水酸化コバルト

水酸化コバルトとは

水酸化コバルトとは、コバルトの水酸化物のことです。

水酸化コバルトには水酸化コバルト (II) と水酸化コバルト (III) が存在しますが、一般的に水酸化コバルト (II) のことを指します。水酸化コバルトは、労働安全衛生法にて「表示物質」「名称通知対象物質」「特定化学物質」に、労働基準法にて「業務療養補償をすべき疾病を起こす化学物質等」に、化学物質管理促進法にて「第一種指定化学物質」に指定されており、取り扱いには注意が必要です。

水酸化コバルトの使用用途

水酸化コバルトは、金属コバルトの製造やニッケル水素電池の正極材料、金属せっけん、ペイント等の乾燥剤、触媒原料などに用いられています。金属せっけんは、水酸化コバルトと脂肪酸を有機溶剤中で反応させることによって製造されています。

また、水酸化コバルトは、一般的なニッケル水素電池の導電剤としても用いることが可能です。水酸化コバルトは電池の中でアルカリ電解液に溶け、正極材料である水酸化ニッケルの表面を被覆します。そして、最初の充電によって酸化され、導電性の高いオキシ水酸化コバルトに変化し、電極の導電性を高めるといった役割を果たしています。 

水酸化コバルトの性質

1. 水酸化コバルト (II)

水酸化コバルト (II) は、淡紅色をした粉末状態の物質です。安定していますが、酸化剤や空気によって水酸化コバルト (III) に酸化されることもあります。

空気中で酸素を吸収すると、褐色に変化します。標準酸化還元電位は、E° = 0.17Vです。また、水酸化コバルト (II) は強熱分解によって、コバルト酸化物の金属ヒューム (英: Metal fume) を発生します。さらに、水酸化コバルト (II) は刺激性もあるため危険です。密栓して保管する必要があります。

水酸化コバルト (II) は水に難溶です。ただし、アンモニア水やアンモニウム塩水溶液には溶けます。

2. 水酸化コバルト (III)

水酸化コバルト(III)は、暗褐色の粉末です。硝酸硫酸に難溶で、水、エタノール、アンモニア水などにも溶けません。

水酸化コバルトの構造

1. 水酸化コバルト (II)

水酸化コバルト (II) はコバルトの水酸化物であり、化学式はCo(OH)2です。分子量は92.94788、密度は3.597g/cm3で、結晶構造は六方晶系の水酸化カドミウム型構造を取っています。格子定数はa = 3.173Å、c = 4.640Åです。

2. 水酸化コバルト (III)

水酸化コバルト (III) は、化学式がCo(OH)3の化合物です。ただし、通常はCo2O3・nH2Oの状態で存在しています。

水の含有量は一定しませんが、主にn = 3の状態となっています。分子量は109.96で、密度は4.46g/cm3です。

水酸化コバルトのその他情報

1. 水酸化コバルト (II) の合成法

水酸化コバルト (II) は、グルコースを1%含んだコバルト塩水溶液に、水酸化ナトリウムを加えることによって生成されます。水酸化コバルト (II) は、最初は青色の微細沈殿の状態で生成されますが、放置することで粒子が大きくなり、淡紅色に変色します。青色形の水酸化コバルト (II) の方が不安定で、淡紅色は安定です。

2. 水酸化コバルト (II) の反応

水酸化コバルト (II) の溶解度積は、およそ1.3×10-15です。水酸化コバルト (II) は両性化合物であり、酸に溶解するとコバルト塩になります。

アルカリに溶かして加熱すると、テトラヒドロキソコバルト酸塩 (MI2[Co(OH)4]) が生成して、青色の溶液になります。

3. 水酸化コバルト (III) の反応

コバルト (III) 塩水溶液と水酸化ナトリウムを反応させると、水酸化コバルト (III) が生成します。水酸化コバルト (III) は100℃で水を失って、一水和物が生じます。

一水和物はコバルト (III) 化合物であり、組成はCoO(OH)です。さらに水酸化コバルト (III) は塩酸に溶けると、塩素が発生します。

参考文献
https://www.kojundo.co.jp/

次亜硫酸ナトリウム

次亜硫酸ナトリウムとは

次亜硫酸ナトリウムとは、亜ジチオン酸のナトリウム塩です。

他にも「亜ジチオン酸ナトリウム」「亜二チオン酸ナトリウム」「ハイドロサルファイトナトリウム」と呼ばれています。単にジチオナイトと呼ぶ場合には、次亜硫酸ナトリウムや溶解して得られる亜ジチオン酸イオンを指すケースが多いです。

次亜硫酸ナトリウムの粉末が、空気中で少量の水と接すると、分解で生じる熱により、引火することもあります。労働安全衛生法では、名称等を表示すべき危険物および有害物に該当します。

次亜硫酸ナトリウムの使用用途

次亜硫酸ナトリウムは亜硫酸ナトリウムと同様に、食品添加物として食品加工で使用されることが多いです。最も多い利用は、ワインなどの飲料における酸化防止剤です。

また、水に溶けやすく、強力な還元作用を持つことから、漂白剤や変色防止剤として使用されることもあります。食品の色調を整えたり、原料などに含まれる好ましくない色素成分や着色物質の色を無色にしたりすることも可能です。

