過塩素酸カリウム

過塩素酸カリウムとは

過塩素酸カリウムとは、化学式KClO4で表される過塩素酸のカリウム塩です。

過塩素酸塩の1種であり、過塩素酸塩に共通する酸化剤としての性質、水溶液にしたときにイオン半径が大きい陰イオンとしてふるまう性質を持っています。なお、CAS登録番号は7778-74-7です。

過塩素酸カリウムの使用用途

過塩素酸カリウムは、酸化剤としてよく使われている化学物質です。強い酸化力をもつため、かつては固体燃料ロケットの酸化剤として使われていました。

現在では、爆薬、花火、酸化剤、信号炎管の原料といったものに用いられています。花火が強い炎を上げるのは、過塩素酸カリウムが強く酸素を発生させるからです。

この他にも、過塩素酸カリウムは、分析用の試薬 (イオンペア試薬) として、また抗甲状腺薬として医薬品の用途でも用いられています。

過塩素酸カリウムの性質

1. 外観・溶解性

無色または白色の結晶性粉末で、水に溶けにくく、エタノール等のアルコール類にほとんど溶けません。溶かすのに冷水で概ね65倍容が必要です。

2. 結晶の安定性

過塩素酸カリウムは、水に対してナトリウム塩である過塩素酸ナトリウムと対照的な性質を有しています。過塩素酸ナトリウムは水に良く溶ける一方、結晶が潮解性を示します。過塩素酸カリウムは結晶としては安定です。

3. 加熱されたときの性質・火災危険

過塩素酸カリウムは400℃以上に加熱すると酸素を発生しながら分解します。有機物と共存したときに、有機物を酸化するすることで火災の原因となるほか、火災時に熱分解して酸素を発生することでも火災の拡大を助長します。

4. 酸化力

過塩素酸カリウムの酸化力の源は、含まれる塩素が塩素原子の最高酸化状態 (7価) であることです。自身が還元され、周囲の物質を酸化する性質を持ちます。

過塩素酸カリウムのその他情報

1. ヨウ素や甲状腺との関係

過塩素酸イオンはヨウ素イオンの生体内移動 (臓器取り込みなど) を阻害します。その理由として、過塩素酸イオンがヨウ素イオンと大きさが近いため、取り込み輸送体と競合する可能性が考えられています。

本当に競合するかは論争がありますが、過塩素酸塩がSodium-Iodide Symporterによるヨウ素の生体内移動を妨げることは確かです。

この性質を利用して、過塩素酸カリウムを薬物として投与し、甲状腺へのヨウ素取り込みを調節することで甲状腺の機能を調節したり、投与時に血中に放出されるヨウ素量から甲状腺機能の診断に用いたりします。

2. イオンペア液体クロマトグラフィー

過塩素酸カリウムはイオンペア液体クロマトグラフィーのイオンペア試薬として用いられます。過塩素酸イオンは大きなイオン半径を持つ陰イオンであり、有機陽イオンと安定に会合 (イオンペア形成) しやすい性質があるためです。

イオン半径の大きい過塩素酸イオンとイオンペアを形成することにより、有機陽イオンと分析カラムとの好ましくない相互作用を抑制し、分析性能を向上させることができます。

3. 危険性・有害性

酸化性固体であり、有機物と共存することで火災の原因になるほか、火災を爆発的に拡大する可能性を有します。

皮膚腐食性/刺激性、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性、気道刺激性を有し、人体に有害です。また、長期の反復する曝露により、血液系の障害を生じる可能性があります。

4. 関係法令

労働安全衛生法においては、危険物・酸化性の物 (施行令別表第1第3号) に該当し、消防法では、第1類酸化性固体に分類されます。危険物船舶輸送及び貯蔵規則では酸化性物質、航空法でも酸化性物質です。

化学物質排出管理促進法では、第1種指定化学物質に該当しています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1391.html

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過塩素酸

過塩素酸とは

過塩素酸とは、化学式HClO4で表されるハロゲン酸の1種です。

CAS登録番号は7601-90-3、分子量は100.46です。融点は-17℃の無色の発煙性液体で、強い酸化力を持ちます。常温では液体ですが、高濃度では危険性が高いので、一般的には60~70 %水溶液が市販されています。

消防法では、危険物第六類に分類されますが、毒劇物取締法には非該当です。

過塩素酸の使用用途

過塩素酸の主な用途は、分析化学用試薬 (イオン交換クロマトグラフィーの溶離液など) 、金属・合金・鉱石などの溶解、有機合成用触媒、過塩素酸塩  (過塩素酸アンモニウムなど) またはその誘導体の製造原料です。

