メチルシクロヘキサン

メチルシクロヘキサンとは

メチルシクロヘキサンの基本情報

図1. メチルシクロヘキサンの基本情報

メチルシクロヘキサンとは、ほとんど無色の透明な液体で、特有の臭いを持つ有機化合物です。

消防法では「危険物第四類 第一石油類 危険等級Ⅱ」に指定されています。また、労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険物及び有害物」「危険物・引火性の物」など、危険物船舶運送及び貯蔵規則では「引火性液体類」などと指定されている物質です。さらに、航空法や海洋汚染防止法にも指定があります。

メチルシクロヘキサンの使用用途

メチルシクロヘキサンは、重油から得られる留分の一種で、主に溶剤として使用されていますが、医薬品や農薬製造用の溶媒、修正液、ジェット燃料としても活用されています。例えば、アメリカ空軍の超音速航空機向けとして開発されたジェット燃料であるJP-7 (英: Jet Propellant 7) には、2~3割ほどのメチルシクロヘキサンが含まれています。

自動車業界では、水素を利用した燃料電池車 (FCV) の選択肢として期待されている物質です。水素をメチルシクロヘキサンに変換すれば、体積を500分の1に圧縮した液体として保管・輸送できます。このように、FCVの分野でメチシクロヘキサンは大きな役割を果たす可能性があり地球温暖化対策として注目されています。

メチルシクロヘキサンの性質

メチルシクロヘキサンの分子量は98.19であり、非常に軽い化合物です。また、融点は-126℃と非常に低く、極低温で固体になることを示しています。沸点は100℃であり、これは水の沸点と同じです。さらに、この化合物は引火点が4℃と非常に低く、低温でも火がつく可能性があるため、取り扱いに注意が必要です。アセトンには溶けやすいのですが、水には溶けにくい性質を持っています。

ほぼ無色の液体で、甘い香りが特徴的です。常温・常圧で安定しており、化学反応に対しても比較的耐性があります。ただし、高温や紫外線の影響を受けると酸化反応を示します。揮発性と可燃性があるため、取扱う際には吸入・皮膚接触・目に入ることがないよう注意してください。

メチルシクロヘキサンの構造

メチルシクロヘキサンの構造

図2. メチルシクロヘキサンの構造

メチルシクロヘキサンはシクロアルカンの一種で、シクロヘキサン (C6H12) の構造にメチル基 (CH3) が結合した分子です。化学式はC7H14ですが、メチル基がシクロヘキサン環に結合していることを強調してC6H11CH3とも表現されます。

メチルシクロヘキサンは、いす型配座形を取っており、ここで1位にあるメチル基の水素原子は、3位と5位にある水素原子と立体的に反発し合います。この反発のために、メチル基がエクアトリアル配座 (水平位置) にある方が、アキシアル配座 (垂直位置) にあるよりも安定する構造です。この現象は「1,3-ジアキシアル相互作用」と呼ばれ、メチル基が垂直に配置されると反発が強く、水平に配置される方が安定します。

メチルシクロヘキサンのその他情報

メチルシクロヘキサンの水素貯蔵のメカニズム

図3. メチルシクロヘキサンの水素貯蔵のメカニズム

メチルシクロヘキサンは、水素化反応により多量の水素を取り込むことができます。さらに、触媒を用いて水素を取り出す脱水素化反応も可能で、必要な時に水素を放出できます。理論上の水素貯蔵密度は47.0kg-H2/m3で、ベンゼンとシクロヘキサンの56.0kg-H2/m3ナフタレンとデカリンの65.4kg-H2/m3と比べてやや劣っていますが、液体の形態であるため、タンクやパイプラインなどの既存のインフラを利用して容易に輸送可能です。水素エネルギーの供給チェーンで効率的な輸送手段となり得ます。

メチルシクロヘキサンの脱水素触媒を開発し、商業ベースでの水素供給に成功した企業があります。実証試験を通じて、安定的かつ効率的な水素供給の実現可能性を示しました。南極の昭和基地では、メチルシクロヘキサンと風力発電機を組み合わせた水素発電システムを受注しています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-0704JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_108-87-2.html

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