世界における次亜硫酸ナトリウムのうち、半分が織物の染色や漂白に、3分の1がパルプや紙の漂白などに使用されています。なお、次亜硫酸ナトリウムは、工業的には金属亜鉛を仲介した二酸化硫黄とナトリウム塩の反応によって精製されます。

次亜硫酸ナトリウムの性質

次亜硫酸ナトリウムは、常温では白色結晶です。亜硫酸ガスと同様の刺激臭がします。引火点は100°C、発火点は200°Cです。

次亜硫酸ナトリウムはエタノールにわずかに溶け、水に溶けやすいです。融点は52°Cで、空気中で90℃以上に加熱することで、硫酸ナトリウム二酸化硫黄に分解されます。空気がない場合には、150℃以上で亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、微量の硫黄に激しく分解されます。

次亜硫酸ナトリウムの構造

次亜硫酸ナトリウムの化学式はNa2S2O4、モル質量は174.107、密度は2.19g/cm3です。次亜硫酸ナトリウムの無水物は、白色の単斜晶です。二水和物も知られており、黄色味がかった柱状結晶ですが、容易に脱水して無水物になります。さらに二水和物は空気中の酸素によって酸化されやすいため、不安定です。

次亜硫酸ナトリウムの無水物は、C2対称構造を取り、ねじれ角16°の重なり形配座です。その一方で二水和物は、ねじれ角56°のゴーシュ配座になっています。

次亜硫酸ナトリウムのその他情報

次亜硫酸ナトリウムの合成方法

1. 亜鉛塵法による合成
亜鉛の粉末を水に懸濁させ、二酸化硫黄を通すことで、亜鉛が溶け、亜ジチオン酸亜鉛になります。炭酸ナトリウム水酸化ナトリウムを加えることで、水酸化亜鉛 (II) の白色沈澱として亜鉛を析出させて、減圧濃縮後に塩化ナトリウムメタノールを加えると、次亜硫酸ナトリウムの無水物が析出します。

2. ギ酸ソーダ法による合成
ギ酸ソーダ法は三菱ガス化学が実用化した方法です。ギ酸ナトリウムを80%のメタノールに溶かして、水酸化ナトリウムと二酸化硫黄を加えると、次亜硫酸ナトリウムの無水物が析出します。多価アルコールを製造する際に副生成物としてギ酸ナトリウムが得られるため、亜鉛塵法よりも低コストなことが利点です。

3. アマルガム法による合成
食塩電解槽で作成したナトリウムアマルガムを、亜硫酸水素ナトリウム水溶液に接触させて、還元することにより次亜硫酸ナトリウムが得られます。

4. 水素化ホウ素ナトリウム法による合成
強アルカリ水溶液中において安定な還元剤である水素化ホウ素ナトリウムに、二酸化硫黄と水酸化ナトリウムを加えることで、次亜硫酸ナトリウムが生成します。

5. 電解法による合成
半透膜で仕切られた電解槽を用いて、二亜硫酸イオンを還元すると、次亜硫酸ナトリウムが生じます。

参考文献
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/19427250.pdf

塩素酸カリウム

塩素酸カリウムとは

塩素酸カリウム (英: Potassium chlorate) とは、カリウムの塩素酸塩であり、組成式KClO3で表される物質です。

別名には、塩剥、塩素酸カリなどの名称があります。また、価数を明示して塩素(V)酸カリウムと表記される場合もあります。CAS登録番号は、3811-04-9です。

塩素酸カリウムの使用用途

塩素酸カリウムの主な使用用途は、 爆薬、マッチ (頭薬部分) 、分析用試薬、印刷インキ、漂白剤、染料、防腐剤、除草剤、医薬品、花火です。塩素酸カリウムと硫黄との混合物は、摩擦によって発火する性質を持ちます。

また、塩素酸カリウムは強力な酸化剤としての性質がある物質です。これらの性質故に、塩素酸カリウムは、花火や爆薬といった主に発火や燃焼に関連する製品の原料に使われています。

医療・医薬分野では、塩素酸カリウム水溶液をうがい薬として使用する場合もあります。

塩素酸カリウムの性質

塩素酸カリウムの基本情報

図1. 塩素酸カリウムの基本情報

塩素酸カリウムは、分子量122.55、融点356℃であり、常温での外観は白色結晶もしくは結晶性粉末です。

臭いはありません。水にやや溶けます (溶解度: 7.3g/100ml (20 °C)) が、エタノールに極めて溶けにくく、アセトンに溶けません。密度は2.32g/mLです。

塩素酸カリウムの種類

塩素酸カリウムは、主に研究開発用試薬製品や産業用無機薬品として販売されています。研究開発用試薬製品としては、25g、500gなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されている物質です。

通常、室温で保管可能な試薬製品として取り扱われています。産業用無機薬品としては、使用用途の多さから複数のメーカーで提供があります。こちらの場合は、メーカーへの個別の問い合わせが必要です。

塩素酸カリウムのその他情報

1. 塩素酸カリウムの合成

電気分解による塩素酸カリウムの合成

図2. 電気分解による塩素酸カリウムの合成

塩素酸カリウムは、塩化カリウムの飽和水溶液の電気分解により合成が可能です。アノード (陽極) として、MMO電極 (混合金属酸化物電極) 、白金、黒鉛、二酸化鉛などの不溶性電極が使用され 、カソード (陰極) として、チタン、ステンレス鋼、軟鋼などが用いられます。