そのほか、ロケットやミサイルの推進剤、エアバック、火薬、花火、マッチ、信号炎管、金属の電解研磨やエッチングなど工業的な用途もあります。

1. 分析化学

過塩素酸は、金属分析での前処理で使われています。酸化力が高いので、有機物を多く含む検体の分解に対して有効です。過塩素酸を有機物に直接加えると、爆発する恐れがあるので、必ず硝酸などの存在下で添加します。

また、イオン交換クロマトグラフィーの溶離液に添加されることがあります。有機酸など比較的酸性度の低い物質は、溶離液のpHによって保持時間が変わってくるため、解離パターンの調整に使用されます。

2. 過塩素酸塩の製造原料

過塩素酸は、過塩素酸塩の製造に使用されます。過塩素酸塩は過塩素酸イオン (HClO4) を含む結晶で酸化力が高く、火薬や爆薬などに使用されています。危険物第1類 (酸化性固体) に該当する物質です。

過塩素酸塩の1つである過塩素酸アンモニウムは、ロケットやミサイルの推進剤として利用されています。過塩素酸アンモニウムは、過塩素酸とアンモニアを反応して得られます。

  HClO4 + NH3 → NH4ClO4

過塩素酸の性質

過塩素酸は、強酸性で使用条件によっては爆発するおそれがあるため、使用の際には注意が必要です。化学物質の有害性情報を示すGHS分類は次の通りです。

  • 酸化性液体 区分1
    強酸化性物質: 火災又は爆発のおそれ
  • 金属腐食性 区分1
    金属腐食のおそれ
  • 急性毒性(経口) 区分4
    飲み込むと有害 (経口)
  • 皮膚腐食性/刺激性 区分1
    重篤な皮膚の薬傷・眼の損傷
  • 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 区分1
    重篤な眼の損傷
  • 発がん性 区分2
    発がんのおそれの疑い
  • 生殖毒性 区分2
    生殖能又は胎児への悪影響のおそれの疑い
  • 特定標的臓器毒性(単回ばく露) 区分3
    気道刺激性: 呼吸器への刺激のおそれ
  • 特定標的臓器毒性(反復ばく露) 区分1
    甲状腺: 長期又は反復ばく露による臓器の障害

過塩素酸は加熱および有機物や還元剤との接触で爆発しやすいため、注意が必要です。有機物の分解作業中、爆発し、負傷する事故が過去に発生しています。試薬をこぼしてしまった場合は、大量の水で流すようにします。

過塩素酸は金属を腐食して水素を発生させます。保管はガラスやポリエチレン製の容器を使用し、直射日光を避け、換気の良いなるべく涼しい場所に常温で保管することが推奨されています。

過塩素酸のその他情報

1. 人体への有毒性

過塩素酸は高濃度では酸化力が非常に高く、有機物を腐食します。皮膚なども腐食するため、使用の際には保護手袋や保護メガネなど、保護具の着用が必須です。

また、呼吸器への刺激性があるため、局所排気装置下など換気の良い場所で使用する必要があります。

2. 過塩素酸の酸性度

過塩素酸はオキソ酸の1種で、塩素原子 (Cl) を含むオキソ酸の中では最も酸性度が高いです。塩素原子を含有するオキソ酸の酸性度の強さは次の通りです。

  HClO < HClO2 < HClO3 < HClO4

酸素数が多いほど、酸素原子の有機効果が大きくなり、プロトン解離後の塩素酸イオンの安定性も高くなるため、酸性度も高くなります。過塩素酸のpKaは-10で、硝酸や硫酸と同様の強酸です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-0071JGHEJP.pdf
https://www.env.go.jp/chemi/report/h23-01/pdf/chpt1/1-2-2-04.pdf

過マンガン酸カリウム

過マンガン酸カリウムとは

過マンガン酸カリウムとは、化学式KMnO4で表される、分子量158.03の無機化合物です。

密度は2.703 g/cm3、分解点は200℃、CAS番号は7722-64-7です。過マンガン酸カリウムは、陽イオンのカリウムイオンと陰イオンの過マンガン酸イオンからなります。

過マンガン酸イオンのマンガン原子の酸化数は+7であり、非常に電子不足であることから強い酸化剤として働くことができます。なお、消防法では、危険物第一類に分類され、また労安法では名称等を表示すべき危険有害物とされています。

