ジエチレントリアミン

ジエチレントリアミンとは

ジエチレントリアミン (英: Diethylenetriamine) とは、化学式C4H13N3、示性式HN(CH2CH2NH2)2であらわされる有機化合物です。

一級アミンに分類される化合物であり、別名には、2,2′-イミノジエチルアミン、2,2′-ジアミノジエチルアミン、ビス(2-アミノエチル)アミンなどの名称が有り、DETAと略されることもあります。CAS登録番号は、111-40-0です。

化学的性質はエチレンジアミンに類似しており、同じような用途で用いられます。分子骨格はジエチレングリコールに類似していると捉えられることもあります。

ジエチレントリアミンの使用用途

ジエチレントリアミンの主な使用用途は、紙湿潤強化剤、エポキシ樹脂硬化剤、キレート剤イオン交換樹脂、繊維処理剤、有機合成材料などです。このうち紙湿潤強化剤は、最も多くのジエチレントリアミンを消費している用途です。

ジエチレントリアミンをアジピン酸と反応させ、エピクロルヒドリンを付加することによって合成されるポリアミド樹脂に使用されています。繊維処理剤としては、防しわ剤、界面活性剤、染料固着剤などの製品があります。

また、農薬関係では、殺菌剤、殺虫剤、除草剤などの用途でも用いられる物質です。特に身近な使用用途としては、エポキシ樹脂系の接着剤や熱硬化樹脂の硬化剤が挙げられます。これらの製品はジエチレントリアミンがエポキシド基と反応することによって、架橋構造が形成される原理を利用したものです。

ジエチレントリアミンの性質

ジエチレントリアミンの基本情報

図1. ジエチレントリアミンの基本情報

ジエチレントリアミンの分子量は103.17、融点-39.0℃、沸点204.1℃であり、常温での外観は、無色~黄色の粘調性液体です。アミン臭を有します。

水に極めて溶けやすく、エタノール及びアセトンに溶けやすい物質です。極性溶媒に溶けるものの、単純な炭化水素には溶けない性質を持ちます。密度は0.955g/mLです。弱塩基であり、水溶液は弱いアルカリ性を示します。

ジエチレントリアミンの種類

ジエチレントリアミンは主に研究開発用試薬製品として販売されている物質です。容量の種類には、5mL、25mL、100mL、1L、2.5L、18Lなどがあります。

実験室で取り扱いやすい容量での提供が一般的ですが、比較的大きな容量でも提供されており、安価な試薬製品と言えます。通常、室温で保管可能な試薬製品としての提供です。

ジエチレントリアミンのその他情報

1. ジエチレントリアミンの合成

ジエチレントリアミンの合成

図2. ジエチレントリアミンの合成

ジエチレントリアミンの合成方法は、1,2-ジクロロエタンとアンモニアとの反応によって得る方法やモノエタノールアミンとアンモニアを水添触媒下で反応させて得る方法などがあります。工業的には、ジエチレントリアミンは、1,2-ジクロロエタンからエチレンジアミンを製造する際に、副産物として得られる物質です。

2. ジエチレントリアミンの化学反応

ジエチレントリアミンのエポキシド基との反応 (上) と金属錯体の例 (下)

図3. ジエチレントリアミンのエポキシド基との反応 (上) と金属錯体の例 (下)

ジエチレントリアミンは、エポキシド基と反応してN-アルキル化され、架橋を形成します。この反応は、エポキシ樹脂の接着剤などの硬化剤に利用される一般的な反応です。

また、ジエチレントリアミンは、配位化学における金属錯体の配位子としても利用されています。例えば、Co(Dien)(NO2)3 のように三座配位子として配位します。

3. ジエチレントリアミンの有害性情報

ジエチレントリアミンは、有害性が認められている物質です。具体的には、GHS分類において下記のような有害性が指摘されています。

  • 急性毒性 (経口) : 区分4
  • 急性毒性 (経皮) : 区分3
  • 急性毒性 (吸入:蒸気) : 区分2
  • 皮膚腐食性・刺激性: 区分1A
  • 眼に対する重篤な損傷・眼刺激性: 区分1
  • 呼吸器感作性: 区分1
  • 皮膚感作性: 区分1
  • 生殖毒性: 区分1B

