トリメチルシラン

トリメチルシランとは

トリメチルシランの基本情報

図1. トリメチルシランの基本情報

トリメチルシラン (Trimethylsilane) とは、有機ケイ素化合物の一つです。

化学式では C3H10Siと表記されます。他の慣用名には、トリメチルシリルヒドリド (trimethylsilyl hydride) があります。CAS登録番号は、993-07-7です。

分子量74.2、融点-135.9℃、沸点6.7℃であり、常温では無色の気体です。ほぼ無臭か、かすかに不快臭を呈します。密度は0.638g/cm3で、比重は2.6 (空気 = 1) となっており、空気より重い気体です。溶解性は不明ですが水と激しく反応する性質はありません。

引火点は-20℃以下とされており、常温で非常に引火しやすい物質です。自然発火性ではありませんが非常に燃えやすい性質を持っています。適用法令は高圧ガス保安法や大気汚染防止法などです。労働安全衛生法やPRTR法による規制は特にありません。

トリメチルシランの使用用途

トリメチルシラン合成における不純物の構造

図2. トリメチルシランの合成における不純物の構造

トリメチルシランの主な使用用途は、半導体製造における成膜の原料です。例えば、プラズマCVD法において、低誘電率層間絶縁膜形成の原料ガスとしてトリメチルシランが使われています。具体的には、SiC、SiOC、SiO2、SiN膜などの材料に用いられます。

合成したトリメチルシランを半導体製造に用いるためには、精製により純度を高めることが不可欠です。代表的な不純物は、メチルシラン、ジメチルシラン、シランや、合成の過程で残存した未反応のクロロシランなどです。これらの不純物の除去のためには、蒸留操作・再結晶・再沈殿・昇華などを利用した一般的な精製方法が行われています。

その他にも、活性炭を利用する方法や吸収溶液でガスを洗浄する方法なども開発されてきています。これらは、より高効率な精製方法を志向したものです。吸収溶液を用いる方法においては、不純物を含むトリメチルシランをpH2からpH4の吸収溶液に接触させ、洗浄します。

トリメチルシランの原理

1. トリメチルシランの合成方法

トリメチルシランの合成方法

図3. トリメチルシランの合成方法

トリメチルシランの合成法では、トリメチルクロロシラン ((CH3)SiCl) を水素化剤などを用いて還元する方法が一般的です。具体的な方法として、下記が挙げられます。

  • トリメチルクロロシランと水素化アルミニウムリチウム (LiAlH4) とジメトキシエタン (DME) 溶媒中もしくは芳香族炭化水素系有機溶媒中で反応させる方法
  • トリメチルクロロシランに水素化リチウム (LiH) を反応させる方法
  • トリメチルクロロシランにジエチルアルミニウムハイドライド ((C2H5)2AlH) を反応させる方法

2. トリメチルシランの化学的性質

トリメチルシランは、室温、大気圧下では安定していますが、500℃以上になると炭化ケイ素と水素に分解する可能性があります。自然発火性や水と激しく反応する性質、爆発性はありません。

前述の通り、常温で引火する可燃性の気体です。取り扱いの際は火気を避けることはもちろん、静電気対策も行う必要があります。尚、発火点は310℃です。

トリメチルシランの種類

トリメチルシランは、主に工業用途向けに高圧ガス製品・液化ガス製品として販売されています。高圧ガス保安法における規定に基づき安全に取り扱うことが必須です。

容器温度は、40℃以下に保ち、直射日光の当たらない換気良好な乾燥した場所に保管する必要があります。引火しやすい気体であることから、周囲には火気、引火性、発火性物質を置かないようにしないとなりません。

参考文献
https://patents.google.com/patent/WO2014142023A1
https://www.takachiho.biz/pdf/(CH3)3SiH.pdf
https://patentimages.storage.googleapis.com/96/50/f8/b751aae7124696/WO2013125262A1.pdf

トリメチルアルミニウム

トリメチルアルミニウムとは

トリメチルアルミニウムの基本情報

図1. トリメチルアルミニウムの基本情報

トリメチルアルミニウム (Trimethylaluminium, TMA) とは、有機アルミニウム化合物の一種で、化学式 C6H18Al2で表される化合物です。

分子式では(CH3)3Alと記されますが、実際にはメチル基を介して2量体を形成した状態にあるとされています。CAS登録番号は、75-24-1です。分子量は144.18、融点は15℃、沸点は125℃であり、常温では密度0.752g/mLの無色透明の液体です。

