メチルシクロヘキサンとは
図1. メチルシクロヘキサンの基本情報
メチルシクロヘキサンとは、無色あるいはほとんど無色の澄明な液体で、特異臭を有する有機化合物です。
消防法で「危険物第四類 第一石油類 危険等級Ⅱ」に指定されており、労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険物及び有害物」「名称等を通知すべき危険物及び有害物No. 576」「危険物・引火性の物」、危険物船舶運送及び貯蔵規則で「引火性液体類」といった指定がされています。航空法や海洋汚染防止法にも指定されています。
メチルシクロヘキサンの使用用途
メチルシクロヘキサンは、重油から得られる留分の一種です。主に溶剤として使用されています。メチルシクロヘキサンは、医薬品や農薬製造用の溶媒のほか、修正液やジェット燃料として使用可能です。
例えば、アメリカ空軍の超音速航空機向けとして開発されたジェット燃料であるJP-7 (英: Jet Propellant 7) には、2~3割ほどのメチルシクロヘキサンが含まれています。自動車業界では、メチルシクロヘキサンは水素を使った燃料電池車 (FCV) における選択肢として期待され、実際に最近一躍有名になってきた物質です。
すなわち、水素を輸送・保管するために一旦メチルシクロヘキサンに変換することで、その体積を500分の1に圧縮した液体として保管できます。そのため、FCVにメチルシクロヘキサンが大きな役割を果たす可能性があります。実際に地球温暖化対策として、電気自動車 (EV) への移行が急速に高まっています。
メチルシクロヘキサンの性質
メチルシクロヘキサンの化学式はC6H11CH3、分子量は98.19、融点は-126℃、沸点は100℃です。メチルシクロヘキサンはアセトンに極めて溶けやすく、水にはほとんど溶けません。
なお、メチルシクロヘキサンは、MCHと略記されることもあります。CAS登録番号は108-87-2です。
メチルシクロヘキサンの構造
図2. メチルシクロヘキサンの構造
メチルシクロヘキサンはシクロアルカンの一種で、メチル基が1つシクロヘキサン環に結合した構造です。いす型配座を取っています。
メチルシクロヘキサンは、1位のメチル基の水素と3,5位の水素が立体反発しています。そのためアキシアル配座に比べて、エクアトリアル配座の方が、比較的安定です。これを1,3-ジアキシアル相互作用と呼びます。
メチルシクロヘキサンのその他情報
1. メチルシクロヘキサンによる水素貯蔵
図3. メチルシクロヘキサンの水素貯蔵のメカニズム
トルエンの水素化によって、メチルシクロヘキサンが生成します。そのため触媒を用いた脱水素化により、水素を取り出すことが可能です。したがって、有機ハイドライドの一種として、安定的な水素の貯蔵手段や輸送手段のために、メチルシクロヘキサンの研究が進んでいます。
メチルシクロヘキサンの理論上の水素貯蔵密度は、47.0kg-H2/m3です。水素ガスは1/500の体積のメチルシクロヘキサンになります。貯蔵密度はベンゼンとシクロヘキサンにおける56.0kg-H2/m3やナフタレンとデカリンにおける65.4kg-H2/m3と比べて、やや劣っています。その一方で、メチルシクロヘキサンは、液体の状態を維持可能な温度範囲が広いことが利点です。
2. メチルシクロヘキサンの応用
メチルシクロヘキサンの脱水素触媒を開発し、商業ベースで水素を供給する実証試験に成功した企業があります。また、他の企業では南極の昭和基地において、メチルシクロヘキサンと風力発電機を組み合わせた水素発電システムを受注しています。
3. メチルシクロヘキサンの安全性
メチルシクロヘキサンは光反応性が低いため、光化学スモッグの原因にはなりにくいです。トルエンやキシレンに比べて毒性が低く、有機溶剤中毒予防規則の対象外となります。
ただし、日本の消防法において、メチルシクロヘキサンは危険物第4類や第1石油類に該当しています。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-0704JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_108-87-2.html