この際、アノードの侵食を抑制するために次の3つの条件を満たすことが必要です。

  • アノード上での電流密度の上限はMMO電極や白金では200~300mA/cm2、黒鉛では30mA/cm2程度とし、アノードを囲むようにカソードを配置する (アノード表面での電流密度の偏りを防ぐため) 
  • 溶液中の塩化カリウム濃度を飽和状態に保つため、減少した分の塩化カリウムを定期的に補給する
  • アノード周辺の溶液の温度を40℃以下に維持する

2. 塩素酸カリウムの反応性

塩素酸カリウムの酸化還元電位と分解反応

図3. 塩素酸カリウムの酸化還元電位と分解反応

塩素酸カリウムは、酸性条件において強い酸化力を示します。中性およびアルカリ性溶液では酸化作用を示すことは少なく、水溶液は基本的に中性です。

二酸化マンガンなどの金属酸化物を触媒として加熱すると、酸素を放出して、塩化カリウムになります。また、触媒非存在下で加熱すると、過塩素酸カリウムと塩化カリウムに分解します。

3. 塩素酸カリウムの危険性と法規制情報

塩素酸カリウムは、反応性が高い物質です。多くの可燃性物質 (有機物や硫黄、リン、炭素など) と混合し点火すると激しく燃焼し、自発的・偶発的に発火や爆発することもあります。また、濃塩酸や濃硫酸、濃硝酸に接触するだけで爆発する可能性があるため、必ず強酸類と離して保管しなければなりません。

これらの危険性により、塩素酸カリウムは法令によって規制を受ける化合物です。毒物及び劇物取締法において劇物、及び、 発火性又は爆発性のある劇物に指定されており、労働安全衛生法では危険物・酸化性の物に指定されています。消防法では、 第1類酸化性固体、塩素酸塩類に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1143.html

塩化銀

塩化銀とは

塩化銀とは、銀と塩素からなる無機化合物です。

通常、塩化銀 (I) (silver(I) chloride、化学式: AgCl) のことを指します。常温常圧では、白色の結晶性固体です。

硝酸銀の水溶液に、塩酸のような塩化物イオンを含む水溶液を加えると、白色の沈殿として得られます。水やエタノールなどの溶媒にはほとんど溶けませんが、濃塩酸、アンモニア水等には良く溶けます。

塩化銀の使用用途

塩化銀は光に敏感な性質を持ち、紫外線や可視光線に曝されると黒色の銀に還元されます。この特性から、古典的な写真フィルムや感光材料、写真用紙などの製造に利用されています。

塩化銀は、銀塩化銀電極と呼ばれる基準電極に使用されています。安定性と再現性が良く、広く使われている電極です。生体分子を識別し測定することが出来るバイオセンサーにも使われています。

また、塩化銀は水にほとんど溶けませんが、アンモニアやチオシアン酸イオンなどの化合物には溶解性が高くなります。この性質を利用し、銀イオンの検出や定量分析、沈殿滴定法に使用されます。

そのほか、有機化学反応における触媒や、ガラスやセラミックスの製造の分散剤、水処理における消毒剤や藻類の増殖抑制剤として利用されます。これらの用途以外にも、塩化銀はさまざまな分野で利用されており、その特性が幅広く活用されています。

塩化銀の性質

塩化銀は、銀と塩素からなる無機化合物で、常温常圧では白色の結晶性固体です。AgClで表され、モル質量は143.32g/mol、密度5.56g/cm³です。

水にほとんど溶けませんが、アンモニア水、チオシアン酸カリウム、シアン化カリウムなどの化合物には、より溶解性が高くなります。酸に対して安定で、酸には溶解しませんが、塩基には溶けやすいです。また、還元剤やチオシアン酸イオンと反応して、銀やその他の化合物を生成することがあります。

塩化銀は光に感応する性質を持ち、紫外線や可視光線に曝されると黒色の銀に還元されます。この特性から、古典的な写真フィルムや感光材料に使用されています。

塩化銀の構造

塩化銀は、銀イオンと塩素イオンからなる無機化合物で、1:1 の化学量論比で銀と塩素が結合したイオン性化合物です。塩化銀の結晶構造は面心立方格子構造を取ります。

その結晶構造では、各銀イオンは周囲の6つの塩素イオンに囲まれており、逆に各塩素イオンも周囲の6つの銀イオンに囲まれています。このように、銀イオンと塩素イオンが互いに八面体形状で配位しているため、結晶構造全体は非常に規則的で安定しています。

また、このイオン性結晶構造のために塩化銀は絶縁体であり、高い融点 (455℃) を持ち、水にほとんど溶けない性質を持っています。

塩化銀のその他情報

塩化銀の製造方法

塩化銀はいくつかの方法で製造することができます。主な製造方法は、以下のとおりです。

1. 二次反応法
二次反応法は、銀の塩と塩化物イオンを含む化合物を混ぜ合わせることにより、塩化銀が沈殿する方法です。例えば、硝酸銀と塩化ナトリウムの水溶液を混ぜると、以下の化学反応が起こります。