ヘキサンヘプタンなどの脂肪族飽和炭化水素、トルエンキシレンなどの有機溶媒に混和します。揮発性物質です。水や空気に対して不安定であり、自然発火性があります。引火点が-18℃と低く室温で発火します。

消火活動の際も注水は厳禁です。消防法では、「第3類 自然発火性物質及び禁水性物質 アルキルアルミニウム 危険等級 – I」に指定され、労働安全衛生法では危険物 (引火性の物) に指定されています。

トリメチルアルミニウムの使用用途

トリメチルアルミニウムの使用用途は、トリメチルガリウム (TMG) 製造原料やMO-CVDの材料、シリコン半導体ドープ材原料などです。これらは、LEDや半導体の製造に役立てられています。その他に、高純度酸化アルミの前駆体として、用いられることもあります。

また、有機合成化学においては、テッべ試薬 (カルボニルをエキソオレフィンに変換することができる) の原料や、チーグラー・ナッタ触媒 (オレフィン重合化触媒) に用いられるなど、合成上有用な化合物です。

トリメチルアルミニウムの原理

トリメチルアルミニウムの原理を化学的性質の観点から解説します。

1. トリメチルアルミニウムの化学的性質

トリメチルアルミニウムの化学的性質

図2. トリメチルアルミニウムの化学的性質

トリメチルアルミニウムは前述の通り、メチル基を介して2量体を形成した状態にあるとされています。また、トリメチルアルミニウムは、アルキルアルミニウム類の中でも反応性が高く、加水分解熱が大きい物質です。

水と接触すると直ちに酸化されて、同時に発火します。それ以外にも、酸類、空気、アミン類、可燃性物質、ハロゲン化炭素、ハロゲン類、酸化剤との混触は厳禁です。不活性ガス中もしくは、炭化水素系溶媒中で取り扱います。

2. 有機金属化学におけるトリメチルアルミニウム

有機金属化学におけるトリメチルアルミニウム

図3. 有機金属化学におけるトリメチルアルミニウム

トリメチルアルミニウムは、多くの金属ハロゲン化物にメチル基を導入するのにも用いられる物質です。例えば、塩化ガリウム (III) と反応して、トリメチルガリウムを与えます。このような性質を利用して、チーグラー・ナッタ触媒 (オレフィン重合化試薬) や、テッべ試薬 (カルボニルをエキソオレフィンに変換することができる) では、塩化チタンの活性化に用いられています。

トリメチルアルミニウムの種類

トリメチルアルミニウムには研究開発用の有機合成化学用試薬製品や、工業用化学薬品製品などの種類があります。空気中で自然発火するため、実験室用の試薬製品では通常、ヘキサンまたはトルエン溶液の状態で取り扱われます。濃度1.0mol / L , 1.4 mol / L , 2.0mol / Lなどが一般的で、容量は100mL, 800mL , 1Lなどがあります。

これらの溶液製品においても、加水分解しやすく水と接触すると容易に沈殿を生じます。そのため、このような試薬を採取する場合は、よく乾燥して窒素を充填した注射器等を用いることが必要です。

工業用では、純粋な化合物が半導体工場などに対して材料として供給されています。製品には25g , 100g , 300g , 600g , 100mLなどの容量があり、大変危険なため乾燥剤入りの専用のペール缶で取引されています。

参考文献
http://www.khk-syoubou.or.jp/pdf/guide/magazine/166/contents/166_49.pdf
https://internal.fdma.go.jp/kiken-info/material/m_00946.html
https://www.entegris.com/
https://www.ube-ind.co.jp/ube/jp/sustainability/rc/pdf/sds75-24-1_20160602.pdf

トリメチロールプロパン

トリメチロールプロパンとは

トリメチロールプロパンとは、常温において無色~白色の微臭の固体の有機化合物です。

製品形状としては粉末状のものからペレット状のものがあり、TMPという略称で呼ばれています。そのほか、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールまたは1,1,1-トリス・ (ヒドロキシメチル) プロパンという別名もあります。

水には完全に溶解し、アルコール、アセトンには易溶、四塩化炭素、クロロホルム、エーテルには可溶、芳香族炭化水素類には難溶です。可燃性であるほか、強酸化剤と激しく反応するため、使用と保管の際には避ける必要があります。