過マンガン酸カリウムの使用用途

過マンガン酸カリウムは、強力な酸化剤として知られており、さまざまな分野で用いられております。例えば、金属表面処理、無機酸・有機酸の精製、タンカーの洗浄などが挙げられます。

有機化学においては、アルコールからケトン及びアルデヒドへの変換、アルケンのジオールへの開裂、芳香環に結合するアルキル基のカルボキシ基への変換など、さまざまな酸化反応に利用されてきました。また、この化合物はTLCの呈色試薬としても有用です。

そのほか、有害な微生物や細菌の増殖を抑制するため、防腐剤や消毒剤としても使用されます。実験用途では、酸化還元滴定用の標準液として利用されることが多いです。さらに近年では、過マンガン酸カリウムを浄水や下水処理の用途も増えてきています。

過マンガン酸カリウムの性質

過マンガン酸カリウムは、常温常圧では金属光沢のある紫黒色もしくは緑黒色の柱状直方晶系結晶で、水に溶かすと濃い紫がかった赤色の溶液になります。水には多量に溶けることができますが、メタノールアセトンなどの有機溶媒や硫酸にはわずかに溶ける性質です。

アルコールに溶解すると、分解してしまうことがあります。強力な酸化剤の1つであり、酸性、塩基性いずれでも酸化力が強いです。酸性溶液中では酸化数+2を持つ薄いピンク色の Mn2+ 陽イオンに還元され、塩基性溶液中では過マンガン酸イオンは酸化数+4を持つ茶色の沈殿物である二酸化マンガン (MnO2) に還元されます。

過マンガン酸カリウムのその他情報

1. 過マンガン酸カリウムの製法

実験室的製法では二酸化マンガンから過マンガン酸カリウムを製造しますが、およそ3段階のステップがあります。

1つ目は、酸化剤に耐久性をもつ素材の容器で、二酸化マンガンとKOHもしくはK2CO3を溶融させて空気酸化させるという工程です。もしくは、二酸化マンガンとKOHに酸化剤である塩素酸カリウムなどを混合し、溶融させることで酸化し、マンガン酸カリウムを得ます。

2つ目は、合成したマンガン酸カリウムを冷却後に水に溶解し、未反応のMnO2等を濾別するという段階です。ここで、不純物や副生成物を取り除きます。

3つ目は、ろ過後の溶液に二酸化炭素を吹き込み、二酸化炭素が還元剤として働くことによって、過マンガン酸カリウムが生成します。この時に、副生成物として二酸化炭素が還元されて生成した炭酸カリウムが生成します。

2. 過マンガン酸カリウムの危険性

過マンガン酸カリウムをアルコールに加えると、激しい発熱反応を起こします。そのため、この化合物を用いる反応はこれらが入っているガラスなどの容器を溶かすほどの高温となり、近くにある可燃性の物質に引火する場合があります。

取り扱う際は、近くに可燃性のものを置いていないか確認することが重要です。また、同時に使用する試薬が酸化されて危険物質を放出してしまうことがあります。

例えば、過マンガン酸カリウムの固体を濃硫酸と混合すると、爆発性の酸化マンガン(Mn2O7) を生成し、非常に危険です。過マンガン酸カリウムの高濃度の水溶液や固体に塩酸を加えると、塩酸が酸化されて致死性の塩素ガスが発生します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-0418JGHEJP.pdf

硫化ナトリウム

硫化ナトリウムとは

硫化ナトリウムとは、化学式がNa2Sで表される無機化合物です。

別名、硫化ソーダとも呼ばれます。式量は78.04g/molです。通常は、九水和物 (Na2S・9H2O) として存在します。硫化ナトリウムなどの硫化物塩の硫化物イオンを含む水溶液は、2つの水素イオンを捕獲し、加水分解によって強アルカリ性を示します。

廃液中の硫化ナトリウムが酸や酸性塩と反応すると、硫化水素が生じるため、取り扱いには注意が必要です。労働安全衛生法では、57条の名称等を通知すべき有害物とされています。

硫化ナトリウムの使用用途

硫化ナトリウムは、医薬品、食品添加物、工業用、試薬など、幅広く利用されています。

工業用途の具体例として、ビスコース人絹、皮革の脱毛、スフの脱硫用、硫化染色助剤、PPS樹脂原料、有機硫化物の製造原料、の浮遊選鉱剤、排水中の重金属の除去などが挙げられます。また、ガラスやパルプの製造にも利用可能です。さらに、乾燥剤や浴用剤のような、身近な製品にも使用されています。

