リン化亜鉛

リン化亜鉛とは

リン化亜鉛 (英:Zinc phosphide) とは、組成式Zn3P2で表される、リンと亜鉛から構成される無機化合物です。

別名では、ニリン化三亜鉛 (英: Trizinc diphosphide)とも表記されます。CAS登録番号は、1314-84-7です。

リン化亜鉛の使用用途

リン化亜鉛の主な使用用途は、殺鼠剤や殺虫剤です。一般的には、家ネズミや野ネズミの駆除に用いられています。ニュージーランドにおいては、フクロギツネの駆除にもペースト剤が利用されている他、ポプラのヤナギシリジロゾウムシに対する殺虫剤としても使用されている物質です。

リン化亜鉛の殺鼠剤としての作用のメカニズムは、リン化亜鉛がネズミの胃酸と反応して、毒性の強いリン化水素ガス (ホスフィン) を生じることによります。この時生じるリン化水素ガスは、中枢神経を侵して呼吸困難を引き起こし、ネズミを死滅させる効果があります。それ以外の産業用用途では、太陽光発電セルに用いられる場合があります。

リン化亜鉛の性質

リン化亜鉛の基本情報

図1. リン化亜鉛の基本情報

リン化亜鉛は、分子量258.1、融点420℃、沸点1,100℃であり、常温では暗灰色の固体または粉末です。

密度は4.6g/mLであり、水に対して溶解せずに徐々に分解する性質があります。それ以外では、二硫化炭素及びベンゼンに微溶であり、アルコールには殆ど溶けません。不燃性の物質です。

リン化亜鉛の種類

リン化亜鉛は主に研究開発用試薬製品や、産業用無機化合物材料として一般に販売されています。研究開発用試薬製品では、10g、25g、1kgなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量が中心での提供です。通常、室温で取り扱い可能な試薬製品として扱われます。

産業用無機化合物材料としては、殺鼠剤などの原料の他、太陽光発電セル材料などを想定して販売されています。

リン化亜鉛のその他情報

1. リン化亜鉛の合成

リン化亜鉛の合成

図2. リン化亜鉛の合成

リン化亜鉛は、リンと亜鉛を反応させることで合成することが可能です。その他の合成方法としては、トリ-n-オクチルホスフィンとジメチル亜鉛との反応があります。

2. リン化亜鉛の化学反応

リン化亜鉛の化学反応

図3. リン化亜鉛の化学反応

リン化亜鉛は、水と反応してリン化水素ガス (ホスフィン) と水酸化亜鉛に分解します。また、前述の通り、酸と反応して亜鉛イオンとリン化水素ガスを生じます。このリン化水素ガスは、無色の悪臭がするガスで、強い毒性を有する物質です。そのため、リン化亜鉛の取り扱いや保存には、注意が必要です。

リン化亜鉛は、加熱によっても分解し、リン酸化物や亜鉛酸化物などの有毒で引火性のヒューム及びホスフィンを生じる物質です。また、強酸化剤とも激しく反応し、火災の危険を生じるとされています。強酸化剤、酸、水は、リン化亜鉛の取り扱いにおいて混触危険物質に指定されています。

3. リン化亜鉛の有害性と法規制情報

リン化亜鉛は前述の通り、分解によって有害なリン化水素ガスを生じる物質です。人体への有害性として、以下が挙げられます。

  • 飲み込むと生命に危険
  • 強い眼刺激
  • 中枢神経系、呼吸器、肝臓、腎臓、血液系の障害
  • 長期にわたる、又は反復ばく露による中枢神経系、腎臓、血液系の障害
  • 長期にわたる、又は反復ばく露による肝臓の障害のおそれ

また、 リン化水素ガスはリン化亜鉛が水に触れると発生しますが、可燃性の気体です。これらの有害性により、毒物及び劇物取締法では劇物に指定されています。

消防法では、「 第3類自然発火性物質及び禁水性物質、金属のリン化物」「貯蔵等の届出を要する物質」に指定されている物質です。その他、道路法、航空法、船舶安全法、港則法、水道法、下水道法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法などでも制限を受けています。

リファンピシン

リファンピシンとは

リファンピシンとは、化学式C43H58N4O12で示される抗生物質の1種です。

分子量は822.94で、赤褐色から橙赤色の結晶または、結晶性の粉末です。水、アセトニトリルメタノールエタノールには溶けにくい性質を持ちますが、クロロホルムには、よく溶けます。

抗生物質としてのリファンピシンは、主にグラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に対して広範な抗菌活性を示すことで知られており、結核やハンセン病などの細菌感染症の治療に使用されます。単独で使用されることもありますが、通常は他の抗結核薬と組み合わせて使用されることが一般的です。

リファンピシンの製造方法では、放線菌の1種である「Streptomyces mediterranei」が産生するリファマイシンをもとに半合成する方法が一般的に知られています。

