モリブデン酸アンモニウムとは
モリブデン酸アンモニウムとは、化学式が (NH4)6Mo7O24 の無機化合物です。
モリブデン酸アンモニウムは、さまざまな法規制の対象となっています。例えば、労働安全衛生法の分類は「名称等を表示すべき危険物及び有害物」です。また、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) においても「第1種指定化学物質」に指定されています。
モリブデン酸アンモニウムの使用用途
主な使用用途は以下のとおりです。
1. 金属モリブデンの原料
金属モリブデンの製造では、モリブデン酸アンモニウムは重要な原料です。モリブデンは高温耐性や耐食性を備えており、合金や電子部品の製造には不可欠な元素です。
2. 触媒の原料
過酸化水素を酸化剤とする「Trost酸化」などの化学反応では、モリブデン酸アンモニウムが触媒の原料として使用されます。この特性により、化学反応の効率が向上し、特定の生成物の収率を高めることが可能です。
3. 分析試薬
水溶液中のケイ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩、鉛を定量分析するための試薬として使用されます。環境分析や化学研究の分野で重要な役割を果たします。
4. 電子顕微鏡の染色剤
電子顕微鏡観察時の細胞や組織の染色に利用されます。クライオネガティブ染色やトレハロースを含むネガティブ染色の分野で活用され、生物学や医学の研究で重要な用途を持っています。
モリブデン酸アンモニウムの性質
モリブデン酸アンモニウムの主な性質は以下のとおりです。
- 外観: 白色またはほぼ白色の結晶性粉末
- 水溶性: 水には可溶であり、エタノールやアセトンには難溶
- 毒性: 一般的に毒性は低い
- 分子量: 1,163.9 (無水物)、1,235.9 (四水和物)
- pH: 弱酸性
また、熱分解が進むとアンモニアとモリブデン酸を生成し、さらに加熱することで酸化モリブデン(VI) に変化します。この特性は、モリブデン化合物の製造や触媒材料の開発に応用されています。
モリブデン酸アンモニウムの構造
モリブデン酸アンモニウムは、7-モリブデン酸イオン (Mo7O246-) を含む代表的なモリブデン化合物です。一般的には、(NH4)6Mo7O24•4H2O の四水和物として存在しますが、(NH4)6Mo7O24•2H2O の二水和物も知られています。
結晶構造の解析では6個のモリブデン原子が八面体型の配位構造を形成し、酸素原子と結合して複雑なネットワークを構築しています。この構造によって安定性が向上し、多様な用途に対応できる性質を持っています。また、7-モリブデン酸イオンは水溶液中で異なるモリブデン酸種に変化し、pH に応じて多様な構造を示します。
モリブデン酸アンモニウムのその他情報
1. モリブデン酸アンモニウムの合成
酸化モリブデン(VI) (英: molybdenum(VI) oxide) を、過剰なアンモニアを含む水溶液に溶解して、室温で溶液を蒸発させることで、容易にモリブデン酸アンモニウムが生成されます。蒸発過程でアンモニアが徐々に除去され、結晶性のモリブデン酸アンモニウムが形成されます。
この方法では、透明な六面プリズム状の結晶を得ることができます。また、パラモリブデン酸アンモニウムの溶液は酸と反応し、アンモニウム塩とモリブデン酸 (英: Molybdic acid) を生成します。
2. モリブデン酸アンモニウムの関連化合物
モリブデン酸アンモニウムと構造が類似する化合物には、モリブデン酸カリウムがあります。モリブデン酸カリウムもモリブデン酸アンモニウムと同様に四水和物として存在します。
また、モリブデン酸アンモニウムはさまざまな金属イオンと結合し、新たなモリブデン酸塩を形成します。そのため、特定の用途に適したモリブデン化合物の調整が可能となり、工業用途や研究分野において広く利用されています。
参考文献
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_13106-76-8.html