医薬品用途では、主にフェナセチンなどの解熱剤の製造に用いられます。

硫化ナトリウムの性質

硫化ナトリウムには潮解性があり、水によく溶解します。無水物を水に溶かすと発熱します。アルコールに溶けますが、エーテルには溶けません。

硫化ナトリウムの無水物の融点は950°Cです。九水和物は50°Cで融解し、強熱すると分解します。五水和物の融点は100°Cです。

共役酸は水硫化ナトリウム (SH) で、 水溶液の大部分が硫化水素ナトリウムとして存在しています。酸との反応では硫化水素を、燃焼では二酸化硫黄を発生させます。

硫化ナトリウムの構造

硫化ナトリウムの無水物は、立方晶系の逆蛍石型構造を取っています。格子定数は a = 652.6 pmで、密度が1.86g/cm3です。CaF2骨格のFの位置をNa+が占有し、より大きいS2-が Ca2+の位置を占有しています。

九水和物は無色の正方晶系柱状晶であり、式量は240.18g/molで、密度は1.43g/cm3です。五水和物の密度は1.58g/cm3です。

硫化ナトリウムのその他情報

1. 硫化ナトリウムの合成法

水酸化ナトリウムを硫化水素ナトリウムに加えて冷所に放置すると、硫化ナトリウムの九水和物が得られます。水酸化ナトリウム水溶液に硫化水素を飽和させると、硫化水素ナトリウムを生成可能です。

硫化ナトリウムの九水和物を水素気流中で加熱すると、無水物に変わります。計算量の硫黄とナトリウムが直接反応しても無水物を合成可能です。

工業的に硫化ナトリウムは、空気を無水硫酸ナトリウムで遮断し、およそ1,000°Cの反射炉でコークスによって還元すると製造できます。

2. 硫化ナトリウムの反応

硫化ナトリウムは空気中の炭酸ガスや酸素と反応し、チオ硫酸ナトリウム亜硫酸ナトリウム炭酸ナトリウムに変質します。その際、微量の硫化水素を発生させるため、腐卵臭がします。過酸化水素で酸化すると、硫酸ナトリウムを生成可能です。

硫化ナトリウムのアルキル化によって、チオエーテルが得られます。チオール-エン反応 (英: Thiol-ene Reaction) によって、硫化ナトリウムとアルケンが反応して、チオエーテルを合成可能です。ザンドマイヤー反応 (英: Sandmeyer reaction) では、求核剤として使用できます。ニトロ基を選択的にアミンに還元でき、1,3-ジニトロベンゼン誘導体から 3-ニトロアニリンを合成可能です。

硫化ナトリウムの水溶液は硫黄を溶かし、黄色のポリ硫化ナトリウムが生じます。

3. 四硫化ナトリウムの特徴

四硫化ナトリウムの化学式はNa2S4です。黄色の等軸晶系で、融点は275°Cです。水やエタノールによく溶け、水溶液が空気に触れると硫黄が遊離します。皮膚を腐食し、有害です。

四硫化ナトリウムは、分析試薬、脱硫剤、写真用試薬などに使用されます。ほかにも、有機ニトロ化合物の還元剤、パルプの蒸解剤、皮なめし用の脱毛剤、硫化染料の製造、半導体の製造、ナトリウム-硫黄電池の電解質、汚染重金属の硫化剤に利用可能です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1000.html

硫化カルボニル

硫化カルボニルとは

硫化カルボニル (英: carbonyl sulfide) とは、化学式がCOSで表される無機化合物です。

常温・常圧では、無色の比較的安定した液化ガスです。二酸化炭素 (CO2) と二硫化炭素 (CS2) の中間的な性質を持っています。天然には、鉱泉や火山からの噴出ガス中に硫化水素とともに存在します。

硫化カルボニルは、高圧ガス保安法で毒性および可燃性に該当しませんが、高濃度での吸入毒性は強いです。細菌に対しても殺菌効果を持つとされています。労働安全衛生法では名称等を表示すべき危険有害物です。

硫化カルボニルの使用用途

硫化カルボニルには殺菌効果があり、 殺虫剤、医薬・除草剤原料、農薬の中間原料として使用されています。

以前は小規模な実験用や炭酸アルキルの合成中間体等と使用用途が限られていました。しかし近年では、半導体多層レジスト工程でドライエッチングガスとして注目を集め、使用量は増加しています。とくに半導体製造拠点の多い、米国や台湾で需要が増加しています。