リファンピシンの使用用途

リファンピシンは抗生物質として、医療の現場で用いられています。具体的な適応症は、肺結核、非結核性抗酸菌症、ハンセン病などです。

作用機序は、リファンピシンが細菌のRNAポリメラーゼに作用して、細菌のRNA合成を阻害することにより、細菌のDNAの転写が阻害されます。それによって細菌のタンパク質合成が抑制され、薬剤の効果を発揮する仕組みです。

リファンピシンの主な副作用には、腎不全、間質性腎炎、ショック、アナフィラキシー、悪心、胃痛、嘔吐、食欲不振、下痢などが報告されています。

リファンピシンの性質

リファンピシンは黄橙色の結晶性粉末で、水への溶解性は低いものの、アルコールやアセトンには溶けやすいです。また、熱や光に不安定であるため、保存条件に注意必要です。

リファンピシンは、グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に対して広範な抗菌活性を示します。特に、結核菌に対して強力な効果を発揮します。

1. 作用機序

細菌のRNAポリメラーゼに対して作用し、細菌のDNAの転写を阻害します。これにより、細菌のタンパク質合成が抑制され、細菌の増殖が停止します。

2. 抗菌耐性

リファンピシンは耐性菌が出現しやすいため、通常は単剤ではなく、他の抗結核薬と組み合わせて使用されます。

3. 薬物動態

経口投与後に胃腸から速やかに吸収され、投与後約2〜4時間で血中濃度はがピークに達します。リファンピシンは肝臓で代謝され、尿中排泄されます。

4. 副作用

リファンピシンの一般的な副作用には、肝障害、黄疸、発疹、熱、消化器症状 (悪心、嘔吐、下痢) などがあります。重篤な副作用は稀ですが、アレルギーや肝臓障害が報告されています。

リファンピシンの構造

リファンピシンは、独特で複雑な化学構造を持っています。基本骨格はナフタキノン骨格からなり、アンサマイシン環と呼ばれる大員環構造と、ピペラジン酸が結合した構造を指定ます。

アンサマイシン環はリファンピシンの脂溶性に関わり、細菌の細胞膜通過に寄与しています。また、ピペラジン酸部分はリファンピシンの活性部位であり、細菌のRNAポリメラーゼに対する親和性に重要な役割を果たしています。

リファンピシンのその他情報

リファンピシン の製造方法

リファンピシンは、もともとストレプトマイセス属の放線菌(特にStreptomyces mediterranei)から分離された天然化合物ですが、その後の需要と合成技術の進歩によって、さまざまな合成法が開発されました。現在、工業的に用いられている製造方法には、生物学的方法と化学的な半合成の両方があります。

最も一般的なのはS. mediterraneiに代表される菌株の放線菌を培養し、生成されたリファンピシンを培地から抽出・精製する方法です。これらの菌株を、リファンピシン産生を促進するための適切な培地で通常は28~30℃、pH6~8の条件下で数日間培養し、培地中に溶出したリファンピシンを分離・回収します。生成にはゲル濾過やイオン交換といったクロマトグラフィーが一般的で、再結晶化が用いられる場合もあります。

ヨウ化銅

ヨウ化銅とは

ヨウ化銅 (英: Copper iodide) は、白色または淡い褐色・灰色をした無臭の粉末や塊状の無機化合物です。

化学式はCuIで表され、分子量は190.45です。市販品には微量の不純物が含まれることがあり、わずかに着色している場合があります。CAS登録番号は7681-65-4で、「ヨウ化第一銅」とも呼ばれます。

ヨウ化銅は化学的に安定な物質です。特定の条件下で他の化学物質と反応しにくい性質を持っています。そのため、電子材料や触媒などさまざまな分野で使用されています。

ヨウ化銅の使用用途

主な使用用途は以下のとおりです。

1. 電子材料

無機P型半導体の材料として用いられます。半導体には、電子が移動するN型半導体と、ホール (電子が抜けた空間) が移動するP型半導体があります。ヨウ化銅は、この無機P型半導体の材料として優れた特性を持ち、電子材料として広い分野での利用が可能です。

また、透明導電性材料としての研究も進められ、薄膜トランジスタや太陽電池の電極材料としての応用が期待されています。

2. 有機合成試薬

有機合成化学分野では、触媒やヨウ素化試薬として利用されています。触媒や助触媒としては、薗頭カップリングやウルマン反応などのクロスカップリング反応が代表的です。また、ヨウ化ナトリウムと同様に、臭化アリールをヨウ化アリールに変換する反応にも使用されます。

クロスカップリング反応における高い反応性を示すヨウ化アリールは、産業的にも重要です。さらに、一部の医薬品合成プロセスにも関与し、特定の有機化合物の反応性を向上させる役割を担っています。

ヨウ化銅の性質

ヨウ化銅には以下のような物理的・化学的特性があります。

  • 融点 / 凝固点: 605℃
  • 密度: 5.62 g/cm³
  • 水への溶解性: ほとんど溶けない
  • エタノールへの溶解性: ほとんど溶けない
  • 酸への溶解性: 硝酸塩酸を含む混液には徐々に溶ける