4. ジエチレントリアミンの法規制情報

ジエチレントリアミンは前述の有害性により、法令によって規制されている物質です。労働安全衛生法においては名称等を表示・通知すべき有毒物に指定されています。

また、化審法では第2種監視化学物質であり、消防法では 第4類引火性液体、第三石油類水溶性液体、PRTR法では第1種指定化学物質に指定されています。これらの法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0084.html

ジイソプロピルエチルアミン

ジイソプロピルエチルアミンとは

ジイソプロピルエチルアミンの構造

図1. ジイソプロピルエチルアミンの構造

ジイソプロピルエチルアミン (英: N,N-diisopropylethylamine) とは、窒素原子上に2つのイソプロピル基と1つのエチル基を有する有機化合物です。

ジイソプロピルエチルアミンは、イソプロピル基の効果によって立体的にかさ高い構造であるため、求核性の低いアミンとして医薬品の製造や有機合成研究に使用されています。ジイソプロピルエチルアミンの主な製造方法として、ジイソプロピルアミンをジエチル硫酸やヨウ化エチルでエチル化する方法が有名です。

ジイソプロピルエチルアミンは消防法において「危険物第4類第一石油類」、労働安全衛生法において「危険物・引火性の物」に指定されています。

ジイソプロピルエチルアミンの使用用途

ジイソプロピルエチルアミンとトリエチルアミンの構造比較

図2. ジイソプロピルエチルアミンとトリエチルアミンの構造比較

ジイソプロピルエチルアミンは、主に有機合成用試薬として化成品や医薬品合成に使われています。トリエチルアミンによく似た分子構造を持ち、かさ高いイソプロピル基を2つ持つ求核性が低い塩基です。

ジイソプロピルエチルアミン自身がN‐アルキル化を受けにくいため、アルキル化反応などにも使用されており、特にペプチドをはじめとする生理活性物質の合成に汎用的に用いられています。具体的には、環状ペプチドの固相法を用いた合成に利用されるオキシム樹脂の製造や、ペプチドのカップリング試薬として知られる1-ヒドロキシベンゾトリアゾール (HOBt) 、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール (HOAt) のベンゾトリアゾール誘導体の製造などです。

また、実験室レベルでの有機合成研究においても、ジイソプロピルエチルアミンは、かさ高い塩基の1つとして有機反応によく使用される一般的な試薬です。

ジイソプロピルエチルアミンの性質

ジイソプロピルエチルアミンは、エタノールやアセトンに良く溶ける一方で、水には溶けにくいという性質を持っています。また、引火性がある危険物です。引火を防ぐため、高温の熱源や火花など着火源をジイソプロピルエチルアミンには近付けないようにしてください。

その他、皮膚や眼への付着による損傷、経口摂取による急性毒性などにも注意が必要です。ジイソプロピルエチルアミンを取り扱う際には、保護手袋・保護衣・保護眼鏡など、皮膚と眼を守る保護具の着用が推奨されています。

催涙性のあるアミン臭も有するため、よく換気された実験環境で取り扱うことが大切です。なお、保管する際は、光によって分解される可能性のある化合物であるため、容器を遮光し、換気の良い冷暗所が適しています。

化学式 C8H19N
日本語名 ジイソプロピルエチルアミン
英語名 N,N-diisopropylethylamine
CAS番号 7087-68-5
分子量 129.24g/mol
融点 −50℃
沸点 127℃

ジイソプロピルエチルアミンのその他情報

1. ジイソプロピルエチルアミンの別名

ジイソプロピルエチルアミンの正式名称は、N,N-ジイソプロピルエチルアミンです。ジイソプロピルエチルアミンの略称はDIPEAで、有機合成の論文などで一般名として使用されています。

また、ジイソプロピルエチルアミンの別名は、N-エチルジイソプロピルアミンやヒューニッヒ塩基 (英: Hunig’s Base) です。ヒューニッヒ塩基というのはドイツの化学であるジークフリート・ヘルムート・ヒューニッヒに由来する名称で、こちらも有機合成の分野で一般的に広く使用されています。

安全データシートや日本国内の大手試薬メーカーのウェブサイトでは、主に正式名称である「N,N-ジイソプロピルエチルアミン」が使用されています。

2. 廃棄処分方法

ジイソプロピルエチルアミンは、水生生物への毒性を有します。そのため、ジイソプロピルエチルアミンを廃棄処分する場合は、都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼して適切に処分してください。

