塩化アセチル

塩化アセチルとは

塩化アセチルの基本情報

図1. 塩化アセチルの基本情報

塩化アセチルとは、酢酸から誘導されるカルボン酸塩化物の1種です。

塩化エタノイル (英: Ethanoyl chloride) とも呼ばれます。湿った空気中で塩化アセチルは白煙を生じ、水と容易に反応して加水分解して、酢酸と塩化水素に変わります。そのため、自然界には通常存在していません。

塩化アセチルは市販されていて、容易に入手できます。酢酸と塩化チオニルあるいは三塩化リンを反応させると、塩化アセチルを合成可能です。

塩化アセチルの使用用途

有機合成で塩化アセチルは、有機化合物へのアセチル基 (CH3CO-) の導入に使用可能です。例えば、AlCl3などのルイス酸触媒存在下で、芳香族ケトンの合成に塩化アセチルが用いられます。この反応はフリーデル・クラフツ反応 (英: Friedel–Crafts reaction) と呼ばれています。

ベンゼンのフリーデル・クラフツ反応によるアセトフェノンの合成のほか、エタノールのアセチル化による酢酸エチルの合成などにも使用可能です。

塩化アセチルの性質

塩化アセチルの密度は1.105g/cm3であり、融点は−112°C、沸点は51°Cです。常温では、引火性や可燃性を持つ無色の液体です。

塩化アセチルには不快な刺激臭が特徴で、目や皮膚への刺激性があります。ベンゼンクロロホルム、エーテル、石油エーテルに可溶です。

なお、塩化アセチルはカルボン酸塩化物です。アセチルとは、化学式がCH3CO-で表されるアシル基のことを指します。塩化アセチルの分子式はC2H3ClOで表され、分子量は78.50です。

塩化アセチルのその他情報

1. 塩化アセチルの合成法

塩化アセチルの合成

図2. 塩化アセチルの合成

工業的に塩化アセチルは、無水酢酸と塩化水素の反応により得られます。この反応では、塩化アセチルと酢酸の混合物が生成されます。実験室規模で塩化アセチルは、酢酸カリウムが塩化ホスホリルと反応すると合成可能です。

1852年にフランスの化学者シャルル・ジェラール (英: Charles Gerhardt) によって、初めて調製されました。三塩化リン (PCl3) 、五塩化リン (PCl5) 、塩化スルフリル (SO2Cl2) 、ホスゲン (COCl2) 、塩化チオニル (SOCl2) などと、酢酸の反応によっても生じます。

これらの方法では、通常リンや硫黄などの不純物を含んでいるため、塩化アセチルによる有機反応を妨げる可能性があります。ジクロロ酢酸クロリドと酢酸の混合物を加熱すると、塩化アセチルを合成可能です。塩化メチルの触媒的カルボニル化のほか、酢酸、アセトニトリル、塩化水素の反応でも、塩化アセチルが生成します。

2. 塩化アセチルの反応

塩化アセチルの反応

図3. 塩化アセチルの反応

塩化アセチルはアセチル化反応に用いられています。アルコールからはエステルが、アミンからはアミドが得られます。カルボン酸との反応では、酸無水物を合成可能です。

3. 塩基を用いた塩化アセチルによるアセチル化反応

アルコールやアミンのアセチル化反応では、塩化水素を捉えるための塩基として、トリエチルアミン水酸化ナトリウムなどが使用されます。水酸化ナトリウム水溶液を用いて、アルコールまたはアミンをカルボン酸塩化物と反応させて、エステルやアミドを得る方法は、ショッテン・バウマン反応 (英: Schotten-Baumann reaction) と呼ばれています。反応性次第では、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムも使用可能です。

塩化アセチルを用いたアセチル化反応では、ピリジンや4-ジメチルアミノピリジン (DMAP) からアセチルピリジニウム塩が生じます。このアセチルピリジニウム塩が、アルコールやアミンをアセチル化する触媒として作用するため、通常実験室ではピリジン類を少量用います。ピリジン類を過剰に用いて、反応溶媒として使用されることも多いです。

吉草酸

吉草酸とは

吉草酸の基本情報

図1. 吉草酸の基本情報

吉草酸とは、炭素数5の飽和鎖式カルボン酸の1つです。

ペンタン酸とも呼ばれ、不快な臭いがあります。ヨーロッパ産のハーブのセイヨウカノコソウ (英: Valerian) から、初めて発見されました。セイヨウカノコソウの乾燥した根は、古くから薬用に使用されています。

