧の電磁接触器の場合は補助接点を有する場合も多いです。補助接点は主接点と比較して許容電流が低いため、制御回路の状態表示やインターロックに使用します。

3. 鉄心・電磁コイル

鉄心・電磁コイルは制御電源を通電して可動接点を駆動させる部品です。鉄心には可動鉄心と固定鉄心があり、可動鉄心は可動接点と一体化しています。電磁コイルに制御電源を通電すると磁力を帯び、可動鉄心を固定鉄心へ引き寄せて駆動させます。

固定鉄心と可動鉄心は一般的にスプリングを間に引き離されており、普段は引き離された状態です。電磁コイルが制御電源で励磁した場合のみ引き合います。ただし、機械ラッチ式電磁接触器は励磁が終了しても導通状態を維持します。

4. ケーシング

ケーシングは内部の充電部を堅牢に保護しつつ絶縁する部品です。小・中容量の電磁接触器では裏面にDINレールマウント用コネクタが付属します。材料は堅牢で絶縁性の高い合成樹脂などが一般的に使用されます。

開閉器/接触器の種類

開閉器/接触器にはさまざまな種類の製品が販売されています。以下はその一例です。

1. 電磁接触器/電磁開閉器

電磁力で接点を駆動させる接触器/開閉器です。開閉器/接触器の中でも広く普及しており、主に低圧回路で使用されます。

2. 押釦開閉器

押釦開閉器は電磁力ではなく人力で接点を駆動させる接触器/開閉器です。駆動させた接点はOFFボタンを押すまでラッチ機構で保持されます。サーマルリレーは付属しませんが、押ボタン駆動の場合は開閉器と呼びます。

3. 気中区分開閉器

気中区分開閉器は高圧回路を負荷開閉するためのスイッチです。気中負荷開閉器またはPAS(Pole Air Switch)とも呼ばれます。送配電事業者と需要家の責任分界点に設置されることが多いです。

PAS本体は過負荷や地絡の保護機能を持たないため、SOG(Storage Over Current Ground)と共に設置する場合も多いです。

参考文献
https://elec-tech.info/whats-thermal-relay/
https://shimatake-web.com/contactor-difference/

フォトトランジスタ

フォトトランジスタとは

フォトトランジスタ

フォトトランジスタとは、光を検出するための半導体素子です。

フォトダイオードとトランジスタを組み合わせた構造をしています。また、パッケージによって様々な形状のものがあるため、用途に合わせて適切な選択が求められます。

フォトトランジスタの使用用途

フォトトランジスタの使用用途

図1. フォトトランジスタの使用用途

フォトトランジスタは、受光センサーとして幅広く使用されています。特に800nm付近に感度のピークを持つため、赤外線の受光を目的として使用されるのが一般的です。

具体的なフォトトランジスタの用途例としては、「光の強度測定」「赤外線リモコンの受信部」「光電センサー受信部」「光通信」などが挙げられます。特に、テレビやエアコンのリモコンなどで赤外線LEDと組み合わせて使用されることが多いです。

光通信の用途では、インターネットプロバイダから提供されるギガネット光通信サービスがあります。その通信の受光部は通信に最適な高速フォトトランジスタが使用されています。

また、フォトトランジスタは、自動ドアのセンサーとして使用されることもあります。さらに、光を検知して電流が発生することから、光で駆動するスイッチとして用いられるなど、使用用途は幅広いです。

フォトトランジスタの構造

フォトトランジスタの構造

図2. フォトトランジスタの構造

フォトトランジスタは、NPN構造をもつ半導体素子です。このNPN構造によって、フォトトランジスタはフォトダイオードに比べて出力信号が大きく取れるという特徴があります。 (図2 左図参照)

フォトトランジスタのNPN構造は、フォトダイオードの出力をトランジスタで増幅します。半導体のエネルギーギャップに相当する光が入射すると、価電帯の電子が伝導帯に励起します。

これによってN層への移動が起こり、ホールはP層へ移動します。このN層からP層への移動により、接合部で順バイアスがかかり電流が流れる仕組みです。 (図2 右図参照)

フォトトランジスタに利用されるトランジスタは、ベース電極を持っていないのが特徴です。しかし、受光によって発生する光電流がベース電流となり、このベース電流をコレクタで増幅します。

フォトトランジスタの特徴

ベース電流の増幅は、他のトランジスタと同様にhFE (トランジスタの増幅率) 倍です。しかし、フォトトランジスタの特性として、同様のhFE倍であっても、比較的大きなhFEのものが使われるという傾向があります。

これにより、微小なフォトダイオード部の信号を大きなコレクタ電流として取出せますが、コレクタ・ベース接合部では電流が常にリークしており、このリーク電流も増幅されているという点に注意しなければなりません。