AgNO3(aq) + NaCl(aq) → AgCl(s) + NaNO3(aq)

この反応によって生成された沈殿物 (AgCl) をろ過や遠心分離によって分離し、さらに乾燥して純粋な塩化銀を得ることができます。

2. 電解法
電解法は、電気分解によって銀と塩素を生成し、その後、銀と塩素を直接反応させて塩化銀を得る方法です。まず、塩素および銀を生成するために、塩化ナトリウム溶液などを電気分解します。次に、生成された銀と塩素を適切な条件下で反応させることにより、塩化銀を得ます。

3. 銀の直接塩素化
この方法では、金属銀を直接塩素ガスと反応させて塩化銀を生成します。反応は以下のように表されます。

2Ag(s) + Cl2(g) → 2AgCl(s)

この反応は、高温下で行われることが一般的です。生成された塩化銀は、冷却とろ過によって回収されます。これらの方法のほかにも、さまざまな合成法が存在することがありますが、最も一般的なのは二次反応法です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-0075JGHEJP.pdf

塩化亜鉛

塩化亜鉛とは

塩化亜鉛とは、化学式ZnCl2で表され、亜鉛塩素からなる無機化合物です。

1648年に、ドイツのJ. R. グラウバーによって世界で初めて合成されました。モル質量は136.32g/mol、密度は2.91g/cm3、融点は275℃、CAS番号は7646-85-7です。

塩化亜鉛には無水物の他に数種の水和物が存在しており、それらはセ氏28℃以下で形成されます。

塩化亜鉛の使用用途

1. めっき処理

塩化亜鉛は、亜鉛めっき処理に用いられています。亜鉛めっきに使用される浴種のうち、塩化亜鉛浴を用いた場合、亜鉛めっきの難しい素材 (鋳物、高炭素鋼) にもめっきをすることができます。

亜鉛めっきは、防さび効果が高く主に鉄製品に対して処理を行いますが、これは亜鉛メッキ上に不動態膜が生成されるためです。亜鉛は鉄よりもイオン化傾向が高いので、めっき皮膜に穴が開いて通常なら鉄がさびてしまう状態になっても、亜鉛が代わりに酸化されて素地のさびを防ぎ、高い防食効果を得ることが出来ます。これを犠牲防食といい、亜鉛がめっきに使われる際の長所です。

2. 医薬品

塩化亜鉛は、血管や粘膜・皮膚組織を収縮させる、いわゆる収れん作用を持っています。したがって、医療分野では、鼻咽腔炎や上咽頭炎の治療に低濃度の塩化亜鉛溶液が用いられています。また、口臭を防ぐ効果もあるため、口内洗浄液や歯磨き剤に配合されています。

3. はんだ付け

塩化亜鉛は、はんだ付けの際の融剤としても用いられます。理由として、塩化亜鉛の水溶液が加水分解されると酸性を示すために、金属酸化物を溶かしやすいことと、はんだ付けの温度では蒸発しないことが挙げられます。

 

そのほか、木材の防腐剤、乾電池の材料、低温時に使用する寒剤なども用途の1つです。

塩化亜鉛の性質

塩化亜鉛は、常温常圧においては白色の結晶粉末の状態です。潮解性を有しており、水との親和性が非常に高いため、水に極めてよく溶け、エタノールアセトン、エーテルなどの有機溶媒にも溶けやすいです。

塩化亜鉛は、強酸である塩酸と弱塩基である水酸化亜鉛の塩ととらえることができるので、水に溶かすとpHがおよそ4の弱酸性の水溶液となります。

塩化亜鉛の粉末 (ヒューム) は有毒であり、目や皮膚、肺などに刺激性を持っています。大量に吸い込んでしまうと血液中の酸素濃度低下からなるチアノーゼを引き起こしてしまう可能性があります。そのため、取り扱う際には粉末を吸い込んだり接触したりしないように保護メガネやマスクを着用し、取り扱いに注意が必要です。

塩化亜鉛の構造

通常の塩化亜鉛無水物は、塩素が六方細密構造の直方晶系の構造、亜鉛が塩素が形成する正四面体の空孔に位置するといった構造です。しかし、過剰な塩素が存在する場合や濃度の高い溶液では、亜鉛に四面体型に塩素が配位した[ZnCl4]2-構造も見られます。

また、塩化亜鉛は28 ℃以下で水和物を形成することが知られています。28 ℃で1.5水和物、11.5 ℃で2.5水和物、6 ℃で3水和物、−30 ℃で4水和物をそれぞれ形成することが特徴です。

固体の塩化亜鉛はβ型の結晶が最も安定ですが、高温で溶融した塩化亜鉛はα、β、γのいずれの型でもないことが示されています。

塩化亜鉛のその他情報

塩化亜鉛の製法

塩化亜鉛は、金属亜鉛に塩酸を反応させることで得ることができます。この反応では、1分子の亜鉛と2分子の塩酸が反応し、1分子の塩化亜鉛と1分子の水素が発生します。工業的には、金属亜鉛と気体の塩化水素を反応させることで製造しています。

電炉ダストから精製塩化亜鉛や高純度亜鉛を得るためのリサイクル工程では、粗酸化亜鉛に塩素ガスを作用させて塩化亜鉛を生成します。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0566.html