ジアゾニウム

ジアゾニウムとは

ジアゾニウムとは分子内にNN三重結合を有する窒素化合物の総称です。この官能基は、1価のカチオンとなるため、通常のジアゾニウム化合物は、ジアゾニウム塩として存在し、さらに三重結合を分子内に含むことから反応性が非常に高くなります。単離物は、爆発性を有することでも知られています。そのため、通常は、単離せずに合成した反応系中、溶液状態のまま用いられます。

基質として電子吸引基を有するアリール基を用い、陰イオンにテトラフルオロホウ素(BF3)を用いることによって安定化させることが可能です。この一例として、p-モノホリノベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩が市販されています。この化合物の法規制は、消防法において第5類に指定されており、毒物および劇物取締法においては劇物に該当します。また、PRTR法では、第1種指定化学物質に指定されています。

ジアゾニウムの使用用途

ジアゾニウムは、分子内に高い反応性を有するNN三重結合を有するため、単体ではほぼ利用されず、反応中間体として用いられます。ジアゾ基を用いた反応は、多く知られており、頻繁に用いられる例としてザンドマイヤー反応などの芳香族置換反応、ジアゾカップリングなどが挙げられます。

これらの反応は、種々の医薬品や機能性材料の合成に用いられますが、特に有名な使用例としてアゾ染料の合成があります。アゾ染料とは構造中にアゾ基を有する染料の総称であり、ジアゾニウムとフェノール類、または芳香族アミン類とのカップリング反応によって得られます。合成染料の半数以上がアゾ染料に属しているといわれ、工業的に非常に重要な化合物です。

ジアセトンアルコール

ジアセトンアルコールとは

ジアセトンアルコール (英: Diacetone alcohol) とは、化学式C6H12O2であらわされる有機化合物です。

一分子中にケトンとアルコールの両方の官能基を有し、アセトンが縮合した分子構造に相当します。別名には、DAAの略称や4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンなどの名称があります。CAS登録番号は123-42-2です。

ジアセトンアルコールの使用用途

ジアセトンアルコールの主な使用用途は、 油脂、樹脂、ニトロセルロース等の溶媒、及び、印刷インキ、コーティング加工用樹脂、金属加工液、潤滑剤、洗浄剤などです。ジアセトンアルコールは、低蒸気圧の高沸点溶剤であるという特徴を持ち、有機重質液体の粘度低下および粘度に対する温度の影響を少なくするのに優れた効果があります。

具体的には特に、セルロースエステルラッカー、印刷インキ、アルキドおよびビニル系樹脂塗料、脂肪、エポキシ樹脂などの溶剤、水硬剤、写真用フィルム、氷結防止剤、人工シルク、レザーなどの製造に用いられています。また、ジアセトンアルコールは、各有機化合物の原料としても用いられる物質です。

特に重要な生成化合物として、溶媒、塗料の原料として用いられるメチルイソブチルケトン、電子材料用途などに用いられるメチルイソブチルカルビノール、浸透剤や洗剤の原料として用いられるへキシレングリコールなど、が挙げられます。

ジアセトンアルコールの性質

ジアセトンアルコールの基本情報

図1. ジアセトンアルコールの基本情報

ジアセトンアルコールは、分子量116.16、融点-44℃、沸点167.9℃であり、常温での外観は無色の液体です。臭いはほぼ無く、一般的な取り扱いにおいては安定な化合物です。

水への溶解度は、1.00×106mg/Lであり、アルコール、エーテルに混和します。密度は 0.93g/mL、引火点は66℃、自然発火温度は603℃です。

ジアセトンアルコールの種類

ジアセトンアルコールは、一般的に研究開発用試薬製品や、工業用薬品などとして販売されている物質です。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、500mL、15kgなどの容量の種類があります。実験室で取り扱いやすい容量で取り扱われることが多いですが、比較的大きな容量での提供もあり、安価な試薬製品です。通常は、室温で保管可能な試薬製品としての提供となります。

2. 工業用薬品

工業用薬品としては、主に溶剤 (特に塗料の溶剤、グラビアインクの溶剤、接着剤の溶剤、殺虫剤の溶剤、 写真フィルムの原料など) の用途を想定して販売されている物質です。荷姿としては16kg石油缶、196kgドラム、1,000Lコンテナなどがあります。

ジアセトンアルコールのその他情報

1. ジアセトンアルコールの合成

ジアセトンアルコールの合成

図2. ジアセトンアルコールの合成

ジアセトンアルコールは、アセトン2分子が縮合した構造を有しており、工業的にもアセトンをに二量化する方法で合成されます。具体的には、水酸化バリウムなどの塩基を触媒としてアセトンにアルドール縮合を行わせる方法が一般的です。