つまり、フォトトランジスタは、完全な暗環境であっても微弱な電流が流れている状態です。この暗環境下でも流れている微弱な電流のことを、暗電流といいます。フォトトランジスタで発生する暗電流は、光センサーとしての内部ノイズになります。しかし、この内部ノイズを抑えることは可能です。

暗電流は温度が高い場合には増加し、逆に温度が低い場合には減少していくという特性があります。そのため、この特性を利用して、素子を冷却することにより内部ノイズを抑えることができます。

フォトトランジスタのその他情報

1. フォトダイオードとトランジスタ

フォトダイオードとトランジスタ

図3. フォトダイオードとトランジスタ

フォトダイオードは図3 左図で示すように、光があたると光の強さに応じてIV特性が下側にシフトします (青線が緑線になる) 。このIV特性変化が光の強度を測る目安です。しかしながら、その出力電流はuAオーダなので、そのままの出力では後段の回路が複雑になります。

フォトトランジスタは、フォトダイオードとトランジスタと組み合わせることにより、フォトダイオードで受光したときに発生した光電流をトランジスタの直流電流増幅率hFE倍で増幅することが可能です。そのため、フォトトランジスタの方がフォトダイオードよりも感度がよく、フォトトランジスタの出力電流はmAオーダとなるため、後段の回路の簡素化が実現できます。 (図3 右図参照)

フォトトランジスタの感度は、フォトダイオードの数百倍となり、更に高感度が必要な場合にはダーリントン接続されたフォトトランジスタの使用で、数百倍x数百倍の感度を得ることができます。これにより、数Luxの明るさを検出することが可能です。

2. CDSとフォトトランジスタの違い

CDSとは、フォトレジスタのことです。CDSセルや光導電セルとも呼ばれています。CDSは、受ける照度に反比例して抵抗値が減少します。すなわち、照度が暗いときには抵抗値が高くなり、照度が明るいときには抵抗値が低くなるという特性です。

一般的なCDSの場合、照度が暗いときは約1MΩであり、明るいときには約10kΩと抵抗値が変化します。CDSのメリットは、「分好感度特性が人間の視覚に近い」「構造が簡単」「高感度」「低価格」であることです。CDSは、様々な機器の検出器として用いられています。

例えば、「照度計」「カメラ用露出計」「自動点滅用の明るさ検知用」などです。しかし、CDSの素子として使われている主な材料である硫化カドミウムは、環境に悪影響を与える物質です。そのため、CDSは近年、使用される機会が減りつつあります。

一方でフォトトランジスタは、照度に比例した出力電流が得られます。フォトダイオードとトランジスタが合わさった構造をしているため、高感度というのもメリットの一つです。

参考文献
https://techweb.rohm.co.jp/iot/tech-info/keypoint/3870
https://www.sensor-sk.com/hikari/hika01_hikari.html

フェライト磁石

フェライト磁石とは

フェライト磁石

フェライト磁石は酸化鉄を主成分にしてコバルトやニッケルマンガンと混ぜて作られる磁石です。分子式は、MFe2O4(M = Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Mg, Zn, Cdなど)と表されます。

複合金属Mは、2価の陽イオンが主流であり、M = FeであるFe3O4は黒色で磁鉄鉱と呼ばれる有名な原料です。他にも、複合金属Mが1, 3, 4価の陽イオンであっても、フェライトと呼ばれる化合物が存在します。

製造方法は、粉末のフェライトを押し固めて高温で焼き上げるという方法です。セラミックの一種でもあります。酸化鉄Fe2O4から合成できるため、安価に入手することができます。

特徴は、どんな形にも容易に整形でき加工がしやすいことと、化学的に安定であるためサビや薬品などによる腐食にも強いことです。

フェライト磁石の使用用途

フェライト磁石は、ハードフェライトとソフトフェライトの2種類によって用途が分けられます。

1. ハードフェライト

ハードフェライトとは、一度強い磁石とくっつける(強い磁界を加える)と永久磁石になるフェライト磁石です。日常生活でよく目にする磁石の大半を占めます。U字磁石が代表的です。

他にも小型モーター、スピーカー、ヘッドフォン、カセットテープに使用されます。

2. ソフトフェライト

ソフトフェライトとは、磁界に触れると磁石になり、磁界から離すと磁気がなくなり磁石ではなくなるフェライト磁石です。磁芯として利用されることが多く、トランスやコイルへの応用に適しています。