足の裏の臭いの原因は、吉草酸の異性体であるイソ吉草酸です。非常に閾値が低く、悪臭防止法の規制対象になっています。消防法では「第4類危険物第3石油類」に該当します。

吉草酸の使用用途

吉草酸は、食品用のフレーバーに広く用いられています。その際には、吉草酸ブチルや吉草酸ペンチルなどのエステルが使用されます。

吉草酸の香りは不快と言われていますが、少量であれば果実の香りを有する場合が多く、果実のエッセンスや精油の成分として利用可能です。リンゴ、モモ、アプリコットなどのフルーツ系、バター、ナッツ系の香料として利用されており、4.2~15ppm程度の濃度です。チューインガムには、260ppmほどの濃度で用いられます。

吉草酸の性質

吉草酸はエタノールやエーテルによく溶けますが、水にはわずかしか溶けません。極性溶媒より無極性溶媒に溶けるカルボン酸の中で、最も低分子量です。弱酸性を示し、pKaは4.82です。炭酸アルカリや水酸化アルカリの水溶液に、塩を生じて溶解します。人体には腐食性を示します。

吉草酸の融点は−34.5°C、沸点は186〜187°Cです。臭気は蒸れた靴下によく例えられます。

吉草酸の構造

吉草酸の化学式はC5H10O2で表され、分子量は102.13g/molです。示性式はCH3(CH2)3COOHで、密度は0.94g/cm3です。生理的pHで、吉草酸の共役塩基であるC4H9COOを生じます。

カルボン酸である吉草酸は、アルコールとの反応によってエステルを生成します。エステル以外にも、アミド、無水物、酸塩化物などの合成にも使用可能です。酸塩化物である塩化ペンタノイルは、合成の中間体として一般的に利用されます。

吉草酸のその他情報

1. 吉草酸の合成法

吉草酸の合成

図2. 吉草酸の合成

吉草酸はバレロニトリルの加水分解によって生成します。n-アミルアルコール (1-ペンタノール) の酸化によっても合成可能です。

工業的には、1-ブテンと合成ガスからヒドロホルミル化によってバレルアルデヒドが生成し、酸化によって吉草酸が得られます。バイオマス由来の糖からレブリン酸を介して、吉草酸を合成可能です。バイオ燃料を得るための方法として、非常に注目を集めています。

2. 吉草酸の構造異性体

吉草酸の構造異性体

図3. 吉草酸の構造異性体

吉草酸の構造異性体には、トリメチル酢酸、イソ吉草酸、2-メチルブタン酸が存在します。ピバリン酸、トリメチル酢酸、ネオペンタン酸などは、トリメチル酢酸の別名です。イソ吉草酸は3-メチルブタン酸とも呼ばれ、2-メチルブタン酸はヒドロアンゲリカ酸とも呼ばれています。

3. 吉草酸の構造異性体の特徴

トリメチル酢酸の示性式は(CH3)3CCOOHであり、密度は0.905g/cm3です。融点は35.5°C、沸点は163.8°Cです。イソ吉草酸の示性式は(CH3)2CHCH2COOHと表されます。

天然ではイソ吉草酸が、吉草酸の構造異性体の中で最もよく発見されており、オミナエシ科のカノコソウの根に含まれています。密度は0.925g/cm3であり、融点は−29°C、沸点は175〜177°Cです。

2-メチルブタン酸の示性式はC2H5(CH3)CHCOOHです。(R)-2-メチルブタン酸と(S)-2-メチルブタン酸の、2種類の光学異性体が存在します。(R)-2-メチルブタン酸はカカオ豆に存在し、(S)-2-メチルブタン酸はリンゴやアプリコットなどの多くの果物に含まれています。密度は0.94g/cm3で、融点は−90°C、沸点は176°Cです。

五酸化二窒素

五酸化二窒素とは

五酸化二窒素とは、五酸化窒素とも呼ばれ、硝酸の無水物です。
化学式はN2O5であり、分子量は108.01です。

五酸化二窒素は、冷濃硝酸を五酸化リンで脱水すること、もしくは、NO2をオゾンによって酸化することで得られます。

融点は30℃で、固体状態は無色で潮解性の結晶です。
47℃ で分解して二酸化窒素と酸素になります。

五酸化二窒素は強い酸化力を持っており、有機化合物やアンモニウム塩と反応して爆発性の混合物を作ります。

五酸化二窒素の使用用途

五酸化二窒素の使用用途としては、その強い酸化力から酸化剤として使用されています。

工業的利用方法としては、殺菌や治療、医薬品合成、材料合成などへの応用、活用が期待され研究されています。また、ベンゼン、セルロース、グリセリンなどをニトロ化するニトロ化試薬として利用されています。