常温では固体の状態を維持し、化学的に安定しています。また、湿気や光に長期間さらされると性質が変化する可能性があるため、適切な保管環境が求められます。

ヨウ化銅の構造

ヨウ化銅は、温度によって異なる結晶構造を持ちます。

  • 390℃以下: 閃亜鉛鉱型構造 (γ-CuI)
  • 390~440℃: ウルツ鉱型構造 (β-CuI)
  • 440℃以上: 塩化ナトリウム型構造 (α-CuI)

構造変化が起こることを踏まえ、用途ごとに適した結晶構造を選択する必要があります。

ヨウ化銅のその他情報

1. 製造方法

ヨウ化銅は、以下の方法で合成されますが、一般的には次の2つの方法が用いられます。

水にはほとんど溶けませんが、NaIやKIの存在下ではイオン化し、部分的に溶解します。この特性を利用し、水で希釈して高純度の無色ヨウ化銅を析出させる精製法が採用されています。

2. 法規制

ヨウ化銅は、以下の法規制の対象となっています。

  • 毒物及び劇物取締法: 劇物 (包装等級3)
  • 労働安全衛生法: 名称等を表示すべき危険物及び有害物 (No. 379, 606)
  • 水質汚濁防止法: 指定物質
  • 大気汚染防止法: 有害大気汚染物質

3. 取り扱い及び保管方法

安全に取り扱うためには、以下の点に注意してください。

  • 容器を密閉し、乾燥した換気の良い場所に施錠して保管する。
  • 環境への放出を避け、使用後の容器や残留物は適切に廃棄する。
  • 使用時には保護手袋や保護眼鏡を着用する。
  • 皮膚や眼に付着した場合は、大量の水で洗浄する。
  • 誤って飲み込んだ場合は、すぐに口をすすぎ、異常を感じた場合は医師に相談する。

適切な取り扱いと保管を行えば、安全にヨウ化銅を使用できます。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-1097JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_7681-65-4.html

ヨウ化ナトリウム

ヨウ化ナトリウムとは

ヨウ化ナトリウム (英: Sodium Iodide) とは、無機化合物の一種であり、白色の結晶性粉末または顆粒状の物質です。

ヨウ化ナトリウムは吸湿性が高く、空気中の水分や二酸化炭素と反応しやすいため、密閉容器での保存が推奨されます。国内の法規制では、労働安全衛生法の「名称等を表示すべき危険物及び有害物」および「名称等を通知すべき危険物及び有害物No.606」に指定されています。

ヨウ化ナトリウムの使用用途

主な使用用途は以下のとおりです。

1. 有機合成反応

ヨウ化ナトリウムは、ハロゲン交換反応 (フィンケルシュタイン反応) の反応剤として使用され、有機ヨウ素化合物の合成に利用されます。特に、医薬品や農薬の製造プロセスで重要です。工業用途でも、特定の化学反応を促進するために活用されます。

2. 医療分野

ヨウ化ナトリウムは、ヨード欠乏症の治療や予防に使用されます。ヨードが不足すると、甲状腺ホルモンの分泌が低下し、甲状腺腫や甲状腺機能低下症を引き起こす可能性が高いです。ヨウ化ナトリウムを含む医薬品は、これらの疾患の予防および治療に役立ちます。

さらに、原子力事故時には、放射性ヨウ素の吸収を防ぐための甲状腺遮断剤として活用されるのがヨウ化ナトリウムです。医療機関では、放射線治療の補助としても利用されます。

3. 放射線検出

ヨウ化ナトリウムは、放射線が当たるとシンチレーション光を発生する特性を持つため、ガンマ線の検出に広く使用されています。シンチレーション光を分析することで、放射線のエネルギーや放射方向を特定でき、医療用画像診断や放射線測定装置への利用が可能です。さらに、研究分野では高精度の放射線検出技術に応用されています。

4. 飼料添加物

ヨウ化ナトリウムは、動物にとって不可欠なヨウ素を補給するため、家畜の飼料に添加されます。健康維持に役立つ具体的な働きは、甲状腺機能の調整や成長促進です。適量を摂取すれば、家畜の生産性向上にもつながるとされています。水産養殖でも使用され、魚介類の成長促進と健康維持に貢献しています。

ヨウ化ナトリウムの性質

ヨウ化ナトリウムには、以下のような性質があります。

  • 融点: 661℃
  • 溶解性: 水やエタノールに非常に溶けやすく、塩化ナトリウム (NaCl) よりも高い溶解度を持つ
  • 化学式: NaI
  • 分子量: 149.89
  • 屈折率: 1.77と高く、優れた光学的特性を持つ
  • 放射線との反応: シンチレーション効果を持ち、放射線検出器の材料として使用される
  • 安定性: 酸化しやすく、高温環境では分解しやすいため、適切な保存環境が必要

ヨウ化ナトリウムの構造

ヨウ化ナトリウムは、ナトリウム (Na) とヨウ素 (I) から構成されるイオン化合物です。この結晶構造では、ナトリウムイオン (Na+) は6つのヨウ化物イオン (I) に囲まれ、逆にヨウ化物イオン (I) も6つのナトリウムイオン (Na+) に囲まれています。