わかりやすい具体例としては無線機、テレビ、ゲーム機、自動車、パソコン、電子レンジ、掃除機、冷蔵庫に使用されます。

フェライト磁石の原理

フェライト磁石の磁気特性は、ハードフェライトとソフトフェライトで異なります。まずは磁気特性について説明します。図1はそれぞれの磁性のスピン状態を示しています。

1. 磁気特性

  • 強磁性体: 磁界を加えなくても、磁気モーメント(磁石の強さと向きを表すベクトル量)の向きが揃っている物質を強磁性体といいます。
  • フェリ磁性体: 隣り合う原子の磁気モーメントが逆向きだが大きさが違うため、物質全体として磁化を持つ物質をフェリ磁性体といいます。フェライト磁石はすべてフェリ磁性体です。
  • 常磁性体: 磁界がないとき磁気モーメントが様々な方向に向いていますが、磁界を加えると磁気モーメントの向きが揃う物質を常磁性体といいます。

図1. 磁性ごとのスピン状態

各フェライト磁石の種類と特性を図2に示しています。飽和磁化は、磁界を強めても物質の磁化が増大しない最大磁化のことです。またキュリー温度は、強磁性から常磁性に変化する温度のことです。

図2. フェライトの特性

2. ハードフェライト

ハードフェライトは、強磁性体であり永久磁石です。ハードフェライトは、分子が持つ磁極の配向によって等方性磁石と異方性磁石の二種にさらに分類できます。

  • 等方性磁石: 磁気モーメントが、様々な方向に向いています。磁性の配向がバラバラであることから、どの方向からでも着磁できますが磁力は弱くなります。
  • 異方性磁石: 分子の磁気モーメントの向きがそろっているため、指向性が有るものの強い磁力を提供することができます。焼き固める際に磁場をかけることで各フェライト分子の磁極を整列させることで製造されます。

3. ソフトフェライト

ソフトフェライトは、外部から磁場を与えている間だけ磁力を持ちます。ハードフェライトに比べると磁場は小さいですが、広範囲の周波領域で優れた磁気特性を持っています。

例えば、結晶構造がスピネル型のものは、広い周波数の範囲で透磁率(物質が磁化される度合)が高いという性質をもちます。ガーネット型は、マイクロ波の周波数帯で単結晶が壊れにくい性質があります。

アルニコ磁石との比較

アルニコ磁石とは、鉄にアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などの添加元素を加え、鋳造法や粉末の焼結によって製造される磁石です。

アルニコ磁石の特徴は、キュリー温度(永久磁石でなくなる温度)が860℃と非常に高く、高温環境でも使用できることです。室温から400℃くらいまでの温度であれば、常温に戻った際にほぼ元の磁力に回復できます。また鋳造によって製造されたものは機械強度にも優れます。

アルニコ磁石の用途は、電動機、センサ、スピーカーユニットやエレクトリックギターのマグネティック・ピックアップが挙げられます。

フェライト磁石との違い

フェライト磁石は酸化鉄が主成分ですが、アルニコ磁石は鉄を主成分にアルミニウム、ニッケル、コバルトを添加します。アルニコ磁石の磁力の保持力は、小さくて減磁しやすいです。

磁極間を長く取る必要があるため、長尺形状でなくてはならない制限があります。また原料のコバルトの供給が不安定で高価であるため、フェライト磁石の方が安価です。

サマリウムコバルト磁石との比較

サマリウムコバルト磁石とは、サマリウム(Sm)とコバルト(Co)から構成される希土類磁石です。組成比によってSmCo5(1-5系)とSm2Co17(2-17系)の2つに分かれ、現在ではサマリウム量の少ない1-5系が広く利用されています。

サマリウムコバルト磁石の特徴は、キュリー温度が最高で800℃程度と高いことです。耐食性に優れるため、表面処理をせずにそのまま使用できることや、形状の選択性が高いことも特徴です。磁気特性はフェライト磁石より高く、ネオジム磁石に次ぐ高さです。

フェライト磁石との違い

350℃程度の環境まで使用できるため、省スペースな高温環境でフェライト磁石より高い磁力が要求される場合に使用されます。一方で強度が低いため、割れや欠けが発生しやすいデメリットがあります。原料であるサマリウムとコバルトは共に希少であるため、フェライト磁石と比較して非常に高価です。

ネオジム磁石との比較

ネオジム磁石とは、ネオジウム(Nd)、鉄(Fe)、ボロン(B)を主成分とする磁石です。ネオジム磁石の特徴は、酸化しやすいことと熱依存性が高いことです。

酸化しやすいため、表面をニッケルめっき処理してから使用されます。通常80℃未満で使用されます。強度が比較的高いため、割れや欠けにも強いのも特徴です。

フェライト磁石との違い

フェライト磁石と比較して磁気特性が非常に高く、磁力の保持力は約4倍で最大エネルギー積は10倍です。フェライト磁石よりも高価ですが、サマリウムコバルト磁石に比べると安価です。