特に、クロロホルムを溶媒として、芳香族化合物や、複素環式化合物(環の中に少なくとも2種類の異なる元素を含む環式化合物)をニトロ化する合成方法がよく知られています。

レゾルシノール

レゾルシノールとは

レゾルシノール (英: Resorcinol) とは、無色の結晶性粉末です。

レゾルシノールの化学式はC6H6O2、分子量は110.11、CAS番号は108-46-3の有機化合物の一種です。ベンゼン環のメタ位に 2個のヒドロキシ基が結合した構造を持ちます。ベンゼンジオールの1種で、カテコール、ハイドロキノンの構造異性体です。

レゾルシノールは、1864年にオーストリアの化学者ハインリッヒ・フラシェビッツらによって初めて調製・分析されたことが報告されました。レゾルシノールという名称は、類縁体のオルシノール (英: Orcinol) に由来しています。本来は、ベンゼン-1,3-ジオールが、IUPACが1993年の有機化学命名法に関する勧告で推奨している名前です。

レゾルシノールの性質

レゾルシノールの融点は109~111℃、沸点は280℃、比重は1.27です。常温環境においては、無色の固体状態として存在します。

レゾルシノールは、クロロホルムや二硫化炭素には難溶ですが、アルコールやエーテルの他、水にも非常に溶けやすく、空気中に放置していても吸湿します。また、光と酸素によって酸化されて色がピンク色に変化する性質があるので、保管する際は注意が必要です。

レゾルシノールの使用用途

レゾルシノールは、主に工業用の接着剤原料として使用されます。特にタイヤ製造におけるタイヤ材料用の接着剤、木材用接着剤などの接着剤原料として使用されます。レゾルシノールを用いた接着剤は、耐水性、耐熱性、耐候性に優れた性能の良い接着剤として知られています。

その他、レゾルシノールは、レゾルシノールの持つ強い還元力から殺菌剤としても使用されます。加えて、蛍光染料の原料などの用途でも使用されます。

レゾルシノールのその他情報

1. レゾルシノールの製造法

レゾルシノールは、ベンゼンからいくつかのステップで合成できます。プロピレンをジアルキル化することで1,3-ジイソプロピルベンゼンが得られ、この二置換アレーンの酸化およびホック転位によって、アセトンおよびレゾルシノールが生成します。

   C6H6+2CH3CH=CH2→1,3-(i-Pr)2C6H4 
   1,3-(i-Pr)2C6H4+2O2→1,3-(OH)2C6H4+2CH3COCH3

工業的には、クメンの自動酸化プロセスの応用で1,3-ジイソプロピルベンゼンの酸化により過酸化物を得て、それを酸触媒存在下で分解することで、レゾルシノールを得ることができます。

2. レゾルシノールの反応

レゾルシノールを部分水素化すると、1,3-シクロヘキサンジオンとしても知られるジヒドロレゾルシノールを与えます。また、水酸化カリウムと融合すると、レゾルシノールはフロログルシノール、ピロカテコール、およびジレゾルシノールを生成可能です。

他にも、冷濃硫酸の存在下、濃硝酸でニトロ化すると、爆発物であるトリニトロレゾルシンが得られます。

3. 法規情報

レゾルシノールは、労働安全衛生法において「名称等を表示・通知すべき危険有害物」「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」に該当しますが、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) には指定がありません。消防法も非該当ですが、毒物及び劇物取締法では「劇物」に指定されており、使用の際には注意が必要です。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密閉し、涼しく乾燥し換気の良い場所に保管する。
  • 熱・火花・火炎など着火源から遠ざける。
  • 火災及び爆発の危険があるため、強酸化剤やアンモニア、アミノ化合物との接触を避ける。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 粉塵やヒューム、蒸気、スプレーを吸入しない。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣、保護面を着用する。
  • 使用後は適切に手袋を脱ぎ、本製品の皮膚への付着を避ける。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/108-46-3.html

メチルアミン

メチルアミンとは

メチルアミン (英: Methylamine) とは、アンモニアに似た臭気のある無色の可燃性気体です。

メチルアミンの化学式はCH3NH2、分子量は31.1、CAS番号は74-89-5で、最も基本的な第一級アミンです。メチルアミンは、1849年にフランスの化学者シャルル・アドルフ・ヴュルツにより、イソシアン酸メチルおよび関連化合物の加水分解によって最初に調製されました。