トリメチロールプロパンの使用用途

トリメチロールプロパンの使用用途として、アルキド樹脂、ポリウレタン、可塑剤、界面活性剤、湿潤剤、繊維加工剤、写真薬原料などのポリマー原料や合成原料、中間物などが挙げられます。3つの水酸基を持つため、アクリル酸とエステル化により結合させることでラジカル重合用の架橋剤や、水酸基とイソシアネート基 (-N=C=O) が反応してウレタン結合を形成することから、ウレタン樹脂の架橋を行う際に用いられるケースが多いです。

トリメチロールプロパンの2つの水酸基にアリル基 (-CH2CH=CH2) をエーテル結合で付加させたトリメチロールプロパンジアリルエーテルも市販されており、不飽和ポリエステル樹脂やアルキド樹脂の成分、その他樹脂の架橋剤などにも用いられています。

トリメチロールプロパンの性質

TMP構造、物性

図1. トリメチロールプロパンの分子構造と物性

トリメチロールプロパンは、プロパン (CH3CH2CH3) の片末端の炭素にメチロール基 (-CH2OH) が3つ結合した分子構造をとっています。分子内に水酸基が3つある低分子という点でグリセリンと似ていますが、グリセリンの場合、水酸基3つのうち、2つが1級水酸基、1つが2級水酸基であるのに対して、トリメチロールプロパンは3つすべてが1級水酸基であり、いずれの水酸基の反応性もほぼ同等です。

トリメチロールプロパンのその他情報

1. トリメチロールプロパンの製造方法

TMP反応式

図2. トリメチロールプロパンの製造方法

トリメチロールプロパンの製造する際、原料はブチルアルデヒド、ホルムアルデヒド水酸化ナトリウムを使用します。具体的な手順は、以下の通りです。

  1. 原料を混合して、40~50℃で約3時間反応させます。
  2. この混合物からトリメチロールプロパンを分離するために、有機溶媒を追加して油相側にトリメチロールプロパンを抽出させます。
  3. 水相を除去した後、油相を減圧蒸留します。 (高純度のトリメチロールプロパンを得ることができます。)

1の段階で反応生成物をpH7までギ酸または酢酸で中和し、水分を蒸発濃縮すれば、ギ酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウムとトリメチロールプロパンの濃縮混合物ができます。

2. トリメチロールプロパンの諸物性および安全性

その他物性と安全性

図3. 諸生物及び安全性

トリメチロールプロパンは、常温では無色から白色の結晶性の固体で、粉砕することで微粉末にすることも可能です。引火点や発火点はいずれも高く、火災の原因となる危険性は高くはありません。

急性毒性は強い部類ではありませんが、生殖能、胎児への影響の恐れの疑いありとされているため、取扱いには注意が必要です。常温・常圧の保管条件下で安定し、重合及び分解しないことからも、不活性ガスを充填し、湿気のみ注意して保管すれば問題ないと言えます。

また、容易に生分解されず、生物蓄積性が低いことから環境への負荷も小さいとして、世界中で年間数億トンものトリメチロールプロパンが生産されています。

参考文献
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/T0480
https://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_lang=ja&p_card_id=0366&p_version=2
https://dra4.nihs.go.jp/mhlw_data/home/pdf/PDF77-99-6d.pdf

テトラメチルアンモニウムヒドロキシド

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドとは

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの基本情報

図1. テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの基本情報

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドとは、化学式(CH3)4NOHで表される、最も代表的な第四級アンモニウム塩の1つです。

化学物質審査規制法 (化審法) では、「優先評価化学物質」、環境基本法では「水質要調査項目」、毒劇法では「毒物」に指定されています。神経や筋肉に影響を及ぼし、致死的な呼吸困難や筋肉麻痺を起こします。そのため、皮膚に触れた場合には、強塩基性による化学火傷とともに、神経毒性があるため、注意が必要です。

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの使用用途

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドは試薬・触媒をはじめ、半導体・印刷などの分野で、幅広く用いられます。また、相間移動触媒、重合・縮合反応の触媒、有機窒素化合物製造の触媒、ガスクロマトグラフィー前処理剤、ゼオライト合成などの有機構造規定剤に使用可能です。

さらに、工業用途として、写真・印刷薬品、集積回路用ポジフォトレジスト現像液・エッチング剤・洗浄剤、粘土の解膠剤、繊維の表面処理剤、二次電池用アルカリ電解質に用いられます。

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの性質

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの無水物は、単離されていません。一般的には、安定した固体の五水和物の(CH3)4NOH・5H2Oや三水和物の(CH3)4NOH・3H2Oとして扱われます。2%や25%の水溶液やメタノール溶液も流通しています。

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの固体や水溶液は無色です。水溶液は強塩基性を示します。五水和物の融点は67°Cで、135〜140°Cで分解します。