塩化ナトリウム (NaCl) と類似した結晶構造で、比較的安定し、特定の環境下での使用が可能です。半導体材料の分野でも、この結晶構造を活かした応用が研究されています。

ヨウ化ナトリウムのその他情報

ヨウ化ナトリウムは、以下のような方法で製造されます。

1. 酸塩基反応

水酸化ナトリウム (NaOH) や炭酸ナトリウム (Na2CO3) がヨウ化水素 (HI) と反応し、生成されます。

   NaOH + HI → NaI + H2O
   Na2CO3 + HI → NaI + H2O + CO2

2. 直接反応

金属ナトリウムとヨウ素を直接反応させる方法もありますが、工業的には一般的ではありません。この方法は高温環境下で進行しやすく、特殊な設備が必要となるため、大規模な製造には適していません。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-0227JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_7681-82-5.html

ヨウ化セシウム

ヨウ化セシウムとは

ヨウ化セシウム (英: Cesium Iodide, CsI) は、白色の結晶または結晶性粉末で、無臭の無機化合物です。

水やエタノールに溶けやすい一方で、アセトンにはほとんど溶けません。光の透過性が高く、放射線を吸収する特性があるため、光学材料や放射線検出器の重要な構成要素として使用されます。

化学式はCsI、分子量は259.81、CAS登録番号は7789-17-5です。主な物理的・化学的特性として、融点621℃、沸点 1,280℃という高い熱安定性を持ちます。密度は4.51 g/cm³であり、無色透明の結晶構造を持つのが特徴です。国内法規では、労働安全衛生法で「名称等を通知すべき危険物及び有害物No.606」に分類されています。

ヨウ化セシウムの使用用途

主な使用用途は以下のとおりです。

1. シンチレーター材料

ヨウ化セシウムは、シンチレータの主要材料として広く使用されています。シンチレータとは、荷電粒子が通過すると発光する物質の総称です。この特性を活かしたシンチレーション検出器は、医療用X線検出器や放射線モニター、核医学装置などに活用されています。

2. 赤外線透過ガラス

赤外線を透過しやすい特性を持つため、監視カメラのレンズや赤外線センサー、ナイトビジョン機器の赤外線透過ガラスに利用されています。赤外線の透過性が高く、暗視装置の性能向上に寄与します。また、レーザー光学装置にも一部使用されています。

3. 光電デバイス

光電面材料としても利用可能です。光電子増倍管やフォトダイオードなどの光検出器に利用され、高い感度を発揮します。特に、紫外線やX線の検出能力に優れ、医療や科学研究の分野で重要視されています。

ヨウ化セシウムの性質

基本的な性質は以下のとおりです。

1. 高い光透過性

紫外線から赤外線までの幅広い波長範囲で高い光透過性を示すのがヨウ化セシウムです。そのため、光学機器のレンズやプリズムの材料として適用されます。透明度が高いため、特殊な光学フィルターにも利用されています。

2. 放射線吸収能力

ヨウ化セシウムは、放射線を吸収する特性を持ち、放射線検出器の材料として用いられています。医療用X線検査装置や放射線モニタリングシステムに採用され、高エネルギーのガンマ線にも対応可能です。放射線治療機器にも応用され、その吸収能力が活かされています。

3. 熱的安定性

ヨウ化セシウムは融点が621℃と高く、高温環境下でも化学的安定性を維持できます。熱ルミネッセンス線量測定装置など、高温条件での使用が求められる機器にも適用されています。また、真空環境下でも安定性を保つため、宇宙科学分野での活用も可能です。

ヨウ化セシウムの構造

ヨウ化セシウムは単純な立方格子構造のイオン結晶です。結晶格子定数は0.4563 nmで、セシウムイオン (Cs⁺) が立方体の角に、ヨウ化物イオン (I⁻) が立方体の面の中央に配置されています。各イオンは8個の反対電荷を持つイオンに囲まれる最密充填格子を形成します。

この結晶構造は、高い屈折率 (589.3nmの波長で1.79) や光学的特性に影響を与え、光学レンズやファイバーオプティクスの分野での使用を可能にしています。加えて、結晶の安定性が高く、長期間の使用にも耐える特性を備えています。

ヨウ化セシウムのその他情報

ヨウ化セシウムは、直接反応、メタセシス反応、固体反応などの方法を用いて工業的に生産できます。

1. 直接反応法

金属セシウムとヨウ素を加熱反応させる方法です。高純度のヨウ化セシウムを得られますが、金属セシウムの取り扱いには慎重な管理が求められます。

2. メタセシス反応法

炭酸セシウムまたは水酸化セシウムを、ヨウ化水素酸やヨウ化ナトリウムと反応させてヨウ化セシウムを合成する方法です。直接反応法よりも安全性が高く、経済的にも優れた手法とされています。現在、最も一般的な製造方法として利用されています。

3. 固相反応法

セシウムとヨウ素の粉末を、真空または不活性雰囲気下で高温反応させ、ヨウ化セシウムを生成します。この方法は、特定の結晶構造を持つヨウ化セシウムの合成に適用されます。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0199JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_7789-17-5.html