天然にはトウダイグサ科などの植物、骨油、木材乾留液中に存在している有機化合物です。また、動物や植物が腐敗分解するときにアンモニアとともに生じることがあります。

メチルアミンの性質

メチルアミンは、融点が-93℃、沸点が-6℃、自然発火温度が430℃ですが、40%水溶液の引火点は-10℃です。

水、エタノール、エーテルのいずれにもよく溶け、水に対しては20℃で108g/mLの溶解度を示します。メチルアミンは通常、塩酸との塩である塩酸メチルアンモニウムの状態で市販されています。

メチルアミンの使用用途

メチルアミンの使用用途としては、殺虫剤、薬物、界面活性剤、爆発物、着色剤、殺菌剤、添加剤などがあげられ、製造原料として、幅広く使用されています。

メチルアミンは、メタンフェタミンなどの麻薬の合成に使用される原料物質であるため、その使用法がしばしば法的な論争を引き起こしている有機化合物です。取得に関する複数の法的規制が有るにもかかわらず、世界的に強い需要があります。

メチルアミンの化学的多様性は、分子内の窒素原子が優れた求核性を有する合成試薬(求核剤)であり、さまざまな有機反応において高分子量の基質に結合させることができることに由来しています。メチルアミンから製造される代表的な商業的に重要な化学物質には、医薬品エフェドリンおよびテオフィリン、農薬カルボフランおよびカルバリル、ならびに溶媒N-メチルホルムアミドおよびN-メチルピロリドンが含まれます。

メチルアミンのその他情報

1. メチルアミンの製造法

メチルアミンは、メタノール塩化アンモニウム塩化亜鉛の存在下で加熱することで得られます。

ホルムアルデヒドを塩化アンモニウムで処理して得たメチルアミン塩酸塩に、水酸化ナトリウムなどの塩基を添加することでもメチルアミンに変換できます。商業的には、アルミノケイ酸塩触媒存在下でのメタノールアンモニアとの反応によって調製されます (CH3OH+NH3→CH3NH2+H2O)。

2. メチルアミンの反応

メチルアミンは立体障害が少なく反応が妨げられないアミンであるため、優れた求核剤として有機化学分野での使用が普及しています。

具体的な反応として、ホスゲンからメチルイソシアネート、二硫化炭素と水酸化ナトリウムからメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、クロロホルムと塩基からメチルイソシアニド、エチレンオキシドからメチルエタノールアミンを生成するものなどがあります。

3. 法規情報

メチルアミンは、労働安全衛生法において「危険物・引火性の物、可燃性のガス」「名称等を表示・通知すべき危険有害物」「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」に、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) において「第1種指定化学物質」に指定されています。

消防法には該当しませんが、毒物及び劇物取締法では「劇物」に指定されており、使用の際には注意が必要です。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密閉し、涼しく乾燥し換気の良い場所に保管する。
  • 熱・火花・火炎など着火源から遠ざける。
  • 爆発性混合物を生成しやすいため、空気との混合を避ける。
  • 燃焼すると分解して有毒なヒュームを発生するため、燃焼させない。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣、保護面を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • ガスを吸入した場合は空気の新鮮な場所に移し、直ちに医師に連絡する。
  • 皮膚に付着した場合は、速やかに水で洗い流し、直ちに医師に連絡する。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗い続け、直ちに医師に連絡する。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/74-89-5.html

メシチレン

メシチレンとは

メシチレン (英: Mesitylene) とは、甘い芳香臭のある無色の液体です。

メシチレンの化学式は C9H12で表され、分子量は120.2、CAS番号は108-67-8の芳香族有機化合物の1種です。IUPAC名としては、1,3,5-トリメチルベンゼンと命名されており、メシチレンは慣用名です。ベンゼン環の3個の水素がメチル基で置き換わった構造をしています。

メシチレンは、1837年にアイルランドの化学者ロバート・ケインが、アセトンを濃硫酸で加熱することにより初めて発見されました。伝統的な化学原料であるコールタールに含まれ、多様なファインケミカルの前駆体となっています。

メシチレンの使用用途

メシチレンとしては、その有機化合物への溶解性の高さから、有機合成における高沸点溶媒として広く用いられています。また、その溶解度の高さを活かしエレクトロニクスの分野では、半導体ウェハーの写像形成におけるエッチング液として用いられています。