参考文献
http://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/051.pdf
https://www.neomag.jp/mag_navi/column/column006.html
http://www.tp-mag.com/jishaku.html
https://www.sii.co.jp/jp/me/dianet/support/features/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kogyobutsurikagaku/30/7/30_519/_pdf/-char/ja
http://www.ferrite.jp/whats_ferrite.html

エアハンドリングユニット

エアハンドリングユニットとは

エアハンドリングユニット

エアハンドリングユニットは、大型の商業施設やオフィス、学校などの特定の大型施設に設置される空調設備です。設備の機能は、一般の家庭でも使われているエアコンと同様です。しかし、中央管理方式によって一元的に制御されているのが、一般的なエアコンとの違いになります。

また、エアハンドリングユニットは、エアコンと違って各部屋に室内機を取り付ける必要が無いため、エアハンドリングユニットだけのメンテナンスで済むといったメリットがあります。逆に、故障すると施設全体で空調が効かなくなるというリスクが発生してしまうため、分散させたりバックアップを用意する対策が必要です。

エアハンドリングユニットの使用用途

エアハンドリングユニットは、特定の用途に利用される面積がある以下のような施設に設置されます。ただし、学校施設に関しては「学校教育法第1条」が関係してくるため、教育法の定めるところによります。特定用途に該当しない場合は、この限りではありません。

・3000平方メートル以上 「オフィス」「百貨店」「興行場」「研究所」

・8000平方メートル以上 「学校施設」「研修所」「旅館」

特定用途に利用される面積とは特定建築物や建築物基準法で定義されており、建築物衛生法によって定められています。これは延べ面積を指しており、建物の床面積の合計値です。床面積の合計値は、敷地面積とは異なるため、建物に各階数がある場合には、その全ての床面積の合計値ということになります。

このような特定建築物では「温度」「相対湿度」「一酸化炭素の含有量」「二酸化炭素の含有量」「浮遊粉じんの量」「ホルムアルデヒドの量」「気流」の室内環境を一定の基準で管理することが建築物衛生法で義務付けられています。

また、引火性の高い物質や揮発性のガスを扱っている産業施設では防爆仕様のエアハンドリングユニットが使用されています。

エアハンドリングユニットの選び方

エアハンドリングユニットの設置を検討する際には、建築物衛生法や衛生管理基準と求める環境を照らし合わせる必要があります。

空気調和設備を設置している場合の空気環境の基準と機械換気設備を設置している場合の空気環境の基準では、必要な設備や維持する環境が異なります。

建築物衛生法で規定されている建築物環境衛生管理基準では、以下のように定められています。

空気調和設備とは「エアフィルタ」「電気集じん等」を用いて外から取り入れた空気などを浄化することで「温度」「湿度」「流量」を調節して供給することができる「機器」及び「附属設備の総体」を指します。すなわち「浄化」「温度」「湿度」「流量の調節」の4つの機能を備えた設備のことです。

機械換気設備とは「外から取り入れた空気などを浄化して、その流量を調節することで供給を行う設備」を指します。すなわち、空気調和設備のもつ機能のうち「温度調節」及び「湿度調節」の機能を欠く設備のことです。

以上のことから、エアハンドリングユニットの設置を検討する際には、上記のどちらに属する設備であるかを考慮しなければなりません。また、空気調和設備に該当している場合には、病原体による空気の汚染を防止するために衛生上で必要な措置を取らなければなりません。該当する項目の例としては「冷却塔や冷却水の設備清掃」や「加湿装置の点検、清掃」などが挙げられます。

エアハンドリングユニットの原理

エアハンドリングユニットは「フィルター」「送風機」「熱交換器」「加熱装置」または「冷水コイル」によって構成されています。

これらのパーツは金属ケースに収められ、専用の機械室に設置されます。

一般的なエアコンとは異なり、冷媒にはガスではなく水を使用します。エアハンドリングユニットでは、各室内からの環気と共に外気を取り込むことで室内の空気を新鮮に保ちます。そして、外気も一緒に取り込むことで室内外の温度差を減らして必要のないエネルギーを使わないようにしています。その後に、取り込んだ空気をフィルターなどを通して浄化します。浄化された空気は、冷房なら冷水コイル、暖房なら温水コイルによって温度の調整がされて各部屋に給気することで、この循環を繰り返します。

このようにエアハンドリングユニット自体が熱交換を行っているため、地下などに設置してしまえば室外機を各部屋に取り付ける必要がありません。そのため、建物の限られたスペースを有効的に活用することが可能になります。 

エアハンドリングユニットは、設置する施設ごとに必要な機能や衛生管理基準の範囲が異なるため、空気清浄機能や加湿機能などのオプションを製造メーカーに受注生産という形で注文しています。

参考文献
https://gyoumuaircon.com/2019/11/27/%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%A8%E3%81%AF/
https://www.m-system.co.jp/products/ba/ba05_index03.html