ユーリー-ミラーの実験 (英: Miller–Urey experiment) では、硫化カルボニルがアミノ酸からペプチドを合成するための触媒になると明らかになり、生命の起源に重要な役割を果たしていると報告されました。ユーリー-ミラーの実験とは、原始生命の進化の実験的検証の一つであり、化学進化説の最初の実証実験として知られています。

硫化カルボニルの性質

硫化カルボニルの融点は−138.8°Cで、沸点は−50.2°Cです。水分の存在下では、硫化水素と二酸化炭素に分解します。

1994年まで硫化カルボニルの毒性の情報は発表されていませんでした。1,000ppm以上の高濃度では、刺激や匂いを感じず、突然の痙攣や呼吸麻痺によって死亡します。ラットを用いた実験では、1,400ppmで90分、3,000ppmで9分で半数が死に至りました。その一方で、12ppmのような低濃度では、動物実験で心臓や肺に影響は12週間見られていません。

硫化カルボニルの構造

硫化カルボニルのモル質量は60.07g/molで、密度は2.51g/Lです。硫黄原子がカルボニル基に直線状に結合しています。C=O原子間距離は115.78pmで、C=S原子間距離は156.01pmです。

硫化カルボニルのその他情報

1. 硫化カルボニルの発生

自然界で硫化カルボニルは、海底火山から放出されています。大気中に最も存在している硫黄化合物で、0.5ppb程度含まれています。硫化カルボニルは硫黄循環でも重要です。成層圏まで達した硫化カルボニルは、酸化して硫酸が生じます。地上では植物の光合成によって、海上では海水の加水分解によって、数年で分解可能です。

硫化カルボニルは星間物質や金星の大気にも見られます。チーズや野菜類にわずかに存在し、種子や穀物にも約0.05〜0.1mg/kg含まれています。

硫化カルボニルは合成ガスの代表的な硫黄系不純物です。大気中に放出される3分の1が人間活動で生じると考えられています。硫化カルボニルの人工的な発生源は、化学合成の中間体と二硫化炭素製造時の副産物です。ごみやプラスチックの焼却のほか、合成繊維やデンプンの製造などでも生じます。石炭火力発電所、自動車、石油精製、バイオマス燃料、焼き魚によっても生成します。

2. 硫化カルボニルの合成法

1841年に初めて、硫化水素と二酸化炭素から硫化カルボニルが合成されました。1867年にカール・フォン・タン (英: Carl von Than) によって、硫化カルボニルの性質が解明されています。

硫黄と一酸化炭素の反応で、硫化カルボニルは生成します。実験室では硫酸チオシアン酸カリウムから合成可能ですが、副生成物の除去が必要です。塩酸溶液中でイソチオシアネートを加水分解しても、硫化カルボニルを合成できます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/463-58-1.html
https://www.tn-sanso.co.jp/jp/rd/giho/pdf/34/tnscgiho34_01.pdf

無水コハク酸

無水コハク酸とは

無水コハク酸 (succinic anhydride) とは、化学式C4H4O3、分子量100.1の有機化合物です。

環状ジカルボン酸の1種で、コハク酸を加熱するなどして、1分子の水がとれることにより無水コハク酸となります。容易に加水分解する性質を持つため、熱水中あるいはアルカリ溶液中で無水コハク酸は開環し、コハク酸になります。

また、アルコールとエステル化反応を起こし、対応するコハク酸エステルを生成可能です。無色または白色の結晶性固体で、エタノール及びアセトンに溶けやすく、水には溶けにくい性質です。そのほか、皮膚や眼に対して刺激性を持っています。

無水コハク酸の使用用途

無水コハク酸は、多様な分野で幅広く使用されています。以下は主な使用用途です。

1. 合成樹脂原料

無水コハク酸は、アルキド樹脂や不飽和ポリエステル樹脂の製造に用いられます。これらの樹脂は、塗料、接着剤、プラスチックなどの製品に使用されています。

特に植物を由来としたコハク酸を用いた樹脂は、生分解性プラスチックとして、資源循環や、二酸化炭素の削減に寄与すると期待されています。

2. 有機合成

無水コハク酸は、エステル化剤やアシル化剤として、有機化合物の合成に使用されます。これにより、さまざまな化学製品や中間体の製造が可能になります。医薬品の合成、染料や顔料の製造においても重要な役割を果たす物質です。

特に、Friedel-Crafts条件下でのアシル化にしばしば用いられています。そのほか、アルケニル基を有するアルケニル無水コハク酸 (ASA) は、エポキシ樹脂硬化剤や、製紙用のサイズ剤として用いられています。