さらに、染料、顔料、医薬品などの合成原料として用いられています。合成原料としての使用例としては、次のような例が挙げられます。

  • フラーレン(C60)/1,3,5-トリメチルベンゼン (メシチレン) ナノワイヤの生成や合成。
  • ドデカタングストリン酸 (DTP)/K-10 モンモリロナイトクレイの存在下における塩化アセチルとの反応による、2′,4′,6′-トリメチルアセトフェノンの選択性の高い合成。
  • N,O-リガンドを有するバナジウム (IV または V) 化合物を触媒とする、ベンゼンから3,5-ジメチルベンズアルデヒドの合成。

メシチレンの性質

メシチレンの融点は-44.8℃、沸点は164.7℃、相対密度は0.86、引火点は50℃の可燃性の液体です。メシチレンは、燃焼に起因する主要な都市揮発性有機化合物 (VOC) でもあり、エアロゾルや対流圏オゾンの形成、大気化学における他の反応に重要な役割を果たしている可能性があります。

メシチレンのその他情報

1. メシチレンの製造法

メシチレンは、硫酸存在下でのアセトンの蒸留、もしくは、硫酸存在下でのプロピンの三量化によって合成され、得ることができます。どちらの合成法においても、硫酸は触媒として作用しています。また、キシレンを固体酸触媒によりトランスアルキル化することによっても、調製することが出来ます (2C6H4(CH3)2⇌C6H3(CH3)3+C6H5CH3)。

2. メシチレンの反応

メシチレンを硝酸で酸化すると、トリメシン酸C6H3(COOH)3が得られます。メシチレンに対して、より穏やかな酸化剤である二酸化マンガンを使用すると、3,5-ジメチルベンズアルデヒドが形成され、トリフルオロ過酢酸を使用すると、メシトール (2,4,6-トリメチルフェノール) が生成します。臭素化は容易に起こり、臭化メシチルを与えます (3C6H3+Br2→(CH3)3 C6H2Br+HBr)。

3. 法規情報

メシチレンは、労働安全衛生法において「名称等を表示・通知すべき危険有害物」「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」に、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) において「第1種指定化学物質」に指定されています。毒物及び劇物取締法には該当しませんが、消防法では「危険物第4類 第二石油類」に指定されており、使用の際には注意が必要です。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密閉し、涼しく乾燥し換気の良い場所に保管する。
  • 熱・火花・火炎など着火源から遠ざける。
  • 火災及び爆発の危険があるため、酸化剤との接触を避ける。
  • 燃焼すると分解して有毒で刺激性のヒュームを発生するため、燃焼させない。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • ミストや蒸気、スプレーを吸入しない。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣を着用する。
  • 使用後は適切に手袋を脱ぎ、本製品の皮膚への付着を避ける。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。

ミルセン

ミルセンとは

ミルセンの基本情報

図1. ミルセンの基本情報

ミルセン (英: myrcene) は、化学式がC10H16で表され、自然界にも存在する有機化合物です。

ミルセンには、α-ミルセンとβ-ミルセンの2種類の異性体が存在します。自然界に存在するのはβ-ミルセンで、一般的に使用されています。月桂樹、松、ヨモギ、ミント類などに含まれる成分です。キクイムシのフェロモンであり、誘引物質として作用します。

ミルセンは消防法で、「危険物第四類 第二石油類 危険等級Ⅲ」に該当する物質であり、取り扱いには注意が必要です。

ミルセンの使用用途

ミルセンには、筋肉の弛緩、鎮静作用、抗炎症作用、抗菌作用などがあります。人体に有益な作用を持つため、サプリメントに配合されています。

また、ミルセンが持つ「安らぐ香り」を活かし、アロマオイルや香料に使用可能です。香料工業でミルセンは、他の香料を合成する際の材料に用いられており、重要視されています。

例えばミルセンを原料として、メントール、リナロール、シトラール、ゲラニオール、ネロール、シトロネラール、シトロネロールなどの香料を製造可能です。さらにミルセンは、樹脂の製造にも使用されます。

ミルセンの性質

ミルセンの融点は50°Cで、沸点は166〜168°Cです。非常に揮発しやすく、針葉樹のような爽やかな香りを有します。室温で少しずつ重合します。

ミルセンの構造

ミルセンの構造

図2. ミルセンの構造

ミルセンはモノテルペン (英: Monoterpene) に属するオレフィンの一種です。モノテルペンとは、2個のイソプレン単位から構成され、天然に存在する分子式がC10H16の炭化水素のことです。