塩化ベンゾイル

塩化ベンゾイルとは

塩化ベンゾイル (英: benzoyl chloride) とは、最も簡単な芳香族酸ハロゲン化物の1つで、刺激臭のある無色の液体です。

安息香酸から誘導される酸塩化物で、別名ベンゾイルクロリドとも呼ばれます。モル質量は140.6g/mol、融点は-1℃、沸点は197℃、CAS番号は98-88-4です。

塩化ベンゾイルは、カルボン酸の塩素化反応を用いて合成することができ、具体的には安息香酸に五塩化リン塩化チオニルホスゲンなどを作用させることよって合成されます。トリクロロメチルベンゼンの部分加水分解反応によっても合成することができます。

塩化ベンゾイルの性質

塩化ベンゾイルは、水と徐々に反応し、安息香酸と塩化水素になるため、保存する際には空気に触れないことや、その他の物質に触れないように注意することが必要です。

また、催涙性を有し、皮膚・目・粘膜を刺激する有毒な物質であるため、取り扱う際には手袋を着用し、目の保護のために保護メガネを装備する必要があります。分解した際に生じる塩化水素や二酸化硫黄も腐食性を持ち、非常に有害な気体であるので、取り扱う場合には注意が必要です。

72℃以上では蒸気/空気の爆発性混合気体を生じることがあるため、換気および防爆型電気設備の用意が必須です。

塩化ベンゾイルの使用用途

塩化ベンゾイルの使用用途は下記の通りです。

1. 有機化学

塩化ベンゾイルの持つ酸化チオニル部分 (-COCl) は非常に反応性が高いため、さまざまな求核剤と反応を起こします。例えば、メタノールエタノールなどのアルコールと反応し、安息香酸メチルエステルや安息香酸エチルエステルと塩化水素を生じるといったエステル化の反応を起こします。フェノールやアミン等とも反応し、ベンゾイル誘導体を作ります。

非常に高い反応性を持つ求電子剤であるため、酸素や窒素などのヘテロ原子との結合だけでなく、炭素‐炭素を形成することを非常に得意としている分子です。そのため、種々の有機化合物にベンゾイル基を導入するベンゾイル化剤として、塩化ベンゾイルが使用されています。

しかし、チオニル基を持つためあらゆる物質との反応性が非常に高くなっており、期待していない反応が起こらないように気を付けることが必要です。ナトリウムアジドと塩化ベンゾイルを反応させたのち、加熱することで一炭素減少したアミンを合成するというクルチウス転移という反応の原料としても用いられます。

この反応はアミンを立体特異的に合成することができる貴重な反応であり、インフルエンザの治療薬であるタミフルの合成ルートにも用いられています。塩化ベンゾイルはベンゼン環を含むため、ベンゼン環上にフリーデルクラフツアルキル化やアシル化などのさまざまな反応をを起こすことができ、有機化学合成の様々な場面で用いられます。

2. 物質の合成

塩化ベンゾイルと過酸化ナトリウムを反応させることで、過酸化ベンゾイルに変換することができます。過酸化ベンゾイルは非常に反応性に富むペルオキシドと呼ばれる化合物の一種で、ラジカルを利用した重合反応の開始剤としても用いられます。

不飽和ポリエステル等の橋かけ硬化剤、酸化漂白剤にも使われているほか、様々な染料・薬品・香料等の合成原料、特に、アントラキノン系建染め染料の合成中間体として、重要な物質とされています。

塩化ベンゾイルのその他情報

法規情報

塩化ベンゾイルは消防法にて「第4類引火性液体、第三石油類非水溶性液体」に、毒物及び劇物取締法にて「劇物」に指定されています。労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険有害物」「名称等を通知すべき危険有害物」にそれぞれ指定されており、取り扱いには注意が必要です。 

参考文献
https://cica-web.kanto.co.jp/CicaWeb/msds/J_04135.pdf

塩化パラジウム

塩化パラジウムとは

塩化パラジウム (英: Palladium(II) chloride) とは、貴金属の一種であるパラジウムの塩化物で、組成式PdCl2であらわされる物質です。

二塩化パラジウムという別名で呼ばれることも有り、CAS登録番号は7647-10-1です。塩化パラジウムは、GHS分類において、眼刺激性、呼吸器感作性、皮膚感作性が認められています。

塩化パラジウムの使用用途

塩化パラジウムは、塩化パラジウム自体が有機合成反応のカップリング触媒として用いられる他、Pd(PPh3)4 (テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)) 、 PdCl2(PPh3)2、Pd2(dba)3 などの様々なパラジウム錯体を合成するために用いられます。これは、塩化パラジウムの塩素原子が比較的容易に脱離しやすく、他の官能基を導入することが可能であるためです。

その他の主な使用用途は、水素の検出、写真薬品、着色剤、メッキ (電子部品など) 、導電塗料、導電ペーストなどです。表面処理用途では、特にプラめっき用触媒粒 (析出核) 、パラジウム触媒粒付与液、パラジウムー錫コロイド触媒付与液などに用いられます。

塩化パラジウムを触媒として用いる有機合成反応の例として、ワッカー酸化があります。ワッカー酸化とは、アルケンを酸素によってカルボニル化合物へ酸化する化学反応であり、工業的にも用いられている反応です。また、パラジウム化合物は、その酸化活性、水素化活性の高さから広く触媒に用いられており、有機合成反応におけるカップリング反応触媒や自動車排気ガス浄化触媒などとして知られています。