無水コハク酸の性質

無水コハク酸は、コハク酸から水分子が脱離した化合物です。無色の結晶で、空気中で加水分解を受けやすく、徐々にコハク酸に戻ります。

水には難溶ですが、有機溶媒 (アセトン、エタノール、ジエチルエーテルなど) には溶けやすいです。特有の刺激臭をもち、融点は118℃で、分子量は100.07g/molです。

加水分解反応を起こしやすく、水と接触するとコハク酸に戻ります。また、無水コハク酸はアルコールとエステル化反応を起こし、対応するコハク酸エステルを生成可能です。この反応は、有機合成で重要な役割をはたします。

また、熱に弱いため、加熱によっても開環します。無水コハク酸は、皮膚や眼に対して刺激性を持っており、取り扱いには注意が必要です。

無水コハク酸の構造

無水コハク酸の分子式はC4H4O3で、五員環の構造を持っています。無水コハク酸は、コハク酸の2つのカルボキシ基から水分子が除去され、酸無水物が形成されたものです。

無水コハク酸の五員環構造は、2つのカルボニル基と1つのエーテル基で構成されています。このカルボニル基は、アルコールやアミンとの反応によってエステルやアミドを生成する際に求核攻撃を受けやすくなります。

無水コハク酸の構造は、その反応性や用途に大きな影響を与えています。

無水コハク酸のその他情報

無水コハク酸の製造方法

無水コハク酸の製造方法はいくつか存在します。工業的に用いられる方法は、メラミン-コハク酸プロセスです。

この方法では、メラミンとコハク酸を反応させて無水コハク酸を生成します。両者を混合し加熱すると、メラミンがコハク酸のカルボキシ基と反応して、中間体となるメラミンコハク酸塩が生成されます。その後、中間体を加熱すると無水コハク酸が生成され、メラミンが再生されます。

このプロセスでは、メラミンが反応後に再生・再利用され、触媒として機能するため、効率的に無水コハク酸を製造可能です。そのほか、無水マレイン酸を接触的に水素添加して製造する方法も一般的に用いられています。

また、コハク酸の脱水反応でも無水コハク酸を得ることが可能です。コハク酸を加熱し、無水酢酸、リン酸ペンタオキシドなどの適切な脱水剤を加えることで、水分子が除去され、無水コハク酸が生成されます。

wifiアンテナ

wifiアンテナとは

wifiアンテナ

wifiアンテナは、無線通信により電波の送受信を行う空中線のことを指します。空中線とは、アンテナの別称で無線通信分野における総称として呼ばれています。空中線の分類には、大別して「指向性アンテナ」と「無指向性アンテナ」の2種類があります。

指向性アンテナ

指向性アンテナは、特定の方向から届く電波の送受信を行う空中線です。

無指向性アンテナ

一方で無指向性アンテナは、電波の方向が定まっておらず、あらゆる方向の電波を送受信する空中線です。

 

また、wifiアンテナは、屋内用と屋外用の製品が販売されており、wifiアンテナを利用するまでの構成方法が異なります。一般的に屋内用のwifiアンテナは、アクセスポイントから変換ケーブルを通してアンテナに接続するか、もしくはアンテナに直結して使用します。しかし、屋外用のwifiアンテナは、まず、アクセスポイントから変換ケーブルに接続します。そして、変換ケーブルを同軸ケーブルにつなげることで、アンテナに接続します。同軸ケーブルを接続する理由は、高周波伝送における損失を防ぐだけではなく、施工性や中継の手軽さ、直流電流を重畳できるといった利点があるからです。

wifiアンテナの使用用途

近年、wifiアンテナは、新しい通信規格の普及も相まって需要が増加しており、さまざまな業界があらゆる用途での利用を検討しています。

Wi-Fiは、電波を飛ばすことで無線による通信を可能としますが、水や金属などに吸収される特性があるため、使用環境によっては通信が安定しないなどの問題が生じます。

例えばこの問題が顕著に現れるWi-Fiの使用環境には、船舶が挙げられます。船舶では、甲板や船橋においてWi-Fiを利用できます。しかし、船内は、金属であるため、電波が届きません。また、無線や有線でのLAN環境を構築するためには、配線を通す穴あけ工事が必要となり、配線も長距離で行わなければならず、高額な費用が発生します。さらに、船舶は、気軽に穴あけ工事を行うことができません。