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの構造

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドのモル質量は91.15g/molです。テトラメチルアンモニウムイオン ((CH3)4N+) と水酸化物イオン (OH) から構成されています。

別称に、TMAH、TMAOH、TMNOH、N,N,N-トリメチルメタンアミニウム・ヒドロキシド、水酸化テトラメチルアンモニウム、AZ-726、メガポシトCD14、ミクロポシトCD26、トクソSD20があります。

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドのその他情報

1. テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの合成法

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの合成

図2. テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの合成

最も古いテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの製造法は、無水メタノール中で塩化テトラメチルアンモニウムと水酸化カリウムを混ぜる方法です。この苛性アルカリ分解法は現在でも一般的に使用されますが、塩素イオンやカリウムイオンが5,000ppm程度混入します。

陽イオン交換膜を用いた塩化テトラメチルアンモニウムの電気分解法は品質が高く、金属イオンが0.1ppm以下で、塩素イオンが10ppm以下になります。それ以外にも、シュウ酸塩、ギ酸塩、メチル炭酸塩のような有機酸テトラメチルアンモニウム塩水溶液を電気分解して生成可能です。

そのほか、塩化テトラメチルアンモニウムを硫酸によって硫酸塩にして、水酸化バリウムで処理すると得られます。

2. テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの反応

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの反応

図3. テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの反応

強酸や弱酸によってテトラメチルアンモニウムヒドロキシドは、酸塩基反応が起こって酸の陰イオンと交換します。メタセシス反応を用いて、さまざまなテトラメチルアンモニウム塩を生成可能です。

具体的には、チオシアン酸アンモニウムからチオシアン酸テトラメチルアンモニウムが得られます。生成する水とアンモニアを蒸発除去すると反応が進みます。

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液を減圧濃縮すると、五水和物の針状結晶を生成可能です。脱水濃縮を続けると、三水和物を経由して一水和物になり、135〜140℃でジトリメチルアミンやメチルエーテルに分解します。

参考文献
http://www.chemicoco.env.go.jp/detail.php?chem_id=571&lw=13
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/75-59-2.html

テトラヒドロピラン

テトラヒドロピランとは

テトラヒドロピラン (英: Tetrahydropyran) とは、無色透明液体の環状エーテルです。

IUPAC名はオキサン (英: Oxane) 、別名として、THP、オキサシクロヘキサン (英: Oxacyclohexane) 、1-オキサシクロヘキサン (英: 1-Oxacyclohexane) 、1,5-エポキシペンタン (英: 1,5-epoxypentane) 、ペンタメチレンオキシド (英: Pentamethylene oxide) とも呼ばれます。

テトラヒドロピランの使用用途

1. 保護基

有機合成において、2-テトラヒドロピラニル基は、アルコールの保護基として汎用されます。基質のアルコール部位に対し、酸性条件下、2,3-ジヒドロピランを作用させることでテトラヒドロピラニルエーテルへと変換可能です。

典型的な条件では、アルコールをジクロロメタン溶媒中でp-トルエンスルホン酸存在下、ジヒドロピランを作用させます。脱保護は、酸加水分解により行われ、5-ヒドロキシペンタナールが複製されます。水を作用させることが好ましくない場合は、水の代わりにアルコールを用いることも可能です。

2-テトラヒドロピラニル基は、塩基や求核剤、還元剤の存在下で比較的安定なため、有用な保護基です。しかし、保護の過程でテトラヒドロピラニル基の2位に不斉中心を生成させるため、NMRスペクトルが複雑になるなどの欠点があります。

また、不正中心を有する基質の保護に用いた場合、ジアステレオマーが生成しうるため、反応系が複雑になる可能性があります。ジアステレオマーは、立体異性体のうち鏡像異性体でないもののことです。ジアステレオマー同士は、沸点や溶解度、カラムクロマトグラフィーでの挙動など物理的性質が異なります。

2. その他

テトラヒドロピランは、酸性条件や塩基性条件、還元条件に強い耐性を持つため、反応溶媒、抽出溶媒、晶析溶媒といった様々な用途で使用できる有機溶媒です。

n-BuLiなどの強塩基性条件下では、同じ環状エーテル構造を持つ、五員環のテトラヒドロフランに比べ、テトラヒドロピランはより強い耐性を有します。そのため、医薬・農薬原料としても使用されます。