塩化パラジウムの性質

塩化パラジウムの基本情報

図1. 塩化パラジウムの基本情報

塩化パラジウムは、分子量177.33、融点678℃であり、常温での外観は褐色から暗褐色の粉末です。密度は4g/mLであり、水に溶けにくく、エタノールにもほとんど溶けません。

希塩酸には溶解します。通常の保管環境において安定な化合物で、吸湿性があります。

塩化パラジウムの種類

塩化パラジウムは、研究開発用試薬製品や、産業用製品として一般に販売されています。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、1g、5g、25g、100gなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。通常室温で保管可能な試薬製品として取り扱われる製品です。

2. 産業用製品

産業用製品としては、貴金属化成品、貴金属触媒、表面処理用化学工業薬品などのカテゴリで販売されています。産業用ではあるものの、貴金属であるため1gや5gなどの少量からの提供です。

塩化パラジウムのその他情報

1. 塩化パラジウムの合成

塩化パラジウムは、パラジウム粉末を塩素存在下で王水もしくは塩酸に溶解させることで合成が可能です。その他、パラジウムの発泡金属を塩素ガス中で約500℃に加熱する方法などがあります。

2. 塩化パラジウムを用いたパラジウム錯体の合成

塩化パラジウムを用いたパラジウム錯体の合成 (1)

図2. 塩化パラジウムを用いたパラジウム錯体の合成

塩化パラジウムは、前述の通り、他のパラジウム錯体を合成する原料として用いられます。例えば、ベンゾニトリル中で塩化パラジウムとトリフェニルホスフィンPPh3を反応させるとPdCl2(PPh3)2 (ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド) を得ることができます。

この中間体を更にトリフェニルホスフィンと反応させることにより、Pd(PPh3)4 (テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)) を得ることが可能です。

3. ワッカー酸化

ワッカー酸化

図3. ワッカー酸化

塩化パラジウムを触媒として用いる代表的な反応にワッカー酸化 (英: Wacker oxidation) があります。本反応は、酸素条件下で塩化パラジウムと塩化銅を触媒として用い、アルケンからカルボニル化合物を得ることができる反応です。

例えば、エチレンを基質として用いると塩化パラジウムが金属パラジウム (Pd(0)) に還元され、アセトアルデヒドが生成します。この時、塩化銅(II)を用いると生成した金属パラジウムが塩化パラジウムに再酸化されるため、塩化パラジウムを触媒化することが可能です。さらに、塩化銅(II)はパラジウムの再酸化によって還元を受け、塩化銅(I)となりますが、酸素によって再酸化されて塩化銅(II)が再生します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-0005JGHEJP.pdf

塩化バリウム

塩化バリウムとは

塩化バリウム (英: Barium chloride) とは、バリウムの塩化物で、組成式BaCl2で表される無機化合物です。

無水物のほかに一水和物や、二水和物が知られています。二水和物が最も広く販売されている物質です。CAS登録番号は、無水物が10361-37-2、二水和物が10326-27-9です。

塩化バリウムは、GHS分類において、急性毒性 (経口) 、皮膚腐食性及び皮膚刺激性、眼刺激性、特定標的臓器毒性 (単回及び反復ばく露) が認められています。

塩化バリウムの使用用途

塩化バリウムの主な使用用途は、有機顔料、製紙充填剤、金属熱処理剤、レントゲン造影剤原料、蛍光体原料などです。

1. バリウム塩原料

最も広く用いられている用途は、他のバリウム塩の原料としての使用です。例えば、塗料、ゴムなどの増量剤やX線造影剤として知られている硫酸バリウムは、工業的には重晶石から得られた硫化バリウムを硫酸ナトリウムと反応させて得られます。塩化バリウムの水溶液と硫酸ナトリウムを用いて共沈反応によって製造する手法も有効です。

2. 硫酸塩の比濁分析

硫酸塩の比濁分析も塩化バリウムの重要な用途の1つです。比濁分析とは、塩化バリウムが硫酸イオンと反応して不溶性の硫酸バリウムを生成する反応を利用して、硫酸イオンの定性および定量分析を行う手法です。

塩化バリウムの性質

1. 塩化バリウム (無水物) の基本情報

塩化バリウム (無水物) の基本情報

図1. 塩化バリウム (無水物) の基本情報

塩化バリウムの無水物は、分子量208.23、融点961℃、沸点1,560℃であり、常温での外観は、白色の固体です。密度は3.9g/mLであり、水によく溶けます (溶解度: 37.0g/100g (25℃)) 。

一方で、アルコールに対する溶解度は低い物質です。水溶液では電離してバリウムイオン (Ba2+) と塩化物イオン (Cl) に電離します。通常の取り扱いにおいて安定な化合物です。

2. 塩化バリウム (二水和物) の基本情報

塩化バリウム二水和物の基本情報

図2. 塩化バリウム二水和物の基本情報

塩化バリウムの二水和物は、分子量244.26、融点962℃、沸点1,560℃であり、常温での外観は白色結晶もしくは白色結晶性粉末です。ただし、121℃で無水物となります。