2. ジアセトンアルコールの化学反応

ジアセトンアルコールの脱水反応

図3. ジアセトンアルコールの脱水反応

ジアセトンアルコールは、加熱、燃焼や、酸、塩基、アミンとの接触により、分解してアセトンとメシチルアルコールを生じます。また、酸化剤と激しく反応し、引火性/爆発性の気体 (水素) を生成する性質があります。混触危険物質は 酸、塩基、アミン、酸化剤であり、危険有害な分解生成物はアセトン、メシチルアルコール、水素です。

また、ジアセトンアルコールに触媒量のヨウ素を加えることによって脱水反応が起こり、メシチルオキシドが生成します。

3. ジアセトンアルコールの危険性と法規制情報

ジアセトンアルコールは、GHS分類において引火性液体、皮膚腐食性/刺激性、眼刺激性、生殖毒性、特定標的臓器・全身毒性に分類されています。

これらの危険性により、ジアセトンアルコールは法令によって規制を受ける物質です。労働安全衛生法において危険物・引火性の物、また名称等を表示・通知すべき危険有害物に指定されており、リスクアセスメントを実施すべき危険有害物、および消防法において、第4類第二石油類に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが重要です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0108-0985JGHEJP.pdf

システアミン

システアミンとは

システアミン (英: Cysteamine) とは、不快臭のある白色の水溶性固体です。

アミンとチオールの両方の官能基を含む有機化合物で、化学式はHSCH2CH2NH2、分子量は77.15、CAS登録番号は60-23-1で表されます。2-アミノエタンチオールとも呼ばれるアミノチオールであり、システインの分解生成物です。

通常は、塩酸塩 (化学式: HSCH2CH2NH3Cl、CAS登録番号156-57-0) の形で取り扱われます。塩酸塩の外観は、白色~薄褐色の結晶であり、光により変質する恐れがあります。

システアミンは、1950年代にシスチン症に対する治療効果に関する最初の証拠となる報告がなされ、1994年に米国でシスチン症の薬として最初に承認された有機化合物です。

システアミンの使用用途

システアミンの使用用途は、医薬品、放射線治療などです。

1. 医薬品

医薬品としては、シスチン症の治療薬として知られ、これは、システアミンがシスチンのジスルフィド結合に対して作用し、開裂させることができるためです。

2. 放射線治療

放射線治療の用途では、いわゆるラジカルスカベンジャーとして働き、放射線の間接作用によって生じるラジカルの除去に寄与します。

3. パーマ液・美白用化粧品

システアミンの身近な用途として、パーマ液や美白用化粧品が挙げられます。これも毛髪などのシスチン結合に対して、システアミンが還元剤として働くためです。システアミン系の還元剤は、比較的毛髪などへのダメージが少ないといわれていますが、アレルギー性接触皮膚炎を起こしやすい可能性が指摘されており、注意が必要です。

また、システアミンには、ハイドロキノンと同等以上の脱色効果があることが古くから知られていましたが、その化学構造上の特徴から、システアミンは強い還元力を持ち、空気に接触すると直ちに酸化してしまうため、外用剤を製剤化することが困難でした。しかし、システアミン分子を安定化させ、臭気も大幅に抑える技術を開発した結果、商品化に成功しています。

システアミンの性質

システアミンの融点は98℃、沸点は分解するため観測できません。また、システアミンは水への溶解性が高く、メタノールやエタノールに溶かすことができます。

システアミンは医薬品として、アミノ酸システインの酸化二量体であるシスチンの異常な蓄積を特徴とするリソソーム蓄積性疾患である、シスチン症を治療することが示されています。システアミンは徐放性カプセルなどの経口薬および点眼薬として入手可能で、病気を持つ人々の細胞に蓄積する過剰なシスチンを取り除くことができます。

また、生物学的機能として細胞へのL-システインの輸送を促進し、さらにグルタチオンの合成に使用可能です。グルタチオンは、最も強力な細胞内抗酸化物質のうちの1つで、様々な毒物・薬物・伝達物質等を細胞外に排出する性質もあます。

システアミンのその他情報

1. システアミンの製法

システアミンの製造方法としては、クロロエチルアミン塩酸塩とメルカプトチアゾリンを反応させて得られた2-(2-アミノエチルチオ)チアゾリン二塩酸塩を塩酸で加水分解する方法などが知られています。