そのため、船舶では、新たな動向として「電力線データ搬送:Power Line Communication(PLC)」の導入が進んでいます。

*PLC (Power Line Communication)は、既存の電力線を活用して電力とともにデータ通信を行う仕組みです。メインルーム内のアクセスポイントとルーターをPLC機器に接続し、PLC機器をコンセントにつなげることで、ネットワーク環境が構築できます。別室では、PLC機器をwifiアンテナ、もしくは無線機器に接続することにより電波が阻害されることなくWi-Fiを利用できます。

wifiアンテナの原理

アンテナは、別名で放射器とも呼ばれており、さまざまな形状があります。アンテナの種類には、セクタアンテナや平面アンテナ、八木アンテナ、無指向性アンテナなどがあります。例えばセクタアンテナは、多様な電波を送受信するために移相器を有し、MHzやGHz帯域用の水平素子や反射板が組み込まれています。また、アンテナは、外界(雨風など)からの影響を防ぐためにレドームと呼ばれるカバーにより内部機構を保護しています。

wifiアンテナは、主に無線LANで使用される2.4GHzと5GHzの帯域を扱っています。Wi-Fiの通信規格には「IEEE:米国電気電子学会」が定めた規格と「Wi-Fi Alliance」が定めたWi-Fiの新名称があります。新名称は、2009年の第4世代(新名称:Wi-Fi 4)から使用されています。また、ユーザーが識別しやすいように名称が簡略化されています。

この通信規格によって通信速度や特性が異なり、2.4GHz帯では、第2世代の「IEEE 802.11b」と第3世代の「IEEE 802.11g」が使用されています。5GHz帯では、第2世代の「IEEE 802.11a」と第5世代の「IEEE 802.11ac(Wi-Fi 5)」が使われています。また、2.4GHz帯と5GHz帯の両方で使える第4世代の「IEEE 802.11n(Wi-Fi 4)」と第6世代の「IEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)」があります。

wifiアンテナは、こうした通信を安定して行うための装置です。

顔認証システム

顔認証システムとは

顔認証システム

顔認証システムとは、人物の顔の特徴で個人を認証する技術です。指紋、瞳の虹彩、音声などで認証する生体認証システムの一つです。

以前は髪型や頭髪の色を変えると認証できないなど、認証精度に問題があるとされていました。しかし近年では精度が上がり、高いセキュリティ対策が可能とされています。

上記の理由から認知度が上昇傾向だった顔認証システムですが、認証する際に何かに接触する必要がないため、衛生面から昨今の感染症対策として飛躍的に活用される場所が増加しました。

顔認証システムの使用用途

  1. オフィス出入口での入退室管理、非接触による認証(感染症対策)
    オフィスの出入り口に設置・電子錠と連携させ、あらかじめ社員の顔写真を登録しておくことで、カードや鍵を使用せずにオフィスでの入退室を行うことが可能です。また、機器によってはそのログを残し、入退室のデータを管理することもできます。入室の鍵となる物を紛失する心配がなく、なりすましの防止性も高いのが顔認証システムによる入退室管理の特徴です。また入退室時に何かに触る必要がないため、衛生的であると言えます。
  2. 介護施設などの見守り
     介護施設に入居している方が予期せず外出をしてしまわないように、出入口等に設置し見守る仕組みに利用されることもあります。あらかじめ顔写真を登録し、入居している方を認証することで、職員の方や外部の方と区別することができます。

 上記の例に加え、組み合わせるシステムや機器の種類によっては、

  • 登録者の温度検知に活用
  • 不審者対策に役立てる

といった使用用途も見込まれます。
顔認証システムのみではなく、他のシステムや機器と連携させることで、使用用途をより広げていくことが可能です。

顔認証システムの原理

画像から顔の目、鼻、口等の位置や顔の輪郭を認識し、あらかじめ登録してある顔画像のデータベースと照合することで、間違いなくその個人であるかの認証を行います。

精度の高い顔認証システムにはAIディープラーニング(人工知能による機械学習)が使用されていることが多いです。繰り返し認証させAIに学習させることで、更に精度の高い顔認証が見込まれます。

