塩化パラジウム

塩化パラジウムとは

塩化パラジウム (英: Palladium(II) chloride) とは、貴金属の一種であるパラジウムの塩化物で、組成式PdCl2であらわされる物質です。

二塩化パラジウムという別名で呼ばれることも有り、CAS登録番号は7647-10-1です。塩化パラジウムは、GHS分類において、眼刺激性、呼吸器感作性、皮膚感作性が認められています。

塩化パラジウムの使用用途

塩化パラジウムは、塩化パラジウム自体が有機合成反応のカップリング触媒として用いられる他、Pd(PPh3)4 (テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)) 、 PdCl2(PPh3)2、Pd2(dba)3 などの様々なパラジウム錯体を合成するために用いられます。これは、塩化パラジウムの塩素原子が比較的容易に脱離しやすく、他の官能基を導入することが可能であるためです。

その他の主な使用用途は、水素の検出、写真薬品、着色剤、メッキ (電子部品など) 、導電塗料、導電ペーストなどです。表面処理用途では、特にプラめっき用触媒粒 (析出核) 、パラジウム触媒粒付与液、パラジウムー錫コロイド触媒付与液などに用いられます。

塩化パラジウムを触媒として用いる有機合成反応の例として、ワッカー酸化があります。ワッカー酸化とは、アルケンを酸素によってカルボニル化合物へ酸化する化学反応であり、工業的にも用いられている反応です。また、パラジウム化合物は、その酸化活性、水素化活性の高さから広く触媒に用いられており、有機合成反応におけるカップリング反応触媒や自動車排気ガス浄化触媒などとして知られています。

塩化パラジウムの性質

塩化パラジウムの基本情報

図1. 塩化パラジウムの基本情報

塩化パラジウムは、分子量177.33、融点678℃であり、常温での外観は褐色から暗褐色の粉末です。密度は4g/mLであり、水に溶けにくく、エタノールにもほとんど溶けません。

希塩酸には溶解します。通常の保管環境において安定な化合物で、吸湿性があります。

塩化パラジウムの種類

塩化パラジウムは、研究開発用試薬製品や、産業用製品として一般に販売されています。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、1g、5g、25g、100gなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。通常室温で保管可能な試薬製品として取り扱われる製品です。

2. 産業用製品

産業用製品としては、貴金属化成品、貴金属触媒、表面処理用化学工業薬品などのカテゴリで販売されています。産業用ではあるものの、貴金属であるため1gや5gなどの少量からの提供です。

塩化パラジウムのその他情報

1. 塩化パラジウムの合成

塩化パラジウムは、パラジウム粉末を塩素存在下で王水もしくは塩酸に溶解させることで合成が可能です。その他、パラジウムの発泡金属を塩素ガス中で約500℃に加熱する方法などがあります。

2. 塩化パラジウムを用いたパラジウム錯体の合成

塩化パラジウムを用いたパラジウム錯体の合成 (1)

図2. 塩化パラジウムを用いたパラジウム錯体の合成

塩化パラジウムは、前述の通り、他のパラジウム錯体を合成する原料として用いられます。例えば、ベンゾニトリル中で塩化パラジウムとトリフェニルホスフィンPPh3を反応させるとPdCl2(PPh3)2 (ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド) を得ることができます。

この中間体を更にトリフェニルホスフィンと反応させることにより、Pd(PPh3)4 (テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)) を得ることが可能です。

3. ワッカー酸化

ワッカー酸化

図3. ワッカー酸化

塩化パラジウムを触媒として用いる代表的な反応にワッカー酸化 (英: Wacker oxidation) があります。本反応は、酸素条件下で塩化パラジウムと塩化銅を触媒として用い、アルケンからカルボニル化合物を得ることができる反応です。

例えば、エチレンを基質として用いると塩化パラジウムが金属パラジウム (Pd(0)) に還元され、アセトアルデヒドが生成します。この時、塩化銅(II)を用いると生成した金属パラジウムが塩化パラジウムに再酸化されるため、塩化パラジウムを触媒化することが可能です。さらに、塩化銅(II)はパラジウムの再酸化によって還元を受け、塩化銅(I)となりますが、酸素によって再酸化されて塩化銅(II)が再生します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-0005JGHEJP.pdf

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