モリブデン酸アンモニウム

モリブデン酸アンモニウムとは

モリブデン酸アンモニウムとは、化学式が (NH4)6Mo7O24 の無機化合物です。

モリブデン酸アンモニウムは、さまざまな法規制の対象となっています。例えば、労働安全衛生法の分類は「名称等を表示すべき危険物及び有害物」です。また、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) においても「第1種指定化学物質」に指定されています。

モリブデン酸アンモニウムの使用用途

主な使用用途は以下のとおりです。

1. 金属モリブデンの原料

金属モリブデンの製造では、モリブデン酸アンモニウムは重要な原料です。モリブデンは高温耐性や耐食性を備えており、合金や電子部品の製造には不可欠な元素です。

2. 触媒の原料

過酸化水素を酸化剤とする「Trost酸化」などの化学反応では、モリブデン酸アンモニウムが触媒の原料として使用されます。この特性により、化学反応の効率が向上し、特定の生成物の収率を高めることが可能です。

3. 分析試薬

水溶液中のケイ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩、鉛を定量分析するための試薬として使用されます。環境分析や化学研究の分野で重要な役割を果たします。

4. 電子顕微鏡の染色剤

電子顕微鏡観察時の細胞や組織の染色に利用されます。クライオネガティブ染色やトレハロースを含むネガティブ染色の分野で活用され、生物学や医学の研究で重要な用途を持っています。

モリブデン酸アンモニウムの性質

モリブデン酸アンモニウムの主な性質は以下のとおりです。

  • 外観: 白色またはほぼ白色の結晶性粉末
  • 水溶性: 水には可溶であり、エタノールアセトンには難溶
  • 毒性: 一般的に毒性は低い
  • 分子量: 1,163.9 (無水物)、1,235.9 (四水和物)
  • pH: 弱酸性

また、熱分解が進むとアンモニアとモリブデン酸を生成し、さらに加熱することで酸化モリブデン(VI) に変化します。この特性は、モリブデン化合物の製造や触媒材料の開発に応用されています。

モリブデン酸アンモニウムの構造

モリブデン酸アンモニウムは、7-モリブデン酸イオン (Mo7O246-) を含む代表的なモリブデン化合物です。一般的には、(NH4)6Mo7O24•4H2O の四水和物として存在しますが、(NH4)6Mo7O24•2H2O の二水和物も知られています。

結晶構造の解析では6個のモリブデン原子が八面体型の配位構造を形成し、酸素原子と結合して複雑なネットワークを構築しています。この構造によって安定性が向上し、多様な用途に対応できる性質を持っています。また、7-モリブデン酸イオンは水溶液中で異なるモリブデン酸種に変化し、pH に応じて多様な構造を示します。

モリブデン酸アンモニウムのその他情報

1. モリブデン酸アンモニウムの合成

酸化モリブデン(VI) (英: molybdenum(VI) oxide) を、過剰なアンモニアを含む水溶液に溶解して、室温で溶液を蒸発させることで、容易にモリブデン酸アンモニウムが生成されます。蒸発過程でアンモニアが徐々に除去され、結晶性のモリブデン酸アンモニウムが形成されます。

この方法では、透明な六面プリズム状の結晶を得ることができます。また、パラモリブデン酸アンモニウムの溶液は酸と反応し、アンモニウム塩とモリブデン酸 (英: Molybdic acid) を生成します。

2. モリブデン酸アンモニウムの関連化合物

モリブデン酸アンモニウムと構造が類似する化合物には、モリブデン酸カリウムがあります。モリブデン酸カリウムもモリブデン酸アンモニウムと同様に四水和物として存在します。

また、モリブデン酸アンモニウムはさまざまな金属イオンと結合し、新たなモリブデン酸塩を形成します。そのため、特定の用途に適したモリブデン化合物の調整が可能となり、工業用途や研究分野において広く利用されています。

参考文献
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_13106-76-8.html

モリブデン酸

モリブデン酸とは

モリブデン酸は、黄色または白色の結晶で無臭の無機化合物です。

特徴は、反磁性固体で、電子的性質を持たない点です。国内では、労働安全衛生法 (安衛法) の「名称等を表示すべき危険物及び有害物」に指定されており、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) では「第1種指定化学物質」 (No.453) に分類されています。水質汚濁防止法や大気汚染防止法の規制対象にも含まれ、適切な取り扱いが求められます。

モリブデン酸の使用用途

主な使用用途は以下のとおりです。

1. 防錆剤の原料

モリブデン酸は、ビルや工場の配管に使用される炭素鋼の防錆剤として利用されます。不動態皮膜を形成し、鋼材の腐食を防ぐ働きがあります。

2. 医薬品・顔料・陶器の釉薬

医薬品の成分や特定の顔料の原料として利用されるほか、陶器の釉薬 (ゆうやく) にも使用され、高温環境において安定性を向上させます。

3. 触媒としての利用

酸化還元反応に関与する不均一触媒として、化学工業において広く利用されています。

4. フレーデ試薬の成分

モリブデン酸およびその塩は、アルカロイド (英: alkaloid) を検出するフレーデ試薬 (英: Froehde reagent) に使用されます。アルカロイドは、医薬や分析化学の分野で重要な役割を果たす、天然由来の窒素を含む有機化合物です。