テトラヒドロピランの性質

化学式はC5H10Oで表され、分子量は86.13です。CAS番号は142-68-7で登録されています。融点は-45 °C、沸点は88 °Cで、常温で液体です。

密度は、0.880g/ml (20℃) です。揮発性とエーテル系の刺激臭を持つ液体で、アルコールやエーテルなど多くの有機溶媒、および水に溶けます。

テトラヒドロピランのその他情報

1. テトラヒドロピランの合成法

ラネーニッケル触媒に代表されるラネー合金を触媒として用い、2,3-ジヒドロピランに水素添加することで合成できます。また、酸性条件下、1,5-ペンタンジオールの脱水を伴う環化反応によっても合成可能です。

2. 法規情報

テトラヒドロピランは、以下の国内法令に指定されています。

  • 消防法
    危険物第四類 第一石油類 危険等級Ⅱ
  • 労働安全衛生法
    危険物・引火性の物 (施行令別表第1第4号)
  • 危険物船舶運送及び貯蔵規則
    引火性液体類 (危規則第3条危険物告示別表第1)
  • 航空法
    引火性液体 (施行規則第194条危険物告示別表第1)

3. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱う場合の対策
使用の際は、局所排気装置であるドラフトチャンバー内で、個人用保護具を着用してください。テトラヒドロピランは、強酸化剤との接触で激しく反応する恐れがあります。

強酸化剤には近づけないようにしてください。また、空気との長時間の接触により過酸化物を生成します。テトラヒドロピランは-22 °Cに引火点を持つ、引火性の非常に高い液体です。高温物や熱、炎、火花、静電気、スパークには近づけないようにしてください。

火災の場合
熱分解により、刺激性で有毒なガスと蒸気を放出する可能性があります。水スプレー (水噴霧) や二酸化炭素 (CO2) 、泡、粉末消火剤、砂などを用いて消火活動をしてください。

皮膚に付着した場合
使用時は、白衣や作業着などの保護衣と保護手袋を着用し、皮膚が暴露しないようにしてください。

皮膚に付着してしまったら、すぐに石けんと大量の水で洗い流します。汚染された衣類は、すべて脱いで隔離します。皮膚刺激が続く場合は、医師に連絡してください。

眼に入った場合
使用時は、保護メガネまたはゴーグルを必ず着用してください。万が一眼に入った際は、コンタクトを着用している場合は外し、水でしっかり洗浄します。眼の刺激が持続する場合は、医師の診断、手当てを受けてください。

保管する場合
直射日光を避け、換気が良好かつ涼しい場所で、ガラス製容器に入れ、密閉して保管します。保管庫は、必ず施錠してください。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/142-68-7.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-0508JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Tetrahydropyran

テクネチウム

テクネチウムとは

テクネチウムは、原子番号43の元素であり、元素記号が Tcです。マンガン族元素の1つで、遷移元素です。安定同位体が存在せず、全ての同位体が放射性をもちます。人工的には、モリブデンに加速した重陽子を当てるほか、中性子照射したウランから分離精製して生成します。

銀白色~銀灰色の金属であり、六方晶系結晶(六方最密構造)です。融点は、約2200 ℃(複数の報告あり)で、沸点4877 ℃、密度が11.5 g cm-3(20℃ 計算値)です。わずかに磁性を有しており、11.3 K以下で強磁性を示し、7.8 K 以下で超伝導を示します。化学的性質は、同族元素である原子番号75のレニウムに類似し、フッ化水素酸、塩酸には不溶であり、酸化力のある硝酸、濃硫酸、王水には可溶です。

テクネチウムは、1936年に初の人工元素として合成され、1947年にテクネチウムと命名されました(ギリシャ語の「人工」を表すtechnitosが語源)。天然のテクネチウムは、ウランの核分裂で微量生成する程度であり、地球上では非常にまれな元素です。そのため、発見が自然界に由来しない最初の元素かつ最初の人工放射性元素となりました。なお、宇宙上では、天体にテクネチウムが存在することがスペクトル線によって確認されています。

テクネチウムの使用用途

テクネチウムは、基本的に放射性元素としての性質を利用した用途があります。

具体的には、核医学における医用トレーサーとして、骨・腎臓・肺・甲状腺・肝臓・脾臓といった骨格・臓器に対する検査に用いられます。剤形としては、血流測定剤、骨イメージング剤、腫瘍診断剤の放射線診断薬があり、検査目的に応じた多種の注射剤が製品化されています。