使用上の注意点

  1. 誤認証について
    高いセキュリティ性があるとはいえ、誤認証の可能性がないとは言えません。
    機器設定時に登録した写真との合致率を高めに設定することで、より認証を厳しく行うことも可能です。その代わり認証に時間が掛かる、少しの顔の変化(眼鏡をかけている等)で認証しづらくなるといった可能性があります。
    また、機器によっては、一個人につき登録する顔写真枚数を増やすことで、より認証精度を高めることが可能な場合もあります。出入り口での設置でセキュリティを特に強化したい場合、カードでの認証や鍵の使用など、他のキーとなる物と併用することが望ましいです。
  2. プライバシーについて
    顔認証システムにより取得した顔認証データや画像は個人情報となります。
    企業施設の入退室に利用する際は、本人の許可を取ることが必要です。
     特に店舗などに設置する際には、顔認証システムにより人物の顔画像をデータとして収集し、収集目的を明らかにすることを周知することが必要で、特定の目的ために必要最低限の利用を行わなければなりません。
     また、顔写真の登録基準や収集した顔画像については社内・組織内で取り扱いルールを明確に設定し、責任者が確認を行っていくことが重要です。

外装材

外装材とは

外装材は、建物を見た時の印象に重要な働きをする建材です。さらに、風雨、紫外線、高温・低温、および有害物質、火災、地震、また浸水、落雷、積雪などから建物を保護し、室内を快適空間にする役目があります。

外装材の主なものは、サイディング、モルタル、タイル、およびコンクリート、ALCなどです。このうちサイディングは、アルミニュウムや鋼板を主材料とする金属系、繊維とセメント系などを焼き固めた窯業系、および材木を主とした木質系に分類されます。

外装材の使用用途

外装材は、屋根を含めると大きな面積となるので、コスト、品質、外観、およびメンテナンス性などを比較・検討して適切な素材を選定する必要があります。

外装材のうちサイディング、タイル、およびALCは、工場で生産され、高品質で安定し、均一な特性、納期・コスト面でも有利なので、近年住宅をはじめ各種建築に急速に普及しています。

外装材の品質を高める高機能な製品が開発されています。例えば外壁は、風雨や汚染物質などで汚れていきますが、外装材の表面に光触媒を使った特殊な機能材を使うことにより、太陽光で汚れを分解して雨水により洗い流す製品が実用されています。また、建物のデザインや街並みとの調和の面で、比較的低コストの材料に部分的にタイルやレンガなどを配する方法を検討することも有益です。

吸音材

吸音材とは

吸音材

吸音材とは、音を吸収し、音の反射を抑えるものです。

音は空気中を伝搬するため、基本的には吸音材は多孔質材料であり、空気が吸音材内部に入りやすい構造となっています。他方、音が入らないよう音を反射させるものは遮音材です。吸音材と遮音材は対極にある材料と言えます。

吸音材には使用用途やその形状により、様々な形状があります。板状のものは吸音板、吸音板を重ねて厚さを確保したものを積層型吸音板、三角形のものは吸音クサビ、ブロック状のものを吸音ブロックと呼びます。

吸音材の素材は、グラスウールロックウール、多孔質ウレタン、ポリエステル繊維が代表的ですが、建材として使用する際は、不燃材であるグラスウールとロックウールが多いです。これらの素材単体でも吸音材ですが繊維系の材料は飛散しやすく、意匠性を含めた保護材として吸音材表面に通気性のある生地を貼ることがあります。

吸音材の使用用途

吸音材は、音楽スタジオやホール、映画館や工場、オフィス、音響測定室の壁や天井面の内装に使用され、その目的は反響音の防止による騒音対策と音場調整の2つです。

1. 騒音対策

吸音処理がされていない壁や天井は音を反射し、反響により騒音が増幅してしまいます。例えば、コンクリート打ちっ放しで作られた空間に設置されたポンプが稼働する際に、コンクリート面に当たったポンプの稼働音が反射を繰り返し非常にうるさい環境となり、従来ポンプが発生する音がより大きくなってしまいます。吸音材をコンクリート面に施工することにより、反響音は抑えられます。

2. 音場調整

特定空間内の音の聴こえ方を調整することを音場調整と言います。音は、低い音から高い音 (周波数) まで広帯域に存在します。また、周波数によって音の伝わり方も変化します。ホール内のステージで楽器を演奏する場合、明瞭に音が聴こえるように、低周波音がこもる部分に吸音材を施工したり、録音室ではドライソースをレコーディングするために吸音材によりデッド空間を作ったりします。

吸音の原理と性能

吸音は音エネルギーを熱エネルギー等に変換することです。

吸音材の吸音性能は、吸音率で表されます。吸音率が高ければ高いほど、吸音材の性能が高いといえます。吸音率は、主に垂直入射法吸音率と残響室法吸音率により測定算出されます。ただし、垂直入射法と残響室法では異なる吸音率データとなり、あくまでも同測定方法により吸音率が比較されます。