2. 法規情報

システアミンは、労働安全衛生法、労働基準法、PRTR法、毒物および劇物取締法などの主要な国内の法規制において、いずれも非該当です。ただし、システアミンは、GHS分類において急性毒性に分類されていますので、取り扱いには注意が必要です。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣、保護面を着用する。
  • 粉塵を吸い込まないよう、充分注意する。吸入などして気分が悪い時は、医師の診断、手当てを受ける。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、速やかに水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/60-23-1.html

シクロペンテン

シクロペンテンとは

シクロペンテンとは、化学式C5H8で表される有機化合物で、五員環構造を有するシクロアルケンです。

CAS登録番号は、142-29-0です。ガソリンに不純物として含まれている物質で、通常は1%以下の濃度を保っています。

シクロペンテンの使用用途

シクロペンテンの主な使用用途は、化学合成の原料です。特に、各種プラスチックやゴム材料の出発モノマーなどに用いられます。シクロペンテンは、ナフサ分解時に得られるC5留分から大量に得ることが可能な、入手性の高い物質です。

また、分子内に活性な二重結合を有することから、さまざまな用途での使用が研究開発されています。
シクロペンテンを原料として得られる具体的な物質には、シクロペンテンを開環メタセシス重合して得られるシクロペンテンゴムや、抗がん剤や抗ウイルス活性を持つ医薬品として知られるNeplanocin Aなどが知られています。

シクロペンテンゴムは強度、加工性、耐老化性、耐磨耗性の優れたゴムとして有用です。

シクロペンテンの性質

シクロペンテンの基本情報

図1. シクロペンテンの基本情報

シクロペンテンは、分子量68.11、融点-135℃、沸点44℃であり、常温での外観は、無色の液体です。刺激性のある穏やかな甘い臭いを有しています。

密度は0.744g/mL、エタノール、ジエチルエーテル、ベンゼン、四塩化炭素、石油エーテルに可溶です。引火点は-29℃、自然発火温度は395℃となっており、引火性及び可燃性の高い物質です。

シクロペンテンの種類

シクロペンテンは、主に研究開発用試薬製品や工業薬品などとして販売されている物質です。

1. 研究開発用試薬製品

シクロペンテンは、研究開発用試薬製品としては、25mL、100mL、500mLなどの容量の種類がある物質です。実験室で取り扱いやすい容量での提供が一般的です。通常、2-8℃などの冷蔵で保管されます。

2. 工業薬品

工業薬品としては、シクロペンテンは130kgドラムスチールなどの荷姿で販売されています。化学工業における、モノマーとしての用途が想定されている物質です。

シクロペンテンのその他情報

1. シクロペンテンの合成

シクロペンテンの合成

図2. シクロペンテンの合成

シクロペンテンの主な工業的合成方法は、ナフサなどの熱分解です。実験室的製法では、シクロペンタジエンを原料にした触媒的水素添加方法による合成が一般的と言えます。また、ビニルシクロプロパンの転位反応 (ビニルシクロプロパン-シクロペンテン転位) によっても合成が可能です。

2. シクロペンテンの化学反応

シクロペンテンのヒドロカルボキシル化反応

図3. シクロペンテンのヒドロカルボキシル化反応

シクロペンテンをチーグラー・ナッタ触媒 (Ziegler-Natta catalyst) を用いて重合させると、1,3-重合反応が起こることが知られています。また、パラジウム触媒を用いてシクロペンテンのヒドロカルボキシル化反応を行うと、シクロペンタンカルボン酸が生成します。

3. シクロペンテンの危険性

シクロペンテンは、前述の通り引火性の高い物質です。GHS分類では以下に指定されています。

  • 引火性液体: 区分2
  • 自己反応性化学品: タイプG

熱、火花、裸火、高温のもののような着火源からは遠ざけることが必要です。また、取り扱いに当たっては、保護手袋、保護眼鏡、保護面などの適切な個人用保護具を着用し、防爆型の電気機器、換気装置、照明機器を使用するなど適切な環境を整えることも重要です。

火花を発生させない工具を使用したり、静電気放電に対する予防措置を講児たりする必要があります。保管に当たっては、換気の良い場所で保管し、涼しいところに置くことが求められます。