そのほか、軟鉄の腐食防止剤としての用途があります。

チラミン

チラミンとは

チラミンの基本情報

図1. チラミンの基本情報

チラミンとは、フェネチルアミンフェニルエチルアミン)の誘導体の一つです。

別称として、p-チラミン、ウテラミン、トコシン、チロサミン、シストゲンなどがあります。チラミンを含む食品は、高血圧発作の原因になります。具体例は、熟成チーズ、赤ワイン、カカオ製品、発酵食品、漬け物類、燻製食品などです。

チラミンは動物や植物の生体内に広く分布し、酵素によって作られます。モノアミンオキシダーゼ (英: Monoamine Oxidase) によって代謝されて不活化します。

チラミンの使用用途

チラミンはモノアミン類の一種として、血圧上昇を代表とするさまざまな生理作用があります。例えば、血管収縮作用などです。

蛍光色素で標識され、免疫蛍光分析でペルオキシダーゼの基質として使用されます。

チラミンの性質

チラミンは白色〜薄褐色の結晶性粉末です。エタノールや水に溶け、アセトンにほとんど溶けません。チラミンの融点は164.5°C、沸点は325.2°Cです。

チラミンを多く含む食べ物と抗結核薬のイソニアジドを同時に摂取すると、発汗、頭痛、腹痛、血圧上昇などの副作用を起こす場合があります。鼻炎治療薬の塩酸フェノールプロパノールも、同様の副作用が起こる可能性があります。

チラミンの構造

チラミンはフェネチルアミン誘導体の一つで、フェネチルアミンのフェニル基の4位にヒドロキシ基を有します。そのため4-ヒドロキシフェネチルアミン (英: 4-Hydroxyphenethylamine) やp-ヒドロキシフェネチルアミン (英: p-Hydroxyphenethylamine) とも呼ばれます。

チラミンの化学式はC8H11NO、モル質量は137.179であり、密度は1.103g/cm3です。

チラミンのその他情報

1. チラミンの生合成

チラミンの生合成

図2. チラミンの生合成

チラミンは動植物に広く分布します。チラミンなどのカテコールアミン類は、ヒトではL-フェニルアラニン (Phe) から生合成されます。生体内でフェニルアラニン-4-モノオキシゲナーゼと補酵素のテトラヒドロビオプテリンによって、フェニルアラニンからチロシン (Tyr) を合成可能です。芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼの作用によってチロシンが脱炭酸して、チラミンが生じます。食物中のタンパク質が微生物により分解すると、腐敗アミンとして産生されます。

2. チラミンの作用

チラミンは血管収縮作用のあるノルアドレナリンの遊離を促進し、血圧を上昇させるため、片頭痛発作や心拍数上昇の要因になる可能性があります。ただし短時間でチラミンを反復投与した場合には、ノルアドレナリンの生合成が間に合わないため、ノルアドレナリンが枯渇して作用が弱まります。

チラミンを多く含む食べ物は、ココアやチョコレートのようなカカオ製品です。チラミンが多量に含まれているココアを飲むと、チラミンによる血管収縮作用が消える数時間後に、血管が拡張する反動によって頭痛を起こすときもあります。

3. チラミンの関連化合物

チラミンの関連化合物

図3. チラミンの関連化合物

チラミンはメチル化すると、N-メチルチラミン、N,N-ジメチルチラミン、N,N,N-トリメチルチラミンなどのアルカロイドを生成します。アルカロイド (英: alkaloid) とは、窒素原子を有する天然由来の有機化合物の総称のことです。N,N-ジメチルチラミンはホルデニン (英: Hordenine) 、N,N,N-トリメチルチラミンはカンディシン (英: Candicine) とも呼ばれます。

チラミンはモノアミン神経伝達物質と構造が類似した化合物です。モノアミン神経伝達物質の具体例として、アドレナリン、ノルアドレナリン、ヒスタミン、ドーパミン、セロトニン、アセチルコリンなどが挙げられます。生理的にはアドレナリンと類似の作用を示し、子宮収縮作用、血圧上昇作用、末梢神経収縮作用を有します。

チミン

チミンとは

チミンとは、DNAの構成成分の1つでピリミジンの誘導体です。

ウラシルの5位の炭素をメチル化した構造を持ち、5-メチルウラシルという別称があります。DNA は、アデニン (A) 、グアニン (G) 、シトシン (C) 、チミン (T) の4種の塩基をもつヌクレオチドで構成されています。チミンは2本の水素結合を介してアデニンと結合します。

DNAの変異のひとつとして、隣接した2個のチミンあるいはシトシンが紫外線によって二量体を形成する現象があります。チミン、シトシン、ウラシル、をまとめてピリミジン塩基と呼びます。