モリブデン酸の性質

モリブデン酸 (Ⅵ) の主な性質は以下の通りです。

  • 融点 : 300℃
  • 溶解性 : エタノールアセトンには溶けず、冷水に難溶であり、熱水には微溶
  • その他の溶解性 : 水酸化アルカリ溶液、アンモニア水などに可溶
  • 化学式 : H2MoO4
  • 分子量 : 161.95
  • CAS登録番号 : 7782-91-4

その他に、一水和物 (MoO3・H2O) や二水和物 (MoO3・2H2O) も存在し、それぞれ異なる構造的特徴を持っています。

モリブデン酸の構造

1. 固体状態での構造

モリブデン酸の固体は 配位高分子 (英: coordination polymer) であり、八面体配位をとる (MoO3・H2O) ユニットの層で形成されています。

  • 一水和物 : 4つの頂点を共有する八面体配位構造
  • 二水和物 : 一水和物の層間に水分子が挟み込まれている (英: Intercalation)

2. 水溶液中での構造

酸性水溶液中では、モリブデン酸はMoO3(H2O)3という錯体を形成します。各モリブデン原子は3つのアクア配位子と3つのオキソ配位子を持ち、八面体分子構造を維持します。

3. モリブデン酸塩の形成

モリブデン酸塩 (英: molybdate) は、モリブデン酸に塩基を加えることで生成されます。代表的なモリブデン酸塩は、モリブデン酸ナトリウム (Na2MoO4) やモリブデン酸カルシウム (CaMoO4) です。

モリブデン酸のその他情報

1. モリブデン酸塩とオキソアニオン

モリブデン酸塩はモリブデン (VI) のオキソアニオンを含む化合物です。二量体 (Mo2O72-) から、最大154個のモリブデンを含むイソポリモリブデンブルーまで、多様な構造が確認されています。

また、モリブデン酸の配位数は通常4または6であり、四面体型または八面体型の構造を持ちます。クロムのオキソアニオンは四面体構造のみですが、タングステンはモリブデンと類似し、配位数6のタングステン酸塩を形成します。

2. 代表的なモリブデン酸イオン

モリブデン酸イオンには、以下のようなものがあります。

  • 単量体イオン : MoO42-
  • 二量体イオン : Mo2O72-
  • 多量体イオン : Mo3O102-, Mo4O132-, Mo5O162-, Mo6O192-, Mo7O246-, Mo8O264-

それぞれのイオンは、特定の化合物や溶液中で安定した形態を維持し、異なる特性を示します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-0333JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_7782-91-4.html

メチルビニルケトン

メチルビニルケトンとは

メチルビニルケトン (Methyl Vinyl Ketone) とは、無色から黄褐色の液体であり、刺激性の強い臭いを持つ有機化合物です。

略称としてMVKとも呼ばれ、工業用途が多岐にわたる汎用的な化学中間体とされています。日本の消防法では「危険物第4類引火性液体 第一石油類 非水溶性液体 (危険等級Ⅱ)」に分類され、労働安全衛生法でも危険有害物質に指定されています。

メチルビニルケトンの使用用途

基本的な用途は以下のとおりです。

1. 樹脂・塗料の製造

ポリマーの合成に利用されます。特に、アクリル樹脂やビニル樹脂の製造において、モノマーとして加えられると、製品の接着性・耐薬品性・耐候性が向上します。その結果、高品質な塗料やコーティング剤の開発が実現可能です。

2. 接着剤の製造

エポキシ樹脂接着剤の反応性希釈剤として使用される場合があります。添加することで接着剤の粘度を低下させながらも性能を維持し、柔軟性や接着性を向上させることができます。

3. 医薬品および農薬の合成

医薬品や農薬の中間体としても利用されます。抗菌剤や抗ウイルス剤の原料として研究されており、その反応性を活かして医療分野でも応用が広がっています。

4. 有機合成の出発物質

溶剤や香料の合成にも使用されます。高い反応性を活かし、多様な有機化合物の合成プロセスで重要な役割を果たします。

メチルビニルケトンの性質

基本的な性質は以下のとおりです。

  • 物理的性質:融点は-7℃、沸点は81℃、引火点は-7℃ (密閉式) であり、可燃性が高いため注意が必要です。
  • 溶解性:水、アルコール、エーテル、アセトンなどの有機溶媒に容易に溶解します。
  • 化学的性質:ビニル基とカルボニル基を含むため、求核剤との付加反応や、スチレンアクリロニトリルブタジエンなどの他のモノマーと重合反応を起こすことが可能です。
  • 毒性:皮膚や粘膜に対して強い刺激性があり、長期間の暴露で肝臓や腎臓にダメージを与える可能性があります。

