水酸化コバルトとは
水酸化コバルトとは、コバルトの水酸化物のことです。
水酸化コバルトには水酸化コバルト (II) と水酸化コバルト (III) が存在しますが、一般的に水酸化コバルト (II) のことを指します。水酸化コバルトは、労働安全衛生法にて「表示物質」「名称通知対象物質」「特定化学物質」に、労働基準法にて「業務療養補償をすべき疾病を起こす化学物質等」に、化学物質管理促進法にて「第一種指定化学物質」に指定されており、取り扱いには注意が必要です。
水酸化コバルトの使用用途
水酸化コバルトは、金属コバルトの製造やニッケル水素電池の正極材料、金属せっけん、ペイント等の乾燥剤、触媒原料などに用いられています。金属せっけんは、水酸化コバルトと脂肪酸を有機溶剤中で反応させることによって製造されています。
また、水酸化コバルトは、一般的なニッケル水素電池の導電剤としても用いることが可能です。水酸化コバルトは電池の中でアルカリ電解液に溶け、正極材料である水酸化ニッケルの表面を被覆します。そして、最初の充電によって酸化され、導電性の高いオキシ水酸化コバルトに変化し、電極の導電性を高めるといった役割を果たしています。
水酸化コバルトの性質
1. 水酸化コバルト (II)
水酸化コバルト (II) は、淡紅色をした粉末状態の物質です。安定していますが、酸化剤や空気によって水酸化コバルト (III) に酸化されることもあります。
空気中で酸素を吸収すると、褐色に変化します。標準酸化還元電位は、E° = 0.17Vです。また、水酸化コバルト (II) は強熱分解によって、コバルト酸化物の金属ヒューム (英: Metal fume) を発生します。さらに、水酸化コバルト (II) は刺激性もあるため危険です。密栓して保管する必要があります。
水酸化コバルト (II) は水に難溶です。ただし、アンモニア水やアンモニウム塩水溶液には溶けます。
2. 水酸化コバルト (III)
水酸化コバルト(III)は、暗褐色の粉末です。硝酸や硫酸に難溶で、水、エタノール、アンモニア水などにも溶けません。
水酸化コバルトの構造
1. 水酸化コバルト (II)
水酸化コバルト (II) はコバルトの水酸化物であり、化学式はCo(OH)2です。分子量は92.94788、密度は3.597g/cm3で、結晶構造は六方晶系の水酸化カドミウム型構造を取っています。格子定数はa = 3.173Å、c = 4.640Åです。
2. 水酸化コバルト (III)
水酸化コバルト (III) は、化学式がCo(OH)3の化合物です。ただし、通常はCo2O3・nH2Oの状態で存在しています。
水の含有量は一定しませんが、主にn = 3の状態となっています。分子量は109.96で、密度は4.46g/cm3です。
水酸化コバルトのその他情報
1. 水酸化コバルト (II) の合成法
水酸化コバルト (II) は、グルコースを1%含んだコバルト塩水溶液に、水酸化ナトリウムを加えることによって生成されます。水酸化コバルト (II) は、最初は青色の微細沈殿の状態で生成されますが、放置することで粒子が大きくなり、淡紅色に変色します。青色形の水酸化コバルト (II) の方が不安定で、淡紅色は安定です。
2. 水酸化コバルト (II) の反応
水酸化コバルト (II) の溶解度積は、およそ1.3×10-15です。水酸化コバルト (II) は両性化合物であり、酸に溶解するとコバルト塩になります。
アルカリに溶かして加熱すると、テトラヒドロキソコバルト酸塩 (MI2[Co(OH)4]) が生成して、青色の溶液になります。
3. 水酸化コバルト (III) の反応
コバルト (III) 塩水溶液と水酸化ナトリウムを反応させると、水酸化コバルト (III) が生成します。水酸化コバルト (III) は100℃で水を失って、一水和物が生じます。
一水和物はコバルト (III) 化合物であり、組成はCoO(OH)です。さらに水酸化コバルト (III) は塩酸に溶けると、塩素が発生します。