密度は3.097g/mLで水に溶けやすく、エタノールに極めて溶けにくい物質です。

塩化バリウムの種類

市販されている塩化バリウムの製品には、研究開発用試薬製品や工業用薬品があります。どちらの場合も、塩化バリウム二水和物として販売されている場合が最も多く、メーカーによっては少数ながら無水物や一水和物も販売されています。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬では、塩化バリウム二水和物として販売されている場合が多いです。少数ながら無水物製品も販売されている他、10w/v%の溶液として販売されている場合もあります。

純粋な物質では、容量の種類は25g、100g、500gなどで、主に実験室で取り扱いやすい容量での提供が一般的です。室温で保管可能な試薬製品とされることが多いです。

2. 工業用薬品

工業用薬品としては、ほとんどが二水和物として販売されている他、メーカーによっては一水和物製品も提供があります。工場などでの用途を一般的とする25kgなどの大型容量からでの提供が一般的ですが、各メーカーへの個別の問い合わせが必要です。

塩化バリウムのその他情報

1. 塩化バリウムの合成

塩化バリウムの合成方法 (1)

図3. 塩化バリウムの合成方法

塩化バリウムは、水酸化バリウムや炭酸バリウムと塩酸を反応させることによって合成が可能です。工業的な製造方法としては、重晶石 (硫酸バリウム) を塩化カルシウムと溶融する方法や、硫化バリウム塩酸を反応させる方法などが用いられています。

2. 塩化バリウムの法規制

塩化バリウムは有害な物質であるため、各種法令による規制の対象となっています。例えば、労働安全衛生法においては、名称を表示すべき危険有害物、、名称を通知すべき危険有害物、及びリスクアセスメントを実施すべき危険有害物に指定されています。

また、毒物・劇物取締法における劇物です。法令を遵守して正しく取り扱うことが重要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10361-37-2.html

塩化ニッケル

塩化ニッケルとは

塩化ニッケルとは、ニッケルの塩化物です。

GHS分類で、急性毒性 (経口) 、皮膚刺激性、呼吸器感作性、皮膚感作性、発がん性、生殖毒性、特定標的臓器毒性 (単回、反復ばく露) が認められています。無水物以外にも、一水和物や六水和物が知られています。

他のニッケル塩と同様に、発癌性物質です。塩化ニッケルの法分類は、労働安全衛生法で「名称等を表示・通知すべき危険物および有害物」に指定されています。化審法では「優先評価化学物質」、PRTR法では「特定第1種指定化学物質」に指定されています。

塩化ニッケルの使用用途

工業的に塩化ニッケルは、アンモニアガス吸収剤、ニッケルめっき、染料、電池などに用いることが可能です。錯体化学ではニッケル錯体の前駆体として、さらに有機合成で添加剤や試薬としても広く知られています。

特に大部分は、ニッケルめっきに使用されており、陽極の金属ニッケルを溶かし、さらに液の溶解度を増やす働きがあります。すなわち、めっき浴ではニッケルイオンの供給源です。

その一方で、塩化物イオンを共有する役割を持っており、塩化物イオンの腐食性で陽極のニッケルがイオンとして溶解を促進します。

塩化ニッケルの性質

塩化ニッケルは、淡黄橙色の塊状、結晶、粉末であり、吸湿性があります。融点は1,001°Cです。一般的に広く用いられる六水和物の外観は、緑~黄緑の結晶です。潮解性があり、水やアルコールによく溶けます。

2価のニッケルは不対電子を2つ有し、平面4配位のニッケル錯体は反磁性を示します。

塩化ニッケルの構造

塩化ニッケルの化学式は、NiCl2で表されます。無水塩の式量は129.59、比重は3.55であり、六水和物の式量は237.69、比重は1.92です。

結晶構造は、塩化カドミウムと同じです。それぞれのNi2+中心に6つのClイオンが配位し、それぞれのClは3つのNi2+と結合しています。Ni−Cl結合はイオン性です。

六水和物であるNiCl2•6H2Oは、水分子6つの中で4つだけがニッケルに直接結合しています。すなわち、錯体部分のtrans-[NiCl2(H2O)4]と錯体に弱く結合した水分子2つから構成される結晶構造を有します。

塩化ニッケルのその他情報

1. 塩化ニッケルの合成法

塩化ニッケルの製造方法には、金属ニッケル、酸化ニッケル、または炭酸ニッケルを塩酸に溶解して水和物を得た後、塩化水素の気流下で加熱して得る方法が知られています。

水和物は、加熱だけでは無水物になりません。緑から黄に色が変わるため、脱水が確認できます。

2. 塩化ニッケルを用いた反応

塩化ニッケルを用いた反応

図1. 塩化ニッケルを用いた反応

塩化ニッケルや水和物は、さまざまな有機合成反応に利用可能です。例えば、弱いルイス酸として、ジエノールの位置異性化に用いられます。

塩化クロム(II) (CrCl2) と組み合わせて、ヨウ化ビニル化合物とアルデヒドからアリルアルコールを合成できます。水素化リチウムアルミニウム (LiAlH4) での還元での添加剤のほか、水素化ホウ素ナトリウム (NaBH4) の反応でのホウ化ニッケルの調製などにも使用可能です。