β-ミルセンには、二重結合の位置が異なる構造異性体であるα-ミルセンが存在します。IUPAC系統名でα-ミルセンは2-メチル-6-メチレンオクタ-1,7-ジエン (英: 2-methyl-6-methyleneocta-1,7-diene) で、β-ミルセンは7-メチル-3-メチレンオクタ-1,6-ジエン (英: 7-methyl-3-methyleneocta-1,6-diene) です。α-ミルセンは酢酸ミルセニル (英: Myrcenyl acetate) の熱分解で生成します。

α-ミルセンとβ-ミルセンの分子量は136.23で、密度は0.7905g/cm3です。

ミルセンのその他情報

1. ミルセンの合成

ミルセンの合成

図3. ミルセンの合成

多くの場合にミルセンは、テレビン油から得られるβ-ピネン (英: β-pinene) の熱分解により、商業的に製造されています。そのため直接植物から得ることはあまりありません。

植物では、まず二リン酸リナリル (英: linalyl pyrophosphate) の異性化によってゲラニル二リン酸(英: geranyl diphosphate) が生成します。続いてピロリン酸塩と水素イオンが放出されて、ミルセンが生合成されます。

2. ミルセンの反応

ミルセンはミルセノール (英: myrcenol) に変換可能です。まずジエチルアミンによって、1,3-ジエンをヒドロアミノ化します。続いて加水分解が起こり、パラジウム触媒を用いてアミンを除去すると、ミルセノールを生成可能です。

ミルセンとミルセノールはいずれも、アクロレインなどのジエノフィルとディールス・アルダー反応 (英: Diels–Alder reaction) を起こします。ディールス・アルダー反応によって合成香料であるヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒド (英: Hydroxymethylpentylcyclohexenecarboxaldehyde) など、シクロヘキセン誘導体を合成可能です。ヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒドは、一般的にリラール (英: Lyral) とも呼ばれています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0235-2941JGHEJP.pdf

マグネサイト

マグネサイトとは

マグネサイト (英: Magnesite) とは、マグネシウムの炭酸塩である炭酸マグネシウムを主成分とした鉱物です。

日本では菱苦土鉱 (りょうくどこう) 、または菱苦土石 (りょうくどせき) とも呼ばれます。混和物として鉄やマンガン、コバルトやニッケルが含まれていることもありますが、それらの混入はごく少量です。なお、鉄を少量含むものはブロイネル石と呼ばれます。

マグネサイトの使用用途

1. 酸化マグネシウムの原料

マグネサイトは、主に熱処理して酸化マグネシウムを生成する用途に使われます。酸化マグネシウムは、軽焼マグネサイトと呼ばれ、高炉やキルン、焼却炉の内張りとして使用される重要な耐火物 (耐熱性) です。軽焼マグネサイトは蓄熱性に優れるため、夜間蓄熱暖房機や電気暖炉などの蓄熱芯としても使用されます。

また、軽焼マグネサイトは優れた土壌硬化剤です。土中の水と反応し、水酸化マグネシウムを経て、最終的に炭酸マグネシウムに変化し、硬化剤として作用します。環境にも優しく、農業分野で主に使われています。

2. 芸術作品

マグネサイトは、ビーズなどの原料として利用されます。色が付けやすい性質から、染色されてトルコ石やラピスラズリの代用品としたり、カットや穴あけ、研磨によってさまざまな装飾品に変化します。

3. その他

マグネサイトは、床材 (マグネサイトスクリード) のバインダー、合成ゴムの製造における触媒や充填材、工場で発生する排煙中に含まれる二酸化硫黄を除去する製品の原料としても使用されています。

マグネサイトの性質

マグネサイトは、菱面体や三方晶の結晶構造を有したモース硬度は3.5〜4.5の炭酸塩鉱物です。純粋なものは透明〜白色を示し、ガラス光沢を有します。紫外線を照射すると、緑または青の蛍光およびりん光を発します。

モース硬度とは、主に鉱物に対して使われる単位の一種です。1〜10の数字で表され、あるもので引っかいたときに傷がつくかどうかの指標です。例えば、硬度2は石膏で引っかいた際に傷がつくかどうか、硬度10はダイヤモンドで引っかいたとき傷がつくかどうかなどと、標準鉱物が設定されています。

また、マグネサイトを1,000ºC程度で焼成すると、主成分である炭酸マグネシウムから二酸化炭素が脱離し、酸化マグネシウム (MgO) が得られます。主成分である炭酸マグネシウム (英: Magnesium carbonate) の化学式はMgCO3で表され、分子量は84.31です。