4. シクロペンテンの法規制情報

シクロペンテンは前述の危険性のため、法令によって規制を受ける化合物です。労働安全衛生法においては、危険物・引火性の物に指定されており、消防法において第4類第一石油類に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/142-29-0.html

シクロペンタノン

シクロペンタノンとは

シクロペンタノンとは、化学式(CH2)4COで表される5員環構造を有する環状ケトンの1つです。

分子量は84.12 g/mol、密度は0.95 g/cm3、融点は-58.2 ℃、沸点は130.6 ℃、CAS番号は120-92-3です。

シクロペンタノンの使用用途

シクロペンタノンの使用用途として、医薬品、殺虫剤、ゴム薬品などの合成中間体が挙げられます。ウェーハ製造などの電子材料分野においては、洗浄剤や溶剤としても有用です。

1. 植物由来物質の原料

シクロペンタノン骨格は、ジャスミンから単離された植物ホルモン様物質であるジャスモン酸に含まれているように、さまざまな植物由来物質の構造中に含まれています。

ジャスモンは、植物ホルモン様の物質であり、果実の熟化促進や老化の促進、休眠状態の打破などを誘導します。また、傷害などのストレスに応じて合成されることから、エチレン、アブシジン酸、サリチル酸などの物質と同じように環境ストレスへの耐性誘導ホルモンとして知られています。

ジャスモン酸は植物体内のどこでも合成されますが、その個体から遠く離れた場所にも輸送されることが可能です。一個体内で輸送される場合には、アルキル末端がヒドロキシ化されてツベロン酸になり、さらに末端ヒドロキシ基にβ-グルコースが結合し配糖体となることで親水性が増加し、植物体内の別の部位へ移動できるようになります。

一方植物個体間での移動は昆虫による摂食傷害を受けた際などに起こり、メチル化されるなどの変換を受けることにで揮発性を増加させ、飛散しやすくすることでシグナルを伝達します。このようなホルモンなど、植物にとって不可欠な物質を合成する際にシクロペンタノンは非常に重要な原料です。

2. 香料の原料

上記で述べたジャスモン酸の類縁体であるジヒドロジャスモン酸メチルや2-ブチルシクロペンタノン、2-ヘキシリデンシクロペンタノン、(Z)-3-(2-オキソプロピル)-2-(ペンタ-2-エン-1-イル)シクロペンタノンおよびMagnolioneなどは、各種香料の原料としても重要であり、合成上の前駆体となります。

3. 金属の洗浄剤

シクロペンタノンは金属材料に付着する各種の油、ワックスの洗浄、さらには電子材料分野でのフラックス洗浄剤としても用いられます。あらゆる金属加工油の脱脂洗浄力、各種フラックス、各種ワックスの溶解力、洗浄力が優れていることです。

また、比較的に沸点が低く乾燥性や回収性が優れていたり、蒸留再生をすることで品質が安定し、リサイクル使用が可能であったり、生分解性が良好で毒性が低かったりすることも理由の1つです。

シクロペンタノンの性質

外観は無色の液体であり、揮発性ではっか類似臭を有しています。シクロペンタノンの製造方法としては、シクロペンタノールを含む触媒下で脱水素化する方法やアジピン酸に水酸化バリウムを加えて加熱することでケトン化を起こす方法などが知られています。

水とはわずかに混ざり合い、エーテルやアルコール、酢酸エチル、ベンゼンなどの溶媒には任意の割合で混ざり合うことが可能です。同じ炭素数をもつ鎖状のケトンである3-ペンタノン (ジエチルケトン) と比較すると、自然発火点が高いことや (ジエチルケトンは常温で自然発火してしまう) 価格が低いことなどから溶媒として用いられる機会は多いです。ただし、通常の有機溶媒の方が使い勝手が良いため、あまり溶媒としては使用されません。

シクロペンタノンのその他情報

シクロペンタノンの危険性

シクロペンタノンは、GHS分類において引火性液体、急性毒性、眼刺激性に分類されています。そのため、保管する際には火気に触れる恐れのない場所で常温保存し、取り扱う際には保護メガネ、白衣、ゴム手袋を必ず着用する必要があります。

シクロペンタノンの法規制は、労働安全衛生法において危険物・引火性の物、また消防法において第4類第二石油類に指定されています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0971JGHEJP.pdf