3. 塩化ニッケルの錯体

塩化ニッケルの錯体

図2. 塩化ニッケルから得られる錯体

塩化ニッケル六水和物のH2Oは、容易にアンモニア、アミン、ホスフィン、チオエーテル、チオラートなどに置換されます。錯体の具体例として、紫色の八面体型の[Ni(NH3)6]Cl2、オレンジ色の平面4配位のNiCl2(Ph2PCH2CH2PPh2)、無色の平面4配位の[Ni(CN)4]2-、青色の四面体型の[NiCl4]2-などが挙げられます。

4. 塩化ニッケル錯体を用いた反応

塩化ニッケル錯体を用いた反応

図3. 塩化ニッケル錯体を用いた反応

NiCl2-glyme錯体は、六水和物と比べて溶解しやすいため、反応に使用されます。そのほか、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル (Ni(cod)2) は多種多様な用途があります。塩化ニッケルから、Ni(cod)2の前駆体であるニッケル(II)アセチルアセトナート (Ni(acac)2) が合成可能です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7718-54-9.html

塩化チオニル

塩化チオニルとは

塩化チオニルの基本情報

図1. 塩化チオニルの基本情報

塩化チオニルとは、発煙性をもった刺激臭のある無色の液体です。

別名、塩化スルフォニル (英: sulfinyl chloride) やチオニルクロリド (英: thionyl chloride) とも呼ばれます。液体や蒸気の塩化チオニルは皮膚や粘膜を侵すため、有毒な物質です。

塩化チオニルは、毒物及び劇物取締法にて「劇物」に、労働安全衛生法にて「名称等を表示すべき危険物及び有害物」「名称等を通知すべき危険物及び有害物」にそれぞれ指定されており、取り扱いには注意が必要です。

塩化チオニルの使用用途

塩化チオニルは、染料・医療・農薬などの有機合成において、水酸基やメルカプト基を塩素原子で置換する際に用いられています。また、グリニャール試薬と反応させ、スルホン基を導入するのにも、塩化チオニルが使用可能です。その他、無水の金属ハロゲン化物を得るための脱水剤としても使用されています。

液体状の塩化チオニルは、塩化チオニルリチウム電池の正極活物質として重宝されています。塩化チオニルリチウム電池は、メモリICのバックアップ用をはじめ、エレクトロニクス機器電源、電力、ガス、水道メーター用電源などに広く利用されています。

塩化チオニルの性質

塩化チオニルには発煙性や刺激臭があり、融点は–104.5℃、沸点は76℃です。140℃以上に加熱すると分解し始めて、完全に分解するのは500℃です。塩化チオニルの分解によって、二酸化硫黄 (SO2) 、二塩化二硫黄 (S2Cl2) 、塩素 (Cl2) が生成します。

塩化チオニルはベンゼンクロロホルム等の溶媒と混合します。また、水と激しく発熱しながら反応して、塩化水素 (HCl) と二酸化硫黄 (SO2) を生じます。

塩化チオニルの構造

塩化チオニルの詳細な構造

図2. 塩化チオニルの詳細な構造

塩化チオニルは亜硫酸の酸塩化物のような化合物であり、化学式はSOCl2、分子量は118.97で、比重が1.65g/cm3の液体です。硫黄-酸素結合 (S-O) はおよそ143pmで、硫黄-塩素結合 (S-Cl) の長さはおよそ207pmです。

塩化チオニルの分子は三角錐形を取っています。∠O-S-Clと∠Cl-S-Clは、それぞれ107.4°と96.5°です。

塩化チオニルのその他情報

1. 塩化チオニルの合成法

塩化チオニルは、五塩化リン (PCl5) と二酸化硫黄 (SO2) の反応によって生じる塩化ホスホリル (POCl3) を蒸留で分離することにより得られます。また、三酸化硫黄 (SO3) と二塩化硫黄 (SCl2) の反応でも、塩化チオニルが生成可能です。

三酸化硫黄の代わりに、発煙硫酸 (英: Oleum) やクロロスルホン酸 (ClSO3H) で酸化しても製造できます。塩化アンチモンなどの触媒を使用すると反応しやすいです。

さらに、活性炭触媒を用いて二酸化硫黄 (SO2) と四塩化硫黄 (SCl4) の混合物を反応させて生成物を蒸留しても、塩化チオニルを得られます。

2. 塩化チオニルの反応

塩化チオニルとアルコールの反応

図3. 塩化チオニルとアルコールの反応

カルボン酸やアルコールの塩素化に、塩化チオニルがよく用いられています。他のハロゲン化剤とは異なり、反応による生成物がHClやSO2のようなガスであり、塩化チオニルが低沸点なので、反応系から除去することが容易です。

それに加えて塩化チオニルを用いたアルコールの塩素化は、他の塩素化剤のようにSN1反応やSN2反応では進行しません。したがって、ワルデン反転 (英: Walden inversion) することなく、反応が立体保持で起こります。反応機構として、四員環遷移状態が提唱されており、SNi機構と呼ばれています。

3. 塩化チオニルの保管

容器を密閉し、湿気や直射日光を避け、換気の良い冷暗所に保管することが推奨されています。水分に触れると加水分解が起こり、激しく反応すると塩酸が生成します。

参考文献
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/20126250.pdf