無水物のCAS登録番号は546-93-0です。水和物としては、一水和物 (cas番号: 17968-26-2) と二水和物 (cas番号: 5145-48-2) 、三水和物 (cas番号: 14457-83-1) 、五水和物 (cas番号: 61042-72-6) が知られています。無水炭酸マグネシウムは、350℃に融点 (分解) を持つ、室温で密度2.958 g/cm3の白色固体です。無味無臭で三方晶の結晶構造を持ちます。

マグネサイトのその他情報

1. マグネサイトの製造法

天然では、主に中国で産出されます。日本では、茨城県常陸太田市にある長谷鉱山や長崎県西海市および大分県豊後大野市にある尾平鉱山にて産出されていましたが、現在はどちらも閉山しています。

人工的には、マグネシウム蛇紋岩 (リザード岩) の炭酸化によっても合成可能です。しかし、本手法では炭酸マグネシウム三水和物 (ネスクホナイト) が生成します。

2. 取り扱い及び保管上の注意

ここでは、主成分である炭酸マグネシウムについて解説します。

取り扱い時の対策
取り扱う際は、側板付きの保護メガネ (必要に応じゴーグルまたは全面保護メガネ) と長袖の保護衣、保護手袋を着用します。局所排気装置内で使用してください。

火災の場合
熱分解で、一酸化炭素や二酸化炭素マグネシウム酸化物を生成するおそれがあります。現場状況と周囲の環境に適した消火方法を選択してください。

保管する場合
ポリエチレン製の容器に密閉し、直射日光を避けた換気が良く涼しい場所に保管してください。保管場所は必ず施錠します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-1444JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Magnesium-Carbonate

ホスフィン

ホスフィンとは

ホスフィン (英: phosphine) とは、リン化水素、あるいは水素化リンと呼ばれる、水素とリンが結合した無機化合物です。

化学式はPH3、分子量は34.0g/mol、沸点は-88℃、気体での密度は1.38g/L、CAS番号は7803-51-2です。ホスフィンの誘導体も含んで総称としてホスフィンと呼ぶこともあります。

常温では無色、不快な臭いのある可燃性気体の状態で存在します。溶解度は、水100Lに対して26mlです。

ホスフィンの使用用途

1. 半導体の原料

ホスフィンは、半導体製造における原料物質として使用されています。非共有電子対を持っており電子豊富なため、ドーピング剤としてケイ素をn形半導体にする場合に用いられています。また、InGaP (インジウムガリウムリン) など、半導体を製造する際の不純物を添加する目的でも有用です。

これらの半導体は、DVD 等の光ディスク向けレーザーダイオード、光ファイバー通信向けレーザーダイオード、受光ダイオードや高輝度発光ダイオード、携帯電話向けの電子デバイスなどに使用されてきました。

2. リンを含む化合物の製造

高純度のホスフィンガスを熱分解することによって黄リンを、さらに熱を加えることで赤リンを合成可能です。また、ホスフィンはさまざまなリンを含む化合物の原料です。ホスフィンはラジカル付加やマイケル付加、酸触媒や置換反応などのさまざまな反応を起こすことができるため、多種多様なリン原子を含む有機化合物の原料として使用されています。

さらに、オレフィンのモル比などの反応条件によって、1級、2級、3級ホスフィンの生成比率をある程度コントロールすることも可能です。そのうち2 級ホスフィンを酸化することにより、ホスフィン酸が製造されます。ホスフィン酸は、表面処理剤や金属抽出剤、樹脂添加剤および反応触媒などに利用されています。

3. 殺虫剤

穀物類の貯蔵庫において、主に害虫駆除や防カビ・殺菌を目的とした燻蒸作業にホスフィンが使用されます。ホスフィンは、大気中に均一に広まりやすく、「対象物の隙間に深く浸透する」「堅い種子の殻も透過する」という利点があるためです。

ホスフィンの性質

ホスフィンは、同じ15族元素である窒素を含むアンモニアと非常に類似した構造を持っていますが、アンモニアと比較するとリン原子の非共有電子対がプロトンを受け取る力はかなり弱いです。塩基性は持ちますが、かなり弱塩基です。

ホスフィンの生成方法としては、二リン化三カルシウムに水を加えるという方法などがありますが、他にも黄リンに水酸化ナトリウムを加えた時に生じる粗ホスフィンガス (ホスフィンと水素ガスの混合物) を生成することによって製造する方法などがあります。

