硫化カルボニルとは
硫化カルボニル (英: carbonyl sulfide) とは、化学式がCOSで表される無機化合物です。
常温・常圧では、無色の比較的安定した液化ガスです。二酸化炭素 (CO2) と二硫化炭素 (CS2) の中間的な性質を持っています。天然には、鉱泉や火山からの噴出ガス中に硫化水素とともに存在します。
硫化カルボニルは、高圧ガス保安法で毒性および可燃性に該当しませんが、高濃度での吸入毒性は強いです。細菌に対しても殺菌効果を持つとされています。労働安全衛生法では名称等を表示すべき危険有害物です。
硫化カルボニルの使用用途
硫化カルボニルには殺菌効果があり、 殺虫剤、医薬・除草剤原料、農薬の中間原料として使用されています。
以前は小規模な実験用や炭酸アルキルの合成中間体等と使用用途が限られていました。しかし近年では、半導体多層レジスト工程でドライエッチングガスとして注目を集め、使用量は増加しています。とくに半導体製造拠点の多い、米国や台湾で需要が増加しています。
ユーリー-ミラーの実験 (英: Miller–Urey experiment) では、硫化カルボニルがアミノ酸からペプチドを合成するための触媒になると明らかになり、生命の起源に重要な役割を果たしていると報告されました。ユーリー-ミラーの実験とは、原始生命の進化の実験的検証の一つであり、化学進化説の最初の実証実験として知られています。
硫化カルボニルの性質
硫化カルボニルの融点は−138.8°Cで、沸点は−50.2°Cです。水分の存在下では、硫化水素と二酸化炭素に分解します。
1994年まで硫化カルボニルの毒性の情報は発表されていませんでした。1,000ppm以上の高濃度では、刺激や匂いを感じず、突然の痙攣や呼吸麻痺によって死亡します。ラットを用いた実験では、1,400ppmで90分、3,000ppmで9分で半数が死に至りました。その一方で、12ppmのような低濃度では、動物実験で心臓や肺に影響は12週間見られていません。
硫化カルボニルの構造
硫化カルボニルのモル質量は60.07g/molで、密度は2.51g/Lです。硫黄原子がカルボニル基に直線状に結合しています。C=O原子間距離は115.78pmで、C=S原子間距離は156.01pmです。
硫化カルボニルのその他情報
1. 硫化カルボニルの発生
自然界で硫化カルボニルは、海底火山から放出されています。大気中に最も存在している硫黄化合物で、0.5ppb程度含まれています。硫化カルボニルは硫黄循環でも重要です。成層圏まで達した硫化カルボニルは、酸化して硫酸が生じます。地上では植物の光合成によって、海上では海水の加水分解によって、数年で分解可能です。
硫化カルボニルは星間物質や金星の大気にも見られます。チーズや野菜類にわずかに存在し、種子や穀物にも約0.05〜0.1mg/kg含まれています。
硫化カルボニルは合成ガスの代表的な硫黄系不純物です。大気中に放出される3分の1が人間活動で生じると考えられています。硫化カルボニルの人工的な発生源は、化学合成の中間体と二硫化炭素製造時の副産物です。ごみやプラスチックの焼却のほか、合成繊維やデンプンの製造などでも生じます。石炭火力発電所、自動車、石油精製、バイオマス燃料、焼き魚によっても生成します。
2. 硫化カルボニルの合成法
1841年に初めて、硫化水素と二酸化炭素から硫化カルボニルが合成されました。1867年にカール・フォン・タン (英: Carl von Than) によって、硫化カルボニルの性質が解明されています。
硫黄と一酸化炭素の反応で、硫化カルボニルは生成します。実験室では硫酸チオシアン酸カリウムから合成可能ですが、副生成物の除去が必要です。塩酸溶液中でイソチオシアネートを加水分解しても、硫化カルボニルを合成できます。
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/463-58-1.html
https://www.tn-sanso.co.jp/jp/rd/giho/pdf/34/tnscgiho34_01.pdf