シクロペンタジエン

シクロペンタジエンとは

シクロペンタジエンとは分子式C5H6であらわされる5員環構造を有する環状ジエンのひとつです。外観は、無色の液体であり、テルペン臭といわれる特徴的な臭気を持ちます。石炭乾留のガス軽油中やナフサ熱分解のC5留分中に含まれるため、工業的にはそれらの分留によって得られます。反応性が高く、室温で容易に二量化し、ジシクロペンタジエンを生成します。ジシクロペンタジエンは、加熱することによって、再度シクロペンタジエンに分解するため、実験室などでの使用は、安定なジシクロペンタジエンから都度、加熱調整することが一般的です。

シクロペンタジエンは、GHS分類において、引火性液体、急性毒性、眼刺激性、特定標的臓器毒性・全身毒性(単回・反復ばく露)に分類されています。

シクロペンタジエンの法規制は、労働安全衛生法において名称等を表示・通知すべき有害物、および危険物・引火性の物、また消防法において第4類第一石油類に指定されています。

シクロペンタジエンの使用用途

シクロペンタジエンの使用用途は、農薬、殺虫剤、樹脂可塑剤の合成などが挙げられます。シクロペンタジエンは、活性な共有二重結合を分子内に有する環状化合物であり、強い酸性を示すことに加え、ナフサ分解時に副生する留分に多量に含まれることから、その用途も広く研究開発が進んでいます。

特に無水マレイン酸とのDiels-Alder反応によって得られる無水ハイミック酸、合成ゴムの一種であるEPDMの原料となるエチリデンノルボルネン、ドリン系農薬や殺虫剤の原料となるヘキサクロロシクロペンタジエンなどは、工業的にも広く用いられるシクロペンタジエン由来の化合物です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0769.html

シクロプロペン

シクロプロペンとは

シクロプロペンは、化学式C3H4であらわされる、もっとも単純なシクロアルケンです。三角形構造を持つため歪みが大きく、反応性が高いため、単体のシクロプロペンでの利用は限定的です。シクロプロペンの製造方法は、塩化アリルをナトリウムアミドと反応させて得る方法が知られています。

市販されているシクロプロペン誘導体として、ケトン基およびフェニル基を導入したジフェニルシクロプロぺノンがあります。この化合物の法規制については、労働安全衛生法、労働基準法、PRTR法、毒物および劇物取締法において、いずれも非該当となっています。

シクロプロペンの使用用途

シクロプロペンは、その歪の大きな三角形構造から反応性が高く、通常は、進行困難な炭素-炭素結合の開裂を伴って反応が進みます。さらにシクロプロペンは、分子内の二重結合が三重結合性を帯びており、アルキンと似た反応性を有しています。このような優れた反応性からシクロプロペン誘導体は、医薬品をはじめとした生物活性化合物の合成に頻繁に用いられています。

また、シクロプロペン誘導体そのものが製品として利用される例として、1-メチルシクロプロパンの観賞用植物や果実・野菜類の鮮度保持剤としての利用が挙げられます。これは1-メチルシクロプロペンが、植物の生理的反応に関連するエチレン受容体タンパクに結合することで、活性が維持されるためです。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0104-2674JGHEJP.pdf

シアノアクリレート

シアノアクリレートとは

シアノアクリレートは、接着剤の一種です。一般には、瞬間接着剤と呼ばれるタイプの接着剤に使われています。

シアノアクリレートには「メチル-2-シアノアクリレート」「エチル-2-シアノアクリレート」などが含まれています。

特徴的な臭気のある無色、または淡黄色の液体です。水には不溶ですが、アセトンには溶けます。

消防法の危険物第4類・第3石油類の非水溶性液体に指定されています。通常の使用に関しては、安定していますが、水や塩基性化合物との接触、高温・高湿状態では、急速な重合反応を起こすため、取扱には注意が必要です。

シアノアクリレートの使用用途

シアノアクリレートは、プラスチック・ゴム・金属など、幅広い用途の瞬間接着に使用されています。

シアノアクリレート系の接着剤は、工業用や一般家庭用だけでなく、医療用のものまであります。医療用では、創傷封鎖に対して利用されています。

シアノアクリレートは、被接着物表面に吸着した水分により、急速にアニオン重合することで、非接着体同士を短時間で強固に接着させます。

空気中の微量な水分とも反応し、硬化してしまいます。そのため、一般的には、耐湿性・耐水性が悪いという欠点がありましたが、最近では、耐水性のものも販売されています。

参考文献
http://www.dbbond.co.jp/cgi/SE5.pdf
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7085-85-0.html