ホスフィンのその他情報

1. 大気中のホスフィン

ホスフィンは、地球の大気中にわずかに存在しています。これは部分的な還元と不均化による有機物の分解により、生物学的に生成されたと考えられてきました。

また、木星の乱気流中にもホスフィンは存在しており、これは木星の内部で生成されているとされています。木星での大気中のホスフィンは別の物質と絶えず反応をしています。

2. ホスフィンの危険性

ホスフィンは常温の空気中で酸素と反応して自然発火し、爆発を引き起こしてしまう恐れがあります。また、極めて毒性が強いため、体内に摂取してしまうと、肺水腫などを引き起こしてしまい、死に至る可能性があります。

保管する際にはボンベ中に厳重に保管、管理を行い、使用する際には絶対に人の肌、口、目に触れないよう注意が必要です。毒物および劇物取締法では、「毒物 (リン化水素およびこれを含有する製剤) 」に該当します。GHS分類においては、可燃性ガスが区分1、急性毒性が区分1、特定標的臓器毒性が区分1に指定されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7803-51-2.html

ヘキサン酸

ヘキサン酸とは

ヘキサン酸 (化学式: C6H12O2 ) とは、炭素数6の脂肪酸です。

分子量は116.13、密度は0.93g/cm3、融点は−3°C、沸点は205°Cであり、常温においては無色の液体状態で存在します。別名で、カプロン酸とも呼ばれます。

ヘキサン酸の使用用途

1. 香料

ヘキサン酸は、主に香料および香料原料として使用されます。例えば、ヘキサン酸とエタノールの結合したエステルであるヘキサン酸エチルは、ややフローラルなアップル、バナナ、パイナップルを想起させるようなフルーティー感のある物質です。

その他にも、ヘキサン酸を原料とする香料として3−ヒドロキシヘキサン酸エチルや、カプロン酸アリル、エチルヘキサン酸セチルなどの物質があり、いずれもフルーツ様のいい匂いを発します。このように、ヘキサン酸を原料とした香料により、フルーツ系フレーバーをはじめ、ウイスキー、ブランデー、バター、チーズ、チョコレート、ナッツなどのフレーバーを生成する用途で使用されています。

2. 有機合成

ヘキサン酸はカルボキシ基を持つカルボン酸なので、さまざまなカルボン酸誘導体を合成することができます。カルボン酸自体反の応性はあまり高くないですが、縮合剤 (DCCなど) を用いることで、エステルやアミンをカルボン酸から合成することができます。

しかし、カルボン酸を塩化チオニルなどの反応剤で酸塩化物 (-COCl) へと変換することによって、反応性を大きく上げることが可能です。酸塩化物は求核置換反応を非常に受けやすい物質であるため、ケトンやニトリル、エステル、アミン、および様々な保護基の連結を簡単に行うことができます。

また、エステル結合やアミド結合を多数回繰り返したようなポリマーもカルボン酸から合成可能です。このようなポリマーは、プラスチックやナイロンなど私たちの身の回りの様々な場面で多く使用されています。

ヘキサン酸の性質

ヘキサン酸は、ヤギの体臭のような不快な臭いを持つことが特徴です。この物質の匂いは、「重く刺すような古い油のようなニオイ」「銀杏の実のニオイの1種」のようにも表現されることがあります。ヤギの毛に含まれる油の分解物からこの物質が得られたことによって命名されており、ヤギの学名である「Capra aegagrus」に由来しています。

天然にも存在する物質で、バター、パーム油、やし油中にも含まれます。製法としては、ヘキサン酸エステルの加水分解などがありますが、大量に製造するときにはヘキシルアルコールの空気酸化 (酸素による酸化) で合成することが可能です。

ヘキサン酸のその他情報

1. ヘキサン酸の危険性

ヘキサン酸は、消防法においては危険物第四類に該当しています。また、毒物および劇物取締法においては劇物に指定されているため、取り扱いや管理には注意が必要です。

この物質は皮膚や目に対して非常に強い刺激性を持っているため、扱う際には必ず保護メガネやゴム手袋の着用を行う必要があります。摂取してしまった場合には、肺に吸い込んで化学性肺炎を起こすことがあるという報告があります。もし皮膚や目に付着してしまった場合は、すぐに大量の水で洗い流すことが原則です。

2. 誘導体の性質

ヘキサン酸にはさまざまな誘導体が存在しますが、例えば、3-ヒドロキシ-3-メチルヘキサン酸はわき汗のにおい源の物質です。

また、2-エチルヘキサン酸は主に金属石けん原料、合成潤滑油原料、特殊可塑剤原料、防錆添加剤、アルキドレジン変性剤などに使用されており、日本では1年あたり10,000~100,000t製造されている非常によく使用される物質です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0108-0629JGHEJP.pdf