その他にも、エタノールジエチルエーテルアセトンに混和しやすい性質をもちます。

メチルビニルケトンの構造

基本的な構造は以下のとおりです。

  • 分子式:C4H6O
  • 分子量:70.09
  • 構造式:CH3COCH=CH2
  • 官能基:カルボニル基 (-C=O)、ビニル基 (-CH=CH2)、メチル基 (-CH3)

化学構造から理解できるとおり二重結合とカルボニル基が存在するため反応性が高く、アルコールやアミンなどの求核剤と容易に付加反応を起こします。

メチルビニルケトンのその他情報

1. 製造方法

製造方法は以下のとおりです。

  • イソブチレンの酸化:イソブチレンを酸化する。
  • 3級ブチルアルコールの脱水:3級ブチルアルコールを脱水反応させる。
  • 3-ペンタノンの脱水素:3-ペンタノンから水素を除去する。
  • イソプロピルアルコールの脱水素化 (工業的に主流)
    • 250~400℃の高温環境でイソプロピルアルコールを気体化し、銅や銀の触媒を用いて脱水素化。
    • 反応後、蒸留して目的物と副生成物を分離する。

2. 取り扱いと安全性

メチルビニルケトンは高い毒性を持つため、取り扱いには十分な注意が必要です。特に、吸入や皮膚接触による健康被害のリスクがあるため、適切な保護具 (手袋、ゴーグル、換気装置) を使用して作業を行うことが推奨されます。また、密閉容器に保管し、火気や高温から遠ざけることが求められます。

3. 環境への影響

メチルビニルケトンは揮発性が高く、大気中に放出されると環境汚染の原因となる可能性があります。適切な処理を行わずに廃棄すると水質汚染や生態系への悪影響を引き起こす恐れがあるため、処分時には厳格な管理が必要です。

参考文献
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/13145250.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_78-94-4.html

メチルシクロヘキサン

メチルシクロヘキサンとは

メチルシクロヘキサンの基本情報

図1. メチルシクロヘキサンの基本情報

メチルシクロヘキサンとは、ほとんど無色の透明な液体で、特有の臭いを持つ有機化合物です。

消防法では「危険物第四類 第一石油類 危険等級Ⅱ」に指定されています。また、労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険物及び有害物」「危険物・引火性の物」など、危険物船舶運送及び貯蔵規則では「引火性液体類」などと指定されている物質です。さらに、航空法や海洋汚染防止法にも指定があります。

メチルシクロヘキサンの使用用途

メチルシクロヘキサンは、重油から得られる留分の一種で、主に溶剤として使用されていますが、医薬品や農薬製造用の溶媒、修正液、ジェット燃料としても活用されています。例えば、アメリカ空軍の超音速航空機向けとして開発されたジェット燃料であるJP-7 (英: Jet Propellant 7) には、2~3割ほどのメチルシクロヘキサンが含まれています。

自動車業界では、水素を利用した燃料電池車 (FCV) の選択肢として期待されている物質です。水素をメチルシクロヘキサンに変換すれば、体積を500分の1に圧縮した液体として保管・輸送できます。このように、FCVの分野でメチシクロヘキサンは大きな役割を果たす可能性があり地球温暖化対策として注目されています。

メチルシクロヘキサンの性質

メチルシクロヘキサンの分子量は98.19であり、非常に軽い化合物です。また、融点は-126℃と非常に低く、極低温で固体になることを示しています。沸点は100℃であり、これは水の沸点と同じです。さらに、この化合物は引火点が4℃と非常に低く、低温でも火がつく可能性があるため、取り扱いに注意が必要です。アセトンには溶けやすいのですが、水には溶けにくい性質を持っています。

ほぼ無色の液体で、甘い香りが特徴的です。常温・常圧で安定しており、化学反応に対しても比較的耐性があります。ただし、高温や紫外線の影響を受けると酸化反応を示します。揮発性と可燃性があるため、取扱う際には吸入・皮膚接触・目に入ることがないよう注意してください。

メチルシクロヘキサンの構造

メチルシクロヘキサンの構造

図2. メチルシクロヘキサンの構造

メチルシクロヘキサンはシクロアルカンの一種で、シクロヘキサン (C6H12) の構造にメチル基 (CH3) が結合した分子です。化学式はC7H14ですが、メチル基がシクロヘキサン環に結合していることを強調してC6H11CH3とも表現されます。

メチルシクロヘキサンは、いす型配座形を取っており、ここで1位にあるメチル基の水素原子は、3位と5位にある水素原子と立体的に反発し合います。この反発のために、メチル基がエクアトリアル配座 (水平位置) にある方が、アキシアル配座 (垂直位置) にあるよりも安定する構造です。この現象は「1,3-ジアキシアル相互作用」と呼ばれ、メチル基が垂直に配置されると反発が強く、水平に配置される方が安定します。