チミンの使用用途

チミンは生体の設計図であるDNAの構成要素として重要な役割を担っています。

また、チミンはPCR検査に用いられる材料のひとつです。PCRはポリメラーゼ連鎖反応 (英: Polymerase Chain Reaction) の略であり、ウイルス等の微量遺伝子を増幅し、検出する技術です。抽出した目的遺伝子を鋳型にDNAを増幅していきますが、この際にDNA鎖を新たに合成するために、4種類のヌクレオチドを反応系に供給する必要があります。

チミンの性質

チミンは、白色の結晶性粉末で、冷たい水やエタノールにはほとんど溶けません。一方で、熱水や熱エタノールは溶けます。また、水酸化ナトリウム溶液はよく溶けます。

チミンは、酸素やフリーラジカルなどの酸化物質によって酸化されることがあります。チミンが酸化されるとチミングリコールを生じます。DNA中に生じたチミングリコールは、DNAの構造の変化を引き起こすことがあります。

細胞の損傷や通常、DNAの損傷は、抗酸化酵素や抗酸化物質によって修復されますが、修復能力を超える過剰な損傷はがんや老化などの原因となることが知られています。

チミンの構造

チミンの構造式

図1. チミンの構造式

チミンは核酸を構成する塩基のうち、ピリミジン骨格をもつピリミジン塩基です。ピリミジン塩基は窒素を含む6員環で構成されている環状有機化合物です。チミンは1位と3位にイミノ基を、2位と4位にカルボニル基を、5位にメチル基をもっています。

DNAの水素結合

図2. DNAの水素結合

3位にあるイミノ基と2位と4位にあるカルボニル基が水素結合を形成することによって、DNAの二重らせん構造を形成するのに重要な役割を果たしています。

チミンは核酸塩基としては唯一、メチル置換基とアリル位水素を持ちます。アリル位水素とは、2重結合の隣の炭素につながっている水素のことです。アリル位水素があると、不対電子を持つ原子や分子による水素の引き抜きを受けやすく、生体内で活性酸素などの標的になります。

チミンのその他情報

1. ヌクレオシド

核酸塩基と五炭糖が結合した化合物は、ヌクレオシドと呼ばれます。ヌクレオシドは、糖のヒドロキシ基-OHと核酸塩基のイミノ基NHが脱水縮合することで生成されます。この結合はN-グリコシド結合と呼ばれます。チミンを含むヌクレオシドはチミジンと呼ばれます。

チミジン

図3.  チミジン

tRNA中の装飾ヌクレオシドであるリボチミジンは、チミンのリボシル化により合成されます。また、抗ヘルペス作用を有するスポンゴチミジン (チミンアラビノシド) は、チミンのアラビノシル化により合成されます。

2. ヌクレオチド

ヌクレオシドにリン酸が結合することで、ヌクレオチドという化合物が形成されます。この化合物は、糖の-OH基とリン酸の-OH基が脱水縮合して生成されるため、この結合をリン酸エステル結合と呼びます。例えば、チミンがヌクレオチドと結合すると、チミジル酸またはチミジン一リン酸と呼ばれる化合物が生成されます。

3. DNAの2重らせん構造

DNAは、疎水性の塩基が内側に向き、外側には親水性の糖とリン酸が配列されています。2つのポリヌクレオチド鎖が互いに逆方向からねじれ合って大きな2重らせんを形成しており、塩基部分の水素結合によって塩基対が形成されます。このとき、アデニンとチミンが相補的な塩基対を形成し、グアニンとシトシンが相補的な塩基対を形成します。

チタニア

チタニアとは

チタニアとは、化学式TiO2で表されるチタンの酸化物です。

チタニアはチタンの酸化物の中で最も安定な化合物です。別称としては、酸化チタン (Ⅳ) のほか、二酸化チタン、ジオキソチタン (IV) 、チタン (IV) ジオキシドなどがあります

チタニアの使用用途

チタニアの主な使用用途は、顔料および光触媒です。チタニアは国内で約12万トンが毎年生産されています。

顔料や白色の着色剤の原料として使用されます。チタン白、チタンホワイト、チタニウムホワイトと呼ばれ、高い隠蔽力をもちます。顔料としての分類名 (カラーインデックス名) は、C.I.Pigment White 6です。チタニアは、優れた白色度や隠蔽力、着色力、化学的に極めて高い安定性などの特色を活かし、白色顔料として、塗料や絵具、インクジェットインキ、プラスチックの着色顔料、釉薬、印刷インキ、化繊等の用途で幅広く使用されています。

また、チタニアは紫外線相当の短波長の光を受けると、水と反応して活性酸素種を生成します。このような光により、表面で強力な触媒能力を発現する物質を光触媒と呼びます。活性酸素種は、強い酸化力をもつため、化学薬品や細菌などに対して分解作用を示します。その他、チタニアの光触媒作用を利用して、工業的に難分解性の物質を分解しています。

人体への影響が小さいため、食品・医薬品・化粧品の着色料 (食品添加物) としても有用です。チタニアの人工結晶は、無色透明であり、屈折率がタイヤモンドよりも高いため、人工宝石としての用途もあります。シリコーンゴム・磁気テープ・セラミックスの配合原料、オフセット印刷の感光体、固体触媒の担体、日焼け止め製品、化粧品、洗顔料・洗顔石鹸、ネイル製品等にも使用されています。 

チタニアの種類

チタニアは結晶構造の違いから、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の3種類が存在します。アナターゼ型とルチル型は正方晶で、ブルッカイト型は斜方晶です。

アナターゼ型を900℃以上に、ブルッカイト型を650℃以上に熱すると、ルチル型に転移します。最安定構造はルチル型です。そのため、ルチル型に一度転移すると、低温に戻しても構造を維持します。工業用に用いられている結晶構造は、ルチル型とアナターゼ型です。

触媒としての活性が低く、熱安定性にも優れる構造であるルチル型は顔料として使用されることが多いです。また、アナターゼ型の方がバンドギャップが大きいため、一般的に光触媒としての活性が高く、光触媒としてはアナターゼ型が使用されることが多いです。

チタニアの性質

チタニアは、フッ化水素酸、熱濃硫酸および溶融アルカリ塩に溶解します。一方、その他の酸、アルカリ、水および有機溶剤には溶解しません。

またアナターゼ型とルチル型で密度が異なり、アナターゼ型が3.78g/cm3、ルチル型が4.23g/cm3とルチル型がかなり重くなっています。

チタニアのその他情報

チタニアの製造方法

天然には、高温で生成される火成岩、変成岩の副成分鉱物として分布し、金紅石 (ルチル型) 、鋭錐石 (アナターゼ型) 、板チタン石などの鉱物として産出されます。チタニアの工業的生産では原料にイルメナイト鉱石 (FeTiO3) または、ルチル鉱石が用いられます。硫酸法または塩素法の2つの方法で製造されています。

1. 硫酸法 (イルメナイト鉱石から) 
硫酸法では、イルメナイト鉱石を濃硫酸に溶解させ、鉄分を硫酸鉄として分離し、オキシ硫酸チタンに変換します。それを加水分解してオキシ水酸化チタン (TiO(OH)2) にし、沈殿させてチタニアを得ます。

2. 塩素法 (ルチル鉱石から)
塩素法では、ルチル鉱石をコークス・塩素と反応させ、四塩化チタンを作ります。その後、高温で酸素と反応させ、塩素ガスを分離回収してチタニアを得ます。

参考文献
http://www.chemicoco.env.go.jp//span>
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/13463-67-7.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/13463-67-7b.html

チオシアン酸

チオシアン酸とは

チオシアン酸の化学式は化学式はHSCNで、別名スルホシアン酸、ロダン酸、チオシアン酸塩、チオシアン酸と呼ばれています。常温で無色の揮発性液体で、蒸気は空気より重いです。水にはよく溶け、強い酸になります。

加熱すると分解しシアン化物の有毒を生じる可能性があります。 強塩基および強酸化剤とも激しく反応しシアン化水素などの有害物を生じます。シアン化物は一般に青酸と呼ばれています。

チオシアン酸は天然にはタマネギなどに遊離の酸として存在しており、塩やエステルとしても広く存在しています。

チオシアン酸の使用用途

チオシアン酸がそのまま使用されることはあまりありません。チオシアン酸塩の使用用途はセメント、コンクリート、人造石、その養正などの分野です。

例えばチオシアン酸カリウムは、チオ尿素、染料、医薬の製造原料、織物の染色およびナッセン、写真の補力に用いられます。水に溶解するときに温度が相当下がるので寒剤としても使用できます。

チオシアン酸イオンを、鉄(III)イオンを含む溶液に加えると血赤色溶液となるため、確認試験は容易です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0116-0455.html
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/24478
https://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_lang=ja&p_card_id=1671&p_version=2
http://www.kishida.co.jp/product/catalog/detail/id/11814