メチルシクロヘキサンのその他情報

メチルシクロヘキサンの水素貯蔵のメカニズム

図3. メチルシクロヘキサンの水素貯蔵のメカニズム

メチルシクロヘキサンは、水素化反応により多量の水素を取り込むことができます。さらに、触媒を用いて水素を取り出す脱水素化反応も可能で、必要な時に水素を放出できます。理論上の水素貯蔵密度は47.0kg-H2/m3で、ベンゼンとシクロヘキサンの56.0kg-H2/m3ナフタレンとデカリンの65.4kg-H2/m3と比べてやや劣っていますが、液体の形態であるため、タンクやパイプラインなどの既存のインフラを利用して容易に輸送可能です。水素エネルギーの供給チェーンで効率的な輸送手段となり得ます。

メチルシクロヘキサンの脱水素触媒を開発し、商業ベースでの水素供給に成功した企業があります。実証試験を通じて、安定的かつ効率的な水素供給の実現可能性を示しました。南極の昭和基地では、メチルシクロヘキサンと風力発電機を組み合わせた水素発電システムを受注しています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-0704JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_108-87-2.html

マロン酸

マロン酸とは

マロン酸の基本情報図1. マロン酸の基本情報

マロン酸とは、カルボキシ基 (-COOH) を2つ持ったジカルボン酸の一種です。

塩の場合にはマロナートや、あるいはマロネート (英: malonates) と呼びます。ギリシア語のリンゴがマロン酸の名前の由来であり、141-82-2がCAS登録番号です。プロパン2酸という別名称でも呼ばれます。

国内法規上の適用法令は特にありません。 ただし酸化剤や還元剤との混触危険性が指摘されており、消火時は放水ではなく、粉末消火剤などを用いるよう注意喚起されています。安全に保管するため日陰の涼しい場所に、ガラス容器に密閉して保管する必要があります。

マロン酸の使用用途

マロン酸は、医療分野、食品飲料分野などでの香料の原料として多く使用されています。マロン酸自体ににおいはありませんが、マロン酸ジエチルにはりんごのような独特のにおいがあります。またマロン酸は熱分解して酢酸を発生することから、酢酸を不純物としたにおいを有する場合があります。この酸味や香料が食品飲料業界で活用されています。

マロン酸単体での多い使用用途は、実験室での分析用試薬としての扱いです。マロン酸はカルボキシ基という官能基を持っていることから、マロン酸を原料とした多種多様なエステル類の活用に伴い、合成樹脂や接着剤のような分野で、中間原料や合成目的の構成用途に広く使われています。

産業向けの用途では、金属めっきの添加剤として用いられており、ここではカルボキシ基が重要な錯体の働きを行っています。またこの場合の生成物は、水と二酸化炭素であり、有害な2次的な発生物に伴う公害の心配がないのも大きなメリットです。

マロン酸の性質

マロン酸は白色ないしは、ほぼ白色の結晶あるいは結晶性粉末です。マロン酸の融点は135℃なために、常温常圧では固体です。ただし、融点を超える温度にまで熱すると、熱分解して酢酸二酸化炭素になります。また、マロン酸は、水、エタノールアセトンなどに溶けます。

マロン酸の構造からの性質としては、カルボン酸官能基を有することが重要で、ポリマー形成用の架橋構造を作ることが可能です。すなわちポリエステル他の重要な中間体精製に寄与出来ます。

マロン酸の構造

マロン酸の化学式は、HOOCCH2COOH、分子量は104.06です。マロン酸は、酢酸-マロン酸経路を構成するために必要となる物質の一つです。カルボキシ基 (-COOH) を2つ持つ構造が特徴であり、この構造により様々な反応を促進するため、実に幅広い分野で活用される中間体といえます。なおよく似た構造の化学物質にコハク酸があります。

マロン酸のその他情報

1. 生化学におけるマロン酸

コハク酸の構造

図2. コハク酸の構造

マロン酸の構造は、コハク酸 (HOOC-(CH2)2-COOH) によく似ているため、生物体内のクエン酸回路において、コハク酸デヒドロゲナーゼ (英: succinate dehydrogenase) の活性部位に誤って結合してしまいます。したがって、マロン酸は本来の基質であるコハク酸の代謝を阻害するため、細胞呼吸を妨害します。

2. 病理学におけるマロン酸

マロン酸値の上昇に、メチルマロン酸値の上昇が伴うような場合においては、複合マロン酸およびメチルマロン酸尿合併症 (英: Combined malonic and methylmalonic aciduria) という代謝性疾患の疑いがあります。血漿中に存在するメチルマロン酸と、マロン酸の比率を計算することで、古典的なメチルマロン酸尿症と区別することが可能です。

3. 農薬として用いられるマロン酸

マロン酸の構造上、容易に植物の酵素と結合可能な特徴を活用して、農薬向けの需要が増加しています。マロン酸を除草剤として用いることで、雑草類は成長を抑制され、病気になりやすくなります。この性質をうまく活用して、農薬用途向けの成分にマロン酸は用いられています。

農作物そのものではなく雑草を選択的に成長抑制する働きがあります。また害虫駆除の促進、および対象とする植物の酸性もしくはアルカリ性に偏る状況を防ぐようなpH調整の働きも有します。このような働きは持続可能な環境問題がますます重要視される現代において、非常に注目されている状況です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-0058JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_141-82-2.html